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(1)

財産権移転型契約が解消された場合の使用利益返還 義務に関する覚書 : カタラ準備草案の検討を手が かりとして

著者 荻野 奈緒

雑誌名 同志社法學

巻 63

号 3

ページ 1527‑1574

発行年 2011‑09‑30

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013824

(2)

使同志社法学 六三巻三号六九(    

使

―カタラ準備草案の検討を手がかりとして―

  荻    野    奈   

Ⅰ  1  2 

Ⅱ 

一五二七

(3)

使(    同志社法学 六三巻三号七〇

 1  2  3  4 

Ⅲ  1  2  3 

Ⅳ  1  2  3 

 財産権移転型契約が無効、取消しまたは解除によって解消され、譲受人に既に引渡されていた目的物が譲渡人に返還されるべき場合、譲受人は、当該目的物を使用したことによる利益をも返還しなければならないのか 1

一五二八

(4)

使同志社法学 六三巻三号七一(      我が国においては、従来、契約が無効とされまたは取り消された場合の譲渡人の譲受人に対する使用利益返還請求については、目的物の返還請求とともに不当利得返還請求権によって基礎づけたうえで、占有者の果実収受権(とりわけ民法一八九条)との関係に関する議論が展開されてきた。これに対し、契約が解除された場合の譲渡人の譲受人に対する使用利益返還請求については、解除による原状回復義務の範囲の問題として議論が展開されてきた。その後、不当利得の分野でいわゆる類型論が有力になり、契約が無効とされまたは取り消された場合における不当利得の問題が、誤って履行された契約の清算の問題であることが強調されるようになって以降は、契約が無効とされまたは取り消された場合と解除された場合とを統一的に把握するべきだとの指摘がなされるようになったものの 2

、譲受人の譲渡人に対する使用利益返還義務の問題に関する議論は、未だ収束には至っていないように思われる。 また、我が国における従来の議論に際しては、主としてドイツ法が参照され、フランス法はほとんど検討の対象とされてこなかった 3

。そのことは、フランス民法典が、契約解消後の原状回復(

re st itu tio n

)に関する明文規定を有しておらず、当時の議論も低調であったことに鑑みれば、やむを得ないことであったように思われる。しかしながら、二〇〇五年九月二二日に公表されたカタラ準備草案 4

には、第三章(

tit re

)﹁債務﹂・第一小章(

so us -ti tr e

)﹁契約および合意による債務一般﹂・第三節(

ch ap itr e

)﹁合意の効果﹂の中に、﹁契約解消後の原状回復﹂と題する第六款(

se ct io n

)が存在する(一一六一条ないし一一六四

statu u a ur to re

、てっよに例判るや案提めよに説学認たら原︾(帰復のへ状、︽れし合総を決解端の先、は定規のら最 -六

IN Yv es -M ar S E R ie E T

)。そして、同款の起草担当者であるれこ、ばれよに条

quo ante

)に合致するような一般的ルールを提示しようとするものであるという。このように、近年ではフランスにおいても一定の議論が展開され、それがカタラ準備草案に結実しているのだとすれば、その内容を紹介しておくことには一定の意義が認められよう。

一五二九

(5)

使(    同志社法学 六三巻三号七二

 本稿は、以上のような現状認識のもと、財産権移転型契約が解消された場合の使用利益の返還をめぐる問題について、カタラ準備草案およびその前後に展開された議論の内容を紹介・検討することを目的とするものである。論述の順序は次のとおりである。まず、我が国における議論の状況を確認しておく(Ⅰ)。次に、カタラ準備草案が契約解消後の原状回復をどのような制度として構想しているのかを概観したうえで(Ⅱ)、使用利益の返還に関する規定について、従来の議論をふまえ、紹介・検討する(Ⅲ)。最後に、フランスにおける近時の議論が日本法にどのような示唆を与え得るのかに言及して(Ⅳ)、本稿を閉じることとしたい。

Ⅰ 我が国における判例および学説の状況

 1 判例の状況 財産権移転型契約が無効、取消しまたは解除によって解消され、譲受人の譲渡人に対する使用利益返還義務の有無が争われた事案に関する我が国の判例としては、以下のものが存在する 5

。売買契約が取り消された事案に関するものと、売買契約が解除された事案に関するものとに分けて紹介する。

⑴  売 買 契 約 が 取 り 消 さ れ た 事 案 に 関 す る 判 例

 売買契約が取り消された事案において、買主の使用利益返還義務の有無について判断した判例としては、次のものがある。 一五三〇

(6)

