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腎障害の基礎的・臨床的検討:糸球体上皮細胞とループス腎炎

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Academic year: 2021

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腎障害の基礎的・臨床的検討:

糸球体上皮細胞とループス腎炎

廣村 桂樹

1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科生体統御内科学 私は平成元年に群馬大学第三内科に入局し腎疾患・リウ マチ性疾患の診療に携わるとともに, 腎臓を中心に基礎お よび臨床の両面より研究を続けてきました. 今回機会をい ただきましたので, これまでの研究の流れをご紹介したい と思います. 私の研究のスタートは旧第三内科先代教授の成清卓二先 生の指導のもと, 大学院に入学したことから始まりました. 成清先生はハイマン腎炎と呼ばれる膜性腎症のモデルラッ トの研究など, 免疫学的機序による腎障害の研究をされて いました. 私の学位論文は, 当時登場した免疫抑制薬のタ クロリムスが, その主要作用とされる T リンパ球の活性化 抑制とは別に, サイトカイン産生や好中球浸潤の抑制を介 してラット糸球体内血栓モデルを改善するというものでし た. 大学院卒業後は米国シアトルにあるワシントン大学の腎 臓内科教室に留学し, Shankland先生のもとで腎臓におけ る細胞周期制御蛋白に関する研究に取り組み, これらの蛋 白がメサンギウム細胞の細胞増殖だけでなくアポトーシス にも関与していることを示しました. また不死化技術に より当時ようやく培養が可能となった糸球体上皮細胞を用 いて, 細胞周期制御蛋白の研究を行いました. 1990年代後 半より家族性ネフローゼ症候群や家族性巣状糸球体 化症 の原因遺伝子が糸球体上皮細胞に存在することが明らかと なり, 蛋白尿の出現や腎不全の進行における糸球体上皮細 胞の役割がクローズアップされ始めた時期であり, 本細胞 はその後の私の研究テーマとなりました. 帰国後大学院生と一緒に, 遺伝子改変マウスなどを用い て, 糸球体上皮細胞の研究を継続しました. ちょうど当教 室の重原哲也先生が, 米国 NIH 留学中に糸球体上皮細胞 特異的プロモーターによる Tet-Onシステムの作成に成功 し,これを用いて糸球体上皮細胞特異的に HIVウイルス関 連蛋白の vprを発現するマウスを樹立して, 私たちの教室 に持ち帰ってくれました. 本マウスはドキシサイクリンを 投与すると Tet-onシステムにより糸球体上皮細胞に vpr が発現し, それにより細胞障害が生じ, ヒト HIV腎症に類 似の糸球体障害が惹起されます. 私たちは本マウスを用い て, アンジオテンシン 受容体拮抗薬投与により糸球体上 皮細胞障害がほぼ完全に抑制できることを見いだし, 一方 vpr発現とともにアンジオテンシン を持続静注すると糸 球体上皮細胞障害が促進されることを示しました. 当時, 臨床研究でレニン・アンジオテンシン系阻害薬の腎保護作 用が数多く示される中, 糸球体上皮細胞がその重要なター ゲットであることを動物モデルで明らかにしました. その後, 細胞内シグナル伝達経路に関与する受容体型膜 蛋白である SIRPαの研究に着手しました. これは当時群 馬大学生体調節研究所の的崎 尚先生 (現在神戸大学) 大西 浩 先生 (現在群馬大学保 学科)との共同研究です.的崎 先生らは SIRPαの細胞内ドメインを欠損させた変異型マ ウスを作成し, SIRPαを強く発現する免疫系細胞や神経細 胞に異常が出現することを報告されています. SIRPαが糸 ―229― 文献情報 投稿履歴: 受付 平成27年5月21日 修正 平成27年5月22日 採択 平成27年6月4日 論文別刷請求先: 廣村桂樹 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科生体統御内科学 電話:027-220-8166(教室直通) E-mail:hiromura@gunma-u.ac.jp

