* 連絡先著者(Corresponding author):〒283-8555 千葉県東金市求名一番地 E-mail:[email protected]
論文
ORIGINAL ARTICLE
SET*,PMV を用いたバルコニー部における緑のカーテンの温熱環境
改善効果
鈴木弘孝
*1)・加藤真司
2)・桑沢保夫
2)・藤田 茂
3)1) 城西国際大学 Josai International University
2) 国立研究開発法人建築研究所 Building Research Institute
3) (有)緑花技研 Ryokka Giken Co.,Ltd.
摘要:本研究は,緑のカーテンによる温熱環境改善効果を評価するため,カーテンの有無による放射環境を計測し,体感温熱指標で あるSET*と PMV を算出して,比較検証を行った。計測の結果,正味放射量ではカーテンを設置した場合は設置しない場合に比べ ると,20%程度に低減していた。SET*値では,日中はピーク時で 1~2℃低減する一方,夜間の時間帯では最大で 3℃前後上昇が見 られた。PMV 値では,カーテンを設置した場合でも,「暑い」を示す+3 評価となり,顕著な改善は見られなかった。以上により, SET*値による体感温度の差は認められたものの,PMV 値での温冷感は人が「暑い」と感じる範囲にとどまり,暑熱環境下での PMV 値の屋外への適用には課題を残した。 キーワード:緑のカーテン,立面緑化,室外バルコニー,温熱指標,SET*,PMV
SUZUKI, Hirotaka, KATO, Masashi, KUWASAWA, Yasuo and FUJITA, Shigeru: The thermal environment improvement effects of a green curtain on an outdoor balcony using the indices of SET* and PMV.
Abstract: This study was intended to evaluate the cooling effects of green curtains. We conducted the experiments with and without a green curtain. As the result of installing a green curtain, the solar transmittance indicated 0.17 and net radiation was reduced about 20 %. We calculated the indices of SET* and PMV from measuring data. The value of SET* at the peak in the daytime was reduced by 1 to 2 ℃ with a green curtain below the level without a green curtain. The value of PMV was increased to +3 at the peak time in both cases.
Key words: green curtain, vertical greening, outdoor balcony, thermal indices, SET*, PMV
1. はじめに
近年は小・中学校や市町村等の公的施設を中心として,ツ ルレイシ(Momordica charantia L. var. pavel Crantz)等の つる性植物をネット等で誘引し,夏季の日射遮蔽による暑熱 緩和を図る緑のカーテンが普及しつつある。特に,2011 年 3 月11 日の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故によ る影響から,国民の節電意識が高まり,一般住宅においても 緑のカーテンの普及が広がりを見せている。 緑のカーテンの設置による屋内の温熱環境改善効果を検 証した既往研究として,梅干野ら3)は,ベランダにつる植物 (ヘチマ)を用いた被覆を行い,建築物内部への日射遮へい効 果として,夏季の日射透過特性と表面温度を計測することで, 室温の上昇を抑制する効果を検証している。同じく,梅干野 ら4)は,ヘチマとアサガオを用いた植栽スクリーンを製作し, 夏季の晴日において,植栽スクリーンの日射透過特性と表面 温度分布について計測した結果,いずれの植物も葉の表側の 表面温度は日射量との相関が強く,日射量300kcal/m2h 前後 では表面温度は気温とほぼ等しく,日射量がそれ以下では気 温より低く,日射量がそれ以上では表面温度が気温よりも 2 ~3℃上昇することを報告している。