気管支喘息患者に対する看護師による吸入指導 の効果
医療法人康曜会プラーナクリニック看護科₁),医療法人康曜会プラーナクリニック呼吸器内科₂),群馬大学医 学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科₃)
中井 晶子
1)・ 青木 康弘
2)・ 松田 智恵
1)・ 鈴木 雅文
3)原 史郎
2)・ 須賀 達夫
2,3)・ 前野 敏孝
3)・ 倉林 正彦
3)要 旨 気管支喘息は,気道炎症,気道過敏性の亢進,可逆性の気道閉塞を特徴とする慢性疾患である.気管支喘息の治療 では気道炎症をコントロールすることが最も重要であり,標準治療として吸入ステロイド薬が用いられる.しかし気管支 喘息患者の中には,病態理解が不十分なために,吸入ステロイド薬に対する誤った認識を持ち,自己判断で吸入を中止し てしまう患者が存在する.当院では看護師が吸入指導を行うことにより,患者の病態に対する理解度,標準治療と治療継 続の必要性に対する理解度の改善を認めた.また初回指導後 6 ヶ月~12ヶ月を経過すると,吸入アドヒアランスには問 題なくても,気管支喘息理解度の低下が見られることから,定期的な吸入指導の継続が必要と考えられた.
Key words:気管支喘息,吸入ステロイド薬,吸入指導,アドヒアランス
原 著
緖 言
気管支喘息は気道の慢性炎症性疾患であり,組織学的 には好酸球,リンパ球,マスト細胞などの細胞浸潤と気 道上皮の剥離を特徴とする.臨床的には繰り返し起こる 咳嗽,喘鳴,呼吸困難が,また生理学的には可逆性の気 道狭窄と気道過敏性の亢進が特徴的で,気道が過敏なほ ど喘息症状が著しい傾向にある₁).気管支喘息の治療で 最も重要なことは気道炎症のコントロールであり,標準 治療には吸入ステロイド薬が用いられる.
吸入ステロイド薬は,投与量も少なく安全に使用する ことができる.その目的は,①喘息症状の軽減,②生活 の質(QOL)および呼吸機能を改善,③気道過敏性の軽
減,④気道炎症の抑制,⑤急性増悪の回数および強度の 改善,⑥長期の吸入ステロイド薬の維持量の減少,⑦喘 息にかかる医療費の節減,⑧気道壁のリモデリングの抑 制,そして⑨喘息死の減少₂),とされている.しかし患 者の中には,気管支喘息の病態理解が不十分であるため,
吸入ステロイド薬に対する誤った認識を持ち,自己判断 で吸入治療を中止してしまう患者が存在する.
そこで看護師による吸入指導が,気管支喘息や吸入療 法に対する患者の理解を高め,アドヒアランスの向上に 寄与するかを検討した.
