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博 士 ( 医 学 , 安 田 素 次 学 位 論 文 題 名

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博 士 ( 医 学 , 安 田 素 次

学 位 論 文 題 名

精 神 分 裂 病 患 者 の 自 殺 企 図 に つ い て

学 位 論 文 内 容 の要 旨

    I.研究目的

  精神分裂病患者(以下分裂病者と略す)の自殺は,うつ病患者などのそれとは異なり,従来と りわけ予測困難とされてきた。またこれまでの多くの研究は自殺既遂例を扱っており,その統計 的処理を行ったもの,または既遂例を病歴などにより調査して自殺の精神病理を考察したものな どが主である。自殺未遂例に対する精神医学的面接結果を重視しかつ統計的方法と事例的方法を 併用した研究は,未だ極めて少ない。

  また,分裂病者の自殺の実態にっいての報告は,これまで入院という特殊な環境を中心にした ものが多く,社会の中にある通院中および未治療患者の実態を含めた報告は少ない。本研究は,

主に自殺未遂分裂病者を対象として,同一地域内における救急施設(市立札幌病院救急部)の横 断面的調査結果と精神病院(市立札幌病院静療院)の縦断面的調査結果を比較検証することで,

近 年 の 分 裂 病 者 の 自 殺 の 特 徴 お よ び 問 題 点 を 明 ら か に し よ う と し た も の で あ る 。

    JI.対象と方法

  調査・研究の対 象は,2群から構成される。I群は,昭和58年6月から61年8月までの約3年 間に,市立札幌病院救急部に自殺企図により収容された117例である。既遂例は26例で,未遂例 は91例である。まず,この117例の自殺手段,自殺場所,精神科治療状況を調べ,面接可能な未 遂52例に対してさらに精神科的診察を行い,その精神医学的状況を検討した。また精神病院外の 一般社会における分裂病者の自殺の実態を把握するため,分裂病者の自殺企図20例の様態にっい て,同群における分裂病以外の自殺企図者(躁うつ病・うつ病患者,神経症患者など)のそれと 比較検討した。

  H群は,昭和50年1月から平成1年12月までの15年間に,市立札幌病院付属静療院で精神分裂 病の診断で入院中に自殺企図した者22例(既遂9例,未遂13例)および退院後外来通院中に自殺 企図した者8例(既遂2例,未遂6例)の計30例である。既遂例は計11例で,未遂例は計19例で

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ある 。 皿群 ではI群に おける 検討事 項に加 えて ,経時 的事例 検討を 主な目 的と して自 殺未遂 ,暴 力行為 などの 既往歴 およ び精神 症状の 推移を より詳 細に 検討し た。

m.結 果お よび考 察

1. 分 裂 病 者 の自 殺 企 図 時 平均 年齢はI群 で34.9歳 ,II群で36.3歳で あった 。我が 国の 一般社 会 では 自 殺発 生の第1の ピーク は20歳代 の青 年期に 多く, 壮年期 に入 ると滅 少する が,こ の所見 は 一般人 口にお ける傾 向と 著しい 対比を なして いる。 一方 で分裂病自殺企図者の婚姻率は12.506と 極端 に 低 く , 躁う つ 病 ・ う つ病お よび神 経症 自殺企 図者の それの1/2以 下にと どまる 。さら に 有職 率 も37.5% で , 後者 の そ れの1/2にすぎ ない 。すな わち分 裂病自 殺企図 者で は,30歳 代を 中心と する働 き盛り の年 代にお いても 単身・ 無職者 が多 く,社 会的お よび家 庭的安定からは程遠 い状況 にあっ た。

2, 分 裂 病 者 の自 殺 企 図 はI群 ,H群 い ずれ に お い て も, 発 病 後5年目 を 境 目とし て急 増して い た。従 来,発 病初期 の自 殺が注 目され ていた が,抗 精神 病薬が 導入さ れた現 在では慢性期の自殺 防止が 重要で あるこ とが 再確認 された 。

3. 分 裂病 者の自 殺手 段はそ の他の 自殺企 図者 に比較 し,地 下鉄へ の飛び 込み ,高所 からの 飛び 降りな ど致死 度の高 い身 体損傷 手段に よる比 率が極 めて 高かっ た。両 手段に よる者の過半数が分 裂病者 であっ た。同 時に 彼らは 自殺企 図場所 に自宅 外を 選ぷことが多かった。この傾向tま躁うつ 病・う つ病, 神経症 ,そ の他の 精神疾 患およ び精神 科的 異常を 認めな い者が ほとんどが自宅を選 ぷのに 比し, 極めて 特徴 的であ った。 これら の手段 ・場 所の特 徴はそ の他の 企図者に比較して20 歳代で は差を みない が,30歳代,40歳代と高齢化するにっれて,有意差をもって明らかとなった。

分裂病 者の企 図時の これ らの状 況から ,加齢 ととも に社 会的孤 立状況 が深刻 化する一方で,自殺 の手段 と場所 を吟味 でき ない, あるい は残さ れる者 への 『配慮 』に乏 しい, 分裂病者独自の精神 病理が 推察さ れる。

