博 士 ( 農 学 ) 高 牟 禮 逸 朗
学 位 論 文 題 名
イ ネ の 形 態 お よ び 生 理 的 突 然 変 異 に 関 す る 遺 伝 学 的 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
イ ネ (Oi‑yza sa.tivaL. ) の 形 態 形 質 は 収 量 等 の 農 業 形 質 と の 関 連 が 深 く 、 ま た 様 々 な 遺 伝 変 異 に 富 む こ と か ら 、 育 種 学 や 遺 伝 学 の 重 要 な 研 究 対 象 と な っ て き た 。 本 研 究 でtよ 、 イ ネ の 形 態 形 質 の 中 か ら 農 業 的 に も 重 要 な 意 味 を 持 つ 柆 大 お よ び 分 げ っ に 開 す る 変 異 体 に 着 目 し 、 遺 伝 子 分 析 を 行 っ た 。 ま た 、 突 然 変 異 体 の 中 に 温 度 条 件 に 反 応 し て 、 形 態 が 著 し く 変 化 す る 条 件 変 異 体 (conditional mutant) を 見 出 し 、 そ れ ら の 遺 伝 解 析 を 行 っ た 。 研 究 結 果 は 以 下 の よ う に 要 約 ぎ れる 。
1.粒 大の 遺 伝子 分析 ゛
水 稲 品 種 「 し お か り 」 か ら 人 為 的 に 誘 発 さ れ た 変 異 体 に 由 来 す る 長 粒 系 統N− 173の 長 粒 性 に はLk‑f( 房 吉 長 粒 ) と 同 座 の 不 完 全 優 性 遺 伝 子 が 関 与 し て い た 。 N ‑173の 形 態 的 特 性 を 原 品 種 「 し お か り 」 と 比 較 す る と 、 扨 長 、 玄 米 長tよ1.2
‑1.3倍 、 千 粒 重 は 約1.4倍 と な り 、 長 稈 、 長 穂 お よ び 穂 数 の 減 少 等 の 多 面 作 用 が 認 め ら れ た 。 連 鎖 分 析 の 結 果 、Lk‑fと ロi( 極 小 粒 ) の 間 に は 連 鎖 関 係 が 示 さ れ 、 両 遺 伝 子 は 染 色 体 3に 座 乗 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。 長 粒 系 統IRAT13の 長 粒 性 に はLk‑fと は 座 を 異 に す る 劣 性 遺 伝 子 (lkニ 亅 ) が 関 与 し て お り 、 き ら に 粒 大 に 係 わ る 微 動 遺 伝 子 も 集 積 ざ れ て い る と 推 定 さ れ た 。 Ik‑iの 作 用tま 、Lk‑fと 同 様 に 扨 長 を 増 大 き せ 、 籾 幅 に は あ ま り 影 響 を 与 え な い こ と が 認 め ら れ た が 、 そ の 作 用 カ は 址 ニ 上 よ り 小 さ か っ た 。 連 鎖 分 析 か らlk‑iは 染 色f本4に 座乗 して いる こと が明 らか に なっ た。
粒 大 にf系 わ る 主 働 遺 伝 子 間 の 相 互 作 用 を 検 討 す る た め に 、 長 粒 遺 伝 子 と し て Lkニ王 、並 .i、 短粒 遺伝 子と して、皿、d‑2(夷型矮性)、r.1‑ll(農林28号型矮性)
を 用 い て 、 長 粒X長 粒 、 長粒X短 粒 、短 粒X短 粒 の数 種 の交 雑 組 合せ を 育成 し 、 後f弋 の粒 大 変異 を調査し た。各遺 伝子は籾 長に対する 長短の方 向、f乍用 カに差 は み られ た もの の 、 上位 性 は認 め ら れず 、 遺伝 子 を 共有 す る 個体 は 長粒 と長粒 で は より 長 粒、 短 粒 と短 粒 でtまよ り 短 粒、 長粒と短 粒では作 用を相殺 し合い中 聞 型 とな っ たこ と か ら、 各 遺伝 子 は 相加 的 に作 用 す るこ と が 明ら か とな った。