対象と方法
平成₂₅年 ₁ 月~平成₂₅年 ₇ 月に気管支喘息と診断され
診 察
④ 診
察
③ 診
察
②
アンケート③ 看 護 師 に よ る 吸 入 指 導
④ アンケート②
看 護 師 に よ る 吸 入 指 導
②
看 護 師 に よ る 吸 入 指 導
③
診 察
① アンケート①
看 護 師 に よ る 吸 入 指 導
①
初診 再診(2〜4週間後) 再診(4〜8週間後) 再診(6〜12ヶ月後)
図 1 吸入指導プログラム
気管支喘息患者に対する看護師による吸入指導の効果
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2回目および3回目アンケート 1.気管支喘息について、どのように理解していますか? ( )風邪と同じだと思っている。 ( )発作だけの(急性の)病気だと思っている。 ( )持続する(慢性の)病気だと思っている。 ( )よくわからない。 2.気管支喘息の治療を、どのように理解していますか? ( )内服治療が重要である。 ( )ステロイド(気管支の炎症を治す)の吸入が重要である。 ( )気管支拡張薬(気管支を拡げる)の吸入が重要である。 ( )よくわからない。 3.気管支喘息治療は、どのように使えばよいと理解していますか? ( )症状が無くなっても完治するまで続ける事が大切である。 ( )症状が無くなれば終了である。 ( )よくわからない。 4.生活の上での留意点 ( )たばこの影響は非常に大きい。 ( )気管支喘息はしっかり治療すると完治することがある。 ( )よくわからない。 5.今回、当院看護師からの吸入アドバイスについて、満足度を教えてください。 不満やや不満普通やや良い良い 12345 6.吸入薬について、効果や使い方の満足度と、不満点を教えてください。 <吸入薬の効果> 不満やや不満普通やや良い良い 12345 <吸入機器の使い方> 不満やや不満普通やや良い良い 12345 167.現在、たばこを吸っている方にお聞きします。 ( )禁煙するつもりは無い ( )いつかは禁煙したい ( )近いうちに禁煙するつもり ( )今回で、タバコをやめた ( )今回、禁煙治療を受けてみたい ご協力ありがとうございました。
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図2−1 アンケート内容 1回目アンケート 気管支喘息について、皆さんへどのように説明・検査・治療を提案すればよいか、今後の参 考として、役立てて参ります。ご協力のほど、どうぞよろしくお願い致します。 そう思うものに全部に( ○ )をお願い致します。 1.今まで(以前は)、気管支喘息についてどのように思っていましたか? ( )風邪のことだと思っていた。 ( )発作だけの(急性の)病気だと思っていた。 ( )持続する(慢性の)病気だと思っていた。 ( )よく知らなかった。 2.今回の説明で気管支喘息について、どのように理解しましたか? ( )風邪のことだとわかった。 ( )発作だけの(急性の)病気だとわかった。 ( )持続する(慢性の)病気だとわかった。 ( )よくわからなかった。 3.気管支喘息の治療薬を、どのように理解しましたか? ( )内服治療が重要である。 ( )ステロイド(気管支の炎症を治す)の吸入が重要である。 ( )気管支拡張薬(気管支を拡げる)の吸入が重要である。 ( )よくわからなかった。 4.気管支喘息治療薬は、どのように使えばよいと理解しましたか? ( )症状が無くなっても、完治となるまで続ける事が大切である。 ( )症状がなくなれば終了である。 ( )よくわからなかった。 5.生活の上での留意点 ( )たばこの影響は非常に大きい。 ( )気管支喘息はしっかり治療をすると完治することがある。 ( )よくわからなかった。 146.現在、たばこを吸っている方にお聞きします。 ( )禁煙するつもりは無い ( )いつかは禁煙したいと思う ( )近いうちに禁煙するつもり ( )今回、禁煙治療を受けてみたい ご協力ありがとうございました。
図 2 ― 1 アンケート内容
図 2 ― 2 吸入指導チェックシート
