Signal Transduction (刺激の生体情報への変換)は重力屈性発現機構を 理解する上で極めて重要な問題であるが,これまで最も不明とされてきた 問題でもある。
重力刺激に応答した膜電位の変化や植物体周辺と植物体の間に生ずる電 流の流出入パターンの変化が植物に重力刺激を与えて数分〜数十秒以内, つまり,実際に屈曲の起こるかなり以前に認められることから,これが重 力の感受あるいはSignal Transductionに関与している可能性が示唆され ている2・4・17)。但し,その電気的変化の意味するところの解明は今後の課題で ある。この種の実験に突然変異種を用いることは,重力に応答した比較的 速い反応である電位変化と生理的因子を直接関連づける一手段にもなり得
ると考えられる。
カルシウムがSignal Transductionにセカンドメッセンジャーとして働
高等植物J)垂))反応 73
いているのか,偏差生長に単独あるいは他国子との相互作用により生長阻
害物質として作用するのかは明らかでない1・3・糾5・21,23・25・36,45)。しかし,とくに
根を用いた研究は平衡細胞内カルシウム濃度の上昇によるカルモデュリン の活性化と根冠におけるカルシウムの不均等分布が重要であることを示し
ており,カルシウムがSignalTransductionに深く関わっていることを示 唆している。
根の重力屈性におけるカルシウムの研究には先に述べた光依存重力屈性 を示すトウモロコシがよく材料として使われている。Miyazakiら25)は,ト ウモロコシ品種̀Golden Cross Bantam 70'を用い,根を水平にして15
‑30分で根冠内で,30‑60分後には伸長帯でもカルシウムの不均等分布が みられ,組織の下側に多くのカルシウムが集積するのを認め,これが完全 に光によって誘導されるものであることを兄いだした。この光によるトウ モロコシの根の重力屈性は,カルシウムキレート剤及びカルシウムチャン ネルブロッカーの処理によって阻害される25,36)。また,カルシウムイオノ フォアのA23187の処理は光の作用を代替し,暗黒下でも根の重力屈性を 誘導する36)。この光依存重力屈性の先だって特異的に起こる,光によるタン パクリン酸化がカルシウム依存性であるということも知られている23)。こ れらの結果は細胞質内カルシウムレベルの上昇が重力屈性に重要であるこ とを示しているが,そのメカニズムおよびそれと組織内カルシウムの不均 等分布の関係は解っていない。
̀ageotropum'ェンドゥの根の重力屈性欠損が根冠内の何かに起因して いることは,次のような実験からも明らかである。つまり, ̀ageotropum'ェ ンドゥの根の先端1.5mm,すなわち根冠部を正常種の根軍組織と置換す ると̀ageotropum'ェンドゥの根は正常な重力屈性を示すようになり,皮 対に,正常種の根の先端を̀ageotropum'ェンドゥの根冠組織と置換する と,正常種がagravitropicな生長を示すようになる8)0 ̀ageotropum'で
は,先に述べたERの分布異常と関連して,少なくても重力感受から
Transductionの過程に変異の生じている可能性が強い。 ̀ageotropum'ェ ンドゥの上腔軸の光依存重力屈性もカルシウムキレート剤,カルモデュリ ン阻害剤によって抑制され,また,カルシウムの不均等処理は根および暗
異下においた上腔軸のカルシウム側への屈曲を誘導する。 A23187を暗黒 下で水平に置いた上腔軸の上側に不均等に処理した場合にはイオノフォア
側への屈曲がみられる51)。̀ageotropum'ェンドゥのagravitropicな生長も カ/レシウムに原因している可能性は否定できない。仮に̀ageotropum'ェ ンドゥの茎葉の光依存重力屈性でも光がカルシウムの動態に作用している とすると,トウモロコシの根の場合に類似していて非常に興味深い。
ⅤⅠ.生長物質と重力屈性
1.オーキシン
重力屈性発現過程で最終的に屈曲が起こる段階では,生長物質の不均等 分布による偏差生長が生ずるという考え方が一般的である。最も有名なの はColodny‑Went説で知られるオーキシンの不均等分布である55)。突然変 異種の̀ageotropum'ェンドゥの茎葉部のagravitropicな生長にもこの オーキシンの移動能力が関係しているらしい50)。オーキシンは普通茎頂部 体内を求底的に移動するが,この極性的なオーキシン(3H‑IAA)の求底移 動に関しては̀ageotropum'と正常種で差はまったく見られない。しかし,
上腔軸を暗黒下で水平に置いた場合には,正常種ではその上側と下側の
オーキシン量比は約4:6で下側で多いのに対し, ̀ageotropum'ではその オーキシンの不均等分布はまったく見られない。この突然変異種の上腔軸 組織は外生オーキシンに対しては正常に感応し,組織片側に不均等にオー
キシンを処理するとオーキシン源とは反対側に屈曲する。しかし,茎頂先 端部を切除した上腫軸の切口にオーキシンを均等に与え,それを水平に置 いても重力屈性はみられない。これらの結果は̀ageotropum'ェンドゥで は,重力刺激によるオーキシンの横移動が欠如していることを示唆してい る。この事実は,オーキシンの不均等分布に起因するといわれる
