遺贈の持戻しについて
その他のタイトル Sur le rapport des legs
著者 千藤 洋三
雑誌名 關西大學法學論集
巻 52
号 4‑5
ページ 1060‑1092
発行年 2003‑03‑20
URL http://hdl.handle.net/10112/2009
( 1 )
日本民法九 0 三条一項によれば、遺贈は、婚姻・養子縁組•生計の資本の三種類の贈与と同じく特別受益財産と
して︑被相続人の反対の意思表示がない以上︑原則的に持戻し対象財産となっている︒そして︑これらの特別受益を
受けた者が共同相続人中にいれば︑被相続人が相続開始時に有した財産の価額︵遺産額︶にその贈与の価額を加えた
ものを相続財産とみなし︑法定相続分︵九
0
条︶・代襲相続分︵九 0 0
一 条
︶ ・
指 定
相 続
分 ︵
九
0 二
条 ︶
よって算定した相続分の中からその遺贈または贈与の価額を控除し︑その残額をもってその者の相続分とする︒この
は じ め に
目 次 一 は じ め に ニフランス民法における遺贈の持戻し 三日本民法における遺贈の持戻し 四 結 び に 代 え て
遺贈の持戻しについて
千
藤
五
洋 ( 1 0
六 0
)
の三カ条に
遺 贈
の 持
戻 し
に つ
い て
五
( 1
0 六
一 ︶
場合︑贈与については︑その額を算出しその名目額を遺産額に加算するが︑遺贈については︑相続開始当時︑なお被
相続人の手にあったものと見て加算する必要はないと解されている︒通説・判例である形成権
1 1 物権的効果説によれ
ば︑遺贈物そのものは︑遺言者死亡と同時に受遺者の所有物になるはずであるが︑遺贈の持戻しに際しては︑まだ被
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相続人の残した遺産の中に入っていると一種の擬制をするのである︒ともあれ︑贈与と遺贈のいずれも持戻しされる
のが原則であり︑いわば例外的に贈与者あるいは遺贈者が反対の意思表示をしていた場合には遺留分に関する規定に
反しない範囲内で効力を有する︵九 0 三条三項︶︒要するに︑遺贈に焦点をしぼっていえば︑共同相続人の一人に遺
贈がなされていても︑この受遺者は原則として遺贈物を持戻す義務を負い︑遺言者が免除する場合に限って持戻しを
( 3 )
ところで︑わが国の特別受益財産の持戻し制度の源流の一っとなっているフランス民法では︑当初は︑わが国と
同様に︑贈与・遺贈とも原則として持戻しに服したが︑現在では︑贈与とは異なり︑遺贈は原則として先取分として
相続分外に行ったものとみなされ︑被相続人による反対の意思が表明される場合にはじめて︑受遺者は自己の相続分
と差引きでなければ︑その遺贈を主張することができないとされている︵仏民八四三条二項︶︒より詳細にいえば︑
一 八
0 四年制定のフランス民法典は︑遺贈を贈与と同様に︑原則として持戻させることを要件とし︑例外的に贈与
者・遺言者が意思表示により持戻しを課することを認めた︒これが明治民法制定時にわが国に継受︵旧規定一
0
七 0
条︶され︑今日でも︑遺贈は贈与と同じく原則として持戻し対象財産となっており︑被相続人が持戻し免除の意思を
表明した場合に限って免除されるという仕組みになっている︒しかし︑ 免
れ る
︒
フ ラ
ン ス
で は
︑
一 八
九 八
年 の
民 法
一 部
改 正
で ︑
遺言者が遺言という形で推定共同相続人中の特定者に遺贈を行うときは︑その遺贈分を特別な好意で︑あるいは特定
第五二巻四・五号
者の貢献行為に報いるために︑特定者である受遺者に財産を提供するというのが通常の意思であると推定され︑結局︑
遺贈は贈与とは異なり︑原則として先取分として相続分外に行ったものとみなされ︑逆に遺言者が要求したときに
限って持戻しを課するというように明文規定が改められた︒これに比して︑明治民法下のわが国では︑諸外国の立法
例を参考にしつつ特別受益の持戻し制度が継受され︑﹁遺産相続﹂の中に上述したような贈与・遺贈のいずれも原則
持戻しとする規定が明文化され︵単独相続システムである﹁家督相続﹂には︑基本的に共同相続人の間での公平性維
持を主眼とする本制度を設ける必要はなかった︶︑フランスでの改正が特に問題となることもなく今日に至っている︒
結論から先にいえば︑私は︑わが民法においても︑フランス民法同様に︑遺贈は原則として先取分として相続分外に
行われるものと解するのが妥当であり︑わが民法の体系上からいえば︑遣贈は原則として持戻し免除付きでなされた
ものと解することが可能ではないかと提言するものである︒
日本民法において︑遺言者が共同相続人の一人に遺贈をした場合︑この遺贈は遺留分減殺の対象財産となること
はいうまでもないが
( I
0 1
=
一 条
・ 1
0 三三条︶︑すでに見てきたように︑さらに原則として特別受益財産となり持
戻しの対象になる︵九 0 三条︶︒そうすると︑せっかく︑遺言者がある特定の相続人に特別授益を行おうとしたにも
かかわらず︑他の共同相続人との間で公平維持のために︑この遺贈が生きてこないということになりかねない︒わが
民法解釈の遺贈に対するこのような冷めた扱いが︑いわゆる﹁相続させる﹂旨の遺言の大流行を招いた隠れた原因の
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︱つであるように私には思われる︒つまり︐遺贈を行う遺言者の意思は︑本来は︑共同相続人の一人である受遺者に︑
その者の本来の法定相続分外に先取分として特別の恵与を行おうとするものと扱われるべきはずであるが︑わが国で
は︑法定相続分内の恵与︵そこにおける遺贈のメリットは単に当該遺贈物を優先的に取得できるにすぎない︶である 関法
五 四
( 1
0 六
遺 贈
の 持
戻 し
に つ
い て
と多数説により解されてきたことによる︒もちろん︑持戻し免除の意思表示をすればよいが︑この制度の存在があま
り知られておらず︑利用されることも少ないという事情をも踏まえれば︑そうした公平性に過ぎた解釈が︑﹁相続さ
せる﹂旨の遺言による遺言者の意思を最優先させる方法を一般化させたといえよう︒そこでは当然のことながら︑当
該財産は特別受益でもなんでもなく単に分割方法が指定されたに過ぎないとして︑持戻しの対象財産から意図的には
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︵