大阪府大阪狭山市大野東377‑2(〒589‑8511) 受付 平成24年10月29日,受理 平成24年11月22日
男性にみられた膵 s ol i d- ps e udopa pi l l a r y t umorの1切除例
安 田 武 生 今 井 元웋 松 本 正 孝 荒 木 麻 利 子 中 多 靖 幸 石 川 原 山 崎 満 夫 北 野 雅 之웋 中 居 卓 也 竹 山 宜 典
近畿大学医学部外科学教室 웋近畿大学医学部内科学教室(消化器内科部門)
抄 録
今回われわれは比較的若い男性発症の充実性 solid-pseudopapillary tumorの1切除例を経験した.症例は37歳 男性.2012年に下痢を主訴に近医精査,膵に異常指摘され当院紹介となった.CT検査にて膵尾部に石灰化を伴う 腫瘤を認め,超音波内視鏡下に穿刺吸引法を行った.生検結果は類円形核と好酸性のわずかな胞体を持つ細胞が乳 頭状に増殖しており solid-pseudopapillary tumorが疑われた.患者の同意のもと脾温存膵尾部切除術を施行した.
術後は順調に経過し,現在も再発認めず外来通院中である.
Key words:solid-pseudopapillary tumor,男性,充実性腫瘍
緒 言
Solid-pseudopapillary tumor(以下 SPT)は若年 女性に好発し,内部は充実性成分と囊胞性成分を有 する膵腫瘍として知られているが,最近は男性発症 例や囊胞成分をもたない充実性腫瘍の報告例が増加 している.今回われわれは比較的若い男性発症の充 実性 SPTの一切除例を経験したので,若干の文献 的検索を加え報告する.
症 例
患者:37歳,男性.
主訴:下痢.
家族歴:特になし.
既往歴:特になし.
現病歴:2012年に下痢を主訴に近医受診.その際 の腹部 CT検査にて膵尾部に石灰化を伴う病変指摘 され,精査加療目的に当院紹介となった.
入院時現症:身長178cm,体重101kg,貧血黄疸 なく,腹部は平坦軟.腹部触診にて腫瘤は触知せず.
入院時検査所見:血液検査では貧血や肝機能腎機 能障害を認めなかった.空腹時血糖は101mg/dlと 異常認めず.血清ホルモン値にも検索範囲で異常認 めず,腫瘍マーカーは CEA2.1ng/ml,CA19‑912 U/mlと正常範囲内であった.
腹部造影 CT検査:膵尾部に直径 3cm の石灰化
を伴う腫瘤が存在しており(Fig.1a),造影効果は 乏しく,膵実質相では周囲膵組織より低吸収を示し
(Fig.1b),平衡相では等吸収であった(Fig.1c).
以上の検査より SPTや膵内分泌腫瘍が疑われた ため,膵液細胞診・吸引細胞診を施行することとし た.
ERCP検査:主膵管に異常は認めず,腫瘍との交 通も認めなかった(Fig.2).検査の際の膵液細胞診 は形の不整な N/C比の大きい小型細胞を認め,免 疫染色にて β‑catenin陽性であり,SPTが疑われる という結果であった.
超音波内視鏡検査:膵尾部に直径2.5cm 大の境 界明瞭で周囲膵組織より hypo-echoicな腫瘍が存在 しており,内部構造は不均一であり,中心部に石灰 化を認めた.被膜は薄く,明らかな囊胞成分は認め なかった(Fig.3).同部より超音波内視鏡下穿刺吸 引法を施行した.生検結果は類円形核と好酸性のわ ずかな胞体を持つ細胞が乳頭状に増殖 し て い た
(Fig.4).免疫染色を行ったところ,α‑antitrypsin 陽性,NSE陽性,CD10陽性,β‑catenin陽性であり,
内分泌腫瘍ではなく SPTと診断された.
以上のことから,若年男性に発生した充実成分が 主体の膵 SPTと診断した.基本的には良性疾患で あり経過観察も可能ではあるがまれに転移をきたす こともあるため,検査結果を十分に説明した上で加 療を希望されたため,手術を施行した.
