顔貌の変化をきたした口腔がん術後患者における
退院後の生活実態
佐 藤 愛 美, 金 子 有紀子, 金 子 昌 子
藤 野 文 代, 小板橋 喜久代
要 旨 【背景・目的】 口腔がんの術後に生じる顔貌の変化や口腔機能障害は, 患者の日常生活に大きな影響を与え ている. 本研究の目的は, 口腔がん術後患者における退院後の生活実態や患者の抱える問題について明らか にすることである. 【対象と方法】 対象は, 口腔がんの術後, 顔貌の変化や口腔機能障害をきたした歯科口 腔外科通院中の患者 5名. 面接から, 退院後の生活や患者の抱える問題について聴取し, K-J法により質的帰 納的 析を行った. 【結 果】 患者の語りは, 共に強く関連しあう『からだの状態』『こころの状態』『くら しの状態』と, そのそれぞれに関連する『医療者からのサポート』に大きく 類された. 【結 語】 患者は 顔貌の変化や口腔機能障害などのつらさを抱えているが, その障害と共に生きるための工夫や技術を身につ けて適応している. 医療者の声掛けや傾聴, 親身で一生懸命な姿勢, 安心できる関係の構築, 専門的知識に裏 づけられた十 な説明が心の支えになっていた. 適応や役割遂行のための援助が重要であることが示唆され た.(Kitakamto Med J 2008;58:17∼26) キーワード:口腔がん術後患者, 顔貌の変化, 退院後の生活実態 目 的 口腔がんの発生頻度はがん全体の 1∼ 3%と少ない. その中で,上顎・下顎などの悪性腫瘍の術後は,口唇閉鎖 不全や顔貌左右非対称など顔貌に変化が起き, 個人の容 貌や印象に与える影響が大きい. また, 口腔領域は音声 言語・表情の形成・咀嚼・嚥下・呼吸・味覚など多くの 機能を有しており, その障害は患者の日常生活・社会生 活に大きく影響している. 顔は人目に付く部位であり, 隠すことができず, 患者の気持ちや人付き合い・外出な どの生活に大きく影響している. 構音障害は, 人付き合 いや仕事などにおけるコミュニケーションの妨げとな る. 摂食障害は, 常食摂取困難により食事の変 や工夫 が必要となるうえに, それによって食事の喜びや食事を 通してのつながりまでが減少してしまうだろう. 患者は 手術を乗り越えても, 顔貌の変化や食事の変化, それに 関連した外出や旅行など趣味の制限, コミュニケーショ ン障害など数々の困難を抱えている. 実際, 入院中の口 腔がん術後患者が「もう何もできない」「もう外に出られ ない」など,涙することもあり,十 なサポートが必要で あると思われた. 患者は, 障害をもって退院し 康な人 と生活する中で本当のつらさや困難にぶつかっている. しかし, 患者がそのつらい思いをしている退院後の生活 については把握できていないのが現状であり, 必要なサ ポートが十 には得られていないことが えられる. 今 回, 過去 10年間の文献検索をした結果, 口腔がん患者を 対象とした看護研究は 41件みられたが, 口腔がん術後 患者の退院後に焦点を当てた看護研究は舌がんに関する もの が 1件のみであり,上顎・下顎がんの術後で顔貌の 変化まできたした患者の退院後の生活に焦点を当てた研 究は行われていなかった. そこで本研究において, 顔貌の変化をきたした口腔が ん術後患者における退院後の生活実態やセルフケア状 況, 患者の抱える問題について明らかにすることで, 口 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科博士後期課程 2 長野県 本市旭3-1-1 信州大学医学部保 学科 3 岡山県岡山市鹿田町2-5-1 岡山大学大学院保 学研究科看護学 野 4 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科 平成19年10月19日 受付 論文別刷請求先 〒371-8514 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科看護学 野基礎看護学領域 佐藤愛美腔がん患者の看護について検討したいと えた. 本研究の目的は, 顔貌の変化をきたした口腔がん術後 患者における退院後の生活実態や患者の抱える問題につ いて明らかにすることである. また, 上記について 察 することにより, 口腔がん患者の看護について示唆を得 たい. 