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鏡面反射光モデルを用いた自動車内装材の表面粗さの評価に関する研究 [ PDF

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Academic year: 2021

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鏡面反射光モデルを用いた自動車内装材の粗さの評価に関する研究

園川 修人 1. はじめに 自動車の内装材として使われる頻度の多い樹脂系 素材(合皮系)は、表面に施す凸凹(シボ加工)の状 態により、見た目の質感に影響すると言われている。 近年では、シボパターンのデジタル化 1 )が進展して おり、再現性の高い加工も可能になり、様々な要求に 応える表面質感を生み出すことができると考える。 表面特性(粗さ)の物理量測定は、表面に沿って針 で計測する接触式が一般的である。しかし、粗さを表 すパラメータは多く2)、単位もµm と極めて微小な範 囲である。より簡易的に、人間の目で知覚できるレベ ルでの粗さパラメータが必要と考える。 一方、コンピュータグラフィック(CG)の分野では、 光の反射や散乱の特性を生かし、物体表面の微視的 な構造や材質の違いの表面特性を表現してきた。CG では、物理現象に忠実である必要がないため、人間の 目で知覚できるレベルでの表面特性が定義できると される。CG のレンダリングに用いられる反射モデル には拡散反射モデルと鏡面反射モデルがある。鏡面 反射モデルについては、正確なモデル化が困難とさ れており、現在までに多くのモデルが提案されてい る。 本研究では、鏡面反射モデルのうち微小面による 遮蔽やフレネル反射を解析することで、物理的に適 当なモデルとされるTorrance-Sparrow モデル3)4) 用いて、自動車内装材の表面特性の見えと物理量と の関係を画像解析により明らかにすることを目的と した。 2. 鏡面反射光の分離による表面粗さの評価実験 2.1 実験装置 実験は、九州大学構内の暗室に実験装置を作成し て行った。デジタルカメラ(Nikon COOLPIX990)の レンズ中心と測定対象物中心との距離を400 mm、 キセノンファイバー光源(LA-410UV HAYASHI 製) と測定対象物中心との距離を500 mm とした。光源 の光線が偏光板から漏れないように、カメラと光源 のそれぞれの前方に偏光板を配置した。このとき、光 源は測定対象物表面の法線方向に対して 45°とした。 測定対象物は、板自体の反射特性の影響を受けない ように、黒紙を貼った300 mm×300 mm の板に貼 り付けた。その対象物を、測定ができるようにカメラ 側と光源側の側面を取った箱に固定した。図 1 に測 定機器の幾何学的関係を平面図で示す。 2.2 実験条件 測定対象面の照度は、対象面の中心点に対して、表 面に対する法線方向が 1000 lx になるように設定し た。 測定対象物素材の表面中心の法線方向に対して、 光線の入射角を45°とし、カメラ方向は 0°とした。各 撮影は対象物中心と画像中心が一致するように注意 した。今回行う撮影は、連続で5 枚撮影し、画像解析 ソフト ImageJ により、8bit(0-255)のグレースケー ルで画素値を得ることとした。解析には、3 枚の画像 から得られる画素値の平均値を用いた。 本実験で粗さを測定する測定対象素材として、光 沢のない黒の自動車内装材とし、見た目のシボの大 きさが小さいものから順に、N0、N1、N2 として 3 種類用意した。それぞれの光沢度は、5、3、3 といず れも10 以下であり、光沢の影響を無視できるものと する。図2(a)にそれぞれのシボの大きさを示す。 図1 各測定機器の幾何学的関係(平面図) 300 400 500 カメラ 偏光板 光源 測定対象面 45° 45°

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2.3 シボの凸面積比推定 シボの凸面積を二値化画像の解析 5)により求めた。 各素材の表面上9 点を凸面積推定位置とした。各推定 位置にサンプルとして10 mm×10 mm の半透明テー プを貼り、正面から撮影した。撮影した画像をImageJ により、グレースケール(0-255)で自動二値化し、見 た目のシボが小さい N0 の閾値 207 を基準として、 N1,N2 の二値化画像を生成した。二値化した画像を図 2(b)に示す。二値化画像の赤い部分を各素材の凸部 分とし、凸部分の面積を測定した。これより、サンプル に対する凸部分の面積比(以下、凸面積比)を算出し た。図2(b)の数値は、9 点のサンプル位置で得られ た面積比の平均値を示す。図3 には、シボの凸面積推 定を行ったサンプルの位置を示す。 2.4 偏光板を用いた鏡面反射光の分離方法 反射光強度I は、鏡面反射光強度 Isと拡散反射光強 度Idの和で表すことができる。鏡面反射光が偏光、拡 散反射光が非偏光であることから、2 枚の偏光板を用 いて鏡面反射光と拡散反射光を分離できる6)。図4 に 鏡面反射成分の分離方法の概念図を示す。光源前方の 偏光板1により直線偏光に変えられた光線が、物体表 面で鏡面反射成分(直線偏光)と拡散反射成分(非偏 光)の、2 つの状態で反射する。反射光を偏光板1の 偏光角と平行にした、偏光板2 を通過させ、反射光の 最大値IMAXを得ることができる。一方で、2 つの偏光 角を垂直にすることで、最小値Iminを得ることができ る。これより、IMAXとIminの差から鏡面反射光強度Is を抽出することができる。 鏡面反射光モデルであるTorrance-Sparrow モデル では、鏡面反射光強度Isを以下のように表す。 I"= k e&' ( )*( cos θ ここで、 k:鏡面反射係数 σ:表面粗さを表すパラメータ θ:表面法線方向と視点方向のなす角 α:光線の入射角と、視点方向のなす角の二等分線 が、表面法線となす角 反射光強度I は鏡面反射光 Isと拡散反射光Idの和よ り、以下のように表せる。 I = Id +

