中国ハルビン市における小中学校教師の環境教育に対する意識
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(2) ているかを明らかにすることが重要であると思われる。. 教師教育での課程設計の手順について簡単に言及してい. 中国は地域によって経済発展,文化水準などに大きな. る程度にとどまっている。現在,環境教育を担っている. 格差があり,環境教育の実施状況もこうした格差に大き. 教師の実態を明らかにした研究は少ない。教師の観念,. く左右されている。北京,上海などのように非常に高レ. 情熱,興味関心,能力は,環境教育の方向性と効果に直. ベルの環境教育を実施している所もあれば,いまだ環境. 接影響を与えるものである。したがって,教師の環境問. 教育を考える余地すらない地域もある。現在,中国各地. 題に対する興味関心,環境問題の取り扱い方,研修に対. で環境教育の導入と整備が進められている中で,中国の. する希望などを明らかにすることは,環境教育の発展を. 東部地域でも最も北に位置している黒竜江省では,国及. 推進するうえで重要であると考える。. び省の政策に基づいた環境教育の整備が進められ,省都 であるハルビン市では 1990 年代後半から環境教育を実. 3.調査対象地域及び調査方法. 施する学校が増えつつあり,行政や学校において環境教. ハルビン市は,市内を黒竜江の支流である松花江が流. 育に関する教員研修を行っている。. れており,ロシア風の美しい町並みが保存されている一. 本稿では,以上のような背景のもと,ハルビン市の小. 方,経済発展に伴い,社会生活による環境汚染物質の排. 中学校において,環境教育に関する教師の意識や関心に. 出量が急速に増加している。特に,大気汚染,河川の水 質汚濁,ごみ問題(廃棄物問題)が深刻である。「ハル. ついて明らかにすることを目的とする。. ビン市環境状況公報」によると,水質汚濁の場合,2004 2.中国の環境教育に関する先行研究. 年では生活による汚水が全汚水における 79.5%を占めて. 中国の環境教育に関する先行研究には,主に政策や制. いる (16)。また,近年中国人のライフスタイルの変化を. 度に関する研究,環 境教育全般に関する研究,実践・事. 表す「白色汚染」,いわゆるプラスチック系の環境汚染. 例の紹介,カリキュラムの開発に関する研究などがある。. が深刻な問題となっており,環境問題の解決と環境教育. 政策や制度に関する研究について,劉ら (2) は,70 年代. の充実は極めて重要な課題となっている。. から 90 年代までの中国の環境教育を環境宣伝教育に関. 環境教育を進めるにあたって,ハルビン市では「環境. する重要な出来事と重ね合わせ,歴史的な発展を詳細. 保護知識を取得し,感性を磨き,問題を観察,解決する. に概観しており,黄ら (3) は,90 年代半ば以降の政策や動. 能力を育成,社会的責任感を持たせる」 (17) との指導方針. 向を紹介している。環境教育全般に関する研究では,. で小学校から高等学校までの環境教育を指導している。. (4). 祝 は,環境教育の歴史,各教科と環境教育の関係,方. 本研究では,2008 年 6 月に小学校の教師 300 名,中学. 法,評価など学校教育における環境教育について述べて. 校の教師 300 名を対象に環境教育に関するアンケート調. おり,冉ら (5) は,学校教育だけでなく職業技術教育と教. 査を実施した。調査票 600 部を配布し,回答に不備のあ. 師教育においての環境教育についても言及している。ま. るデータを削除した結果,小学校は 222 部( 74%),中. (6). た,李 は,社会全体を対象とした環境教育の理論の枠. 学校は 193 部( 64.3%)の有効回答が得られた。. 組みを構築し,学校・家庭・社会教育における環境教育. アンケート調査は,主に教師の環境問題及び環境教育. の状況について論じている。実践・事例の紹介について. の研修に対する意識を把握することを目的として,質問. は,全 (7) は,環境教育の社会教育活動について代表的な. 項目を設定した。質問内容は,環境問題に対する意識に. (8). 