必要的差戻しについて
片野β良
一二
三
四
五 はじめに
ライヒ裁判所(民事連合部)一九〇八年一〇月一九日決定
民事連合部決定以前のライヒ裁判所の判例
ZPO五三八条の立法史
中間判決に対するZPO五三八条の適用の可否
一はじめに
第一審裁判所は﹁職権により﹂訴えを裁判権系列の選択(Rechtsweg)C̀不適法にもとづき排斥したが︑これ
に対して控訴審は裁判権系列の選択を適法と解した場合であっても︑控訴審はZPO五三八条一項二号を適用
し︑事件を第一審に差し戻すべきであるか否かの問題について︑当時ライヒ裁判所の判断は区々であったため︑
民事第七部によりこの問題についての民事連合部の決定が要請された︒以下にみる民事連合部の決定はこれを肯
定的に︑すなわち差戻しを認めるべきであると解したものである︒
必要的差戻しについて=ハ五(1)
一六六(2)
現行法の解釈としては︑右の場合︑第一審に差し戻すことが通説・判例であるが︑ZPO成立当初は︑差戻し
は第一審において防訴抗弁について被告が責問し︑それについての弁論が分離された場合にだけ行われると解す
るのが︑通説・判例であった︒民事連合部の決定がなされた後︑学説・判例において︑弁論が分離されない場合
であっても差戻しを行うことを認める見解が通説となったが︑リンメルスパッハーは︑訴訟要件と本案要件との
同一価値説を理由づける一つの根拠として︑差戻しがなされるのは弁論が分離された場合に限定されるとの見解
く )をとっている︒
なお︑民事連合部決定は︑弁論が分離されていない場合であっても︑差戻しが必要であると判示したが︑第一
審が本案に関して十分審理した場合についても差戻しが必要であるかついては︑踏み込むことを控えている
(もっとも︑結論としては差戻しを必要とすべきであるとしている)︒この問題については︑原審が本案について
十分な審理を行っているときは︑上級審による請求についての自判を認めるべきことを︑すでに主張したことが
ある︒
ここで取り上げるライヒ裁判所の民事連合部決定は︑職権による訴え却下判決の場合におけるZPO五三八条
ヨ 一項二号の差戻しについて判断したものであるが︑そのほか訴え却下判決の移審範囲の問題や不利益変更禁止原
る 則の適用の問題に関してもしばしば引用されている︒
注(1)
(2)
( ) Rimmerspacher,ZurPrufungvonAmtswegenimZivilprozess,1966,S.201ff.
拙稿﹁ドイッにおける上告審の自判について﹂愛大=二九号一一五頁︒
Bettermann,AnfechtungandKassation,ZZP88,388°
(4)Botticher,ReformatioinpeiusandProzeBurteil,ZZP65,465°
ニライヒ裁判所(民事連合部)一九〇八年一〇月一九日決定冤ON刈ρ霜り]
﹁連合部が問題に対して下した肯定的決定の理由は以下のような考慮にもとついている︒
ライヒ裁判所の判例ならびに民事訴訟法に関する注釈書では︑反対の見解が有力に主張されている︒これらは
その根拠として主にZPO五三八条の例外的性質︑すなわち一項二号における抗弁の概念に防御として提出され
た法的救済(vorgeschutzenRechtsbehelf)6意味よりほかの広い意味を付加することは禁じられていることを
指摘している︒従来のライヒ裁判所の裁判例において︑問題となっている二つの場合についての異なる取扱いは
訴訟上ならびに実体上の意味を有するものとされている︒なぜなら︑防訴抗弁が被告によって抗弁の方法で主張
されたときだけ防訴事項について審理を分離することができると説明されているからである︒これに対して︑完
全な本案審理の後︑職権によって考慮された防訴障害にもとついてなされた判決は本案自体についの裁判であ
り︑単に問題とされた訴訟要件についての裁判ではないとする︒なぜなら裁判官は︑抗弁がなされない場合︑
ZPO二七五条の意味における訴訟要件とそれ以外の訴訟資料とを形式的に切り離す権限を全く有していないか
らであるとする︒五三八条の目的‑控訴審裁判官が第一審におけるのと同じように事件について裁判することを
禁止することーが二つの場合に同じように妥当するとしても︑かかる考慮から五三八条二号の例外的規定を明確
