MEMOmS OF SHeNAN INSTITUTE
OF
TECHNOLOGY Vo且
.
31,
No.
1,
1997フ
ラ
ン ス注 釈 刑 法
・財 産 犯
(
3
)
上
野 芳 久
*LES
CRIMES
ET
DELITS
CONTRE
LES
BIENS
(
皿)
−
Commentaire
du
nouveau codeP6nal
一
Yoshihisa
UENo
< 目 次>1.
は じ め に2.
本 文 第 3部 財 産に対 する重 罪及 び軽 罪 第1
編 不法 領 得 第 1章 盗 取 (前々号,
前 号 ) 第 2章 強 要 第 1節 強 要 (以 上 本 号 ) 第2
節 恐喝 (以下 次 号 ) 第3
節 自然人に適用さ れ る補充 刑お よ び法人 の責任 〔本 章の構 造 〕 本 章は,
強要 罪 (第1
節 )と 恐喝罪 (第2
節 )の 二 つ の犯罪 類型に関する規 定 を 置 く.
本 章 タ イ トル は,
両罪 を合わ せ た ものを強 要 罪と総 称 する の で紛ら わ しい が,
本稿で は これ を“
広 義の”
強 要 罪と呼び,
第1
節の強 要 罪を“
狭 義の”
強要 罪と呼ぶ こと にする.
その他に第 3 節で , 前 章と同様に,
自然 人に対 し科 しうる補 充 刑の内 容,
外 国 人 犯 人に は国 内滞 在 禁止 を 言 渡し う るこ と (新 設 ),
法 人の刑 事 責 任 が 肯 定 さ れるこ と (新 設 )が規 定さ れて い る.
〔extorsion を どう 訳 すべ きか〕 本 稿で は,
これ まで extorsion を 強 要 〔罪 〕と訳 して きたD.
ところで,
周知の と お り日本刑法 典に も強要 罪 (223 条) とい う名の 犯罪類 型 が 存 在 するの で,
extorsion を 強 要 と 訳 す とこれと同 じ もの と誤 解 さ れ やすい.
しか し,
日本の 強 要 罪 は もっ ぱ ら 自由に対する罪 と解さ れ てい る2)の に対し, フ ラン ス 刑 法 典の extorsion はもっ ぱ ら財産犯た る性格を 有 す る3}の で,
両 者は全 く異な る犯 罪 類 型で あ る といえ る.
そこ で, 強要と訳すの は妥 当で ない の で は な いか とい う疑 * 教 養 課 程 助 教 授 平 成8
年 月 日 注1
) 法 務大臣官 房 編 『フ ランス新刑法 典 』 (法 曹 会,1995
年3
月 )の訳 も同 じ.
2) 「強要罪の保 護 法 益が意 思ない し行 動の 自 由で あ る こ とにっ い て は ほぼ異 論が な い…….
」 所一
彦 「第32
章 脅 迫の 罪 」 『注 釈 刑 法 (5)』246 頁 (有 斐 閣,
1968 年 10 月 改 訂版)3
) 条 文を読む と, あ た か も 日本の強 要 罪と同じ よ う に, 単に署名・
約 務 負 担を 「強要」 す る罪の よ う に も 見 え る が,
条 文の位置か ら見れば あく ま でも財 産 犯である.
「署 名・
約 務 負 担 」は被 害 者の資 産 を 巻 き込みうるよ うな もの で なけ れば な ら ない と明 言 す る文 献 も ある.
た だ し,一
定の行 為 につ い て は反 対 説 もあ る (詳 細 は後 述 頁 ).
一 197一
湘南工科 大 学 紀要 第
30
巻 第1
号問が生 じ る4)
.
も と も とextorsion とい う語は, 「強奪, 強 要」の意味で, た と え ば 金員の 強奪(extorsion
de
1’
argent ),
署 名の 強要(extorsion d
’
une signature )な どの よ う に使用 さ れ る.
その動 詞 形 extorquer も や は り 「(暴 力 ・脅迫に よっ て)強奪する」とい う意 味で , 金 員を強奪する (extorquer
de
1’
argent ), 署名を無理強い する (extorquer une signature )という例 文が掲 載さ れて い る5}
,
要するに,
いやが る相 手に対して暴 力・
脅 迫 を 行 使 す るこ とに よっ て,
その人に一
定の行 為を さ せ る こ とで ある.
もっ とも,
「強奪」とい う訳 語は,
強取を 想 起させ,
した が っ て相 手 方の行為は不 要で あるよ うに も考え られるが, おそら く暴力・
脅迫 とい う手 段を強 調し た もの であろう.
少な く と も刑 法 典上は, 後述 する よう に, 被 害 者の交付 行 為が要 件と なっ て い る (次段 参照).
こ のよ うな行 為 類 型に着 目 して 日本の刑 法 典 内 を 探 す と,
「恐 喝 」 とい う行 為 が 似てお り,
そ れ が 最 もピッ タ リす る 訳 語だ と思 わ れる.
しか しな が ら, 日本の恐喝は暴 行・
脅迫 を手 段と する が, フ ランス刑 法典上のextorsion は脅 迫を 含ま ず,
脅 迫を手 段と す る場 合は chantage とい う別の犯 罪類型 と さ れて い る (次 段 【表VI
】参 照 ).
つ まり,
ex−
torsion とchantage とを 合 わせ た もの を 「恐 喝 」と訳 すと一
番 分か り や すい.
言い換 え れ ば,
chantage を 仮に 「脅 取 」 とで も訳 す6)なら,
広義の恐 喝 (=
第 2 章extorsion ),
狭義の 恐 喝 (一
第 1節 extorsion ),
脅 取 (一
第 2 節 chantage )とする と, か な り 日本の刑 法 典の 概念に近い訳語に な る
.
広 義・嬲 ・
一
第 ・章 ex ・・rs・・n)一
[
籍
義の恐談
:
蓁
1
臨瓢
しか し,
さ らに犯 罪の 重 大 性 につ い て も考えて みる と,
日本 の恐 喝の 暴 行に は一
定の 限 度があ るが,
フ ラ ン ス の extorsion はか なりの程 度の暴 行 まで含 み,
刑 罰 も場 合によっ て はか な り重 くなる.
したが っ て概 念 と して は,
む し ろ 脅迫とい う手 段の点で共 通 性 を もち,
刑罰も比 較 的 軽い chantage の 方が 日本の恐喝に近い よ うに思わ れる.
そ こ で,
chantage に恐 喝罪の訳を当て る と, extorsion を ど う訳すか と い う問題に戻るこ と に な る.
そ して, 上に見た ような, 人に無理強いする とい う extorsion の元々 の 語意を考え る と,
強要 罪とい う訳 語に行き着くわ けで あ る.
