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3つの「資質・能力3 つの「資質・能力」を踏まえた4歳児の育ちについて : 自由遊び時間における「製作遊び」場面の事例分析

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3 つの「資質・能力」を踏まえた 4 歳児の育ちについて

-自由遊び時間における「製作遊び」場面の事例分析-

片岡 章彦

(千里金蘭大学・大阪総合保育大学大学院)

本論文は自由遊び時間に「製作遊び」を選択して遊んでいる 4 歳児の育ちを,平成 29 年 3 月 31 日 の幼稚園教育要領の改訂で示された 3 つの「資質・能力」を基にして明らかにしている。4 歳児の「製 作遊び」に着目した点については,4 歳児の発達の特徴を示しながら,3 歳児と 5 歳児の端境期にある 4 歳児の「製作遊び」における育ちを明らかにする意義について述べている。また,子どもの育ちを 読み取る観点として 3 つの「資質・能力」を用いた点については,幼稚園教育要領解説で示されてい る「資質・能力」の位置付けについて整理しながら,その必要性について示している。 3 つの「資質・能力」を子どもの育ちを読み取る観点とするために,各領域の「ねらい及び内容」と 「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」にある具体的な子どもの姿を抜き出して表にまとめ整理し た。事例分析では,事例にある子どもの姿において 3 つの「資質・能力」のうちどのような「資質・ 能力」が育っているのかを表を基にして事例分析し,その事例分析の中でそれぞれの「資質・能力」 が関連し合っていることについても言及している。 キーワード:4 歳児 自由遊び 製作遊び 資質・能力 子どもの育ち

Ⅰ.問題と目的

1.はじめに 平成 29 年 3 月 31 日に幼稚園教育要領の改訂が行なわれた。この改訂においては,中央教育審議会 答申(平成 28 年 12 月 21 日)を踏まえ,幼稚園教育において育みたい「資質・能力」として「知識及 び技能の基礎」「思考力・判断力・表現等の基礎」「学びに向かう力,人間性等」の 3 つと共に,幼稚 園教育と小学校教育との円滑な接続を図ることを目的とし,「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」 として「健康な心と体」「自立心」「協同性」「道徳性・規範意識の芽生え」「社会生活との関わり」「思 考力の芽生え」「自然との関わり・生命尊重」「数量・図形・標識や文字などへの関心・感覚」「言葉に よる伝え合い」「豊かな感性と表現」が明確化された。 改訂が行なわれた幼稚園教育要領解説の第 1 章総説第 2 節の幼稚園教育において育みたい資質・能 力及び「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の 1 で,「幼稚園においては,生きる力の基礎を育む ため,この章の第 1 に示す幼稚園教育の基本を踏まえて,次に揚げる資質・能力を一体的に育むよう 努めるものとする」と記載されており,幼稚園教育において,幼稚園教育の基本を踏まえて「資質・ 能力」が一体的に育まれることが求められていることが分かる。また,「各幼稚園においては,実践に おける幼児の具体的な姿から改めて捉え,教育の充実を図ることが求められている」とあり,教育の 充実を図るためには,具体的な幼児の姿から「資質・能力」を捉える必要があることも示されている。 そして,各領域のねらいと内容について「ねらいは,幼稚園教育において育みたい資質・能力を幼児 の生活する姿から捉えたものであり,内容はねらいを達成するために指導する事項である」とあり, 「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」については,「ねらい及び内容に基づく活動全体を通して資 質・能力が育まれている幼児の幼稚園修了時の具体的な姿であることを踏まえ,指導を行う際に考慮 するものとする」とある。また,「資質・能力」と「領域のねらい及び内容」との関係について「幼児

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43 が生活を通して発達していく姿を踏まえ,幼稚園教育において育みたい資質・能力を幼児の生活する 姿から捉えたものを「ねらい」とし,それを達成するために教師は幼児の発達の実情を踏まえながら 指導し,幼児が身に付けていく事が望まれるものを「内容」としたものである。そして,このような 「ねらい」と「内容」を幼児の発達の側面からまとめて以下の五つの領域を編成している」の記載と 共に五つの領域が示されている。以上のことから,「資質・能力」がねらいとなっており,ねらいを達 成するために幼児が身に付けていくものが内容だということが分かる。このことから,幼児教育にお いて「資質・能力」を基に調査分析を行う必要があるといえる。 先にも述べたが,3 つの「資質・能力」とは,幼稚園教育要領解説に示されている「ねらい及び内 容」に基づき活動全体によって育まれるものとして示されたものである。そして「幼児期の終わりま でに育ってほしい姿」は,幼児期にふさわしい遊びや生活を積み重ねることにより,幼稚園教育にお いて育みたい「資質・能力」が育まれている幼児の具体的な姿であり,特に 5 歳児後半に見られるよ うになる姿である。 このように,幼稚園教育要領解説で示されている「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は,「資 質・能力」が育まれている 5 歳児後半に見られる幼児の具体的な姿であり,5 歳児の育ちを確認する 場合にそのまま当てはめて確認することが可能だといえる。しかし,5 歳児になって幼稚園教育要領 解説で示されているような姿が確認できるためには,5 歳児に至るまでの育ちが大きく関係している はずである。例えば協同性が 5 歳児になって確認できるためには,それまでに人と関わる力である社 会性の育ちや話し合いが行えるための言葉の育ち,物事に対して様々に思考する知的な育ちが不可欠 だと考えられる。 図1 幼児教育において育みたい資質・能力の整理 「文部科学省(2018b)幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の 改善及び必要な方策等について(答申)」より引用