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担当看護師次回の予定月日(): 吸入指導3回目月日(): ID 氏名歳 ・ 事前チェックリスト □ ACT ( )点 □呼吸機能検査の再検査が行われているか確認 ・ 事前情報をチェックする・呼吸機能検査(治療後データ確認) ・医師による初診時の気管支喘息重症度分類%FEV1.0 % □軽症間欠型 %PEF % □軽症持続型 フローボリューム □中等症持続型 %V50 % □重症持続型 %V25 % ・ 気管支喘息の理解 □ 好酸球(アレルギー)による慢性的な気管支の炎症と気道閉塞があること □ 正常、症状の無い気道閉塞、症状のある気道閉塞、発作状態の気道閉塞があること □ 継続した治療が喘息を治すこと、放置すると喘息は徐々に悪化していくこと □ 禁煙が重要であること、受動喫煙も避けるべきであること ・ 吸入ステロイドの理解 □ 吸入ステロイドが気管支喘息の第一選択であること □ 吸入ステロイドは治療・予防薬で、発作止め(気管支拡張薬)ではないこと □ 吸入ステロイドは安全であること ・ 治療の目標の理解 □ 咳、痰、喘鳴、息切れ、夜間覚醒(咳や喘鳴)、睡眠障害などがなくなること □ 喘息の寛解(薬の減量や中止は可能であること、ただしピークフローが必要のことがある) □ 感覚による判断をしないほうがよいこと(呼吸機能検査やACTを用いることが必要) ・ 吸入デバイスの理解 □ アドエアディスカス□ フルタイドディスカス □ シムビコート□パルミコート □ アドエアエアゾール □その他( ) ・ピークフロー該当者の説明 ・喘息を繰り返している ・妊婦または妊娠希望 19 ・喘息を治しながら、薬を安全に減らしてみたい ・自分の気管支喘息のことを詳しく知りたい 担当看護師 特に問題が無ければ、次回から医師の診察のみになります。 17図2−2吸入指導チェックシート 吸入指導1回目・2回目月日(): ID 氏名歳 診察 後に行う事 ・ 事前チェックリスト □ 「吸入療法サポートチームからのおしらせ」の概略を説明する。 □ 「気管支喘息アンケート」をお願いする。 □ ACT ( )点 ・ 事前情報をチェックする ・医師による初診時の気管支喘息重症度分類 □間欠型 □軽症持続型 □中等症持続型 □重症持続型 ・ 気管支喘息の理解 □ 好酸球(アレルギー)による慢性的な気管支の炎症と気道閉塞があること □ 正常、症状の無い気道閉塞、症状のある気道閉塞、発作状態の気道閉塞があること □ 継続した治療が喘息を治すこと、放置すると喘息は徐々に悪化していくこと □ 禁煙が重要であること、受動喫煙も避けるべきであること ・ 吸入ステロイドの理解 □ 吸入ステロイドが気管支喘息の第一選択であること □ 吸入ステロイドは治療・予防薬で、発作止め(気管支拡張薬)ではないこと □ 吸入ステロイドは安全であること ・ 治療の目標の理解 □ 咳、痰、喘鳴、息切れ、夜間覚醒(咳や喘鳴)、睡眠障害などがなくなること □ 喘息の寛解(薬の減量や中止は可能であること、ただしピークフローが必要のことがある) □ 感覚による判断をしないほうがよいこと(呼吸機能検査やACTを用いることが必要) ・ 吸入デバイスの理解 □ アドエアディスカス□ フルタイドディスカス □ シムビコート□パルミコート □ アドエアエアゾール □その他( ) 18担当看護師次回の予定月日(): 吸入指導3回目月日(): ID 氏名歳 ・ 事前チェックリスト □ ACT ( )点 □呼吸機能検査の再検査が行われているか確認 ・ 事前情報をチェックする・呼吸機能検査(治療後データ確認) ・医師による初診時の気管支喘息重症度分類%FEV1.0 % □軽症間欠型 %PEF % □軽症持続型 フローボリューム □中等症持続型 %V50 % □重症持続型 %V25 % ・ 気管支喘息の理解 □ 好酸球(アレルギー)による慢性的な気管支の炎症と気道閉塞があること □ 正常、症状の無い気道閉塞、症状のある気道閉塞、発作状態の気道閉塞があること □ 継続した治療が喘息を治すこと、放置すると喘息は徐々に悪化していくこと □ 禁煙が重要であること、受動喫煙も避けるべきであること ・ 吸入ステロイドの理解 □ 吸入ステロイドが気管支喘息の第一選択であること □ 吸入ステロイドは治療・予防薬で、発作止め(気管支拡張薬)ではないこと □ 吸入ステロイドは安全であること ・ 治療の目標の理解 □ 咳、痰、喘鳴、息切れ、夜間覚醒(咳や喘鳴)、睡眠障害などがなくなること □ 喘息の寛解(薬の減量や中止は可能であること、ただしピークフローが必要のことがある) □ 感覚による判断をしないほうがよいこと(呼吸機能検査やACTを用いることが必要) ・ 吸入デバイスの理解 □ アドエアディスカス□ フルタイドディスカス □ シムビコート□パルミコート □ アドエアエアゾール □その他( ) ・ピークフロー該当者の説明 ・喘息を繰り返している ・妊婦または妊娠希望
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担当看護師次回の予定月日(): 吸入指導3回目月日(): ID 氏名 ・ 事前チェックリスト □ ACT ( )点 □呼吸機能検査の再検査が行われているか確認 ・ 事前情報をチェックする・呼吸機能検査(治療後データ確 ・医師による初診時の気管支喘息重症度分類%FEV1.0 □軽症間欠型 %PEF □軽症持続型 フローボリューム □中等症持続型 %V50 □重症持続型 %V25 ・ 気管支喘息の理解 □ 好酸球(アレルギー)による慢性的な気管支の炎症と気道閉塞があること □ 正常、症状の無い気道閉塞、症状のある気道閉塞、発作状態の気道閉塞があること □ 継続した治療が喘息を治すこと、放置すると喘息は徐々に悪化していくこと □ 禁煙が重要であること、受動喫煙も避けるべきであること ・ 吸入ステロイドの理解 □ 吸入ステロイドが気管支喘息の第一選択であること □ 吸入ステロイドは治療・予防薬で、発作止め(気管支拡張薬)ではないこと □ 吸入ステロイドは安全であること ・ 治療の目標の理解 □ 咳、痰、喘鳴、息切れ、夜間覚醒(咳や喘鳴)、睡眠障害などがなくなること □ 喘息の寛解(薬の減量や中止は可能であること、ただしピークフローが必要のことがあ □ 感覚による判断をしないほうがよいこと(呼吸機能検査やACTを用いることが必要) ・ 吸入デバイスの理解 □ アドエアディスカス□ フルタイドディスカス □ シムビコート□パルミコート □ アドエアエアゾール □その他( ) ・ピークフロー該当者の説明 ・喘息を繰り返している ・妊婦または妊娠希望 17図2−2吸入指導チェックシート 吸入指導1回目・2回目月日(): ID 氏名歳 診察 後に行う事 ・ 事前チェックリスト □ 「吸入療法サポートチームからのおしらせ」の概略を説明する。 □ 「気管支喘息アンケート」をお願いする。 □ ACT ( )点 ・ 事前情報をチェックする ・医師による初診時の気管支喘息重症度分類 □間欠型 □軽症持続型 □中等症持続型 □重症持続型 ・ 気管支喘息の理解 □ 好酸球(アレルギー)による慢性的な気管支の炎症と気道閉塞があること □ 正常、症状の無い気道閉塞、症状のある気道閉塞、発作状態の気道閉塞があること □ 継続した治療が喘息を治すこと、放置すると喘息は徐々に悪化していくこと □ 禁煙が重要であること、受動喫煙も避けるべきであること ・ 吸入ステロイドの理解 □ 吸入ステロイドが気管支喘息の第一選択であること □ 吸入ステロイドは治療・予防薬で、発作止め(気管支拡張薬)ではないこと □ 吸入ステロイドは安全であること ・ 治療の目標の理解 □ 咳、痰、喘鳴、息切れ、夜間覚醒(咳や喘鳴)、睡眠障害などがなくなること □ 喘息の寛解(薬の減量や中止は可能であること、ただしピークフローが必要のことがある) □ 感覚による判断をしないほうがよいこと(呼吸機能検査やACTを用いることが必要) ・ 吸入デバイスの理解 □ アドエアディスカス□ フルタイドディスカス □ シムビコート□パルミコート □ アドエアエアゾール □その他( )
気管支喘息患者に対する看護師による吸入指導の効果
吸入療法が開始となった症例のうち,看護師による吸入 指導を行った₄₃例を対象に,アンケートを行った.
