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高純度金属材料の開発と分析・評価に関する研究

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Academic year: 2021

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高純度金属材料の開発と分析・評価に関する研究

鉄-炭素-ケイ素系合金の溶解と分析に関する研究

小野幸徳*1 小川俊文*1 古賀義人*1 緒方道子*1

Study on Development ,Analysis and Evaluation of the High-Purity Metallic Material

Melting and Analysis of the Iron-Carbon-Silicon System Alloys Yukinori Ono, Toshifumi Ogawa, Yoshito Koga, Michiko Ogata

金属材料の高純度化は新たな材料の開発手法として注目されてきており,本研究では,鋳鉄材料の高純化を試み ている。コールドクルーシブル溶解炉を用いて鋳鉄の基本組成である鉄ーケイ素ー炭素系の合金を,電解鉄,高純 度シリコン及び高純度黒鉛を原材料として溶解した。得られた合金をICP‑AES及びGD‑MSなどにより分析し,添加元 素以外の不純物が100masspmm程度で,99.99mass%近いレベルの合金を作製できていることが確認できた。また,ミ クロ組織は球状の黒鉛,微細な片状黒鉛,レーデブライトが晶出していた。インゴット内は,側表面部に急冷部分 があり,その他の内部は約1K/sの冷却速度で凝固していることがわかった。

1 はじめに

高純度の金属材料を利用した新素材の開発が注目さ れている。国内では東北大学を中心としたグループが 純鉄,鉄ークロム合金,クロムニッケル,チタン,金 属間化合物(TiAlなど)の材料について,金属組織学的 研究,機械的性質の調査,腐食性や耐食性,放射線に 対する性質などの調査が進んでいる 。1)

当所では,中小企業で利用されることの多い鋳鉄の 高純度化による高性能化を目指している。鋳鉄は,融 点が低く,湯流れ性に優れるなどの特徴を有しており,

比較的簡単に機械部品を製造できるため,鉄鋼のよう に大手の数社が市場のほとんどを占めているのと対照 的に小規模な企業でも生産されている。鋳鉄では多種 多様な溶解になるため組成の制御が難しく,スクラッ プの利用に伴う不純物量なども多い。また,黒鉛の球 状化機構や接種のフェーディングなど鋳鉄の製造には 不明な点も多く残されている。

そこで,本研究では,高純度の鋳鉄材料を用い,そ れぞれの元素の効果を明らかにすることで,高性能な 材料の開発を目標としている。そのために,まず鋳鉄 の基本成分であるFe‑Si‑C系合金をコールドクルーシ ブル溶解により,インゴット内が高純度かつ均一な組 成とすることができるかどうかを研究した。また,凝

固組織に大きな影響を与えるインゴット内の冷却速度 を調査した。さらに,組成と組織の関係を調査した。

2 実験方法

2-1 溶解原料

合金の溶解には,主原料として電解鉄(東邦亜鉛製),

添加材として半導体用シリコン及び高純度化処理を施 した黒鉛(東海カーボン製)を用いた。

電解鉄は,水素,炭素,窒素,酸素などのガス成分 元素の分析値が数massppmとやや高いが,その他の元 素は1masspmm以下の純度のものを用いた。シリコンは,

アルミニウム,カルシウム,鉄,カリウムなどが5〜

20massppmでやや高い値であるが,数パーセント程度 の添加用と考えれば十分な純度である。黒鉛は灰分が 5massppm以下のものを用いた。

2-2 溶解方法

コールドクルーシブル溶解炉の内壁をアセトンある いはメチルアルコールで清掃した後,アセトンで超音 波洗浄したるつぼを取り付けた。溶解原料の電解鉄,

シリコン及び黒鉛は所定の組成になるように天秤で秤 量した後,アセトンでの超音波洗浄を行い,溶解炉の るつぼ内へ投入した。溶解はアルゴン雰囲気あるいは 真空中で行った。30分程度の間電力投入し,溶け残り がなくなったことを目視で確認した後,コイルへの電 力供給を停止させ,るつぼ内で凝固させた。凝固試料 はるつぼの上側から抜き出した。

