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植物の系統発生と重力反応
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東北大学遺伝生態研究センター
I GEシリーズの発刊にあたって
地球上の環境は,今,かってない大きな問題に当
面しております。世界各地で進行している生態系の
急速な変化のなかには,人間生活に深刻な影響をも
たらす可能性のあるものが,多数含まれています。一方,人間の活動が宇宙空間へと拡がるにつれ,地球
外生態系の構築が,新しい課題として登場しつつあ
ります。生態系の崩壊を防ぎ,より豊かな環境を創
造するための科学的努力が,今日ほど強く求められ
ている時はありません。本研究センターは, DNA分子技術を中心に遺伝
子的段階にまで到達した生物研究の諸成果を生か
し,生態系における生物の生活を一層深く解明し,新
たな人間環境の創造に貢献することを目指しており
ます。いうまでもなく,この課題はきわめて学際的であり,多分野の研究者との相互交流と協力によっ
て,はじめて達成されるものであります。本研究セ ンターでは,ワークショップによる研究者間の討論と意見交換を重視するとともに,その成果をより多
くの方々にご利用いただく出版活動にとり組んでお
り ます。ここに発刊しますIGE(Institute of Genetic Ecologyの略)シリーズも,こうした努力の一環であります。
本シリーズの内容は,多岐にわたる可能性をもっ
ておりますが, 3つのタイプに大きく類別されるだ ろうと考えておノります。すなわち, (i)特定のテー マ,又はトピックについての解明に関するもの(* 印を付します), (ii)特定のテーマ又はトピックに関する最新の文献,実験法の紹介に重点をおくもの
(**印),そして(iii)新しい可能性を求める学際的 交流,対話を試みるもの(***印)であります。 このIGEシリーズが,多方面の方々のお役に少し でも立つことを願って,発刊の辞とします。 1989年3月東北大学遺伝生態研究センター
IGEシリーズの発刊にあたって ワークショップのねらい 菅 洋---・・- 1 重力研究の史的展開 藤伊 正--・--・--- 3 細胞性粘菌の生長に対する 人工重力の影響 河崎 行繁-・----・-- 9 ヒゲカビにおける重力屈性 大瀧 保--・・・-・ 17 藻類,コケ,シダ類の重力反応 片岡 博尚-31 高等植物の重力反応 根の重力反応 鈴木 隆 --- 49 高等植物の重力反応 電気生理の立場 石川 秀夫・---・- 61 高等植物の重力反応 突然変異種の利用 高橋 秀幸-・--- 69 高等植物の重力反応 細胞壁研究の立場 神坂盛一郎・保尊 隆享- 83 ワークショップのまとめに代えて 菅 洋・--91
ワークショップのねらい
菅 洋 植物は地球上の異なった環境下におし)て,それにうまく適応しながら種 の生活を保証し,更にそれぞれの種の繁栄を計っているが,そのためには 地球上において遭遇するあらゆる環境変化のもとで,そのシグナルを受け 止めその情報に基づいて,形態を変え生活環を調節しながらその変化に対 応しなければならない。 地球上に恒常的に存在する環境要因のなかで特に興味深いものの一つに 重力がある。重力は,人類が宇宙空間の開拓の端緒を開くことに成功して から特にその重要性を増している。将来,人類が宇宙基地を建設しそこで 恒常的に活動を行うようになるためには,生物活動と重力との関連につい ての基礎的知見の蓄積が不可欠であろう。 地球上の生物は, 1gの重力の下で進化してきた。したがって,その生活 環の回転にあたっては,重力にたいする反応を多くの場面で巧みに利用し ている。当センターにおいて,共同利用研究課題として「植物の環境適応 の遺伝生態的研究」と「地球外環境における植物の適応性の研究」を取り 上げているが,今年度はこの両方に関連するものとして,植物の重力反応 の問題をとりあげワークショップを開催することとした。 そのため,重力反応研究のこれまでの歴史的展開について整理するとと もに,進化程度の異なる生物(動物は除く)における重力反応研究の現状 を把握し特に,重力刺激の感受,刺激の伝達,反応の生起までの各ステッ プについて,粘菌,ヒゲカビ,藻類,コケ,シダ類,高等植物などにおけ 東北人学遺伝/i:.態研'jt:センターる研究の現状を整理することとした。そのため,上記の各植物について研 究しておられる我が国の第-線の研究者の万に御協力をお願いした。当 ワークショップの意図するところを御理解下され,御参加戴いた研究者の 方々には心からお礼申し上げる次第である。 本ワークショップは1988年12月5-6日の2日間東北大学遺伝生態研 究センターにおいて開催された。本記録は,当日話題提供された各研究者 にお願いして当日の発表の大要をまとめていただいたものである。
重力研究の史的展開
藤 伊 正 土に根をおろし,不適当な環境下から逃げだすことのできない植物は,そ の環境の中で環境要因をそのまま受け入れて生活をしなければならない。 その点で,これらの植物は地球そのものであるといえるかもしれない。 環境要因には, 1)温度変化のように不定期に変化するもの, 2)日長変 動のように定期的に変化するもの, 3) 24時間周期,重力のように変化し ないものがある。植物は不定期な環境変化に対しては劇的な対応をせず,定 期的な環境変化に対しては極めて敏感に応答し,形態分化などを起こし,坐 活形態を変えることが多い。一方重力のように不変の環境要因に対しては その研究が難しく応答機構の解析が遅れがちであることは否め・ない事実で あろう。 しかし,幸いなことに重力には方向性があり,植物はこの方向性に対応 して生活を営むように仕組まれている。土壌に落ちた種子からの幼根は地 中へ,幼茎は空中へと生長する。これは一例であり,一般に器官の生長は 重力に応答して起こる。この見なれた現象は植物がその個体を支え,水分・ 養分を吸収し,光合成を行なうなど植物が生存するためにきわめて重要な 役割を担っている。 植物に対する重力の研究はクリノスタットを用いて重力が植物の姿勢制 御を行なっていることを示した1873年のSachsの研究に始まる。 1881年 C. Darwinが屈地性の反応部位は重力感受の部位と必ずしも一致しないこ 筑波大学生物科学系とを示し,それ以来,多くの研究によって重力感受から屈曲発現に至る過 程の解析がなされてきた。 1979年H.HauptandM.E.Feileibにより,電 力屈曲には①根冠における重力の感受②興奮③生長素の極性分布 ④生長素の移動による刺激伝達⑤生長帯における反応の素過程が含ま れることが論じられるようにな-)た。
Ⅰ.重力の感受に対する研究
1966年, B.E.Julliperらはトウモロコシの板冠を除去すると重力感受性 は完全に失われることを示して重力の感受には根冠が重要な働きを持つこ とを示唆した。 根冠にはコルメラ細胞と呼ばれる細胞群がある。これは根冠の中央部に 位置し,比較的大きく,特徴として数個のデンプン粒を含む沈降性アミロ ブラストを持ち液胞の発達がみられず,小胞体がよく発達した細胞である。 1900年, G.Haberlandtはコルメラ細胞に存在するアミロブラストが重刀 に応答して細胞内を自由に動くことのできる細胞内小器官であることか ら,アミロブラストースタトリス説を提唱した。根冠を除去すると重力感 受性が消失することは前に述べたが,重力感受性の回復はアミロブラスト の形成と対応していることも示されている。この説の妥当性は多くの植物 種で認められているものの,コルメラ細胞のアミロブラストが極端に減少 したシロイヌナズナやトウモロコシの突然変異体も重力屈性を示す例や, アミロブラストは存在するが,その沈降と屈曲の開始とに相関がみられな いという報告もあり,未知の感受体の存在も無視できない現状にある。 双子葉植物の茎,幼葉鞠などでは,先端部を切除しても屈曲が観察され ることから,苗条の重力屈性に関しては,感受部位は生長軸に沿って広い 範囲にわたっていることが示されている。沈降性アミロブラストはデンプ ン鞘細胞に局在し,その重力に対する沈降は早く,アミロブラストの消失 と同時に屈曲の消失がみられることから,現在でもアミロブラストの沈降 が-一応重力感受の最初のステップであると考えられている.重)]研究J)史的娯開 L)