使同志社法学 六三巻三号七三(     ︻1︼ 大判大正一四年一月二〇日民集四巻一頁 大正四年二月二六日、当時未成年であったXの後見人Aは、Xを代理して、Xの所有する本件不動産をYに売り渡した。Yは、本件不動産のうち本件第一号建物に居住するとともに、本件第二号および第三号建物は他に賃貸していた。ところが、本件売買は、親族会の同意を得ずになされたものであったため、Xはこれを取り消したうえ、Yに対し、使用利益等の返還を求めた。これに対し、Yは、自らは善意の占有者であるからその返還義務を負わないと主張した。原審は、Yが本件第二号および第三号建物を他に賃貸して得た賃料については民法一八九条・一九〇条によってXに返還する義務を負わないが、第一号建物についてはY自身が居住していたものであるからこれら規定の適用はないとして、Xによる使用利益の返還請求を一部認容した。Yが上告。 大審院は、﹁善意ノ占有者ハ占有物ヨリ生スル天然果実及法定果実ヲ取得スルコトハ民法第百八十九条ノ規定スル処ナルカ故ニYカ本件第一号建物ヲ善意ニテ占有セル間ハ縦令之ヨリ法定果実ヲ生スルモXニ於テ之ヲ取得スルコトヲ得サルモノトス然レハYカ善意ニテ為セル占有ノ為ニXカ該建物ヲ他ニ賃貸シ其ノ賃料ヲ収取スルコトヲ得サリシトスルモ右賃料ノ如キハ建物ノ法定果実ニシテXハ前記ノ規定ニ依リ本来之ヲ取得スルコトヲ得サルモノナレハXニ於テ不当ニ損害ヲ被リタルモノト謂フヲ得ス﹂として、原判決を破棄した。

⑵  売 買 契 約 が 解 除 さ れ た 事 案 に 関 す る 判 例

 売買契約が解除された事案において、買主の使用利益返還義務の有無について判断した判例としては、以下のものがある。

一五三一

(7)

使(    同志社法学 六三巻三号七四

︻2︼ 大判昭和一一年五月一一日民集一五巻八〇八頁 Xの先代Aは、大正九年一〇月二五日、その所有する本件家屋を代金一三〇〇円でYに売却し、これをYに引き渡すとともに代金の内金二〇〇円の支払いを受け、残代金は年賦弁済にすることとした。ところが、Yが約定の支払期日を経過しても残代金を支払わないため、Xは、催告のうえ、本件売買契約を解除し、Yに対して本件家屋の明渡しを請求した。原審は、Yに対して、Xから既払代金およびこれに対する最終の内払があった日以降年五分の割合による金員の返還を受けるのと引き換えに本件家屋を明け渡すよう命じた。Xが上告。 大審院は、﹁Yハ最初本件家屋買受当時以降十数年ニ渉リ右家屋ヲ使用シタルコト疑ヲ容レサルトコロニシテ其ノ間其ノ使用ノ対価ヲ利得シタルコト明ナリ惟フニ本件ノ如キ売買契約解除ノ場合売主ハ既ニ支払ヲ受ケタル代金ニハ其ノ受領ノ日ヨリ利息ヲ附シテ買主ニ返還スヘキモノナルハ民法第五百四十五条第二項ノ趣旨ニ徴シ明ナルニ反シ買主カ買受後解除明渡ノ日ニ至ルマテ使用シタル家屋ノ使用料ノ返還ニ付テハ明文ノ徴スヘキモノナシト雖既ニ売主カ買主ニ対シ返還スヘキ金銭ニハ其ノ受領ノ時ヨリ利息ヲ附スヘキモノト為ス以上買主カ之ト対価関係ニ在ル家屋ヲ返還スルニ際シテ買受ノ時以降之ヲ使用シタルニ因リ得タル利益ハ之ヲ返還スルヲ要セスト為スカ如キハ決シテ衡平ノ要求ニ合致スル所以ニ非ス前記民法ノ規定カ斯ル不合理ヲ敢テシタリトハ思料スルコトヲ得サルカ故ニ右規定ハ斯ル場合返還セラルヘキ家屋ニハ其ノ返還ニ至ルマテノ使用料ヲ附セシムル法意ナリト解スルヲ相当トス﹂とし、さらに、XがYの同時履行の抗弁に対して、これと相殺すべき債権を主張しようとしたことは記録上明らかであるから、原審としては、Xに対し、使用利益の返還請求をするか否かについて釈明すべきであったとして、原審がこのような釈明をせずにYの同時履行の抗弁を認めたことには審理不尽の違法があるとした(破棄差戻し)。 一五三二

(8)

使同志社法学 六三巻三号七五(     ︻3︼ 最判昭和三四年九月二二日民集一三巻一一号一四五一頁 Xは、昭和二四年一一月一四日頃、本件家屋およびその敷地を代金四七万五〇〇〇円でYに売却し、同月一五日に手付金五万円を、同月一九日頃に代金の内金一〇万円の支払いを受け、これをYに引き渡した。ところが、Yが約定の支払期日を経過しても残代金を支払わないため、Xは、催告のうえ、本件売買契約を解除し、Yに対して本件家屋の明渡し等を請求した。原審は、Yに対して本件家屋を明け渡すよう命じるとともに、本件家屋を権限なく使用したことによって得た利得をXに返還するよう命じた。Yが上告。 最高裁は、﹁特定物の売買により買主に移転した所有権は、解除によって当然遡及的に売主に復帰すると解すべきであるから、その間買主が所有者としてその物を使用収益した利益は、これを売主に償還すべきものであること疑いない﹂、﹁右償還の義務の法律的性質は、いわゆる原状回復義務に基く一種の不当利得返還義務にほかならないのであつて、不法占有に基く損害賠償義務と解すべきではない﹂として、Yの上告を棄却した 6