*1 機械電子研究所

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2-3 成分分析

得られたインゴットの成分の分析は,微量分析につ いては主に高周波誘導プラズマ発光分光分析法(ICP‑A ES)を,パーセントレベルで添加したシリコンの定量 には重量法を,炭素とイオウ及び酸素と窒素について は,赤外線吸収法や熱伝導度法を利用した分析装置を 用いた。酸化層あるいは急冷層があると考えられるイ ンゴット外周部以外の部分から分析用試料を採取し,

分析に供した。

また,上記の分析法で分析が困難な成分については グロー放電質量分析法(GD‑MS)により分析を行った。G D‑MSは,1)質量分析であるため高感度で微量分析が可 能,2)酸溶解などの煩雑な前処理せずに固体試料のま ま迅速な分析が可能,3)金属成分はもちろん非金属成 分やガス成分も含めた全ての元素が定量対象,4)ダイ ナミックレンジが広く微量から主要構成元素まで同時 に分析可能,5)各元素の検出感度差が小さくかつ異な る基地による検出感度の差も小さいため厳密な補正係 数が無くてもおおよその値が得られるなどの特徴 を2)

有している。正確な定量値を得るためにはGD‑MSにお いても厳密な工程管理が必要であるが,多元素を同時 にある程度の定量性で迅速に分析可能である。また,

GD‑MSを用い,インゴットの中央付近と外周に近い部 分を分析することで,マクロ偏析による合金成分の変 化を確認した。マクロ偏析の調査には,真空溶解した Fe‑5mass%Si‑3mass%C試料(以下Fe‑5Si‑3Cように多元 系合金の組成を表す場合はmass%を省略)を用いた。

2-4 冷却速度の測定

鋳鉄の凝固組織は凝固中の冷却条件により生成する 相の種類や量比,凝固組織の大きさなどに大きく影響 するため,正確に把握しておく必要がある。当所のコ ールドクルーシブル溶解炉は鋳湯設備を備えておらず,

るつぼ内で凝固させているため,るつぼ内での試料の 冷却速度を求めておくことが重要である。

正確な温度を測定するには,直接溶湯の温度を熱電 対により測定するのが好ましいが,加熱中の高周波の コイルの中に熱電対を挿入すると,ノイズが強く温度 計が正確な温度を表示せず,温度測定ができなかった。

そこで,装置上部に備え付けられた放射温度計によ るインゴット上表面での冷却速度の測定を行った。真 空溶解の場合揮発した成分が温度測定用ののぞき窓に 付着し正確な温度が測定できないため,雰囲気はアル

ゴンとした。ただし,放射温度計の測定では,上面の 温度測定であるため内部との冷却速度は異なることが 予想され,内部の冷却速度は類推するしかない。

次に,試料内部の冷却速度をさらに詳細に調査する ために,Fe‑15Cr‑2C合金を溶解凝固させ,生成したデ ンドライト2次アーム間隔から冷却速度を推定した。

この成分系を選んだ理由としては,1)鉄系の材料であ るため,熱伝導率などの熱的特性が近い,2)融点が約 1350℃と鋳鉄に近い,3)デンドライトが明瞭に観察さ れる,4)2次アーム間隔の基礎データ が得られている,3) 5)インゴット内いずれの場所の冷却速度も測定できる などがあげられる。厳密には,Fe‑Si‑C系とは,熱伝 導率,熱伝達係数,凝固収縮(膨張)量などの物性値及 び固相の成長形態が異なるなど問題点もあげられる。

しかし,これらの違いはFe‑Si‑C系でも組成による影 響を受ける問題であり,Fe‑Cr‑C系で得られる値はFe‑

Si‑C系にも十分適用できると考えられる。

3 実験結果と考察 3-1 溶解試料の分析値

ICP‑AES分析を主として得られた分析結果から,電 解鉄のみの溶解試料では,溶解の雰囲気が真空,アル ゴン,アルゴン+水素のいずれの場合においても,酸 素を除きほぼ溶解前の純度を保っていた 。4)

電解 鉄及 び 鋳鉄系 試 料の 酸素 と窒 素の 分析結 果を 表‑1に示す。電解鉄の場合は,10 Paというかなりの‑4 高真空で溶解したにもかかわらず45massppmと酸素濃 度は上昇した。鋳鉄系の試料では,炭素量が減るにつ れて酸素量が増加する傾向が見られるが,アルゴン雰 囲気の場合を含めて10massppm以下とかなり低い酸素 量とすることができた。これは,鋳鉄用に添加した炭 素及びケイ素の脱酸効果によるものであると思われる。