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44 また,私が勤めていた 3 歳児から 5 歳児が生活している幼稚園では,「3 歳児らしくてかわいい」, 「5 歳児らしくて立派」と 3 歳児と 5 歳児とを比較してそれぞれの特徴的な姿が「らしい」という言 葉を使用して称賛されることを幾度となく聞くことがあった。一方で 3 歳児と 5 歳児の間に位置する 4 歳児は特徴的に「らしい」という言葉を使用して称賛されることはほとんど無かった。このことは, 色々な園の保育者の方と話をする機会に何度か話題にしたことがあったが,多くの保育者から同じ意 見を頂いたことから,私が勤めていた園が特に例外的だということではないと考える。3 歳児と 5 歳 児の差が大きいからこそ比較して特徴的な姿が称賛されて語られているのであり,その間に位置する 4 歳児は,あまり語られることがなくても,実際には 3 歳児と 5 歳児の大きな育ちの差をつなぐ育ち の変化を遂げているということであり,4 歳児の育ちを明らかにすることが 4 歳児の保育の重要性を 再認識するためには必要だと考える。 2.4 歳児の発達と製作遊び 4 歳児になると自己主張するだけではなく,他者に対する意識が強く芽生え始める。このことが 4 歳児の大きな社会性の育ちに関係してくる。小西(2007)は,「まね」について,4 歳ごろになると観 察力がつき,ただまねをするだけではなく,上手な人のまねをするなど目的をもつようになる。その ため,ただ見るだけでは十分ではなく,周りを観察したり自分とどこが違うのかを考えたりするよう になる。4 歳ごろになると,ただ決まった行動パターンを繰り返すだけではなく,自分なりに工夫し 試行錯誤を繰り返すようになり「まね」はこうした創意工夫の第一歩なのである。そして,4 歳児特 有の発達について「まね」に着目して,「目的をもって行動するようになる」「他者を観察するなど他 者への意識が高まる」「自分なりに試行錯誤を行うようになる」と述べている。 4 歳児の身体能力的な発達として河原(2011)は,4 歳ごろになると道具を使う手と素材を支える手 という両方の機能分化が進み(片手にはさみを持ちながら,もう片方の手で紙を持って切るなど)手 先が器用になり,ひもを穴に通したり,ひもを結んだり,はさみで切ったりすることなどができるよ うになる。例えば片手にはさみを持ち,もう片方の手で紙を動かしながら切るという「~しながら・・・ する」という動作,それぞれの手がバツの動作をしながら,「はさみで紙を切る」というひとつの目的 のために 2 種類の動作を行う「二次元可逆操作」が可能になると述べている。また,加藤(1984)は, 4 歳児の特徴として,神経系は 4 歳児の時点で 80%が形成され,筋肉の発達によって急に複雑な動き が可能となる。思考力では間接的認識が可能となり,これらの発達によって,はさみなどの手先を使 うような道具を使いこなせるようになり,因果関係の認識など思考力が著しく発達すると述べており, 先に述べた河原(2011)と一致している。 これらのことから,4 歳児になると身体的な発達と知的な発達,社会的な発達が相互に関係し合っ て,4 歳児の育ちを特徴付けていることが分かる。 山本他(2012)は,国立大学附属幼稚園に通う 3 歳児学年 47 名,4 歳児学年 51 名,5 歳児学年 49 名の計 147 名に対する①おりがみを四角に折る②マグネット移し③ひもをとく・結ぶ④ビーズを使用 した「幼児の手指の巧緻性における年齢差の調査」によって,3 歳児から 5 歳児までの手指の巧緻性 発達傾向を明らかとした。この調査によると,全てのテスト項目において,学年が上がるにつれて成 績が上昇し,ほぼすべての項目で学年間の有意差が認められた。特に 3 歳児学年と 4 歳児学年の差が 顕著であったと調査結果について述べている。これは,4 歳児の手指の巧緻性が著しい発達を遂げて いるということであり,道具を使うということが 4 歳児の育ちを特徴付けるものであるといえる。 以上のことから,道具を使いながら道具の使い方を熟達し,身近な環境と主体的に関わり様々な試 行錯誤が繰り返し行われる製作遊びは,4 歳児の著しい成長発達が確認できる遊びだといえる。そこ に調査分析をする意義があると考え,4 歳児の自由遊びでの製作遊びに着目することとした。 本論文で取り上げる自由遊びとは,子どもが自ら遊びを選択して主体的に活動を進める自由遊びの ことを指す。自由遊びのことを自由活動,コーナー遊び,好きな遊びという場合もある。また,一般

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45 に製作遊びを指すものとして,一斉保育で行われるものと自由遊びでの遊びコーナーの一つで,子ど もが選択する遊びとして行われるものがある。この論文で取り上げる製作遊びは,自由遊びでの製作 コーナーで行われる製作遊びで,空き箱や空容器などの素材(廃材)などを子どもが自ら選択し自らの イメージを基に製作を行う遊びを指す。 本研究では,3 つの「資質・能力」を踏まえて,製作遊びにおける 4 歳児の育ちを明らかにするこ とを目的として,自由遊び時間に製作遊びに取り組む子どもの姿を取り上げる。