事例を紹介しており,曽 は,江蘇省徐州鉱務局中学校 (9). ついては,関心のある環境問題と情報源,環境問題の取. 小記者団の実践の一例を紹介し,王 は,課外活動での. り扱い方については,環境教育の学習指導時に取り上げ. 取り組みを,王 (10) は中国天津の取り組みを,周ら (11) は. た環境 問題や,授業形態など,環境教育の研修について. 北京の社会環境教育事例を,朱ら (12) は,南京市の連携. は,研修の内容や期待する研修などである。. 事例など個々の事例や取り組みについて述べている。 また,環境教育のカリキュラムに関する研究では,朱ら. Ⅱ ハルビン市における小中学校の教師の環境教育に対. (13). する意識. は小学校の各教科,汪ら (14) は中学校の各教科と環境. 教育の関連,指導方法と評価,授業案例の分析など全般 について述べており,黄ら. (15). は,環境教育に特化した. 1.調査対象の属性 アンケート回答者の内訳を表 1 と表 2 に示す。性別は. カリキュラムを開発している。. 男性が 41.9%,女性が 58.1%であり,年齢は 415 名中 20. 以上に示したように,環境教育に関する先行研究で. 代 と 30 代 が 多 く, そ れ ぞ れ 49.6 %,29.6 % を 占 め て い. は,環境教育の発展や学校教育の中での取り組みを中心. る。在職年数は表 3 に示すように,1 ~ 5 年がもっと多. としたものが主である。環境教育に関する教師教育につ. く( 51.6%)10 年以下が 70.8%を占めている。全体的に. (7). (9). (3). (5). いては,全 ,王 ,黄ら ,冉ら などが触れている. 年齢構成が若く,職業経験が浅いといえるが,これから. が,環境教育の問題点や課題を指摘したり,教員養成や. の環境教育を担う層といえる。. ― 120 ―.
(3) 表1 ハルビン市の小中学校における環境教育に関 するアンケート回答者の性別. 2.環境問題に対する教師の意識 教師が関心を持っている環境問題について,「非常に 関心がある」と「やや関心がある」を選んだ教師の比率 は,高い方から順に「大気汚染(93.7%)」,「地球温暖 化(92.3%)」, 「水質汚濁(92.1%)」, 「酸性雨(91.1%)」, 「ごみ問題(91.0%)」, 「オゾン層の破壊(90.6%)」, 「森 林破壊(88.4%)」「黄砂(87.7%)」,「騒音(85.0%)」, 「農薬による食物汚染(82.9%)」, 「土壌汚染(82.9%)」 となっている(図 1 )。. 表2 ハルビン市の小中学校における環境教育に関 するアンケート回答者の年齢構成. 関心の高い「大気汚染」, 「水質汚濁」, 「ごみ問題」は, ハルビン市に顕在化している問題であり,マスコミでも よく報道されている問題である。「地球温暖化」,「酸性 雨」,「オゾン層の破壊」の地球環境問題は,教科書に取 り上げられており,環境問題に関する国際会議などで近 年マスコミでもしばしば取り上げられている。 逆に,「森林破壊」,「黄砂」は 身近な問題で古くから 取り組んできた問題であるが,「大気汚染」「水質汚濁」 「ごみ問題」より日常生活との関わりが密接ではないた めに,関心がやや低いと考えられる。しかし,「非常に 関心がある」をみると, 「黄砂(60%)」と「森林破壊(56.6. 表3 ハルビン市の小中学校における環境教育に関す. るアンケート回答者の在職年数. %)」は,地球環境問題よりやや高い数値を示している ことがわかる。 また,「農薬による食物汚染」と「土壌汚染」の割合 が低いが,生活において切実感が乏しい上に,マスコミ の取り上げも少ないので,あまり意識していないことが 考えられる。しかし,2008 年に起った「毒ミルク事件」 (注 3 )により,今後は食物安全問題にも関心が高まる ことが推測される。 以上のように,教師たちは身近な問題や,マスコミで 取り上げられている地球環境問題に関心が高い。つま り,自分の体験とマスコミを環境問題に対する関心の入 口としていると捉えることができる。 次に,環境問題の情報源については,92.7 %の教師が 新聞や雑誌,マスコミといったメディアを通じての情報. 図1 ハルビン市において小中学校教師が関心のある環境問題. ― 121 ―.