葉化 穎 不稔 遺伝 子(t hs‑l)を 有する系 統を交雑 親に用いて 、扨と玄 米の犬き ざ ・ 形 に 関 す る 遺 伝 子 分 析 を行 っ た とこ ろ 、ihs‑l型個 体 の 葉片 化 した 籾 長 お よぴ 扨による規制のない玄米長にもMiと址こ笠が作用することが示きれ′こ。t hs‑
上 を 用い る なら ぱ 切 穎処 理 実験 と 同 様に 、 籾の 規 制 を受 け な い玄 米 本来 の大き さの遺伝解析を行うことが可能である。
2.少分げつ変異体
人為 的 に誘 発 ざ れた 突 然変 異 体 に由 来 す る4種 の 少 分げ つ 系 統(N ‑133、N‑l 74、N ‑176、N‑175)およぴ それらの原 系統を水 田条件( 低温区) とヒ.二ールハ ウ ス のポ ッ ト条 件 ( 高温 区 )で 栽 培 し、 特 性を 比 較 した 。 低 温区 で は著 しい少 分 げ っと 短 稈を 示 し 、高 温 区で は 正 常型 を 示す低温 感受性型 (N ‑133、N‑17G、 N ‑175)と 、 温度 反 応 が小 さ く、 茎 数 の滅 少以 外には形質 の変化が 小さいN‑174 の2群 に 分 類 ぎ れ た 。 水 田 条 件 下 で は 、rcn‑がrcn‑2、rcn‑3お よ ぴrcn‑4(t) に 対 して 上 位性 を 示 した こ とか ら 、rcii‑1の 低温 感 受 性程 度 が 最も 高 かった 。 4種 の 少 分 げ つ 系 統 に っ い て、 遺 伝 子分 析 と 対立 性 検定 を 行 った と ころ 、 各 系 統 の少 分 げつ 性こま互 いに異な り、独立 関係にある 単純劣性 遺伝子の 関与する ことが示され、各少分げつ遺伝子を!ニcn‑l(N‑133)、rcn‑2(N‑174)、並!‑ 3(N ‑ 176) およ ぴi'cn塑(t) (N‑175) と 命 名し た。 連鎖分析 の結果、rcn‑は 染色体6 に、i‑cn‑2tよ染色体4に座乗していることが明らかなった。
分 げ つ 数 に 関 し て 作 用 方 向が 逆 であ る 少 分げ つ 遺伝 子 と 分矮 遺 伝子 と の2重 劣性 型を水田 条件下で育 成し、遺 伝子間の 相互作用 を調べた ところ、|ーcn‑ltよ 分 げ つ矮 性 遺伝 子のd‑10、d‑3、d‑4、d‑.5に対 して、分 げつ数に関 してtよ上 位 的 に 作用 し てい た 。rcii ‑2、rcn‑3お よ びrcn坐(t) と4種 の分 げ つ 矮性 遺伝子
(d‑10、d‑14、d‑lヱ(t)、d‑2ヱ)は分げつ数に関しては相反する方向とはなるが
相 加 的 に 作 用 し 、2重 劣 性 型 個 体 でtま作 用が 相殺 され 、両 親の 中間 型の 分げつ 数 を 示 し た 。 少 分 げ つ 遺 伝 子 と オ ー キシ ンの 前駆 物質L‑ト リプ トフ ァン 合成を 阻 害 す る 彑 ( も っ れ ) と の2重 劣 性 型 を 育 成 し 、 遺 伝 子 間 相 互 作 用 を調 べた。
i'cn ‑2とlaの問 に は 相 互 作 用 は 認 め ら れ な か っ た が 、rcn‑3とlaの2重 劣性型 で はI℃n ‑3が発現する低温条件下で「もっれ」の程度が弱まり、稈カiや・ゝ起き 上がった。