方 法 1 研究デザイン 本研究は, 面接資料の 析による質的帰納的研究であ る. 2 研究対象者 対象は, 口腔がんの手術により摂食障害・構音障害を はじめとする口腔機能障害や顔貌の変化をきたした歯科 口腔外科通院中の患者 5名である. 患者の選定に当たっ ては, 研究への協力が可能であり面接実施が可能と判断 できる患者を, 担当医から紹介を受けた. 対象者には, 同 意説明文書と口頭にて研究に関する説明を十 に行い, 面接の質問内容についてもインタビューガイドにて事前 に把握してもらったうえで, 同意書に署名・捺印を得た. なお, 倫理的配慮については, 研究に先立ち A 大学医 学部疫学研究倫理委員会の承認を受けた. 3 データ収集方法 1)調査期間及び調査施設 調査期 間 は 2003年 8月 18日 か ら 10月 31日 ま で で あった. 調査は, 特定機能病院に指定されている A 大学 病院で行った. 2)データ収集 退院後の生活や患者の抱える問題については, 面接に てデータを収集した. 既往歴・治療経過等基礎資料の収 集は, 診療記録から行った. 3)面接方法とその内容 患者には外来受診日にプライバシーを確保できる個室 にて, 1人 30 間の予定で半構成面接を行った. 面接で は, 事前に渡してあるインタビューガイドに って退院 後の生活や患者の抱える問題について語ってもらった. 1名については, 本人の希望により自宅での面接を行っ た. 面接は, 1名の研究者 (研究代表者) が行った. 対象者には構音障害があるため, 対象者が話した言葉 の要点を復唱して返すことで, 意味や内容を確認しなが ら進めた. 面接の内容は, 対象者の許可を得て, カセット テープに録音するとともに筆記のメモをとり, 逐語録作 成の正確性を期した. 承諾が得られずテープ録音ができ なかった 1名については, 本人の許可を得て書き取った メモから逐語録を作成した. インタビューガイドの構成は, 1. 普段の生活行動や仕 事についての具体的な日常生活について 2. 退院後の 生活で感じる障害・困難・悩みについて 3.上記 2.に対 する工夫や対処法について 4. 今までに得られたサ ポートや必要としているサポートについてである. 以上 4点について自由に語ってもらった. 4 析方法 析方法には, K-J法 を用いた. まず, 逐語録を一文 章一意味となるように区切り, 中心的意味を簡潔に示す ラベルを作成した. 次に, そのラベルを意味内容の類似 性に従い 類してグループ編成を行った. さらに, 類 したグループを図解化してその関連を明らかにした. なお,信頼性・妥当性確保のため,ラベル作成・グルー プ編成・図解化は, K-J法や質的研究に知見のある看護 研究者 4名で検討を重ねて行った. 結 果 1 事例の概要 5事例の概要は表 1に示した.性別は男性 2名・女性 3 名であり, 年齢は 50代から 70代であった. 上顎歯肉癌 2 名・下顎歯肉癌 3名で, 治療は手術に加え抗癌剤と放射 線照射を併用した事例が 2名, 放射線照射の併用が 1名 であった. 面接時間の平 は, 約 40 間であった. 2 面接内容の 析 面接から得られた退院後の現状を表 2に示した. 面接 日は, 術後 8ヶ月から 19ヶ月で, 退院後 5ヶ月から 16ヶ 月であった. 対象者の語りの内容は, 共に強く関連しあう『からだ の状態』『こころの状態』『くらしの状態』と,そのそれぞ 表1 事例の概要 事例 性別 年齢 疾患名 治 療 A 女性 50代 右上顎歯肉癌 右上顎骨部 切除・腹部全層皮膚移植, 抗癌剤内服, 放射線照射 B 男性 70代 右下顎歯肉癌 右下顎骨区域切除・舌部 切除・プレート再 ・両側全頸部郭清 C 男性 50代 左下顎歯肉癌 左下顎骨区域切除・プレート再 ・左全頸部郭清 D 女性 60代 左上顎歯肉癌 左上顎骨部 切除, 抗癌剤動注・静注・内服, 放射線照射 E 女性 60代 右下顎歯肉癌 術前放射線照射, 右下顎骨区域切除・プレート再 ・右上頸部郭清
