博 士 ( 薬 学 ) 大 坂 康 人 学 位 論 文 題 名
ラ ッ ト 脂 肪 細 胞 に お け る 糖 取 り 込 み 促 進 機 構 ― ア デ ニ ル 酸 シ ク ラ ー ゼ 系 の 関 与 ―
学位論文内容の要旨
(1)L‑243のp3. 受 容 体 に 対 す る 特 異 性 お よ びpl・ ヽp2・ ア ゴ ニ ス ト 、 isoproterenolの作用との比較
p.ア ドレナリ ン受容体 は、従来pl.、p2.アドレナリン受容体サブタイプに分類 され てきたが 、新たにp3.受容体 サブタイ プの存在 が確認され、脂肪組織に多く存 在 す るこ と が 示さ れ た。 ノ ー ザン ブ ロット解 析および[3H) CGP.12177Aの細胞 膜へ の 結 合 活 性 か ら 、 ラ ット 白 色脂 肪 細 胞に は 、 大量 のp3. 受 容体 の ほか 、pl. 受 容 体 、 わず か のp2. 受容 体 の 存在 が 確 認された。p3.アゴニ ストのBRL、L.243、ICI は、pl・、p2,受容体アゴニストのisoproterenol(Iso)同様アデニル酸シクラーゼを活 性 化 し た 。 ア デ ニ ル 酸シ ク ラー ゼ の 活性 化 に より 上 昇し たcAMPは 脂肪 酸 遊離 活 性 を 引 き起 こ し 、こ の 脂肪 酸 遊 離活 性 はprotein kinaseA阻 害 剤の 添加 により抑 制さ れ た 。竜 た、p3、 ・アゴニ ストは、Isoと同様にグ ルコース 取り込み 促進作用 を引き 起 こ した 。pl. 受 容体 が 存 在す る ラ ット心筋細 胞膜、p2. 受容体が 存在する 肺気管 支 平 滑筋 細 胞 膜に お いてp3.受 容 体 アゴニスト によるア デニル酸 シクラー ゼ活性の 上 昇 は認 め ら れな か った 。 ま た、pl,、p2 ブロ ッカーの 添加によ って、脂 肪酸遊 離 活 性お よ び グル コ ース 取 り 込み 活 性は抑制 されなか った。中 でも、L→243はp3 受 容 体に よ り 特異 的 であ り 脂 肪酸 遊 離活 性 お よび グ ル コー ス 取り 込み 活性は他 のp 3・ ア ゴ ニス トBRL、ICIよ り、 さ ら には、Isoより強い作 用を示し た。以上 のことか ら 、L‐243は、p3゜受 容体特異 的であり 、かつpl、p2. アゴニス トのIsoより 作用の 強いp3.受容体アゴニストであることが分かった。
(2)L‑243のPI 3‑kinaseおよびGLUT4の移動に対する作用゛
脂肪 細胞にお いて、insulinに よるグル コース取 り込みの 亢進にはPI3.kinase(PI 3・K) の 活性化、GLUT4の軽ミク ロゾーム から細胞膜 への移動 が必須で ある。L.243 はinsulin同 様 、GLUT4の 軽ミ ク ロゾ ー ム 画分 か ら 細胞 膜 画分 へ の 移動 を 亢進 さ せ た 。 この と き 、PI3,Kは 活性 化 さ れPIP3生 成が認めら れた。PI3.Kの特異的 阻害剤 で あ るwortmannin(WT) はGLUT4の細 胞 膜 への 移 動を 減 少 させ 、L.243によ るグル コ ー ス取 り 込 み促 進 作用 を 抑 制し た 。したが って、L‑243はinsulin同様、PI 3‑Kを 活 性 化 し て 細 胞 膜 で のGLUT4の 増 加 を 引 き 起 こ すこ と に よっ て グ ルコ ー ス取 り 込 みを亢進させると結論した。
(3)L‑243によ るPI 3‑K活性 、GLUT4の 移動 、グ ルコ ース 取り込み活性の ア デニ ル酸 シク ラー ゼ系 の関 与
ラ ット 脂肪細胞をインキュベートするとadenosineがメデイウム中に遊離され、こ のadenosineがアデニル酸シクラーゼ抑制性GTP結合蛋白質(Gi蛋白質)に共役した受 容 体 に 結 合 し てcAMP生 成 を抑 制 す る 。 し た が って 、L‑243を添 加して もcAMP生 成 は わ ず か で あ り 、 著 し いcAMPの 上 昇 は 認 め ら れな かっ た。 この 条件 下で 、L‑243 を添 加す るとinsulin同様、PI 3‑K活 性、GLUT4の移動ごグルコースの取り込みの亢 進作 用が 発現 した 。メ デイ ウム 中に 遊離 したadenosineはア デノ シンデアミナーゼ (ADA)を 添加 して 分解 する、 ある いは 百日咳毒素(PTX)処理し、細胞膜中のGi蛋白質 の 機 能 を 消 失 さ せ る と 、L‑243は 著 し くcAMPを 上 昇 さ せPI 3‑K活 性 、GLUT4の 移 動、 グル コー ス取 り込 み活 性は 完全 に消 失し た。ADAを 添加 して も非水解性アデノ シンアナログのN゜‑phe'nylisopropyl adenosine (PIA)を添加すると著しいcAMP上昇は 抑 制 さ れ 、L‑943によ るグ ルコ ース 取り込 み活 性は 回復 した 。