Ⅱ.調査方法

1.調査協力者及び調査手続き 調査協力者は,関西圏にある私立の認定こども園 A 幼稚園の 4 歳児クラス(年中組)に在籍する 28 名 (男児 15 人,女児 13 人)及び担任教師 1 名である。2017 年 6 月~2018 年 3 月までの期間に週 1 回程 度 21 回のフィールド観察を行った。通常保育時に子どもが順次登園してきてから始まる午前中の自 由遊び時間での製作遊びのコーナーで製作遊びをしている子どもの様子を,片付けが開始されるまで ビデオカメラで動画撮影を行った。また,担任教師に製作遊びを行っている子どもの興味や人間関係 等について,研究を進める上で必要と思われる情報については,保育終了後に聞き取り調査も並行し て行った。 尚,本論では調査期間である 2017 年 6 月~2018 年 3 月に 21 回のフィールド観察を行った中で 6 月 26 日のけんた君(仮名)が行う製作遊びについて事例分析を行ったものである。以後けんた君は 3 月 に至るまで 1 年を通して製作遊びを行っている。そのため 1 年を通した 4 歳児の育ちを捉える上で, けんた君を対象児とする必要がある。6 月 26 日は調査記録資料の中で,けんた君が製作遊びをする姿 が最初に捉えられている日であることから,4 歳児の 1 年間を捉えるための取り掛かりとして 6 月 26 日の事例分析を行うこととした。 2.自由遊びのコーナーの種類 2017 年 6 月 26 日の自由遊びのコーナーは,製作コーナー,ブロックコーナー,ままごとコーナー, カードゲームコーナーの 4 種類が備えられ,中央は意図的に広くスペースが開けられており,ブロッ クや製作素材で製作したものを使用して活動的な遊びなどが展開できるようになっていた。登園して きた子どもから身辺整理を行い,身辺整理ができた子どもは上記の遊びの中から自らの興味に応じて 遊びを選んで活動を始める。 自由遊びのコーナーは,子どもの様子や興味関心,生活の流れに配慮し子どもが登園してくるまで に設定されている。自由遊びが展開される中で,遊びの状況に応じて遊びコーナーの遊びの種類を変 更したりする場合がある。担任保育者は,製作コーナーの保育室全体が見える位置に座り,子どもと 一緒に製作遊びを行うことで,製作遊びのモデルとなったり,保育室全体の子どもの様子を見守った りしている。

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46 3.製作コーナーの備え 製作素材ワゴンが,製作コーナーの机のす ぐ横に設置されている。製作素材ワゴンの台 の上には,セロテープ,はさみ,スズランテー プ,油性マジックが置かれている。台の下に は,引き出し式の大きめの素材かごが4つあ り,それぞれに「ぎゅうにゅうぱっく」「はこ」 「しん・かっぷ」「そのほか」と子どもが読め るようにひらがなで表示がつけられて,製作 素材が分類されて入れられている。 4.分析の観点 観察時に動画撮影した記録を基にして,記 録にある子どもの姿から具体的な子どもの姿 を取り出し, 取り出した子どもの姿についての子どもの育ちを捉える観点として,今回の幼稚園教育 要領の改訂で示された 3 つの「資質・能力」を用いて事例分析を行った。 3 つの「資質・能力」を用いて事例分析を行うに当たり,領域ごとに「ねらい及び内容」に使用され ている言葉から具体的な子どもの姿となるものを抜き出して,抜き出した言葉が 3 つの「資質・能力」 のうちどの要素に該当するのかを整理し,表にしたものが表 1 である。なお,抜き出した言葉が 3 つ の「資質・能力」のどれに該当するのかを整理するにあたり,図1を参考に整理を行った。 表1 領域のねらいと内容にみる 3 つの「資質・能力」 領 域 「知識・技能の基礎」 (遊びや生活の中で,豊かな 体験を通じて,何を感じた り,何に気付いたり,何が分 かったり,何ができるように なるのか) 「思考力・判断力・表現力 等の基礎」 (遊びや生活の中で,気付 いたこと,できるようにな ったことなども使いなが ら,どう考えたり,試した り,工夫したり,表現した りするか) 「学びに向かう力,人間性 等」 (心情,意欲,態度が育つ 中で,いかによりよい生活 を営むか)

健康,安全,体を十分に動かす, 生活に必要な習慣や態度,食べ ることを楽しむ,健康な生活の リズム,生活の仕方を知る,健 康に関心をもつ,危険な場所や 危険な遊び方が分かる 見通しをもって行動する,先 生や友達と触れ合う,活動に 親しみ楽しむ,生活の場を整 える,災害時などの行動の仕 方,安全に気を付けて行動す る 明るく伸び伸びと行動する, 充実感,進んで運動する,安 定感をもって行動する,進ん で戸外で遊ぶ,食べ物への興 味や関心,身の回りを清潔に する,衣服の着脱,食事,排 せつ泄 など の生 活に 必 要な 活動を自分でする,病気の予 防など に必 要な 活動 を 進ん で行う 写真 1 製作素材ワゴン