れに関連する『医療者からのサポート』に大きく 類さ れ, その図解を, 図 1面接内容の概要に示した. それぞれ の内容は, 図 2『からだの状態』の内容, 図 3『こころの 状態』の内容, 図 4『くらしの状態』の内容, 図 5『医療 者からのサポート』の内容に図解化して示した. 1)からだの状態 (図 2参照) 『からだの状態』は,「病気のはじまり」から「治療後 に出現した障害」に関連し,「障害への適応」に至ってい る. 「治療後に出現した障害」は,口腔内の痺れと痛み・義 歯やシーネの不具合・口渇・口唇閉鎖不全とその障害・ 顔貌の変化・舌運動障害・摂食障害・上顎洞への 通・ 流涎・構音障害・頚部郭清による障害・体力低下・思 力低下が挙げられた. 「障害への適応」では, 食事の変化と工夫 装具の利 用 口渇への工夫 口腔ケアの実施 障害の改善と適 応 について語られた. 食事の変化と工夫 では, 状態 に合わせた食事工夫・困難な常食摂取・軟食摂取とその 工夫・病院食を参 にする・注入器の利用・経管栄養に ついて語られた. 装具の利用 は, 義歯の利用・シーネ の利用・マスク装着が挙げられた. 口渇への工夫 には, ガムや水を持ち歩くなどが挙げられた. 障害の改善と 適応 では, 術後時間の経過と共に障害が改善してきた ことや, 障害があっても生活や活動ができるようになっ 表2 面接から得られた退院後の現状 事 例 Ⅰ.からだの状態 Ⅱ.こころの状態 Ⅲ.くらしの状態 Ⅳ.医療者からのサポート 事例 A 50代・女性 面接日 術後 8ヶ月 退院後 5ヶ月 口腔内の痺れと痛み 義歯の違和感・口渇 口唇閉鎖不全・顔貌の変化 摂食障害・上顎洞への 通 流涎・構音障害・疲労感 ↓ 軟食摂取・刺激物等を避け る マスク装着 口腔ケアの実施 病気のことが常に気持ち にのしかかっている 再発の不安 顔 貌 の 変 化 で 人 生 が 変 わった. 人の目が気にな る 家族と生活 術前同様, ほとんどが仕 事の生活 仕事のため人付き合いは 変わらない 声かけにより支えられた 口腔ケア・食事・口腔機 能訓練の指導を受けた 治療前の詳しい説明・歯 ブラシ選択へのアドバイ スを希望 事例 B 70代・男性 面接日 術後 18ヶ月 退院後15ヶ月 口渇・顔貌の変化 舌運動障害・摂食障害 流涎・構音障害 体重減少 ↓ 経管栄養・注入器の 用 マスク装着 口腔ケアの実施 人を避ける気持ち 食べられないから嫌にな る こ と も あ る. い つ に なったら食べられるよう になるのか 家族と生活 外出はお いや通院程度 に減少し, 地区の役員等 もしなくなった 人付き合いの減少 食事指導を受けた (経管 栄養) 関係構築ができて安心で きた 事例 C 50代・男性 面接日 術後 10ヶ月 退院後 7ヶ月 口唇閉鎖不全・顔貌の変化 舌運動障害・摂食障害 構音障害 頸部郭清による障害 疲労感・思 力低下 ↓ 軟食摂取 マスク装着 人前に行きたくない 近所の人など知人にあま り会いたくない 自 の病気についてもっ と詳しく知りたい 家族と生活 加減をしながら今まで通 り仕事している 子供の行事等にも行かな くなった 口腔ケアの指導を受けた 継続した歯科検診・自 の病気に関する詳しい説 明を希望 事例 D 60代・女性 面接日 術後 15ヶ月 退院後14ヶ月 義歯やシーネの不具合・口 渇 口唇閉鎖不全・顔貌の変化 摂食障害・構音障害 ↓ 軟食摂取 シーネ・義歯・マスク装着 人目が気になる えないようにしている が, 病気のことを えて しまう 何もできなくなった 自信がない 病気に負けないようにと 思う 家族と生活 夫が食事の支度など家事 を全てやってくれるよう に なった. 娘 が 自 を 頼ってくれている 旅 行 や 温 泉 は 行って い る. 茶道の免状が取れた が人目が気になり行けな くなってしまった 人付き合いも減った 親身で一生懸命な医療者 の姿勢 傾聴 口腔機能訓練の指導を受 けた 事例 E 60代・女性 面接日 術後 19ヶ月 退院後16ヶ月 口腔内の痺れと痛み・口渇 顔貌の変化・摂食障害 構音障害・体力の低下 ↓ 軟食摂取 口渇への工夫 人前に出ることに抵抗が ある 治療や障害はつらいが仕 方ないし納得している 癌と言うことを思い出さ ないようにする くよくよしてもしょうが ない 家族と生活 家事や孫の世話まで何で もしている 外出の減少 傾聴 説明で納得できた 病院食が参 になった 口腔機能だけでなく全身 のリハビリも希望