福田ら 1) は横浜市内の 小学校や保育園等 69 箇所に設置された緑のカーテンについ て,表面温度観測や室内気温の観測によってその効果を確認 した。また,成田9) は,小学校の校舎に設置された緑のカー テンによる,教室の温熱環境改善効果について実測し,緑の カーテンは教室の放射環境の改善に寄与している一方で,通 風阻害というマイナスイナス面があること,温熱環境指標 SET*による評価結果から放射温度による体感温度の低下は 通風阻害による上昇量の2 倍程度であること,照度の低下は 1/3 程度となることを明らかにした。同じく,成田ら10) は緑 のカーテンの葉群層から各々約30 cm離れた表面と裏面の気 温を比較した結果,有意な温度差は認められず,葉群層を通 過した空気が冷却されているという証拠は得られなかったと している。高山ら13) は,一般住宅をモデルとして西側壁面
論 文
表-1 計測機器一覧表
Table 1 List of measuring instruments
に蔓性植物を使った登攀型の緑のカーテンを設置した場合に おけるガラス窓日射熱負荷軽減量を算定することを目的とし て,地表面全天日射量に基づく窓面の透過日射熱負荷算定モ デルについて検討を行い,窓面の透過日射熱負荷の積算値は 概ね観測による実測値と一致し,モデルの有効性を示した。 加藤ら6) は,集合住宅を利用して,緑のカーテンの設置量の 違いと簾との比較により,緑のカーテンは簾よりも大きな室 温低下傾向があることを確認するとともに,緑のカーテンの 節電効果を算定し,窓の開放時においては通風性と日射遮蔽 性を併せ持つ緑のカーテンの体感温度での有利性を指摘して いる。軸丸ら5) は,緑のカーテンがある場合とない場合の教 室内温度の測定を行った結果,室内温度は緑のカーテンがあ る場合は,ない場合に比べて 1~2 ℃,外気温に対しては 4 ~5 ℃低くなっていることを報告している。 以上のように,緑のカーテンの温熱環境改善効果について 既往研究の蓄積が見られるが,いずれも緑のカーテンの設置 による室内の温熱環境評価を主にしたものがほとんどであ り,室外バルコニー部での屋外の温熱環境を評価した研究例 はほとんど見られない。一方で,最近ではベランダの手摺部 に予め緑のカーテンを設置するためのフックやプランター受 け等の設備が整備されたマンション 11) も見られるようにな ってきた。今後,都市市街地部でのマンション等の集合住宅 において,身近に緑に触れあえる空間としてバルコニー部を 有効に活用することで,都市部の立面緑化の推進にも寄与す ることが期待できる。 そこで,本研究は,大学構内の教育棟バルコニー部を対象 として緑のカーテンを設置した場合と設置しない場合の放射 環境を計測し,SET*と PMV(Predicted Mean Vote)の温 熱指標を用いて比較検証を行い,緑のカーテンの設置による 屋外での温熱環境改善効果について定量的に評価することを 目的とした。 2.研究の方法 2.1 計測器の設置 千葉県東金市内にある大学キャンパス内の教育棟の1 階及 び2 階に位置する,同じ方位と広さ・形状を有する 2 教室の バルコニー部を計測対象として,1 階バルコニー部にはツル レイシの苗を2 株ずつ定植したプランター6 基を 2012 年 7 月5 日に設置した。2 教室は同じ場所の上下階の位置関係に あり,建物は南南東向きで,西側は室外,南側がバルコニー, 東側が廊下に接していた。教室の大きさは,縦8.7 m, 横 8.3 m, 高さ 3.0m であった。窓面は,横幅 8.3 m のうち,5.0 m がガラス窓となっており,床面から天井面までの全面がガラ ス面で,使用されたガラス板は厚さ8mm の熱反射ガラスで あった。1 階バルコニー部は,前庭の地上部から 1.2 m の高 さであった。実験計測時には,教室内の空調は作動せず照明 も落とし,窓面は全て閉じた状態で計測した。 カーテンに使用したツルレイシの苗は,縦17~25 cm, 横 66~75 cm,深さ 25 cm のプランター6 基に,市販の園芸用 土をそれぞれ約20 L を入れて,6 月 20 日に苗を定植し,直 達日射を避けて大学構内の実習棟の屋根つきの屋外で養生を 行った。ツルレイシの苗は,大学近隣のホームセンターで入 手した5 号ポットの苗を使用した。植物への灌水は,用土の 地表面および植物からの蒸発散量に影響を与えるため,毎日 各プランターに6 時と 18 時の 2 回 2L を養生期間中は手やり にて行い,計測場所への移動後は自動灌水器((株)カクダイ社 製:灌水コンピューター502-302)から各プランター毎にゴム 製のチューブを配置して,定時に自動灌水を行った。使用し た計測器は表-1に示すとおりである。また,計測に使用した 教室の方位と1 階のバルコニー部での計測器の位置は図-1 に 示すとおりである。計測時のカーテンの被覆状態は写真-1 に 示す通りで,被覆率は96.5%,葉面積指数(LAI)は 1.1 であっ た。1 階と 2 階のバルコニー部における計測器の設置状況は, 写真-2 から写真-4 に示すとおりである。 2.2 計測の方法 屋外の一般気象状況を把握するため,計測に使用した教育 図-1 バルコニー1 階部の計測機器の設置図 Fig. 1 Setting place of measuring instruments