広 義・強 要 ・
一
第 ・章 ex ・・rs・・n)一
[
慧
義の強譲
:
篝
1
瀚
器
他に適当な訳 語が見つ か ら ない し,
今見つ けて い る時間 も ない の で , 本稿で は, 従来ど お り extorsion に は, 「強要 罪 」の訳 を 与 えてお く.
従 来の 他の 文 献 (と くに 『フ ラン ス新 刑 法 典 』)の訳 との統一
性 を 考 えて も,
その 方が無 難だ と考え るか らで ある.
た だ し,
日本 刑 法 典の強 要 罪とは異なる意 味で ある こ と を忘れて はな ら ない.
〔強 要 罪 と恐喝罪の 比 較〕 強要 罪(extorsion )(312 −1
条 )は,暴力・
暴力の威嚇 (新設 )・
強 制などを手 段とし て, 署名・
約 束・
秘 密の 開示 (新 設 )・
現金交 付な ど を得る とい う犯 罪で あ る.
他 方,
恐喝 罪 (chantage )(312 −10
条 )は,
被害者に一
定行 為を さ せ る とい う意 味では 同 じ内 容の犯 罪で あ るが,
暴 力で はなく脅 迫 を 手 段 とす る 点でη強 要 罪とは異な る.一
言で い え ば,
両 罪 は 手 段が異な る.
また,
前 段で 見た と お り,
犯 罪の重 大 性 も異な る.
(【表VI
】参 照 )4
) 法 務 大 臣 官 房 『フ ラ ン ス刑法 典』(法 曹会,1991
年2
月 )は, 旧 刑法典400
条 項 (新刑法 典の強 要 罪に あ た る 犯 罪)の extorquer を“
強 請す る”
と訳し,
同 項 (新刑法 典の恐 喝 罪にあた る犯罪 )の extorquer を“
強 要する”
と訳 しわ けてい る.
他 方,
extortion の訳 と して,
強 要で は な く」
脅 取”
を あて る文 献 も ある.
恒 光 徹 「翻 訳 フ ラン ス1986
年 刑 法 典 改 正 法 案 (四 )・
完 」 岡 山 大 学 法 学 会 雑 誌38
巻2
号 (1988
年 ).
5) 『仏 和 大 辞 典 』1026 頁 (白 水 社,1981
年11
月 ).
『小 学 館 ロ ベー
ル仏 和 大 辞 典 』998
頁.
6
) 前 注 に見た と おり,
恒 光 訳で は強 要に代わ る訳と なっ てい る が, こ こ で は脅迫 を手 段とする とい う意 味で 恐喝に代わ る訳 と して使用して み る.
7) 詳 細 は あ とで 見 る が (202
頁),
旧 刑法400
条は,
項で 「力つ く,
暴 力,
強 制に よ る」現金・
署 名の extorsion を, 項で (恐 喝chantage と い う名の下に)「名 誉 侵 害 事 実の暴 露・
非 難の脅 迫に よ る」 同じ extorsion を,
罰 し てい た.
つ ま り,
両 犯 罪は,
(客 体 を 同じに して い るが ) 手 段 を 異に して い た.
し た が っ て両 者は
,一
般に,
extorsion の名 前の下に,
extQrsion par violence とextorsion par chantage と に分けて 研究 さ れて いたのであ る
.CULIE ,
JCP
,
dr.
pen.
Art,312 −1
a312− 15,
p.
3.
フ ラ ンス注釈 刑 法
・
財産犯(3
) (上野 芳 久 ) 他 方,
両 罪 と も,
被 害 者の交付 行為を要 件と す る点で は共通 して い る.
だ か らこそ,
本 章の タ イ トル が (広義の )強 要 と な っ て い る の で あろ う.
さ らに言え ば,
暴 行を手 段と して被 害 者の交 付 行 為を強い るのが原 則 的 犯 罪 形 態で あ り,
より軽い脅 迫とい う手 段を も ちい た場 合に は,
よ り軽い犯罪と して罰するとい う趣旨だ と 思 わ れる.
こ の共 通点こ そ が,
第1
章の盗 罪 と異な る ところで も あ る が, 強要罪につ い て は, 第1
章と同様に, 暴行の結 果いか ん等に よ り加 重条 項が置か れた (新 設 ).
以上は現行 法上の 違い だが,
沿 革 的にも,
強 要 罪 が 既に 1791 年 刑 法 典で罰せ られて い たの に対 し,
恐 喝 罪 は1863
年に刑法典に加え ら れ た比 較 的新しい (但し実態的に は古 くからあっ た) 犯罪だ とい う点で異な る (後 述 ).
〔日本の恐 喝 罪 との比 較 〕 第一
に,
手 段 を 比 較 して み る と,
ま ず,
日本の恐 喝 罪の 「恐 喝 」に は暴 行に よ る場 合を含む,
つ まり,
日本の場 合に は 「暴 行 」 と 「脅 迫 」の両 者を含むS〕が,
フ ラ ン ス で は両 者が別 個の犯 罪と し て考え ら れ てい る点が 目にっ く.
言い換 えれば,
本 章の“
広 義の”
強 要 罪 は,
行 為 類型 (と くに手 段 )だ け に着 目すれば,
ほ ぼ 日本の恐喝罪 にあた るこ とにな る.
逆にt フ ラ ン ス の恐 喝 罪 (chantage )は,
脅 迫を手 段 と する場 合の みで暴 行に よ る場 合を含 ま ないの で,
日 本の恐 喝 罪の一
部 分と み ること も で きる.
決 定 的に違 うの は,
フ ラ ン ス の 場 合は暴 行の 程 度が,
日本の よ う に“
反 抗 を 抑 圧 する程 度に至 らない場 合”
と限 定さ れ ず,
より 広 く致 傷・
致 死の場 合さ え予定さ れて い る点で あ る.
フ ラ ン ス で は, 日本人が 持つ“
恐 喝よ り強 盗が重い”
とい う感 覚 とは正 反 対に,
“
強 要 (;
日 本の恐 矚 )の 方が暴行 窃盗 (=
日本の強盗)よ り重い”
ので ある9〕.
第二 に, 何を させ る犯 罪か と い う点 を 比 較 して み る と
,
まず,
日本 刑 法 典が財 物を交 付さ せ る あ るい は財産上の不 法 利 益を得る犯罪と抽 象 的で あ る の に対し, フラ ン ス の規 定は よ り具 体 的に規 定 して い ることに気づく.
具 体 的に一
般 人 に分かりやすい規 定にするこ と は革 命以来の フ ラ ン ス 刑法 典の伝 統で あり,
また今 度の新 刑 法 典の 編 纂 方 針で も あっ だ゜1 が,
見 方に よっ て は,
明 治 維 新の後に官 吏 主 導で作 ら れ た 日本刑法 典 L , と, 革命を経験 して国 民主導で っ く られ た フ ラ ン ス刑 法典とい う両 刑法 典の制 定 過 程の違いが出て い るとも 言え よ う.
