博 士 ( 農 学 ) 石 川 浩 平
学 位 論 文 題 名
メタノール資化性菌Methylophilus 7nethylotrophus を 用いた L ― lysine 生産菌としての育種および
フェドバッチ培養法の確立 学位論文内容の要旨
【 背景 、及び 目的】
リ ジ ン は飼 料 用 添 加物と して 重要な アミノ 酸であ り、 主にコ リネ型 細菌を 用いた 発酵 法によ り全世 界で年 間に85 万 ト ン 以 上 生産 さ れ てい る。現 在の 発酵産 業では 主に糖 系原料 が使 用され ている が、こ うし た糖系 原料は 、近年 に な り価 格が急 上昇し ている 。アミ ノ酸 の価格 は原料 価格に 大き く依存 してい るため 、原料 価格の急騰、また今後の人 口 増加 に伴う 食糧と の競合 、すな わち 炭素源 争奪により、単一原料への依存は大きなビジネスリスクともなり得る。メ タ ノ ー ル は 、糖 系 原 料 と 比 ベ比 較 的 安 価 で、 か つ 非 可 食性 炭 素 源 である ため、 将来の 世界 レベル での構 造的な 炭 素 源 の 枯 渇 に対 応 す る 未 来 型の 発 酵 原 料 であ る と 考 え られ る 。 更 に、農 作物に 由来す る糖 系原料 は水資 源があ る 温 暖な 地域で しか基 本的に は入手 でき ず、ま た天候 などに 生産 量が変 動し、 入手困 難にな ることもあるのに対し、メ タ ノ ー ル は 糖系 原 料 が 入 手 困難 な 地 域 で も比 較 的 安 定 的に 入 手 し やすく 、消費 立地を 基本 戦略と する場 合、従 来 と は 異 な る 地 域 ー の 工 場 進 出 を 可 能 に し 、 こ れ に よ り 新 た な 市 場 を 獲 得 で き る 可 能 性 も あ る 。 以上の ような 背景か ら、 当社に おいて 偏性メ タノー ル資 化性細 菌であ るMethylophilus methylotrophusを親株とし て 用 い た ア ミノ 酸 生 産菌 の育種 開発 が開始 された 。彪methylotrophusは 、1970年 代にICI社がSingle Cell Protein と して の商品 化に成 功して おり、 菌体 の安全 性、特 許的拘 束等 の観点 からア ミノ酸 生産菌 の親株として適していると 考 えら れる。 ただし 、本菌 を用い た研 究報告 例は必 ずしも 多く なく、 アミノ 酸生産 を行っ た報告に関しては皆無であ る 。そ こで、 私は本 菌株を 用いて 、以 下の研 究を行 った。
: 自 然 突 然 変 異 株 か ら の 高 リ ジ ン 生 産 能 を 保 有 す る ア ミ ノ 酸 要 求 株 の 分 離 、 及 び そ の 機 構 解 析
・ リ ジ ン 生 産 時 の ボ ト ル ネ ッ ク 解 析 、 及 ぴ 代 謝 工 学 的 手 法 を 用 い た 高 リ ジ ン 生 産 菌 株 の 育 種
・ フ ェ ド パ ッチ 培 養 に お け る最 適 リ ジ ン 生産 条 件 の 検 討、 及 び イ オ ン強 度 が 本 菌 株 の代 謝 に 与 え る影 響 の 解 析 以 下に それぞ れの研 究内容 につい て概 説する 。
【 研究内 容】
1, 自 然 突 然 変 異 株 か ら の 高 リ ジ ン 生 産 能 を 保 有 す る ア ミ ノ 酸 要 求 株 の 分 離 、 及 び そ の 機 構 解 析 本研究 では、 高リジ ン生産 菌株 の取得 を目指 して、M. methylotrophus AS1株を用 いて、 自然突 然変 異によ るアミ ノ 酸 要 求 株 の取 得 を 試 み た。 取 得 さ れ た 株の 中 で も 、 メチ オ ニ ン 要 求株 で あ るM methylotrophus 102/pSEAl0株
