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(1)

財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留 分侵害額算定における相続債務の加算の可否

著者 且井 佑佳

雑誌名 同志社法學

巻 63

号 2

ページ 1277‑1300

発行年 2011‑07‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013808

(2)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四〇九

平 成 二 一 年 三 月 二 四 日 最 高 裁 第 三 小 法 廷 判 決 ( 平 成 一 九 年 ( 受 ) 第 一 五 四 八 号 ・ 持 分 権 移 転 登 記 手 続 請 求 事 件 ) 民 集 六 三 巻 三 号 四 二 七 頁

且    井    佑   

【 事 実 の 概 要 】

 (1)Aは、平成一五年七月二三日、Aの有する財産全部をY(被告・被控訴人・被上告人)に相続させる旨の公正証書遺言(以下﹁本件遺言﹂という。)をした。本件遺言は、Yの相続分を全部と指定し、その遺産分割の方法の指定として遺産全部の権利をYに移転する内容を定めたものである。 (2)Aは、同年一一月一四日に死亡した。Aの法定相続人は、子であるX(原告・控訴人・上告人)およびYである。 (3)Aは、相続開始時において、第一審判決別紙物件目録記載の不動産(以下、﹁本件不動産﹂という。)を含む積

一二七七

(3)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四一〇

極財産として四億三二三一万七〇〇三円、消極財産として四億二四八三万二五〇三円の各財産を有していた。なお、相続財産中の消極財産のほとんどは、積極財産中のマンションの建築資金として借り入れられた金銭債務である 。本件遺言により、遺産全部の権利が相続開始時に直ちにYに承継された。 (4)Xは、Yに対し、平成一六年四月四日、遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。 (5)Yは、同年五月一七日、前記不動産につき、平成一五年一一月一四日相続を原因として、Aからの所有権移転登記を了した。 (6)Xは、Aの消極財産のうち可分債務については法定相続分に応じて当然に分割され、その二分の一をXが負担することになるから、Xの遺留分の侵害額の算定においては、積極財産四億三二三一万七〇〇三円から消極財産四億二四八三万二五〇三円を差し引いた七四八万四五〇〇円の四分の一である一八七万一一二五円に、相続債務の二分の一に相当する二億一二四一万六二五二円を加算しなければならず、この算定方法によると、上記侵害額は二億一四二八万七三七七円になると主張している。これに対し、Yは、本件遺言によりYが相続債務をすべて負担することになるから、Xの遺留分の侵害額の算定において遺留分の額に相続債務の額を加算することは許されず、上記侵害額は、積極財産から消極財産を差し引いた七四八万四五〇〇円の四分の一である一八七万一一二五円になると主張している。

【 争 点 】

・Xの遺留分侵害額の算定における加算されるべき相続債務の存否。 一二七八

(4)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四一一

【 第 一 審 ( 福 岡 地 裁 平 成 一 九 年 二 月 二 日 判 決 ・ 民 集 六 三 巻 三 号 四 三 七 頁 )】 一 部 認 容

(2)

・ 一 部 棄 却

( 1 )  本 件 遺 言 の 解 釈

 ﹁本件遺言は、Aの有する財産全部を被告に相続させる趣旨の遺言であるところ、特定の遺産を特定の相続人に﹃相続させる﹄趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではなく、当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものであり、また、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継されるものと解すべきである(最高裁平成三年四月一九日第二小法廷判決・民集四五巻四号四七七頁参照)。そして、このことは、遺産全部について﹃相続させる﹄趣旨の遺言をした場合でも同様に解すべきであって、この場合は法定相続分を超える遺産を相続させることになるから、遺産分割の方法が指定されたとともに相続分が指定されたものと解すべきである。 そうすると、本件全証拠によるも、本件において、遺贈と解すべき特段の事情はなく、また、本件遺言において相続による承継を被告の意思表示にかからせたなどの特段の事情もないから、本件遺言は、被告の相続分を全部と指定し、その遺産分割の方法の指定として遺産全部の権利を被告に移転したものであって、その結果、遺産全部の権利はA死亡の時に直ちに被告に承継されたものと認められる。﹂

( 2 )  相 続 分 が 指 定 さ れ た 場 合 の 相 続 債 務 の 承 継

 ﹁相続債務については、債権者保護の観点から、また、遺言で法定相続分とは違う指定相続分が定められたとしても外部から窺い知ることが困難であることからして、たとえ遺言で相続分が指定されたとしても、債権者は、法定相続分

一二七九

(5)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四一二

の割合に従って相続債務が承継されたものとして各法定相続人に対し請求することができると解する余地があるが、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する(民法八九九条)のであるから、指定相続分が定められたときは、その指定相続分の割合に応じて相続債務は承継されることになる。そうすると、上記のように解した場合、債権者は、各共同相続人に対して、法定相続分の割合に従って請求することもできる(この場合、指定相続分の割合を超えて履行した相続人は、本来負担すべきであった相続人に対し求償することになる。)し、本来の承継された指定相続分の割合に従って相続債務を請求することもできることになるが、いずれにせよ、相続人間においては、指定相続分の割合に応じて相続債務が承継されたものとしてその法律関係が律せられることに変わりはない。 したがって、本件遺言によりYの相続分が全部と指定されたのであるから、Yは相続債務をすべて承継し、Xが負担すべき相続債務はないことになる。 これに対し、Xは、最高裁昭和三四年六月一九日第二小法廷判決を引用して、可分相続債務は法定相続分に応じて当然に分割されると主張するが、同最高裁判決は、債権者と相続人との間の事案について判示したものであって、相続人間の事案について判示したものではないから、本件は同判決の射程範囲外の事件に当たるし、そもそも、同判決は、﹃被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継する﹄と判示するにとどまっており、法定相続分に応じて承継するとは明言しておらず、また、同判決は、法定相続分に従って可分債務を分割させてはいるが、当該事案の相続分が法定相続分であればそのように分割させるのは当然のことであって、指定相続分が定められているにもかかわらず、法定相続分に従って可分債務を分割させた事案ではないから、同判決によってXの上記主張を根拠付けることはできず、したがって、Xの上記主張を採用することはできない。﹂ 一二八〇