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47 人 間 関 係 社会生活における望ましい習 慣や態度,よいことや悪いこと があることに気付く,考えなが ら行動する,きまりの大切さ 幼稚園生活を楽しむ,自ら行 動する,身近な人と親しみ関 わる,工夫する,自分の思っ たことを相手に伝える,相手 の思っていることに気付く, 友達と楽しむ,共同の遊具や 用具を大切にする 充実感,協力する,愛情や信 頼感をもつ,喜びや悲しみを 共感, 共に 過ご すこ と を喜 ぶ,自分で考え行動する,自 分でする,やり遂げる,友達 と積極的に関わる,友達の良 さに気づく,共通の目的,楽 しく活動する,思いやり,い ろいろな人に親しむ

身近な環境に親しむ,発見を楽 しむ,自然の美しさや不思議さ などに気付く,季節により自然 や人間の生活に変化のあるこ とに気付く,我が国や地域社会 における様々な文化や伝統に 親しむ,国旗に親しむ, 物の 性質や数量,文字などに対する 感覚 考える,自然などの身近な事 象を取り入れて遊ぶ,身近な ものを大切にする,比べる, 関連付 けた りし なが ら 考え る,試したりして工夫する 様々な 事象 に対 する 興 味関 心をも つ, 生活 に取 り 入れ る,様々な物の性質や仕組み に興味や関心をもつ,自然な どの身 近な 事象 に関 心 をも つ,生命の尊さに気付きいた わったり大切にしたりする, 簡単な 標識 や文 字な ど に関 心をもつ,生活に関係の深い 情報や 施設 など に興 味 や関 心をもつ

日 常 生 活 に 必 要 な 言 葉 , 挨 拶 ,イメージや言葉を豊かに する 自分の 気持 ちを 言葉 で 表現 して楽しむ,人の言葉や話な どをよく聞く,自分の経験し たことや考えたことを話す, 伝え合って喜ぶ,絵本や物語 などに親しむ,言葉や話に興 味や関 心を もつ ,言 葉 で表 現,分 から ない こと を 尋ね る,相 手が 分か るよ う に話 す,言葉を使う,文字で伝え る楽しさ 言葉に対する感覚,先生や友 達と心を通わせる,言葉の楽 しさ美しさに気付く,想像を 楽しむ

音・形・色・手触り・動きなど に気付いたり感じたりする,歌 を歌ったり簡単なリズム楽器 を使う 感じた こと や考 えた こ とを 表現して楽しむ,様々な表現 を楽しむ,イメージを豊かに する,感動したことを伝え合 う,感じたことや考えたこと などを音や動き,かいたりつ くったりして表現する,工夫 する,音楽に親しむ,イメー ジを動 きや 言葉 など で 表現 する,演じて遊ぶ 美しさ など に対 する 豊 かな 感性 表 2 は,「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」から,具体的な子どもの姿を表す言葉を抜き出 し,3 つの「資質・能力」のどれに該当するのかを整理し表にまとめたものである。尚,領域のねらい 及び内容を基に作成した表 1 と同様に図1を参考に整理を行った。

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48 表 2 「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」にみる 3 つの「資質・能力」 資質・能力 「幼児期の終わりまでに育ってほしいの姿」 にみられる資質・能力 「知識・技能の基礎」 (遊びや生活の中で,豊かな体験を通じ て,何を感じたり,何に気付いたり,何が 分かったり,何ができるようになるのか) きまり,情報,身近な事象,心体を十分に働かせる,物 の性質や仕組み,自然に触れて感動,自然の変化を感じ る,数量などに親しむ,標識や文字の役割に気付く,数 量・図形・文字等への関心・感覚 「思考力・判断力・表現力等の基礎」 (遊びや生活の中で,気付いたこと,でき るようになったことなども使いながら, どう考えたり,試したり,工夫したり,表 現したりするか) 見通しをもつ,健康で安全な生活,活動や遊びを生み出 す,自覚,工夫,善悪の判断,必要な情報を取り入れる, 情報を伝え合う,情報の活用,情報の取捨選択,公共の 施設を大切に,予想,新しい考えを生む,言葉による表 現 「学びに向かう力・人間性等」 (心情,意欲,態度が育つ中で,いかによ りよい生活を営むか) 充実感,満足感,達成感,やりたいこと,主体的な関わ り,諦めずにやり遂げる,自信,友達との関わり,思い や考えの共有,協力,相手の立場,自分の気持ちの調整, 友達と折り合いをつける,家族を大切にする,いろいろ な人との関わる,役に立つ喜び,地域に親しむ,社会と のつながりの意識,積極的に関わる,多様な関わり,身 近な事象への関心,自然への愛情や畏敬の念,身近な動 植物に心動かす,楽しむ,いたわる,心を動かす,友達 と表現する 表 3 は表 1「領域のねらいと内容にみる 3 つの「資質・能力」」と表 2「幼児期の終わりまでに 育ってほしい姿」にみる 3 つの「資質・能力」」において抜き出し整理された言葉を,比較しなが らさらに同じ言葉や,類似する言葉を整理し表にまとめ直したものである。 表 3 3 つの「資質・能力」と子どもの姿 資質・能力 子どもの姿 「知識・技能の基礎」 (遊びや生活の中で, 豊かな体験を通じて, 何を感じたり,何に気 付いたり,何が分かっ たり,何ができるよう になるのか) 安全,体を十分に動かす,食べることを楽しむ,健康な生活のリズム,生活の 仕方(習慣や態度等)を知る,健康に関心をもつ,危険な場所や遊び方が分か る,社会生活における望ましい習慣や態度,よいことや悪いことがあること に気付く,考えながら行動する,きまりの大切さ,共同の遊具や用具を大切に する,身近な環境に親しむ,発見を楽しむ,自然の美しさや不思議さなどに気 付く,季節により自然や人間の生活に変化のあることに気付く,我が国や地 域社会における様々な文化や伝統に親しむ,国旗に親しむ,数量・図形・文字 等への関心・感覚,物の性質や数量,文字などに対する感覚,日常生活に必要 な言葉,挨拶,イメージや言葉を豊かにする,美しさなどに対する豊かな感 性,音・形・色・手触り・動きなどに気付いたり感じたりする,歌を歌ったり 簡単なリズム楽器を使う,きまり,情報,身近な事象,心体を十分に働かせ る,物の性質や仕組み,自然に触れて感動,自然の変化,自然の変化を感じ る,数量などに親しむ,標識や文字の役割に気付く