図 ₁ に看護師による吸入指導プログラムを示す.初診 で医師の診察を受けた後に ₁ 回目のアンケートを行い,
その後看護師による吸入指導を約₃₀分かけて行った.指 導時にはACTを使用し,症状変化の確認を行った.再診 時には,まず看護師による吸入指導を₃₀分程度行い,続 いて ₂ 回目のアンケートを行った後に,医師の診察を受 けた.なお,治療経過が良好で症状が安定している場合 は,治療ステップダウンを考慮し, ₃ 回目の受診時に ピークフロメーターを用いた気管支喘息の管理方法を指 導した.そして初診から ₆ ~₁₂ヶ月経過した時点で ₃ 回 目のアンケートを行い,引き続き吸入指導を行った.
図 ₂ - ₁ にアンケートの内容を示す.これには「疾患の 理解」「薬剤と治療の理解」「日常生活での留意点の理解」
などを含めた. ₂ 回目および ₃ 回目に行うアンケートに は,「治療についての満足度」の項目を追加した.
図 ₂ - ₂ に吸入指導のチェックシートを示す.初回の指 導はアンケートの結果を基に行い,患者が疾患や薬剤,
治療についてどこまで理解できたかを確認した.具体的 には,気管支喘息の発症機序や治療方針,継続治療の必 要性,日常生活の注意点などをそれぞれ関連付けて解説 し,患者にみられる症状がどのような状態を意味するの かを説明した.また気管支の模型やパンフレットを使用 し,視覚からの情報も取り入れ,患者が理解しやすいよ うな工夫をした.吸入デバイスを用いた指導は看護師が 実際に使用法を示し,その後患者に実践させた. ₂ 回目 の指導時には,気管支喘息の説明を繰り返すことによっ てさらなる理解を促し,患者にデバイスを実際に操作さ せて正しく使用できているかどうかを確認した. ₆ ~
₁₂ヶ月後の指導では,患者が気管支喘息についてどの程 度記憶しているかを確認し,知識が低下している部分を 補足した.さらに全患者を対象にデバイスチェックを行 い,正しく吸入出来ているかを再度確認した.
アンケート結果をもとに,疾患の理解度,再診率,吸入 指導の満足度を解析した.なお,患者は初回受診後に ₂ 週 間~ ₄ 週間後の再診の指示を受けたが,指示通り受診した 場合を継続,受診をしなかった場合を脱落と判定した.
なお,測定値は平均値±標準偏差で表示した.
倫理的配慮
全ての患者に本研究の主旨および目的に関する説明を 行い,患者の同意を得た.
結 果
患者背景を治療継続群と脱落群に分けて示した(表
₁ ).吸入指導を行った₄₃名のうち₃₇名が治療継続となっ た(率₈₆%).継続群と脱落群では,年齢や呼吸機能検査 結果などの患者背景に明らかな差を認めなかったが,
ACTは脱落群で低い傾向だった.治療継続群では,患者 の申告に基づく吸入アドヒアランスは₉₃.₄%,満足度は
₅ 点満点中₄.₉点であった.
初回および ₂ 回目のアンケートの結果から,吸入指導 前後での各項目の理解度の変化を解析した(図 ₃ ).病 態・原因の理解度については,「気管支喘息が慢性疾患で あることが分かった」と答えた患者が₈₈.₄%から₉₄.₆%
に増加した.標準治療の理解度では重複回答を許したが,
少なくとも「吸入ステロイド薬が重要」と答えた患者の 割合が₆₀.₅%から₈₆.₅%に増加し,「気管支拡張薬が重 要」と答えた患者が₆₉.₈%から₅₉.₅%へと減少した(重 複回答を有りとした).治療継続の理解度では,「治療継 続が重要」と答えた患者が₈₁.₄%から₉₇.₃%に増加した.
