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下顎骨辺縁切除・腹直筋皮弁再建患者に対する顎堤形成術のための術前シミュレーションの有用性

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Academic year: 2021

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(1)顎顔面補綴 43 巻 2 号,2020. 41(85). 下顎骨辺縁切除・腹直筋皮弁再建患者に対する 顎堤形成術のための術前シミュレーションの有用性 松 川 良 平 1). 吉  岡  文 1). 尾 澤 昌 悟 1). 兵 藤 伊 久 夫 2). 萩 原 純 孝 3). 秦  正  樹 1). 小 島 規 永 1). 木 村 尚 美 1). 平 井 秀 明 1). 宮  前  真 4). 武  部  純 1,4). Usefulness of Preoperative Simulation on Mandibular Alveoplasty for Mandibular Prosthesis after Marginal Mandibulectomy and Rectus Abdominal Muscle Reconstruction Ryohei MATSUKAWA1), Fumi YOSHIOKA1), Shogo OZAWA1), Ikuo HYODO2), Sumitaka HAGIWARA3), Masaki HATA1), Norinaga KOJIMA1), Naomi KIMURA1), Hideaki HIRAI1), Shin MIYAMAE4)and Jun TAKEBE1, 4) It is important for head and neck tumor patients to maintain their quality of life after tumor resection. These patients may suffer from speech disability, chewing disability, swallowing dysfunction due to mandibular defect, and limited tongue movement and mass after subtotal glossectomy and flap reconstruction. This report describes a preprosthetic surgical treatment including digital surgical simulation and a multidisciplinary approach. Three-dimensional surgical simulation was performed using digitalized CT and study cast images. The combination of skeletal and soft tissue images enables us to predetermine the tissue margin and shape for a mandibular alveoplasty. This method was applied to a 65-year-old male patient who underwent marginal mandibulectomy and rectus abdominal muscle reconstruction, who had limited tongue movement and no space for a prosthesis. Through collaboration among a plastic surgeon, oral surgeon and maxillofacial prosthodontist, a surgical guide was produced from the simulation by a 3D printer, and the mandibular prosthesis was delivered after the alveoplasty. It is suggested that digital simulation and a multidisciplinary approach are effective for installing dentures for patients with head and neck tumors. Key words : mandibular alveoplasty(下顎顎堤形成術) ,surgical simulation(手術シミュレーション) , medical and dental collaboration(医科歯科連携) 1). 愛知学院大学歯学部有床義歯学講座(主任:武部 純教授) Department of Removable Prosthodontics, Schoool of Dentistry, Aichi Gakuin University(Chief : Prof. Jun Takebe) 2) 愛知県がんセンター形成外科(主任:兵藤伊久夫部長) 2) Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Aichi Cancer Center Hospital(Chief : Director Ikuo Hyodo) 3) 愛知県がんセンター頭頸部外科部歯科診療科(主任:花井信広部長) 3) Department of Head and Neck Surgery and Dentistry, Aichi Cancer Center Hospital(Chief : Director Nobuhiro Hanai) 4) 愛知学院大学歯学部高齢者・在宅歯科医療学講座(主任:武部 純教授) 4) Department of Gerodontology and Home Care Dentistry, School of Dentistry, Aichi Gakuin University (Chief : Prof. Jun Takebe) 2020 年 8 月 5 日受付 1).