(4) を得ており,89.4%が日常生活の中で,自分の体験を通. れている。. じて情報を得ていると回答した。家族や友達など周りの. 以上のように,環境教育は理科と社会を中心に全教科. 人々から得ている情報はやや低く,73.7%である。. にわたって実施されていることがわかった。. 中国において,70 年代に「三廃」(廃ガス,廃水,廃. また,環境教育の実施率を世代別にみると,20 代( 206. 棄物)を食い止めるための大学の専門的人材の養成から. 人)の実施率は 70.4%,30 代( 123 人)は 61.8%,40 代( 67. 始まった環境教育は,環境問題に対する認識の進化につ. 人)は 61.2%,50 代( 19 人)は 57.9%である。若い世代. れ,国の幹部,児童・生徒までを対象とした環境教育へ. ほど,環境教育の実施の割合が高くなる傾向がみられた. と変化を遂げてきた。それに伴って,人々の環境意識を. (図 3 )。. 高めるためにテレビや新聞などで環境問題についての情 報が流れ,マスコミは最も重要な情報源となっていると いえる。これからもマスコミは環境問題を知る上での不 可欠な情報源であり,環境問題に関心を持つ入口といえ る。 図3 ハルビン市の小中学校において年代別にみる 環境教育の実施状況. 3.環境教育に対する教師の意識 調査実施年度に環境教育に関係すると思われる学習 指導を実践したか否かを尋ねた。その結果,小学校では. 次に,環境教育を実施する時,教師はどんな環境問題. 68.9%,中学校では 62.2%の教師が実践したと回答した。. を取り扱っているのかを知るために,マスコミで取り上. 」 , 「国 教科別にみると,高 い方から順に「理科( 81.7%). げている「地球環境問題」や家庭からの生活排水による. 語(66.9%) 」 , 「数学(64.3%) 」 , 「英語(59.2%) 」 , 「社会(57.7. 水質汚濁や自動車排出ガスによ る大気汚染など,都市に. %) 」となっている(図 2 ) 。. おける一人ひとりの生活に起因する「都市生活型の環境 問題」や主に産業の発展,経済発展に伴う「産業公害問 題」,食物安全と関わる「土壌汚染や残留農薬による食 物汚染」を質問項目として設定した。 その結果,小中学校ともに「土壌汚染や残留農薬によ る食物汚染」が他の項目よりやや低いものの,「産業公 害問題」,「都市生活型の環境問題」,「地球環境問題」な ど,どの環境問題に対しても,約 8 割の教師が取り扱っ. 図2 ハルビン市の小中学校において教科別にみる 環境教育の実施状況. たと回答した。また,小中学校別にみると,日常生活と 密接に関わる「都市生活型の環境問題」については,小. . 中国の小中学校では特別に環境教育という授業を設置. 中学校の割合がほぼ同じで( 88.2%,88.4%),「地球環. していない。環境教育の内容を各教科に振り分ける方法. 境問題」や「産業公害」などについては,中学校の教師. で環境教育を行っている。小学校では, 「自然」と「社会」. の方が取り扱う割合が高かった(図 4 )。. の二つの既存の授業を中心として環境教育を行ってい. 教科別に取り扱っている環境問題についてみると(図. る。中学校では,「地理」,「生物」,「化学」,「物理」を. 5 ,図 6 ), 「国語」, 「数学」, 「英語」, 「社会」において,. 中心として行っている。本研究では,中学校の「地理」,. 小学校から中学校へ と学年が上がっても,取り扱う割合. 「歴史」, 「政治」を社会科として取り扱い, 「化学」, 「生. には大きな差がなく,「理科」において,全項目に対し. 物」,「物理」を理科として取り扱った。. て,中学校は小学校より取り扱う割合が高くなっていた。. アンケート調査の結果から,理科教師が環境教育を実. この理由として,小学校の「自然」では,植物と環境,. 施する割合が高く,社会科教師は比較的に低いことがわ. 動物と環境,人と環境,水の汚染と保護,大気の汚染と. かった。それは,理科の全科目において環境教育の内容. 保護,土の流失と保護,植物連鎖,生態平衡,鉱産資源. が多く含まれており,社会科においては,地理が環境教. の保護,騒音等が,また中学校の「生物」では生態学の. 育の中心的な役割を果たし,「歴史」と「 政治」は少な. 基礎知識,環境保護の基礎知識,生物と人類との関係,. いことを反映すると思われる。「国語」,「数学」,「英語」. 生物と環境との関係等が,さらに「化学」では,空気の. の割合も高いが,それら教科では教科書に環境問題が数. 汚染とその防止,水の汚染とその防止,水資源の保護,. 学問題や文章として多く取り入れられていて,それを説. 地球の温暖化,化学肥料の汚染等の内容が盛り込まれて. 明したり,環境を保護するよう注意・喚起する程度だと. いる (18) など,科目の数も内容も増えていることが考え. 考えられる。その他に道徳や体育においても若干実施さ. られる。. ― 122 ―.