(6)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四一三

【 原 審 ( 福 岡 高 裁 平 成 一 九 年 六 月 二 一 日 判 決 ・ 民 集 六 三 巻 三 号 四 四 六 頁 )】 控 訴 棄 却

 原審は、第一審判決の理由につき、﹁なお、相続分の指定の効力が相続債務について及ぶかについては議論の余地がないではないが、債権者との関係では後記のとおりその指定を対抗できないとすれば足りるのであるから、被相続人の合理的意思、相続人間の公平の見地に加え、包括遺贈の場合(民法九九〇条)との対比からも、これを肯定的に解するのが相当である。とりわけ本件のように相続人の一人に全部の相続分の指定がなされた場合には、このように解するのが被相続人の合理的意思に合致するとともに、相続人間の公平が図られるというべきである。﹂との補正を加えて引用した上で、次のように判示した。 ﹁本件遺言は、遺産分割の方法の指定とともに相続分の指定であると解されるところ、このように相続分が指定された場合、対債権者との関係ではともかく、少なくとも相続人間では、相続債務は、指定に従って承継されるというべきであって、相続分全部の指定を受けたYが相続債務の全部を承継するとともに、Xはこれを承継することはないから、Xの遺留分侵害額を算定するに際し、加算すべき相続債務は存しないというべきである。したがって、Xの主張は、採用することができない。﹂

【 判 旨 】

上 告 棄 却

 ﹁本件のように、相続人のうちの一人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかである

一二八一

(7)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四一四

などの特段の事情のない限り、当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり、これにより、相続人間においては、当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。もっとも、上記遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債務の債権者(以下﹁相続債権者﹂という。)の関与なくされたものであるから、相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり、各相続人は、相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには、これに応じなければならず、指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが、相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。 そして、遺留分の侵害額は、確定された遺留分算定の基礎となる財産額に民法一〇二八条所定の遺留分の割合を乗じるなどして算定された遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し、同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定すべきものであり(最高裁平成五年(オ)第九四七号同八年一一月二六日第三小法廷判決・民集五〇巻一〇号二七四七頁参照)、その算定は、相続人間において、遺留分権利者の手元に最終的に取り戻すべき遺産の数額を算出するものというべきである。したがって、相続人のうちの一人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ、当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合、遺留分の侵害額の算定においては、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である。遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ、これに応じた場合も、履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず、相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまるものというべきである。 一二八二

(8)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四一五  ⋮これを本件についてみると、本件遺言の趣旨等からAの負っていた相続債務についてはYにすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情はうかがわれないから、本件遺言により、XとYとの間では、上記相続債務は指定相続分に応じてすべてYに承継され、Xはこれを承継していないというべきである。そうすると、Xの遺留分の侵害額の算定において、遺留分の額に加算すべき相続債務の額は存在しないことになる。﹂

【 参 照 条 文 】

民法四二七条・八九九条・九〇二条・九〇八条・一〇二九条・一〇三一条

【 検 討 】

Ⅰ . 本 判 決 の 意 義

 本判決の意義は、第一に、財産の全てを特定の相続人に相続させる旨の遺言について、その法的性質を明示した点に認められる。 いわゆる﹁相続させる﹂旨の遺言の法的性質については学説上対立が見られるが、最高裁は、平成三年四月一九日判決(民集四五巻四号四七七頁。以下、﹁平成三年判決﹂という。)において、次のように述べている。すなわち、﹁﹃相続させる﹄趣旨の遺言⋮は、正に同条(民法九〇八条―引用者)にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であ﹂るとした上で、﹁当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである﹂とした(遺産分割効果説)。これにより、相続させる旨の遺言の法的性質については、

一二八三

(9)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四一六

一応の決着をみたと言える。 平成三年判決が、特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言について判断したものであったのに対し、本件は、財産の全てを特定の相続人に相続させる旨の遺言について判断されたものである。第一審および控訴審では、この法的性質を相続分の指定(民法九〇二条)を伴う遺産分割方法の指定(民法九〇八条)である旨を明確に示しており 、本判決もまた、これを全部包括遺贈と解するのではなく、相続分の指定の性質を有する旨を最高裁として初めて明示した。相続させる旨の遺言による相続人への遺産分配は、遺贈ではなくあくまで相続の範疇であることを示すものであり、平成三年判決の延長に位置付けられるものと評価できよう。 本判決の第二の意義は、財産全部を相続させる旨の遺言の法的性質が相続分の指定であると理解した上で、被相続人の負っていた可分債務につき、相続分の指定にかかる当該可分債務の承継割合およびその対外的効力について明らかにした点にある。本判決は、相続人間においては指定相続分に応じた債務が承継されるとし、他方、債権者との関係ではこれを対抗できないとしている。また、債権者は法定相続分に応じた履行請求はもとより、指定相続分に応じた履行請求も可能であるとした。遺留分侵害額算定の前提として判示されたものであるが、その射程は、遺留分に関わりなく、相続分指定が行われた場合に広く及ぶものと思われる。 本判決の意義として第三に挙げられるのは、共同相続人の一人に財産全部を相続させる旨の遺言があった場合に、他の共同相続人の遺留分侵害額算定において、被相続人の負っていた金銭債務(可分債務)を法定相続分に応じた割合で加算すべきか否かを明らかにした点である。相続債務がある場合の遺留分侵害額の算定方法は、既に最高裁平成八年一一月二六日判決(民集五〇巻一〇号二七四七頁。以下、﹁平成八年判決﹂という。)により示されている。しかし、平成八年判決の原審が、包括受遺者の相続債務弁済による求償の範囲を個別的な法定遺留分割合を基準に算定した(した 一二八四

