障害児を育てる母親の自己成長感とレジリエンスの
関連
著者
橋本 真規
号
2
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
教情博第19号
URL
http://hdl.handle.net/10097/59743
学位の種類 学位記番号 学位授与年月日 学位授与の要件 研究科・専攻 学位論文題目 論文審査委員
橋本真規
博士(教育情報学) 教情博第四号 平成 24 年 3 月 27 日 学位規則第 4 条 1 項該当 東北大学大学院教育情報学教育部(博士課程後期 3 年の課程) 教育情報学専攻 障害児を育てる母親の自己成長感とレジリエンスの関連 (主査) 教授熊井正之 教授渡部信 准教授中島 平〈論文内容の要旨〉
障害児を育てる母親における自己成長感とレジリエンスならびに他の要因との関連を検討する ことが本研究の目的である。具体的には、まず、自己成長感尺度、レジリエンス尺度を作成する。 次に、作成した自己成長感尺度、レジリエンス尺度を用いて、障害児を育てる母親の自己成長感 の実態、レジリエンスの実態、自己成長感とレジリエンスの関連ならびに他の要因との関連を検 討する。 論文は 7 つの章から構成される。 第 1 章では、文献的検討によって、障害児を育てる母親の自己成長感とレジリエンスを把握す るための尺度が存在しないこと、レジリエンスについては障害児を育てる母親を対象とした研究 そのものがほとんど存在しないこと、自己成長感とレジリエンスに関連する要因もほとんど検討 されていないことなど、従来の研究の問題点を指摘した。 第 2 章では、障害児を育てる親の会等の協力のもと質問紙調査を実施し、障害児を育てる母親 275 名からの回答に基づいて 18 項目 3 下位尺度( r思いやり」、「精神的強さ」、「障害理解J) から なる自己成長感尺度を作成した。 第 3 章では、第 2 章で作成した自己成長感尺度のほか、先行研究で作成・使用されてきた母性査を実施し、自己成長感の実態と関連要因について検討した。その結果、母親本人にかかわる個 人要因のひとつ「母性意識」および母親を取り巻く環境にかかわる要因のひとつ rss の質」から の自己成長感への影響が確認され、母性意識が高いほど、育児に対してより肯定的で、充実感が あるほど、また、情緒的なサポートのひとつと捉え得る共感的サポートをより受けているほど自 己成長感が高まることが示された。また、 ss 源は ss の質へ影響していること、 ss 源は ss の質 を介して自己成長感へ間接的に影響していることが確認された。 第 4 章では、障害児を育てる母親 4 名を対象に半構造化面接調査を実施し、障害児の母親のレ ジリエンスが「同じ立場の仲間の支え」、「家族の支え」、「友人の支え」、「専門家の支え」、「対人 間問題解決スキル」、「個人内問題解決スキノレ」から構成されている可能性を示唆した。 第 5 章では、第 4 章の成果をもとに調査項目を作成し、障害児を育てる親の会等の協力のもと 質問紙調査を実施した。障害児を育てる母親 325 名からの回答に基づいて 23 項目 3 下位尺度 (r 心 理的柔軟性心「外向的対処」、「専門的支援 J) からなるレジリエンス尺度を作成した。 第 6 章では、第 2 章で作成した自己成長感尺度、第 5 章で作成したレジリエンス尺度のほか、 第 3 章で用いた ss の質尺度、 ss 源項目等を用いて質問紙調査を実施し、まず、障害児を育てる 母親の自己成長感とレジリエンスの関連について検討した。その結果、レジリエンスからの自己 成長感への影響が確認された。次に、専門的支援をレジリエンスの構成要素と考える場合と、 ss の質および ss 源としてレジリエンスの外部にあるものと仮定する場合とを比較したところ、外部 にあると仮定する場合のモデルのほうが適合度が高いことが確認された。これらの結果を踏まえ、 母親の個人要因として母親の年齢と部分レジリエンス(専門的支援を構成要素から抜いたもの) を、子どもに関する要因として子どもの年齢(養育年数)と性別を、環境に関する要因として ss の質と ss 源を仮定し、共分散構造分析による自己成長感因果モテ、ルの分析を行った。作成したモ デルにおいては、レジリエンスと子どもの年齢(養育年数)からは自己成長感への直接的効果が 確認され、 ss の質からはレジリエンスを介した間接的効果、 ss 源からは ss の質さらにレジリエ ンスを介した間接的効果が確認された。レジリエンスが高いほど、中でも「外向的対処」が高い ほど、また、子どもの年齢が高い(養育年数が長い)ほど自己成長感が高まることが示された。 さらに、「インフォーマルサポート源」からの支援を受けているほど ss の質は高まり、また ss の 質、中でも共感的サポートをより受けているほどレジリエンスが高まり、間接的に自己成長感も 高まることが示された。 第 7 章では、以上の結果を踏まえ、障害児を育てる母親の自己成長感の実態、レジリエンスの 実態、自己成長感とレジリエンスを含む関連要因について考察するとともに、残された課題につ いて述べた。