ⅠⅠ.重力刺激の変換に対する研究
アミロブラストの沈降自体が生理的情報への変換に関与するとは考えて おらず,アミロブラストと他の細胞構成器官との相互作用が必要と考える のが一一一般的である。 アミロブラストースタトリス説を提唱したHaberlandtは,アミロブラ ストと直接に相互作用する構造体は細胞膜であり,それによって細胞膜の 透過性が変えられると考えたが, 1976年, B.E.Juniperは電子顕微鏡での 観察からアミロブラストは細胞膜から離れて配置することを確認しこの考 えを否定した。 1980年代に入ってA. Sieversらはマメグンバイナズナを用いてアミロ ブラストと小胞体(ER)の接触による相互作用の重要性を主張した。重力 刺激を与えたとき,上側のコルメラ細胞と下側のそれとでアミロブラスト とERとの物理的接触の不均等が非対象的な膜電位変化を引き起こし,そ れがERからのCa2+の流出の不均等を誘起すると考えた。これが事実と すると上下のコルメラ細胞での屈曲関与物質の輸送に不平等をもたらす可 能性も考えられる。 しかし,他の数種の植物でコルメラ細胞の左右対称的な配置が観察され ない事実,またER自体が分布を変える種もあるなどのことから,現在 sieversらの機構を直ちに他の植物にあてはめることはできない。 1976年, Juniperはコルメラ細胞には他の細胞より原形質連絡が多く存 在し,またdesmotubleがその中を貫通していて,隣り合う細胞のERと接 続しているという報告に基づき,重力刺激を受け,ERによってその原形質 連絡がふさがれてしまうと化学物質の細胞間移動が停止し,これが重力刺 激の伝達に関係すると考えアミロブラストー原形質連絡バルブシステム を提唱した。 また1978年,M.Wilkinsはアミロブラスト膜が帯電しているならば,ア ミロブラストの沈降はコルメラ細胞内上下で電気的極性を生じさせること になり,それが細胞膜の透過性に影響を与える可能性があるという考えを 提出している。また茎では,根のコルメラ細胞とは違い,デンプン翰細胞では中央に大 きな液胞が発達し, ERはほとんど見られないという特徴をもっているこ とから,アミロブラストの沈降はER膜ではなく,細胞膜やトノブラストと 相互作用を持つものと考えられている。 一見,重力の作用はアミロブラストの沈降を引き起こすのみと考えられ るので,その作用の機構は単純そうにみえるが,いまのところ重力刺激の 生理的情報への変換の機構を一般化できるモデルはない。むしろ種々の材 料の結果から共通項を探し,重力刺激の変換機構を系統的に分類する試み が必要のように思われる。
ⅠⅠⅠ.情報の伝達に対する研究
屈曲応答は根冠から数nlm離れた伸長帯で起こることから,根冠から伸 長帯への情報の伝達が必要であることは明らかである。 1981年にJ.Shen-Mi11erらは分裂帯での細胞分裂の不均等を観察し(下側における分裂促 進)たが,コ/レヒナンを処理して分裂能力を下げても屈曲は無処理と変わ らず重力屈曲における分裂の関与は否定される。 1970年代の初め頃からM. WilkinsやP.E. Piletのグループは,根冠の 一部を切除したり,不通性の薄板を幼根の種々の位置にさし込んで,屈曲 に関与する化学物質の性質・輸送特性を明らかにすることを試み, ①根冠 は水溶性の生長抑制物質の供給源であり, ②幼根を水平に保持した場合, その生長抑制物質は根冠(Piletは根冠だけでなくその近傍も関与すると述 べている。)で重力方向(下方)に移動し, ③伸長帯へ求基的に輸送され ることを示した。これらの結果は,屈曲は幼根の伸長帯での生長抑制物質 の偏差分布により,主に伸長帯下側の伸長が抑制された結果であると考え られた。 生長抑制物質が何であるかを決定する研究はColodony-Wentの仮説に 端を発し,植物ホルモンを中心に数多くの研究がなされてきたが(宮崎厚・ 藤伊正;高等植物の重力屈性,植物の化学調節22巻1987年参照),その 結果は実験材料が異なれば異なり,実験条件によっても差があり,植物ホ ルモンの偏差分布が屈曲誘導の要因であるという考えを統一的に重力屈性Lfi')]研究J)史的展開 7 の発現にあてはめることができないことを示している。今後,ホルモン間 の相互作用も含め検討する必要があるかもしれない。 1983年のJ.S.Leeらの研究以来,幼根の重力屈性にカルシウム(Ca)が 重要な働きを持つことが明らかになってきた。 2価金属イオンのキレート 剤として知られるEDTAをトウモロコシ根冠に処理すると屈曲が抑制さ れ,その抑制はついでCaC12を処理すると解除される。また,鉛直に保持 した幼根においてCaC12あるいはEDTAを根端の左側,あるいは右側に 非対称に処理すると,屈曲はCa側,あるいはEDTAをさける側へ起こる ことも示され,根冠におけるCaの勾配が屈曲に重要な相関を持つことを 示している。 近年,宮崎らはトウモロコシを用い,種々の条件下における根冠および 伸長帯での内生Caの定壷を行ない,重力刺激に対応して根冠と伸長帯で Caの偏差分布が起こることを示した。ただ,伸長帯における上下組織のCa 濃度の差0.1 mMは伸長に影響を与えず,ABAとの相互作用が必要である ことを指摘している。この事に関しても今後の研究が必要であろう。 この他にも石川はソラマメの幼根を用いて,重力刺激後30秒以内に伸長 帯における皮層細胞の膜電位が変化することを観察し,重力刺激は最初に 一連の電気的変化, (イオン輸送の変化)に変換・伝達されるとの考えを提 唱している。また,重力刺激後10-20分で伸長帯におけるプロトンの放出 に変化を生ずる事,そして重力屈性を示さないものではそのような変化を 示さないことから,この変化が重力の刺激伝達に重要な役割を持つと考え る研究者もいる。さらに未同定物質が関与するという報告もあり,現在で も混沌とした状態にあるといえる。 茎においてはIAAが刺激伝達物質であるという研究が多いが,今後,こ れら重力刺激に伴う変化と植物ホルモンを始めとする物質の動向との関連 が明らかにされること,そしてその関連がタイミングの面で屈曲を説明で きるかどうかが残された課題であろう。
細胞性粘菌の生長に対する
人工重力の影響
河 崎 行 繋 Ⅰ.はじめに 生物を取り巻く環境因子の中で重力は特別なものである。その理由は生 物が誕生して以来重力の大きさがほとんど変化しなかったため生物は1g 以外の重力を経験していないからである。この場合,生物は1gで最大の能 力を発揮できるように環境適応してきたのかまたは1gではその能力の一一 郡しか発揮できずむしろ1g以外のところで最大能力を発揮できるのかは 興味のあるところである。もし後者が正しかった場合,生物現象の素過程 を調べる場合に1g以外の重力下で研究する事が有利になるはずである。 現在まで実験手法の問題のために重力が生物の生長にどのような影響を及 ぼしているかという点に関しては高等緑色植物以外では余り系統的には調 べられてこなかった。一般に生物のある機構を研究しようとしたらその目 的のために最も有利な材料を選ぶ事が成功の大きな鍵である。しかしこと 重力応答に関しては有利な材料どころかどういう生物が重力に応答するの かすら解っていない。従って,現段階ではなるべく多くの材料を使ってま ず重力応答の有無をそしてその中から重力応答の研究に有利な生物を選ぶ 必要がある。また重力応答機構の共通性,特殊性を知るにも多くの生物を 材料とすべきである。このような理由から我々は通常カビと呼ばれるもの に属する細胞性粘菌の生長に重力がどのような影響を及ぼしているかとい う点について調べた。 三菱化成生命科学研究所(1)子実体期(2)胞子(3)発芽期(4)増殖期 (5)集合初期