︻4︼ 最判昭和五一年二月一三日民集三〇巻一号一頁 中古自動車の販売業者であるYは、昭和四二年九月四日、Aから買受けた本件自動車を代金五七万五〇〇〇円でXに転売し、これをXに引き渡すとともに代金全額の支払いを受けた。ところが、本件自動車は、Bが所有権留保特約付で割賦販売したものであって、その登録名義もBのままであり、Aは、本件自動車を処分する権限を有していなかった。そして、Bが、留保していた所有権に基づき、本件自動車を執行官の保管とする旨の仮処分決定を得てその執行をしたため、本件自動車は、被上告人から引き揚げられた。XはYに対し、民法五六一条に基づき、本件売買契約を解除するとともに、売買代金の返還および損害賠償を請求した。これに対し、Yは、Xは契約解除に伴う原状回復義務として、

一五三三

(9)

使(    同志社法学 六三巻三号七六

本件自動車の使用利益を返還すべき義務があると主張したが、原審は、他人の権利の売主には買主の目的物使用による利得に対応する損失がないとの理由から、Yの主張を排斥した。Yが上告。 最高裁は、﹁売買契約が解除された場合に、目的物の引渡を受けていた買主は、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還すべき義務を負うものであり、この理は、他人の権利の売買契約において、売主が目的物の所有権を取得して買主に移転することができず、民法五六一条の規定により該契約が解除された場合についても同様であると解すべきである。けだし、解除によって売買契約が遡及的に効力を失う結果として、契約当事者に該契約に基づく給付がなかったと同一の財産状態を回復させるためには、買主が引渡を受けた目的物を解除するまでの間に使用したことによる利益をも返還させる必要があるのであり、売主が、目的物につき使用権限を取得しえず、したがつて、買主から返還された使用利益を究極的には正当な権利者からの請求により保有しえないこととなる立場にあつたとしても、このことは右の結論を左右するものではないと解するのが、相当だからである﹂として、原審には解除の効果に関する法令の解釈適用を誤った違法があるとした(破棄差戻し) 7

⑶  小 括

 以上のように、売買契約が取り消された場合における買主の使用利益返還義務に関しては、前記︻1︼判決が、このような場合に民法一八九条が適用され得ることを前提として 8

、買主が善意である場合には売主は法定果実である賃料を得ることはできなかったのであるから不当に損害を被ったとはいえないとの理由で、これを否定している。 これに対して、前記︻2︼判決ないし︻4︼判決の結論をみると、売買契約が解除された場合における買主の使用利益返還義務は、解除原因が買主側にあるか売主側にあるかを問わず、また売主が目的物の所有者でないときであっても、 一五三四

(10)

使同志社法学 六三巻三号七七(     肯定されているといえる。もっとも、使用利益返還義務を肯定する理由をみると、前記︻2︼判決が、売主が買主に返還するべき代金には受領時からの利息が付されること(民法五四五条二項)とのバランスに重点を置いているのに対し、前記︻3︼判決では、解除の遡及効によって目的物の所有権が当然に売主に復帰することが理由とされている。さらに、前記︻4︼判決に至ると、解除の遡及効の結果、契約当事者に当該契約に基づく給付がなかったと同一の財産状態を回復させるべきことが理由とされている 9

。このように、判例は、結論としては解除後の買主の使用利益返還義務を肯定し続けているものの、その理由づけには変遷がみられるように思われる。 いずれにしても、我が国の判例においては、売買契約が取り消された場合と解除された場合とで、買主の使用利益返還義務の有無の肯否について異なる判断が下されているといえよう。 なお、財産権移転型契約が無効とされた場合における譲受人の譲渡人に対する使用利益返還義務の有無が問題となった判例はみあたらなかった。もっとも、債務引受が無効とされた場合の弁済受領者の弁済者に対する運用利益返還義務の有無が争われた事案に関する最判昭和三八年一二月二四日民集一七巻一七二〇頁が、不当利得における善意の受益者が利得の原物返還をすべき場合に占有物の返還に関する民法一八九条一項を類推適用すべきであるとの見解の当否については判断を留保していることからすれば ₁₀

、財産権移転型契約が無効とされた場合における譲受人の譲渡人に対する使用利益返還義務の有無に関する最高裁の立場はなお決せられていないとみるべきであろう。

 2 学説の状況 財産権移転型契約が解消された場合の譲受人の譲渡人に対する使用利益返還義務の有無に関する我が国の学説をみると、契約が無効とされまたは取り消された場合と、解除された場合とでは、展開の仕方が異なっている。そこで、以下

一五三五

(11)

使(    同志社法学 六三巻三号七八

では、それぞれの場合について、学説の状況を概観することとする。

⑴  契 約 が 無 効 と さ れ ま た は 取 り 消 さ れ た 場 合 に 関 す る 学 説

 財産権移転型契約が無効とされまたは取り消された場合の譲受人の譲渡人に対する使用利益返還義務に関する学説については、既に、七〇三条と一八九条以下の適用関係という視点から、現行民法成立前から現在に至る学説を仔細に紹介・検討した論考が存在する ₁₁

。そこで、以下では、七〇三条と一八九条以下の適用関係に関する学説の状況については一言するにとどめ ₁₂

、類型論を前提として給付利得が問題となる場面への一八九条以下の適用を否定する学説を中心にみていくこととする。

⒜ 七〇三条と一八九条以下の適用関係 まず、類型論を前提としない旧来の学説をみると、古くは、法律行為が無因であるか有因であるかに応じて、前者の場合には目的物および使用利益の双方が不当利得として返還されるべきであるが、後者の場合には目的物返還請求が所有権に基づく物権的返還請求であるがゆえに占有の効力に関する規定が適用され、善意の占有者の返還義務は民法一八九条によって否定されるとする見解が主張されていた ₁₃

