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抗菌抗生物質ムライマイシン類をりードとする新規

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 生 命 科 学 )    谷 野 哲 也

学 位 論 文 題 名

抗菌抗生物質ムライマイシン類をりードとする新規      抗菌剤の開発研究

学位論文内容の要旨

【1.背景】

  天 然物 は 医薬品 開発のりード として重要な 分子であるが 、天然物やその 生合成中間体 が培養等によ って大 量 に 得ら れ る場合 を除いて、複 雑な構造を有 する天然物を りードとしそ創 薬研究を行う ことはしぱし ば困難 で あ る。 従 って天 然物やその誘 導体を効率的 に供給できる 合成法を確立す ること、さら に活性を保持 したま ま 単純な構造に 置き換えるド ラッグデザイ ンが求められる 。これはFunction‑Oriented Synthesisとも呼ばれ、

天 然 物を り ードと する創薬研究 において重要 な考え方のー つである。当研 究室はこれま で新規抗菌剤 開発の り ード化合物の 創出を目指し 、ヌクレオシ ド系天然物をり ードとする構 造活性相関(SAR)研究を行っ てきた。

  ム ライ マ イシ ン 類(MRYs)は 放線 菌 から 単 離さ れ た抗菌 抗生物質であり 、細菌の細胞 壁の主成分で あるペ プ チ ドグ リ カン の 生合 成 に関 わる 必 須酵 素MraYを 強カ に阻 害 し、 優 れた 抗 菌活 性 を示 す。MRYsは 、臨床 で 多く用いられ るぺニシリン やバンニユマ イシンなどの抗 菌剤の作用点 と異なる新たな標的を阻害することか ら 、 新規 抗 菌剤 開 発の 優 れた りー ド 化合 物 と考 え られ る。 そ こで 著 者は 、MRYsをり ←ドとしたFOS研究を 行 うことにした 。

【2.ムライマ イシン類の合成 経路の確立】

  ムライマイシ ン類は、ウリ ジンとアミノ リポース等から なる糖ヌクレ オシド部と非 天然アミノ酸 であるL― エ ピ カプ レ オマ イ シジ ン(L‑epi‑Cpm)を含む ウレアトりペ プチド部がアル キル鎖で結合 した構造を有 してい る 。 糖ヌ ク レオ シ ド部 は 活性 発現 に 重要 で ある と 考えら れ、MRYsだけで なく、他のヌ クレオシド系 天然物 に お いて もSAR研究 が 盛ん にな さ れて い る。 ー 方、 ベ プチ ド部 のSAR情報 は 乏し い 。そ こで 著者は 包括的 な ペ プチ ド 部のSAR研 究を 視野 に 入れ た 合成 法 の確 立 を目 指し 、 まずMRY D2の全合成 を行うことに した。

  合 成経 路 に多成 分反応を用い た場合、各成 分の交換によ り多様な誘導体 展開が可能で あることから 、MRYs の ペ プチ ド 構造 をUgi四成 分反 応(U‑4CR)を 鍵と し て、 合成 終 盤で 一 挙に 構築するこ とにした。U‑4CRは、

カ ル ボン 酸 、アミ ン、アルデヒ ド、イソニト リルの4つの成 分を反応させ ることで穏和 な条件でq^ア シルア ミ ノ カル ポ キサ ミ ド構 造 を有 する 化合物を与 える多成分反 応である。U‑4CRに用いるア ミンユニット はとし て ア ンモ ニ アを 用 いる こ とが 考え られるが、 一般にアンモ ニアをU‑4CRに 用いた場合、 収率が低下す ること が 知られている 。そこで、ア ンモニア等価 体として2,4− ジメトキシベ ンジルアミンを用いることにした。イ ソ ニ トリ ル ユニ ッ トは 当 研究 室で すでに合成 法を確立して いるウリジン 誘導体から7工 程47%で合成 した。