(10)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四一七 がって、各遺留分権利者は個別の法定遺留分割合に応じた相続債務を負担していたことになる。)のに対し、平成八年判決は、負担すべき相続債務の具体的内容を明らかにしておらず、この点は爾後の課題とされていた 。 本判決は、加算すべき債務の内容を、債権者に請求される可能性のある債務額ではなく、﹁相続人間において、遺留分権利者の手元に最終的に取り戻すべき遺産の数額﹂とし、その問題に答えたものである。 以上のうち、本件における中核的な問題は、財産の全てを相続させる旨の遺言がなされた場合における①相続分指定にかかる相続債務の承継割合および対外的効力、②遺留分侵害額算定における法定相続分での相続債務額の加算の可否である。以下では、①および②の問題を順に検討していく。

Ⅱ . 相 続 分 指 定 に か か る 相 続 債 務 の 処 理

1.相続債務の承継割合 相続財産中の可分債務の承継につき、学説上は当然分割説のほか、不可分債務説 や合有債務説が見られるが 、判例は一貫して、相続財産中の可分債務は、金銭その他の可分債権と同様に、相続開始と同時に当然分割帰属するとの扱いが為されている(当然分割説)。例えば、最高裁昭和三四年六月一九日判決(民集一三巻六号七五七頁。以下、﹁昭和三四年判決﹂という 。)は、連帯債務者の一人である被相続人の死亡により、相続人であり本来の連帯債務者である妻が三分の一、子が各六分の一の割合で相続したところ、被相続人の債権者が妻らに当該債務の返済を求めた事案において、次のように判示した。すなわち、﹁連帯債務は、数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担しているのであり、各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合して

一二八五

(11)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四一八

いるが、なお、可分なること通常の金銭債務と同様である。ところで、債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきであるから⋮、連帯債務者の一人が死亡した場合においても、その相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相当である﹂とし、その上で法定相続分に応じた金銭債務の分割を行っている。 昭和三四年判決は単に﹁相続分に応じて﹂と判示したに過ぎず、その内容は必ずしも明らかではない。昭和三四年判決では結局、法定相続分に応じた分割を行ってはいるが、当該事案においては遺言が存在せず、法定相続が前提とされていた。昭和三四年判決のほか、金銭債務の当然分割帰属を判示したものとして、大決昭和五年一二月四日(民集九巻一一一八頁)、大判昭和一六年五月六日(新聞四七〇六号二五頁)があるが、いずれも遺言の存在しない事案であり、昭和五年判決では、﹁相続分ハ別段ノ指定ナキトキハ平等ナレハ﹂との条件を付した上で、法定相続分に応じた分割がなされている。 本判決は、相続財産中の債務の承継割合を遺言の解釈として検討し、﹁遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り﹂、指定相続分に応じて相続人に承継されることを示した。これは、先例と同様に相続財産中の金銭債務の承継が当然分割帰属であることを前提としているものである。問題は、Xの主張するように、先例が可分相続債務を法定相続分に応じて当然分割帰属するとの処理をしていることとの関係である。これについては、昭和三四年判決が相続人と債権者間の債務承継関係を判断したものであるのに対し、本件第一審判決は、相続人間の債務承継関係が争われたものであること、前記金銭債務の分割に関する判例が、遺言が存在しないために法定相続を前提としていたことからみて、本件とは事案を異にするとしている。 一二八六

(12)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四一九 本判決においては昭和三四年判決との関係は示されていないものの、本判決は、先例と抵触ないし変更するものではなく、先例の射程を明確化したものであるといえよう 。 もっとも、後掲平成八年判決との整合性はなお問題となり得る 。平成八年判決は、全部包括遺贈に関する事案であるため注意を要するが、﹁この遺留分算定の方法は、相続開始後に⋮(包括受遺者)が相続債務を単独で弁済し、これを消滅させたとしても、また、これにより⋮(包括受遺者)が(遺留分権利者ら)に対して有するに至った求償権と⋮(遺留分権利者ら)が(包括受遺者)に対して有する損害賠償請求権とを相殺した結果、右求償権が全部消滅したとしても、変わるものではない﹂(小括弧は引用者による。)としているため、相続債務を弁済した全部包括受遺者の遺留分権利者に対する求償権の取得を認めているかのようであるからである ₁₀

。包括遺贈における債務承継に関する通説は、民法九九〇条を根拠に、相続人と同様に債務を承継するとしており ₁₁

、この見解に従うのであれば、本判決は平成八年判決を実質的に変更するものと見られる ₁₂

。 学説上、相続分の指定がなされた場合の債務承継割合については、債務が遺産に含まれることを肯定した上で、これを指定相続分の割合により承継すると解する見解が多数である ₁₃

。これは、相続分指定の性質を有することを肯定する限りで、財産全部を相続させる旨の遺言においても変わりないであろう(もっとも、財産全部を相続させる旨の遺言が包括遺贈であると解しても、前述した通説によれば同様である。)。これに対し、民法上の概念である相続財産や遺産は、積極財産のみを指すのであって、消極財産はこれに含まれず、被相続人ないし相続人の意思によって帰属を左右することはできないとして、可分債務は法定相続分に応じて当然分割帰属すると解する見解が見られる ₁₄

。この見解は、財産全部を相続させる旨の遺言は、特定の財産(積極財産)を相続させる旨の遺言の全部的集合体であるから、特定の財産を相続させる旨の遺言をいかに集合させても、相続債務は法定相続分により相続人に分割帰属したままであるとするが ₁₅