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49 「思考力・判断力・表 現力等の基礎」 (遊びや生活の中で, 気付いたこと,できる よう にな った こと な ども使いながら,どう 考えたり,試したり, 工夫したり,表現した りするか) 見通しをもって行動する,先生や友達と触れ合う,活動に親しみ楽しむ,生活 の場を整える,災害時などの行動の仕方,安全に気を付けて行動する,幼稚園 生活を楽しむ,自ら行動する,身近な人と親しみ関わる,自分の思ったことを 相手に伝える,相手の思っていることに気付く,共同の遊具や用具を大切に する,友達と楽しむ,考える,自然などの身近な事象を取り入れて遊ぶ,身近 なものを大切にする,比べる,関連付けたりしながら考えたり,試したりして 工夫する,自分の気持ちや感じたこと思ったことなどを言葉で表現して楽し む,人の言葉や話などをよく聞く,自分の経験したことや考えたことを話す, 伝え合う喜び,絵本や物語などに親しむ,言葉や話に興味や関心をもつ,分か らないことを尋ねる,相手が分かるように話す,言葉を使う,文字で伝える楽 しさ,様々な表現を楽しむ,イメージを豊かにする,感動したことを伝え合 う,感じたことや考えたことなどを音や動き,かいたりつくったりして表現 する,音楽に親しむ,イメージを動きや言葉などで表現する,演じて遊ぶ,見 通しをもつ,健康で安全な生活,活動や遊びを生み出す,自覚,善悪の判断, 必要な情報を取り入れる,情報を伝え合う,情報の活用,情報の取捨選択,公 共の施設を大切に,予想,新しい考えを生む,言葉による表現 「学びに向かう力・人 間性等」 (心情,意欲,態度が 育つ中で,いかにより よい生活を営むか) 明るく伸び伸びと行動する,充実感,進んで運動する,安定感をもって行動す る,進んで戸外で遊ぶ,食べ物への興味や関心,身の回りを清潔,生活に必要 な活動(衣服の着脱,食事,排せつ泄など)を自分でする,病気の予防などに必 要な活動を進んで行う,協力する,愛情や信頼感をもつ,喜びや悲しみを共 感,共に過ごすことを喜ぶ,自分で考え行動する,自分でする,友達と積極的 に関わる,友達の良さに気づく,共通の目的,楽しく活動する,思いやり,い ろいろな人に親しむ,様々な事象に対する興味関心をもつ,生活に取り入れ る,様々な物の性質や仕組みに興味や関心をもつ,自然などの身近な事象に 関心をもつ,生命の尊さに気付きいたわったり大切にしたりする,簡単な標 識や文字などに関心をもつ,生活に関係の深い情報や施設などに興味や関心 をもつ,言葉に対する感覚,先生や友達と心を通わせる,言葉の楽しさ美しさ に気付く,想像を楽しむ,満足感,達成感,やりたいこと,主体的な関わり, 諦めずにやり遂げる,自信,友達との関わり,思いや考えの共有,相手の立 場,自分の気持ちの調整,友達と折り合いをつける,家族を大切にする,いろ いろな人との関わる,役に立つ喜び,地域への親しみ,社会とのつながりの意 識,積極的に関わる,多様な関わり,身近な事象への関心,自然への愛情や畏 敬の念,身近な動植物に心動かす,楽しむ,心を動かす,友達と表現する 本論文では,表 3「3 つの「資質・能力」と子どもの姿」を使用して,事例にある子どもの姿が 3 つ の「資質・能力」のどれに該当しているのか事例分析を行った。 5.倫理的配慮 調査研究をするにあたって,事前に研究協力園に調査方法及び目的を説明し,調査研究に対する許 可を得た。また,発表するにあたり,施設の管理職と対象クラスの担任保育者に発表の承諾を得てい る。なお,プライバシー保護のため,個人を特定することができる情報等(生年月日等)は公表せず, 論文中に登場する子どもの名前は全て仮名としている。