手術所見:上腹部正中切開で開腹した.検索し得 た範囲では明らかな腹水,腹膜播種,リンパ節腫大 は認めなかった.膵は正常膵であり,主膵管径は 1 mm であった.膵尾部の腫瘍部分は硬結として触知 し,漿膜は一部白色調に変化していた(Fig.5a).
術中超音波検査にて膵尾部以外に病変は認めず脾臓
Fig.1 腹部 CT検査
a.単純相.膵尾部に直径 3cm の石灰化を伴う腫 瘤が存在している(白矢印).
b.動脈相.正常膵組織より腫瘍の造影効果は乏し い(白矢印).
c.平衡相.腫瘍は遅れて造影され,正常膵組織と同 等の造影効果である(白矢印).
a
b
c
Fig.2 ERCP検査.主膵管に異常は認めず,腫瘍 との交通も認めない.
Fig.3 超音波内視鏡検査.膵尾部に直径2.5cm 大 の境界明瞭で周囲膵組織より low echoic な腫瘍が存在しており(白矢印),内部構造 は不均一であり,中心部に石灰化を認める.
被膜は薄く,明らかな囊胞成分は認めない.
温存膵尾部切除術を施行した.
肉眼所見:長径2.5cm の分葉状の充実性腫瘍で あり,割面には壊死組織を思わせる灰白色の柔らか い成分を認めた(Fig.5b).腫瘍内出血は認めず,
囊胞成分は認めなかった.
病理組織学的所見:膵尾部に境界明瞭な腫瘤を認 め,腫瘤は類円形核と好酸性の胞体を持つ細胞が乳 頭状から索状に増殖し,間質には繊維血管が認めら れた(Fig.6).免疫染色を行うと NSE陽性,CD10 陽性,β‑catenin陽性,synaptophysinは一部で陽 性,chromograninも一部で陽性であった.MIB‑1 陽性細胞は1%未満であった.免疫染色では insulin 発現は認めず内分泌系の腫瘍は否定され,最終診断 は solid-pseudopapillary tumorと診断された.
術後経過:術後経過は良好で第10病日に退院とな った.現在術後6ケ月経過しているが残膵を含め異 常は認めていない.
考 察
SPTは,従来若年女性に好発し,内部は充実性成 分と囊胞性成分を有する膵腫瘍として知られ,1981 年に Kl썥ppelら웋により so olid and cystic acinar cell tumorとして疾患概念がまとめらて以来,その
病態が徐々に明らかにされてきた.「膵癌取扱い規 約」워では,「分化方向の不明な上皮性腫瘍」として分 類されており,内分泌や外分泌細胞の双方へ分化し うる premordial cell由来とする説が有力とされて いるが웍웦웎,直接的な証明はなされておらず現在も詳 細は不明である.また,SPTは男女間で明らかに発 生率,年齢,腫瘍径に差があることより,性ホルモ ン依存性の可能性が以前より指摘されている웏웦원が,
Fig.5 a.術中所見.膵尾部の腫瘍は硬結として 触知し,漿膜は一部白色調に変化している
(白矢印).
b.標本所見.長径2.5cm の分葉状の充実 性腫瘍であり,割面には壊死組織を思わせ る灰白色の柔らかい成分を認める.
Fig.4 穿刺吸引組織診.類円形核と好酸性のわず かな胞体を持つ細胞が乳頭状に増殖してい る.内 分 泌 腫 瘍 は 否 定 的 で あ り,solid pseudopapillary tumorに合致する所見で ある.(HE染色400倍)
a
b
Fig.6 病理組織検査.腫瘤は類円形核と好酸性の 胞体を持つ細胞が乳頭状から索状に増殖 し,間質には繊維血管が認められ,solid pseudopapillary tumorと診断した.(HE 染色400倍)
これについても現時点では詳細は不明であり,今後 の検討が待たれる.