一二八七

(13)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四二〇

少数説にとどまるようである。また、相続債務の処分を遺言で行うことに疑問を呈する見解が見られるが、共同相続人が遺言の内容に従うことは私的自治の範囲内として許されるとしている ₁₆

。 本判決は、上記多数説の見解を肯定するものであるが、﹁遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り﹂との留保を付している。実際上、遺言する財産中に債務を含めるか否かにつき曖昧な例が多いことや、遺言作成後に相続債務となるべき債務が発生する場合があることが指摘されており ₁₇

、﹁特段の事情﹂につき、﹁被相続人の意思の尊重という観点から、債務額、債務原因、被相続人と相続債権者、相続人との間での事前の合意等、様々な事情を考慮した柔軟な﹃特段の事情﹄の認定が求められることになるだろう﹂とされている ₁₈

2.指定相続分に応じた債務承継の対外的効力 相続分指定にかかる相続債務承継の対外的効力を扱った先例は見当たらない。 学説上では、相続分の指定がなされた場合の相続債務は、相続人間については指定相続分に応じて承継されると解する見解が多数を占め、対外関係、つまり特に相続債権者との関係で、相続分指定の効力を主張できるか否かについては、これを否定する見解が通説的地位にあるようである。すなわち、債権は債務者の意思のみで措置すべきではなく、債権者保護の観点から、あるいはまた、法定相続分の形式的画一性は相続的承継秩序と取引の安全とを調和する手段であることなどから、対外関係において指定相続分は法定相続分に劣後すると解するのである ₁₉

。相続分指定の対外的効力を肯定する見解は、民法八九九条の文言および民法九〇二条により、本則は指定相続分なのであり、法定相続分は補充的である旨を主張するが、少数説である ₂₀

。 一二八八

(14)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四二一  本判決は、本件遺言による相続債務についての相続分指定を相続債権者の関与がないものとした上で、ここでも通説の見解にならい、相続分指定にかかる債務承継の対外的効力を否定したものである。もっとも、本判決は遺言による相続分の指定にかかる債務承継が、相続債権者の関与なくなされたものであることを相続債権者に相続分指定の効力の及ばない理由としていることから、相続債権者の関与が肯定される場合には、相続債権者にもその効力が及ぶ可能性があるとみることができる。しかし、本判決からは相続債権者に相続分指定に応じた債務承継の効力を対抗できる﹁関与﹂の具体的態様が如何なるものであるかは明らかではなく、今後の裁判例の集積が待たれるところである。 相続分指定にかかる相続債務承継の効力を相対的に捉えると、相続債権者が法定相続分に応じた債務の履行を各相続人に請求できるのは当然である。本判決では、それに加えて、相続債権者が指定相続分に応じた履行の請求をすることも可能であるとしている。 相続債権者が法定相続分に応じた債務の履行を求めた場合、各相続人はそれに応じなければならない。この場合、本件のように指定相続分が法定相続分を下回る相続人は、履行の超過部分(法定相続分額 るい ₂₁ とこは決判本、がる得りな問題をがか否かるきで算加にれ定否のてしとるまどとに係関償求間人続相るな単、りおてし 算際の定額求遺に前以害請殺減分留。相るなにとこるきで償、続に当侵分留遺を額償求該、債は人続相たし済弁を務求

-指

人続相の他を)額分続相定

。 相続分の指定による相続債務承継の対外的効力を否定することにつき、本件が相続させる旨の遺言によるものであることから、本山敦教授は、﹁そもそも、﹃相続させる﹄旨の遺言による権利取得は、何人に対しても対抗できるというのが、同遺言に関する判例が積み重ねてきた解釈論ではなかったか﹂とし、相続させる旨に関する先例と本判決との整合性に疑問を呈される ₂₂

。ここに指摘される﹁判例の積み重ねてきた解釈論﹂は、平成三年判決(即時権利移転効)および

一二八九

(15)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四二二

一切の不動産の権利を特定相続人に相続させる旨の遺言による所有権取得は、登記なくして第三者に対抗できる旨を示した最高裁平成一四年六月一〇日判決(家月五五巻一号七七頁。以下、﹁平成一四年判決﹂という。)を指し、﹁遺言の有無や遺言の有効性に関する債権者=第三者の認識、すなわち対外的な関係に、それほどの違いがあるとも思われないが、債権債務と物権とでは基準が異なるということだろうか﹂とされる ₂₃

。このような指摘に対し、西希代子准教授は、本判決によれば指定相続の場合には、弁済期の各相続人の財産状況などに応じて履行請求先を自由に選択する権利を与えるものであり、法定相続の場合に比して不当に債権者に利すること、平成一四年判決あるいは相続分指定による不動産の所有権取得は、登記なくして第三者に対抗できる旨を示した最高裁平成五年七月一九日判決(家月四六巻五号二三頁)を前提とすれば、﹁指定相続分に応じた債務承継を相続債権者に対抗することを認めるべきであるようにも思われる﹂とするものの、﹁相続債権者との関係においては異なる視点が要求されることは否定できない﹂とされる ₂₄

。すなわち、指定相続分に応じた債務承継は﹁特定の意図の下に相続債権者を害するような恣意的な相続分の指定がなされる可能性﹂があることを指摘され、その点において本判決と平成一四年判決とでは異なるとし(平成一四年判決では制度の潜脱類似の状況が生じず、物権変動の場面では一定の場合に民法九四条二項の類推適用など第三者を救済する法理の利用が可能である。)、債権者の同意のない免責的債務引受けと同様の効果をもたらすのは、債権者の保護ないし取引の安全からも望ましくないとされる ₂₅

Ⅲ . 遺 留 分 侵 害 額 算 定 に お け る 法 定 相 続 分 で の 相 続 債 務 額 の 加 算 の 可 否

 既に述べたとおり、本判決は、遺留分侵害額の算定方法を示した平成八年判決において残された問題である加算すべ 一二九〇

(16)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四二三 き相続債務額の内容に答えるものである。本判決の検討に入る前に、平成八年判決の事実の概要および判旨を確認しておく ₂₆