第 三 にt 当然 の こと な が ら,
両 国で は刑 罰に違いがある.
日本の恐 喝 罪とフ ラ ンス の強 要 罪 (広 義)とで は ど ち ら が 重い か? フ ラ ン ス で は強要罪・
恐 喝罪いずれ も基本 的に は軽 罪と認 識されてお り,
【表 VI】の刑 罰 欄 を 見て も,
日本 【表 VI】 〔強 要 罪と恐 喝 罪の比 較 〕 日本の恐 喝 罪 (249) 強 要 罪 (312− 1
条) 恐喝 罪 (312− 10
条 ) 手 段 恐 喝 (暴行・
脅 迫 ) 暴 力,
暴力の威 嚇,
強 制 名 誉 等 侵 害 事 実 を 開 示・
帰責す る旨の 脅迫 相手 方 の 行 為 財 物の交付 財 産 上の利 益の取 得 署 名・
約 務 負 担・
権 利 放 棄,
秘 密の 開 示,
現 金・
価 値 物・
何 ら かの財 産の交 付 署 名・
約 務 負 担・
権 利放棄,
秘 密の開 示,
現 金・
価 値 物・
何 ら かの財 産の交 付 行 為 名 恐 喝 強 要(extorsion ) 恐 唱 (chantage ) 刑 罰lO
年以下の懲 役7
年以 ドの拘 禁刑,
100 万F
の罰 金5
年 以 下の拘 禁刑,50
万 F の 罰金 加重事 な し あ り (致 死 傷 等 )→
最高;
無期刑 あり (脅迫 を実行)→7
年,
70 万 F に 未 遂 処 罰 (250 条) 処 罰 (312−
9条 項 ) 処 罰 (312 −
12 条 項 ) 親 族 例 刑の免 除 (251 条 ) 親 告 罪 不 訴 追 (312−9
条 項) 不 訴 追 ( 312−
12条 項 )89
0111
た と え ば,
福田 平 「第249
条恐喝 罪 」「注釈刑 法 (6)』346 頁 (1973 年 10 月 ).
尤もガ ロー
教授は, 強 要 罪の 場合, 通常, 強 要 行為と入手書 面の使 用との 間に時 間が あ り,
その間に被 害 者が 対 応 策を と れ る (権 利が偶 然 性に左 右される) の で,
暴 行 窃盗 よ り軽 く罰すべ き と す る.
GARCON
,
op.
cit.
,
no4.
新 倉 修 「新 刑 法 典 解 説 」 前 注 1)掲 載 書 3頁 もっ と も,
日本の 旧 刑 法 典は,
ボ ワ ソ ナー
ド起 草 とい うこ ともあっ て, フ ラ ン ス刑法 典の影響が強く, 現 行 刑 法典よ りずっ と具 体 的 な 規 定の仕 方 を 採 用 して いた,
一 199一
湘南工科大学紀 要 第
30
巻 第 1 号の恐 喝 罪の方が重い よ うにみ え る
.
しか し,
フ ラ ン ス の 強要罪に は多くの加 重 事 由が定め ら れて おり, こ の表 中の基本型に加 重されて い くこ とにな るの でや は りフ ラン ス の方が重い の で ある (例
.
持凶 器の場 合は30
年の懲 役,
集 団の場 合は20
年〜 無 期懲 役 ).
フ ラ ンス注 釈 刑 法
・
財産 犯 (3>(上野 芳 久)「
一
棗廊
一
一
{
蠧
一
一
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『
… 一
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_
_
一
_
_
_
_
_
_
_
一
一
」本 節に は
,
強要の定義 〔= 基本形 態 〕 (312−
1 条) , 加重形態 (同2
条〜8
条 ),
未 遂 ・親 族例 (同9
条 )の諸 規 定が 置か れて い る.
第 2節 恐 喝と比べ る と , 加 重事 由に関 する規 定が多い.
〔新刑 法 典の 姿 勢 〕旧法と比べ て新刑法 典の 最 大の特徴は
,
旧 法に は400
条 (これにっ いて は 後 述)1
力条し か な かっ た ものを,
その 項 (強要罪)と 項 (恐喝 罪 )を分 離 独 立 させて,
特に 1 章を 立て たこ とに ある.
これほ どの強 化 は,
近 年 増 大 して い る恐 鳴集団 (racket }i2 )っ ま り武 器 を 使用 し たマ フ ィア的組 織犯 罪に対抗す る た めで ある13),
既に 1981 年に 「安 全と自由 法 」で 多少の適用の拡 大が な さ れて いた が
,
新 法は,
強 要 罪の手 段 と し て 「暴行の威 嚇 」 を 増や した り,
両 罪の行 為の 目的に 「秘 密の 開 示 」を加え た りして,
構 成 要 素の面での適用範 囲の拡 大を は か っ た.
ま た,
刑 罰 面で も,
新 法は, 暴 行を手 段と す る強 要 罪にっ い て,
加 重 事 由に関 する規 定 を 多数新 設 し (312 −2
条以下 ),
特に組織 集団によ る場 合を厳 しく罰 する (同 6条 )こ とに し た.
恐矚集団に対 抗し よ う と す る姿勢が良 く現れて い る,
第 312−
1 条 〔強 要〕 強要とは,
暴 力,
暴 力の威 嚇または強 制に よ っ て,
署名・約 務 負 担 ・権 利 放棄,
秘密の開 示,
現金 ・価 値 物 もしくは何 ら かの 財 産の交 付,
を 得る行 為を いう.
強 要は, 7
年の拘 禁刑お よ び100
万フ ラ ン の罰 金で 罰 する.
Art.
312−
1L
’
extorsion est letait
d’
obtenirpar violence
,
menace de violence ou contrainteSOit Une SignatUre , Un engageme 皿
t
OU U皿erenonciation
,
soit la r {」V61 呂tio皿d
,un sec「et,
soit la remise
de
fo
皿ds
,de
valeurs oud
’u皿
bien quelconque
.
L’
extorsion est punie
de
sept ansd’
emprisonne−
ment et
de
l
OOO
OOO
F
d,
amende.
〔
1791
年刑法典の規定〕 実は.
既に フ ラ ン ス最 初の刑 法 典に,
強 要罪の規定が 置 か れて い た (第2
編 「重罪お よ び その処 罰 」,
第2
章 「個 人 に対す る 罪」, 第2
節 「財産に対する重罪および軽罪」同節40
条 14).
た だ し , 次の条 文を見れば す ぐ分かるように,
現 代の 強 要罪と は大 分違っ て い た.
「一一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
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TL−一
一
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一
一
一
一
一一
一
一
一
一
一
一
一7Tt−一一一一『一 一一一皿一一一一t.