k

e − α2 2σ2 cos θ Ν0 Ν1 Ν2 (a) 見た目のシボの大きさの違い N0:25.6 N1:28.7 N2:34.2 (b) サンプル範囲の二値化画像 数値はサンプルに対する凸部分の面積比[%] 図2 シボの粗さの分類 図3 シボの凸面積推定サンプル位置 図4 偏光板を用いた鏡面反射成分の分離 75 mm 75 mm 75 mm 75 mm 測定対象面 凸面積推定サンプル 鏡面反射成分 拡散反射成分 光源 拡散反射成分 光源 IMAX Imin IMAX- Imin = 鏡面反射成分 I s (b)   の抽出  (a)   の抽出 IMAX Imin 偏光板1 偏光角:平行 偏光角:垂直 偏光板2 偏光板1 偏光板2

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これより、 I" = I567− I89:= k e&' ( )*( cos θ と表せる。稲熊7)は、上式の両辺の自然対数をとり、 次のように式変形をしている。 ln I"+ ln cos θ = α) 2・(− 1 σ)) + ln k ln I"+ ln cos θ = Y、−α2/2 = X とすると、

Y = −

*A(

X + ln k

・・・(*) と線形化することができる。偏光板を用いることで得 られる鏡面反射光Isと、各測定機器との幾何学的関係 θ、α から Y 値と X 値は求まる。これより、Y 値と X 値をプロットした点から、最小二乗法により回帰直線 式を求め、回帰式の傾きから表面粗さσ を求めること ができる。図 5 に、Torrance-Sparrow モデルの幾何 学的関係を示す。 本実験では、光源前方の偏光板の偏光角を固定し、 カメラ前方の偏光板の偏光角を、平行にしたときの画 像を最大輝度画像、垂直にしたときの画像を最小輝度 画像とした。各ピクセルにおいて最大輝度画像の画素 値IMAXと、最小輝度画像の画素値Iminの差から、鏡 面反射成分Isを求めた。 3. 実験結果 図6 に式(*)を用いた Y 値と X 値のプロット図と、 最小二乗法を用いて得られた回帰式の傾きから求まる 粗さσ を示す。シボの凹凸が大きくなると、回帰式と の相関が極めて小さくなる。これより、粗さσを用い て、シボの凹凸の大きさを表せないと示された。 そこで、鏡面反射成分のばらつきが凹凸の大きさに影 響すると考え、画像中心から視野10°内の鏡面反射成 分Isの度数分布を調べた。データ区間は、全素材の画 像の画素値の中で、最小値の75 から最大値の 225 ま でとし、階級幅は1 とした。図 7 に、各素材の鏡面反 射成分のヒストグラムを示す。図7 より、各素材とも 正規分布に従わないことが分かる。そこで、中央値か らのばらつきを表す、四分位分散係数Dq を求めた。 四分位分散係数を求める式を以下に示す。 Dq = (Q3−Q1)/(Q3+Q1) データの小さい順に並べ、4 等分する値を四分位数と いい、Q1,Q3は、それぞれ小さい方から1、3 番目の 四分位数である。図8 に四分位分散係数 Dq とシボの 凸面積比との関係を示し、鏡面反射成分のばらつきか ら、表面凹凸を定量化する可能性を示した。 図5 Torrance-Sparrow モデルの幾何学的関係 図6 各素材の X 値,Y 値のプロット図と 回帰式より求めた粗さσ と R2 (a) N0 (b) N1 (c) N2 図7 鏡面反射成分 Isの度数分布 θ α V → N → H → L → 光源方向 ベクトル 視点方向 ベクトル 法線方向 ベクトル Lベクトルと V を二等分する → → 0 50 100 150 200 250 300 350 75 -7 6 81 -8 2 87 -8 8 93 -9 4 99 -1 00 10 5-10 6 111 -112 11 7-11 8 12 3-12 4 12 9-13 0 13 5-13 6 14 1-14 2 14 7-14 8 15 3-15 4 15 9-16 0 16 5-16 6 17 1-17 2 17 7-17 8 18 3-18 4 18 9-19 0 19 5-19 6 201 -202 207 -208 213 -214 219 -220 225 -226 0 50 100 150 200 250 300 350 75 -7 6 81 -8 2 87 -8 8 93 -9 4 99 -1 00 10 5-10 6 111 -112 11 7-11 8 12 3-12 4 12 9-13 0 13 5-13 6 14 1-14 2 14 7-14 8 15 3-15 4 15 9-16 0 16 5-16 6 17 1-17 2 17 7-17 8 18 3-18 4 18 9-19 0 19 5-19 6 201 -202 207 -208 213 -214 219 -220 225 -226 0 50 100 150 200 250 300 350 75 -7 6 81 -8 2 87 -8 8 93 -9 4 99 -1 00 10 5-10 6 111 -112 11 7-11 8 12 3-12 4 12 9-13 0 13 5-13 6 14 1-14 2 14 7-14 8 15 3-15 4 15 9-16 0 16 5-16 6 17 1-17 2 17 7-17 8 18 3-18 4 18 9-19 0 19 5-19 6 201 -202 207 -208 213 -214 219 -220 224 -226