分 げ つ の発 生に 関与 する こと が知 られ てい る合成 オー キシ ン(NAA)、 抗オー キシン(TIBA)およぴサイトカイニン(BA)を3種の少分げつ系統(N‑174、N‑176、 N ‑175)に 処理 した とこ ろ、各 変異体の反応tま異なっており、少分げつ性発現の 生理的機構にも差異のあることが示唆された。
3.温度感受性変異体
人 為 突 然 変 異 体 に 由 来 す るN ‑172の小 粒型 矮性 には 単純 劣性 遺広 子の 関与す る こ と が 明 ら か と な り 、 既 報 の 矮 性 とは 特性 が異 なっ たこ とか ら、 遺伝 子記号 をd‑58(t) とし た 。 連 鎖 分 析 か らd‑58(t) は染色 体6に所 属す こと が明 らかと な っ た 。N‑172と 原 系 統 のAC‑85を 異 な る 温 度 条 件 下 で 栽 培 し、 形 質 を 比 較 し た と こ ろ 、N ‑172は低 温条 件下 では 生育 が抑 制され 、半 数体 様のI矮 性、 小粒、
不 稔 を 示 し た が 、 高 温 条 件 下 で は 生 育や 稔性 が回 復す る顕 著な 温度 反応 を示し た 。N‑172X H‑69のF2集 団 を2分 し て 、水 田( 低温 区) とヒ .二 一ル ハウ ス(高 温 区 ) に それ ぞれ 栽培 した とこ ろ、d‑58(t) は、 低温 条件 下で のみ 変異 形質を 発現する低温感受性遺伝子であ弓ことが明らかになった。
突 然 変 異系 統のNlutant‑lが示 す一 穂内 に正 常な 穎花 から 種々 の奇 形穎 花が混 在する変異には単署屯劣性遺伝子(虹豊塗(t))が関与していた。連鎖分析から虹 s童 (t,)は染色体4に所属することを明らかtこした。Mutant‑lを高温区と低温区 に 栽培 し、 形質 を比 較し ′こと ころ 、高 温区 では 奇形 穎花 の頻度は50%以下で、
種 子 稔 性 は50% 以 上 を 示 し 、 低 温 区 で は ほぱ100% の 奇 形 と 完 全 不 稔を 示し、
明確な低温感受性が認められた。
N ‑133(rcn‑l)と高温感受性のふ系71号矮性(d‑50=止一艫)の交雑F2集団を高温 区 と 低 温 区 に 栽 培 し て 表 現 型 を 比 較 し た とこ ろ 、rcn‑lは 低 温 条 件 下で のみ発
現し、低温区ではrcn‑lがd‑50に対し上位性を示した。
本 研 究 で 明 ら か に し ′ こ 連 鎖 関 係 は 以 下 の 通 り で あ る 。 染色体3皿‑ bc‑l‑ Lk‑fーAn‑3‑並量i一dI‑!L麭
染 色 体 4彑 一 1一 呈 rー ml£ 呈 ( t) ー 亜 且 墨 一 並 二 上 染色体6坐一隻一翌n‐1一盤1一止旦一止竪(t)
以上の遺f云変異は、育種的に遺伝資源として役立っことの他に、染色体上の 座位が明らかになったことから標識遺伝子として、形態形成の機構を探るため の研究材料として有用である。
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 木 下 俊 郎 副査 教授 中世古公男 副 査 教 授 島 本 義 也
学 位 論 文 題 名
イ ネの形 態および生理的突然変異に関する遺伝学的研究
イネの農 業形質とも関連の深い粒大および分げつ数の突然変異体 に関して遺伝子分析と形質表現に及ぱす遺伝子作用を調ベ′こ。さら に、温 度条件に反応して 、形態が著しく変化する条件突然変異体(
conditional mutant) に つ い て も 遺 伝 解 析 を 行 っ た 。 本論文は 5 章より成 り、147 頁で表 48 と図 35 を含む。主な内容は下 記の如く要約ぎれる。