脱落群での理解度についても同様の解析を行ったが,症 例数が少なく,治療継続群と明らかな差を認めなかった.
ただし,標準治療の理解度において ₆ 人中 ₄ 人が「気管 支拡張薬が重要」と答えていた.
次に ₂ 回目と ₃ 回目のアンケートを比較した(表 ₂ ).
長期的な吸入アドヒアランスは₈₉.₇%から₉₀.₀%と保た
風邪や感冒 発作性・急性の疾患 慢性の疾患 よく分からない
88.4% 94.6%
後 導 指 前
導 指
図 3 ― 1 病態/疾患の理解度(再診群)
表 1 患者背景
初診時 継続群 脱落群
患者数 ₄₃ ₃₇ ₆
年齢(y) ₅₁.₃±₁₇.₁ ₅₁.₅±₁₅.₈ ₄₉.₅±₂₅.₇
%FEV₁.₀ ₉₃.₄±₂₄.₁ ₉₂.₂±₂₃.₄ ₉₈.₈±₂₈.₁
%PEF ₆₄.₅±₁₈.₄ ₆₃.₈±₁₇.₂ ₆₇.₈±₂₄.₆ 吸入アドヒアランス
(自己申告使用率) ₉₃.₄±₁₄.₀
吸入指導 満足度
( ₅ 点満点) ₄.₉±₀.₄
指導前
気管支拡張薬よく分からない
指導後
図 3 ― 2 標準治療の理解度(再診群)
ば終了 よく分からない
指導後 指導前
図 3 ― 3 治療継続の理解度(再診群)
標準治療の理解度 内服治療
吸入ステロイド 気管支拡張薬 よく分からない 病態/疾患の理解度
風邪や感冒 発作性・急性の疾患 慢性の疾患 よく分からない
治療継続の理解度
治療継続が重要 症状が無くなれば終了 よく分からない
図 3 ― 4 脱落群の理解度( 6 例)
れており,看護師による吸入指導の患者満足度は₄.₉点
( ₅ 点満点中)と高値であった.しかしながら気管支喘息 の病態理解については,「気管支喘息は発作だけの病気で ある」と答えた患者が₄.₅%から₂₁.₇%に増えていた(表
₃ - ₁ ).標準治療の理解については,「吸入ステロイドが 重要」と答えた患者が₈₁.₈%から₇₃.₉%へ(表 ₃ - ₂ ),
治療継続性の理解は「炎症が消失するまで治療継続が必 要」と答えた患者が₉₀.₉%から₈₂.₆%へと減っていた
表 2 患者背景
初診時 再診時 半年~ ₁ 年後
患者数 ₂₃ ₂₂ ₂₃
年齢(y) ₅₁.₉±₁₈.₉
%FEV₁.₀(%) ₈₇.₁±₂₂.₁ ₉₆.₉±₂₁.₀ *
%PEF(%) ₆₂.₁±₁₈.₇ ₇₄.₄±₁₇.₈ * 吸入アドヒアランス
(自己申告による) ₈₉.₇±₁₂.₆ ₉₀.₀±₁₇.₀ 吸入指導 満足度
( ₅ 点満点) ₄.₇±₀.₆ ₄.₉±₀.₂
*:アンケート時に測定者少数のため省略
表 3 ― 1 気管支喘息の病態理解
吸入指導後 半年~ ₁ 年後
風邪と同じ ₀ % ₀ %
発作の疾患 ₄.₅% ₂₁.₇%
慢性の疾患 ₈₆.₃% ₉₁.₃%
分からない ₁₃.₆% ₄.₃%
複数回答あり
表 3-2 標準治療の理解
吸入指導後 半年~ ₁ 年後
内服 ₄.₅% ₄.₃%
ステロイド吸入 ₈₁.₈% ₇₃.₉%
気管支拡張薬吸入 ₅₉.₁% ₅₂.₂%
分からない ₁₃.₆% ₁₃.₀%
複数回答あり
(表 ₃ - ₃ ).