(5) 図4 ハルビン市の小中学校における環境問題についての取り組み状況. 注)土壌:土壌汚染や残留農薬による食物汚染,地球: 地球環境問題,生活公害:都市生活型の環境問題. 注)土壌:土壌汚染や残留農薬による食物汚染,地球: 地球環境問題,生活公害:都市生活型の環境問題. 図5 ハルビン市の小学校における環境問題につい ての教科別取り組み状況. 図6 ハルビン市の中学校における環境問題につい ての教科別取り組み状況. 「国語」,「数学」,「英語」の授業の中でも環境問題を. 合で,「地球環境問題」と「産業公害問題」に関しては. 取り上げているが,それは,環境教育の重要性の認識の. 中学校の方が高い数値を示している。. もと,近年それら教科の中に環境問題に関する内容が多. 環境問題を空間的スケールの大小で考えるとき,「地. く含まれるようになったことである。「国語」,「数学」,. 球環境問題」は地球規模の問題で,「都市生活型 環境問. 「英語」の主要科目では,教科書に環境問題を取り扱っ. 題」は身近な問題である。中学校では小学校の社会科に. た文章があって,それを児童・生徒に説明したり,数学. 基づいて社会環境の現象や中国国内だけでなく地球レベ. の問題に気温の変化やごみの排出量の内容が取り上げら. ルでの問題が多く取り込まれている。劉ら (19) も,小学. れ,環境を保護するよう注意喚起する程度だと考えられ. 校の「社会」では,中国の人口,資源,環境に関する内. る。. 容が,中学校の「地理」では,世界の自然資源,人類の. 社会科においては,全項目にわたって小中学校で取り. 共生・共存の唯一の地球,人口の急増と生態的環境の保. 扱っている環境問題の割合に大きな差がみられないもの. 護等の内容が盛り込まれていると述べている。. の,項目別にみると,「土壌汚染や残留農薬による食物. 次に,教科内での環境問題取り扱い状況を知るため. 汚染」,「都市生活型の環境問題」は小中ともやや同じ割. に,環境問題を取り扱う際の授業形態について質問し. ― 123 ―.
