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ウシ精子の生死が顕微授精卵の MPF 活性に及ぼす影響

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Academic year: 2021

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(1)

ウシ精子の生死が顕微授精卵の MPF 活性に及ぼす影響

藤 浪 菜穂子、細 井 美 彦1, 2、加 藤 博 己、 松 本 和 也1, 2、佐 伯 和 弘1, 2、入 谷   明1, 2

要   約

生存精子と死滅精子を用いて ICSI を行い、精子の生死がその後の胚発生と卵子の MPF 活性の動態に及 ぼす影響を検討した。生存精子を用いた ICSI 後の卵割率、胚盤胞期胚への発生率はそれぞれ 51%、12%で、

死滅精子を用いた区に比べ有意に高かった(12%、0%)。生存精子を用いた ICSI 後の卵子の MPF 活性は、

4 時間目に成熟卵子の値の 14%に低下した後、16 時間目まで低値を維持し、24 時間目に次の細胞周期に むけた上昇が認められた。死滅精子を用いた ICSI 後の MPF 活性は、ICSI 後 4 時間目に成熟卵子の値の 45%に低下した後、12 時間目に最低値となり、24 時間目に上昇が見られたが、その値は成熟卵子の 26%であった。以上の結果より、生存精子を用いた ICSI 後の卵子の MPF 活性は、死滅精子を用いた場合 より低値になる時間が早く、精子の生死が ICSI 後の MPF 活性の低下に関係していると考えられた。死滅 精子を用いた場合は、卵子の MPF 活性が低値を示す時間が短く、次の細胞周期に向けての MPF 活性の上 昇も不十分であるため、ICSI 後の胚の発生率が低いと考えられた。ICSI に用いる精子の生死により、ICSI 後の MPF 活性の動態は変化し、その後の胚発生の差異に影響することが示唆された。

緒   言

卵子細胞質内精子注入法(Intracytoplasmic sperm injection, ICSI)は、精子を卵子に直接注入する技術 であり、臨床など多くの分野で利用されている。ICSI の技術を用いることにより、運動性を失った精子を 受精に利用することができる。斃死した動物の精巣由来精子を用いて ICSI を行うことで受精卵を作製する ことも可能である。また、絶滅の危機に直面している動物種の保護としても、死滅精子を用いた ICSI は有 用である。Westhusin et al. (1)、Younis et al. (2)の報告に続いて、Goto et al.(3)は、凍結・融解を繰 り返すことで死滅させたウシ精子を用いて ICSI を行い、産子を得ている。しかし、ウシ死滅精子を用いた ICSI 後の卵割率は非常に低い。

MPF 活性は卵子の減数分裂の進行に同調して変動し、分裂中期ではその活性は高い事が知られている。

受精や活性化処理による卵子細胞質内の Ca2+濃度の上昇が、MPF 活性を低下させ、減数分裂の再開を誘 起するとされている。

本実験では、ウシ生存精子と凍結融解死滅精子を用いて ICSI を行い、精子の生死が ICSI 後の胚発生と 卵子の MPF 活性の動態に及ぼす影響を調べた。

材料および方法

ウシ卵子の採取および体外成熟培養

ウシ卵子の採取および成熟培養は Saeki et al. (4)に従った。ウシ卵巣表面の直径 2-8mm の卵胞から吸 引法により卵子卵丘複合体(COCs)を回収した。卵丘細胞が密に付着した COCs のみを選別し、1mg/ml ポリビニルアルコール(Sigma-Aldrich)、0.02AU/ml FSH(Antrin, Denka Seiyaku)、1⎧g/ml エストラジ

1. 近畿大学大学院生物理工学研究科    2. 近畿大学先端技術総合研究所

(2)