一
一
「1
旧 第 40 条 〔強 要 〕 (1791 年 制 定 時 ) 11 力つくまたは暴 力によっ て,
1
債務 ま た は免 除を も た ら す 書 面 ・証 明書に つ い て の 11 署 名をi
強 要し た ことによリ有罪と さ れ た者は
,
1
他人に対 する力つ くま た は暴力を伴う盗罪 とし て
,
[
同罪 に関 する 〔加 重〕 事 由に し た が い
,
1
本節 第
1
条から第5
条に定め る刑 〔=10
年, 14
年,
l
l8年
,
競 合によ り各 4 年の 加 重,
計 24 年以下 〕で:
罰せ ら れ る.
ancientArt.
401
Quiconque
sera convaincud
’avoirextorqu6 ,
旨
I
par foroe ou violence
,
; lla
signatured’
un6crit,
d
,un acte1
。mp 。 .t。nt 。blig
。ti。n 。ud6
。h
。 ,9。.
l
se叫 。 皿i
。。mme v。1
。u。a
f
。 ,ce 。uv 。 ,te・et!
P。 ・vi 。1
・nce e・v。 。s l。 、 p。 。 、。 皿 。 、 et 。n。 。u。 .。i
l
・・p・i
… p・・tee・ ・ …i
・哩P・emi ・ ・s・畑 ・ ・d・…
1・ p・
esent
・・se ・ti・乢 ・uivant 且es ci・ 。 ・n・ta皿 ・e・i
q・
iaUmnt
acc ・mp ・g
・E
・leSdit
・・C・im6
・・
1
12
) 実は,
racket とい うの は 「強要」罪に関する語であるか ら, 「恐喝」集団と訳 すの は正 確で ないが,
こ こでは慣用 語 と して使う
.VERON ,
op,
cit.
,
p,
50.
13
)BLANCHOT
,
Droit
penal sp6cia1,
Les
coursde
droit,
1990−
1991,
p.
23.
恒 光・
前 掲 論 文 (一
)179 頁.
14) 1791 年 刑 法 典の条 文に は通 し番号が付い て い な か っ たの で
,
こ の40
条とい うの は第 2節 内での条文番号で ある
.
正確に は編か ら示 すべ きで ある が,
煩 雑に な るの で, こ こで は単に40
条と記 し た.
な お,
同 法 典の全 訳と して, 内田博文
・
中村 義 孝訳 「フ ラ ンス1791
年 刑 法 典 」 立 命 館 法 学 96 号 176 頁 (1971
年10
月)がある.
本 条 訳 出に あた り
,
同 203 頁の訳を参 考に さ せて い た だい た.
一201 一
湘 南工科大 学 紀 要 第
30
巻 第 1 号 現 代の強要罪との主 な違いを列挙して み る と,
次の よ う に な る.
(1
) 「署 名の強 要 罪 」だ け が規 定さ れ ていた (「証書の強 要 罪」 につ いて は規 定が な か っ た).
(2) 盗 罪の一
種と考え られ,
刑 罰・
加重 事 由にっ い て は盗罪の規 定が準 用さ れ た.
(3} 手 段は,
「力つ く」か 「暴 力 」かの2
種の み規定さ れて い る (「強 制」は ない).
(4) 署 名 さ れる書 面にっ い て の説 明が簡 潔で あ る.
つ まり,
書 面6crits
,
証明 書 acte の2
種の み列 挙さ れ てい る.
ま た, 債務
・
免 除に関 する書 面の み で,
処分にっ い て は触れ られて ない.
とくに (1
)は後の強要 罪とは大き く異なる点で ある.
な ぜ 「署名の強要 罪」だ け が 規 定 さ れて いたのだろ うか? それは,
署 名を強 要 する行 為は盗 罪に も詐 欺 罪に も あ た ら ない の で, 「署 名の 強要」行 為を処罰する た めに,
特 別な 規 定 を 置 く必 要 が あっ た か らであ る.
これに対 して,
「証書の強要」行為の 場 合は, 盗罪が成立 しうる.
な ぜ な ら, 〔署 名は物 とはいえないが 〕証 書は紙で あ りし た がっ て物 (chose )なの で,
盗取行 為の 目的に な り う る し, 暴行に よ っ て入 手し た物を交 付さ せ る行 為は盗 取 行為(soustraction )と言えるからで あ る.
以 上の ような意 味で,1791
年刑法 典 の行き方は そ れ な りに 理論 的だっ た と い え る15,.
し か し,
後 述 する よ う に,
1810
年 刑 法 典は 「署 名の強 要 罪 」だけで な く 「証書の強 要罪 」を も規定し たの で あっ た (次項 参 照 ).
以 上の経 緯か らすると,
署 名の 強 要 罪は,
盗 罪で まか ない きれ ない行為を立法で解決し よ うと し て置か れた条 文で あ り,
した がっ て立 法 者に して み れば,
上 記 (2
)にあ る よ う に,
あくま で も 「盗罪と し て」 罰せ ら れ るものなの である.
(3}(4)の 2点につ い て は
,
いずれも1810 年刑法典で他の文 言が付 加さ れ,
適 用範 囲が拡 大した.
〔1810
年当 時の条文 〕1810
年の ナ ポレオン刑法 典は,
次の よ うな条 文 を 置いた.
「
面
努
変鸞 瓢
i
齲
i
欝
… …
「
ヨ
廳
1
驫
齏
羸
涯
一
「
1
鵬 ・処 分・
鱒 を含む 若 し くは生 じさせ るIP
…f
・rce,
・i
・1
・− U 。・… a・n・・,i
:
すべ てのtm
・
証明書・fft ・
証孀 類1
・つ いての11
・ ・i・nature ・u・la remi ・e・d’
un ・ecrit,
・d
’un ・a…,
i
l
署名id
’
un・tit
・e・
・d’
un ・・pibce
・qu
・1・・・…i
}
ま た は そ れ ら の鮒1
・ ・nt ・nant …pe
・an ・・bli
・ati ・n・・di
・p・siti… ul
i
を 強要し たXta
・
}
d6
・h
・ ・g・・!
1
有期 強 制 労 働の刑で罰 せ ら れ る・
−
1
一
掣
里 些
t
竺 塗型
聖
i
轡
.
塑
門
些
璽
三
三
璽
璽
:」
この当時
,
第400
条に は強 要罪 しか規定さ れ て いな かっ た.
しか しその後, 1832 年に,
差 押 物 横領罪 (新刑法 典 制 定 直前の,
項),
横領 物 隠 匿罪 ・共犯 ( 項 )が,1863
年に は恐 喝 罪 ( 項 ),
担 保 物 横 領 罪 ( 項 )が次々 と追 加された16)た め,
第 400 条は,
制 定 後 60年 も たた ない うちに,
複雑で不統一
な規定に なっ てい っ たのである.