。 このような見解に対しては、所有権をも取得した利得者が占有しか取得していない利得者よりも不利に扱われるのは不当だとの批判が展開され、いわゆる﹁占有の不当利得﹂説が主張されるに至った。同説の主唱者である我妻栄博士は、目的物の所有権が移転しない場合であっても占有または登記の移転があるときは利得の存在を肯定し得るとして、目的物返還請求は所有権の帰属先にかかわらず不当利得返還請求であるとしつつ、占有の効力に関する規定もその実質にお 一五三六

(12)

使同志社法学 六三巻三号七九(     いては不当利得の関係を包含するとして、その適用を肯定した ₁₄

。同博士は、﹁原物より生じた果実及び原物の利用によって得た収益は第一八九条によって返還義務はない﹂としている ₁₅

。 これに対し、谷口知平博士は、我妻博士の見解によれば、売買契約が無効とされまたは取り消された場合に買主が目的物からの収益を保持しつつ代金の利息の返還を受けることができることになるとしてこれを批判し、一八九条の適用範囲を限定的に解することで、使用利益の返還義務を認めようとした。すなわち、﹁本来第一八九条は善意占有者が果実の所有権を取得するといふ意味しか有しないのであって、取得した果実を不当利得として返還するを要するか否かは更に不当利得の理論に従ひ判定せらるべきであ﹂るという ₁₆

⒝ 類型論を前提として給付利得が問題となる場面への一八九条以下の適用を否定する学説 以上に対して、類型論を前提とする学説によれば、給付利得が問題となる場面では、そもそも一八九条以下は適用されない。すなわち、一八九条以下の占有の効力に関する規定は、侵害利得を想定する規定であって、給付利得が問題となる場合に適用されるべきではないというのである ₁₇

。 このように給付利得が問題となる場面への一八九条以下の適用を否定する学説に従うならば、五七五条の準用を主張する見解によらない限り ₁₈

、使用利益返還義務は原則として肯定されることとなろう。例えば、田中整爾博士は、﹁契約関係が存在しその無効・取消・解除によって生じた給付利得の処理は、もともと不当利得制度が債権的基礎を欠く財貨の移転にもとづく権利者の損失を保障することによって当事者の意思を中心に成り立つ契約法をバック・アップするものであってみれば、両者の間に機能上連続性があり、ともに財貨移転秩序を保護するものであるから、所有対非所有の対抗関係である一般法としての所有権法の適用を排除することによって、はじめていったん取引行為のなされた特殊的・

一五三七

(13)

使(    同志社法学 六三巻三号八〇

具体的な関係が直接明確な判断対象とされる﹂とし、使用利益に関しては、﹁不当利得返還請求権のもとで果実その他収益はあくまでも有効な契約を欠いて受領した物について生じたものであるから、七〇三条の適用により現存するものはもとよりその消費により免れた費用を返還すべき﹂であると主張している ₁₉

。また、松坂佐一博士も、﹁給付利得返還請求権は給付が目的の不到達または消滅によって債権的基礎を欠くために与えられるものであるから、この基本的債権関係に即して構成せらるべく、ここでは第一八九条以下の規定の適用はなく、収取した果実および使用による利益の返還義務を生ずる﹂とするに至っている ₂₀

。 これらの見解は、使用利益が目的物とともに給付利得の内容を構成することを前提として、契約が無効とされまたは取り消された場合には一八九条の適用が否定される結果、使用利益は目的物とともに返還の対象となると説くものだといえよう。これに対して、少数ながら、使用利益は給付利益の内容を構成しないとする見解もみられる。すなわち、川村泰啓博士は、無効とされまたは取り消された契約上の債務の履行としてなされた給付の返還については﹁誤って展開された契約関係﹂の﹁捲き戻し機能﹂を担う給付利得に含まれるけれども、使用利益はその枠外の問題であると主張している ₂₁

。すなわち、﹁無効或いは取消された契約の誤った実行を介して、授受された契約的給付のうえに築かれるところの使用・収益⋮⋮は、じつは、﹃給付利得﹄制度の固有な対象である誤って展開された契約関係としての﹃給付利得﹄関係に包摂される利得ではなくて、むしろ﹃非﹄所有者による他人の物の使用・収益⋮⋮として﹃他人の財貨からの利得﹄(関係)を構成する実体のもの﹂だという。もっとも、川村博士は、使用利益は﹁他人の財貨からの利得﹂ではあるものの﹁母なる利得である﹃給付不当利得返還請求権﹄の履行遅滞にそくして構成される制裁としての収益返還義務⋮⋮のうちに吸収される﹂とし、結論としては、使用利益返還義務を肯定している ₂₂

。 また、山田幸二博士は、次のように述べて、使用利益返還義務を目的物返還義務とは異質のものとして把握し、これ 一五三八

(14)

使同志社法学 六三巻三号八一(     らの問題は別々に取り扱われ得るとしている。すなわち、﹁無効・取消・解除により契約が廃棄された場合、給付された物が元の持主に返還されるべきは右の諸制度から論理的に帰結するから、特に規定を設ける必要はない﹂のに対し、﹁給付された物の使用収益など給付された物に付随して生じた利益﹂については、七〇三条以下によって処理されるとし、七〇三条以下を、﹁契約に媒介されない裸の占有者