4. 自 殺未 遂後の 診察 では, 心因の みで自 殺企 図して いる者 は稀で ,ほと んど の症例 が精神 症状 を有 し て い た 。さ ら に 縦 断 面的検 討から ,こ れらの 突発的 に生ず る自殺 企図 はl〜2力 月前か ら 症状再 燃をき たし, 数日 間の軽 快期を 経て再 び症状 増悪 を契機 に自殺 を企図 する場合と,長期間 症状 の 再 燃 傾 向は な く1〜4日 前 か ら の 急激 な 症 状 再燃 を契機 に自殺 を企図 してい る場 合の2群 に分け られた 。前者 の契 機とな る異常 体験の 多くは 『や はりの け者に される 』,『やはり直らな い』, 『やは り苦し めら れる』 といっ た妄想 知覚様 体験 であり ,あた かも一 過性の軽快が絶望感 を急速 に深め たかの よう に,患 者個人 にまっ わる独 特の 破局感 から自 殺企図 をきたしている。い ずれも 契機と なる体 験に 発病か らそれ までの 生活史 上の 苦悩が 凝集さ れてい る点で,急性期に新

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た に始ま った漠 然とし た終末 感・ 世界没 落体験 とは異 なっ ている 。この 群の最後の症状再燃から 自 殺企図 までの 時間は24時間 以内であることが注目される。後者では幻聴(命令調のそれを含む)

・ 妄想着 想様体 験から 始まる 急激 な思考 障害が 多いが ,前 者と同 様に, ためらう猶予なしに患者 を 自殺企 図へと 走らせ ている 。こ れらの 所見か ら,従 来直 接の動 機が見 いだせない,または単に 衝 動的行 為とさ れるこ との多 い分 裂病者 の自殺 企図の 背景 に,し ばしば 急激な症状再燃が生じて い ること が注目 される 。

5. 自 殺企 図 が4回 以上 あ る 分裂病 者では ,その ほとん どが 短い期 間に集 中して 生じ ていた 。既 遂 を 含 め て8回 の 自 殺 企図 の あ っ た 症例 で は ,6年間 の 病 期 の うち2年9力 月間 にすべ ての自 殺 企 図が起 きてい た。こ のよう な時 期を仮 に自殺 企図の ゛易 誘発期 。と呼 んだ。縦断面的に観察し 得 た症例 に共通 する特 徴とし て, ゛易誘 発期。 におい ても 症状の 軽快期 があり,この時は疎通性 が むしろ 良く保 たれ, 自殺念 慮も はっき り否定 するこ とで ある。 そして ほとんどが突発的な症状 再 燃増悪 ととも に自殺 企図を 繰り 返して いた。 自殺企 図毎 の内的 異常体 験の種類と手段は異なる が ,心因 が再燃 を誘発 するな ど各 症例毎 に比較 的類似 した 状況が 多かっ た。注意深い観察と機敏 な 治療に よって ,再燃 傾向に 関連 するこ の時期 に適切 に対 応する ことが ,分裂病者の自殺予防の 鍵 となる ものと 思われ る。

6. 自 殺企 図 前 後 の3力 月 以 内に殺 人未遂 を含め て何ら かの 他害行 為を示 した分 裂病 者は, 静療 院 の 自 殺 企図30例 中6例(20.0% ) に のぼ っ た 。 また 通院中 あるい は未治 療中 の患者 の4割近く に , 自殺企 図前2力月 以内に 家出の 既往 を認め た。い ずれも 分裂 病症状 の再燃 に際し て,自 殺企 図 の心理 機制と 深い関 連をも っこ とが推 測され ,予測 困難 とされ る自殺 企図の重要な徴候とみな さ れる。

学位論文審査の要旨 主 査    教 授    山 下    格 副査   教授   近藤喜代太郎 副 査    教 授    寺 沢 浩 一

  精 神分裂 病患者 (以下 分裂 病者と 略す) の自殺 は,う つ病 患者な どのそれとは異なり,従来予 測困 難と されて きた。 またこ れまで の研 究は自 殺既遂 例の統 計的 処理ま たは病歴調査からの考察

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が 主であ る。自 殺未遂 例に 対する 精神医 学的面 接結果 を重 視しか つ統計 的方法 と事例的方法を併 用 した研 究は, 未だ極 めて 少ない 。その 実態に っいて も, 対象を 入院中 患者に 限定した報告が多 く ,通院 中およ び未治 療患 者を含 めた報 告は少 ない。 本研 究は, 主に自 殺未遂 分裂病者を対象と し て,同 一地域 内にお ける 救急施 設の横 断面的 調査結 果と 精神病 院の縦 断面的 調査結果の比較検 証 か ら , 近 年 の 分 裂 病 者 の 自殺 の 特 徴 お よび 問 題 点 を 明ら か に し よ う とし た も の で ある 。   対 象と 方 法 : 昭 和58年 か らの3年間 に,市 立札幌 病院救 急部 に自殺 企図に より収 容され た117 例 の自殺 手段, 自殺場 所, 精神科 治療状 況を調 べ,面 接可 能な未 遂例に 対して さらに精神科的診 察 を行い ,その 精神医 学的 状況を 検討し た。さ らに分 裂者 の自殺 企図20例 の様態にっいて,同群 に おける 分裂病 以外の 自殺 企図者 (躁う つ病・ うつ病 患者 ,神経 症患者 など) のそれと比較検討 し た。次 に昭和50年か らの15年 間に, 市立 札幌病 院付属 静療院 で入 院中・ 退院後外来通院中に自 殺 企図し た分裂 病者30例の自 殺未遂 ,暴力 行為 などの 既往歴 および 精神症 状の推移をより詳細に 検 討した 。