(6) 図7 ハルビン市の小中学校において環境問題を取り扱う時の授業形態 た。その結果,小学校においては割合の高い順に,「環. 書による授業のほかに,課外活動がある。前者は,教科・. 境問題について討議,問答した( 88.9%)」,「環境問題. 科目の授業を通して環境教育を実施することであり,後. について説明,講義した( 88.9%)」,「授業で環境問題. 者は,主に体を動かす活動が中心で,クラスあるいは学. を取り上げ,注意・喚起した( 88.8%)」,「動植物など. 年単位で,学校内外で様々な活動を展開するものである。. を触れ合うような自然体験をした( 79.7%)」,「地域に. 以上のように,環境問題を取り扱う際,教科・科目内. 存在する環境問題について観察,調査或いは実践した. の授業では多く校内の講義や討論などの形式で実施さ. (77.8% )」となっていた。中学校においては,「授業で. れ,学校行事や課外活動においては,自由な形式での実. 環境問題を取り上げ,注意・喚起した( 95.0%)」,「環. 践が多いと考えられた。. 境問題について説明,講義した( 91.7%)」,「環境問題. 次に,環境問題を取り上げた理由について自由記述方. について討議,問答した( 84.2%)」,「地域に存在する. 式で質問した。記述内容を分類し,主な項目を図 8 に示. 環境問題について観察,調査或いは実践した(79.1%)」,. す。小学校において,記述のあった 108 人の中で,割合. 「動植物などを触れ合うような自然体験をした(77.5%) 」. が高いのは, 「⑥日常生活と密接に関わる(27.8%)」, 「⑪. であった(図 7 )。. よく目にする( 13%)」,「⑩環境問題,環境保護の意識. 小中学校ともに教科内で環境問題を取り扱う際,自然. を高める( 13% )」などであった。中学校において,記. 体験や調査といった校外での取り組みよりも,環境問題. 述のあった 72 人の中で,割合が高いのは,「⑥日常生活. について説明したり,注意・喚起及び討議といった校内. と密接に関わる( 31.9%)」, 「⑪教科内容と関わる( 23.6. での取り組みの形式を多く使用していることがわかった。. %)」,「⑫関心を持っている( 10%)」などであった。. 中国の学校教育における環境教育の場は,学校の教科. これらの理由は,以下のように分類することが可能で. 図8 ハルビン市において小中学校の教師が環境問題を取り扱う理由 ― 124 ―.
(7) ある。主に「環境問題そのものを重視した(①②③)」, 「生活環境との関わりを重視する(④⑤⑥⑦)」,「教育 者としての児童・生徒の立場から(⑧⑨⑩)」,「仕事関 係から(⑪)」, 「自分の関心による(⑫)」に分けられる。 小学校は,日常生活との関わりと環境問題そのものに対 する重要性から生じた理由や,児童・生徒の立場からの 理由が多く,中学校では,日常生活との関わりと環境問 題そのものに対する重要性から生じた理由や,教師自身. 図10 ハルビン市において小中学校の教師が経験した 環境教育に関する研修形式の状況. の関心,教科との関わりの理由が多い。すなわち,環境 問題が日常生活に影響を与えており,環境問題の重要性. で,校長や主任などのリーダーシップに対する指導や学. を認識しているので,授業で環境問題を取り扱おうとし. 校の教育活動全体を通じて位置づけるよう年間の教育計. ている傾向が明らかとなった。. 画等を作成するよう期待するものなどであると考えられ. なお,中学校において 17 人が「教科内容と関わる」と. る。2006 年ハルビン市の行政側で実施した研修のスケ. 記述しており,高い数値を占めている。内訳をみると,. ジュールをみると,環境教育の理論,実践事例の紹介や. 17 人中,理科が 7 人,数学が 5 人,国語と社会が各 2 人,. 教育活動での取り組みに関する意見交換などがあった。. 英語が 1 人であった。. 学校・学年での研修は,行政の方針に応じて,学校独自 で教師や教科共通理解のもとで特別講座を開いたり,授. 4.環境教育に関する研修に対する教師の意識. 業モデルの紹介や取り組みに対する指導であると考えら. 環境教育 に関する研修について, 小学校は 58.6%,. れる。例えば,学校独自で「黄砂」に詳しい専門家や市,. 中学校は 51.8%が研修経験があると回答した。学校全体. 区の環境保護局宣伝教育センターの専門家を講師として. や学年単位での研修や実践は,小学校で 50.9%,中学校. 