本疾患は当初は若年女性に好発し,画像上厚い被 膜を有する充実成分と囊胞成分の混在する腫瘍とさ れてきたが報告例の増加に伴い,男性発症の症例や,
当初特徴とされた囊胞性成分をもたず充実性成分の みからなる症例も散見されるようになった웑욹웓.吉岡 ら웋월の本邦報告302例の集計によると男性例は40例
(13.2%)を占めており,また12例(4%)が充実性 の SPTで,男性例は中高年に多い傾向がみられた.
また,Uchimiら웋웋は22例の充実性 SPTを検討し,
男性に高率に発生し平均腫瘍径も44mm と通常よ り小さいと報告している.自験例においても腫瘍径 は2.5cm と小さく,これらの特徴に合致する結果で あった.一般に SPTは hypovascularであるが,囊 胞性成分は,もともと充実性腫瘍であった SPTに 出血,壊死による変化が生じ,囊胞部分を生じると されている.SPTの男性例で充実性 SPTが多い原 因はその発見時の腫瘍径が小さく,壊死などによる 囊胞化がおきる手前で診断されている可能性があり 得ると考えられた.しかしながら,なぜ男性 SPT症 例で腫瘍径が小さい理由はいまだ不明であり,やは り前述したように性差により腫瘍の発生や成長の過 程が異なる可能性がありうる.
SPTの診断は血液生化学検査では特徴的な異常 はなく,画像検査で診断される.典型例は CTや超 音波検査で診断可能であり,MRIや造影超音波検査 も有用であるとの報告もある웋워.一方,自験例のよう に男性例では,腫瘍径が小さく典型的な画像所見を とらないため,まず腫瘍発見時に鑑別診断に SPT が挙りにくい.このため,膵内分泌腫瘍や膵腺房細 胞癌等が疑われることがあり,これらとの鑑別が必 要となる.膵内分泌腫瘍は一般的には造影早期から 強く濃染される hypervascularな腫瘍として웋웍,膵 腺房細胞癌も多くは hypervascularな腫瘍として 描出される웋웎ため,各疾患の画像摘特徴は異なって おり,常に本疾患を念頭に入れておけば鑑別可能で あると思われる.自験例では,当初は内分泌腫瘍を 鑑別診断に含めたが,各種画像診断に加えて更に超 音波内視鏡下穿刺吸引法による組織診を行い術前に 確定診断を得た.近年 modalityの向上により膵疾 患の領域においても術前細胞診や吸引細胞診・組織 診が術前に施行される頻度が高くなっており,その 役割は拡大しつつ有る.本症例でも,術前確定診断 が可能であり術式選択も含め有用であった.
治療は外科的切除により良好な予後が期待され る.しかしながらまれに膵実質への浸潤や他臓器転 移,腹膜播種,リンパ節転移を伴う症例や웋웏웦웋원,初回
手術から5年以上経過して再発する症例も存在する ことより,術前術後を含めて厳重な観察を要すると 考えられる.Nishiharaら웋웑は,転移を認めた3例を 含む22例を検討し悪性を示唆する所見として,血管 侵襲,高度核異型,類壊死巣を挙げているが,転移 のない症例でも膵実質浸潤や被膜浸潤など悪性を疑 わせる所見があり,良悪性の診断はしばしば困難で あるため malignant potentialを持つ腫瘍として治 療にあたる必要がある.吉岡らの検討8)によれば 術後の再発場所としてのリンパ節転移の割合は302 症例中1症例(0.3%)と極めて低く,初回手術時の リンパ節転移の頻度が低いことと考え合わせると核 出術は難しいが切除 marginをとった膵の縮小手術 の対象となり得る.本症例は脾臓温存の膵尾部切除 術を施行したが,腹腔鏡下の手術も含めて術式は広 く検討する必要があると考えられた.
結 語
今回われわれは比較的若 い 男 性 発 症 の 充 実 性 SPTの1切除例を経験したので,若干の文献的検索 を加え報告した.
文 献
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