所有者間の一般的関係を規律する規定ではとらえきれない契約当事者間の個別的な特殊具体的な諸事情を顧慮したうえで廃棄された契約当事者間の清算を行うために設けられた規定﹂だという ₂₃

。もっとも、山田博士は、﹁売買代金は目的物の使用・利用価値と一体化している交換価値の対価であるのが通常である﹂との理由から、売買契約に代表される財産交換型の契約関係の清算は、賃貸借契約に代表される財産利用型の契約関係の清算に準じて、解約告知(六二〇条)の法律構成から導かれる清算方法によってなされるべきであるとして、結論としては、買主の使用利益返還義務(厳密には、契約解消までの使用収益の対価の支払義務)を肯定している ₂₄

⑵  契 約 が 解 除 さ れ た 場 合 に 関 す る 学 説

 財産権移転型契約が解除された場合の譲受人の譲渡人に対する使用利益返還義務に関する学説を概観してみると、少なくとも前記︻4︼判決が出されるまでは、結論において使用利益返還義務を否定するものはほとんどみられないようである。これに対し、前記︻4︼判決が出されて以降は、同判決が譲受人の譲渡人に対する使用利益返還義務を肯定したことを批判する見解も散見される。そこで、以下では、前記︻4︼判決が出される以前の学説の状況については一言するにとどめ、同判決が出されて以降の学説を中心にみていくこととする。

一五三九

(15)

使(    同志社法学 六三巻三号八二

⒜ 前記︻4︼判決以前の学説 前述のとおり、前記︻4︼判決以前には、結論において使用利益返還義務を否定する見解はほとんどみられないようである ₂₅

。そして、解除の効果に関しては直接効果説が通説であり、原状回復義務(民法五四五条一項)の法的性質は一種の不当利得返還義務であると考えられていたにもかかわらず、契約が無効とされまたは取り消された場合についてみられるような、一八九条の適否という観点からの議論はほとんどみられない。 もっとも、わずかながら、﹁五四五条一項の﹃原状回復﹄ということの内容を、﹃給付物自体の、給付当時の価値状態における返還(解除時の現物プラスそれまでの減価償却費の返還)﹄ということに限定して解する﹂べきであるとして、使用利益返還義務の有無については、一般の不当利得の処理に従い、一八九条を適用して解決すべきだとする見解も存在していたことには注意が必要である ₂₆

。 また、山下末人教授は、収益の返還について、収益は原物とは異なって、﹁まきもどされるべき契約の本来的内容をなしていないから、原物の保存についての過失の有無にかかわらず当事者は双務性の原理から原物返還またはそれに代わる価値賠償をせねばならないといった考え方は直接には妥当しない﹂と指摘している ₂₇

。もっとも、同教授は、解除による原状回復のためには、﹁まきもどされるべき現在の関係の成立過程を逆の方向に、しかも契約がなされなかったならばあるべき状態へ向かってまきもどさねばならない﹂との考えから、結論としては、﹁当事者双方の原状回復という解除の目的に従い収益も返還されねばならない﹂という ₂₈

⒝ 前記︻4︼判決に対する学説の評価 ₂₉

 まず、前記︻4︼判決が他人物売買の事案に関するものであって、買主に帰責事由がなく、また、売主が目的物の所 一五四〇

(16)

使同志社法学 六三巻三号八三(     有者でなかったことから、そのような場合にまで使用利益の返還を認めることに疑問を呈する見解が現れた。例えば、瀬川信久教授は、帰責事由がない買主に目的物の使用利益返還義務を課すことは酷であるし、原則として所有者のみが買主に対して使用利益の返還を請求できると解するべきだと主張している ₃₀

。また、加藤雅信教授は、Xが契約を解除した日以降の利息しか請求していないにもかかわらず、Xの使用利益を解除以前のものについても控除することは対価的バランスを失し不当であるうえ、そもそも他人物売買の売主には目的物の使用と代金の利得との対価的バランスを云々する余地はないとの理由から、判旨に反対している ₃₁

。 これに対し、解除の契約清算機能という観点から、前記︻4︼判決を支持する見解もある。例えば、田中博士は、﹁契約解除の、いったんなされた取引の清算復元の機能、はじめから契約が成立しなかったと同一の状態に回復することは、使用利益の返還をも義務づけるものといわなければならない﹂との理由から、判旨に賛成している ₃₂

。瀬川教授や加藤教授が使用利益の返還請求を目的物の所有者に限っていることに対して、侵害利得請求権と給付利得請求権との異同を看過しているとの批判を展開する好美清光教授も、これと同様の見地にたつものといえよう ₃₃

。 ところで、前記︻4︼判決を結論において支持する見解のなかには、解除の直接の効果によって基礎づけられるのは給付物の返還のみであり、給付物利用による利得は原状回復に含まれないとするものも存することには注意が必要である。すなわち、北村実博士は、解除による原状回復は、給付物を原状と同価値において返還することであって、使用利益はこれに含まれないとしつつ、自動車の使用利益には、土地等の使用利益とは異なり、自動車の使用による価値の減損分が含まれているところ、価値の減損分は、本来、﹁給付物の返還を契約締結前の原状でいかに実現するかという問題﹂、つまり、﹁給付物返還関係の問題﹂だと考えることができると指摘している ₃₄

