【査読論文】
障害児の父親同士の関係性が 子どもの療育に影響を与える可能性
─ 当事者同士の語りから ─
The Relationship between Fathers of Children with Disabilities May Affect the Nursing Care of Such Children:
From the Narrative of the Parties
海道 信明* KAIDO Nobuaki
[要旨]
育児に加えて療育が必要となる障害児のケアを母親が一手に担うことは困 難であろう。そのため、障害児の父親には、健常児の父親よりも母親任せに しない子どもとの関わりが求められるといえる。
各種行政資料において、障害児の父親の子どもとの関わりに関する記述は 見られない。また、障害児の親に関する先行研究の多くは母親を対象として おり、そこでは父親へのアクセス困難性による限界が指摘されている。そし て、父親を対象とした数少ない先行研究を見ても、父親の孤立による苦悩が 問題点として指摘されているものの、その解決策の可能性を検証したものは 見当たらない。
本論文では、子どもが同一の施設に通所し、孤立することなく日々の様々 な悩みを共有している障害児の父親9名に聞き取り調査を実施した。その結 果、障害児の父親が母親だけに任せることなく子どもの療育に向き合うため には、父親同士の家族の枠を越えた関係性が良い影響を与えることが明らか になった。具体的には、関係性の存在が障害の受容や父親としての役割意識 の形成を促進する効果が示され、また、中長期的かつより広い視野で役割意 識を認識することが示された。ただし、関係性は自然に形成されるものでは ないため、福祉施設や行政機関が、家族の枠を越えた父親同士の関係性を構 築するために働きかけていく必要がある。
キーワード:障害児、障害者家族、ロールモデル、父親の役割、関係性
*立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士課程前期課程修了生
1.研究の背景と目的
育児のほとんどを母親が担っていることは、ワンオペ育児(1)という言葉が社会で注 目されることから容易に想像できる。健常児であっても母親が一手に育児を担う困難 さが社会問題となっている中、育児に加えて療育(2)が必要となる障害児のケアを母親 が一手に担うことは困難であろう。そのため、障害児の父親には、健常児の父親より も母親任せにしない子どもとの関わりが求められるといえる。
日本は2014年に障害者権利条約(3)を批准し、そのための国内法として障害者基本 法や障害者差別解消法が整備されている。しかし、それらの法令に関する各種行政資 料において、父親の子どもとの関わりに関する記述は見られない(4)。
障害児の親に関する先行研究の多くは母親を対象としている。そこでは父親へのア クセス困難性による限界が指摘されており、父親を対象とした研究はほとんどなされ ていないのが現状である。また、父親を対象とした数少ない先行研究を見ても、父親 の孤立による苦悩が問題点として指摘されているものの、その解決策の可能性を検証 したものは見当たらない。
本論文では、同一の福祉型児童発達支援センター(以下、施設)に子どもが通所し、
父親同士が孤立することなく密接に関わり合う事例の調査結果を考察する。これによ り、障害児の父親研究の事例を一つ蓄積し、その発展に貢献する。そして、先行研究 で問題点として指摘されている父親の孤立による苦悩についての解決策として、障害 児の父親同士の関係性が子どもの療育に与える影響について明らかにする(5)。
2.先行研究の検討と本論文の仮説
(1)障害者の家族に関する研究
従来の障害者の家族に関する研究は、障害者のケアは親が担うという自明な観念が あるとされてきた。その中心的な課題は母親がケアを抱え込んでいく背景であり、近 代家族を前提とした自助原則、日本型福祉に埋め込まれた家族責任、世間からのま なざし、性別役割分業に基づく父親のケアへの非関与などが考察されてきた(井口 2010)。
近年の研究では、親と子を個別の存在として捉え、障害児の親自身への支援の在り 方に関する研究が見られる。障害児の母親の育児ストレスと自尊感情の関係に関する 研究(西村2008)、母親の生活実態に焦点を当てた研究(尾野・茂木 2012)、母親の支 援方法に関する研究(中根 2002、佐鹿 2007)、母親が子どもの障害を受容する過程に 関する研究(阿南・山口2007a)などがある。ただし、これらの研究の多くは母親を 対象としたものであり、母親と父親の受容過程が異なることから父親に関する研究を 行う必要があることが指摘されている(阿南・山口 2007b)。
(2)障害児の父親に関する研究
①障害児の父親を対象とした研究の意義