オール -17β(Sigma-Aldrich)、0.5 mM ピルビン酸ナトリウム(Nacalai tesque)および 1%(v/v)抗菌 カビ溶液(Gibco)を添加した 25mMHEPES 緩衝 TCM199(Earleʼs salt, Gibco)の 50μl ドロップ内に 10 個ずつ導入し、39℃、5% CO2、95%空気、高湿度の条件下で 21 時間体外成熟培養を行った。体外成熟 培養後、卵丘細胞をボルテックス処理により除去し、第一極体を放出した卵子を選別して ICSI に用いた。

顕微授精法

(1) 精子処理

生存精子:黒毛和種の凍結精液を融解し、洗浄した後、10mM pentoxifylline (Sigma-Aldrich)添加 TCM199 を 1ml 重層し、30 分間 swim up 処理を行った。上層に集まっている運動性の良好な精子を ICSI に用いた。

死滅精子:黒毛和種の凍結精液を融解した後、再び液体窒素内で凍結し、再び融解する操作を 3 回繰り 返した。洗浄後、精子懸濁液を ICSI に用いた。

(2) 精子の細胞質内注入(ICSI)

精子懸濁液より精子を採取した。生存精子は、精子をインジェクションピペット内に吸引した後、精子 尾部にピエゾパルスを与えることで不動化処理を行った。1 個の精子をインジェクションピペット内に尾 部から吸入し、ホールディングピペットを用いて第一極体が 12 時か 6 時の方向になるように未受精卵を 固定した。インジェクションピペットを卵子の透明帯に接着させて、ピエゾ・ドライブを駆動させながら 透明帯を通過させ、さらにインジェクションピペットを卵子細胞質内に挿入し、再び弱いピエゾ・ドライ ブユニットの駆動によって卵子細胞質膜を破り、精子を注入した。

(3) 活性化処理

活性化処理は、Horiuchi et al. の方法に従い(5)、ICSI 後 4 時間目に、7% エタノールに 5 分間曝露す ることで活性化処理を行った。

(4) 胚の培養

ICSI 後の卵子は、3 日目まで、3% BSA 添加 CR1aa 培養液を用いて、39℃、5%CO2、5%O2、90% N2、 飽和湿度下で培養した。4 日以降 8 日目までは、5% CS 添加 CR1aa 培養液を用いて、同様の条件下で培 養を継続した。ICSI 後 3 日目に胚の卵割を、7-8 日目に胚盤胞期胚への発生を調べた。ICSI 後 18 時間目に、

アセトアルコールによる固定を行い、前核期胚への発生率を調べた。

受精卵の MPF 活性測定

ICSI 後、4, 8, 12, 16, 20, 24 時間目の受精卵の MPF 活性測定を下記の要領で行った。

(1) 卵子の溶解

卵 子 を PBS(-) で 洗 浄 し た 後、1 mM PMSF (Sigma-Aldrich) 添 加 cell lysis buffer (Cell Signaling  Technology)が 5μl 入ったサンプリングチューブに卵子を 10 個ずつ入れ、凍結破砕を 3 回行った。

(2) In vitro p34cdc2 Kinase Assay

MPF 活性の測定は、Shojo et al. (6)らの方法に従い、Mesacup cdc2 kinase assay kit (code no. 5234; 

MBL, Nagoya, Japan)を用いた。凍結破砕を行った後 cdc2 kinase Reaction Buffer 5.0μl、biotinylated 

(3)

MV Peptide 5.0μl、精製水 30μl を添加し、混合した後、1mM ATP(RATP, Roche)を 5.0μl 加えて 30℃の恒温装置で 30 分間反応させた。その後、Phosphorylation Stop Reagent を 200μl 添加し、反応を 停止させた。

(3) ELISA 法による測定

付属のプレート 1well に対し、(2)を 100ml ずつ入れ、30℃の恒温装置で 1 時間抗原抗体反応させ、

その後 PBS によりプレートを 5 回洗浄した。HRP conjugated Streptavidin を 1well に対し 100μl ずつ添 加し、再び 30℃の恒温装置で 30 分間放置した後、PBS によるプレート洗浄を 5 回行った。