。 このような指摘は、使用利益を、目的物の性質に応じて、﹁消費利益そのものが使用利益本体を構成するケース﹂、﹁消

一五四一

(17)

使(    同志社法学 六三巻三号八四

費利益が使用利益の重要な部分を占めるケース﹂および﹁消費利益がほとんど無視されてよいケース﹂に類型化し、前二者における使用利益は、狭義の使用利益としてではなく、﹁給付目的物が転化したところの目的物そのものの実体価値﹂たる﹁消費利益﹂として把握するべきだとの川角由和教授の主張へとつながるものである ₃₅

⑶  小 括

 以上を要するに、財産権移転型契約が無効とされまたは取り消された場合の譲受人の譲渡人に対する使用利益返還義務については、類型論を前提とする学説によれば、五七五条の準用を主張する見解を除き、原則として肯定されているといえよう。もっとも、その論拠とするところに目を向けてみると、使用利益も給付利得の内容を構成するから、一八九条以下の適用が否定される以上、原則として返還するべき範囲に含まれると解するもののほかに、使用利益の返還は、契約の履行として給付された目的物の返還とは別の問題として扱われるべきだとしつつ、その返還を肯定するものもみられる。 他方、財産権移転型契約が解除された場合の譲受人の譲渡人に対する使用利益返還義務についても、解除の契約清算機能の観点から、所有権の所在にかかわらず、これを肯定するものが有力であるといえよう。もっとも、使用利益返還義務を認める見解にあっても、その内実を契約の履行として給付された目的物の返還の一部をなすものであると考えることによって、つまり、使用利益としてではなく目的物の一部を構成する価値として返還を認める見解も主張されている。 こうしてみると、財産権移転型契約が無効、取消しまたは解除によって解消された場合の譲受人の譲渡人に対する使用利益返還義務については、結論としては肯定する見解が多数を占めているものの、肯定の理由は必ずしも一枚岩では 一五四二

(18)

使同志社法学 六三巻三号八五(     ないように思われる。

Ⅱ カタラ準備草案における﹁契約解消後の原状回復﹂の概要

 1 緒論 既に述べたように、カタラ準備草案は、第三章﹁債務﹂・第一小章﹁契約および合意による債務一般﹂・第三節﹁合意の効果﹂の中に、﹁契約解消後の原状回復﹂と題する第六款を置いている。同款は、冒頭規定である一一六一条、第一目﹁原則﹂(一一六二条ないし一一六二

-三﹂(六一一しいな条三六一一法条方の復回状原﹁目二第)、三

四﹂(六一一しいな条四六一一定規足補﹁目三第び -六条よお)

-六条)から成っている ₃₆

。 契約解消後の原状回復をどのような制度として構想しているのかという観点からは、まず、契約解消後の原状回復に関する規定が準契約(非債弁済や原因なき利得(

en ric his se m en t s an s c au se

))とは別に置かれていることが注目される。これは、契約解消後の原状回復が、準契約とは異なる固有の制度として位置付けられていることを示すものである。 また、原状回復の範囲に関する規定の内容をみると、給付された物が滅失・毀損した場合に、原状回復義務者にフォートがあるか否かにかかわらず価値による原状回復が認められること、また、原状回復義務者が悪意であるか善意であるかを問わず、付帯的利益(

ac ce ss oir e

)が原状回復の対象とされていることが注目される。このような帰結は、いずれも、非債弁済の場合における処理とは異なるものであり、契約解消後の原状回復が︽原状への復帰︾に向けられた客観的な制度であることを示すものだといえよう。

一五四三

(19)

使(    同志社法学 六三巻三号八六

 2 契約解消後の原状回復の位置づけ⑴ 契約が遡及的に解消された後の原状回復の問題は、事後的に非債となった弁済の問題ということができる。また、無効なるものはいかなる効果をも生ぜず(

quod nullum est nullum producit affectum

)と考えるなら、無効とされた契約についてなされた弁済は、まさに非債弁済だということもできよう。そうであるとすれば、契約解消後の原状回復の問題は非債弁済の規定によって処理されるべきであるようにも思われる。実際、フランスでは、従来、契約解消後の原状回復の問題について非債弁済の規定を適用すべきだという考え方が学説の多数を占めていた ₃₇

。 ところが、カタラ準備草案は、契約解消後の原状回復に関する規定を、第三章﹁債務﹂・第二小章﹁準契約﹂の中ではなく ₃₈

、第一小章﹁契約および合意による債務一般﹂・第三節﹁合意の効果﹂の中に置いている。そして、冒頭規定である一一六一条をもって、﹁契約の無効化(

an nu la tio n

)または解除による、解消後の原状回復は、以下の準則(

rè gle

)により規律される﹂(一項)、﹁これらの準則は、特別の規定または合意のない限り、他の原状回復の場合、とりわけ遡及効を生じさせる失効(

ca du cit é

)にも適用される﹂(二項)と規定している。

⑵ 一一六一条の提案理由をみると、契約解消後の原状回復に関する規定を準契約とは別に置いたことについて、要旨、次のような理由が述べられている。すなわち― 現民法典には、非債弁済に関する諸規定(一三七六条以下)をはじめとして、原状回復の問題を扱う諸規定が散在しているものの ₃₉

、これらはあまりに異なるあるいは特殊な問題状況を扱うものであるから、無効化または解除後の原状回復の問題一般にこれらを直接適用することはできない。また、広い意味での原状回復の問題は、物権法のように債務法に外部の規律、あるいは、債務法の中でも民事責任法や準契約(非債弁済や原因なき利得)といった契約法とは異なる 一五四四