障害児の親に関する研究は、障害児の父親という視点を導入することによって厚み を持たせることができる可能性が示されている(藤本 2016)。実際の育児や療育にお いても、障害児のいる家族は障害児のいない家族よりも父親の家事関与率が高いこと、
また、母親が父親に期待する家事関与率が高いことが以前から明らかにされている(中 塚・蓬郷 1989)。
しかし、障害児の父親の存在は表面に出てこないことが多い。土屋は、障害児と親 についての研究の多くが母親に偏っており父親の存在は希薄であることを指摘し、障 害者本人やその家族への聞き取り調査を通して父親の不在が明らかになったと述べて いる(土屋 2003)。実際、土屋が実施した障害児を持つ家族に対する聞き取り調査に おいて、紹介された親は限定したわけではないがすべて母親であった(土屋 2002)。
②障害児の父親に関する研究
障害児の父親の役割に関して、母親の補助的位置づけや家計の支え手といった単純 に図式化できるものではなく、父親が子どもの障害の受容、家族関係、職業人とのバ ランスなど複雑で多様な悩みを抱えていることが示されている(田中2006)。そして、
障害児の父親の役割意識の形成は、子どもの障害への理解や障害児の育児に直面して 促進されることが示されている。
しかし、障害児の父親のモデルがないことから、父親自身が養育に参加して障害 児の父親としての具体的な役割を開拓する必要があることが指摘されている(泊他 2013)。これに関して、障害児の父親が自身の役割意識を形成することは困難であるこ とが複数の研究で報告されている。6組の夫婦を母親グループ、父親グループに分け、
それぞれのグループに対してインタビュー調査を実施した松井らは、障害児の父親は 同じ境遇にある仲間を作りにくく、父親の役割についての情報を得にくいことを明ら かにした(松井・七木 2015)。次に、竹村らは障害児の父親12名へのインタビュー調 査により、父親が苦労しながらあるべき父親像を模索し、夫婦でやっていこうと腹を くくるようになる過程を示している。また、その背景として、家族内に目を向けるこ との多い父親の行動特性が反映されているとした上で、周囲との関係調整に専門職の 介入が必要であるとしている(竹村・泊 2006)。
(3)本論文の仮説
先行研究を踏まえ、本論文では以下の3つを仮説として、障害児の父親同士の関係 性が父親の障害の受容や役割意識の形成、さらには障害児にどのような影響を与えて いるのかを考察する(図 1)。
・ 仮説①: 障害児の父親同士に関係性が構築されていることは、父親の子どもの障害 受容促進に有効である。
・仮説②: 障害児の父親同士に関係性が構築されていることは、父親の役割意識の形 成促進に有効である。
・仮説③: 障害児の父親同士に関係性が構築されていることで、父親が中長期的な視
点で自身の役割を認識する。
3.事例調査の概要
(1)障害児の父親 9 名に対する聞き取り調査
本論文において使用するデータは、筆者が2018年11月から2019年7月までに調査 対象者9名に実施した聞き取り調査の結果である。調査対象者は、全員が平日の昼間 にフルタイムで勤務している会社員または公務員であり、調査時点の年齢は30代また は40代である。全員の子どもは同年齢で、調査時点で6歳または7歳(小学校就学前 後)である。子どもは全員が先天性の聴覚障害を持って誕生したが、父親及び母親は 障害を持っていない。出生前には障害を把握しておらず、誕生後のどこかのタイミン グで実施した検査によって障害が発覚した。子どもたちは同一の施設に通所しており、
障害の程度は様々である。施設での日々の療育や各種行事では父親同士が顔を合わす 機会も頻繁にあり、その中で様々な悩みを共有して療育に取り組んでいる。
聞き取り調査は1名あたり1時間から1時間半程度で半構造化インタビューを実施 し、ICレコーダーで記録した。「障害を持つ子の父親としてどのように子どもと向き 合ってきたか」をテーマとして、子どもの誕生から施設を修了して小学校に就学する までの約6年間を、調査対象者と筆者が時系列的に振り返る対話形式で聞き取りを実 施した。
分析は逐語録を作成し、調査対象者全員が通過している5つのステージ(①障害の 発覚、②障害の受容、③施設入所、④父親同士の関係性の構築、⑤父親役割の認識)
に分けて行った。調査対象者の行動や考え方に影響を与えている意識や環境に関する 発言をカテゴリーに分け、各ステージに至る経路を明らかにすることで、父親同士の 関係性と子どもの療育との関係を考察した。
(2)調査対象者の子どもが通所する施設に関する文献調査
調査対象者の子どもが通所する施設が調査対象者に影響を与えている可能性が予想 図 1 先行研究と本論文の概略図
出所:筆者作成(2020)