(2) 42(86). 顎顔面補綴 43 巻 2 号,2020. 現病歴:2016 年 5 月に右舌縁癌(cT4aN1MO)の診断. Ⅰ.緒  言. で愛知県がんセンター中央病院にて舌亜全摘術,下顎骨辺. 口腔癌治療においては,腫瘍のコントロールが最優先さ. 縁切除術および頸部郭清術,腹直筋皮弁再建を施行した.. れるが,術後に審美性のみならず,咀嚼,嚥下,構音など. 放射線治療の既往はなかった.義歯製作を目的に 11 月に. 多くの機能障害を伴うため,癌患者の QOL を向上させる. 愛知学院大学歯学部附属病院顎顔面補綴科診療部を受診し. 1). ことは重要な課題である .下顎悪性腫瘍切除を伴う無歯. た.嚥下造影検査では咽頭期嚥下に問題ないとされ,当科. 顎症例においては,顎堤の欠損,移植皮弁を含む口腔軟組. 初診時の食形態はおかゆ,ミキサー食であった.唾液の口. 織の性状,下顎偏位や下顎運動異常など,顎義歯の維持・. 腔内貯留により,発話明瞭度が低下している可能性もあ. 安定性を低下させる要因が多く存在する.また,舌・口底. るとのことから前担当医により 2017 年 10 月に PAP の装. 部の切除が行われた場合は,形態的条件のみに目を奪われ. 着が行われた.前担当医の退職に伴い,2019 年 5 月に上. ず,患者の有する機能障害を的確に把握し,リハビリテー. 顎 PAP 再製作のため,現担当医に引き継いだが,その際,. ションの計画を立てる必要がある.. 患者は下顎顎義歯の製作を強く希望した.. 顎義歯製作時における一般的な問題点として,下唇の内. 口腔外所見(顔貌所見):下唇は内翻し,下顔面は短縮. 翻,口腔前庭の欠如,口唇の縫縮,皮弁と顎堤との縫合な. していた(図 1).. ど,義歯の維持安定に関わる形態が得られず,結果として. 口腔内所見:下顎は無歯顎であり,左側舌根部以外は. 顎義歯の製作が困難となる.本症例においても,当科初診. 腹直筋皮弁によって再建されており,再建舌は比較的ボ. において顎義歯の装着はされていなかった.. リュームがあり,顎堤頂を超えた位置(口唇内面)に縫合. 今回,舌亜全摘,下顎骨辺縁切除・腹直筋皮弁再建患者. され,口腔前庭が消失し,舌側は舌との縫合により補綴装. に対し,顎義歯装着を前提として,顎堤形成術を施行した.. 置のためのスペースが消失していた(図 2).. 本稿では,CT 画像データと研究用模型から術前シミュレー. X 線所見:パノラマ X 写真より,上顎は 654321|1234567. ションを行い,形成外科医および口腔外科医と連携をとり. が残存し,水平性の歯槽骨吸収を認めた.下顎は右側第二. ながら治療を行ったので,その流れについて解説する.. 大臼歯から左側第二小臼歯の内側皮質骨が辺縁切除されて. Ⅱ.症例の概要. いるものの,比較的顎骨の高さは残存していた(図 3). 言語聴覚士による言語評価:PAP 装着時においてタ行,. 患者:65 歳,男性.. サ行などの前舌使用の子音は口唇で代償構音としていた.. 初診日:2016 年 11 月.. 診断:舌亜全摘,下顎骨辺縁切除後の顎堤消失および歯. 主訴:歯の欠損により食事ができない.. の欠損による審美・咀嚼および構音障害.. 既往歴:高血圧.. 図 1 顔貌写真 Fig. 1 Facial configuration views.