洗浄したプレート 1well に対し、酵素基質溶液 100μl を添加し、30℃の恒温装置で 5 分間反応させた後、

Stop Solution(20% H3PO4)を 1well に対し 100μl ずつ添加し反応を停止させた。

マルチプレートリーダーを用いて、450nm のフィルターで計測を行った。

統計処理

実験は 3 回反復した。得られた%データを分散分析し、その後各区を Fisher の PLSD test で統計処理し た(Stat View Ver. 5.0, SAS Institute)。

結   果

ウシ生存精子と死滅精子を用いた ICSI 後の前核期胚への発生率を、Table 1. に、卵割率および胚盤胞期 胚への発生率を Table 2. に示した。生存精子区での前核期胚への発生率、卵割率および胚盤胞期胚への発 生率はそれぞれ 85% (23/27)、51% (53/103)、12% (12/103)、死滅精子区では 68% (21/31)、12% 

(12/104)、0% (0/104)で、前核期胚への発生率、卵割率および胚盤胞期胚への発生率ともに、生存精 子区で有意に高かった(P<0.05)。

 Table 1.  Effect of sperm viability on pronuclear formation in bovine oocytes fertilized by ICSI Sperm No. of 

replicates No. of  oocytes  examined*

No. (%) of  oocytes with  two pronuclei 

Live 3 27 23 (85) a

Killed 3 31 21 (68) b

* : 18 h after ICSI.

a-b : Values with different superscripts are significantly different (p<0.05).

Table 2.  Development of oocytes fertilized by ICSI using live sperm or killed sperm sperm No. of 

replicates No. of  oocytes  injected

No. (%) of  embryos 

cleaved

No. (%) of  blastocysts

Live 3 103 53(51)a 12(12)a

Killed 3 104 12(12)b 0(0)b

a, b : Values with different superscripts within the same column are significantly    different (p<0.05).

(4)

生存精子を用いた ICSI 後の MPF 活性の動態を Fig. 1 に、死滅精子を用いた ICSI 後の MPF 活性の動態 を Fig. 2 に示した。MPF 活性は、受精前の成熟卵子(MII 期)の MPF 活性を 1 として相対値で表した。

生存精子区では、ICSI 後 4 時間目に MPF 活性は MII 卵子の値の 14%に低下した後、16 時間目まで低値 を維持し、20 時間目に MII 卵子の 65% に、24 時間目に 87% に上昇した。死滅精子区では、MPF 活性は ICSI 後 4 時間目に MII 卵子の値の 45%に低下した後、12 〜 20 時間まで低値を示し、24 時間目に上昇が 見られたが、その値は MII 卵子の 26%であった。

Fig 1.  MPF activity kinetics of oocytes fetilized by ICSI using live sperm

   Different alphabetical letters show the significant differences among the groups(p<0.05).

Fig 2.  MPF activity kinetics of oocytes fetilized by ICSI using killed sperm

   Different alphabetical letters show the significant differences among the groups(p<0.05).

(5)

考   察

ICSI においては、精子を卵子に注入するため、精子の運動性または生死に関係なく受精させることが可 能である。通常の受精とは異なり、精子と卵子表面の接着、融合の過程が省略され、精子が卵子内に直接 注入されても卵子の活性化が起こるとされている。