ま た ペプ チ ド中 のL‑epi‑Cpmは 、mチ ロシ ン 保護 体 から得 たサルフんマー トに対する二 核ロジウム錯 体を用 い るC―Hア ミノ 化 反応 を 鍵と して 合成した。 このときC‑Hアミノ化反応の 立体選択性に は化合物の分 子内水 素 結 合が 大 きな 影 響を 与 えて いる ことを見出 し、既存の合 成法よりも高 立体選択的か つ高収率なL‑epi‑Cpm の 合成法を確立 した。合成し たイソニ卜リ ルとLーepi‑Cpmを用いて合成したジペプチドカルボン酸、2。4‐ジメ ト キ シベ ン ジル ア ミン 、 イソ バレ ル アル デ ヒド を エタノ ール中50゜Cで 加熱しところ 、収率81%でUgi反応 成 績 体 が 得ら れ た。 そ の後2工 程で 保 護基 を 除去 後 、Ugi反 応で 生 じた2つ の ジア ス テレ オマ ー をHPLCに よ っ て分 離 する こ とで ロ イシ ン部 の エピ マ ーと 共 にMRY D2の初の全合成 を達成した。 なお新たに生 じた不 斉 点 の絶 対 立体 配 置は 、 化合 物を 塩 酸処 理 によ り 加水 分解 後 に、 ア ミノ 酸 分析 を 行う こと で決定 した。

【3.MRY誘導体 による包括的 なSAR研究】

  合 成し たMRY D2およ び その ェピ マ ーの 生 物活 性 を評 価し た とこ ろ 、い ず れの 化 合物 も強 カなMraY阻害 活 性 を示 し た。 一 方、 黄 色ブ ドウ 球 菌や そ のメ チ シリン 耐性菌であるMRSAに対して抗 菌活性を評価 したと こ ろ 、全 く 抗菌活 性を示さなか った。MraYの 活性部位は細 胞膜の細胞質側 に存在すると 考えられてお り、抗 菌 活 性を 示 さなMRY D2と 比較 して 抗 菌活 性 示すMRY Al等は 脂 溶性 側 鎖部 を 有す る ため 、化 合物が 細菌細

1192−

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胞膜 を 透過 し 抗菌 活性 を示すと考え た。そこで活 性の向上を目 指し、4種の脂 溶性側鎖を導 入した誘導体を 合成した 。その際、側 鎖はMRYsが有 するエステルリ ンカーよりも 生物学的・化 学的に安定な 炭素.炭素結合 で連結し た。得られた 誘導体の抗菌 活性を評価した ところ、いず れも薬剤耐性 菌を含むグラ ム腸性菌に対し て優れた抗 菌活性を示し、 特にペンタデ シル基を導入 した誘導体が 天然物を凌駕する良い抗薗活性を示した。

また合成 した誘導体は しゝずれも良 好なMraY阻害活 性を示したこ とから、脂溶 性側鎖を導入 した誘導体は細 菌細 胞 膜を 透 過しMraYを 阻害 す るこ と で抗菌活性 を発現してい ることが分か った。従って 抗菌活性の発現 には化合 物の細菌細胞 膜の透過性が 必須であること が示唆された 。著者が合成 した誘導体は 、長鎖脂肪鎖と 極性 官 能基 を 有す るこ とからミセル 形成による細 胞毒性が懸念 されたが、ヒト 肝ガン由来HepG2細胞に対す る毒 性 試験 に おい て100 yg/mLの 高 濃度 域にぃゝ ても細胞毒性 を示さなかった 。次に、これ までにSAR情報 が皆 無 であ るMRYsのウ レ アジ ベ プチ ド 部のSAR研究 を 行っ た。 まずウレアジ ペプチド部を 欠如した場合に は、MraY阻害活性およ び抗菌活性が 大きく減弱した ことから、こ の部分が活性 発現に重要な 役割を果たして いる こ とが 示 唆さ れた 。そこで分子 の単純化を指 向して、ペプ チド部の必須構 造を見出すた めにL‑epi‑Cpm 部やL‑Val部な ど の極 性官能基を順 次欠如した誘導 体14種類を合 成・活性評価 した。その結 果、ウレアジペ プチド部 のL‑Valや合成 に多工程を要 するL‑epi‑Cpmは活性発現に 必須ではなく 、活性を保持 したまま単純な L‑Argの みに置き換えら れることが明 らかとなった 。以上の結果 から著者のUgi反応を鍵とす る本合成法は、

MRYsの 効 率 的 なSAR研究 に適 し た合 成 法で あ り、 そのSAR研 究か ら 脂溶 性 側鎖 、ベ プ チド 部 は生 物 活性 発現に重 要であるが単 純化可能であ ることが示唆さ れた。さらに 薬剤耐性菌に 対する抗菌剤 開発の標的とし てMraYが良 い 標的 であ り 、ま たMRYsがMraY阻 害剤 開発 の 良い り ード 化 合物 であ ることを 明らかとした。