(3) 顎堤形成術のための術前シミュレーション. 43(87). 図 2 口腔内所見 Fig. 2 Intraoral views. 図 3 パノラマ X 線写真 Fig. 3 Panoramic radiograph. Ⅲ.治療経過. タを当院にて画像解析ソフト MimicsⓇ(Materialize 社)に入 力し,下顎骨部分を三次元画像構築した後,STL データに. 1.治療方法および計画. 変換した.得られた STL データは GeomagicⓇ ControlTM(3D. 術前に義歯の使用経験はなく,現在の口腔内の状態では. Systems 社)に入力され, 下顎骨の三次元データを得た(図 4) .. 顎義歯の製作は困難であると判断した.しかし,患者の下. 2)研究用模型の三次元データ化. 顎に顎義歯を装着して食事したいという要望に対して,再. 三次元形状計測機 RexcanⓇⅢ(SOLUTIONIX 社)を用. 建術を施行した形成外科医,口腔外科医と連携して顎堤形. いて,口腔内情報を把握するため研究用模型の三次元形状. 成術を行い,顎義歯を製作することとした.. 計測を行い,形状データを得た.得られたデータは STL. 2.処置内容. 形式にて出力され,GeomagicⓇ ControlTM に入力され,研. 口腔前庭や舌側溝の確保の為,顎堤形成術の検討を行っ. 究用模型の三次元データを得た(図 5).. た.顎堤形成術を行うために撮影した術前検査の CT 画像. 3)下顎骨と研究用模型における三次元データの重ね合わせ. データを利用して,当院にてコンピュータ上で顎堤形成術. CT 画像データで得られる下顎骨のみの情報では,実際. のシミュレーションを行った.その後,形成外科医,口腔. に顎義歯の外形を設定する位置が把握しにくいため,研究. 外科医との症例検討を重ね,手術時には当院顎顔面補綴医. 用模型を下顎骨と重ね合わせることで,位置関係を把握. も立ち会った.顎堤形成後,顎義歯を製作し,装着した.. した(図 6).具体的には,本症例に残存歯はなかったが,. 以下に顎堤形成術を行うための術前 3D シミュレーション. 粘膜が薄かったため,下顎骨辺縁切除による骨の凹凸部を. および診療の流れを示す.. 3 点ランドマークとして手動にて重ね合わせを行った.. 1)下顎骨の三次元データ化. 4)3D プリンタにて下顎骨模型の製作. 愛知県がんセンターでの術前 CT から得た DICOM デー. 3D プリンタ ProjetⓇ660pro(3D Systems 社)にて下.

(4) 44(88). 顎顔面補綴 43 巻 2 号,2020. 顎骨石膏模型を造形した(図 7).造形材料には Hybrid. 量について形成外科医,口腔外科医,顎顔面補綴医での症. Plastor(3D Systems 社)を用いた.積層ピッチは 0.1 mm. 例検討を行い,術後の理想的な形態を模したステントを術. であった.. 中のガイドとして製作することとした.. 5)形成外科医,口腔外科医,顎顔面補綴医による症例検討. 6)外科用ステントの製作. 顎義歯製作のためには,義歯の安定が得られるような顎. 作業用模型を製作し(図 8),露出創面に創傷被覆材を. 堤形態が必要であること,顎堤形成術を行うためには,そ. 置くスペースを得るため,全面一層リリーフし,0.8 mm. の範囲や形成量を術前に把握する必要があることから,骨. ス テ ン ト(Erkodurφ120 mm ERKODENTⓇ 社 ) を プ. 削除の必要性,頰舌側の形成量,口腔前庭と舌側溝の形成. レス機にて模型に圧接して製作した(図 9).ステントは, 術中に長さを調整でき,術後の固定糸が通る孔をあけるた めに厚さ 0.8 mm とした.また,安全に手術を行うため, オトガイ孔の位置を術中に把握するために,オトガイ孔の 位置を明示したステントも製作した(図 10). 7)顎堤形成術 全身麻酔下に,形成外科医・口腔外科医の執刀で顎堤形 成術を施行した.ステント外側縁相当に添って皮弁を切開し 骨膜上で鋭的に剥離をすすめ,ステント内側縁相当まで皮弁 断端を授動させた.顎堤を形成した後に, ステントをモノフィ ラメント縫合糸で 6 か所固定し手術を終了した(図 11) . 8)顎義歯の製作(術後約 1 か月半) 顎堤形成術後,左側舌側において若干の後戻りがあった ものの,前歯部で口腔前庭と舌側を分離することで顎堤が. 図 4 顎骨モデル Fig. 4 CT image(bone model). 図 5 研究用模型の取り込み Fig. 5 3-dimensional imaging of study cast. 図 6 顎骨モデルと研究用模型の重ね合わせ Fig. 6 Superimposed bone model and study cast images.