本実験では、ウシ死滅精子にも前核を形成する能力があり、死滅精子を用いて受精させたウシ胚は卵割 に至ることが確認された。しかし、胚盤胞期胚への発生はみられず、生存精子と同様の胚の発生を継続さ せる能力があるとは言えなかった。生存精子区では ICSI 後 4 時間目に MPF 活性が成熟卵子の値の 14%に 低下したのに対し、死滅精子区では、成熟卵子の 45%で生存精子区に比べると高かった。また、死滅精 子区で MPF 活性が低値を示したのは ICSI 後 12 〜 20 時間で、生存精子区の ICSI 後 4 〜 16 時間よりも短 かった。このため、サイクリンBが十分に蓄積されず、ICSI 後 24 時間目の MPF 活性が十分上昇しなかっ たと考えられた。精子の持つ卵子活性化因子が、卵子内の Ca2+濃度を増加させ、その結果 MPF 活性が低 下するため、死滅精子には精子細胞膜などに含まれる卵子の MPF 活性を低下させる何らかの因子が欠如 している可能性が考えられた。そのため、死滅精子を用いた ICSI 後の前核期以降の発生率も低いと考えら れた。

参 考 論 文

1. Westhusin ME, Anderson JG, Harms PG, Kraemer DC. Microinjection of spermatozoa into bovine eggs. 

Theriogenology. 1984; 21: 274-275

2. Younis AI, Keefer CL, Brackett BG. Fertilization of bovine oocytes by sperm injection. Theriogenology. 

1989; 31: 276 (Abstr)

3. Goto  K,  Kinoshita  A,  Takuma  Y,  Ogawa  K.  Fertilization  of  bovine  oocytes  by  the  injection  of  immobilized, killed spermatozoa. Vet Rec. 1990; 24: 517-520 

4. Saeki K, Hoshi M, Leibfried-Rutledge ML, First NL. In vitro fertilization and development of bovine  oocytes matured with commercially available follicle stimulating hormone. Theriogenology. 1990; 34: 

1035-1039

5. Horiuchi T, Emuta C, Yamauchi Y, Oikawa T, Numabe T, Yanagimachi R. Birth of normal calves after  intracytoplasmic sperm injection of bovine oocytes: a methodlogical approach. Theriogenology. 2002; 

57: 1013-1024

6. Shojo  A,  Tatemoto  H,  Terada  T.  Effect  of  oocyte  aging  on  parthenogenetic  activation  with  cycloheximide and alteration of the activity of maturation promoting factor during aging of bovine  oocytes. J Mamm Ova Res. 2000; 17: 35-41

(6)

英 文 要 旨

Effects of sperm viability on kinetics of MPF activity of bovine oocytes following ICSI

Nahoko Fujinami1, Yoshihiko Hosoi1, 2, Hiromi Kato2,  Kazuya Matsumoto1, 2, Kazuhiro Saeki1, 2 and Akira Iritani1, 2

Developmental potential of bovine embryos fertilized by intracytoplasmic sperm injection (ICSI) using  killed sperm by repeated freezing and thawing is very low. In this study, we investigated effects of sperm  viability on kinetics of maturation promoting factor (MPF) activity (p34cdc2 kinase activity) and on  development of bovine oocytes following ICSI. Cleavage rate and developmental rate to blastocyst after  ICSI with live sperm were significantly higher than that after ICSI with killed sperm (51% vs. 12%, 12% vs. 

0%: ICSI with live sperm vs. killed sperm, respectively). MPF activity of oocytes following ICSI with live  sperm was lowered to 14% of the value of metaphase II oocytes at 4 h and maintained at low level until  MPF activity was elevated at 24 h after ICSI. MPF activity of oocytes following ICSI with killed sperm was  lowered to 45% of the value of metaphase II oocytes at 4 h after ICSI. It was low from 12 h to 20 h after  ICSI and then elevated at 24 h after ICSI. However, it was only to 26% of the value of metaphase II  oocytes. These results indicated that killed sperm does not have sufficient potential for degradation of  MPF activity of oocyte following ICSI and therefore developmental rate after ICSI with killed sperm was  low than ICSI with live sperm. 

1. Division of Biological Science, Graduate School of Biology-Oriented Science and Technology, Kinki University, Wakayama, 649-6493, Japan 2. Institute of Advanced Technology, Kinki University, Wakayama, 642-0017, Japan

参照

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