は、 対照のM. methylotrophus ASl/pSEAl0と 比較 して1.5倍程 度のり ジンを 生産 する事 が明ら かとな った。このりジ ン 生 産能 向上 原因を 解明す るため に、 ゲノム 配列か らメチ オニン 生合 成経路 を推測 し、こ の経 路を構 成する 酵素を コー ドする 遺伝子 の変 異点解 析を行 ったと ころ 、metF(5,10‑methylene‑tetra‑hydro folate)遺伝子のORF中の329番 目 の コド ン に 点 変 異 が見 っ か り 、metF遺 伝子 が 機 能 してい ない可 能性が 考え られた 。その ため、 実際に 遺伝 子組 み 換 え 手 法 を 用 い てmetF遺 伝 子 破 壊 株 を 構 築 し 、pSEAl0を 導 入 後 、 リ ジ ン 生 産 量 を 調 べ た と こ ろ 、M methylotrophus 102/pSEA10株と 同等の りジン 生産 量を示 すこと が明ら かと なり、metF遺伝 子破壊 がりジン生産向上 に寄 与する 可能性 が示 された 。
2. リ ジ ン 生 産 時 の ポ ト ル ネ ッ ク 解 析 、 及 ぴ 代 謝 工 学 的 手 法 を 用 い た 高 リ ジ ン 生 産 菌 株 の 育 種 代 謝工 学 的 手 法 を用 い て ア ミ ノ酸 生 産 菌 の 育 種開 発 を行う 場合、 代謝上 のポ トルネ ックを 除去す る事が 非常 に有 効であ る事 が知ら れてい る。バ ッチ培 養で の検討 の結果 、前述 のM. methylotrophus 102/p SEA10株 では、ピルビン 酸 の 供 給 が り ジ ン 生 合 成 の ボ ト ル ネ ッ ク で あ る 可 能 性 が 推 測 さ れ た 。M methylotrophusはRibulose monophosuphate pathway (RuMP)経 由でメ タノー ルを同 化し、fructose‑6‑phosphateからEntner‑Doudoroff経路(ED 経 路) を 経 由 し てピ ル ビ ン 酸 が供 給 さ れ る た め、 こ のED経路 が主要 なピ ルビン 酸供給 経路で ある と考え られて い る。ED経路は 、6‑phosphogluconate aldolaseと2‑keto‑3‑deoxy‑6‑phosphogluconate aldolaseにより構成されており、
本経路 を強 化する ことに より、 細胞内 ピル ビン酸 供給量 を増加 させ 、リジ ン生産量が向上する可能性が推測された。
そこで 、E coli由来の6‑phosphogluconate aldolaseと2‑keto‑3‑deoxy‑6‑phosphogluconate aldolaseをコ`一ドする edd‑edaオ ペ ロ ン の 発現 強 化 株 を 構築 し た と こ ろ、 酵素 活性が20倍に 上昇し 、リジ ン生 産量は 親株と 比較し て1.2 倍に上 昇し た。更 に、細 胞内代 謝物質 の解 析を行 った所 、edd‑eda発現 強化株 は、 親株と 比較し て、細胞内ピ′レビ ン 酸 濃 度 が 上 昇 し て い る 事 が 明 ら か と な り 、 前 述 の 仮 説 を 支 持 す る 結 果 が 得 ら れ た 。
3. フ ェ ドバ ッ チ 培 養 にお け る 最 適 リジ ン 生 産 条 件の 検 討 、 及 ぴ イオ ン 強 度 が 本菌株 の代謝 に与え る影 響の解 析 前 項まで に、こ れまで の親 株と比 較して 、顕著 にりジ ン生 産能カ が向上 した菌 株が 育種された。そこで、ジャーファ ーメンターを用いフェドバッチ培養条件検討を実施した。これより、フイード培地として、窒素源(硫安)と栄養源成分
( メ チ オ ニン 、K2HP04、NaH2P04、CuS04.5aq、MnS04.5aq、ZnS04.7aq、FeCI3、MgS04'7aq、CaCl2.2aq)を 添加 す ること により 、培養 中に 菌体増 殖が継 続し、 リジン 生産 量が7.86gに到 達し た。更 に、窒 素源成 分中の アンモニア に対するカウンターイオン(塩化物イオン、硫酸イオン、グルタミン酸、コハク酸、クエン酸)の影響を調べたところ、