︿ 事 実 の 概 要 ﹀

 被相続人Aには、相続人として妻X一、子X二・X三(原告・被控訴人・被上告人)、養子Bおよび先妻との子Y(被告・控訴人・上告人)がいた。AがYに全ての財産を包括遺贈する旨の遺言を作成していたため、XらがYに対して遺留分減殺請求をした事案である。原審(大阪高裁平成五年一月二七日判決・民集五〇巻一〇号二七七一頁)は、Yが遺留分減殺請求を受けた後に、相続財産である不動産を第三者に売却したために生じた遺留分侵害によるXらの損害賠償請求権とYの相続債務弁済によるXらへの求償権とが相殺により消滅したため、遺留分額の算定上、相続債務などを控除すべきでない旨を判示した。Y上告。

︿ 判 旨 ﹀

 ﹁被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は、民法一〇二九条、一〇三〇条、一〇四四条に従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法一〇二八条所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその

一二九一

(17)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四二四

額を加算して算定するものである。Xらは、遺留分減殺請求権を行使したことにより、⋮右の方法により算定された遺留分の侵害額を減殺の対象であるAの全相続財産の相続開始時の価額の総和で除して得た割合の持分を当然に取得したものである。この遺留分算定の方法は、相続開始後にYが相続債務を単独で弁済し、これを消滅させたとしても、また、これによりYがXらに対して有するに至った求償権とXらがYに対して有する損害賠償請求権とを相殺した結果、右求償権が全部消滅したとしても、変わるものではない。﹂ 平成八年判決で示された遺留分侵害額の算定方式は、次のように整理される。遺留分侵害額=(被相続人の相続開始時に有する財産の価額+被相続人の贈与した財産の価額

合利×当該遺留分権者割の法定相続分割合の法分留遺の条八二〇一

-相

民×)額全の務債続 額別益受

-当

権利者の該ていた特分留遺得 っ債(いわゆる内部的相続務た分担額)と解しているな額 ₂₇ きは上説学、きつに容内の務額債続相きべるれさ算加 大多なににとこう負を責る議担負す実れ論現見らがず、くは、 法包括遺贈と同様の判例る理とがるあで。こす当妥 の、害侵分留遺、びよお理とこるれさ定処てしと象対の算額方せ部全も法場の言遺の旨る合さ財続とて、し産全部を相 な効となるのでは殺く、遺留分減請求が無分内場部の遺言の容が遺留分を害する侵合ま害侵該ははた当体言遺のそ、自 容債務額のたを示し相こ続内、し用引をれこが決判本はと当次る旨るのさ続相、ちわなす。せいのてこを然と前提とし けお括に合場るあが贈遺事包部、全は案の決判年八遺成るて留も 、っがたし。るあでのた分し示を法方定算の額害侵平

-当

務相た得りよに続の産者利権分留遺財+債負続相きべす担が当者利権分留遺該該

。本判決は、そうした状況の中で、加算すべき相続債務の内容を相続債権者から請求される可能性のある法定相続分に応じた額ではなく、相続人内部の関係で負担すべき相続債務額であることを示した。 一二九二

(18)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四二五  本判決が指定相続分に応じた債務承継の効力は相対的であるとした上で、加算されるべき相続債務額の内容を内部的相続債務分担額とする点に、本判決の評価は明確に分かれている。この問題は、結局のところ、本判決が被相続人の意思の尊重と相続債権者保護との衡量の結果生じた相続債務の対内関係・対外関係のずれをいかに処理すべきか、すなわち、相続債務弁済に伴う危険を誰に負担させるべきか(あるいは反対に、誰を保護すべきか)に帰着する ₂₈

。本件において、Xが相続債権者の請求に応じて法定相続分の相続債務の弁済をなし、その後Yに求償した場合に、Yが無資力に陥っている可能性がある ₂₉

。このとき、XはYの無資力の危険を負担しなければならない。反対に、法定相続分の相続債務を加算すると、Yが相続債権者の請求に応じて指定相続分の相続債務を弁済した場合に、Xの無資力の危険をYが負担する可能性があるのである ₃₀

。 この点につき、本山教授は、遺留分の基礎となる財産の計算に際し、債務の全額が控除されることから(民法一〇二九条)、本来、遺留分権利者は相続債務を負担しないこと、遺留分は物権的な﹁最小限度の権利﹂であるにもかかわらず、遺留分権利者に遺留分相当分ないし遺留分以上の財産を失う危険を負担させる可能性があることを挙げ、遺留分権利者の利益を重視して、原則的には法定相続分の相続債務を加算すべき旨を主張される ₃₁

。その上で、本件第一審から最高裁においてまで一貫して示された算定方法を採るには、相続債権者が遺留分権利者に対する債権を明確に放棄し、または、遺留分権利者に請求しない旨の念書を入れるなど絶対的な保証がある場合に例外的に採用されるべきであるとされる ₃₂

。これに対し、青竹美佳准教授は﹁法定相続分に基づく債務の額を加算する方法は、遺留分権利者が、法定相続分に応じた履行をなす前に求償することと同様の結論を導き、事後的な請求を原則とする求償の本質に沿わないこととなる。このことは、本件ではYが指定相続分に応じた履行を為した場合に⋮今度はXに対して、多くの給付しすぎた遺留分額の返還を請求しなくてはならないという形で問題となる﹂と指摘し、﹁本判決は、相続分指定の効力の一般的理解および

一二九三

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(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四二六