-∴-▲_---A -箪∵虚
. ∴ 二二 一一一一 (9)子実体形成期 (8)移動休期 (7)移動体抑期 (6)集合体累月図1細胞性粘菌, Dllc/yotdellllm dLL.bl(.()idellm, a)生活環(1, -・都改変)
細胞性粘菌は休1卜状態では(1)のf・実体期にある。 f・実体は胞f-を収納 している胞子炎とそれを支える茎からなるo この状態においては細胞の 種矧ま胞子細胞と茎細胞の2種類である。湿度が高し状態で機械的刺激 が加わると胞71ノ炎が破れ,胞fや地表にちらぼる(2)。その後,胞子は条 件が良ければ発芽してアメーバ状細胞となりまわりJ)バクテリアを食べ て細胞増殖する(3.4)。餌がまわりに無くなるとアメーバ状細胞は寄り 集まって集合をつくる(6)。集合体の中央が盛り上がりそこが横に倒れて 細長し、移動体となり地表を活発に動きまわる(7.8)。その後,移動体は動 きを止め丸くなり中央部がLに伸びだし再び子実体を形成する(9.1)0 移動体や子実休の大きさは数ミリメートルであり最適条件Fでは生活環 を・順するのに3-4円しかかからない。 (2)から(5)までは単細胞期, (6)から(1)までは多細胞生物期である。また, (4)から(8)までは動物 的色彩が強く(9)から(3)までは植物的色彩の強い時期である。このよ うに細胞惟粘菌は単純な生物でありながら生物の持つ基本的性質の多く の面を見せてくれるという点で種々の研究に適した生物である。 細胞性粘菌は地表に広く生息している微生物で生態学的に重要な生物で ある。細胞性粘菌の一種, Dictyostelium discoideumの生活環を図1に示 す。この生物はこの生活環の間に植物的色彩の強い時期(子実体,胞子)と 動物的色彩の強い時期(アメーバ状細胞,移動体)を持ち,また単細胞期 と多細胞期を合わせ持つ特異な生物である。それでいて細胞の種類は一番 多くても(子実体)二つしか無いという点で研究対象として大変有利な生 物である。
細胞惟粘菌oj/‡ミ長に対する人1二重力の影鞘 11
ⅠⅠ.細胞性粘菌の生長と重力
細胞性粘菌の全生活環を種々の重力下においた場合に最終的に形成され たT一実体の背の高さを図2に示す。図2に示されたようにNC14は重力依 存性を示し, Ogで背が最も低く,正方向でも逆方向でも重力の大きさが増 すに従って背が高くなるという結果が得られた。別の株ATCCでも同じ傾 向がみられた。では細胞性粘菌の生活環のどの部分が重力に感受性がある のであろうか? それを調べた結果を図3,4,5に示す。図3,4によれば 細胞増殖速度は重力依存性を示さないが発芽率が重力依存性を示し,それ が図2とかなり類似している事がわかる。発芽率の重力感受性が図2に示 された子実体の背の高さの重力依存性の主たる原因であるかどうかはまだ 不明である。なぜなら発芽率に差があっても餌の量が同じであれば最終的 に存在するアメーバ状細胞の数は同じになって良いはずであり従って胞子 細胞と茎細胞の数も同じになって良いはずだからである。この事から最終 細胞密度か,一子実体当りの細胞数か,胞子細胞と茎細胞の比か,茎ので 4 3 2 (∈∈こtJBtatJa6eJ○^e香
-3 -2 -1 0 1 2 3 gravlty (g)Lj(I 2 細胞性粘蘭, D. dL'S'・Ol'd',ZJJJZ a)株NC-4 0)子実体uj背u)高さLl)垂ノ]依存
性 鮒脂性粘菌o)胞7・と餌とTitる大腸菌を寒天培地を敷いたシャ-レのLに まきその後,子実体ができるまで所定U)人1二重)]下においたQ (温度 23oC)。子実体C/)高さはシャーレを頻徴鏡o)ステージにおきそのステージ を上f:する事によってはか-'た。垂ノ]の表示で負の値は卜地としての寒 人血を逆さ向きにした事を示すものである。クリノスタットで得られわ 疑似()gで最も背が低くlr.ノj向でも逆方向でも電力の大きさが増すと背 が高くなる事がわかる。 (0gと1gとでJ)値の芹, P<0.05. 1gと3gとでの値U)差, P<()・0()1)
一NuOJSJP9)Sニ03P10qOOueIO JaqLunLJ 20 40 60 80 100 tlne(hr) 図3 NC-4J)発芽率の重力依存性 NC14の胞f・を17oCで14時間培養後,架め/'かた胞子J)数Nsとアメー バ1人酬'dNau)数を計測したo発芽率はNa/(Na十Ns)で定義されるo二 U')場合でも図2におけるU)と同様に鮒以りgで韓も発芽率が低く,垂ノJ u)人ささが増すと発芽率もrlJ,]上した。 (り只と3gとてu)値U)差, P<OO5) 4 3 2 ^3ua!9!lla uO!leu!LuaB -3 -2 -1 0 1 2 3 gravity(g) lX14 NC-40)アメーバ状細胞の増殖 NC-4 a)胞子を23oCで培養し所定の時間後,アズーバ状糾】胞の数を計測 した。対数増殖期での噌頼曲線の勾配がOg,1g.3gで変わらない事かJ' 細胞分矧司期は重jJ依存性が無い事がわかる。一万,増殖曲線の切侶j:重 力が大きくなるほど大きくなっていることが同3に示した発芽率cI)達し、 ki:J丈映したもJ)である。
細胞惟粘L+i]-の勺=.長に対する人工重))の影鞘13 2 0 8 6 22 (∈∈こLJB!aILJ a6t2Ja^E!
∵l+ 程b
-3 -2 -1 0 1 2 3 gravlty (g) [45 NC-4の形態形成期の電力感J受性 NC-4の胞J'-を液体培養し,増殖したアメーバ状細胞を刷父しそれを紙 フィルターにのせ所定U)垂ノ)下で無栄養培養した。そして最終的に形成 された実体の背の高さを計測したo 二の場合でもやはり間2,3に示され たとの同様の傾向が見られたo (()gと1gとでの値の農, P<(),O5.1gと3gとでU)偵U-)息P<()()5) き万なども重力に依存する事も考えられる。この点を調べるために細胞増 殖が終わって形態形成が始まる時期以後を種々の重力下に置いて子実体の 背の高さがどうなるかを調べてみた。図5によると集合体期以後種々の重 力下に細胞性粘菌がおかれた場合,やはり正負を問わず重力の大きさが増 すと背が高くなった。この事は形態形成期でも重力感受性がある事を示し ている。形態形成期の中で更にどの点が重力感受性があるのかについては 現在研究中である。 今回の結果で最も興味深いのは地球本来の環境である1gでよりも3g でのほうが生長が良いようにみえる事である。もしこの現象が真に重力に ょるものであったとしたならば環境を経験する事と環境適応との関係にお いて,さらに系統発生的見地からして今回得られた現象は大変意味のある ものであると考えられる。ⅠⅠⅠ.人工重力の問題点