geoelectric effect (GEE)も正常種にくらべて̀ageotropum'では非常に小 さいことからも9)裏付けられる。これは必ずしもオーキシンの横移動に関 する遺伝子に直接突然変異が生じたことを意味するものではないが,
̀ageotropum'を材料にして解析することにより,重力依存性のオーキシン 転流機構の解明にアプローチできるかも知れない。さらに, ̀ageotropum'
高等植物の重力反応 75 の上腔軸で光がこの重力によるオーキシンの不均等分布を誘導できるかど
うかを明らかにすることは先に述べたカルシウムとの相互関連性を考える 上でも重要である。トウモロコシ突然変異種の̀Amylomaize'子葉鞘でも 同じように,正常種に比較してオーキシンの重力依存性の横移動量が40
‑80%少ないことが報告されている16)。この場合も,重力に依存しない オーキシンの求底的移動は正常種のものと差がない16)0
イネ̀Lazy Kamenoo'の子葉鞘は約3cm位までは正常な重力屈性を示 すが,その後重力屈性能力を失う60)。しかし, IAAあるいはその前駆物質 のトリプトファンの処理によって,水平に置かれた子葉鞠が垂直方向に立 ち上がり,正常な体勢になることが報告されている60)。
シロイヌナズナでは,オーキシン耐性(この場合,感受性が小さいこと を意味する)の突然変異種がagravitropicであることが知られている24)0 シロイヌナズナの̀auxll'といわれる突然変異種は,正常種に比較して オーキシンに対する感受性が14分の1で,その根は完全に重力屈性を失っ ている。しかし, ̀aux12'といわれる突然変異種はオーキシンに対する感受 性は正常種の3分の1であるが,その根は正常な重力屈性を示す。また,
Laux11'および̀aux‑2'のいずれの場合も,茎葉部は負の重力屈性を示す。
さらに, ̀Dwf'といわれる突然変異種はオーキシンに対する感受性が2,000 分の1と小さく,この場合,芽生えの段階では根も茎葉も重力屈性を示さ ないo ̀atLr‑l'の場合,平衡細胞内でのアミロブラストの沈降速度が非常に 遅く, agravitropicな生長の原困が重力の感受機構にある可能性を先に述 べた34)。しかし,これらの突然変異種の場合,オーキシンに対する感受性が 非常に小さいために重力屈性を欠いている可能性も否定できない。重力屈 性を発現するためのオーキシン基あるいはオーキシンに対する感受性にあ る一定の閥値が存在するとすれば, ̀aux‑2'の場合,オーキシン感受性があ る程度小さくても,正常に近い重力屈性を示すのも理解できる。事実,水 平におかれた組織では,その上下でオーキシンに対する組織感受性が異な り,オーキシンの不均等分布ということだけでなく,オーキシン感受性の 変化も含めて偏差生長を考える必要のあることも示唆されている46)。最近, colodny‑Went説に対する異論も多いので,突然変異種の場合も含めて,
またオーキシン感受性も考慮した上で,もう一度内生オーキシン分布につ いて最新の機器分析で確かめてみる必要性が感じられる。
2.エチレン
最近,とくに茎の重力屈性にはエチレンが大きな役割を演じているとい う指摘がいくつかある67・68)。トマトの̀diageotropica'といわれる突然変異 種は,通常,横重力屈性を示し,茎は地面に水平に生長する61,62,63)。この
̀diageotropica'トマトの茎葉は, 0.005JJl/1のエチレン処理によって正常 に垂直に生長するようになる62・63'。正常種の̀VFN8,トマトに比較すると,
̀diageotropica'ではオーキシンによって誘導されるエチレン生成能が著 しく劣っている62)。̀diageotropica'では何らかの原因でIAAがエチレン前 駆物質のACCの合成酵素を活性化できないか,あるいはIAAの受容体に 問題のあることも示唆されている6・20)。無傷の植物体のエチレン生成には, しかしながら, ̀diageotropica'と̀VFN8'トマトの間で大きな差は認めら れず,また̀VFN8'トマトにエチレン作用阻害剤を処理しても横重力屈性を 示すということはない18)。ただし, ̀diageotropica'は自ら生成するストレ スエチレンによっても正常に立ち上がるようになる18)。暗黒下に置いた
̀ageotropum'ェンドゥでも,重力によるオーキシンの横移動がみられない だけでなく,エチレン生成は正常種よりも非常に少ない50)。重力屈性におけ るエチレンの作用機構については解らないが,水平に置いた茎組織の上側 よりも下側でエチレン生成が異常に多いことからすると57),少なくても生 長阻害によるものではない。
3. ABAおよび他の阻害物質
根の重力屈性は,根冠部で生成される生長阻害物質が求底的に移動し,そ れが水平に置かれた根の伸長帯の下側に多く不均等分布する結果であると 考えられているが39,43・59),これに関する研究では,光依存重力屈性を示すト ウモロコシの根がしばしば材料として用いられている。すなわち,光によっ てその生成,または不均等分布が誘導されるような阻害物質が検索され,中 でもアブシジン酸(ABA)が注目されてきた40,58・59)。しかし, ABAは確か に光照射によってその生成が促進されるようであるが,組織の上下におけ る不均等分布については研究者によって結論が異なり,正の重力屈性を十