求償の原則に沿った、妥当な一般的基準を提示したものといえる﹂として本判決を評価される ₃₃

。また、西准教授も﹁民法一〇二九条二項を類推適用する等、現実的な収益力等を考慮して相続財産を評価する方法が検討される余地はあるとしても、被相続人の意思との関係で、遺留分権利者に極めて厚い保護を与えることには疑問がある﹂とし、民法一〇三七条を引き合いに出した上で ₃₄

、﹁Xが法定相続分に応じた債務の弁済を余儀なくされ、求償時にYが無資力であったために遺留分減殺請求によって得た財産の額を超える損害を被り、結果的に、相続放棄しておいた方がXの利益であったという状況が生じることもまた、容認されうるのではないだろうか﹂とされる ₃₅

Ⅳ . 私 見 か ら の 評 価

 被相続人による相続分の指定がある場合、相続人は、当該指定相続分の割合に従って遺産を承継する。相続人は、﹁相続分に応じて﹂被相続人の権利のみならず義務をも包括的に承継するのだから(民法八九六条)、遺産には消極財産も含まれると解され、消極財産のみを切り離して処分することはできない。したがって、財産全部を相続させる旨の遺言において、これを相続分の指定であると解する以上、Yが債務を含む遺産の全部を承継したとすること自体に異論はない。もっとも、本判決は特段の事情がある場合には指定相続分による可分債務の承継(本判決の文言からそのすべてではないとしても)を否定する余地を残している。仮に、本判決のいう特段の事情が認められるのならば、判例の立場から可分債務(消極財産)は法定相続分に応じて当然分割帰属するものと考えられ、積極財産は当該指定に応じて承継するのだろうから、この場合、積極財産と消極財産とを異なる割合により相続人に承継させることとなる。こうした積極財産と消極財産の切り離しが、遺産分割における柔軟な対応であると評価し得、また、消極財産のみの処分は対外的効 一二九四

(20)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四二七 力を否定する以上私的自治の範囲内だとして許されるのだとしても、当該遺言の法的性質を相続分の指定と言い得るかは疑問である。﹁特段の事情﹂が認められるときは、財産全部を相続させる旨の遺言の法的性質は相続分の指定ではないとするのだろうか。あるいは、そもそも民法九〇二条の相続分の指定は、﹁特段の事情﹂が認められる限りで、積極財産と消極財産の切り離しが肯定されるのだろうか。 また、本判決は指定相続分にかかる債務承継の効力が相対的であるとしているが、この対外的効力を認めると解することはできないのだろうか。言うまでもなく、このように解すれば後の遺留分侵害額算定時の問題を生じさせることはない。 対外的効力の否定根拠の一つとして、相続債権者を害するような被相続人の恣意的な処分のおそれが挙げられているが、相続分の指定による財産承継は、当該指定相続分に応じた被相続人の地位の包括的承継である。先述のように、これは積極財産と消極財産を切り離して承継するものではない。相続債権者は、本来、被相続人の財産を自身の債権の引当てとすべきであるから、債務(の割合)に応じた積極財産が各相続人に帰属すればよく、法定相続分に従った履行請求を許して債務に応じた積極財産以上の負担を相続人に負わせる可能性を残すべきではないように思われる。相続人による積極財産の消尽が危ぶまれるときは、財産分離制度を用いればよい(民法九四一条)。 それでもやはり相続における画一的処理の要請や債権者保護の観点から対外的効力を否定すべきであるとすれば、遺留分侵害額算定における加算すべき相続債務の額は、本判決の示すように﹁最終的に取り戻すべき遺産の数額﹂と解するべきであろう。既に指摘されているように、財産を承継させまいとした被相続人の意思および求償の原則を考慮すれば、結果として相続債権者の保護に傾くことはやむを得ず、遺留分権利者は遺留分侵害者の無資力の危険を負担しなければならない。遺留分権利者は相続を承認する以上、このような危険の負担を覚悟すべきである ₃₆

一二九五

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(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四二八

 もっとも、本件においては、相続債務は積極財産であるマンションの建築費用資金の借入れであり、当該金融機関、AおよびYは、本件借入れに当たり事業計画を立て、マンション収益の中からローンを支払うことを企図していたが、Aの死亡後、債務者をAからYとする免責的債務引受契約を締結しようとしたところ、Xがこれに合意しなかったという事情があったようである ₃₇

。また、Yは第一審において、債権者とY間で当初からYのみを本件債務の承継人とすることが当然とされていた旨の主張をしている ₃₈

。事実審において当該主張は取り上げられず、本判決も明確に債権者の関与はなかったとしているが、このような本件の事情のもとでは、債権者の関与を認めて対外的効力を肯定するとした上での処理も可能だったのではないだろうか。

( 抵土地・マンシンにはョ当れ権るいて。さ定設が 二にれ入借該当、たま。頁文九二)年九〇〇二・社化、はしY続るあで産財極積の中産財相及、法と人証保を子のYび律﹄(法族家代現と族家るす 務月年一二成平二係関のと三額債続相と日殺減分留遺﹁壱光部安四) 最討貌変﹃集文論悼追生先亨地有﹂検高のてじ通を程過判裁のま決判裁で

( 分移権有所の五二一一万七八一三登〇〇七万一三二三億四分持るす転の記限手るいてし容認を求請のXで度。るできをすべき続あ旨を命じる 一一八七万一を二五)支払わ分の三三〇〇七万一か二三億四合割分持なとっ六共因原を殺減分留遺日四月四年一た成平きつに産動不件本、はきと有 のがX四三〇三万一九一、し対にXY(は審々原、めたのこ)。照参頁円口三価×円万〇〇二四億四額総の額の頭産動不件本るけおに時結終論弁九 X八Y、ていおに)日〇二月二年一本成平(日期論弁頭口の審一第件は) の意号三巻三六集民(たしを示表思の遺償弁額価てし対に求請殺減分留四