さて今まで現象について述べてきたが問題点はこれらの現象が重力によ るものと結論づけて良いかという事である。ここで述べられた現象は次の 二つに起因すると思われる。2.重力が環境を変化させその結果生物が影響を受けたもu) 3・重力とは関係の無い因f-が変化,また加わってそU)結果生物が影 響をうけたもの 1, 2は直接的にせよ間接的にせよ重力の影響といえるが3はま-,たく実 験的欠陥といえる。従って3の影響がどの程度あるかをまず考えなければ ならない。3としてはモーターによる磁場の影響,モーター0)回転による機 械的刺激(徴振動など),培養皿の位置での温度,湿度の違いが考えられる。 細胞性粘菌の場合,培養皿をモーターに対していろんな位置においても結 果は変わらなかったので磁場の影響は無視できる。また徴振動に関しては 1gの場合にモーターの回転中心に培養皿を置いても結果は変わらなかっ たし,また微振動が加わる可能性のあるOgと3gにおいて今回得られた 変化の方向が逆であった事などから本質的な影響は無いものと考えら礼 る。培養即)位置での温度,湿度については特に検査はしていない。しか し,装置全体を恒温室に入れてあり,かつ培養皿は各々アルミ箔で包まれ ており更にOg, 1g, 3gの試料は出来るだけ近づけておいてあるのでこの 点に関してもそう大きな影響は無し)と考えている。その上,培養皿の向き を正方向と逆方向に置いても結果は同じであったことからもこれらの点の 影響は無視出来ると考えている。次に問題点の2について考えてみようoこ こで最も考えられる事は寒天培地の中で水分や養分が重力の影響で偏って 存在しその結果発芽率や子実体の背の高さが変わったという事である。し かし,もしそうであればペトリ爪を逆方向においた場合にも発芽率が上 がったり子実体の背の高さが増したという事は無くなるはずである。従っ て,水分や養分の重力による偏った分布が細胞性粘菌の生長の変化の主た る原因という事はないだろう。同様に気層でのガス分布の影響や細胞が下 地に押し付けられたというような影響もあまり無いと思われる。以上問題 点2,3の可能性について述べてきた。しかしこjLらの影響の複合されたち のや,ほんのわずかの環境の変化などが細胞性粘菌の生長に影響を与える 可能性があるしまたまだここで考察しなかったような影響もあるかもしれ ない。従って,今回得られた結果がおもに重力が直接細胞に影響を及ぼし
細胞性粘菌U)生長に対する人t重力J)影響 15 た事によると結論づけるにはまだ実験が必要であろう。 細胞性粘菌の重力感受機構や1gでよりも3gでのほうが細胞性粘菌の 生長に有利であるかのような結果の意味などについていろいろな事が考え られる。しかしそれらについて述べる事は今回得られた結果が生物と重力 の直接の相互作用の結果であるかどうかがもっとはっきりした後にした い。また,重力走性,重力屈性があるかなどについては今後研究していく 予定である。 参考文献 1)前田靖男(198()),現代生物′羊大系11b,発生,分化, 1831192.沼野井春雄監 修, LIJ山書店
ヒゲカビにおける重力屈性
大 瀧 保 Ⅰ.はじめに ヒゲカビ(Phycomyces)の属する接合菌類においては,ヒゲカどの他に, ヶヵビ(MIWr), Pilaim,それにミズタマカビ(Pilobolus)などの胞子嚢 柄が重力刺激を感受し,屈性を示すと言われているが,その中でもヒゲカ どの胞子嚢柄は直径約100FLm,長さ10cm以上にも達する巨大な単細胞 器官であり,細胞レベルで重力屈性を研究する場合,最も適した材料の-っと言える。しかしながら,数分以内に,しかも非常に微弱な光に対して も敏感に応答する,いわゆる光屈性反応に比べ,比較的緩慢な反応である 重力屈性に関しては,これまでほとんど解析は進んでおらず,また研究報 告も比較的数少ない2.4・19㌧ ここではこれら報告された研究結果の中からし、 くつかの問題点を探り,このカどの重力屈性解析の現状と今後の研究方向 を探ってみたいと思う。ⅠⅠ.ヒゲカビ胞子嚢柄の重力反応
ヒゲカどの菌糸は, PDA(ジャガイモ抽出液,ブドウ糖,寒天培地)な どの培地上に接種されると,約3日後に空中に直立した多数の胞子嚢柄 (sporangiophores)を分化する○この胞子嚢柄は,最机上方から見て時 計方向に回転しながら先端部で伸長生長を行なi'ている(第I期,図1)が, やがて長軸方向への伸長生長を停止し,その先端部に球状の胞子真(spor・ 東北大学遺伝生態研究センター.STAGE IVb
Lockwise ro†olion)
rSTAGE IVo
: (counterclockwise
: ro†cI†ion)
STAGE Ⅱ (no g「ow†h) E皿(Spordngium STAGE 1 (l)PicoL elongqI10n) ltx] 1ヒゲカビ(PJlyL10myCeS blakesleeamEs)における胞子盛の発生段階の模,( 眺第Ⅰ期胞子漉柄の生長域は先端部であり,第IV期の胞f,116柄では胞 f一丸巨卜0.5-3mmの部分である. 菌糸は胞f・JIIB'柄形成の際に使用される原形質を貯蔵するための貯蔵塊 (reserve vesicle)を多数分化する。 angium)を分化する(第ⅠⅠ-ⅠⅠⅠ期)。約2時間後,この胞子嚢中に多数の胞 千(spores)が形成されると,生長域がこの胞子嚢直下0.5-3mmの部分 に新しく形成され,胞子嚢柄は再び伸長生長を開始する。この場合,はじ めは上方からみて反時計方向に逆回転しながら(第ⅠVa期),次いで再び回 転を時計方向に変えて,約3mm/hの比較的安定した速度で長時間伸長生 長を続け,長さ10cm以上にも達するようになる(第ⅠVb期)5)0 このように垂直方向に伸長している胞子糞柄を水平方向に横たえると, やがて上方に屈起する,いわゆる負の重力屈性が起こるが,この現象は古 く前世紀から知られていることであった。しかし,定量的な実験が行なわ れるようになったのはPilet17)からで,彼は種々の発生段階の胞子褒柄の 重力に対する反応を時経的に観察した。その結果,約30分∼3時間にわた る潜期(latency)の後,第1期胞子褒柄では約0.45ソmin,第ⅠVb期のもの ではO.07ソminの速度で屈曲が起こることを明らかにした。このように脂 子嚢柄の重力屈性は,刺激を受けてから数分で屈曲を開始する光屈性に比 較して,潜期に要する時間が極端に長い。また第Ⅰ期胞子糞柄の方が第ⅠVb 期のものに比べ,より敏感に反応することは,光屈性の場合とも一致して 興味深い。 Pilet17'はさらに,胞子糞柄の発生段階の違いだけでなく,一般 に長さの短いもの程屈曲速度は大きく,例えば2mm胞子嚢柄では約4時
ヒゲカビにおける重力屈性 19 間で,4mmのものでは約8時間で,そして8mmの長さの胞子嚢柄では約 12時間でほぼ垂直方向に達することを明らかにした。この実験系では, Banbury2'が指摘するように,生長の全く停止する第ⅠⅠ-ⅠⅠⅠ期のものが含 まれていたり,また極端に短い胞子嚢柄を使用しているため,必ずしも同 調的な生長を行なっていないなど,その結果の精密な解釈には限度はある が,この差が細胞の何に起因するのか興味ある問題である。 Dennis。n (1958)19'は学位論文の中で,第ⅠVb期の胞子嚢柄を種々の角 度で傾斜させ,それら各々の場合の重力屈曲の速度を測定した。その結果, 垂直軸に対して900,すなわち水平に横たえた場合には0.3o/min,450傾斜さ せた場合には0.170/min, 200以内の場合には0.080/minの速度で胞子嚢柄 が屈曲することが明らかとなった。この事実は胞子嚢柄細胞が重力刺激の 大きさを識別できる機構を有することを意味する。この場合,胞子嚢柄の 屈曲速度は初めに与えられた刺激の大きさによって決定されるのか,ある いはまた,屈曲途上各時点において異なる大きさの重力刺激を感知しなが ら,各時点において屈曲速度を決定しているのかが問題である。もし後者 であるとすれば,胞子盛柄は垂直に立ち上ってくるに従って,その屈曲速 度は減少してくることになる。これを先のPilet17'の結果について検討す ると,屈曲速度は胞子嚢柄が垂直状態に達するまで大きな変化はなく,義 初に胞子嚢柄の令や重力刺激の大きさが決定されれば,その屈曲速度はほ ぼ一定値に設定されているように考えられ,これは前者の説を支持する。し かしながら,後述するように,.胞子嚢柄に遠心力をかけた場合には,胞子 嚢柄の屈曲速度は胞子葉柄の屈曲度が増加するのに伴って減少し,やがて 飽和角度に達するようになる6'。これは明らかに後者の説を支持する。この 間題は, Piletの使用したような第Ⅰ期の胞子裏柄ではなく長期間安定した 生長速度を示す第ⅠVb期の胞子嚢柄を使用して,より厳密に検討する必要 がある。 宇宙衛星Cosmosを使って宇宙空間でのヒゲカどの行動をみると,培地 上の菌糸の生長や接合反応には全く異常はみられなかったが,菌糸上に生 育した胞子糞柄には,ランダムな方向へ生長しているもの,捻れているも の,湾曲しているもの,さらにはループ状になってるものが多数観察され