(20)

使同志社法学 六三巻三号八七(     規律の影響を受けているといえるけれども、これらの規律の目的は、遡及効を伴う無効化または解除後の原状回復の目的とは異なっている。契約の分野で生じる原状回復は、無効とされまたは解除された契約から一定の影響を受け、当事者双方が履行していた場合には相互的なものとなるのである。したがって、今日では、無効化または解除、すなわち、契約の遡及的解消に固有の制度を規定することが適切かつ不可欠であるように思われる―と。 以上からすれば、カタラ準備草案が、契約解消後の原状回復を、準契約とは異なる固有の制度として位置付けていることは明らかであるといえよう ₄₀

⑶ カタラ準備草案が契約解消後の原状回復をこのように位置付けた背景には、破毀院第一民事部二〇〇二年九月二四日判決 ₄₁

の存在があるものと思われる。同判決は、原状回復債務に関する時効期間を決するにあたって、﹁無効化の結果として生じる原状回復は、非債弁済ではなく、無効に関する準則の領域にのみ属する﹂と判示したが、契約が無効とされたことによる原状回復の問題が、非債弁済の規定ではなく、無効化のメカニズムそれ自体によって処理されることを明らかにしたものと評価されている ₄₂

。 カタラ準備草案は、一一六二

付をけについても、同判決の立場踏置襲したものであるといえるの位 ₄₃ い同判決の立場を踏襲するともとに、契約解消後の原状回復てつす、服にる﹂と規定して原間状回復債務の時効期間に -二二状、は務債復回原項﹁れていおにそ条をは期効時じ同と解たもま化効無すらた除

⑷ なお、﹁無効化または解除が当事者の一方に帰責されるときは、その当事者は、これに加えて、全ての損害を賠償しなければならない﹂と定める一一六二条二項の提案理由をみると、同項が設けられたのは、原状回復が厳格に客観的

一五四五

(21)

使(    同志社法学 六三巻三号八八

な仕組みであって、民事責任と同じ論理によるものではなく、同じ要件に服するものではないことを示すためだとされている。したがって、契約解消後の原状回復が民事責任とも異なる固有の制度として位置付けられていることは明らかである。

 3 原状回復の範囲⑴ 契約解消後の原状回復の範囲に関する諸規定をみると、まず、一一六二条一項が、﹁契約の無効化および遡及効を伴う解除は、当然に、契約の履行の際に受領した利益の全部の、かつ必要があれば相互的な原状回復をもたらす﹂と規定している。これは、原状回復の範囲が﹁全部﹂でなければならない、すなわち各人が給付したもの以上であっても以下であってもならないこと―全部原状回復の原則(

pr in cip e d e r es tit ut io n i nt ég ra le

)―を採用したものである。

⑵ 給付された物が滅失・毀損した場合については、一一六三

co m plé m en t

四るでがとこかす択選る)(きを﹂(る三六一一、にさ。らてし定規と)い項 全価いはる値によある状、は者るけ受を復回原状部原回復復完補よに値価びよおる回る状かあ、いは一部原 一項、が物のそ﹁)、な値二﹂(れさてっよにの部組み入、、はきとたれられは毀たま、し形変、し損価はとたっなとき

n or sfo rm n io at at rp co in tr io n an io id le ab lis ct ru st de ua in div

変(形た)、()まは、)(能不定特はもやてよに)(れ入っ組 よ現物にさってなはれ、者きとるあに元手の﹂たしる偶が的受損毀な的発はくしも図(意、が物のそ﹁)、項一領 -三を回が、﹁特定物の原状復れは、その物が未だそ条

責﹂を任いてう負とされている。

n dé gr ad at io rte pe rio té dé ra tio n

傷損びよお)()につ(破損さ務者は﹁物の価値を下落せたまたは喪失()生じさせを -五条義復回状原、ばれよに 一五四六

(22)

使同志社法学 六三巻三号八九(      これらの規定によれば、給付された物が滅失・毀損した場合には、原状回復義務者に滅失・毀損についてフォートがなかったとしても、価値による原状回復が認められることとなる。また、物の使用による通常の損耗についても、原状回復義務者のフォートの有無にかかわらず、補償されることになる。これは、非債弁済の場合について、物の受領者のフォートにより滅失または損傷した場合にのみ価値による原状回復がなされるとする現民法典一三七九条 ₄₄

とは異なる帰結である。 なお、提案理由によれば、以上に対して、時の経過による物の旧式化(

ob so le sc en ce

)は原状回復の対象とならない。その理由は、物の完全性への物理的な侵害を伴わない点で、厳密な意味では、物の破損や損傷の問題ではないからだとされている。

⑶ 付帯的利益に関しても、原状回復義務者が悪意であるか善意であるかにかかわらず、原状回復が認められている。すなわち、まず、一一六四条が、﹁原状回復は、なされた給付の元物(

pr in cip al

)および弁済日以降の付帯的利益を対象とする﹂と規定している。そして、原状回復の対象が金銭である場合には、﹁付帯的利益は、法定利率による利息および代金を受領した者の手もとで代金のほかに支払われた税金を含む﹂とされる(一一六四