塩 化 物 イ オン やグル タミ ン酸を 用いた 場合、 その 他の条 件と比 較して 、菌体 増殖 が向上 し、リ ジン生 産量 が増加 す る 傾 向 が 見ら れ 、 最 終 的に り ジ ン 生 産量 が9.Ogに 到 達 した 。本 実験の 解析を 行った 所、 菌体増 殖速度 と培地 中の イ オン強 度に高 い相関 性が 見られ た。そ こで、 本原因 を調 べるた めに、 アンモ ニア に対するカウンターイオンとして 塩 化物イ オン、 もしく は硫 酸イオ ンを用 いた条 件で培 養し た菌体 を用い て、メ タノ ールからピルビン酸に至るまでの 反 応 に 関 与す る様々 な酵 素の活 性測定 を行っ た。 この比 較より 、イオ ン強度 が高 い条件 ではメ タノー ル酸 化活性 が 顕 著 に 低 下す る 傾 向 が 見ら れ た 。 メタ ノール 酸化活 性は、methanol dehydrogenase、cytochrome cL、cytochrome cH、cytochromecoxidaseから構 成さ れてお り、メ タノー ルを フォル ムアル デヒド に変換する反応を担っているため、
メ タ ノ ー ル資 化時に 重要 な役割 を果た す。こ れら のメタ ノール 酸化活 性を構 成す る因子 は、静 電結合 によ り安定 化 し て い る 事が 報告さ れて いるた め、イ オン強 度の 高い条 件では 、この 結合が 不安 定にな り、活 性低下 の原 因とな っ た も の と 推測 された 。今 回の検 討より 、本菌 株を 用いた 培養条 件では 、イオ ン強 度を出 来るだ け低く 維持 する事 が 重 要であ ること を明ら かと した。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 浅野行蔵
副査 教授 田口精一(工学研究科)
副査 准教授 曾根輝雄 副査 助教 田中みち子
学 位 論 文 題 名
メ タ ノー ル資 化性 菌 Methylophilus 7nethylotrophus を 用 い た L − lysine 生 産 菌 と し て の 育 種 お よ び
フ ェ ド バ ッ チ 培 養 法 の 確 立
本 論 文 は 、 本 文 84頁 、 図 12、 表 12、 3章 か ら な り 、 参 考 論 文1編 が 付 さ れ て い る 。
【背景、及び目的】
リ ジン は 飼料 用添 加物 と して 重要 なアミノ酸であり、主 にコリネ型細菌を用いた発 酵法により全世界で 年間 に85万 トン 以上 生産 さ れて いる 。現 在の 発 酵産 業で は主 に糖 系 原料 が使 用さ れ ているが、こうした 糖系 原料 は 、近 年に なり 価 格が 急上 昇している。アミノ酸 の価格は原料価格に大きく 依存しているため、
原料 価格 の 急騰 、ま た今 後 の人 口増 加に 伴う 食 糧と の競 合、 すな わ ち炭 素源 争奪 に より、単一原料への 依存は大きなビジネ スリスクともなり得る。メタ ノールは、糖系原料と比べ 比較的安価で、かつ非可食性炭 素 源 で あ る た め 、 将 来 の 世 界 レ ベ ルで の構 造的 な 炭素 源の 枯渇 に 対応 する 未来 型の 発 酵原 料で ある と 考え られ る 。更 に、 メタ ノ ール は糖 系原 料が 入 手困 難な 地域 でも 比 較的 安定 的に 入 手しやすく、消費立 地を 基本 戦 略と する 場合 、 従来 とは 異な る地 域 への 工場 進出 を可 能 にし 、こ れに よ り新たな市場を獲得 できる可能性もある 。
以上 のよ う な背景から、我々は 偏性メタノール資化性細菌 であるMethylophilus methylotrophusを親株と し て 用 い た ア ミ ノ 酸 生 産 菌 の 育 種 開 発 を 開 始 し た 。 以 下 に 、 研 究 内 容 に っ い て 概 説 す る 。
【研究 内容】