₂ 回目および ₃ 回目の指導時に,全ての患者にデバイ スチェックを行ったところ,数名誤った使用方法を行っ ていた患者がみられたため,全員に再指導を行った.
気管支喘息患者に対する看護師による吸入指導の効果
考 察
従来,気管支喘息患者に対する教育および指導は,医 師が限られた外来診療時間内に病態の解説,治療法と治 療継続の必要性などを説明していた.そのため,医師が 患者一人一人の理解度を充分に把握することは困難で あった.駒瀬らによれば,「患者は,医師に対してはあま り治療に対する不満や服薬を守っていないことを言わな い」₃)という傾向がある.そのため今回,看護師が吸入指 導という形で積極的に治療に関わることによって,喘息 患者の治療経過にどのような効果を与えられるかを検討 した.
初回吸入指導時には,診察後に行ったアンケート内容 から,患者が何を理解し,何を理解していないのかを確 認することに重点を置いた. ₂ 回目の指導は ₁ 回目と同 じ看護師が行うよう配慮した.初回指導時に理解したと 反応した患者に対しても,初回と同じ内容を繰り返し ゆっくりと時間をかけて説明した.また患者一人一人で 理解のペースが異なるため,どこまで理解できたかをそ の都度確認し,振り返りながら説明した.このように看 護師が時間を掛けて指導することにより,患者の思いを 傾聴し,それに沿った治療方法を提案することが可能に なった.再診率やアドヒアランス,満足度の上昇は,症 状や呼吸機能が改善し日常生活が楽になったことが影響 した可能性はあるものの,看護師による吸入指導が患者 の気管支喘息についての知識や理解度を深め,治療の必 要性を充分に認識させたことが影響したと考えられる.
喘息予防・管理ハンドブックは,患者の治療アドヒア ランスを高める条件として,喘息は常に治療を必要とす る疾患であることを患者が認識すること,処方された治 療薬が安全であることを患者が認識すること,自分の症 状が治療により改善していることを患者が実感できるこ と,医療関係者と患者が信頼関係を築くこと,身につけ た対処法を患者自身が評価し自己管理能力に自信をもつ ようになること₂),を挙げている.さらに駒瀬らは,吸
入手技だけではなく,患者のアドヒアランスにも気を配 り,患者自身が積極的に治療に参加し,アドヒアランス が保てる吸入療法を提唱していくことが大切である₃)と している.当院の吸入指導においても,初回指導時に気 管支喘息の病態,治療,継続治療の必要性,症状などを 相互に関連付けて説明することにより,疾患についての 説明が受け入れやすい状態になったと考えられる.そし て単に吸入方法を説明するのではなく,患者が納得する ように指導することが重要と考えた.これが達成されな ければアドヒアランスは向上せず,患者は症状が治まる と治療を自己判断で中断してしまう可能性があるためで ある.
こうした配慮の下で患者指導を行っても, ₂ ~ ₃ 回の 吸入指導ではアドヒアランスが向上しない患者が存在し た.そのような患者には,診断に納得がいかない,薬剤 の必要性に対する認識が低い,吸入治療薬が生活の一部 として組み込まれずに忘れてしまう,などの特徴が見ら れた.このような場合は患者が困っている症状に焦点を 当て,自覚症状と呼吸機能検査結果を照らし合わせて説 明し,どうすればその症状が軽減・緩和されるのかとい う観点から治療方針を提案した.さらに,指導を行う中 でどうすれば忘れずに吸入薬を使用できるかを,患者の 生活習慣をもとにして患者と一緒に考えた.このような 工夫によって,僅かではあるがアドヒアランスが向上し たと考えられた.一般に気管支喘息の治療は長期にわた るため,患者の立場に立ち,患者を取り巻く医療者すべ てがアドヒアランスを意識することで,長期にわたる治 療を患者と共に行っていくことが出来るようになる₄)と されるため,私たちは患者のそばに寄り添い,支えとな ることが必要であると考えた.アドヒアランスが不良な 患者の場合には,指示通りに吸入を含む服薬が出来てい るかどうか,正しい吸入方法を実行しているか,増悪因 子(喫煙,アレルゲンなど)の回避,増悪を来す合併症
(アレルギー性鼻炎,好酸球性副鼻腔炎,アスピリン喘息 など)への対応ができているかなどを確認する必要があ り₅),患者背景を含めた吸入指導も重要になる.