〈論文審査の結果の要旨〉
親、特に母親は、日々の実生活の中で、子どもの成長・発達にとって適切と考えられる環境を 選択・整備・維持する際の中心的役割を担い、また、子どもと最も長い時間接し、かかわり、働 きかけることが多い。そのため、母親の精神・情緒面の把握・理解や支援は、障害児支援研究に おける重要な課題のひとつとなっている。障害児を育てる母親に関する従来の研究では、母親の 養育態度、育児負担感、ストレス等が取り上げられてきたが、近年、母親の精神・情緒的安定を 支援する手がかりを得るために、障害児を育てることによる肯定的側面のひとつとして「自己成 長感」が注目され始めている。しかし、障害児を育てる母親の自己成長感を把握するための尺度 が存在せず、自己成長感に関連する要因もほとんど検討されていない。また、肯定的側面との密 接な関係が推察される「レジリエンス」については、それを把握するための尺度が存在しないだ けでなく、障害児を育てる母親を対象とした研究がほとんど存在しないのが現状である。 本研究は、文献的検討によって従来の研究のこうした問題点を明確化したうえで、障害児を育 てる母親の「自己成長感」を把握するための尺度と「レジリエンス」を把握するための尺度をそ れぞれ新規に作成し、それらを用いて自己成長感とレジリエンスの実態、自己成長感とレジリエ ンスの関連、自己成長感とレジリエンスにかかわる要因について調査・検討し、それらの関連性 をモデ、ル化したものである。 筆者は、まず、親の成長・発達に関連する従来の研究等を踏まえて、障害児を育てる母親を対 象に質問紙調査を実施し、「思いやり」、「精神的強さ」、「障害理解」と命名した 3 つの下位尺度か らなる「障害児を育てる母親の自己成長感尺度」を作成した。続けて、自身で作成した自己成長 感尺度のほか、先行研究で作成・使用されてきた母性意識尺度、ソーシャルサポート(以下、 SS) の質や源に関する尺度・項目、子どもの障害種に関する項目等を用いた質問紙調査によって、障 害児を育てる母親の自己成長感の実態と関連要因について検討し、母性意識と ss の質は自己成長 感に直接的に影響を及ぼす要因であると考えられること、また、 ss 源は ss の質を介して自己成 長感に間接的に影響を及ぼす要因であると考えられることを示した。 次に、レジリエンスに関連する従来の研究を踏まえて、障害児を育てる母親を対象に面接調査 と質問紙調査を実施し、「心理的柔軟性」、「外向的対処」、「専門的支援」と命名した 3 つの下位尺 度からなる「障害児を育てる母親のレジリエンス尺度」を作成した。 さらに、自身で作成したレジリエンス尺度と自己成長感尺度のほか、 ss の質尺度、 ss 源項目、 母親の年齢、子どもの年齢(養育年数)、子どもの性別に関する項目を用いた質問紙調査によって、要因について検討した。その結果、まず、レジリエンスは自己成長感へ直接影響を及ぼす要因で あると考えられることを示した。以上の結果を踏まえ、専門的支援をレジリエンスの構成要素と 仮定するモデルと ss の質および ss 源としてレジリエンスの外部にあるものと仮定するモデルの 比較、部分レジリエンスと ss の質が自己成長感に直接的に影響を及ぼしていると仮定するモデル と部分レジリエンスは自己成長感に直接的に影響を及ぼす一方で ss の質は部分レジリエンスを介 して自己成長感に間接的に影響を及ぼしていると仮定するモデ、ル等の比較検討を行い、部分レジ リエンスと子どもの年齢(養育年数)は自己成長感へ直接的に影響を及ぼす要因であると考えら れること、 ss の質は部分レジリエンスを介して間接的に、さらに ss 源は ss の質から部分レジ リエンスを介して自己成長感に間接的に影響を及ぼす要因であると考えられることを示した。 審査の結果、本研究が、自己成長感とレジリエンスと母性意識と ss の関連検討等、いくつかの 課題を残しながらも、 a) 障害児を育てる母親の自己成長感とレジリエンスを把握する尺度を新規 に作成したこと、それらを用いて b) 自己成長感とレジリエンスの実態を検討するとともに、 c) 自 己成長感と部分レジリエンスの関連を明らかにし、また d) 複数の自己成長感関連要因(母親の個 人要因、子どもに関する要因、環境要因)を明らかにした初めての試みであった点が高く評価さ れた。 よって、本論文は博士(教育情報学)の学位論文として合格と認める。