計測項目 計測器 メーカー名 型番 数量 設置場所 1 階 バルコニー バルコニー2 階 前庭 気温・湿度 小型温湿度センサー(3 m ケーブル付/0-1v) Vaisala HMP-60HT-03C 3 基 ● ● ● 風速・風向 セパレート風向風速センサー R.M.YOUNG CYG-3002 1 基 ● 風速・風向 2 成分超音波風速計 R.M.YOUNG CYG-85000-JK 3 基 ●2 基 ●1 基 グローブ温度 グローブ温度計 クリマテック C-BB-15cm-JK 2 基 ● ● 短波日射量 日射計(class 2) Hukseflux CHF-LP02-c-JK 2 基 ● ● 長短波放射量 長短波放射計 Hukseflux CHF-NR01 2 基 ● ● 計測記録 マイクロロガー Campbell C-CR1000-4M 2 基 ●(室内) ●(室内) 176 鈴木 弘孝・加藤 真司・桑沢 保夫・藤田 茂
写真-1 計測場所の状況(8 月 17 日) Photo 1 Situation of the experiment site
写真-2 一般気象の測定機器設置状況
Photo 2 Situation of measuring instruments of weather data
写真-3 1 階の計測器設置状況
Photo 3 Situation of measuring instruments at 1st floor
写真-4 2 階の計測器設置状況
Photo 4 Situation of measuring instruments at 2nd floor
棟南側の前庭に,写真-2 に示すように温・湿度計,日射計 を地面から1.5m の位置に,風向・風速計を 2.0m の位置に 設置した。日射計の計測面は,地面と平行にして上に向けて 設置した。長短波放射計は,計測面をバルコニー床面に垂直 方向にして窓ガラス面から30cm 程離し,床面から 1.5m の 高さにガラス面と平行となるように設置した。カーテン面 より屋外の南東側を「表側」,カーテン面よりバルコニー側 を「裏側」として,カーテン近傍での風速と風向の微細な変 化を計測するため,カーテンの表側と裏側に,カーテンから 約30cm 離し,床面から 1.5m の同じ高さに 2 成分超音波風 速計を設置した。グローブ温度計と温・湿度計は,1 階と 2 階のバルコニー内にカーテン面と屋外の手摺部にほぼ平行に 並列させ,床面からは1.5m の位置に設置した。さらに,カ ーテンの表側には,日射計をカーテンから約50cm 離して超 音波風速計とほぼ同じ高さで,計測面をバルコニー床面に垂 直方向にして,カ-テン面とは平行にして屋外側を向けて設 置した。上述の計測器設置状況を写真-2 から写真-4 に示す。 3.結果と考察 3.1 気象概況 一般気象条件として,図-2 は気温と湿度,図-3 は風速と風 向について,8 月 4 日から 8 月 10 日までの 7 日間の経時変化 を示したものである。図-2 より,気温について,最高気温は 8 月 9 日の 14 時に 33.7 ℃,最低気温は 8 月 4 日の 6 時に 23.1 ℃を記録した。7 日間の平均気温は 27.5 ℃であった。 湿度について,最高値は8 月 7 日の 6 時に 96.4 %,最低値 は8 月 7 日の 14 時に 57.2 %を記録し,7 日間の平均湿度は 82.5 %であった。図-3 より,風速について,最大風速は 8 月4 日の 14 時に 3.5 m/sec を記録した。7 日間の平均風速は 0.4 m/sec であった。風向については,250 deg (西北西の風) が優勢であった。8 月 7 日から 10 日にかけては,深夜 0 時か ら翌朝8 時にかけて,南東から北の風まで大きく変動した。 以下に,最高気温が30℃以上の「真夏日」であった 8 月 8 日~10 日までの 3 日間を選定して,解析を行った。 3.2 日射透過率の算定 日射量について,緑のカーテンの表側では太陽からの直達 日射と周囲からの散乱日射を受ける。緑のカーテンの効果と して,壁面外壁や窓面が受ける入射日射量を遮ることで,外 壁面の温度上昇を抑制する効果が指摘できる。