1. 自 然 突 然 変 異 株 か ら の 高 リ ジ ン 生 産 能 を 保 有 す る ア ミ ノ 酸 要 求 株 の 分 離 、 及 び そ の 機 構 解 析 高リ ジ ン生 産菌 株の 取得 を 目指 して 、M. methylotrophus AS1株を用いて、自然突然変異に よるアミノ 酸 要 求 株 の 取 得 を 試 み た 。 取 得 さ れ た 株 の 中 で も 、 メ チ オ ニ ン 要 求 株 で あ るM. methylotrophus 102/pSEAl0株 は 、 対 照 のM. methylotrophus ASl/pSEAl0と 比較 し て1.5倍程 度 のり ジン を生 産 する 事 が明ら かとなった。この株の、変異 点解析を行ったところ、metF(5,10‑methylene‑tetra‑hydrofolate)遺伝 子 が 機 能 し て い な い 可 能 性 が 考 えら れ た。 そこ で、 遺伝 子 組み 換え 手法 を用 い てmetF遺 伝子 破 壊株 を ―1248ー
構築したところ、M. methylotrophus 102/pSEAl0株と 同等のりジン生産量を示す ことが明らかとなり、metF 遺伝子破壊がりジン生産 向上に寄与する可能性が示さ れた。
2. リ ジ ン 生 産 時 の ボ ト ル ネ ッ ク 解 析 、 及 ぴ 代 謝 工 学 的 手 法 を 用 い た 高 リ ジ ン 生 産 菌 株 の 育 種 代 謝工 学的 手法 を 用い てア ミノ 酸 生産 菌の 育種 開発 を 行う 場合 、代 謝上 のボトルネックを除去する 事が 非 常に 有効 であ る 事が 知られている。前述のM. methylotrophus 102/p SEA10株では、ピルビン酸の 供給 がりジン生 合成のボトルネックである可 能性が推測された。M. methylotrophusでは、Entner‑Doudoroff経 路(ED経 路 ) が 主 要な ピ ルビ ン酸 供給 経 路で ある と考 えら れ てい る。 そこ で、ED経路 を構 成す るEcoli 由 来のedd‑edaオペ ロン の 発現 強化 株を 構築 し たと ころ 、酵 素 活性 が20倍に 上昇 し 、リ ジン 生産量 は親 株 と比 較し て1.2倍 に上 昇 した 。更 に、 細胞 内 代謝 物質 の解 析 を行 った 所、edd‑eda発現強化株は、 親株 と 比較 して 、細 胞 内ピ ルビン酸濃度が上昇し ている事が明らかとなり、前 述の仮説を支持する結果が 得ら れた。
3.フ ェド バッ チ 培養 にお ける 最適 リ ジン 生産 条件 の 検討 、及 びイ オン 強 度が 本菌 株の 代謝 に 与える影 響の 解析
前 項ま で に構 築し た株 を用い、 フェドバッチ培養条件検討を 実施した。結果、フイード 培地として窒素源
(硫 安)と栄養源成分(アミノ酸 、無機塩類)を添加することにより、培養中に菌体増殖が継続し、リジン生 産 量向 上 した 。更 に、 窒素源成 分中のアンモニアに対するカ ウンターイオンとして、一 価のアニオンであ る 塩化 物 イオ ンや グル タ ミン 酸を 用い た場 合 、菌 体増 殖、 及び り ジン 生産量が顕著に 向上した。本実験 で は、 菌 体増 殖速 度と 培 地中 のイ オン 強度 に 高い 相関 性が 見ら れ た。 そこで、アンモ ニアに対するカウ ンタ ーイオンとして塩化物イオン 、もしくは硫酸イオンを用 いた条件で培養した菌体を用いて、メタノール か らピ ル ビン 酸に 至る ま での 反応 に関 与す る 様々 な酵 素活 性測 定 を行 ったところ、イ オン強度が高い条 件 で は メ タ ノ ー ル 酸 化 活 性 が 顕 著 に 低 下 す る 傾 向 が 見 ら れ た 。 メ タ ノー ル酸 化活 性を 構 成す る因 子 (methanol dehydrogenase、cytochrome cL、cytochrome cH、cytochromeC oxidase)は、 静電結合により安 定 化し て いる ため 、イ オン強度 の高い条件では、この結合が 不安定になり活性低下原因 となったと推測さ れ た。 今 回の 検討 より 、 本菌 株を 用い た培 養 条件 では 、イ オン 強 度を 出来るだけ低く 維持する事が重要 であ ることを明らかとした。
よ っ て 、 審 査 員 一 同 憾 、 石 川 浩 平 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 ぬ 資 格 を 有 寸 る も の と 認 め た 。
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