ところで
,
制定時の 旧 第400 条 は,
強 要 罪 し か 定めて いな か っ たものの,1791
年 刑 法典に比べ ると, 次の よ う な点 で変化して いた.
(D
手段として, 力つ く・
暴 力の ほ か に, 強 制 (contrainte )が加え られ た.
15
)GARCON
,
Code
pξnal annot6 ,t.2e
,1956,
Art.
400,
no2
et 3.
16) た とえば
,
担 保に供 し た自 己の所 有 物を債 務 者が自ら横領 し た場合ど うする か.
ロー
マ法は,
自 己所 有物の盗罪 (vol
de
p(mssession }を認め, 債権者に そ うい う債 務 者に対 す る訴 権 を 与 えた.
これ に対し, フ ラン ス古 法で は, 債 権 者は, そうい う債 務 者だけで な く
,
裁 判 所の管理下に置い た自己の所有 物を横 領 し た被 差 押え人に対 して も
,
告 訴して調査を求め るこ と がで きたのだが,
刑 罰 規 定は置かれなかっ た. 1810
年刑 法典は, 従 来あ い ま い だ っ た盗罪
・
詐欺 罪・
背 信罪 を 明 確に定 義 し たが,
上 記の ような事 例はこれ らの犯 罪の ど れに も該 当せ ず
,
結 局,
不 可 罰の ま まで残っ て し ま っ た.
こ の不 都 合 を 解 決 すべ く差 押 物 横 領 罪 等を置い た の が1832
年4
月28
日法だっ た のだが, 立法上の不 備が あっ た.
そこ で,
恐 喝 罪 を創設 し た1863
年5
月 13 日法が.
担保物の毀損
・
横 領につ いても犯 罪化 し,
毀 損の未 遂の処罰 規定を挿入して, その不備 を 補 正 し,
こ こ によ う や く差 押 物・
担 保 物 横 領の犯 罪 化の基 盤が完成し た の である.
以 上にっ き,
GARCON
,
op.
cit.
,
no189
et s.
(2) 署名の 対 象と なる書 面は
,
債 務・
免除の ほかに処 分 (disposition)を生 じ さ せ る もの も含むこ とにな り, 書 面の 種 類につ い て も
,
書面 (6crit)。
証明 書 (aCte)の語に加えて,
証書(titre)・
証拠 書 類 (piece )が列 挙さ れ ること に なっ た.
(
3
) 署 名だ けで な く,
書面 を 交 付させ る行 為 を も罰 するこ とに し た.
この 中で最 も大 き な変 更は (3)で ある
.
立 法者が, 「署名の 強要 罪 」だけで なく 「証 書の強 要 罪」を も規 定 し たの は,
お そ ら く
,
両 者の共 通点に着 目したか らであろ う と さ れて い る.
つ ま り,
署 名,
証 書 ど ち らであろうと,
そ れを強 要する の は
,
権 利の証 明 (preuved’
undroit
),
証書 〔instrumentum
)を 入手した い か らで あっ て,
こ れ は,
そ れ自体が価 値 を有する物(chose )を奪うこ と と は異なるとい う点であ るLη.
し か し,
前 述したとおり, 理論 的に は両者は別 個の もの と 理解さ れ て い た (202
頁 )だ けに,
こ の立 法が,
学 説に も判 例に も混 乱 を招くことに なる の で ある.
(→
205 頁 「署 名の 強 要は盗罪か」)次に につ いて であるが, 「債務
・
処 分・
免 除を含む もしくは生じさせる 」書 面 とは“
権 利 を 発 生・
確認・
消 滅さ せ る書面”
とい う意味「B〕で あ る か ら,
金 銭 的 損 害 を 引 き起こす 書 面だ け を 罰する趣 旨で あ る.
書 面の 種 類の列 挙 も,
具体 的に し かっ 遺漏なきように し た もの である.
っ まり,
金 銭 的 損 害 を引き起 こす書面で あ れ ば,
いか な る種 類の もの で も 含む且9 に と を,
より正 確に表 現 しよう と した修正だ といえ よ う.
た だ し,
こ の時期 まで は 「金 銭に関す る」とい う限 定 がっ い て い たこ とに は留 意 して お か な け れ ば な ら ない.
判例・
学 説も,
本 条に は, 権 利(titre)を 生じ させ ずかっ 財 産に関 係の ない書面は含ま れ ない と し, せ い ぜ い 「有価 証 券 (valeurs mobiliere 〕や おそら く紙 幣(
billets
de
banque
> 2°, aこ まで は適 用される 」(ギ ャ ル ソ ン)と解さ れて いた にす ぎ な かっ た21 }.
最後に(1)の 強制 (contrainte )の追加で あるが
,
これ は,
手 段 を 肉 体 的な暴力や物理的な暴行に限 定し ない とい う趣 旨で立法さ れ た22}もので あ る,
し た が っ て,
こ の 強 制は 「精 神 的 」 強 制 を 意 味 する こ と に な る.
〔安全と自由法による 1981 年 改 正 〕前 段で 見たよ うに
,
旧刑法第 400 条は制定 後, さ ま ざ ま な項が追 加 され条 文 全 体が大 き くなり複 雑化した が,
項の 強 要 罪の規 定 はほとんど 手 をっ け られ ずにきた (刑 罰 部分は多 少変わっ た).
しか し,
強 要 罪 も,
とう と う 1981 年 2 月 2 日法 律 第82 号 (い わ ゆ る安全と自由法)で,
(刑 罰 部 分を含め) 大 き く修正されるこ とになっ た (【表 VII 】 参照 ).
「一
一
一
一一
一
一
一
一
一
一
『
一
一
一
tt
−一
一
一
一
一
一
一
一
一『
rr−一一
一
Tr−一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
「一
一
一
一
一
”
T−L一
一
一
一
’
一
一
一
一一
一
一
一
一
一
一
一
一一
一
一
一
一
T−一
『
一
一
一
m−一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
「
1
旧第400
条 〔強 要,
恐喝,
横 領 等の罪 〕2
&ncient Art.
400旨 く
1
力 つ く,
暴力 ま た は強 制によっ て,
旨Quiconque
aura extorqll6 ou tent6d
’extorquerl
[
署 名
,
約務 負 担,
権 利 放 棄旨
par
force
, violence ou contrainte,
l
i
ま た は現金
・
価 値 物の交 付…
soit une signature , un
e皿gsge 皿 ent
i
l
を強 請 しまた は強 請 し よう と した 者は
,
:
OU une renonciation
,
i
イ旨
l
s・
it
la remisede
f
・ndes ・u valeurs・
旨i
l
年以上10
年以 下の拘 禁およ び5000
フ ラン以 上!
sera puni
d’
u皿ernpriso 皿nementd
’un ana
dix
ansl
l2
一
一
“
tt
・−L一
万一
フ ラ ン以 下の 罰金 で罰せら れ る・
i
・td ’
un … ・・d
・d
・5
…Fa2
・・000F .