特別講座を開いたり,全校規模で教師たちが街に出て植. で 45.6%であり,個人としての研修や実践は,小学校で. 樹したり,ごみを拾うなどの取り組み,また学年あるい. 50.9%,中学校で 39.9%であり,行政による研修や実践. は教科別に取り組んだ環境教育の優秀な授業案を発表す. は,小学校で 39.6%,中学校で 25.5%であった。選択肢. るなどである。. に挙げられたすべての研修において小学校の方が中学校. 個人としての研修は,教師自身が授業案作成時の調査. より割合が高く,行政による研修や実践経験は,小中学. 活動や,実践事例の検討などが考えられる。. 校ともに他の研修を下回っている(図 9 )。. 次に,環境教育において教師は何を求めているのかを 知るために,今後参加したい研修について質問した。そ の結果,どの研修内容に関する項目も 8 割以上( 82.0% ~ 95.3%)が「望ましい」と答えた。小学校において望 ましい研修は,割合が高い順に「身近な環境問題を取り 扱った授業案作成や教材作成能力を目指した研修 (91.9 %)」,「環境教育の歴史,目標,内容や先行実践例など を紹介する研修( 88.2%)」,「環境調査,野外学習,調 べ学習,実験観察など教授スキルを目指した研修( 87.9 %)」,「地球環境問題を取り扱った授業案作成や教材作. 図9 ハルビン市において小中学校の教師が環境教育 に関する研修の経験状況. 成能力を目指した研修( 82.0%)」となっている。中学 校においては,「身近な環境問題を取り扱った授業案作. 上 記 の 研 修 の 形 式 に つ い て,「 環 境 教 育 の 理 念 や 歴. 成や教材作 成能力を目指した研修( 95.3%)」,「環境教. 史,環境科学について講義する研修」,「身近な環境を体. 育の歴史,目標,内容や先行実践例などを紹介する研修. 験したり,計測する実習,又は各校種における環境教育. ( 94.8%)」,「地球環境問題を取り扱った授業案作成や. 実践を検討するという事例研究を行う研修」の中から一. 教材作成能力を目指した研( 90.2%)」,「環境調査,野. つ選択するようにした。その結果,小中学校ともに,理. 外学習,調べ学習,実験観察など教授スキルを目指した. 論を中心とした研修(小 37.7%,中 41.0%)よりも実践. 研修( 85.5%)」の順となっている(図 11)。. を中心とした研修(小 62.3 %,中 59.0%)の方が多かっ. 小中学校ともに,教授スキルよりも環境教育の理念と. た ( 図 10)。. プログラム開発能力の方がやや高い割合を示している。. 行政による研修は,国の指導のもとで,環境保護局環. 一方, 「非常に望ましい」をみると,小学校では, 「身近. 境教育宣伝教育センターと教育局などの環境行政の共催. な環境問題を取り扱った授業案作成や教材作成能力を目. ― 125 ―.
(8) 図11 ハルビン市において小中学校の教師が望んでいる研修. 図12 ハルビン市において小中学校の教師が教材作成に使いたい環境問題. 図13 ハルビン市の小中学校の教師において環境教育に関する自己評価. 指した研修( 57.7%)」,「環境調査,野外学習,調べ学. 境問題を素材として,中学校の教師は地球環境問題を取. 習,実験観察など教授スキルを目指した研修( 57.7%)」. り扱う研修を最も望んでいると言える。. が高い数値を示しており,中学校では,「地球環境問題. 具体的にどんな素材が良いのかについて,環境教育の. を取り扱った授業案作成や教材作成能力を目指した研修. 教材を開発する際に,取り扱いたい環境問題や現象につ. ( 62.7%)」,「身近な環境問題を取り扱った授業案作成. いて自由記述で尋ねた。取り上げられた問題の数は 416. や教材作成能力を目指した研修( 61.1%)」が比較的高. で,そのうち高い数値を示しているのが,「水汚染 (19.2. い数値を示した。. %)」「大 気汚染( 15.1%)」「ごみ問題( 11.3%)」「地球. 以上の結果から,環境教育カリキュラムの中で,小中. 温暖化( 10.3%)」であった。その中で,小学校におい. 学校ともに教師は,主にプログラム開発能力を目指した. て は,「 水 汚 染( 19.4%)」,「 ご み 問 題( 13.6%)」,「 大. 研修を望んでおり,そのうち,小学校の教師は身近な環. 気汚染(12.4%)」,中学校においては, 「水汚染(19.0%)」. ― 126 ―.