カーテンの表 面と裏面の入射日射量を計測し,日射透過率を算出した。日 射透過率(α)は,式 1 で表すことができる。 α = S2 / S1 (1) ここで,S1:カーテン表側の入射日射量(W/m2), S2:カーテン裏側 の入射日射量(W/m2) 日の出から間もない時間帯,日没に近い時間帯は日射の入 射角も低いため,数値のばらつきが見られることから,入射 日射量の数値が比較的安定している8:00~18:00 までの日射 透過率の経時変化を図-4 に示す。日射透過率の 3 日間の計測 長短波放射計 長短波放射計 2 成分超音波 風速計 2 成分超音波 風速計 日射計 グローブ 温度計 グローブ 温度計 日射計 風向・風速計 温・湿度計 温・湿度計 温・湿度計 2 成分超音波 風速計 長短波放射計 2 成分超音波 風速計他 177 SET*,PMV を用いたバルコニー部における緑のカーテンの温熱環境改善効果
図-2 気温・湿度の経時変化
Fig.2 Change of air temperature and humidity
図-3 風速・風向の経時変化
Fig. 3 Change of wind velocity and wind angle
値を平均すると0.17 であった。これより,緑のカーテンの設 置により,入射日射量の83%がカーテン裏側のバルコニー部 ではカットされていることとなる。 3.3 放射収支の比較 図- 5 は,カーテンを設置しないバルコニー部での短波放射 量と長波放射量のそれぞれの入射量(W/m2)と反射量(W/m2) について,経時変化を示したものである。同様に,図-6 はカ ーテンを設置した場合のバルコニー部での短波放射量と長波 放射量の入射量(W/m2)と反射量(W/m2)の経時変化を示した ものである。両者の比較から,カーテンを設置した場合には 入射日射量(S↓)が大きく低減し,ガラス面からの反射日射量 (S↑) もほとんどゼロに近い状態となっている。短波放射量 と長波放射量の放射収支は,式 2 により正味放射量 (Rn : W/m2)として算出することができる。 Rn = ( S↓-S↑) +( L↓-L↑) (2) ここで,S↓:入射日射量(W/m2), S↑:反射日射量(W/m2),L ↓:入射長波放射量(W/m2), L↑:反射長波放射量(W/m2) (2)式で算出した正味放射量(Rn)の経時変化を図-7 に示す。 これより,カーテンなしの場合には正味放射量(Rn)がピー ク時には340.2 W/m2から370.0 W/m2を示したのに対して, カーテンありの場合には69.4W/m2から104.3W/m2と大きく 低減している。カーテン設置により入射日射量を低く抑える ことで,図-8 より回帰直線の傾きより正味放射量(Rn)は,カ ーテンなしの場合はありの場合に比して20%程度に低減され ていることが分かる。正味放射量を抑制することにより 建物側から大気側への顕熱を抑制することができ,暑熱環境 改善に寄与する効果を定量的に補足することができる。 図-4 日射透過率の経時変化
Fig. 4 Change of solar transmittance
図-5 放射収支の経時変化(カーテンなし)
Fig. 5 Change of net radiation (without green curtain)
3.4 SET*による評価 SET*は,「温熱感覚および放熱量が実在環境におけるもの と同等になるような相対湿度50%の標準環境の気温8)」と定 20 25 30 35 50 60 70 80 90 100 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 8/4 8/5 8/6 8/7 8/8 8/9 8/10 気 温 (℃ ) 湿 度 (% ) 湿度(%) 気温(℃) 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 0 50 100 150 200 250 300 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 0: 00 4: 00 8: 00 12 :0 0 16 :0 0 20 :0 0 8/4 8/5 8/6 8/7 8/8 8/9 8/10 風 速 (m /s ec ) 風 向 (d eg ) 風向(deg) 風速(m/sec) 0.0 0.1 0.2 0.3 0 :0 0 4 :0 0 8 :0 0 1 2: 00 1 6: 00 2 0: 00 0 :0 0 4 :0 0 8 :0 0 1 2: 00 1 6: 00 2 0: 00 0 :0 0 4 :0 0 8 :0 0 1 2: 00 1 6: 00 2 0: 00 8/8 8/9 8/10 0 100 200 300 400 500 600 0: 00 4: 00 8: 00 12 :00 16 :00 20 :00 0:00 4:00 8:00 12 :00 16 :00 20 :00 0:00 4:00 8:00 12 :00 16 :00 20 :00 8/8 8/9 8/10 W/ ㎡ 入射長波放射量 輻射長波放射量 入射短波放射量 反射短波放射量 178 鈴木 弘孝・加藤 真司・桑沢 保夫・藤田 茂