!
一
一
±
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
_
_
一
一
噛
_
_
_
_
_
_
_
_
_
_
_
_
_
_
_
_
__
_
_
_
_
一
_
_
_
一
一
_
_
_
_
_
一
_
_
_
_
_
一
一
_
_
_
一
一
一
一
一
一
」
まず1981
年 法は,
制 定 以 来 「重 罪 」 とされて きた本 罪を 「軽罪」化し23) , 基本 形態にっ い て は刑 罰を軽 く した.
そ の意 味で は非 厳罰 化である.
17)GARCON
,
op.
cit.
,
p.
777,
no 4.
18)
VERON
,
op,
cit.
,
4ed.
p.
181.
19) ギ ャ ル ソ ン の言 葉 を借 り れば
,
「法は 過剰な表現 (expressions surabondantes )を 追 加 して,
条 文から,
いかな る証拠 書 類 (
instrument
de
preuve )も漏 れない よ うに し た」ので あ る.
GARCON
,
op.
cit.
p.766
no.
11.
20
) 紙 幣にっ いて は反対 説もあっ た.MERLE
etVITU ,
Trait6 dedroit
criminel,
Droit
p6nal sp6cial,
t.
2,1982,
no 2293
.
後 注 (30)参照.
21
)GARCON
,
op.
¢it.
,
no 12.
CULIE ,
J.
−Cl.
p6nal,
art.
312− 1.
p.
4,
no 5.
本 稿で は 」,
−
Cl.
penal を も参 照 する こ とに し た
.
22
)GARCON
,
op.
cit.
,
no24.
23
)MERLE
et VITU , Qp.
cit.
,
no2292.
;VERON
,
op.
cit.
,46d.
p.
182.
湘 南工科 大 学 紀 要 第
30
巻 第1
号しか し
,
(前 段で見た よ う に,
限 定 的に解 釈さ れて いた) 客 体 を,
広 く定 義し直し,
適 用 範 囲 を 拡 大し た24).
1981 年 法は,
「安全 と自 由 」 法 とい うそ の名の とお り, 当 時人々の 間に生 じて いた 市 民 生活の安全に対 する不安に対し,
市 民 の安 全と自 由 を 確 保 するべ く制定さ れ た25]ので あ る か ら , 当 然な が ら,
強 要 罪の成 立範 囲をか なり広げ た わけで ある.
【表VII
】 〔強 要 罪の 変 遷〕 強 要 罪 (40
条 )1791
年 法 強要 罪 (400
条)1810
年 制定 時 強 要 罪 (400 条 項) 1981 年 改 正 強 要 罪 (312−
1 条) 1992 年制定 手 段 ・力つ く (force
) ・暴 力 (violence )・
力つ く(force)・
暴力 (violence )・
強制(contrainte ) ・力つ く (force
) ・暴 力 (vio 互ence )・
強 制 (contrainte ) ・暴 力(violence )・
暴力の 威嚇 (menace de v.
)・
強 制(contrainte ) 相 手 の 行 為 ( 客 体 )・
債務・
免 除 を も た らす 書面。
証 明 書に つ い て の 署 名 債 務・
処 分・
免 除を含一
む 若 し くは生 じ さ せ る すべ て の書 面 ・証 明 書 ・ 証書・証i
拠 書 類にっ い て の署 名 上記 書 面の交付』
署名(signaturel・
約 務 負担 (engagement 〕・
権 利 放棄 (renonciation ) 現金 (fonds)
・
価値 物 (valeurs )の交 付 署 名・
約 務 負 担・
権利 放 棄 現 金・
価 値物・
何 らかの財産 (bien quelconque )の交 付 秘 密の 開示 (r6v61ationd’
un secret ) 行 為 強要した (avoir extorqu ε) 強 要する (extorquer ) 強 要 する(extorquer ) 強 要し よ う と す る (未 遂 ) 強 要 (extorsion ) 未 遂 ×26〕 ○ (2
条 ) ○ (400
条,2
条 ) ○ (312−9
条,121−
4条 2 号 ) 罪 質・
重罪・
盗 罪の一
種・
重罪・
盗 罪の一
種・
軽 罪・
盗 罪の一
種・
軽 罪・
強要罪 (広 義 )の一
種 刑 罰 強 制労 働 (7
条 )10,14,18
年 等 た だし24 年 以 下 (加 重 事 由 あり) 有 期 強 制労 働 刑 (5
〜20
年 ) (19
条 ) (加重事 由な し)1
年〜10
年以 下の拘 禁 刑 5 千〜20
万 F 以 下の罰 金 (加 重 事 由な し)7
年以下の拘禁 刑100
万F
の罰 金 (注 27) (盗 罪 と同 様な2η 段 階 的 加 重 ) (注 ) 下 線 部は,
その欄の す ぐ左隣の 欄と比 較し た場 合,
新たに加 え ら れ た 語句である こ とを意 味する.
主な改 正 点は次の と お りで あ る.
(
1
)「債 務
・
処 分・
免除 を 含 む も し くは生 じさせる」とい う書 面の限定が削除 さ れた.
改 正 前は,
こ の文言があった た め
,
「署 名」は金 銭 的 損 害 を 引 き起 こす書面に 関す る もの だけに絞 ら れて い た.
こ の 削 除に よ り, 精 神的 損 害 しか引き起こさない書 面に関 する 「署 名 」 を も処 罰 す ることが 可 能になっ た2s}.
(2) 書 面の種 類につ いて の具体 的列 挙がすべ て削 除 さ れ た
。
結 局 , 「署名」の前の修飾 文言は,
(1)も合わ せ てすべ24
}J
.
−CL
p6nal,
op.
cit.
,
p.
4,
no6.
25} 安全 と自由法につ い て は前々稿 87 頁注 14 参照 (なお, 同 注掲 載の文献 を 次の よ うに訂 正 する.
森 下忠 「フ
ラ ン ス の いわ ゆ る治安と自 由法」 ジュ リス ト
740
号 106 頁 (1981 年5
月 ) 参照).
26
)1791
年 刑 法 典 は, 未遂の処罰を謀 殺と毒殺と に限定して い る.
江口三 角 「フ ランス刑 法 小史」 愛 媛 大 学 紀要 (社 会科学 )3巻 1号 44 頁 (1978 年 12 月 ).
27
)VERON
,
op.
cit.
,46d.
p.
182 .
28) VERON,
op.
cit.
,
46d.
p.
181.
フ ラ ンス注 釈 刑 法
。
財 産 犯(3)(上野芳 久 )て削 除さ れ たこ とに な る
.