【4.FOSに 基づく単純化研 究】

  MRYsのヌ ク レオ シド 部 は複 雑 な構 造 をし て おり 、合 成 に多 段階を要するこ とから、効率 的なSAR研究、

化合 物 の大 量 供給 に向 けたヌクレオ シド部の単純 化研究を行う 必要があった。 その際、SAR研究により得ら れた 重 要官 能 基が 適切 な 三次 元 的配 置 をと りMraYと相 互 作用 す る必 要 があ る。 し かしMraYの よ うなX線 結晶構造の ない膜夕ンバク 質に対して、構造情報に墓づいた薬物設計(str・ucturelbaseddrugdeSign)を行うこ とは難しい 。そこで著者は 、各置換基を 三次元に網羅 的に配置でき るスキャホールドを導入し、単純化..最 適化 研 究を 行 うこ とに した。これま でのSAR研究か ら、ヌクレオ シド部はウラ シル塩基とア ミノリボース部 が重要で あることが知 られている。 特に5¨位アン モニオ基がMraYの触媒活性に 必須なMg2→ と競合するモデ ルを予想し 、5¨位アミノ 基が重要であ ると考えた。そ こで著者は各 種官能基を網 羅的に配置しかつ糖ヌクレ オシ ド 部を 単 純化 でき る スキ ャ ホー ル ドとして二 環式イソキサ ゾリジン誘導 体を設計した 。ウリジンから Hom小Emmons反 応 を鍵 とし て4工 程で 環 化前 駆 体で ある ア ルコ ー ルを 合 成し た。 水酸基を 酸化後、得られ たアルデ ヒドに各種ヒ ドロキシルア ミンを作用させ ニト口ンとし た後に、単離 することなく 加熱還流するこ とで望み のピシク口イ ソキサゾリジ ン誘導体のジア ステレオマー 二種を合成し た。これら共 通中間体に対し てペプチ ド部、脂溶性 側鎖部、極性 官能基を導入し たlO種の誘導 体を合成・活 性評価レ、薬 剤耐性菌を含む 様々な菌に 対して抗菌活性 を有するMRYsの単純化誘導 体を見出した 。

【5.結諭】

  以 上 著者 は 、新 規抗 菌 剤開 発 を指 向 しMRYsをり ード と するFOS研究を行っ た。まず誘導 体合成に適した 合 成 法 の 確 立 を 目 指 しUgi反 応 を 鍵 と す るMRYD2の 初 の 全 合 成 を 行 っ た 。 本 法 によ りMRYsのSAR研究 を行い、脂 溶性側鎖が抗菌活性発現に必須であること、L‐qガ Cpm部が単純なL ̄Argに置換できること、L‐Val 部が除去可 能でありペプチ ド部が単純化 可能であるこ とを見出した 。さらに[3十2]付加環化反応によるスキ ヤホ ー ルド 構 築を 鍵と す るMRYs誘導 体 を設計・合 成し、薬剤耐 性菌を含む細 菌に抗菌活性 を有する誘導体 を見出し た。本法は煩 雑であったヌ クレオシド部の 合成を極めて 単純に行うこ とができ、ま たスキャホール ドに 対 して 容 易に 種々 の置換基が導 入可能である ことから、更 なるSAR研究に より単純かつ 高活性の誘導体 を効率的に 見出すことがで きると考えら れる。