たことが語られた. 2)こころの状態 (図 3参照) 『こころの状態』は,「つらい気持ち」「こころの適応」 「障害改善の希望」が関連し合っていた. 「つらい気持ち」では, 病気への思い 障害のつらさ 人目が気になる 落ち着かない気持ち について語ら れた. 病気への思い は, 病気のことを える・再発や 転移の不安・病気への怒り・なぜ病気になったのかとい う気持ちが語られた. 病気のことを えてしまう一方で, なるべく病気のことを えないようにする気持ちもあっ た. 障害のつらさ は, 顔貌変化のつらさ・摂食障害の つらさが挙げられた. 人目が気になる では, 人目が気 になることと, その一方で人目を気にしないようにして いる気持ちが語られた. 落ち着かない気持ち では, 入 院時の不安 治療決断の困難 悲しみ 泣く 落ち込み 無力感 閉塞感 イライラする 怒り 叫びたいような 心境 表出したい気持ち 安定しない気持ち 明るく振 舞う が挙げられた. 無力感 は, 病気のせいで仕事や役 割がこなせなくなったことについて語られた. 表出した い気持ち では, 人に気持ちをぶつけ聴いて欲しい欲求 図1 面接内容の概要 図2 『からだの状態』の内容
について語られた. 怒り では,病気に自由を奪われたと いう病気への怒りと, 病気の発見・治療が遅れたことに 対する怒りの気持ちが語られた. 「こころの適応」では, 治療や障害の納得 闘病の意 志 ぐずぐずしない 冷静化 仕方ない現実と受け止 める 心身の状態を記録して整理する について語ら れた. 治療や障害の納得 は,治療や障害はつらいが,医 師からその必要や必然を説明されて納得できているとの 語りであった. 「障害改善の希望」には, 経口摂取の希望 障害改善 の希望 再 術の希望 が挙げられた. 再 術による, 顔貌の変化・摂食障害・構音障害の改善希望があった. 3)くらしの状態 (図 4参照) 『くらしの状態』は,関連しあう「自 の仕事と役割」 「外出の現状」「人付き合いの現状」からなっていた. 「自 の仕事と役割」では, 仕事について と 自 の役割 について語られた. 仕事について では, 仕事 (家事を含む. 以下同様) を調節したり仕事をやめたこ と・仕事の現状・術前の仕事の様子が語られた. 自 の 役割 では,家族の役割・病気の友に頼られるなど,人の 役に立つ・頼られることについて語られた. 「外出の現状」では, 外出の内容 と 外出の減少 に 図3 『こころの状態』の内容 図4 『くらしの状態』の内容
ついて語られていた. 外出の内容 は買い物・おつか い・通院・旅行・温泉・散歩・会合が挙げられたが,対象 者によって差が見られた. 外出の減少 では, 外出の減 少とその内容・人目が気になり外出できない・摂食障害 により外食や旅行に行けない気持ちについて語られた. 減少した外出の内容として, 外に出ること・買い物・外 食・旅行・地区集会・子供の行事などが挙げられた. 「人付き合いの現状」では, 変わらない人付き合い 人付き合いの減少 周囲からの支え について語られ た. 変わらない人付き合い では, 仕事のために人付き 合いは変わっていないことが語られた. 人付き合いの 減少 では, 人付き合い減少の内容と人付き合い減少の 理由について語られた. 減少した内容として, 人付き合 い・近所付き合いなどが挙げられ,その理由として,人目 が気になることやコミュニケーション障害の影響が挙げ られた. 患者は構音障害や人目が気になるために人を避 けていた. 相手からマスク装着や病気などについて質問 されるため, 全くの他人より知人を避ける傾向にあった. 他人はあまり気にならず, いつもは外さないマスクも他 人の前では外していた. 周囲からの支え では, 家族や 周囲からの支え・病気の友とのつながりについて語られ た. 4)医療者からのサポート (図 5参照) 『医療者からのサポート』は,「医療者からの心の支え」 と,「退院指導」「医療者への希望」からなっていた. 「医療者からの心の支え」では,医療者の姿勢による支 え・声掛けや傾聴によるつらい気持ちの軽減・親身になっ てもらえたことによる支え・医療者との関係構築による 安心について語られた. 「退院指導」では, 食事指導・口腔機能リハビリテー ションの指導・口腔ケアの指導が挙げられた. 「医療者への希望」は, 説明やアドバイスの希望 歯 科検診の希望 リハビリテーションの希望 再 術の 希望 が挙げられた. 