(5) 顎堤形成術のための術前シミュレーション. 図 7 3D プリンタで製作した下顎骨モデル Fig. 7 Bone models made by 3D printing. 図 8 作業用模型 Fig. 8 Definitive cast. 図 9 製作した外科用ステント Fig. 9 Surgical stent. 45(89).

(6) 46(90). 顎顔面補綴 43 巻 2 号,2020. 形成され,臼歯部の皮弁を下方に移動することで,補綴の. 3.術後の経過. ためのスペースを確保できた(図 12).ステントを製作し. 顎義歯装着後 1 回目の調整では,口腔内に装着している. た作業用模型上で個人トレーを製作後,筋圧形成を行い,. ことは慣れてきたが,水が飲みこみにくいとのことであっ. 精密印象採得を行い顎義歯を製作した.既製トレーの調整. た.2 回目の調整では,家族,知人より顔貌もよくなった. といった手間を省くことができた.下唇の内翻に対し,リッ プサポートを付与し,義歯床外形を後戻りを防止するため 可能な範囲で大きくした.また,垂直的な顎間関係は Willis 法による顔面計測,下顎安静位も参考にして決定した. 9)顎義歯装着(術後約 3 か月) 完成した顎義歯の舌側床縁は後戻りにより若干短くなっ たが,唇側はシミュレーション通りの形態となった.粘膜 面の確認,咬合調整を行い,顎義歯を装着した.義歯未装 着であったため,義歯に慣れるよう指導した.開口時にお いても顎義歯の浮き上がりはなく,下顔面の短縮も改善さ れた.(図 13).. 図 10 オトガイ孔の位置確認用ステント Fig. 10 Guide stent for mental foramen. 図 11 手術時写真 A:顎堤形成後,B:ステント固定後 Fig. 11 Intraoperative views A:After mandibular alveoplasty B:Surgical stent fixation. 図 12 術後口腔内写真(術後 20 日) Fig. 12 Oral findings after operation(POD20).

(7) 顎堤形成術のための術前シミュレーション. 図 13 義歯装着写真 A:完成義歯,B:装着時,C:装着時顔貌 Fig. 13 Intraoral and facial configuration views A:The new mandibular prosthesis B:After prosthetic treatment C:Facial appliance with prosthodontic procedure. 47(91).