されたため、1968年に設立された施設について、設立当初から現在までの変遷や活動 方針が記載された「●●だより」、「〇〇周年の歩み」、「△△周年の歩み」の3種類の 資料を2019年3月に借用し、施設の歴史や方針、父親との関わり方等を調査した(図 2)(6)。
当該施設は児童福祉法に定める福祉型児童発達支援センターであり(7)、東京都に所 在する社会福祉法人によって運営されている。1968年に医師が個人で開設し、1974年 に社会福祉法人となった。同年には障害児保育をうたった初の認可保育所として保育 園も開設しており、様々な障害児の保育を実施してきた。施設は難聴児の早期療育を 専門にしており、現在、聴覚に障害のある小学校就学前(0〜6歳)の難聴児約70人 が通所している。
施設は1968年の開設当初から親と密接な関わりを持っていた。開設者である医師が 開設当時を振り返った文章には「当時、設備や建物などは私が提供し、教育者は教育 技術を提供し、父母は清掃等労力を提供する、というように三者で提供できるものを 分担しよう、ということで始まった」とある。
施設の特徴は、親は子どもの付き添いではなく訓練に参加する一人と位置付けられ ていることである。施設の活動として「親への支援」が挙げられており、訓練のどの 場面においても時間をかけて育児相談、療育指導の機会が用意されている。また、施 設の活動への参加、家庭での課題の実施など、父親の関わりも必要となることから、
指導は父親も含めて行われる。それを表す言葉として、施設では開設当時から「母子」
という言葉を避け、意図的に「親子」という言葉を使用している。さらに、施設では 親の会活動を療育時間内に対応しきれない両親へのサポートの時間と位置づけ、親の 会活動の支援を施設の活動の一つとして挙げている。
以上のように、施設は親と密接な関係にあり、父親も含めて親が療育に関わる重要 性を認識している。なぜなら、「「母子関係」の過度な強調」は、「家庭内で「母子孤立 化」を生み、それは必然的に「父親孤立化」となり、家族の心がはなればなれになる 危険性を含む」ためである。そのための父親に求める役割として、①子どもの障害に 関する正しい知識を持ち、②療育の意味を理解し、③夫婦で共通した方針を持つこと、
図 2 調査に用いた資料(左から,●●だより,〇〇周年の歩み,△△周年の歩み)
出所:施設から借用した資料を基に筆者作成(2020)
の3つを挙げている(図 3)。
4.調査の結果と分析
(1)障害の発覚と受容
今回の調査対象者9名が子どもの障害を受容する過程は、受容のきっかけによって 3つに分類される。まず、障害が発覚してすぐに受容する者が1名(G)いた。この要 因として、本人も自身のことを「ニュートラル」で「常にビジネスライクな感じだか ら」と語っているように、本人が障害に限らず目の前の現実を受け容れて取り組む性 格であることが関係している可能性が考えられ、それ以外の要因は語りから見出すこ とはできなかった。
次に、受容する明確なきっかけを意識していた者が2名(A、C)おり、子どもの将 来の姿を見通せたことが受容のきっかけとなっていた。内1名は福祉に関わる業務に 従事していることからやや特殊な環境と言えるが、もう1名が経験した自身の子ども と同一の障害をもつ高校3年生に出会うというきっかけは、他の父親であっても受容 のきっかけとなり得るだろう。
最後に、受容のきっかけが曖昧な者が最多の6名(B、D、E、F、H、I)であった。
彼らの障害に対する認識は、子どもが誕生するまで「対岸の火事(B)」であり、「他人 事(I)」であり、偏見を持つ者もいた。現在では障害についての考え方が変わり、受 容しているが、そのきっかけについての語りは6名全員が曖昧で、明確な発言は得ら れなかった。
(2)障害児の父親の役割意識
2(2)②で述べたように、関係性がない障害児の父親が認識する役割意識は母親の補 助的位置づけや家計の支え手が挙げられ、単純に図式化ができない複雑で多様な悩み を抱えているという抽象的な概念に留まっていた。一方、今回の調査対象者の発言か らはこれらに加え、「中長期的な視野で対応する」、「子ども同士の関係がもてるところ を提供していく」、「他の障害をもっている人とどうやって付き合ったらいいのか考えて
図 3 施設が考える父親の役割
出所:施設から借用した資料を筆者が一部抜粋(2020)
いく」など、より中長期的かつ広い視点で自身の役割を認識している発言が得られた。
(3)父親同士の関係性の影響
①関係性の形成過程
子どもが0歳の時点から通所しているEは、通所を始めた頃から「妻と一緒に訓練 行ったり」するときに他の父親、母親と顔を合わせていた。そして「バザーとかやり 取りあったから、親がだんだん組織されてきた」と認識していた。また、子どもが2 歳を過ぎる頃から通所しているBからは、子どもの障害という「強烈なポイントでつ ながってる」からこそ健常児の親と比べて関係性が強いとの発言があった。そして「合 宿行ったりね、バザーやったり」と施設の行事への参加を通して関係性が形成された と認識していた。