説明やアドバイスの希望 では, 顔貌変化などに関する術前のより詳しい説明の希望・副 作用に関するより詳しい説明の希望・歯ブラシ選択に関 する説明希望・再発への対処法の説明希望・病気に関す るより詳しい説明の希望が挙げられた. 察 口腔領域は, 身体全体から見ると非常に限局された部 位であるが, 顔は自 を表す部位のひとつであり, 人目 に付きやすい部 である. 口腔がんの術後におこる顔貌 の変化や口腔機能障害は, 患者のこころやくらしに大き な影響を及ぼし, 患者は変わってしまった自 の顔やそ の障害に適応していかなければならない状況にあった. 1)からだについての語りの 析 手術を始めとする各治療の前には, その治療が引き起 こす障害についても説明がなされている. しかし, 顔貌 の変化をはじめ,音声言語・表情の形成・咀嚼・嚥下・呼 吸・味覚など多くの口腔機能それぞれについてどのよう な変化が起こるのかを, 患者が術前にイメージするのは 困難であろう. 患者は術後の生活, 特に退院後の生活を 送る時になって改めて顔貌の変化や口腔機能障害の大変 さやつらさを体験している. 今回の面接で, 患者は病気 や治療に関する詳しい説明を希望していたが, 術前に具 体的なイメージを持つことができるよう十 に説明し援 助することで, 術前に想像していたイメージと術後に生 図5 『医療者からのサポート』の内容
じた障害とのギャップを少しでも埋めることができると 推察できる. 治療後に出現した障害に対して「やらなけ れば悪くなっていたし仕方ない」と患者は語っており, 治療の選択は止むを得ないものであったと認識しながら も, 治療後の障害を目の当たりにし顔貌の変化を伴うい くつもの障害が身に迫ってきたときのつらさは, 術前の 説明を受け納得し覚悟した以上に厳しいものであったと 言える. 患者は,口腔内の痺れと痛み・義歯やシーネの不具合・ 口渇・口唇閉鎖不全とその障害・顔貌の変化・舌運動障 害・摂食障害・上顎洞への 通・流涎・構音障害・頚部 郭清による障害・体力低下・思 力低下という術後のか らだの状態を挙げ, 日常生活を維持していく上での障害 について語った. 特に, 生命維持に不可欠な要素である 食事の摂取については, 様々な工夫がされており障害へ の適応が図られていた. 2)こころについての語りの 析 がんという病気へのつらい気持ちが語られた. 患者は, 常に再発や転移の不安に苛まれ, なぜがんになってし まったのか・この病気にならなければ…と苦しんでいる 様子が語られた. また, 障害については, 毎日の食事が普 通には摂取できない摂食障害のつらさや, 人目が気にな る顔貌変化のつらさについて多く語られた. 顔は外から 見えてその変化は隠しようがなく, 自 では気にしない ようにしていても他人が気にする様子はわかってしま い, 自 の顔・相手や他人の顔を見る度につらく悲しい 気持ちになることが語られた.それは,人を避ける・外出 を減らす・近所付き合いを避けるなどくらしの変化に現 れていた. 自 を表す名刺にも相当すると言える顔は, その人らしさやその実存を表現するものであり, その顔 貌や機能の変化は患者のこころの状態に大きく影響し, それがくらしにも影響することは想像するにたやすく, 面接でもそのつらさが繰り返し語られていた. 自 のか らだに対する私たち一人一人の思いや,知覚・感情・評価 が 合されたものをボディイメージと言う が, がん疾 患を含む手術や頭頚部の目に見える障害・回復不可能な 障害がボディイメージの変化をきたし, 特に頭頚部がん の場合他人に隠しきれない部 に障害が残る と言われ ている. ボディイメージの変化は, 自己概念や自己尊重 にも影響しているが, 顔貌の変化の場合はより大きく影 響することが推察できる. 今回の面接において, 顔貌が 変化してしまったうえに障害をもったからだについて, 人目が気になる・障害のつらさなどの気持ちが語られ, 顔貌の変化や口腔機能障害が患者のボディイメージに変 化をもたらしていることが伺えた. からだの変化から始 まり, こころやくらしまでが変化する術後の障害を持っ たからだは, 患者にとってそれまでとは明らかに異なる 新しいからだ> と言えるのではなかろうか. 