( 続、相続分を全部とする相分言指定であるとしている。を 三東旨の遺月三年五四和昭判高京、せかほの審訴控びよお審一第件本るさ〇ど日(家月二三巻一号六五頁)なが続、) 産の全てを特定相続人に相財

大年年度(平成八判成決)九八九頁。八平坪裁丘﹁判解﹂最高判) 所判例解説民事編

産てだ通普がるれさが議協割分際遺しらと象対を産財全、はで続相の実かので法]Ⅰ[九〇〇二スクあマリ例判ー私(﹂﹂とするる近幸治﹁判批江 務うどがけだ債債・権分可、てしし当然分割されるのか不可解であるて当ず論然分割説を採る判例に対し﹁理的たにも現実的にも、遺産分割を俟。 ) 判(点題問るじ生らか結帰の決本述、らか解見る採を説務債分可不後Ⅲ、さもそもそ、ちわなす。るいてれが参判批なうよの次、てし対に。)照 一二九六

(22)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四二九 七七頁)。また、分割帰属説に立つとしても、相続債務は指定相続分に応じて承継されるはずであり、﹁法定相続分とは、制度上、遺言などによる指定がなかった場合の相続基準であって、相続関係の普遍的な基準でないばかりか、﹃指定﹄がある場合に適用すること自体不当である﹂として、本判決のように相続債権者による法定相続分に応じた履行請求を認めることを否定する(同・七七頁)。加えて、相続債権者は、相続人に対し遺言の指定の有無を尋ねることが想定され、あるいは、不明者がいれば全員に対して全額を請求できるとしなければ、相続債権者にとっても損失であることを考慮すれば、相続債務は共同相続人に不可分的に帰属すると解するのが妥当であるとし、﹁結局において、問題は、判例が依拠しているところの、﹃可分債務は当然に分割帰属する﹄という架空の論理性にある﹂としている(同・七七頁)。(

( 一代表﹃民法講座﹄(有斐閣・七九頁八照参下以)。八二四)年四 上るが、学説帯は、連て債務のいのしと常継金銭債務同為様の取扱いを承とを健集編一英野星﹂別相の務債﹁男続近の右異に扱う見解が見られる( 決連は四判年債帯通務の可分性から和三昭(﹃版訂全(Ⅰ法続相明(正原松、るあでうよ)﹄日あ)に更)。照参頁一一四年本六〇〇二・版出除加る 従通近、がるあでうよたっあで説が来説割分然当にで様同と例判、は年) は不で力有が説務債有合説務債分可、債らか場立るす視重を益利の者権や

( 和たっ扱を決判年四三昭文、どな頁七一一号五巻論と四四。るあがどな頁九〇)し6(注掲前・近右、て一 九地三トスリュジ冊別﹂批判﹁亨有九、てしと釈評の決判年四三和昭号八号商一七二頁、福) 四郎﹁判批﹂民九頁トスリュジ﹂批判﹁久剛路淡、島

( あ。たいだたいてせさに考参りた 一にに富むものであり、本稿執筆号示五説解例判報速﹂批判﹁完亮金唆は〇四八頁、西希代子﹁判批﹂民商一二書巻三号三一九) 。なお、西・同頁

吉三前掲注(8)一西九三二〇頁。・、永法一行﹁判批﹂セ) 六六一号一二八頁

( 可。るいてれさ摘指を性能 10九響贈の場合にも債務の相続に影し括ない四九タ判﹂批判﹁彦義藤佐遺包号教八三頁(平成八年判決)。佐藤授、は、特定遺贈の場) はもとより合

(注 こ割継承の務債はで解見のられど。はな︺分部筆執徹部阿︹頁九一合明)注掲前・藤佐や頁一九九)4(掲確前・坪大、がいないてれさ示に二年四 11頁四一一)年六九九一・社分創)﹄(版訂改(義講法続相﹃弥禄木鈴、) 谷二〇〇二・閣斐有()﹄版訂補)(八(知法民釈注版新﹃編彦忠貴久=平口

10八基。るいてし示を旨るすと準を三)割の贈遺括包、はどな頁合

12) 西・前掲注(8)三二〇頁。 13=)四三一頁、谷口知平久二貴忠彦編﹃新版注釈民法年五) 法我妻栄=立石房枝﹃親族・九相続法﹄(日本評論社・一(

。出逐条解説(上)﹄(日本加除版続・一九八五年)二二一頁など法相六執﹃頁︹有地亨筆二部分︺、中川淳〇 27)年九八九一・閣斐有()﹄

一二九七

(23)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四三〇

14内二本法規・二〇〇年新)七八頁以下。日﹄(田る恒久﹃判例によ相) 続・遺言の諸問題 15) 内田・前掲注(

15)一七六頁一七七頁。

16本一批﹂法の支配五﹁六号一七六頁。判同山タ敦﹁判批﹂判一) 二六三号七〇頁、

17﹁判批﹂市民と) 六〇号七八頁。法

18西〇。頁一二三二・) )8(注掲前三 19五・二〇〇〇年)二八斐頁、鈴木・前掲注閣有) 雄中川善之助=泉久﹃(相続法(第四版)﹄(

12久注掲前・編貴=)口谷、頁二三一(

( 。どな頁四 周法族家﹃平頁宮二、第〇八三((三〇六三)年九〇二版・社世新年)﹄)四法補執筆部分︺、内田貴﹃民〇Ⅳ(訂地版)﹄(東京大学出版会・二〇亨 13有︹頁七〇二) 20) 谷口=久貴編・前掲注(

( (を肯定しているようである大効坪・前掲注(4)九九一頁)。力 13調遺がるあはでてし関に贈括大包、おな。どな頁七七一、坪査応官も包括遺贈の割合)じ最た債務承継の対外的裁高に