1 .粒大突然変異
品種「しおかり」の人為突然変異体、である長粒性には、先に房吉 長粒から見い出さ れたLk‑f 座の不完全優性遺伝子が関与していた。
この遺伝子は長稈 、長穂およぴ穂数の減少等の多面作用を有し、Lk
‑f とHi (極小粒)の間に連鎖関係があり、染色体3 に座乗していた。
系 統IRAT13 の長 粒性には単純劣性遺伝子が関与し、 lk‑i は扨長を 増大させ、扨幅にt まあまり影響を与えなかったが、その作用カはLk ー f よ り 小 ぎ か っ た 。 ま ′ こ 、 lk 亅 は 染 色 体 4 に位 置し て いた 。 長粒と反対方向の短粒性に開するMi (極小粒)、止皇(夷型矮性)
およぴ(1‑11 (農林28 号矮性)との関係を交雑実験により調べ′こ結果、
各遺医子の長短両方向への作用については遺伝子間の上位性が認め られず、長粒と短粒への作用t ま互いに相殺し合って、たとえぱ Lk‑f Lk‑f Mi Mi な る 遺 伝 子 型 で は 中 間 の 正 常 型 に 固 定 し た 。 内外穎が葉片化する遺伝子のlhs ニ!を用いて、扨がらによる規制 を受けない状態を作り、Lk‑f とMi が玄米長に及ぱす作用性を調べた ところ、これまで玄米本来の大きさが扨がらと不均衡な発育をする という説とは異なり、Lk‑f や Mi による玄米の長ぎの変異は籾長とよ く調和してい′こ。
2. 少 分 げ つ 性 突 然 変 異
突 然 変 異 で 生 じ た 4種 の 少 分 ・ げ つ 系 統 を そ れ ぞ れ の 原 系 統 と 共 に 水 田 条 件 ( 低 温 区 ) と ピ . ニ ー ル ハ ウ ス 条 件 ( 高 温 区 ) で 栽 培 し ′ こ と こ ろ 、 低 温 区 で は 著 し い 少 分 げ っ や 短 稈 を 示 し ′ こ の に 対 し て 、 高 温 区 で は 正 常 型 に 復 帰 す る よ う な 低 温 感 受 性 が 見 い 出 さ れ ′ こ 。 水 田 条 件 下 で は 、 い ず れ の 変 異 体 に も 単 純 劣 性 遺 伝 子 が 関 与 し 、 4種 の う ち のrcn‑lは 他 の3種 、[' cnニ2、rcn‑3お よ びrcn: 豊 (t) に 対 し て 上 位 性 を 示 し た 。 連 鎖 分 析 の 結 果 、rcn: ! は 染 色 体6に 、rcn‑2は 染 色 体4に 座乗 して いた 。
分 げ つ 数 を 異 常 に 増 加 さ せ る 短 稈 性 遺 伝 子 と の 相 互 作 用 を 調 べ た 結果 、[ cii ‑!は 分げ つ矮 性遺 伝子 のd‑10、d‑3、d. ニ一 堊、!L墨に対して 上 位 性を 示 し た 。 し か し 、 他 の3種( [ £D〓2、 [ 釜D〓 ≧ お よびrclヒ 彑 (t
) ) と4種 の 分 げつ 矮性 遺伝 子( 止亅 堂、 止i玉 、止 一坦 (t) お. よびd塗 ヱ)
と の 間 で は 分 げ つ 数 に 関 し て 相 加 作 用 が み ら れ 、 2重 劣 性 型 が 両 親 の 中 聞 の 分 げ つ 数 を 示 し ′ こ 。3種 の 少 分 げ つ 系 統 (N−174、N‐176お よ ぴN‐175) へ 合 成 オ ー キ シ ン (NAA) 、 抗 オ ー キ シ ン (TIBA) お よ ぴ サ イ ト カ イ ニ ン (BA) を そ れ ぞ れ 単 独 で 処 理 す る と 、 各 変 異 体 に お い て そ れ ら へ の 反 応 が 異 な り 、4種 の 少 分 げ つ 性 で は 生 理 的 機 構 に も 差