図-6 放射収支の経時変化(カーテンあり)
Fig. 6 Change of net radiation (with green curtain)
図-7 正味放射量の経時変化 Fig. 7 Change of net emission
図-8 カーテンなしとありの正味放射量の関係
Fig. 8 Relation of net emission between with or without green curtain 義され,体感温度に近い屋外環境を評価する温熱指標として 使用されている。SET*の算出に必要な測定項目は,気温,相 対湿度,風速,グローブ温度の物理的条件の他に,人間の着 衣量 (clo)と代謝量 (Met)が必要であり,具体的には式 3 によ り,算出することできる。本稿では夏の軽装を想定し,既往 の研究2)と文献12)を参考として,放射率 1.0,人体からの全 熱放射量を算出する際の着衣量を0.30 clo (半袖・半ズボン), 人体の代謝量を1.0Met(椅子座位・読書)と仮定して,Gagge ら(1986)の方法2)を用いて求めることができる。 C +R +Esk= Fcls・fcls・hs・(tsk-SET*) +w・LR・Fpcls・hcs・(Psk,s-0.5・PSET*,s)
(3) ここで,C:皮膚からの対流熱伝達[J/m2・h・℃],R:皮膚から 図-9 SET*の経時変化 Fig. 9 Change of SET* value
の伝導熱損失[w/m2],Esk:皮膚からの蒸発熱損失[w/m2],熱伝達 率[W/m2・℃],tsk:平均皮膚温度[℃],SET*:標準有効温度[℃],
W:皮膚濡れ面積率[-],LR :ルイス数[-],Fpcl:皮膚の露出率[-], hcs:対流熱伝達率[J/m2・h・℃],Psk,s:皮膚温度に対する飽和蒸 気圧[kPa],PSET*,s :温度SET*での飽和蒸気圧[kPa]
図-9 は,カーテンの有無によるバルコニー部での SET*の 経時変化を示したものである。3 日間の計測日では,いずれ も 10 時の時点でピークとなり,カーテンありの場合は,な しの場合と比較して1~2℃低減していた。一方,18 時頃か ら深夜2 時頃にかけては,カーテンありの方がなしの場合よ りも最大で2~3℃上回る傾向が見られた。気温と湿度につい ては,今回の計測値からカーテンの有無による差異はほとん ど見られなかった。また,風速については,カーテンありの 場合には,なしの場合に比較して,約6 割程減速していた。 これより,日中のピーク時は入射日射量もピークとなり,カ ーテンありの場合には日射量が大幅に低減していることが SET*の低減に作用しているのに対して,夜間はカーテンの有 無による気温と湿度に差異が認められないことから,カーテ ンの設置による風速の低減が SET*値にプラス側に寄与した と考えられる。 3.5 PMV による評価
PMV(Predicted Mean Vote)は,デンマーク工科大学の Fanger が提唱した温熱指標で,暑い~寒いまでの人間の温熱 感覚を7 分割し,+3~-3 の数値を割り振ったものである7)。 気温・相対湿度・平均放射温度・風速の物理要素に人間の着 衣量・代謝量の6 つの要素を組み合わせて,式 4 より算出す ることができる。 PMV = f (M) × S (4) f (M) = 0.303e-0.036M+0.028:代謝量Mの関係係数 S = M-W-Ed-Es-Ere-Cre-R-C:人体の熱収支式 ここで,M:代謝量 [W/m2], Ere:呼吸による潜熱損失量 [W/m2], W:機械的仕事量[W/m2], Cre:呼吸による顕熱損失 量[W/m2],Ed:不感蒸泄量[W/m2], R:放射熱損失量[W/m2], Es :皮膚面よりの蒸発熱損失量[W/m2], C:対流熱損失量[W/m2] 本稿では,SET*の場合と同様に,着衣量を0.30clo(夏服・ 半袖・半ズボン),人体の代謝量を1.0Met(椅子座位・読書)と 仮定した。算出の結果を,図-10に示す。