九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
呼吸の時空間変動要因を組み込んだ予測モデルによ るヒノキ人工林における地上部呼吸の温暖化に対す る応答評価
荒木, 眞岳
https://doi.org/10.15017/1931965
出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
氏 名 :荒木 眞岳
論文題名 :Predictions of aboveground respiration in response to global warming, based on the models incorporating respiratory variations,
in
Chamaecyparis obtusa
stands(呼吸の時空間変動要因を組み込んだ予測モデルによる
ヒノキ人工林における地上部呼吸の温暖化に対する応答評価)
区 分 :甲
論 文 内 容 の 要 旨
森林を構成する樹木は,光合成によって固定した炭素のうち,呼吸によって 30‒70%の炭素を大 気に放出している。一般に,呼吸速度は温度に強く依存するため,地球温暖化にともなう気温上昇 によって,樹木の呼吸量が増加し森林の炭素固定機能は低下すると予測されている。しかし,樹木 の呼吸速度は時空間的に変動することから,精度の高い呼吸量の推定や予測のためには,これらの 時空間変動性を解明することが不可欠である。本研究では日本の主要な造林樹種であるヒノキを対 象に,葉と幹について呼吸速度の季節的・垂直的変動性を明らかにし,これらの時空間変動性を表 現できる呼吸推定モデルを確立した。さらに,確立したモデルを用いて,気温上昇に対する呼吸速 度の応答を予測し,ヒノキ人工林の地上部呼吸に及ぼす地球温暖化の影響を評価した。
葉の呼吸に関する研究は,10年生のヒノキ人工林で行った。林冠の高さ別に採取した葉の呼吸速 度を1年間にわたり測定し,呼吸速度の温度反応性を指数関数で近似した。温度20℃に標準化した 呼吸速度(R20,反応曲線の切片に相当)は,季節を通じて上層ほど高くなる明瞭な垂直変化を示し た。このR20の垂直変化は,林冠内の光勾配によって説明された。一方,温度依存性を示すQ10(温
度が10℃上昇した時の呼吸速度の増加率。反応曲線の傾きに相当)は,林冠内で一定であった。し
かし,Q10は冬に高くて夏に低くなる明瞭な季節変化を示した。このQ10の季節変化は,気温の季節 変化によって説明された。以上の結果から,光強度と気温を変数とする,葉の呼吸速度の時空間変 動を組み込んだ林冠葉の呼吸推定モデルを確立した。
幹の呼吸に関する研究は,50 年生のヒノキ人工林で行った。5個体の幹に沿って様々な高さで、
幹表面からのCO2放出速度を2年間にわたり測定した。幹表面積あたりのCO2放出速度(以下、幹 呼吸速度)は、幹の上部ほど高くなる垂直変化を示し,幹の直径成長量に影響されていた。この垂 直変化を考慮に入れないと,個体あたりの幹呼吸速度を過小評価することがわかった。また,幹呼 吸速度は,4月から急激に増加して6月に最大となり冬にかけて減少する季節変化を示した。この 季節変化には,気温に加えて直径成長速度の季節変化が影響していた。以上の結果から,気温と直 径成長速度を変数とする幹呼吸推定モデルを確立した。
従来,呼吸推定モデルの多くは,呼吸速度の温度依存性が時空間的に変動しないことを仮定して いる。そこで,従来のように温度依存性が変化しないモデル(固定 Q10モデル)と本研究の時空間 変動性を考慮したモデル(変動 Q10モデル)の2つを用いて,現在と将来の温度環境下における年 間呼吸速度を比較した。なお,将来の温度環境は,IPCCによるRCP8.5の排出シナリオにしたがい,
年平均気温が現在より3.9℃上昇すると仮定した。
予測された将来の林冠葉の年間呼吸速度は,固定Q10モデルでは現在に比べて35%増加したのに 対し,変動 Q10モデルでは14%の増加であった。特に,固定 Q10モデルは夏季の高温期の呼吸速度 を過大評価することがわかった。一方,予測された将来の幹の年間呼吸速度は、直径成長量が現在 から変化しないと仮定した場合,固定 Q10 モデルでは現在に比べて 22%増加したのに対し,変動 Q10モデルでは 15%の増加であった。なお,幹呼吸速度の予測には,気温上昇だけでなく、直径成 長量の変化も強く影響することがわかった。以上の結果から,気温上昇に対する樹木呼吸の応答を 予測する際,変動 Q10モデルは固定 Q10モデルよりも呼吸量増加を少なく評価することが明らかに なった。
本研究によって,樹木の葉や幹の呼吸速度の温度依存性は時空間変動性を示すこと,精度の高い 呼吸量の推定や予測のためにはこれら時空間変動性を考慮に入れることの重要性が明らかとなった。
また,従来の気温上昇にともなう呼吸量増加の将来予測は過大評価であることが示され,地球温暖 化が森林の炭素固定機能に及ぼす影響はそれほど大きくない可能性が示唆された。本研究は、気温 上昇に対する樹木呼吸の応答予測の精緻化を通じて、地球温暖化にともなう森林の炭素固定機能の 将来予測の改善に貢献する。