患者はボ ディイメージの変化した 新しいからだ>とどう付き合っ ていくかという困難やストレスを抱えており, 援助の必 要性が示唆された. 3)くらしについての語りの 析 外出や人付き合いの減少に代表されるように, 障害に よるこころの変化が, 患者のくらしに強く影響していた. 「退職して, これから自由に何でもできると思っていた のにこのような病気ですものね…」という語りがあった が,患者は自 の顔貌や障害が気になって食事・旅行・趣 味・人付き合いなどができず, この口腔がんという病気 に,楽しみ・喜び・自由を奪われたと感じていた.外に出 たり人に会うことで, 障害のつらさを感じるのと同時に, 人に一番見られたくない障害を持った顔に人の視線を感 じるつらさや, いろいろと質問をぶつけられるつらさを 感じ, 術前と同じ生活ができなくなっていた. 患者は, 運 動器系の障害により移動や活動が制限されている訳では なく, 人目が気になるというこころのバリアーがその行 動を制限していた. 喉頭がん患者の失声・永久気管孔造 設は, 患者の心理面・社会面に深刻な結果を生じやすい と言われているが, 口腔がん患者における顔貌の変化は 障害が人目に付きやすいぶん, より深刻であると言える だろう. 「何もできなくなったし自信がなくなったが, 娘が 頼ってくれるから…」「頼ってくれる病気の友がいる」と の語りにあるように, 患者は障害によって悲しみ・落ち 込み・無力感などを感じているが, 自 の仕事や役割が あることにより, 自 の存在やその意義が確認でき, そ れが何よりのこころの支えとなっていることが推察され た. ボディイメージや自己概念のための援助として, 尾 沼ら が患者同士の間にサポーティブな関係を作り出す ことの必要性について述べているが, 家族や同病者との つながりのためのサポートも患者の支えになると え る.また,「仕事のため人付き合いはかわらない」と語っ ている患者がいるように, 仕事や役割は患者の人付き合 いにも関連していた. 廣瀬ら は, 職業・社会的役割・趣 味などの対人関係における障害の重みや受容への影響に ついて述べており, 障害を持っても自 の仕事や役割を 遂行していくことは障害受容と生活の維持にとって意義 のあることであり, そのための工夫やサポートが重要で ある. 病気や障害からのリハビリテーションをサポート し, 社会参加や活動を支援するリハビリテーション看護 の視点からの 析や支援も必要であると える. 患者の「前はできなかったが今はできる」「はじめより 良くなった」という語りがあったが, 障害とうまく付き 合っていくためには, 日々の暮らしの中において適応の ための工夫や技術の習得を繰り返すこと, 障害のある
新しいからだ> を い慣れること, 時間の経過により 障害の治癒や改善が見られることなど, 時間の経過が必 要であった. 家族や周囲の人においても, 患者本人同様, はじめは顔貌の変化や障害に戸惑うのは当然のことであ り, どのように付き合えばよいか・どのように支えてあ げたらよいかというスタンスをみつけ, 家族や周囲の 人々が患者の 新しいからだ>に適応するためにも,患者 と共に暮らし慣れるための時間が必要であると えられ る. 患者の語りからも, 家族や周囲の人からの支えは患 者のこころやくらしを支える大きな力のひとつであるこ とが示された. 個々に応じた付き合い方・支え方の具体 的アドバイスを家族や周囲の人に行っていくことも看護 の重要な役割であろう. 4)医療者からのサポートについての語りの 析 手術も済み, 退院後であるにもかかわらず, 告知のと きの様子が改めて語られていることから, その選択がい かにつらいものであったか, またその結果生じた顔貌の 変化は思った以上につらいもので, 手術により変わって しまった自 の顔を見たとき, また人の目線がその顔に 向けられるのを感じることで, 忘れようとしても思い出 されてしまうつらさを表していると思われた. 家族や身近な友人・病気の友からの支援が, こころや くらしの重要な支えとなっていることが語られた一方 で, 医療者からのサポートは, 心の支えに加えて, 退院指 導・病気・リハビリ・再 術のことなど専門的知識に関 する支えについて語られていた. しかし, 病気や治療に 関するより詳しい説明の希望が語られていることから, その説明が十 ではないことが推察される. 