(8) 48(92). 顎顔面補綴 43 巻 2 号,2020. と言われたとのことであった.OHIP-14 を用いて口腔関連. では補綴装置の装着は不可能であると言われている5).本. QoL の評価を行ったが,顎義歯未装着時 25 点であり,顎. 症例では,舌側から顎堤頂に向けて皮弁が移植されている. 義歯装着後 27 点と大きな差はなかった.現在の義歯は術. が,その移植皮弁は薄く,通常の顎堤粘膜に近い性状であっ. 後の後戻り防止のため早急に製作したため,創部が安定し,. たことは顎義歯製作には適していたと考える.顎堤の獲得. 義歯に慣れてきた頃合で上顎 PAP,下顎顎義歯を再製作す. と皮弁の下縁を下方に移動することを目標として,通常の. る予定である.その際には,機能面を最大限発揮できるよ. 術前検査で得られる CT 画像データと研究用模型をもとに,. うに咬合高径も考慮して製作を予定している.. 3D プリンタにて下顎骨模型の製作を行った後にステント を製作した.パラフィンワックスの厚みで試作品を製作. Ⅳ.考  察. し,形成外科医,口腔外科医と症例検討を行い,リリーフ. 舌亜全摘,下顎骨辺縁切除術および腹直筋皮弁再建後の. 量を決定した.今回製作したステントは,術中にステント. 義歯未装着患者に対し,形成外科医,口腔外科医と術前シ. の長さの調整が容易に行えること,術後に固定糸を通す孔. ミュレーションを行い,顎堤形成術を施行し顎義歯を装着. を簡単に開けられることを考慮して厚さを 0.8 mm とした.. することができた.. さらにこのステントは,術後装着する顎義歯の床縁の長さ. 顎堤形成術には,顎骨への筋肉の付着部を歯槽頂から遠. を想定したもの 6)であることから,術中においても理想的. ざけて相対的に歯槽提を高くする相対的歯槽提形成術と,. な顎堤形成術を行うことができ,保護用ステントとして術. 骨・軟骨の on-lay graft によって積極的に歯槽の増高を図. 後固定して使用することができた.また,術中のオトガイ. る絶対的歯槽提形成術がある.相対的歯槽提形成術には,. 神経の位置を把握する指標として使用できた.顎堤形成術. 口腔前庭を拡張する口腔前庭形成術,口底を拡張する口底. を行う際に注意すべき点としてオトガイ神経の保護 7)があ. 深形成術,さらに両者を同時に行う術式がある2).顎堤形. る.術中にオトガイ神経を切断や挫滅しないように愛護的. 成術の一般的な術式として,顎堤形成後に術後の創の安定,. に扱うことはもちろんであるが,術中は出血などもあり,. 瘢痕収縮,後戻りの防止のために,使用している義歯を用. 位置の確認が難しいため,位置確認用ステントを使用する. いて下顎骨に固定する方法と新たにステントを製作し固定. ことで安全に手術を行うことが出来たと考える.術前に義. する方法がある.具体的には,予め既存の義歯の頰舌側の. 歯の使用があれば,その義歯を固定解除後に粘膜調整材で. 床縁を延長したステントを用意しておき,術中に粘膜調整. 調整し使用できるが,本症例は義歯の装着が困難であった. 材を裏装して装着させ,サージカルワイヤーを用いて下顎. ため,顎堤形成後すみやかに顎義歯の製作を行う必要が. 3). 義歯とともに下顎骨に囲繞結紮し固定する .新たにステ. あった.ステントを製作した作業用模型を用いて個人ト. ントを製作する方法としては術前にモデルサージェリーを. レーの製作を行えたため,術後スムーズに顎義歯製作を開. 行った模型上で製作した暫間義歯もしくはステントを顎堤. 始できた.CT 画像データと研究用模型を重ね合わせ,製. 形成術中に装着,下顎骨にワイヤーで囲繞結紮する.本症. 作した下顎骨模型を用いてシミュレーションを行ったこと. 例では,術前に義歯の装着が困難であったため,後者を選. で,術前の症例検討から,術中,術後の義歯製作まで様々. 択することとなり,理想的な床縁形態を術者に伝える必要. な用途で使用でき,非常に利用価値の高いものとなったと. があった.術者は手術時の形成量を把握する必要があるた. 考える.. め,症例検討を行い,顎顔面補綴医と手術を担当する形成. 今回,補綴主導で術前 3D シミュレーションを行い,理. 外科医および口腔外科医の意向をステントに反映すること. 想的な顎堤の形態を決定し,製作したステントを術中・術. ができたと考える.. 後に利用し,顎義歯の製作まで利用することができたこと. 通常の下顎義歯床縁の位置決定においても,歯肉頰移行. より,CT 画像データと研究用模型の双方を重ね合わせて. 部の可動粘膜部と顎堤粘膜部との境界が不明瞭であり,骨. シミュレーションする本法は有効な手段となり得ると考え. 吸収が進むと,本来,義歯床下に含めるべき顎堤部分まで. る.本症例を通して顎顔面補綴科,形成外科,口腔外科そ. が可動粘膜に覆われるなど,移行部の判別がますます難し. れぞれの領域において連携すること8,9)の重要性を再認識. くなる.そのため,義歯の安定には,義歯の形態と咬合が. することができた.今後は,ステントの辺縁形態の工夫,. 重要となる.下顎無歯顎症例で顎欠損を伴う場合には,顎. 術後のあと戻りへの対応など新たな課題に対する対応方法. 堤の欠損,移植皮弁を含む口腔軟組織の性状(切除部位が. について検討していく必要があると考える.. 可動粘膜で覆われている)など顎義歯の維持安定を低下さ. 本症例は,もともと顎義歯の装着が難しいケースであっ. せる要因が多く存在することから,顎義歯の製作が非常に. たが,顎堤形成術により口腔前庭,舌側溝を得たことによっ. 困難な場合が多いとされる4).特に舌と口底部が同時に切. て,義歯辺縁の設定が可能となり,顎義歯を装着できた.. 除された場合,再建皮弁の容積は大きく,補綴のためのス. しかし,術前同様に舌可動域に関して変化はなく,PAP. ペースが失われ,特に下顎骨の切除を含む舌亜全摘症例. の使用は継続される.初回手術後,PAP を装着して約 1.