これらの認識は、3(2)で述べた施設の方針とも合致する。Bが例として挙げた夏季 合宿の目的として、施設は「親としての連帯感を持ち、他の家族のあり方を学びあい、
支え合う基盤を作る」ことを掲げている。このことを最も直接的に示しているのがG の語りである。Gからは「合宿のお父さん劇はとにかく子どもが喜び心に残」り、「父 親同士の絆も深まる」との発言があった。調査対象者は、施設の支援を受けながら、
関係性を強くしていったと考えられる。
なお、Aが母親同士は「自然発生的に」関係性が形成されるが、父親同士の関係性 は「自ら進んで参加しないと」形成されないと語っている点は留意すべきであろう。
これは、施設での日々の訓練に参加している母親同士はその中で関係性が形成される が、父親同士は機会があるごとに積極的に参加していかないと関係性が形成されない ことを示している。施設が各種行事に父親の参加を求めている理由は、このような母 親同士と父親同士の違いが背景にあると考えられる。
②関係性が障害の受容に与えた影響
(1)で述べたように、調査対象者9名のうち6名は子どもの障害の受容のきっかけ が曖昧であった。この6名の障害の受容に関係性が影響を与えた可能性はないだろう か。今回の聞き取りでは関係性に対する肯定的な意見として、①子どもの療育との関 連、②他の家族との付き合い方、③親しい友人、の3つが挙げられており、これらが 障害の受容を促進した可能性を検討する。
まず、①子どもの療育との関連について「一人では闘えない(C)」、「孤独な闘いに なる(E)」という発言から、もし関係性が存在しなかった場合は障害の受容が遅くな る、あるいは受容しないという可能性も考えられる。次に、②他の家族との付き合い 方に関する発言においても、他の子どもの名前と顔が一致する経験は「人の親を十何 年もやってるけど初めて(B)」と発言している通り、関係性が障害児の父親としての 認識を促進していると考えられる。さらに、③親しい友人に関して、「楽しい(D)」、
「遊びに行ける友達ができて良かった(G)」という発言からは、障害児の父親である ことを悲観する意識はまったく見られない。
これらの語りが障害の受容と直接的に結びつくものとまで断言することはできない が、関係性の存在が障害の受容の促進に影響した可能性はあると言えるだろう。
③関係性が父親役割の認識に与えた影響
役割意識を認識するまでの過程に関して、関係性が役割意識の形成に関連していると 考えられる発言が複数名から得られた。「Fさんみたいにストイックになれなかったの は今思って考えると勿体ない(B)」という発言からは、他の父親の行動を具体的に見 ることで自身の行動を省みた様子が伺える。また、自身のことを「療育に疎い」と認識 しているEからは「施設の先生や他のお母さん、お父さんと一緒に療育に尽くしてい るのを見て、自分でも仕事の合間に効果的に子どものためにできることはないかと考え ていた」との発言があった。これらの発言から、他の父親と情報を共有し、その行動を 間近で見ることで、調査対象者に障害児の父親としてのロールモデルが蓄積されていっ た可能性が考えられる。そして、蓄積されたロールモデルが父親の役割意識の形成を促 進したと言える。また、(2)で述べたように、認識する役割意識自体についても影響 が見られた。関係性があることで、障害児の父親が短期的な視点だけでなく中長期的か つより広い視点で自身の役割意識を認識することができると言える(表 1)。
表 1 関係性の有無による父親の役割意識の違い 意識されている
時間軸 関係性なし(先行研究) 関係性あり(本論文)
短期的 (ア)母親の補助的位置づけ
(イ)家計の支え手
(ア)日々の妻のサポート
(イ)家計の支え手
中長期的 (ウ)子どもの将来の自立
(エ)子どもが集まることができる場づくり
(オ)社会への関与 出所:筆者作成(2020)
(4)小 括
調査対象者9名が現在に至るまでの過程を時間軸で整理すると、障害の受容や父親 役割の認識の前に、関係性の構築が存在しているケースが多いことが確認できる(図 4)。この結果から、障害児の父親同士の関係性が、障害の受容や父親役割の認識に影 響を与えている可能性が考えられる。ただし、父親同士の関係性は「自ら進んで参加
図 4 調査対象者が現在に至るまでに到達した事象の時間軸
出所:筆者作成(2020)
しないと」形成されないため、父親同士の関係性の形成を促す存在が必要であり、今 回の調査対象者は施設がその存在となったと考えられる。
5.仮説の検証と考察
(1)仮説の検証