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Ⅲ.事例分析

今回の事例分析は,幼稚園型認定こども園A幼稚園の 4 歳児クラスの 2017 年 6 月 26 日に,けんた 君が自由遊びの時間に自ら製作遊びを選択して遊んでいる活動事例を,活動の区切りに分けて事例分 析を行った。子ども達は,登園してきて直ぐにおたより帳に出席シールを貼る。そして,制服から体 操服に着替え,荷物をロッカーに片付けてから自ら遊びを選択して遊び始める。事例に登場するけん た君も同じ流れで遊び始める。なお,下線は各事例を登場人物の行動の区切りごとに引いている。 下線部(1)でけんた君は自ら身辺整理を行うことができている。自ら身辺整理ができるのは,生活の 仕方(習慣や態度)を知っており,やるべきことを考えて行動することができるという「知識・技能 の基礎」の育ちがあった上で,生活に必要な行動(衣服の着脱など)を自分ですることができている ことから「学びに向かう力・人間性等」の育ちを読み取ることができる。身辺整理を終えた後にホワ イトボードに貼ってある笹飾りの作り方を示した掲示物を見ているのは,身近な環境に親しみ気付い ているということでありその姿からも「知識・技能の基礎」の育ちを読み取ることができる。 下線部(2)では,遊び友達のまさや君の姿に影響を受けて遊び始める姿を窺うことができる。けんた 君がまさや君の影響を受けているのは,けんた君がまさや君に対して信頼感をもっているからであり 「学びに向かう力・人間性等」の育ちと読み取ることができる。また,赤いティッシュの箱を眺めて いるのは,ティッシュの箱の形を捉えながらティッシュの箱で何ができるのかというイメージを働か せていると考えることができる。ティッシュの箱の形に対する認識という「知識・技能の基礎」の育 ちがある上で,次にどうするのかというイメージを働かせていることから「思考力・判断力・表現力 等の基礎」の育ちを読み取ることができる。 下線部(3)では,使わなくなったティッシュの箱をもとの場所にきちんと戻している。元の場所とい うのが固定されているということもあるのかも知れないが,写真1で示したように製作素材ワゴンに は,文字でどのケースに何が入っているのかが表示されている。そのことから標識や文字の役割に気 付いての行動であり,「知識・技能の基礎」の育ちを読み取ることができる。その後にけんた君がまさ や君の隣に自らが使う素材を運んでいる姿から,けんた君がまさや君に信頼感をもちながら,まさや 君と関わりをもちたいと感じていることが考えられることから「学びに向かう力・人間性等」の育ち を読み取ることができる。 下線部(4)では,あきら君の箱が倒れるのを見てけんた君が笑ってあきら君も笑うという共感して いる姿が見られる。この友達と心を通わせながら面白さを共感できている姿から「学びに向かう力・ 人間性等」の育ちを読み取ることができる。 事例1 けんた君の遊び始め 身辺整理を終えたけんた君は,ホワイトボードに貼ってある笹飾りの作り方の掲示物を眺めた(1) 後,素材入れワゴンで素材を選んでいる遊び友達のまさや君の姿を見て,素材入れワゴンの「はこ」 入れの中から,まさや君が持っているものと同じ赤いティッシュの箱を取り出して眺めた。(2)しか し,赤いティッシュの箱を素材入れに戻し,奥にあるピンクのティッシュの箱を取り出した後にプ リンカップも取り出し,まさや君の隣の製作コーナーの机に運んで置く。(3) 事例 2 友達と一緒に笑う あきら君がティシュの箱を上下に二つ繋げたものを立てようとすると,セロテープで片方しか止め ていなかったため,上側の箱が倒れる。それを見ていたけんた君は声を出して笑い,あきら君も笑 う。(4)