(9) 顎堤形成術のための術前シミュレーション. 年 7 か月経過し,約 3 年間再発もなく,日常の食事,嚥下 機能など段階的にリハビリテーションが進んでいる.顎義 歯装着により,咬断することは可能となったが,食塊形成 や咽頭への送り込み,嚥下機能については今後の更なるリ ハビリテーションが必要であると考える. 今回,術前シミュレーションを行い,顎堤形成術を施行 することで顎義歯が装着できるまで前進したが,顎堤形成 術の影響 10)や下顎顎義歯の装着による咬合高径の変化に よって,これまで獲得した構音,嚥下といった機能に対する 影響はあると考える.したがって,今後,顎堤の変化や構音・ 舌圧の変化の評価を行い,更なる QoL の向上を目指してい く予定である.その経過についても報告を予定している. Ⅴ.結  論 義歯未装着の舌亜全摘,下顎骨辺縁切除術および腹直筋 皮弁再建患者に対し,形成外科医,口腔外科医と連携し, CT 画像データと研究用模型から術前シミュレーションを 行い,製作したステントを用いて顎堤形成術を施行するこ とができた.また,術中におけるオトガイ神経の位置確認 用ステント,術後の顎義歯製作の際の個人トレー製作に利 用でき,顎義歯を装着することができた.. 49(93). 本研究に関し開示すべき利益相反(COI)はない. 文. 献. 1)大山哲生:下顎骨欠損症例の治療目標設定―顎顔面補綴医の 立場から―.口腔腫瘍 27:57︲65,2015. 2)野間弘康,栗田賢一,木村博人,他:イラストでみる口腔 外科手術.38︲45,クインテッセンス出版株式会社,東京, 2013. 3)山本圭子,江上史倫,茂尾公晴,他:無歯顎の下顎前突症患 者にオトガイ形成術と顎堤形成術を用いた 1 例.東日本歯学 雑誌 21:113︲119,2002. 4)黒嶋伸一郎:顎堤再建後にミリングおよびリーゲルテレス コープ装置を併用した上下顎補綴症例.日補綴会誌 2: 287︲290,2010. 5)大山喬史:顎顔面補綴の臨床.77︲85,医学情報社,東京, 2006. 6)上條雍彦:口腔解剖学 2 筋学(臨床編).367︲378,アナトー ム社,東京,2007. 7)今井 崇之,伊藤哲平,横山葉子,他:三次元粉末積層造形 装置による実物大石膏モデルの口腔外科手術への臨床応用. 歯科学報 110:132︲140,2010. 8)小川武則:頭頸部癌治療における医科歯科連携~頭頸部キャ ンサーボードの役割~.顎顔面補綴 43:4︲8,2020. 9)黒沢是之:腫瘍切除後の下顎再建における医科・歯科連携. 顎顔面補綴 43:9︲13,2020. 10)松山美和,大部一成,川野真太郎,他:舌可動部亜全摘症例 に対するリハビリテーションとその治療効果 下顎歯槽堤形成 術と最大舌圧の経時的変化.顎顔面補綴 33:15︲22,2010..

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Fig. 1 Facial configuration views
図 2 口腔内所見
図 4 顎骨モデル
図 9 製作した外科用ステント
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参照

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