(9) 「大気汚染( 19.0%)」,「地球温暖化( 9.8%)」 が高い. 化学,物理,地理,歴史,美術,音楽等)の中で扱い,. 数値となっていた(図 12)。. 各教科や科目の授業を通して環境教育が実施されてい. 次に,環境教育を教える側として自分に何が必要であ. る。ハルビン市では,課外活動において,定期的に清掃. ると思っているのかを明らかにするために,環境に関す. や宣伝活動などの社会実 践活動が実施されている。した. る知識理解,環境に関する調査,実験,観察などの技能・. がって,今後は,単に環境を保護する活動をするのでは. 技術,環境教育の指導方法の三項目で質問した。その結. なく,教科内での理論や認識を実践活動と結びつけて,. 果,小中学校ともに,どの項目も 8 割以上の教師が必要. 環境問題はどのように起ってきてどうであるのかについ. であると回答した。. ての学習が重要であるといえる。. 年代別にみると,どの世代においても「環境に関する. 基礎教育課程改革や環境教育に関する政策の公布によ. 知識理解」の割合がやや高く,40 ~ 50 代の教師は,20. り,環境教育を具体的にカリキュラムとして構成するこ. 代と 30 代の教師の比べ,どの項目も比較的低い数値を. とが学校に求められており,教師にカリキュラム作成能. 示した。また,「非常に必要である」をみると,20 代の. 力が求められるようになった。アンケート調査からも,. 教師は知識,技能,方法三項目ともほぼ同じ割合でそれ. ハルビン市の小中学校の教師は,環境教育に関するプロ. ぞれ 56.3%,52.4%,54.9%であった。30 代では,技能・. グラム開発能力を最も必要としており,現在広く認識さ. 技術(44.7%)が知識理解(61.0%)と指導方法(65.9%). れている地球温暖化と身近な大気,水,ごみ問題での教. に比べてかなり少ないことがわかった(図 13)。. 材作成のための研修プログラムを望んでいることが明ら かになった。. Ⅲ 考察. 環境教育は地域の身近な問題に目を向けた内容で構成. アンケート調査の結果から,環境問題の全項目におい. し,学習を始めることが有効である (20)。ハルビン市に. て 8 割以上の教師が関心を持っており,その中でも身近. おいては,地域の身近な環境問題を素材とした具体的な. な環境問題と近年教科書やマスコミで取り上げている地. 環境教育のプログラムを開発し,学校に普及するのが有. 球環境問題に関心が高いことがわかった。一方,騒音,. 効であると考えられる。. 食物,土壌といった問題には関心が低かった。なお,中 国では 90 年代から「アースデー」の活動を展開し,中. Ⅳ まとめ. 国中央テレビ局のホームページに地球環境問題を紹介し. 本研究では,ハルビン市における小中学校の教師の環. ている。また,環境教育の実施と研修経験の有無につい. 境問題や,環境教育に関する研修に対する意識や関心を. てみると,両方の経験がある教師は 48.4%,一方だけの. 明らかにすることを試みた。その結果をまとめると以下. 経験がある教師は 24.3%で,両方とも全く携わっていな. の通りである。. い教師は 27.3%であった。そのため,教師が環境教育に. ハルビン市の小中学校教師の環境問題に対する意識に. 関する研修や活動に参加する機会を増やすことが重要で. ついては,身近な環境問題と現在広く認識されている地. あると考えられた。. 球環境問題に関心が高い。一方,身近な問題であっても. ハルビン市の環境教育は,教育局と環境保護局の主導. 切実感が乏しく,マスコミであまり取り上げられていな. で知識として教えるだけでなく,実践活動を通して環境. い問題については関心が低い。すなわち,教師が環境問. を保護する習慣の修得に努めている。その方針に基づい. 題に関心を持つきっかけの一つにマスコミがあるといえ. て,学校当 局は,教師に各教科において環境教育の視点. る。. に立って内容を構成し,授業を行うよう指導するととも. 環境教育の実施については,小中学校ともに環境問題. に,課外活動を通して様々な社会実践活動を実施してい. を取り扱う教科は,理科の割合が高く,若い世代の教師. る。しかし,単に活動を行うだけで,環境教育について. ほど環境教育に積極的に取り組んでいることが明らかに. の意義づけが不足している。. なった。また,学年が上がるにつれて,理科での割合は. アンケート調査から,環境問題の取り扱いについて. 増加し,社会科ではより広い視点から社会的な現象を取. は,各教科において地球環境問題や産業公害問題などが. り扱っていることがわかった。教科・ 科目内で環境問題. 幅広く取り扱われており,理科が中心的な役割を担って. を取り扱う場合,主に講義や討議の形式を取っており,. いることが明らかになった。また,教科内で環境問題を. 実践的な取り扱いは少なかった。実践的な取り扱いは主. 取り扱うとき,自然体験や調査といった校外の取り組み. に課外活動においてみられたが,今後は各教科と関連付. よりも校内での講義や討議の形式を多く使用しているこ. けた環境教育が望まれる。. とがわかった。. 環境教育関する研修については,約半数の教師が研修. 現在,中国の学校教育における環境教育では,環境科. の経験を有しており,学校・学年での研修や個人として. 学の内容を学校の既存の教科や科目(国語,自然,生物,. の研修が多かった。また,現在広く認識されている地球. ― 127 ―.