た16)。この事実は,地球上ではヒゲカどの胞子嚢柄が重力刺激に応答しなが ら,上方に向って伸長していることを強く示唆する。 このような胞子嚢柄の負の重力屈性は,自然界では胞子の入った胞子嚢 杏,菌糸が生育している動物の糞や腐敗物から持ち上げることによって遠 く引き離し,より汚染の少なし1状態で,より広い範囲に胞子を分散させる 働きを持つ。ヒゲカどの場合,ミズタマカビ(Pilobolus)のように胞子嚢 を噴射することもなく,また胞子は比較的粘質な物質に包まれていること から,自然界では胞子の分散はさほど効果的ではないと思われるが,それ でも胞子嚢柄の負の重力屈性は,光屈性と同様,胞子が動物などによって より遠くへ運搬され,そして分散されるのに役立っているものと思われる。
III.胞子嚢柄の生長に対する遠心力の影響
Dennisonは6・19)は,胞子嚢柄を円坂上の一端に固定し,その円板を回転 させることによって,この胞子嚢柄に対し横方向に一定の遠心力をかけ,そ の間の胞子嚢柄の屈曲反応を観察した。この場合,水平方向,すなわち胞 子嚢柄の生長軸に対し垂直方向にかけた遠心力は4.1gであるが,地球の 重力(1g)が下方に働いているため,結果的には胞子嚢柄には斜下方前方 に合成ベクトルとしての4.22gの力がかかることになる。したがって種々 の異なる遠心力をかけてその影響を比較する場合には,胞子嚢柄の生長軸 に対して正しく垂直方向に合成されたベクトルの力が働くよう,与えられ た遠心力の大きさに応じて,一定の角度をつけて胞子盛柄を円板に固定す る必要があろう。遠心力をかけ始めた最初の6分間は,胞子嚢柄は受身的に遠心方向になびく運動(passive outwor° displacement)を示すが,約
35分後には求心端の方向,すなわち遠心方向に対して負の屈性を開始し, 約135分後には平衡に達する。この場合,与えられた遠心力が大きい程屈 曲速度は大きく,また平衡状態に到達する時間は短い。屈曲速度は平衡状 態に近づくに従って減少するが,これは,さきのDennison19)の,種々の角 度で胞子嚢柄を傾斜させることによって,異なる大きさの重力刺激を与え た実験結果と一致する。したがって,胞子糞柄にかけている遠心力の強さ を途中で変更すると,胞子真柄は変更された新しい遠心力に対応した速度
ヒゲカビにおける電力屈性 21 で屈曲するようになる。この実験で不思議なのは, 1gの遠心力をかけた場 合には,ほとんど影響がないか,あるいはあっても極く弱い影響しか現わ れないことである6)。この場合,下方への重力成分(1g)との合成ベクトル としてJ2gの力が下方450の角度で胞子嚢柄に働くことになる。前述した 如く,単に胞子嚢柄を450の角度で傾斜させた場合でも, 0.17ソminの速度 で負の重力屈性が起こる(Dennison,1958)19)ことから考えると,遠心力の 影響は自然重力によるそれと比べて小さ過ぎるように思われる。
ⅠⅤ.重力屈性に対する光の影響
Pilet17)はヒゲカどの胞子嚢柄では,重力屈曲の速度は光照射下より暗所 でより大きいことを報告した。 Dennison7)の遠心力を用いた実験によれ ば, 0.24-30mW/m2の青色光のFでは屈曲は促進されるが, 60mW/m2以 上の光では屈曲は完全に阻害される。これを光屈性の場合と比較すると,光 屈性の場合には,これらの光強度のもとでは胞子嚢柄はいずれも正常な光 屈性を示し,この両光強度間での反応には差は全くみられない。光屈性で 差が生ずるためには,さらに1,000倍以上の光強度の差がなければならな い。鋭敏な反応である光屈性ではこの二つの光強度の間に反応の差は現わ れないのに,なぜ重力屈性反応には出現するのか,その原因機構は不明で ある。 したがって, 50.8〟W/cm2の光の下では,遠心力をかけても胞子盛柄は 重力屈性を示さないが,光の強度を1.14/`W/cm2に変更すると,胞子盛柄 は屈曲を開始するようになる。この場合,屈曲が開始されるまで約20分の 潜期がみられる。この潜期は明暗刺激生長反応(光強度の増減変化によっ て胞子嚢柄の伸長速度が一切寺的に増加あるいは減少する反応)や光屈性の 際にみられる潜期(4-5分)よりはるかに長い。したがって重力屈性にみ られる光反応は,これら他の光反応とは異なるメカニズムによるものなの か,あるいは他の要因の複合作用による見かけ上の違いな10)か,その解明 にはより詳細な解析が必要である。 このように,もし重力屈性が光の強度によって影響を受けるとすれば,光 屈性の作用スペクトルを作製する場合に大きな問題を提起することになる。各波長の光に対して強度の異なる光を胞子嚢柄の側方から照射し,脂 子嚢柄の屈曲を測定する場合,屈曲した胞子嚢柄には同時に負の重力屈性 のため上方に起き上ろうとする力が働き,結果として胞子嚢柄は最終飽和 角度として正の光屈性と負の重力屈性の平衡角度(photogravitr叩ic-equi-1ibriumangle)10,ll)を示すことになる。もし,この重力屈性が光強度に依存 するとすれば, Dose-Response Curveを作製する場合,胞子嚢柄の示す屈 曲度は単純に光に対する反応として異なる光強度間では比較できないこと になる。さらに,重力反応が光の波長にも依存する場合には,問題はさら に複雑となる。これまでは,どのような光条件の下でも,負の重力屈性は 一定であると言う仮定のもとに光屈性の作用スペクト/レが作られてきた。 したがって重力屈性に対する光の影響はより精密な解析によって早急に解 明しなければならない問題である。
Ⅴ・重力刺激受容体
ヒゲカどの胞子嚢柄における第一次重力刺激受容体(gravireceptor)はまだ同定されていない。 Dennison and Shropshire8)によれば,伸長生長の
停止している第ⅠHⅠⅠ期に胞子嚢柄を水平に横たえると,第ⅠⅤ期になっ て生長が再開された時にほとんど潜期(latency)なく屈曲が開始される。同 様の事実は,第ⅠVb期の胞子嚢を水平に横たえ,下方から光照射すること によって胞子嚢柄が上方にも下方にも屈曲することなく水平方向に伸長す る状態,すなわち光屈性・重力屈性平衡状態を作り,次いで下方からの光 照射を停止させ,重力刺激のみによる屈曲を開始させた場合にも観察され る。この様に,ある期間あらかじめ水平状態に放置された胞子糞柄が,ほ とんど潜期をもたずに重力刺激に対して,反応すると言う事実は,この胞 子嚢柄では重力刺激感受から伝達までにある時間を要し,それはStatolith として作用するような細胞頼粒が細胞底面に沈着するまでに要する時間で あると言う考えを示唆する。 ヒゲカビ胞子糞柄中に存在する細胞頼粒としては,油滴,ミトコンドリ ア,核,グリコーゲン額粒,蛋白質性結晶体などが考えられ,さらには原 形質や液胞そのものも重力刺激を感受して細胞内での配置を替え,