もっ と も,
「署 名 」にっ い て言えば,
(コ ン ピュー
タ上で の取引の よ う な場 合を別にすれ ば) 現在の ところ署 名は書 面の存 在 を 当 然の前提 と するの で, 書面に関する文 言が なくて も
,
従 来 ど お り,
あら ゆ る書 面にっ い ての署 名 が 対 象 と なる と考え ら れ よ う
.
し か し,
「約務負 担 」・
「権 利 放 棄」 につ いて言え ば(これ ま た書面を前 提にす る こと が多い の で はある が)
,
こ の文 言が削 除さ れた こと に よ り,
書面に よ ら ない場 合で も強要 罪が成 立 しうることに な る (後 述
210
頁 ).
こ こで も適 用範囲 が拡大する わ けで あ る.
(
3
)(「署 名」の ほ か に)「約務 負 担」
・
「権 利 放棄 」が追 加された.
これ らの語 句の中に は,
金 銭にか か わ る法 的 証 書 を 含 む29 ).
つ ま り,
改正 前の (1)(2)の 文 言はすべ て こ こ に含まれ る と も言え る.
た だ し, 上 記の と お り,
書 面の場 合だ け を 意 味 するわ けで はない3°}.
(4)
「現 金 」 「価 値 物」の交付が付け加え ら れ た
.
改正前に は,
書 面の交 付の 中に は有 価 証 券 や 紙 幣 も含まれ る とい う説が あっ た が, 紙幣にっ い て は反 対 説 も 多かっ た
.
項の恐 喝 罪の規 定に は 「現 金 また は価値 物」と明 記され てい たの に
,
項の 強要罪に は その 文言が な か っ た か らで ある.
改 正 法は,
項に も恐 喝 罪 と同じ文 言 を挿入して問 題を解決 し たの で ある31}
.
こ こ で もやは り適用 範 囲が拡 大されたこ とになる が, その背 景に は 「ゆす り屋 (racketeurs )」 を 訴 追で きる ように しよ うとい う意図があっ た3z〕.
〔新 法 と 旧 法の比 較 〕 以 上の よ う な変遷 を重ね た後,
強 要 罪はさ らに新 刑 法 典で修 正された.
新 法・1
日法 (1981 年 改 正篌の条文 )の条文 上の違い は次の と お りで あ る (上 記 【表VII
】 参 照 ).
(1) 手 段に関 する 「力つく,
暴 力,
強 制」 とい う文 言が 「暴 力,
暴 力の威嚇,
強制」へ と変わ っ た.
相 手 方の行為の 中に, 新た に 「秘密の暴露」 とい う文 言が入れ ら れ た.
(3 ) 強 請 する (extorquer )とい う動詞 形で はなく,
強要(extorsion )とい う名詞 形で そ の定義が示されて い る,
(4) 旧法で は,
本 文中に 「強請 し よ う と す る」とい う未遂処 罰 文 言が規 定さ れて い た が,
新 法で は別 個の条 文で規 定されて い るこ と (もっ とも未 遂処 罰とい う点におい て は 同 じ),
(5) 刑 罰は,
従来は全て の 形 態にっ いて 同一
刑が科せ ら れて い た が,
加 重 事 由の重さ に よ り段 階 的に刑 が 重 くな っ て い く構 造に なっ た.
(1),
(2)の意 味・
内 容にっ いて は,
後に,
項 を 改め て説明する.
(3
)は,
強要 罪と は何か (;
犯罪の定義 )を明 確にす る とい う新 刑 法 典の編 纂 上の方 針に沿 うもの で あ る.
(4)も, 複 雑に なっ た条文を整理 し直して 見や す くする とい う新 刑 法 典の編 纂 上の方 針によ る もの で, 別個 独立に未遂の規 定が置か れ た (3199
条 項 ).
(5
)は,
ま さに新 刑 法 典が新 しくし た点で (前 述頁 「新刑法典の姿勢」),
盗罪に な らっ て33}段 階的刑 罰構造 を 作 りあ げ たのであ る (【表VIII
】参照),
〔署 名の強 要は盗 罪 か 〕 1810 年 刑 法 典が 「署 名の強 要 罪」だ けで な く, 「書 面の強 要罪 」を も規定し た たth
に,
理論 的な混 乱が生 じたこ と は 前 述 した が, 強要罪の 条 文 (400
条)が盗罪の節に置か れて い たこ と も あっ て,
旧 刑法 典下で 標記の問 題につ き論 争が 生 じ た.
か な り古いが,
強 要 罪の性 格 を 知 る う えで大 切だと 思 わ れるの で,
こ こで触れてお く.
肯 定 説の根 拠は,
強 要 罪の条 文 (400 条 ) が 盗 罪の節に置 か れてい る,
第401 条で,
「本節 内に特 別に規定さ れ て い な い その他の盗罪 は…一
・
・
」 と規 定 して い るの で,
立 法 者は第400
条を 盗罪と見て い るこ と,
暴 力に よ る 「書 面の 29)J.
−
C1,
pena1,
0p.
cit.
,
p.
4,
no 10.
旧法の 言 葉で いえば 「債 務・
処分・
免除を含む も し くは生 じ させ る」 書 面であ る
.Veron .
op,
ciL,36d.
p.
51.
同 旨の文 献 と して,
MERLE
etVITU ,
op.
cit.
, p.1872
, nQ
2293 .
そういう書面で あ るの が普通 だ と す る
.
30) もっ と も, VOUIN et
RASST ,
Droit
p6nal sp6cial,1988,
p.
132
は, 書 面の みの趣 旨に も読め る,
31} MERLE et VITU
,
op.
cit.
,
p,
1873 , no 2293,
32
) 新倉修
・
上野 芳 久・
岡 上 雅 美 訳 「フ ラ ン ス刑 法 典 第 3部 改 正 法 案に関 す る国 民 議 会 法 務委員会第1
報 告 書 (1991
年12
月12
日)」比 較 法学29
巻1
号 (1995
年7
月 )262
頁.
33) 前 注 27)参 照.
政 府 案に もい くっ かの加 重 事 由が 置 か れて い た が,
実 際に は,
元老院の法 務 委 員 会でt 暴 行 窃盗と の比較が意識され
,
様々 な加 重 事 由 が 追 加 さ れ た.
新倉修
・
上野芳 久・
岡 上雅 美訳 「フ ラ ン ス刑法 典 第 3 部改正法案に関す る 元 老院 法 務 委 員 会 第 1報 告 書 (1991 年 10月 23 日)」 比 較 法 学 28巻 2号 (1995 年 1 月 )141
頁 以 下.
一205 一
湘 南工科 大学 紀 要 第 30 巻 第 1 号 強 要 罪」 は盗罪 と考え ら れて い たこ と
,
で あ る.