流 れ

2015;65:229∼230

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球体上皮細胞にも強く発現することを学会発表で知り, SIRPα変異型マウスの供与を受け検討を行いました. 光顕 レベルでは異常がないものの, 電子顕微鏡で精査すると変 異型マウスでは糸球体濾過に重要なフィルター構造を形成 する足突起の構造に乱れがあり, さらにアドリアマイシン を用いて糸球体上皮細胞を障害させると, 変異型マウスで は高度な蛋白尿を生じ腎不全に至ることを見いだしまし た. これらの結果より, SIRPαを介する細胞内シグナル伝 達経路が糸球体上皮細胞障害に対して保護的に働いている ものと えられます. 現在, 糸球体上皮細胞特異的に SIRPαを完全に欠損させたマウスを作成し検討をおこ なっていますが, 本マウスでも糸球体上皮細胞の足突起に 乱れが生じることを確認しています. さらに解析を進め, 糸球体上皮細胞障害に対する治療法の開発などにつなげら れればと思います. 臨床研究に関しては, 大学院時代, 当時発見された抗好 中球細胞質抗体 (ANCA)の論文に興味を持ち,当初自 の 血液で塗沫標本を作成し患者血清中の ANCA 測定を行う ところから始めました. そして ANCA 陽性急速進行性糸 球体腎炎例の臨床像をまとめるなど,ANCA 関連の臨床報 告を幾つか行いました. 留学後は現教授の野島美久先生の 指導のもとループス腎炎の臨床研究を行ってきました. 当 教室には成清先生の時代より多くのループス腎炎の腎生検 症例があり, ループス腎炎の組織型ごとの腎予後の検討や 免疫抑制療法に関する後方視的な臨床検討を行い報告して います. ループス腎炎に関しては学内外の教室との共同研究も進 めており, 群馬大学の臨床薬理学教室と免疫抑制薬の遺伝 子多型の関連について研究を行い, 埼玉医科大学のリウマ チ膠原病科とループス腎炎,ANCA 関連腎炎患者での尿中 糸球体上皮細胞数と糸球体上皮細胞関連蛋白の尿中濃度を 測定し, これらがバイオマーカーになりうるかを検討して います. また日本腎臓学会の 募研究として, 学会の腎生 検レジストリーに登録されているループス腎炎 1000例弱 について, 現在検討を行っています. 今後も国内外に発信 できるよう研究を進めていきたいと思います. 文献

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2. Hiromura K, Pippin JW, Fero ML, et al. Modulation of apoptosis by the cyclin-dependent kinase inhibitor p27 (Kip1). J Clin Invest 1999;103:597-604.

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4. Hiromura K,Haseley LA,Zhang P,et al. Podocyte expres-sion of the CDK-inhibitor p57 during development and disease. Kidney Int 2001;60:2235-2246.

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7. Takahashi S, Tomioka M, Hiromura K, et al. SIRPalpha signaling regulates podocyte structure and function. Am J Physiol Renal Physiol 2013;305:F861-870.

8. 廣村桂樹, 北原徳之, 黒岩 卓ら. 抗ミエロペルオキシダー ゼ抗体陽性の急速進行性腎炎症侯群 14症例の臨床的検討 日腎会誌 1995;37:573-579.

9. Hiramatsu N,Kuroiwa T,Ikeuchi H,et al. Revised classifi-cation of lupus nephritis is valuable in predicting renal outcome with an indication of the proportion of glomeruli affected by chronic lesions. Rheumatology (Oxford) 2008; 47:702-707.

10. Ikeuchi H, Hiromura K, Takahashi S, et al. Efficacy and safety of multi-target therapy using a combination of ta-crolimus, mycophenolate mofetil and a steroid in patients with active lupus nephritis. Mod Rheumatol 2014; 24: 618-625.

腎障害の基礎的・臨床的検討

参照

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