ヒケカヒにJiける重力屈性 23 statolith的に働くことも可能である。Zalokar20)は,胞子嚢柄に100g程度 の遠心力をかけても,目立った額粒の偏在を引き起こすことが出来なかっ たことから,Statolithとして働くためには,頼粒は0.5JLm以上U)大きが必 要であろうとした。 Dennisonは,ヒゲカビに関する総説4)の中で,細胞内 の額粒の直径を0.5〟mとし,そしてこれらの頼粒が指数的(exponential-ly)な濃度勾配で,細胞底面に沈着するという仮定に立って計算を行なった 結果,額粒は平均145秒かかって8/Jm移動し,平衡に達するとした。この 時間は20-30分の潜期に比べて非常に短いことから,彼はStatolithとし て働くような細胞頼粒の存在には否定的であった。しかしながら,彼の考 えには次の二点で問題がある様に思われる。第一の問題は全ての頼粒を0. 5〟mとして計算した点である。例えば蛋白質性の結晶体は0・5/〃n以上に 達するもが多く,大きいものでは5/Jm以上にも達する正八面体の結晶で ある。したがって,微粒子に対して考えられた指数関数的な濃度勾配を作 らないで直接細胞底面に沈着できる大きさであると考えられる(図2)o も う一一一つの問題点は,得られた145秒という時間が重力刺激を受けてから反 応を開始するまでに要する潜期に比べ極端に短いため,これら細胞頼粒は statolithとして考えにくいとした点である。 Statolithがたとえ秒か分単 位の非常に短い時間内に重力刺激を感受し,それを次の刺激伝達系に伝え たとしても,実際の重力屈性が20-30分後に出現することは十分にあり得 るように思われる。重力刺激伝達系は,刺激受容から反応まで数分しかか からない光刺激伝達系とは異なる分岐経路をたどるのかもしれない。 胞子嚢柄では多条(multistriate streaming)あるいは同心逆行的な (sleeve type streaming)原形質流動がみられ,微小な頼粒はその原形質の 糸に沿って胞子嚢柄を長鮒方向に移動する。生長域付近では胞子嚢柄の回 転運動に伴って,この原形質の流れはゆるやかな螺施を画く。Banbury2)に よれば,たとえ胞子嚢柄を水平に横たえたとしても,微小な細胞頼粒はこ の原形質の流れからはずれて細胞の底面に沈着することは困難であり,ま た胞子嚢柄を水平にすることによる原形質流動の乱れも観察されない。し かし生長域自体では原形質流動はもはや消失し,多くの原形質が蓄積した 状態になってしゝるため, Banburyが言うように,原形質流動が細胞群粒の
∩ ∩ 0 5 0 相川川川相川川 0 「▲J aUOZ Llt享0」9 1 cenTrQL vQCuOLe 図2 ヒゲカどの第IV期胞7-盤柄の/1;ji域模式図。胞[-3!畠のL自:卜には細形質が 満ちているが,卜jJ'には大きな液胞が発達し,細形質は細胞噂に沿って存 ILIする様になる。同心逆行的(sleevetype)あるいは多条的(multistriate) な原形質流動がみられるo 細胞質には多数核が存在するo 沈着を阻止しているとは必ずしも言えないと思われる。このように観てく ると,蛋白質性の結晶体がその大きさからして, Statolithとしての機能を 十分に有している様にも考えられるが,この場合にもいくつかの問題点は 残る。その一つは,この結晶体が水平に置かれた胞子嚢柄の底面に沈着し ているのを実際に観察した報告がないことであり,もう一つは,この結晶 体が重力によって下方に沈着するとすれば,正常に菌糸上に直立している 胞子嚢柄では,結晶体はなぜ単細胞の胞子嚢柄中を通過して,その基部に 全て沈着してしまわないのかと言う疑問である。 もし,ヒゲカどの胞子褒柄にStatolith的な頼粒が存在しないと仮定す ると,横たえられた胞子嚢柄にかかる張力,すなわち胞子嚢柄自身そして 胞子嚢の自重による細胞上面での大きな張力,そして逆に下面にかかる圧 力が刺激となると言う考えがある(Audus,1961)2)。この考えを支持する実
ヒゲカビにIjlける垂ノJ屈性 25 験としては,直立している第IVb期の胞子嚢柄の胞子嚢の一端に,油を薄 く塗ったガラス棒を付着させ,横方向に引張ることによって胞子嚢柄を数 分間人為的に約20L〕傾けた後,このガラス棒を胞子嚢から引き離すと,そU) 胞子衰柄は以後,一時的ではあるが反対方向に屈曲すると言うDennison の報告6)がある。一万,この張力説を否定する報告も多い。例えば,胞子嚢 柄の自重がかからないよう,寒天ブロックを水平にした胞子衰柄の下に挿 入しても負の重力屈性は正常に起こり2).また胞子嚢柄を水中2)や胞f・成 柄と同じ比重を持つperfluorotributylamine (密度1.87×103 kg/m3)6)中 に浸すことによって,胞子嚢柄の自重を軽減あるいはほとんど消失させて ら,水平に置かれた胞子嚢柄は正常な重力屈性を示す。また胞子嚢柄の先 端部を切除すると,やがて胞子嚢柄は切口に細胞壁を再生し,新しい胞子 嚢柄が生じてくるが,この場合,処理した胞子嚢柄を寒天ブロック上に横 たえると,再生した胞子嚢柄はごく初期の原基の段階から土方に向って生 育してくる13)。再生体原基の自重は無視できるものと考えられ,したがっ て,これは水平に置れた胞子嚢柄によって受容された重力刺激が再生体の 分化と生長の方向を規制し,分化した再生体は負の重力屈性を示しながら 生長したものと思われる。 Dennison6)は, Statolith的な機能を液胞に求め,負の重力屈性が起こる のは水平に置かれた胞子嚢柄ではまず液胞が細胞の上方に浮上し,その結 果,原形質が細胞の下面に蓄積するためであると考えた。この液胞や原形 質の偏在と細胞の偏差生長との関係は,古くSchley18)などによって提案さ れたものであったが,当時の報告には屈曲方向と原形質偏在の方向性に関 して混乱もみられ,明確なものではなかった。このような液胞の偏在は,そ の後原形質の他端への25%増の蓄積として観察されたと∵言う報告8)もあ るが,これは以前Banbury2)がどうしても観察できない現象であった。い ずれにせよ,今後はより近代的な手法を導入しながら,より精密な観察を 行ない,これまでの報告を再検討する必要があるように思われる。
ⅤⅠ.重力屈性の遺伝学的解析
ヒゲカビではこれまで胞子を突然変異誘発剤で処理することによって,多数の光屈性異常変異株(遺伝子型mad)を単離されている4・12)。これらの 変異株はいずれも弱光には全く反応しないか,あるいは反応しにくい変異 株で,そのほとんどは野生株の反応できる最低光強度の約106倍の光でよ うやく光屈性を開始でき争ものである1・3,14・15-。このような光屈性異常変異 株につしゝて,その他の光反応や屈曲反応を調べてみると,これら光屈性変 異株は光受容体側に変異の生じたと考えられるものと,細胞の偏差生長自 身に変異の生じたと思われるものに大別でき3,ことが明らかとなった3)0 後者に属する変異株では従って重力屈性も異常であり,相補性テスト1,14・15) や交雑実験9)などの遺伝学的解析から,これら変異にはmadDからmad Gまでの4つの遺伝子が関与していることが明らかとなった。 電力屈性異常変異株は,その後ヒゲカビで約13株得られているが(衣 1),これら変異株の解析はまだほとんど進展していない。その中で興味あ るのは,カロチノイドの 一種である7イトエンを多崖に蓄積している白色 変異株C5.樵(遺伝子型, carBIOgeo110(-))の重力反応である。この 変異株は野生株に比べ,重力刺激に対する反応が速く,また屈曲速度も大 きいため,結果的には急角度をもって垂直状態に達することになる。この ような変異が細胞のどのような機構に基づくのか,細胞内構造やその他の 刺激に対する屈曲反応などを詳細に調べることによって多くの情報が得ら れることが期待される。 このように重力屈性欠損あるいは過乗変異株を多数単離し,それら変異 株のその他の表現型,すなわち種々の外的刺激に対する反応を調べ,さら に遺伝学的な解析を加えることによって,さきに光屈性異常変異株でみら れたように,重力刺激受容側に変異の起こったもの,細胞の偏差生長の機 構に変異が起こって屈曲反応自体が異常なもの,そして重力刺激伝達機構 に欠損の起こったものなどに分類することが可能であるように思われる。 このような分類をまず行なうことによって,重力屈性異常と言う,一一見同 じ表現型を有する変異株であっても,その原因は各々異なり,したがって, 各変異株に対する解析方法も明確になってくるものと思われる。今後はよ り多くの突然変異誘発剤を使用してより多くの変異株を単離し,より精密 な解析を行なっていかなければならない。
ヒゲカビにおける重力屈性 27
表1, Gravdtropic Mutants in PJlyCOm_VCeS blakesleeam(S
StrainGenotype 微&没問 Phenotype
C5(.arB10ge0-10(-) 泌%$テ SSR蒟Dr albino,phytoeneaccumula- tion.