興味深いことに,初回指導後より ₆ ~₁₂ヶ月経過する と,アドヒアランスは低下していないものの,喘息の理 解度が低下していることが明らかとなった.一般に,気 管支喘息患者の吸入治療は,治療期間が長くなるとアド ヒアランスが低下するといわれている.今回の検討から,
アドヒアランス低下前には気管支喘息の理解度低下が先 行する可能性があり,これは気管支喘息の病態や標準治 表 3 ― 3 治療継続性の理解
吸入指導後 半年~ ₁ 年後
症状消失後も継続 ₉₀.₉%
炎症が消失するまで
₈₂.₆%
気管支が拡張するまで
₃₉.₁%
症状消失で終了 ₀.₀% ₀.₀%
分からない ₉.₁% ₄.₃%
複数回答あり
今回の検討では₄₃人中 ₆ 人が再診しなかった.自覚症 状の強さについて継続群と脱落群のACTを比較したとこ ろ,脱落群に低い傾向が認められた.脱落群が受診しな かった理由については推測の域を出ないが,初回治療に よって自覚症状がある程度改善し満足したため,再診し なかった可能性が考えられる.
結 論
看護師による吸入指導を行った結果,吸入ステロイド 薬に対する理解度と再診率が向上し,満足度が高値で あった.脱落群では吸入ステロイド薬の理解が乏しい傾 向にあった.吸入指導には十分に時間をかけ,患者とと もに病態や標準治療を確認し,それぞれに合った具体的 な吸入指導を行った.こうした配慮によって患者の理解 と治療への参加意欲が高まったことが,アドヒアランス が良好となった一因と考えられた.さらにアドヒアラン ス良好な患者であっても,定期的な吸入指導により気管 支喘息病態や標準治療の知識の再確認を行うことが,長 期アドヒアランスの低下を防ぐ上で重要であると考えら れた.
Effects of patients' education including inhaler technique training by nurses on asthma management
Akiko Nakai₁), Yasuhiro Aoki₂), Chie Matsuda₁), Masafumi Suzuki₃), Shiro Hara₂), Tatsuo Suga₂,₃), Toshitaka Maeno₃), Masahiko Kurabayashi₃)
₁)Nnrsing department, Prana Clinic, ₂)Department of Respira- tory Medicine, Prana Clinic, ₃)Allergy and Respiratory Medicine, Department of Medicine and Molecular Science, Gunma Univer- sity Graduate School of Medicine
文 献
₁)社団法人日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会監 修:喘息予防・管理ガイドライン₂₀₁₂,協和企画,東京,
₂₀₁₂.
₂)社団法人日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会監 修:喘息予防・管理ハンドブック―成人編―₂₀₁₀,恒陽社 印刷所,東京,₂₀₁₀.
₃)駒瀬裕子,向井秀人:薬剤師,医師,看護師のための明日 からできる実践吸入指導,メディカルレビュー社,東京,
₂₀₁₂.
₄)駒瀬裕子,松岡光明:薬剤師,医師,看護師のための明日 からできる実践吸入指導改訂第 ₂ 版,メディカルレビュー 社,東京,₂₀₁₅.
₅)大田 健,今井 良:特集 ステロイド薬(含吸入薬)の 基礎と呼吸器疾患への臨床応用 ₃ .気管支喘息.日胸臨
₇₄: ₃₉₁-₄₀₃, ₂₀₁₅.