まず、仮説①「障害児の父親同士に関係性が構築されていることは、父親の子ども の障害受容促進に有効である」について、関係性の存在が、障害児の父親の障害の受 容を促進するために有効である可能性が確認された。なぜなら、関係性の存在が父親 に肯定的に捉えられ、関係性が存在しなかった場合は障害の受容が遅くなるか、ある いは受容しない可能性が示されたためである。
次に、仮説②「障害児の父親同士に関係性が構築されていることは、父親の役割意 識の形成促進に有効である」の検証の結果、関係性の中でロールモデルが蓄積され、
役割意識の形成の促進に有効であることが明らかになった。先行研究ではロールモデ ルの不存在が問題点として指摘されていたが、実際にロールモデルが存在することに よる役割意識の形成促進効果が示された。
仮説③「障害児の父親同士に関係性が構築されていることで、父親が中長期的な視 点で自身の役割を認識する」は、中長期的かつより広い視野で役割意識を認識してい ることが確認された。子どもが集まることができる場づくり、社会への関与など、自 身の子どもだけではなく関係性のある子どもたち全員、さらには障害者のケアという より広い視野で認識されている点が特徴的であった。
(2)考 察
障害児の父親同士に関係性が構築されていることで、父親本人だけでなく子どもに も良い影響を与える。具体的には、父親の障害の受容、役割意識の形成を促進し、自 身の子どもだけでなく他の子ども、さらには社会全体に関与していく意識を持つよう になる。父親が障害児の療育を母親だけに任せることなく取り組むためには、父親同 士の関係性の構築が有効である。
しかし、関係性は自然に形成されるわけではない点に留意を要する。先行研究にお いて、障害児の父親の孤立が問題点として指摘されていた。また、本論文の調査事例 においても、父親同士の関係性は「自ら進んで参加しないと」形成されないことが確 認された。関係性を形成するためには、父親以外の存在による働きかけが重要である。
その参考となるのが本論文における施設だろう。施設は現在から50年以上も前の設立 当初から父親が療育に関わる重要性を認識し、父親同士の関係性の構築を促してきた。
障害児とその家族に対する支援を担う福祉施設や行政機関が、家族の枠を越えた父親 同士の関係性を構築するために働きかけていく意義があるだろう。
(3)今後の課題
本論文では、特定の施設に通所する同一の障害を持った子どもの父親を対象とした 事例調査を基に分析をした。障害の種類や程度によっても状況が異なる可能性がある
が、本論文では他の障害の事例は調査できていない。また、本論文は誕生後に先天性 の障害が発覚した事例の調査である。出生前の診断で発覚した場合や後天性の障害の 場合の調査も必要であろう。さらに、父親のみに焦点を絞っていることから、夫婦関 係やジェンダーの視点では検討していない。今後はこれらの視点についても研究を積 み上げていく必要がある(図 5)。
■註
(1) 「ワンオペ」とは、ワンオペレーションの略語で、一人で実施することを言う。元々は飲食 店などの店舗運営を一人で実施している状態を表す際に用いられた言葉だが、そこから派 生してワンオペ育児という言葉がインターネットを中心に広まっている。
(2) 「療育」とは、障害を持つ児童の自立を目的として行われる医療と保育を言う。
(3) 正式名称は「障害者の権利に関する条約」といい、国連において2006年に採択、2008年 に発効された。なお、英語表記は「Convention on the Rights of Persons with Disabilities」
である。
(4) 最近の動きとして、文部科学省と厚生労働省が共同で2018年3月に公表した「家庭と教育 と福祉の連携「トライアングル」プロジェクト」において、ようやく親の支援を推進する ための方策が取りまとめられたところである。
(5) 「障害」には他にも「障がい」、「障碍」など様々な表記が存在するが、本論文においては、
文献からの引用で他の表記がなされている場合はその表記に従い、そうでない場合は「障 害」と表記する。
(6) 倫理的な配慮から、当該施設および調査に用いた文献の名称は匿名としている。
(7) 児童福祉法43条では、福祉型児童発達支援センターは、障害児を日々保護者の下から通わ せて、日常生活における基本的動作の指導、独立自活に必要な知識技能の付与又は集団生 活への適応のための訓練を提供することを目的とする施設とされている。
■引用・参考文献
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井口高志、2010、「支援・ケアの社会学と家族研究 ─ ケアの「社会化」をめぐる研究を中心に」、
図 5 本論文のまとめ
出所:筆者作成(2020)
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