PMVは人間の温熱 環境の感じ方を7段階で示すものであり,「暑い」に相当する 0 100 200 300 400 500 600 0: 00 3: 00 6: 00 9: 00 12: 00 15:00 18:00 21:00 0:00 3:00 6:00 9:00 12:00 15:00 0018: 21:00 0:00 3:00 006: 9:00 12:00 15:00 18:00 21:00 8/8 8/9 8/10 W/ ㎡ ) 入射長波放射量 輻射長波放射量 入射短波放射量 反射短波放射量 -50 0 50 100 150 200 250 300 350 400 0 : 0 0 3 : 0 0 6 : 0 0 9 : 0 0 1 2 : 0 0 1 5 : 0 0 1 8 : 0 0 2 1 : 0 0 0 : 0 0 3 : 0 0 6 : 0 0 9 : 0 0 1 2 : 0 0 1 5 : 0 0 1 8 : 0 0 2 1 : 0 0 0 : 0 0 3 : 0 0 6 : 0 0 9 : 0 0 1 2 : 0 0 1 5 : 0 0 1 8 : 0 0 2 1 : 0 0 8/8 8/9 8/10 正 味 放 射 量 (W /㎡ ) カーテンあり カーテンなし y = 0.2001x + 5.0672 R² = 0.7615 0 20 40 60 80 100 120 0 100 200 300 400 正 味 放 射 量 (カ ー テ ン あ り )(W/ ㎡ ) 正味放射量(カーテンなし)(W/㎡) 15 20 25 30 35 40 0: 00 4:00 8:00 12: 00 16: 00 20: 00 0: 00 4:00 8:00 12: 00 16: 00 20: 00 0: 00 4:00 8:00 12: 00 16: 00 20: 00 8/8 8/9 8/10 SE T* (℃ ) カーテンなし カーテンあり 179 SET*,PMV を用いたバルコニー部における緑のカーテンの温熱環境改善効果
図-10 PMV の経時変化 Fig. 10 Change of PMV value
数値は+3とされる。これより,カーテンありの場合には,な しの場合に比較して,9時から16時にかけて「暑い」と感じ る時間を緩和する傾向が見られる一方で,夜間から深夜にか けては逆にカーテンなしの方が相対的に涼しく感じられる傾 向が見られた。これは,カーテンの設置によりバルコニー内 の風速値が大きく低減していることによる通風阻害が主たる 要因と考えられる。PMV値の温冷感は,中立値付近で対応性 が良いとされ,平均放射温度も10~40℃での適用が有効とさ れている14)ことから,屋外における暑熱環境下での適用には 限界を有していると考えられる。 4.まとめ 本研究では,緑のカーテンの有無による室外バルコニー部 での温熱環境の違いを評価するため,大学構内の教室外バル コニーを対象として実証実験を行い,解析を行った。本研究 において得られた主な知見は,以下のとおりである。 (1) 日射透過率 0.17 の緑のカーテンでは,カーテンなしの場 合に比べ,正味放射量が70~80%低減していた。これは,入 射日射量の低減によるもので,顕熱の低減に寄与し,屋外温 熱環境の改善効果の高いことを示している。 (2) 室外バルコニー部での戸外活動の体感温熱環境を評価す る指標としてSET*と PMV を用い,着衣条件(0.3clo)と代謝 量(1.0Met)を仮定して,それぞれの数値を算出した。SET* 値については,日中10 時から 14 時にかけてカーテンの設置 により約2℃低減したが,日没後の 19 時から深夜 2 時頃にか けては,カーテンありがなしの場合よりも最大で3℃以上, 上 回っていた。カーテン設置による通風阻害が要因と考えられ る。 (3) PMV 値については,カーテンなしの場合,日中 10 時か ら14 時にかけて+3 を大きく上回り,戸外での活動環境とし ては適さない温熱条件と判断される。一方,カーテンの設置 により,PMV 値を底下させる傾向は見られるものの,ピーク 時にはカーテンなしと同様「+3」となり,「暑い」と感じる 環境条件を改善するまでには至っていない。 以上により,カーテンの設置の有無による教室外のバルコ ニー部での温熱環境の違いについて SET*と PMV という温 熱指標により評価した結果,日中ピーク時において緑のカー テン設置による体感温度の改善について定量的な評価を行う ことができたが,PMV 値の屋外環境評価への適用には課題を 有しており,室内との違いを考慮した補正が必要と考えられ る。 謝辞:本研究は,日本学術振興会の科学研究費補助金により 実施したものである。ここに記して感謝の意を表します。 引用文献 1) 福田亜佐子・佐俣満夫 (2008) 緑のカーテンの温度低減効果. 横浜市環境科学研究所報, 第 32 号: 22-26.