  結 果お よ び 考 察 :1. 分 裂病 者の自 殺企 図は発 病後5年目 を境目 として 急増し ,企 図時年 齢は 30歳 代を中 心とす る働 き盛り の年代 にあっ た。 一方で ,分裂 病自殺 企図者 はその他の自殺企図に 比 し て 単 身 ・ 無 職 者 が 多 く , 社 会 的 お よ び 家 庭 的 安 定 か ら は 程 遠 い 状 況 に あ っ た 。 2. 分裂 病者 の自殺 手段は その他 の自殺 企図 者に比 較し, 地下鉄 への 飛び込 み,高 所から の飛び 降 りなど 身体損 傷手段 によ ること が多か った。 また彼 らは ,その 他の自 殺企図 者のほとんどが自 宅 を選ぶ のに比 し,自 殺企 図場所 に自宅 外を選 ぷこと が多 かった 。これ らの手 段・場所の特徴は そ の他の 企図者 に比較 して20歳代で は差を みな いが,30歳代,40歳代 と高齢 化するにっれて,有 意 に明ら かとな った。 分裂 病者の 企図時 のこれ らの状 況か ら,加 齢とと もに社 会的孤立状況が深 刻 化する 一方で ,自殺 の手 段と場 所を吟味できない,あるいは残される者への『配慮』に乏しい,

分 裂病者 独自の 精神病 理が 推察さ れる。

3. 自殺 未遂 後の診 察では ,ほと んどの 症例 が直前 に妄想 知覚様 体験 ,急激 は思考 障害な どの精 神 症 状 を 有し て い た 。 突発 的に 生ずる 自殺 企図は1〜2力月 前か ら症状 再燃を きたし ,数 日間の 軽 快期を 経て再 び症状 増悪 を契機 に自殺 企図す る場合 と, 長期間 症状の 再燃傾 向はなく数日間か ら の 急激 な症状 再燃を 契機に 自殺 企図し ている 場合の2群 に分け られ た。前 者では 最後の 症状再 燃 から自 殺企図 までの 時間 は24時間 以内で あっ た。こ れらの 所見か ら,従 来直接の動機が見いだ せ ない, または 単に衝 動的 行為と されや すい分 裂病者 の自 殺企図 の背景 に,し ばしば急激な症状 再 燃が生 じてい ること が注 目され る。

4.4回以 上 反 復 す る 自殺 企 図は ,その ほとん どが゛ 易誘発 期。 と呼べ る短い 期間に 集中 してい

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た。再燃傾向に関連するこの時期の適切な対応が,分裂病者の自殺予防の鍵と判断された。

5.自殺企図前後の3力月以内に他害行為を示した分裂病者は,20.o/odにのぼった。また通院中 あるいは未治療中の自殺企図者の4割近くに,企図前2力月以内に家出の既往を認めた。いずれ も 予 測 困 難 と さ れ る 自 殺 企 図 の 重 要 ナ ょ 徴 候 と み な さ れ る 。  質 疑 応 答 : 寺沢教授(問);分裂病の自殺に特徴的な切刺創はあるか?

答;胸部刺貪l亅例のほとんどは分裂病であった。

寺沢教授(問);分裂病者の通り魔殺人等の他害行為の予防法はcl

答;分裂病者では,殺人者と自殺者の間に年齢分布,罹病期間,婚姻就労状況,自殺未遂歴など で共通項が認められる。分裂病者に自殺企図・他者に対する敵意などの徴候が認められた際,精 神科での集中的な治療をすみやかに開始することが予防の最善策である。ただし累犯者など処遇 困難例に対しては一精神病院にとどまらず,司法関係者と連携した集約的な治療施設が必要と思 われる。

近藤教授(問);精神分裂病の病型と自殺との関連にっいて 答;妄想型が多い。

近 藤 教 授 ( 問 ) ; 一 自 殺 例 に 続 く ( 例 え ば 病 院 内 で の ) 自 殺 流 行 性 は あ る か ? 答;経験上あり得る。治療者が知り得ない間に患者間に大きな影響が波及していたことはよく経 験される。

近藤教授(問);自殺の原因は何が主体と考えるか?了解可能な面が強く原因に関与する例も有 り得るか?

答;有り得るが経験上きわめて稀である。自らの不遇など了解可能な面も影響を及ぼし得るが,

症 状 再 燃 と 分 裂 病 欠 陥 状 態 の 進 行 に よ る 衝 動 性 の 亢 進 が 原 因 の 主 体 と 思 う 。

参照

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