肯 定 説に立つ判 例 (1830 年,1831
年,
1840 年 ) も あっ た34).
否 定 説は, 署 名の強 要罪 は盗罪 と は 異 な る別の犯罪であ る と し, そ の理由とし て
,
盗罪の節には,387
条 〔商 品変 造罪 (1981
年2
月2
日法で削 除され た )〕,399
条 〔鍵の偽 造 変 造罪 〕な ど盗 罪でな い もの も規 定さ れて い る か ら,
肯 定 説の理 由 は根 拠になら ない と し, さ らに 暴 力 や 強 制 が ない場 合や署 名の場 合は, 盗取 行 為 (soustraction )がない こ と を 指 摘 する.
その後の判 例 (1847
年,1852
年 ) も否 定 説に立っ 3軌この論 争は
,
少なくとも新 刑 法典の下で は,
強 要 罪は盗罪と は別個の犯 罪と して別個 独立の章に規 定された以上, 生 じ えない と思 わ れる.
〔強 要 罪 (狭 義)の性格一一
盗罪と詐 欺罪との比較 〕強要罪 (狭 義)の性 格を把 握 する た めに, ま ず変遷の経 緯をま と め て み る と
,
次の よ うにな る.
(
1
) 当 初,
署 名は物で はない ので盗罪に はあた ら な い た め,
「署 名の強 要 罪 」 と して特別に規定さ れ,
し か し盗罪として処 罰さ れ た (
1791
年刑法典 ).
「証 書の強 要 罪 」 は, 要 件を備え る限りで 盗罪 として処 理 さ れ た.
(2) し か し,1810
年 刑 法 典 以 来,
400 条の中に,
「署 名の強要 罪」と と も に 「証 書の 強 要 罪 」 も規 定 さ れ,
財 産 犯に関する規 定 (第
2
編 第2
章)の 中の第1
節 「盗 罪Vols」 内に置か れて き た.→
「署 名の 強 要 」は盗 罪か とい う問題 が焦 点になっ た.
(
3
)1981
年の改 正で,
「現 金・
価 値物の交 付 」も犯 罪 化さ れ た.
他 方,
非財 産 的 利 益の 暴 力に よ る取 得につ い て も 処 罰 可 能 と なっ た.
→ 意 思決 定の 自由に対する犯罪の様 相 を 呈 して きた.
(4) 1992 年新刑法 典で は
,
盗 罪と詐 欺 罪の 間に,
財 産 犯 罪の一
つ と して独立の章が置か れ た.
以 上の経 緯をみ る と, 学 説の反対に も
一
理 あ る が,
立法 者は一
貫して 強要 罪を盗罪の特殊な形 と して考え よ う と して き た よ うに も見える.
考え て み れば,
暴 行に よ っ て 交 付さ せ る場 合,
被 害 者 に は交 付 するか否か にっ いて 自由が ない の で あ るか ら,
そ れは暴行をはた らいて盗取する行為と紙一
重で ある.
その意 味で は,
フ ラン ス 刑 法 典は より現 実に則 し た 考 え方を採 用したと も言え よう36).
こ の辺に,
新 刑 法 典で さ え も,
暴 行を手 段と す る狭 義の強 要 罪を,
欺罔を手 段と す る詐 欺と は犯 罪 類 型が異な る とし,
む しろ暴行を伴う窃盗 (日本でい え ば強盗)に近 い もの と 認 識 してい る理 由 が あ るの で は ないか (次 項,
後 掲 【表 VIII】参照).
もっ と も
,
現 実の要 請か ら少 し ずっ 適用 範 囲が拡 大さ れ,
それに つ れて強要 罪の性 格も, 単な る財 産 犯か ら, 財 産の 処 分 等につ い ての被 害 者の意思の 自由を保護する方 向に変 化 してい っ た よ うに思 わ れる.
しかし最後に は
,
や はり財 産犯 罪の一
っ として新 刑 法 典に規 定されることになり,
強要 罪は (詐 欺と ともに)相 手 方 の 交 付行 為を伴 うもの と して理解され, 理論 的に は問 題が なくな っ た と言え よう.
学 説の中にも,
強要 罪 (広義 )を相 手 方の交 付 行 為 を 伴 う犯 罪 と して,
詐 欺罪との共 通点を指 摘す るもの も あっ た37 しか し,
日本 と同じように, 強 要 罪 (広 義 ) 〔;
日本でい う恐喝 罪 〕と詐 欺罪と を一
括して 説明 することは (少 な くとも新 刑 法典の下で は)ない ようで あ る.
他 方で は, 金銭 的な書面 以 外に も強 要 罪 を 認め る考 え方が強く な り, 財 産 犯 的 性格が うすれて い るように も見 え る.
新刑 法 典は
,
第1
節 盗 罪 と第 3節 詐 欺罪との間に第2
節 強要罪 (広 義) を 置い て い る が,
これ は,
各 犯罪の手 段に着 目 して,
盗罪に近い強要 罪 (狭 義 )と詐 欺 罪に近い恐 喝 罪 と を一
つ の グルー
プ と見た結 果だと い うこ と もで きよう.
34
)GARCON
.
op.
cit,
no 35.
判 例は,Crim .30
avr.
1830,
B .
l
l3
;Crim .
70ct.
1831,
B.
247.
GARCON,
op,
cit
・
,
no36.
35
)GARCON
, op.
cit.
, no37.
判 例は,Crim .15
mai1847,
B .104 ,
S .47 .
1.
637
,
D
.
47 .
4.
455
;Crim .18
nov.
1847 ,S.
47.
L637 ;Crim.
19aoat 1890,
B.
228.
GARCON
,
supra no38
et s.
36
) もっ とも,
日本刑 法典は 「交 付さ せ」 るこ とを 条 文が明 記 してい る (第 249 条).
ま た,
日本の よ うに恐 喝罪の手 段に脅 迫を含む と す る と, 脅迫の場 合に は相 手 方の交 付 行 為 は
,
欺 罔に よ る場 合 (詐 欺 )と か な り近い ことに な る
.
し た が っ て,
日本の よ う に被害 者の交 付 行 為の有 無で 行 為 形 態 を 分 類 するこ とにも十 分意味が ある.
37
) ヴェ ロ ン教授 は,
「一
定の 物の交 付 を 得るため に不 正 な手 段を使 用する と い う点で,
強 要 罪 (広義 )は詐 欺 罪 と近い特 徴を もっ 」 と し な が ら
,
詐 欺 罪で は使わ れ ない暴力・
脅迫 とい う手 段が用い ら れ る ところに強要罪の特 徴 が あると して い る.
VERON
,
op.
cit.
,
p.
50.
4 版の教 科 書で も,
強 要 罪 (広 義 ) を 不 法 領 得に近い方 法(modalit6s voisines