窒素は,電解鉄の溶解,鋳鉄系の材料ともに約10mass ppmであった。

3-2 GD-MSによる微量分析とインゴット内の偏析の調

真空溶解したFe‑5Si‑3C試料の中心部と外周部及び 電解鉄の真空溶解試料の分析結果を表‑2に示す。

GD‑MSでは30種類以上の元素の分析ができており,

分析元素数がICP‑AESを用いた分析の場合より倍増し ている。電解鉄の真空溶解試料では,括弧内に示した 分析値(ICP‑AESを主として得られた分析値)と完全

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に一致しているわけではなく,オーダーで見ると1桁 あるいは2桁程度の差がある。ICP‑AESを主とした分 析で得ることができていなかった不純物元素のGD‑MS

表‑1 酸素と窒素の分析値

表‑2 GD‑MS分析値

分析値はほとんどの元素で0.1massppm以下であり100 倍の誤差を考慮しても10massppm以下である。0.1mass ppm以上の分析値となった元素は,ヒ素(As),塩素(C l),リン(P)である。ヒ素とリンは当所では分析でき ていないが,原材料の電解鉄に添付の分析値が両者と も1massppmであることから,ほぼ妥当な分析値と思わ れる。塩素の分析値は1.3massppmであり,100倍の誤 差を考慮しても100massppm程度である。以上の分析結 果を総合的に判断すると,電解鉄を溶解したインゴッ トの純度は,およそ99.99mass%(4N)レベルの鉄である 可能性が極めて高いことが確認できた。

Fe‑5Si‑3C試料で,電解鉄の溶解試料に比べ明らか に含有量が増加している元素は,添加元素のケイ素(S i)及び炭素(C)を除くと,コバルト(Co),銅(Cu),モ リブデン(Mo),窒素(N),ニッケル(Ni),アンチモン (Sb)である。コバルト及びニッケルの増加は,Fe‑5Si

‑3C試料の溶解に用いた電解鉄のロットが異なりコバ ルト量及びニッケル量の多いものを用いたためである。

銅はICP‑AESの分析値から判断すると電解鉄の溶解試 料の値が低すぎるのであって,Fe‑5Si‑3C試料の分析 値は妥当な値である。窒素は電解鉄の溶解試料及びFe

‑5Si‑3C試料の分析値ともに従来法と比較して低い値 となっている。これは,GD‑MSの相対感度係数が装置 メーカから与えられていなかったため窒素の相対感度 係数を1としており,この値が小さすぎるためと思わ れる。モリブデンとアンチモンは電解鉄のロットが異 なること,あるいは添加したシリコン及び黒鉛から混 入などが原因と思われる。

GD‑MSやICP‑AES等の分析値を総合的に判断するとFe

‑5Si‑3C試料においても,鉄,ケイ素及び炭素の主要 元素で3N(99.9mass%)から4N相当の純度が確保されて いることがわかった。

また,Fe‑5Si‑3C試料の中心部と外周部のGD‑MS分析 を比較すると,全ての元素でほとんど分析値が一致し ており,インゴット内のマクロ偏析はかなり小さいと 推察される。

3-3 ミクロ組織

真空溶解したFe‑2.6Si‑2C,Fe‑2.6Si‑3C,Fe‑2.6Si

‑4C合金及びアルゴン雰囲気溶解したFe‑2.6Si‑4C合金 の光学顕微鏡による縦断面ミクロ組織観察行った。縦 方向はインゴットの中央付近,横方向には中心軸と側 面の中点付近を観察した結果を図‑1に示す。最終凝固

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部で巣の生成する可能性の高い中心部,急冷される側 面や下部斜面,雰囲気からの影響が大きいと思われる 上表面を避けた。