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51 事例 3 製作① けんた君はジュースのプラスチックの容器とサランラップの筒を持ってくる。ティッシュの箱の穴 にプリンカップとラップの芯を差し込み,サランラップの芯を差し込む角度を変えて調整しなが ら,固定できる位置を探る。サランラップの芯が固定できる位置を見付けるとセロテープで固定す る。サランラップの芯が飛び出ているところには牛乳パックを差し込む。(5) お菓子の筒の丸い口 の部分とプリンカップの丸い口の部分を上下色々な合わせ方をしてみる。(6) お菓子の筒にプリン カップがきれいにはまることに気付き,プリンカップをはめてセロテープで固定する。(7) その筒 に牛乳パックを着けてみて形を確かめる。固定する形が決まったのでセロテープを取りに行きセロ テープを貼ろうとしたが,セロテープが丸まり使えなくなると手のひらで丸めて捨てる。(8) 下線部(5)では,サランラップの芯をただ箱の穴に差し込むだけではなく,固定できるところを探し ながら試していると考えることができることから「思考力・判断力・表現力等の基礎」の育ちを読み 取ることができる。 下線部(6)では,お菓子の筒の丸い口とプリンカップの丸い口が同じ丸であるという形に対する気 付き,認識があり「知識・技能の基礎」の育ちを読み取ることができる。その上で,上下を変えたり 色々な組み合わせを考えたり試したりしている姿には「思考力・判断力・表現力等の基礎」の育ちを 読み取ることができる。 下線部(7)では,下線部(6)で色々と試したことによって,形や大きさが合いきれいにはめることが できる組み合わせを発見するに至った。色々な向きを試す姿からは「思考力・判断力・表現力等の基 礎」の育ちを読み取ることができ,その上で形や大きさを合わせるという行動は形に対する感覚であ り「知識・技能の基礎」の育ちを読み取ることができる。 下線部(8)では,下線部(7)でプリンカップを固定した筒に,更に牛乳パックをつけて形を確かめて いる。この形を確かめるという姿は,自分がイメージしていた形と比べて確かめている姿であり,ま た,プリンカップに固定した筒に対して牛乳パックを着けようと試みるのは,試したりして工夫する 姿であり「思考力・判断力・表現力の基礎」の育ちを読み取ることができる。 事例 4 製作② けんた君は,牛乳パックを着けるのをやめて牛乳パックとお菓子の筒が固定できる方法を探す。(9) 牛乳パックの口にお菓子の筒を色々な角度に差し込んでみて,初めは牛乳パックの口に対して斜め にお菓子の筒を置く方法をとっていたが,セロテープを貼ろうとしたときに,牛乳パックがこけて 筒も外れると,牛パックの口に筒を真っ直ぐに差し込む方法をとり固定することができた。(10) 残 っていたサランラップの芯を牛乳パックに対して真横になるように置いてみて,サランラップの芯 が牛乳パックのちょうど中心で左右対称の位置になるところに置いて,セロテープの端をサランラ ップの芯に着けてから,牛乳パック側にセロテープのもう一方の端を着ける。サランラップの芯の 反対側にも同じようにセロテープを着ける。(11) サランラップの芯が牛パックの下に来るようにひ っくり返して,サランラップの芯をこするように牛乳パックを車のように前後に動かして横からサ ランラップの芯を見てからサランラップの芯を触って固定具合を調べる。(12) 下線部(9)では,事例 3 製作①内の下線部(8)において,筒に着けた牛乳パックをセロテープで固定 しようとしたが上手くできず,セロテープを丸めて捨てるところからつながっており,一旦牛乳パッ クをつけるのをやめて,お菓子の筒が牛乳パックに固定できる違う方法を探り始めている。この違う 方法を探っている姿は,試したりして工夫する姿であり,新しい考えを生む姿でもある。これらの姿 には「思考力・判断力・表現力の基礎」の育ちを読み取ることができる。

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52 下線部(10)では,牛乳パックの口に対してお菓子の筒を斜めにセロテープで貼ろうとしたが上手く いかなかった。しかし,けんた君はそれでも諦めることなく,違う方法を考えてセロテープで固定す ることができた。お菓子の筒の差し込む角度を変えて自分のやりたいことを叶えるという,諦めずに やり遂げる姿には「学びに向かう力・人間性等」の育ちを読み取ることができる。 下線部(11)では,牛乳パックの中心にサランラップの芯がくるように位置を定めている。このこと ができるのは形に対する感覚が育っているからであり,ここにも「知識・技能の基礎」の育ちを読み 取ることができる。また,牛乳パックとサランラップの芯を固定するためのセロテープの貼り方であ るが,どのように貼ればよいのかについて形などの物の性質について理解した上で貼っていることか ら「知識・技能の基礎」の育ちを読み取ることができる。 下線部(12)では,自分で作ったものに対して,実際に動かしてみて試して確認をしている。この姿 は自ら考えたことの表現に対しての確認であり「思考力・判断力・表現力等の基礎」の育ちを読み取 ることができる。

Ⅳ.総合考察

1.まとめ 事例分析により 4 歳児の製作遊びにおける 3 つの「資質・能力」の育ちを確認することができた。 また,子どもが活動している姿に対して 3 つの「資質・能力」のうちの一つが対応しているというも のではなく,例えば下線部(1)での事例分析で述べたように,「知識・技能の基礎」の育ちがあった上 で「学びに向かう力・人間性等」の育ちが発揮されているという場合もある。このように 3 つの「資 質・能力」の育ちがそれぞれに関連し合いながら,子どもの育ちとなっていることを確認することも できた。3 つの「資質・能力」が関連し合っていることが確認できたのは,「資質・能力」の「知識・ 技能の基礎」は,感じたり,気付いたり,分かったり,できるようになったりするという育みであり, 「思考力・判断力・表現力等の基礎」は,気付いたり,分かったり,できるようになったことなどを 使い,考えたり,試したり,工夫したり,表現したりする育みであり,「学びに向かう力・人間性等」 は,心情,意欲,態度が育つ中で,より良い生活を営もうとする育みであるということから,それぞ れが単独で育まれるというものではなく,一体的に育まれるものとして位置付けられているからであ る。製作遊びを通した子どもの育ちを 3 つの「資質・能力」を用いて育ちを読み取ったときに,3 つ の「資質・能力」のそれぞれの育ちを読み取ることができたことによって,4 歳児が自由遊び時間に 行う製作遊びが,3 つの「資質・能力」を一体的に育むことができる遊びだということが分かった。