2) Gagge, A.P., Fobelets, A.P. and Berglund, L.G. (1986) A standard predictive index of human response to the thermal environment. American society of heating, refrigerating and air- conditioning engineers, inc. Vol.92, part 2B: 709-731. 3) 梅干野晁・山下富大 (1983) ツル植物によるベランダ植栽の 日射遮蔽効果に関する実験研究.日本建築学会建築環境工学 論文集, 5: 141-146. 4) 梅干野晁・山下富大(1984)ツル植物によるスクリーンの日 射遮蔽効果.日本建築学会建築環境工学論文集, 6: 140-145. 5) 軸丸勇士・藤本裕一・島崎 卓 (2008)「緑のカーテン」の降 温 効果とそ の利用.日本科学教育学会九州・沖縄支部会. pp.13-20. 6) 加藤真司・桑沢保夫・石井儀光・樋野公宏・橋本剛・池田今 日子 (2012) 集合住宅における緑のカーテンの温熱環境改善 効果研究.日本緑化工学会誌, 38 (1): 39-44. 7) 木下朋行 (2006) IT 時代における計測制御技術の動向 (2) PMV 制御による室内環境最適化制御. 空気調和・衛生工学, 80 (3): 35-42. 8) 空気調和・衛生工学会編 (1995) 第 12 版空気調和・衛生工学 便覧. 空気調和・衛生工学会, pp. 467-469. 9) 成田健一 (2007) 緑のカーテンが教室の温熱環境に及ぼす効 果. 環境情報科学論文集, 21: 501-506. 10)成田健一 (2009) 緑のカーテンは周囲空気を冷却するか?. 環 境情報科学論文集, 23: 167-172. 11)野村不動産ホールディングス (2012) CSR 報告書 2012. 野村 不動産g, 39pp. 12)鈴木弘孝・三坂育正・水谷敦司・田代順孝 (2006) WBGT, SET*による壁面緑化の温熱環境改善効果の評価. ランドス ケープ研究, 69 (5): 441-446. 13)高山 成・山本晴彦・吉越 恆・岩谷 潔・原田陽子・山崎 俊成・立石欣也 (2011) 蔓植物を使った夏季の壁面緑化によ る日傘効果とガラス窓日射熱負荷軽減量の算定. 日本建築学 会環境系論文集, 76 (661): 247-254. 14)山田宏之 (1996) 各種温熱環境指数を用いた夏季緑陰の温熱 環境評価. ランドスケープ研究, 59 (5): 65-68. (2015.6.24 受理) -2 -1 0 1 2 3 4 0: 00 3:00 6:00 9:00 12:00 15:00 18:00 21:00 0:00 3:00 6:00 9:00 12:00 15:00 18:00 21:00 0:00 3:00 6:00 9:00 12:00 15:00 18:00 21:00 8/8 8/9 8/10 PM V[ - ] カーテンあり カーテンなし 180 鈴木 弘孝・加藤 真司・桑沢 保夫・藤田 茂