( 弁続相、ばれけなで後たし済を務分担負の務債続相、は者権求債額殺と。るいてれさといなきでがこをるす求請てし算加に額分留遺請 21遺編日新﹄(務実の分留遺A&Q﹃部法究研律法会士護弁屋古名、おな本規) 千分減、ばれよに︺分部筆執明津出大︹頁六一一)年一〇〇二・版留 22) 本山・前掲注(

16)七〇頁。 23) 本山・前掲注(

16)一七七頁。

24西三。頁四二三二・) )8(注掲前三

25) 西・前掲注(8)三二四頁。 26六昌司﹁判批﹂判時一六〇号伊二〇八頁、佐藤・前掲注藤、) て平成八年判決の評釈とし、頁大坪・前掲注(4)九八三(

( 。るあ と巻二第分留遺遺言日﹃編彦忠貴﹄(論本)がどな頁五三年評三〇〇二・社﹂久法神留った論文として方谷遊﹁遺分をおよび遺留分侵害額の算定扱 10決判本、どな頁〇八) 27) 内田・前掲注(

15)三五六頁、神谷・前掲注(

26)四八頁、内田・前掲注(

下利的別個のそが合割担負務債の者権留分留遺、るし対にれこ、とこ回遺て分遺債率、に逆とこる回下を率分留、的終と別き、最は的な持分も個を 分産留遺はていつに象財極積るなと対の殺減利権の者割るれさ保確が分持合いのし等に率分留遺的別個、はき相とに応た割合でじ続務を負担す債る 包、全財産の贈括遺限がありりにう八ことは、平成年従判決の算式か、贈つ利率分留遺定法な的別個のそが者権生分留遺、ていおに合いなが与前場 19)、五〇八頁など。この点につき神る谷遊教授は﹁少なくとも言え 一二九八

(24)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四三一 務負担割合が個別的遺留分率を上回るときは、最終的な持分も個別的遺留分率を上回ることである。したがって、たとえ遺留分権利者の債務負担額がゼロであったとしても、計数上は包括受遺者に不均衡な結果が生ずることはない﹂ことに加え、本来的に包括遺贈が持つ包括性の意義を考慮して、加算すべき相続債務を内部的相続債務分担額であるとされる(同・四八頁)。(

28本三)。審原件本(頁二三号二四山) 書法司報月﹂批判﹁敦士 29) 本山・前掲注(

( 〇。どな頁三二]Ⅰ[九 16)ト美佳﹁判批﹂判例セレク二青〇8(注掲前・金、頁〇七竹、一﹂〇八頁、吉永一行﹁判批法頁学セミナー六六)号一二八一

30) 西・前掲注(8)三二五頁。 31) 本山・前掲注(

28)三三頁、同・前掲注(

16)七〇頁、同・前掲注(

16)一七七頁一七八頁。 32) 本山・前掲注(

28)三三頁、同・前掲注(

16)七〇頁。 33) 青竹・前掲注(

29)二三頁。

( さぎいと考えることもできる﹂となれ8)。頁八二)三(注掲前・同(る に、﹁日本民法権おいて遺留分ありがでの﹂たれさな法立なうよのこ者利保に利過にのもの度程の与は護保の者そ権分分えられた留遺障ないし遺留 るさことが認識てれながら、あえであき教遺を神精ため認を分留﹁くは授べ准西、らか点貫のそするめ認を求請殺減る対でに者贈受の前、ばれあの 34民にっい、め定を担負の失損るよ力法資無の者贈受ん、は条七三〇一た) 引類。るいてれらえ考とれさ用適推もき・渡された遺贈死て因贈与についる

35) 西・前掲注(8)三二八頁。

)、と財続相ず(らた当はにき﹂とたじいのなし在存く全が産財続相う﹁いの産信存承在いなぎ過にいならをかるす継知で、どをった上で知のうな割合よ 放者は、相続を棄などしなか。前択る難たすることはしれいように思わっ月こ七と頁八九六号六巻八三集民・日)二高、判例(最が裁和五九年四昭 場ろう。この熟合に、慮期間もある合をにはその存否知場起のが困難なの選算定てめ改を棄放続相よに用適のり規、則操作によりのあ、総点はるい 作証書によりし成て正たときいに公本熟思われる。件をのように遺言は容慮期きとの言遺書証筆自、がうろあで易の間内に遺言存は在を知ることう よる続相し悟覚を求行履のらか者権債もけてしといなし継承を産財極消あな請れよが要必る図を護保のば続相なう人のうらないといな場には、そ合 護待に過ぎず保しに値ないとしる期、なっも財産が多かた単という場合はてりは消、熟たま、るす継承をの産財極み期の慮よ間後の遺言存在の発覚に 待の相続を期認してこれを承財産が極積、合場るす続相純単を続相るす極の産続消、はいるあ、たっかな少が財が極積りよたっ思。うろあで常通人 36相のたし覚発が在存の言遺なうよ件合本に後過経間期慮熟、もとっも場に定担推。る残が問疑はにとこるせさ負、を険危の力資無に者利権分留遺) 

一二九九

(25)

(    ) 財産の全てを相続させる旨の遺言がある場合の遺留分侵害額算定における相続債務の加算の可否 同志社法学 六三巻二号四三二

後者は、そもそも期間の経過が意思表示に当たるか、黙示の意思表示であるとしても(意思表示説)期間の経過は法律行為ではない、相続財産の承継如何は動機の錯誤に過ぎないためである。なお、下級審レベルでは、相続債権者からの誤った回答により債務の存在を知らずに熟慮期間を経過した事案につき、遺産の構成につき要素の錯誤があったとして、熟慮期間の経過による単純承認の効果を否定したものがある(高松高決平成二〇年三月四日・家月六〇巻一〇号九一頁)。(

37安部・前掲注) 1)二九六頁。(

38四。照参頁〇四号) 三巻三六集民 一三〇〇

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