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53 また,表 4「事例分析によって読み取った子どもの姿」では,「知識・技能の基礎」が一番多く読み 取ることができたことが分かる。これは,事例分析を行った 4 歳児の姿が 4 歳児前期である 6 月 26 日 の姿であることから,すでにある「知識・技能」を使って何かをすることよりも,この時期が遊びを 通して気付いたり,何かが分かったり,何かができるようになるという「知識・技能」を多く蓄積す る時期にあるということから「知識・技能の基礎」が多く読み取ることができたと考えられる。 「思考力・判断力・表現力等の基礎」においては,特に「試す」という姿を多く読み取ることがで きたのは,4 歳児の時期は,「目的をもって行動するようになる」(小西,2007)時期であることから, 例えば 3 歳児の時のように一つの箱をそのままで車に例えるということではなく,自らのイメージを もってそれを作るために,複数の箱をどのように着ければイメージ通りになるのかというように,自 分なりの目的を明確にもって試行錯誤を始める時期だからだと考えられる。 「学びに向かう力・人間性等」の育ちが読み取れた数は少なく,遊び始めの時間帯に偏っている。 この結果は,事例分析で取り上げた事例が,友達の様子を見ながら製作遊びを始めた事例だからだと 考えられる。4 歳児は「他者を観察するなど他者への意識が高まる」(小西,2007)時期であり,友達 の様子を意識して見たことが,遊びのきっかけとなった。「学びに向かう力・人間性等」の育ちが読み 取れたのが遊び始めの時間帯に多かったのは,そのことが原因だと考えられる。また,「自分でする」 「諦めずにやり遂げる」という姿からも「学びに向かう力・人間性等」の育ちを読み取ることができ た。このことから,「目的をもち,目的に向かって諦めずに行動するようになる」(小西,2007)という 4 歳児に見られるようになる育ちが確認することができたと考えられる。 今後においては,この時期に獲得した「知識・技能の基礎」を活かして,ただ友達に信頼感をもつ というだけではなく,友達との関係をより深めて,個人の目的達成のためだけではなく,友達と目的 を共有して,協力したり,友達と折り合いを付けたりしながら協同して共有の目的を達成する姿の発 揮に繋がっていくものと思われる。 表 4 事例分析によって読み取った子どもの姿 3 つの「資質・能力」 事例分析によって 「資質・能力」を読み取った子どもの姿 ※()の数字は読み取ることができた数 「資質・能力」 を 読 み 取 る こ とが出来た数 「知識・技能の基礎」 ・考えて行動(1) ・身近な環境に親しみ気付く(1) ・形に対する認識(3) ・標識や文字の役割に気付く(1) ・形に対する気づきと認識(1) ・形などの物の性質についての理解(1) 8 「思考力・判断力・表現力の基礎」 ・イメージを働かせる(1) ・試す(3) ・試し工夫する(2) ・確認(1) 7 「学びに向かう力・人間性等」 ・自分でする(1) ・共感し楽しむ(1) ・信頼感をもつ(2) ・諦めずやり遂げる(1) 5

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54 2.課題 本研究の事例分析で用いた表 3「3 つの「資質・能力」と子どもの姿」は,5 領域の「ねらい及び内 容」と「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」に見られる具体的な子どもの姿を抜き出し,3 つの 「資質・能力」のどれに該当するのかを整理してまとめたものである。今までに 3 つの「資質・能力」 において具体的な子どもの姿を整理したものとしては図 1 があった。しかし,図 1 で整理された具体 的な子どもの姿は,5 領域の「ねらい及び内容」と「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」から主 なものを抜き出し,便宜上分けたものであった。表 3「3 つの「資質・能力」と子どもの姿」は,5 領 域の「ねらい及び内容」と「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の両方に見られる全ての具体的 な子どもの姿を抜き出し整理しまとめたものである。そのような点において表 3「3 つの「資質・能 力」と子どもの姿」は,子どもの育ちを読み取る観点として意義のあるものだと考える。しかし,整 理された具体的な子どもの姿に対して,なぜそのような分類になったのかが不明瞭なものもある。そ のため,今後においては表 3「3 つの「資質・能力」と子どもの姿」をより精査して,明確な意味付け ができるように見直して整理する必要がある。見直して整理することによって,子どもの姿の読み取 りがより明確なものとなり,そのことによって保育現場で活用することができるようになるのではな いかと考える。そして,そのことが保育の質の向上につながり,幼稚園教育要領解説で求められてい る「実践における幼児の具体的な姿から資質・能力を改めて捉え,教育の充実を図る」ということに 繋がると考える。 謝辞 本研究は,2017 年度幼年教育実践学会からの研究助成金を受けて研究を遂行することができ,研究 成果をこの論文の形で発表することが可能となりました。この場をお借りして感謝を申し上げます。 また,本研究を進めるにあたり,日々大変忙しく保育に従事している中,快く研究にご協力を頂い た認定こども園 A 幼稚園の教職員の皆様,子ども達に感謝申し上げます。 引用・参照文献 加藤定夫(1984)幼稚園での自由遊び場面での保育者の役割 保育論叢 19 pp14-27 河原紀子(2011)0 歳~6 歳の子どもの発達と保育の本 学研 pp58-59 小西行郎(2007)子どもの心の発達が分かる本 講談社 pp78-79 無藤隆(2018)育てたい子どもの姿とこれからの保育 ぎょうせい 文部科学省(2018a)幼稚園教育要領解説 文部科学省(2018b)幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善 及び必要な方策等について(答申)(中教審第 197 号).2018 年 9 月 10 日 22:30.最終アクセス 2019 年 2 月 2 日 23:10 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1380731.htm 山本彩子・赤石元子・鳴海多恵子(2012)幼児期の手先の巧緻性における年齢と性差 日本家庭科教 育学会

参照

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