な意味および条文を越えて類似の場合に拡張することはできないとされている︒当事者の新しい訴訟資料の提出
により控訴審裁判官が本来の法的紛争について初めて裁判するという状況に至ることは︑他の場合においてもし
必要的差戻しについて一六七(3)
ニハ八(4)
ばしば生じうるが︑五三八条二号の立法理由‑控訴審の判決が第一審で裁判された争点とは別の争点にまで及ぶ
場合︑訴訟の対象は第一審の対象とは別のものになるであろうーは︑本件のような種類の場合に適合していない
とされる︒なぜなら︑この場合第一審の裁判官は訴訟の全体にたずさわっており︑単にひとつの(当事者の合意
がある場合全く存在しない)争点だけでなく︑職権によって持ち出された問題にもとついてではあるけれども︑
訴訟の全体について裁判したからであるとする︒
これらの説明は︑一部は維持しえないし︑一部は肯定的解答のためにあげられている根拠に対して決定的なも
のとは解されえない︒ZPO五三八条においてはいわゆる控訴の移審効の例外︑すなわち控訴審において法的紛
争が(申立によって決定される範囲において)新たに審理惑れるという︑五二五条の一般的原則の例外が問題と
なっているのではあるが︑控訴の移審効の範囲をより正確に決定するのは五三七条である︒五三七条からは︑第
一審の弁論ではなく︑不服に係る判決が重要であることが明らかとなる︒判決の内容から︑いかなる範囲で控訴
審は訴訟の裁判をする権限があるかの問題の解答が引き出されうる︒提起された請求が認められあるいは否定さ
れた範囲についてのみ︑控訴審は新たに裁判しなければならない︒控訴審は既に第一審において提起された請求
について初あて︑すなわち第一審のように︑裁判すべきではない︒むしろ︑当事者はあらゆる請求について二回
の裁判を受ける権利を有しているが︑個々の争点について二回の裁判を受ける権利を有してはいない︒むしろ︑
控訴審の審理・裁判の対象は認容されたあるいは否定された請求に関する全ての争点である︒第一審で弁論され
ていないあるいは裁判されていない争点であることもありうるであろう︒したがって︑控訴審の裁判が新たなあ
るいは第一審においては考慮されないままであった争点の評価にもとついていることもしばしば生じうるが︑そ
れは提起された請求について初あて裁判することとは少し異なる︒控訴審がそのような裁判を下さねばならない
状況に至ることは通常は生じない︒ZPO五二九条二項に規定されている例外がこのことを確証している︒
五三八条一項二号のもとにこのような通例に対する例外が含まれているか否か︑あるいはいかなる範囲で含ま
れているかは︑同条の二号と三号を比較することによりもっとも明らかとなる︒この場合︑(ZPO二七五条もし
くは三〇四条による)中間判決に対して控訴がなされている場合については︑考慮する必要がない︒これらの場
合には差戻しの命令はおよそ必要でない︒なぜなら︑これらの場合︑本案についての争いあるいは金額について
の争いは初めから第一審に係属したままであるからである︒中間判決に対する控訴については第二審において審
理・裁判がなされ︑同時に第一審において本案あるいは請求の金額について審理・裁判されることが可能である
(二七五条二項二文︑三〇四条二項二文)︒二号の場合に防訴抗弁にもとついて訴えが排斥された場合︑あるいは
三号の場合に請求原因の否定にもとついて訴えが排斥された場合︑差戻しの命令がなされないかぎり差戻しは不
適法となるので︑明確な命令が必要であることは明らかである︒他方︑この命令の立法理由は両者の場合におい
て全く異なっている︒
三号の場合には︑第一審裁判官は提起された本案請求を裁判していること︑それ故控訴審もまた問題となって
いる全ての争点を裁判しなければならないことは︑即座に明らかである︒控訴審の立場から金額の審理が必要で
あることが判明した場合︑ZPO五三七条の規定により控訴審はかかる争点について自ら裁判しなければならな
い︒しかしながら︑法律は通例の場合とは逆に合目的性の考慮から訴訟を第一審に差し戻すことを命じている︒
したがって︑この場合には真正の例外規定が存在するので︑学説・判例も旧規定の三号を訴え排斥の場合に拡張
することを適法とは解していなかったし︑そのためには一八九八年の改正による特別な規定が必要とされたわけ
である︒
必要的差戻しについて=ハ九(5)