Fe‑2.6Si‑2C試料(a)では,丸い塊状の黒鉛あるいは それより枝が伸びた形状をした黒鉛が晶出していた。

その黒鉛の周りはフェライトに覆われブルズアイ状の 組織となっていた。また,レーデブライト共晶も少量 認められ,基地はパーライトであった。

Fe‑2.6Si‑3C試料(b)では,かなりきれいな球状の黒 鉛とそれよりやや小さい丸い塊状あるいはそれより枝 の伸びた形状の黒鉛が多数分布していた。黒鉛の周り はフェライトで囲まれており,レーデブライトのフェ ライトも連続した状態になっていた。そのフェライト の外周部にはパーライトが少量分布していた。

真空溶解したFe‑2.6Si‑4C試料(c)では,球状あるい は球状にかなり近い形状の黒鉛が分散しており,その 周りに微細な片状の黒鉛が多数分散していた。黒鉛以 外の部分はフェライトで,セメンタイトは生成してい なかった。アルゴン雰囲気溶解したFe‑2.6Si‑4C試料 (d)も真空溶解の場合と同様な組織であった。

3-4 インゴットの冷却速度

コールドクルーシブル溶解炉の上部に取り付けられ ている放射温度計により凝固時のインゴット表面の温 度を測定した結果と,それより計算された冷却速度を 図‑2に示す。

約1700Kで溶解していた試料が,溶解用コイルへの 電力の供給を停止することで,水冷された銅製のるつ ぼ表面へ接触し,急激に温度が低下している。約1600 Kでの温度低下の停滞は,融点での凝固潜熱の発生に よるものである。また,約1100Kでの温度低下の停滞 は共析変態による発熱によるものと思われる。

冷却速度は変態熱の発生により測定が困難になって いるが,凝固時の温度停滞後の冷却曲線から凝固温度 付近での冷却速度はおよそ数K/s程度であることがわ かる。

Fe‑15Cr‑2C合金を用いた冷却速度の測定結果を図‑3 に示す。インゴットの高さ方向での中央位置を側表面 からインゴット中心部までを測定した結果を示してい る。水冷した銅るつぼに接触している側表面は100K/s 以上の速度で急冷されており,内部に向けて急激に冷 却速度は低下している。側表面から約10mm内側に入る と冷却速度は約1k/sとかなり遅くなり,インゴット中 心部までほぼ一定の冷却速度であった。

放射温度計で測定したインゴット上表面は気相側か らの冷却により,内部よりは多少冷却速度が速いと考 えられる。放射温度計での測定結果が数K/sであるこ

図‑1 縦断面のミクロ組織

図‑2 インゴット上面の温度低下と冷却速度

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とから,Fe‑Cr‑C試料より得られた約1k/sというイン ゴット内部の冷却速度は妥当であると思われる。以上 の結果より,当所のコールドクルーシブル溶解炉を用 いた鋳鉄の溶解では,インゴット表面部に急冷部が生 じ,内部では約1k/s程度で冷却さてていることが確認 できた。

4 まとめ

Fe‑Si‑C合金においてケイ素量が5mass%以下炭素量 が4mass%以下の範囲で合金を作製することができた。

また,添加成分であるケイ素と炭素をほぼ目標とする 組成に制御できた。種々の分析法を併用することで,

得られたFe‑Si‑C合金において,主要元素である鉄,

炭素及びケイ素が3Nから4Nレベルの高純度であること が確認できた。

また,ミクロ組織は,球状の黒鉛,微細片状黒鉛,

レーデブライト及びパーライトより構成されていた。

これらの組織は冷却速度にも依存しており,得られた インゴットの冷却速度が,側表面の急冷部を除くと約 1K/sの冷却速度で凝固していることが確認できた。

5 謝辞

GDMS分析は,(財)神奈川県高度技術支援財団高度 計測センターの岩崎廉氏により実施していただきまし た。ここに深く感謝の意を表します。

6 参考文献

1) Ultara high purty base metals, procedings of UHPM‑94, The Japan Institute of Metals(1994).(UH PM95〜99も参照)

2) 岩崎:日本学術振興会製鋼第19委員会製鋼計測化 学研究会提出資料,19委‑11818,製鋼計測化学Ⅱ‑37, Sep./28(1999)

3 ) 大 城 , 他 2 名 : 鋳 物 , 第 5 2 巻 , 第 1 1 号 , p . 6 29 (1980)

4) 小野,他2名:福岡県工業技術センター研究報告,

第9号,p.99(1998)

図‑3 Fe‑Cr‑C合金による冷却速度の測定結果

参照

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