― 1193―

(3)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

抗菌抗生物質ムライマイシン類をりードとする新規      抗菌剤の開発研究

  本学位論文は、新規抗菌剤開発の優れたりード化合物と考えられているヌクレオシド系天然物ムライマイ シ ン 類 をり ードと する新 規抗菌 剤の 開発研 究であ る。ま ず以下 に本 学位論 文にお ける業 績を 述べる 。   著 者は 包括的 なべプ チド部 のSAR研究 を視野に入れた合成法の確立を目指し、まずMRY D2の全合成を行 う ことに した。 多様 な誘導体展開が可能なUgi四成分反応(U‑4CR)を鍵として、合成終盤で一挙に構築する ことにした。ペプチド中のL‑epi‑Cpmは、D―チ口シン保護体から得たサルファマー卜に対する二核口ジウム 錯体を用いるC‑Hアミノ化反応を鍵として合成した。この際に、C―Hアミノ化反応の立体選択性Iこは化合物 の分子内水素結合が大きな影響を与えていることを見出し、既存の合成法よりも高立体選択的かつ高収率な L‑epi‑Cpmの合成法を確立した。合成したイソニトリルとL‑epi−Cpmを含むジペプチドカルボン酸、2,4―ジメ 卜 キシベ ンジル アミ ン、イソパレルアルデヒドを用いてUgi反応成績体を得た。その後2工程で保護基を除 去 してMRY D2の初の 全合 成を達 成した 。合成 したMRY D2およ びそのエピマーの生物活性を評価したとこ ろ 、いず れの化 合物 も強カなMraY阻害活性を示す一方で、抗菌活性は全く示さなかった。細胞膜透過性を 付与することで活性の向上を目指し、新たに4種のぉ旨溶性側鎖を導入した誘導体を合成・抗菌活性を評価し た ところ、いずれも薬剤耐性菌(MRSA,VRE)を含むグラム陽性菌に対して優れた抗菌活性を示し、特にべ ンタデシル基を導入した誘導体が天然物を凌駕する良い抗菌活性を示した。これらの誘導体は、長鎖脂肪鎖 と 極性官能基を有することからミセル形成による細胞毒性が懸念されたが、ヒト肝ガン由来HepG2細胞に対 す る毒性 試験に おい て100嵋/mLの高濃 度域に おい ても細 胞毒性 を示さなかった。続いてMRYsのウレアジ ベプチド部のSAR研究を行っており、ベプチド部の必須構造を見出すためにL‐印f―Cpm部やL−val部などの 極性官能基を順次欠如した誘導体14種類を合成・活性評価した。その結果L‐Argのみに置き換えられること が明らかとした。次に、各置換基を三次元に網羅的に配置できるスキャホールドを導入し、単純化・最適化 研究を行うことにし、二環式イソキサゾリジン誘導体を設計した。二環式イソキサゾリジン部は、二ト口ン を用いた分子内[3十2]環化付加反応により効率的に合成した。さらにべプチド部、脂溶性側鎖部、極性官能基 を 導入し たlO種 の誘導 体を合成・活性評価し、薬剤耐性菌を含む様々な菌に対して抗菌活性を有するMRYs の単純化誘導体を見出した。

  ま ず本学位論文は、C‐H活性化反応やUgi多成分反応を駆使して、天然物であるムライマイシンの初の全 合成を達成しており、有機合成化学的に大きな意義があると言える。さらにその合成経路は、続く迅速かつ 包括的な構造活性相関研究を可能としており、複雑な構造を有する40個以上もの誘導体の活性評価にっなげ ている。その構造活性相関研究から、脂溶性側鎖、ペプチド部は生物活性発現に重要であるが単純化可能で あること、薬剤耐性菌に対する抗菌剤開発の標的としてMraYが良い標的であることを明らかとして.おり、

現在深刻な問題となっている薬剤耐性菌に有効な創薬リードの創出にも成功したと言える。医薬品を開発す るうえで、天然物は医薬品開発のりードとして重要な分子である。しかし天然物やその生合成中間体が培養

―1194 ‑

聡 一

彰 洋

   

俊  

  仁

川 本

田 田

市 橋

松 穴

授 授

授 授

教  

  教

准 教

教 准

査 査

査 査

主 副

副 副

(4)

等によって大量に得られる場合を除いて、複雑な構造を有する天然物をりードとして創薬研究を行うことは しぱしぱ困難である。従って天然物やその誘導体を効率的に供給できる合成法を確立すること、さらに活性 を保持したまま単純な構造に置き換えるドラッグデザインが求められる。これはFunction‑Oriented Synthesis とも呼ばれ、天然物をりードとする創薬研究において重要な考え方のーつである。著者は、3次元多様性を 有する土台(scaffold)に、生物活性に必要な各種官能基を適切に配置した分子を新たに設計して、抗菌活性 を保持しつつ低分子化にも成功しており、創薬化学に大きく貢献する研究であると言える。従って、審査委 員会は 谷野哲 也氏 の論文 が北海 道大学 博士 (生命 科学) の学位 を授与 され る資格 あるものと認める。

ー1195―

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