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図8 シボの凸面積比と鏡面反射成分 Isの 相対四分位係数Dq との相関関係 4. 考察 稲熊は、表面特性を調べるためにTorrance – Sparrow 反射モデルの鏡面反射成分を表す式を、線形 化することで表面粗さσ を推定する方法を提案した。 しかし、目視できる凹凸の大きい表面に対しては、粗 さσ を求める回帰式からの相関が非常に小さくなる。 これより、凹凸の大きい表面を求める粗さσ で評価で きないことが示された。Torrance - Sparrow 反射モデ ルは、極めて微小な表面(マイクロファセット)にお いて提案されたモデルであり、微小な面の凹凸同士に よる、反射光の遮蔽を考慮している8)。自動車内装材 の表面のシボのような、キメの粗いものに対しては、 この影響が大きいと考えられ、表面粗さσ のみでは表 現できないと考える。 視野10°以内の鏡面反射成分の度数分布を調べる と、正規分布に従わず、全体的に中央値よりも、左側 に最頻値がくることがわかる。度数分布から中央値を 基準としたばらつきを表す四分位分散係数Dq を求め た。この四分位分散係数Dq と凸面積との間には、高 い相関関係が見られた。これは、Torrance – Sparrow 反射モデルが、ある表面での鏡面反射を測定すること で、その表面の傾きを求めるモデルであるからだと考 える。表面が滑らかであれば、隣り合う表面の鏡面反 射光に大きな変化がないため、鏡面反射のばらつきが 小さくなる。これより、N1 や N2 の表面が粗いた め、微小面積における鏡面反射光の変動が大きくなっ たと考える。 今回は鏡面反射光モデルの中で、物理的に適当な表 現をするとされるTorrance-Sparrow モデルを用い て、自動車内装材のシボの見かけの大きさを物理的に 定量化することを目的とした。鏡面反射光のばらつき との間に高い相関を示したが、定量化するにはサンプ ル数を増やす必要がある。 5. まとめ 鏡面反射光モデルを用いて、自動車内装材の表面の シボの大きさの評価に関して、得られた知見を以下に 示す。 Torrance – Sparrow 反射モデルの粗さσを用い て、自動車内装材のシボの大きさを評価しようと試み たが、粗さσ では目視できる表面の凹凸の程度を表現 できないことが示された。 鏡面反射成分のばらつきと、凸面積比との間に高い 相関を示し、目視できる表面粗さの凹凸の程度を定量 化できる可能性を示した。今後はサンプル数を増や し、明確な相関関係を示す必要がある。 謝辞 本研究は科学研究費補助金の基盤研究(B) (課題 番号 24360237) によった。記して謝意を表する。 参考文献 1) 古瀬雄也,”5 軸レーザー加工機によるシボ加工 のデジタル化”,電気加工学会 誌,45(108),2011,86-90. 2) JIS B 0601-2001(ISO4287-1997 準拠). 3) B. T. Phong, “Illumination for computer

generated pictures”, Proc. SIGGRAPH’75, pp311-317, 1975

4) K. E. Torrance and E. M. Sparrow, “Theory for Off-Specular Reflection From Roughened Surfaces”, JOSA, Vol.57, Issue 9, pp.1105-1112,199 5) 水谷芳樹, 阿部俊彦, 鷲見新一, 高橋利夫,”画 像解析による表面粗さの測定”,東北工業技術試 験書報告,第 22 号,pp.37-40,1989 6) 宮崎大輔, 池内克史,”偏光の基礎理論とその応 用”,情報処理学会論文誌コンピュータビジョン とイメージメディアVol.1, No.1, pp.64-72,2008 7) 稲熊伸昭,”鏡面反射モデルのパラメータ推定 と鏡面反射成分の生成” (2017 年 1 月現 在) http://www.cvl.iis.u-tokyo.ac.jp/thesis/senior/inaguma.pdf 8) Eric Heitz,”Understanding the

Masking-Shadowing Function in Microfacet - Based BRDFs, Journal of Computer Graphics Techniques Vol.3, No.2,pp.48-107,2014 N0 N1 N2 y = 2.2324x + 0.1574 R² = 0.96582 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 Dq

参照

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