四れ含む﹂とさている(一一六

sa jo uis nc e

のがもたらした果お実よび用益(を)物そ以で復の対象が金銭、外の物あ状る場合には、﹁付帯的利益は回 -一原、し対にれこ)。条 場の三合にのみ利息や果実原意状回復を認める現民法の悪一弁条八七 これは、非債済がの場合について、受領者典 ₄₅ -二条)。項一

や、善意占有者の果実収受権を認める現民法典五四九条 ₄₆

とは異なる帰結である。この点に関する提案理由をみると、契約解消後の原状回復の客観的性質が、当事者の善意・悪意とは無関係に、あらゆる付帯物を考慮すべきことを要請するとさ

一五四七

(23)

使(    同志社法学 六三巻三号九〇

れている ₄₇

⑷ 以上のことは、カタラ準備草案が、原状回復の範囲を︽原状への復帰︾の要求のみに従って客観的に決しようとしていること、それが民事責任法や物権法、あるいは準契約において採用されている準則によって影響されるべきではないと考えていることを示すものだといえよう ₄₈

 4 小括 カタラ準備草案における﹁契約解消後の原状回復﹂の特徴は、次のようにまとめることができる。 その特徴としてまず挙げられるのは、同草案が、契約解消後の原状回復を準契約とは異なる固有の制度として位置付けていることである。契約解消後の原状回復は、非債弁済や原因なき利得とは全く別の制度であり、契約が遡及的に解消された場合には解消原因の如何にかかわらず等しく適用される制度として構想されているのである。 次に、カタラ準備草案が定める契約解消後の原状回復の範囲をみると、給付された物が滅失・毀損した場合には、原状回復義務者にフォートがなかったとしても価値による原状回復が認められていること、物の使用による通常の損耗についても、原状回復義務者のフォートの有無にかかわらず補償されること、さらには、付帯的利益に関しても、原状回復義務者が悪意であるか善意であるかを問わず原状回復が認められていることが特徴的である。このことは、非債弁済(一三七八条)や占有(五四九条)に関する規定とは異なる帰結であり、契約解消後の原状回復が、︽原状への復帰︾を目指す客観的な制度として構想されていることを示すものであるといえよう。 一五四八

(24)

使同志社法学 六三巻三号九一(     Ⅲ カタラ準備草案における﹁用益の補償﹂の扱い

 1 緒論 フランスでは、使用利益の返還の問題は、﹁用益の補償﹂の問題、すなわち、原状回復義務者が、目的物の原状回復に加え、当該物を使用収益し得たことについて補償するべき義務を負うのかという問題として議論されている。カタラ準備草案は、一一六四条によって元物とともに原状回復の対象とされる付帯的利益のなかに用益が含まれると定めることで(一一六四

。、草備準ラタカでのえうた観概を案し立え場るすとこると加に討検ていつを 合場たれさ消的解に及遡念てをの頭において、従来判例の立場よっに下買では、特定物の売契以約が無効化または解除 -二一定れ、こがるいてし、従項肯を償補の益用)、は条来決、でこそ。るあで解のな異はと場立の例判る  2 従来の判例の立場

⑴  緒 論

 売買契約が無効化または解除によって遡及的に解消された場合に、売主が買主に対して目的物の用益の補償を請求し得るかが問題となった事案に関する判例をみると、破毀院は、これを一貫して否定してきたというわけではなく、合同部二〇〇四年七月九日判決が出される以前は、第一民事部と第三民事部で判断が分かれていたことがわかる ₄₉

。 そこで、以下では、前記合同部判決へと至る近時の判例の展開を概観した後に、これに対して学説がどのような評価を加えているのかをみていくこととしたい。

一五四九

(25)

使(    同志社法学 六三巻三号九二

⑵  近 時 の 判 例 の 展 開

⒜ 破毀院第一民事部の立場―用益の補償の否定 破毀院第一民事部は、次に挙げる判例にみられるように、用益の補償を否定する立場に立っていた。

︻A︼ 破毀院第一民事部一九八七年六月二日判決 ₅₀

 XはYに対し、農業用機械を売却したが、当該売買契約は、信用売買に関する規制に違反したとして無効とされた。XがYに対して、当該機械の修理に要した費用の支払いを請求するとともに、当該機械を原状回復するまでの使用の対価を支払うよう求めたところ、原審はXの請求をいずれも認めた。Yが破毀申立て。 第一民事部は、修理費用の支払いについては、契約が無効であるのに履行された場合には、当事者は、以前あった状態に戻されなければならないとして、無効化の効果によりXは当該機械の所有者のままであったことになるから、Yのフォートによって修理が必要となった場合を除き、修理費用はXが負担すべきであるとのYの主張を退けた。これに対し、使用の対価の支払いに関しては、﹁売主は、契約を当初から瑕疵あるものとしていた無効によって、買主から当該機械の使用から得た利益に相当する補償を得ることを基礎づけられない﹂にもかかわらず、原審がこれを認めたことは、民法典一二三四条および一三〇四条に違反するとした(一部破毀移送)。

︻B︼ 破毀院第一民事部二〇〇三年三月一一日判決 ₅₁

 Yから中古自動車を買い受けたXが、当該自動車の不具合を理由に売買契約の解除および損害賠償を請求したのに対し、YはXに対し、反訴をもって、当該自動車の使用の対価を補償するよう請求した。原審は、Xによる解除を認めつ 一五五〇

参照

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