C202(.arB10ge0-2(-) C210geo-(-) R蒟Dr 3Rト薀r alsofastgraVitropism GrowthrPte-2.5mm/hr. graVitroplSm:latency-50-60 m享ns,Bendingrate-0.3deg/ mュn Stiff,Non-.graVitropism,May belonglatency,∼200mins.
C213(.arA5ge0-3(-) "ト薀r Stiff.albino C215geo-(-) "ト薀r Stiff.Yellow,NongraVitropic inlengthsO.5-3cm
C216gL,0-(-) "蒟Dr Sti臥Yellow,N()ngravitropic
C217geo-(-) "ト薀r Stiff,Yellow,Nongeotr()plc C218carB10ge0-4(-) C219ge0-mad-(-) Rト薀r 3Rト薀r albino,latency-60min, Growthrate=1.8mm/hr. Bendingrate-0.1-0.3deg/ minnormalphototroplSm Stiff,Yellow,NongraVi- tropic,PhototroplSmathigh
C221carBIOge0-5(-) C222carB10ge0-6(-) C227ca7,A5ge0-7(-) R蒟Dr 3R蒟Dr 3$薀r intensity(Ⅰ-0) Growthrate=3mm/hr. graVitroplSm:latency-60 min,Bending.ratei=0.2deg/ _hr.PhototroplSmnOrmal Growthrpte-2.2mm/hr. gravitroplSm:latency-30 min,Bendingrate-0.4deg/ min.Phototropismnormal. albino,"stiff",bending
rate-<0.1deg/min
VII.おわりに 以上,ヒゲカどの重力屈性について,いくつかの異なる面から概観して きた。ヒゲカどの重力屈性の解析は,上述した様にまだ不十分であり,報 告された結果の中にも矛盾や疑問の残るものも存在する。しかし,このカ ビは,巨大な単細胞性の胞子嚢柄を分化し,それが比較的敏感に重力刺激 を感受し,また種々の突然変異株が比較的容易に単離できることから,こ のカビは重力屈性の研究を遂行していく上で非常に好適な材料の一つと言 えよう。近代的な細胞生物学的な手法や遺伝学的手法を用いて,これまで のデータを再検討しながら,より精密な解析を行なっていけば,さらに多 くの興味ある事実が明らかになるものと期待される。 参考文献
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藻類,コケ,シダ類の重力反応
片 岡 博 尚 現象の多様性の上にできるだけ大きく視野を広げることは常に,さらに より深く掘り下げるための最も重要な手段である。 -ペッファーー7) Ⅰ.はじめに Pfefferはすでに1904年に発行された教科書36)のかなでハネモ(Bryop-sis muscosa)やイワヅタ(Caulerz)aprollfera)の仮根は正の,フロンドは 負の明瞭な重力屈性を示すこと,フラスモ(NitelkZ)やシャジクモ(Chard) のシュートは同様に負の重力屈性を示す報告があることを記載している。 しかし,一般的には陸上植物に比べて水中植物では重力はそれほど重要な 環境要因ではないように考えられてきた。 Banbury(1959)による下等植物 の重力屈性についての優れた総説1)があるが, 20年後発行された新版のEncyclopedia of Plant Physiologyではそのような章は無くなっている。
陸上では重力に打ち勝って直立成長をするために強い細胞壁とそれによっ て作られる膨圧やさらにはリグニン化した二次細胞壁からなる材組織が必 要であるが,水中では浮力のためにこのような支持構造峠要らない。しか し,このことは藻類の体制め単純さの説明にはなっても,藻類では重力反 応が未発達であると主張する根拠にはならないし,第-それが事実かどう かさえ疑わしい。自重による圧縮力や張力,あるいは歪は陸上植物の重力 受容の仕組みの一つの可能性としては考えられるが,それを支持する十分 な証拠は得られていないし,細胞内液と細胞器官の密度差は陸上でも水中 東北大学遺伝生態研究センター
でも同じなので,平衡石の沈降による重力受容を考えると陸上,水中で差 はないはずである。 従ってここでは藻類,コケおよびシダ類での重力反応についての数少な い優れた研究の歴史をたどり,現在どこまで明らかになったか,そして,今 何が問題となっているかについて紹介したい。藻類など体制の単純な生物 は厳密な生理実験には高等植物の多細胞組織よりはるかに扱い易い。とく に藻類は原核生物の藍藻(Cyanophyta)から輪藻(Charophyta)まで極め て多様性に富んでいるので重力反応の進化を探るにも,系統を横切って存 在する共通性を研究するにも好都合である。そうした研究は種子植物の重 力反応において見過ごされてきた観点を補い,重力反応全体のさらに深い 理解につながるであろう。
ⅠⅠ.議論の制限
重力とーほとりも直さず重力加速度のことであり,地上では全ての物体に ほぼ地球の中心に向かう約9.8ms 2の大きさの加速度が働いている。光と 違って重力加速度を地上でゼロに保つことはできない。従って地上の植物 は絶えることの無い重力刺激下で生活環をまわし,進化してきたことにな る。そして,方向性のある環境要因である重力に対する定位反応や重力に よる形態形成反応を獲得してきたのであろう。本稿では比較的よく研究さ れている定位反応に議論を限ることにする。すなわち,自由に泳ぐことの できる単細胞藻類や原生動物の重力走性(Gravitaxis),定着生活を送る藻 類から蘇苔類,シダ類の重力屈性(Gravitropism)と重力による背腹性 (Dorsiventrality)の誘導やその変更を扱う。ⅠⅠⅠ.重力反応条論とそれらの研究の到達状況
1.重力走性(Gravitaxis) a.定義 能動的に運動することにより,短期的あるいは長期的に重力に依存した 分布,定位(Orientation)を示す反応17'。運動方向が能動的に(actively) 決定されるか否かは問題ではない。従って,コナミドリムシ溝類,コケ,シダ類の重力反TJE 33
(chlamidomonas, Jensen 1893)やオオヒゲマワリ(Volt,OX, Mast 1907)
にように,受動的に定位づけられ,鞭毛運動によって能動的に運動するも のは重力走性に含まれる22・29)。一方,バクテリア,藍藻などでgasvacuole を持ち,水面からある位置に分布するものがあるが,それらはvacuoleの 形成や維持にはエネルギーを使うが定位や分布の維持は受動的(passive) なので走性とはいわない。この点で,動物のようにはっきりした感覚器官 を持ち,定位も運動も能動的なものとの反応様式上の違いを感じるが,ま だ明確な理論的扱いが成されていないようである。後述の反応の仕組みの 項を参照されたし。 b.分布 原核生物,原生動物,藻類,菌類,後生動物,動植物の配偶子などがPfeffer (1904)の教科書36'(p.791)に挙げられている。 Euglena uiridisや chkZmydomonas Puluisculusは負,つまり上に向かう重力走性を示し, Haematococcus lacustrisやUlotrix tenuisの済走子も負重力走性を示す。
前世紀末までにSpirillumは正,負両方の垂力走性を, Chromulina
u'oro-ninianaは15120oCでは正重力走性を示すが5-7oCでは負に反応が変わる といったことが知られていた。しかし,重力の効果は光などの他の方向性 要因や化学物質の濃度勾配により(特に02やC02等の気体)簡単にマスク されてしまうのでよほど厳密なコントロール実験が必要であり17),また同 一個体でもMassart28)が述べているように物理的,生理的条件により反対 方向の定位が見られるので,古い記載を再検討する必要がある。種に典型 的な反応としてゾウリムシ(Paramecium)やコナミドリムシ (chlamydomonas‖ま負重力走性を, Blepharismaやと卜の精虫は正重力走 性を示すことが確かめられている3'。最近では重力走性の研究は専らゾウ リムシに限られている。 C.エネルギー論 まず,能動的な運動が重力走性には必須であり,それはATPを使う鞭毛 や繊毛の運動(axonemal