(10) 温暖化や身近な大気,水,ごみを素材とした教材作成を. 育―計画と実施』 中国化学工業出版社,環境科学. 中心とする研修が求められていることが明らかになった。. 工程出版中心,387p,2003 (16) ハルビン市環境保護局 「ハルビン市環境状況公. ー注ー. 報」2005. 1. 地域独自で学習内容を定める課程のこと。. (17) 国家環境保護総局宣伝教育中心「 2006 年全国緑色. 2. 学校独自で学習内容を定める課程のこと。. 創建工作会議 2006 年 4 月 23 日~ 26 日広西桂林資料. 3 2008 年,中国各紙は,有毒物質メラミンが混入した. 集」2006. 粉ミルクによる乳児の腎臓結石が全国に広がってい. (18) 前掲( 2)p.19. ることを報じた。. (19) 前掲( 2)p.19 (20) 文部省 『環境教育指導資料(小学校編)』 大蔵 ー 文献 ー. 省印刷局,p. 8 ,1992. ( 1 ) 原 子 栄 一 郎「 持 続 可 能 な 開 発 時 代 に お け る 環 境 教育のための教師教育:その通観的研究」『東京学 芸大学環境教育実践施設研究報告環境教育学研究』 ( 10),pp.31-41,1998 ( 2 ) 劉継和,田中実「中国における環境教育の発展」 『北 海道教育大学環境教育情報センター環境教育研究』 ( 3),pp.15-32,2000 ( 3 ) 黄 宇, 諏 訪 哲 郎「 中 国 の ≪ 中 小 学 環 境 教 育 実 施 指南」の背景,内容と展望」『環境教育』17( 2), pp.69-77,2007 ( 4 ) 祝 懐 新『 環 境 教 育 論 』 中 国 環 境 科 学 出 版 社, 341p,2002 ( 5 ) 冉・宏,文宏為,田良 『基礎教育新概念環境教育』 教育科学出版社,pp.24-36,2000 ( 6 ) 李久生『環境教育論綱』江蘇教育出版社,282p, 2005 ( 7 ) 全浩「中国における環境教育をめぐって」『東京学 芸大学環境教育実践施設環境教育研究』( 6),pp.9398,1996 ( 8 ) 曽貧「中国における環境教育の成立」 藤岡貞彦 編『<環境と開発>の教育学』 同時代社,pp.306321,1998 ( 9 ) 王民 『中国中小学校環境教育研究』 中国環境科 学出版社,168p,1999 (10) 王宗敏「中国の小・中学校における環境教育の概 況」『環境教育』12( 2),pp.73-78,2002 (11) 周又紅,韓静「中国における青少年への環境教育 の実践」『環境教育』18( 1),pp.82-88,2008 (12) 朱照明,呉銀立,宋振亜,王麗娜,諏訪哲郎 「中 国の環境教育における学校・行政・環境 NPO の連携 ―南京市龍江小学校の事例―」 『環境教育』18( 1), pp.98-105,2008 (13) 朱長林,楼振華,瀋愛忠 『小学校環境素質教育』 中国環境科学出版社,2003 (14) 汪建紅,王芝平 『中学校環境素質教育』 中国環 境科学出版社,360p,2003 (15) 黄宇,田青,郭玉峰 『学校教育における環境教 ― 128 ―.
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