患者の理解 や納得の程度を確認して, 説明やその補充をする役割も 看護に求められている. 看護師が, 告知の段階から継続 したサポートシステムにおける中心的コーディネーター の役割を担うべきであることは周知されており, また廣 瀬ら もその必要性を述べている. また, 患者は, 顔貌の 変化・摂食障害・構音障害改善の希望から再 術を望ん でいるが, 再 術やエピテーゼ作成に関する情報なども, 患者のニーズに合わせて提供しサポートしていく必要が ある. 患者が退院後の生活を えて「もう何もできない」「も う外に出られない」と嘆き悲しんでいたことを冒頭で述 べたが, 本当のつらさは, 同病者や医療者に囲まれて生 活する入院中の生活より, 康な人の中で普通の生活を 送るようになる退院後に強く感じられる. 退院後の生活 にスムーズに入ることができるよう, 退院前の具体的な アドバイスも必要であるが, 退院後に患者が自 の障害 と共に生活する中でぶつかる困難やつらさに, その個々 の状況に合わせてその都度段階的に介入していくことが 必要であり,病棟・外来・地域が連携し継続した支援体制 の確立が望まれる. 一般的に, 外来における看護は診療 の補助が中心で, 患者の相談を受けて個々のニーズに答 えるような介入は難しく, 特に大病院では決して十 と はいえない現実がある. しかし, 廣瀬ら が, 患者が自身 の状況をフィードバックし障害をもつ人生のあり方を共 に える機会となりうる面接の必要性を述べているよう に, 外来においても患者と向き合う時間を設け, 患者の 状況を把握しその後の介入につなげていくような関わり が必要である. 地域看護においても病院との連携がまだ まだ希薄なため, 退院後まで継続して関わり支援してい くという体制はほとんどできていない.病院・在宅・地域 が連携するシステム作りが必要である. 患者は病気やその治療により, からだやこころ, そし てくらしに障害やつらさを抱えているが, 障害やつらさ はあってもその障害と共に生きるための工夫や技術を身 につけて適応していることが明らかになった. 障害への 適応によりつらさや不自由さは軽減し, そして, 自 の 仕事や役割を遂行することで, 自 の存在意義が確認で きることから, 適応や役割遂行のための生活への適応段 階に応じたサポートが重要であることが示唆された. 障 害を持ち顔貌の変化をきたした術後患者における生活適 応の難しさを理解し, 具体的な支援を検討していくこと が大切である. 医療者の声掛けや傾聴, 親身で一生懸命 な姿勢, 安心できる関係の構築, 専門的知識に裏づけら れた十 な説明が心の支えになっていた. これらは, 口 腔がん以外の患者にも同じように必要であり欠かせない ものである. 本研究は, 上顎・下顎がんの術後患者における退院後 の生活実態を具体的に知るための一助となり, 術前から 退院後までの看護支援を えるうえでの資料となること が期待される. 今回は事例が 5例と少なく, に事例数 を増やして 析することで必要とされている看護支援に ついて明らかにしていく必要がある. 謝 辞 本研究に快く御協力くださった対象者の皆様, 口腔外 科の先生方, 御指導いただきました先生方に深く感謝致 します. 文 献 1. 藤田浄秀 : 内科医に必要な口腔疾患の知識. 光堂, 2003: 95. 2. 大釜徳政 : 舌がん患者の抱える多重的問題と生活変化プ ロセスに関する研究.神戸市看護大学紀要.2005; 9 : 23-33. 3. 川喜多二郎 : 発想法の科学. 中央 論社, 1995. 4. 藤崎 郁. ボディイメージの障害をもつ患者のアセスメ
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5. Mave Salter. ボディイメージとは何か. 前川厚子 (訳): ボディ・イメージと看護. 東京 : 医学書院. 1992: 3. 6. Mave Salter. 癌とボディ・イメージ. 前川厚子 (訳): ボ
ディ・イメージと看護. 東京 : 医学書院. 1992: 171-181. 7. Girmore, S. The physical, social, occupational, and psychological concomitants of laryngectomy. In R.L. Keith & E L. Darley (Eds.), Laryngectomy Rehabilita-tion, 3 ed. Austin, 1994: 395-486.