movement)やアメーバ運動(amoeboidmove-ment)によってなされる。アメーバ運動が重力走性に含まれることは,ガ ラス管壁の内側を湿った砂でコートしてもミドリムシ(Euglena)が負重力 走性を示すというSchwarz (1884)の実験44'から明らかである。 d.反応機構 刺激受容(Perecption)-刺激変換(Transduction)-反応(Effect。r action)という一般的な理論的図式からみなと重力走性で扱えるのは effectorの段階だけである。光走性,化学走性などでは少なくとも理論的な 受容体を想定できるが,重力走性における重力受容については全く不明で ある。現在意見が一致しているのは細胞の上下間にかかる水圧の差を受容 しているという圧力差説(Jensen,1893)は間違いであるということだけで ある3・17)。 一般的に光定性,化学走性は速く,重力走性は遅い。前者では刺激源に 向かって直線的に泳ぐのに対し,後者では定位ベクトルが小さく長い時間 をかけて分布が達成される。重力定位が達成されるための力学や装置と,そ れがどのように機能して定位が起こるかを混同してはならない3'。しかし, 同一種でも反応の異なる相(定位の達成,定位の維持,分布の維持)で機 構は違うかも知れないし,運動中に起こる様々の変化,例えば,泳動逆転 のタイミング,頻度,スタイル,あるいは泳動速度の変化などが本当に重 力走性に特異的な要素なのかどうかさえまだほとんで明らかになっていな い。現在最もよく研究されているゾウリムシでの重力定位の達成機構を見 ても細胞内の密度の非対称による全く受動的なものから平衡石の沈降のよ うな生理的過程を想定するものまで大きく4つの機構が提唱されてい る3)。すなわち, 1) "密度差説" (静的機構説) 2) "形態一流体力学仮説" 3) "推進力一重力説" 4) "平衡石説"(生理的機構説) Verworn 188953) Roberts 197041)
Winet and Jahn 197455)
Lyon 190527)
である。これらの詳しい説明はワークショップ以後に発表された和文総 説31'に成されているのでここでは省く。垂力走性の能動的生理的機構を支
藻類,コケ,シダ類の重力反応 35 持する観察事実としてBeanは以下のことを挙げている3'。 1.負の重力走性が正常の速度で起こるためには前進移動が必要。 2.受動的沈降中,運動能力の無い細胞は十分な縦方向定位を示さな い。 3.上方移動中のゾウリムシは定位を均す回避反応をその他の方向を 向いているものより低頻度で行う。 4.過分極を起こす刺激は回避反応の頻度を減らし,あるいは泳動速 度を増し,負重力走性を加速する。 5.脱分極を起こす刺激は,回避反応の頻度を増し,泳動速度を減ら し,負垂力走性を阻害する。 6.ゾウリムシのPawn突然変異株(前進しかできない)は,迅速に, 均質に重力走性を遂行する。 7.逆行する,あるいは部分的に繊毛逆転のあるゾウリムシは頭を上 にしたまま下方移動する。 8.定位反応の感受を阻害,あるいは変える処理の多く(例えば飢餓, 過酷な熱,遠心九機械的,化学的処理),加齢,生理的ストレスも, 細胞内体制や運動装置の正常な働きに重大な効果を与k・る。 9.細胞の形を変えるが,細胞内体制を乱さない条件は通常定位感受 性を変えることがない。 10.種々の条件下で重い粒子を喰わせたゾウリムシの反応は平衡石説 に適合する。 11.ある種の阻害剤や重力走性速度についての突然変異株を用いた予 行実験は重力走性速度は細胞の一般的な運動性(Motility)への効果 と生理的に結合していないことを示す。 12.繊毛虫類の細胞表面は機械的刺激や生来のイオン的特性について 非対称に作られている。 13.デタ-ジェントで抽出した後, ATPを加えて人為的に再酎引ヒ した繊毛虫類やコナミドリムシは定位されていない。 しかし,まだ現実の垂力走性が物理的機構に起きているのか,あるいは 生理的機構で起きているのかを決定するには至っていない。
e.他の行動との関連 重力走性はパターン形成泳動(Patternswimming),あるいは生物対流 (Bioconvection)の主要な原因であると考えられている。 2.重力屈性ー a.定義 重力(遠心力を含む)の方向に対応する方向への屈曲反応。成長(屈曲) 方向が鉛直線と平行なものを正統重力屈性(0仙ogravitropism),直角な ものを横重力屈性(Diagravitropism),ある角度を保つものを斜向重力屈 性(P】agiogravitropism)と呼ぶ。正統重力屈性のうち重力の方向(下)を 向くものを正の,その反対方向(上)を向くものを負屈曲とする。もちろ ん,受動的に自重で垂れ下がったものは重力屈性ではない。横重力屈性や 斜向重力屈性は正統屈性と傾性の一種である上偏成長(Epinasty)が重 なったものと考えることができる。傾性は構造的に予め定まった方向への 屈曲をさすからであるが,なんら構造的非対称性は無く重力だけの働きで "生理的上側日が誘導され,上偏成長がみられることもある(ユリの花榎の 運動など)。これを重力上偏成長(Graviepinasty)と呼ぶが,これは傾性で なく遅く進む重力屈性であると考えられている18'。背腹性との関連が考え られる。 b.分布 1)藻類,フラスモ(Nl'lella),シャジクモ(Chard)15・36',ハネモ(Bryopsis muscona)34'のフロンド(負重力屈性),仮根(正重力屈性) ;へライワヅタ (Caulerpa prollfe712)仮根の正重力屈性,地下茎の横重力屈性20・30・36'など。 2)辞苔類oゼ二ゴケ(Marchantia)仮根(正重力屈性),配偶体,造胞 体(負重力屈性)13・16';ミズゼニゴケ(Pellia)32・36',ミズゴケ(Sphagnum)5,, チョウナンゴケ(Minitlm),スギゴケ(Polytrichllm)などの配偶体,造胞 体26',34'。ツノゴケ(Anthoceros)では見つかっていない35'。 3)シダ類。ウラボシ科,ホウライシダ科,ゼンマイ科などの前葉体(横 重力屈性),造胞体の葉軸(負重力屈性)8・9'など。
濠類,コケ,シダ類の垂jJ反応 37 C.重力の受容 重力屈性においては多くの系で平衡石が見つかっているo高等動物のよ ぅな高度に分化した平衡器官を持たない植物でも同義的な平衡器官 (statocyst)をもち,そのなかで自由に動き得る平衡石(Statolith, Otolith) が重力によって下へ沈むことが重力受容の原理であるとう考えはGiesen- hagen(1901)がシャジクモの仲間の仮根の先端近くに光る小体(Glanzk6r-perchen)が重力により沈降することを兄いだして15)以来藻類でも広く信 じられている。しかし,一一万では明らかに重力反応を示しながら平衡石に 相当する構造体が何一つ見つかっていないものも多い。例えば,シャジク モの節問細胞は負の重力屈性を示す(Hofmaister (1894)36')が,その内部 では活発な周回型原形質流動が続いているので単純な平衡石説は適用され そうにもない。 また, Einsteinの密度差による分布の式(eq・1)と,普通の細胞内で
n/7lo-eXp l- VApah/kf] ・・-・・.・--.・・--=・-(eq・ 1)
n/7l.,:高さhと0の間の粒子数比 Ⅴ :体積 』β ‥媒質の密度差, 0.1kgm 3≦』β≦1・7kgm 3 α :加速度-9.82ms Z k : Bolzmann定数 r :絶対温度 沈降すべき距離の推定から半径0・1FLm以上の粒子は平衡石になF)得る が,ストークスの式(eq.2)からアミロブラストが-直嘩分沈降するのに 36軌ミトコンドリアだt/6分もかかるはずなのに実際の閥時は秒のオー ダーである。 4/3 7rr3Apa-67rWu ・・・:・・・-・-・・・--・・--.(eq・ 2) 7・:半径 77:粘性 ∼20cpoise LJ:沈降速度