8. 尾沼奈緒美, 佐藤禮子, 井上智子. 乳がん患者の自己概念 の変化に即した看護援助. 日看学誌. 1999 ; 19 : 59-67. 9. 廣瀬規代美, 布施裕子, 藤野文代. 喉頭摘出患者の失声の 受け入れに関する検討. 群馬保 学紀要. 2002; 23: 55-62. 10. 廣瀬規代美,藤野文代.喉頭摘出患者の咽頭摘出術の自己 決定プロセスにおける看護援助. 群馬保 学紀要. 2003; 24: 23-30.
Lives of Oral Cancer Patients with
Postoperative Facial Deformities.
Manami Sato,
Yukiko Kaneko,
Shoko Kaneko,
Fumiyo Fujino,
and Kikuyo Koitabashi
1 Gunma University Graduate School of Medicine, Course in Health Sciences 2 Department of Nursing, Shinshu University Graduate School of Health Sciences 3 Department of Nursing, Okayama University Graduate School of Health Sciences 4 Department of Nursing, Gunma University Graduate School of Health Sciences
Background and Purpose: Postoperative facial deformity and oral dysfunction may strongly and adversely affect the daily lives of oral cancer patients. We studied their posthospitalization influence on these patients and the problems these patients face. M aterials and M ethods: Subjects were 5-oral cancer outpatients experiencing postoperative facial deformity and oral dysfunction due to jaw resection whom we interviewed 5 to 16 months after hospital discharge based on questionnaires about their lives and problems. Answers in interviews were analyzed qualitatively and inductively using the K-J method. Results: We classified answers into physical, mental, lifestyle conditions, and medical staff support. Conclusions: Patients with disorders involving facial deformity and oral dysfunction acquired coping concepts and techniques to adapt to their conditions. Our results suggested that assistance in adapting to and coping with their roles was important and depended on the attention,listening,informed consent, and comfort in their relationships with medical staff.(Kitakamto Med J 2008;58:17∼26)