し かし 、PTX処理 し た場 合に は、PIA添加 しても 、Gi蛋白 質の 機能 が消 失さ れて いる ため回復しなかっ た。 一方 、insulinに よるグ ルコ ース 取り 込み 活性 はADAやPTX処 理しても影響を受 け る こ と は な か っ た 。 し かし 、 さ ら にL‑243を添 加し てcAMPを 著しく 上昇 させ た 条件 では 、insulinの作用は抑制されることが分かった。膜透過性dibutyryl cAMPを 添加 する とinsulin作 用は抑 制さ れた 。これらのことから、L‑243によるグルコース 取 り 込 み 促 進 作用 にはGi蛋 白質 が活 性化 されcAMPが著 しく 上昇 してい ない こと が 必要 であ ることが分かった。それに対して、insulinによるグルコース取り込み促進 の 作 用 はGi蛋 白 質 の 機 能 の 消 失 に よ っ て 影 響 さ れ な い が 、cAMPの 異 常 増 加 が insulinの作用を抑制すると推定した。
(4) AlF.4およびforskolinのPI 3‑K活性化、GLUT4の細胞膜への移動、グルコース取 り込み促進に対する作用
‑ 386−
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
野村 栗原 徳光 三宅
学 位 論 文 題 名
靖 幸 堅 三 幸 子 教 尚
ラット脂 肪細胞 における糖取り込み促進機構
一 ア デ ニ ル 酸 シ ク ラ ー ゼ 系 の 関 与 ―
本 論 文 は ラ ッ ト 脂 肪 細 胞 に お い て 、 ア デ ニ ル 酸 シ ク ラ ー ゼ 系 が 関 与 し た 糖 取 り 込 み 促 進 機 構 の 解 析 を 行 っ た も の で あ る 。 ア デ 三 ル 酸 シ ク ラ ー ゼ を 活 性 化 し 、 イ ン ス リ ン の 作 用 と 拮 抗 す る ホ ル モ ン が 糖 取 り 込 み を 促 進 さ せ 、 イ ン ス リ ン 様 作 用 を 発 現 し う る こ と を 見 出 し た 。 こ の 新 し く 見 出 さ れ た イ ン ス リ ン 様 作 用 に つ い て 、 以 下 確 立 し た 知 見 を 述 べ る 。
(1)p3. ア ド レ ナ リ ン 受 容 体 ア ゴ ニ ス ト ,L‑243,BRL,ICIのp3. 受 容 体 に 対 す る 特 異 性 お よ びp1. 、p2. ア ゴ ニ ス ト 、 イ ソ プ ロ テ レ ノ ー ル の 作 用 と の 比 較
p. ア ド レ ナ リ ン 受 容 体 は 、 従 来p1. 、p2. ア ド レ ナ リ ン 受 容 体 サ ブ タ イ プ に 分 類 さ れ て き た が 、 新 た にp3. 受 容 体 サ ブ タ イ プ の 存 在 が 確 認 さ れ 、 脂 肪 組 織 に 多 く 存 在 す る こ と が 示 さ れ た 。 ノ ー ザ ン ブ ロ ッ ト 解 析 お よ ぴ13H] CGP‑
12177Aの 細 胞 膜 へ の 結 合 活 性 か ら 、 ラ ッ ト 白 色 脂 肪 細 胞 に は 、 大 量 のp3. 受 容 体 の ほ か 、pl. 受 容 体 、 わ ず か のp2. 受 容 体 の 存 在 が 確 認 さ れ た 。p3 ア ゴ ニ ス ト のBRL、L‑243、ICIは 、pl・ 、p2. 受 容 体 ア ゴ ニ ス ト の イ ソ プ ロ テ レ ノ ー ル(Iso)同 様 ア デ ニ ル 酸 シ ク ラ ー ゼ を 活 性 化 し た 。 ア デ ニ ル 酸 シ ク ラ ー ゼ の 活 性 化 に よ り 上 昇 し たcAMPは 脂 肪 酸 遊 離 活 性 を 引 き 起 こ し た 。 こ の 脂 肪 酸
遊離活性はprotein kinaseA阻害剤の添加により抑制された。また、p3‑アゴ ニストは、Isoと同様にグルコース取り込み促進作用を引き起こした。pl.受 容体が存在するラット心筋細胞膜、p2.受容体が存在する肺気管支平滑筋細 胞膜においてp3‑受容体アゴニストによるアデニル酸シクラーゼ活性の上昇 は認められなかった。また、p1.、p2.ブロッカーの添加によって、脂肪酸遊 離活性およびグルコース取り込み活性は抑制されなかった。中でも、L‑243 はp3‑受容体により特異的であり脂肪酸遊離活性およびグルコース取り込み 活性は他のp3.アゴニストBRL、ICIより、さらには、Isoより強い作用を示し た。以上のことから、L‑243は、p3.受容体特異的であり、かつpl、p2.アゴ ニストのIsoより作用の強いp3.受容体アゴニストであることカミ分かった。
( 2) L‑243の PI 3‑kinaseお よ び GLUT4の 移 動 に 対 す る 作 用 脂肪細胞において、insulinによるグルコース取り込みの亢進にはPI3・ kinaseの活性化、GLUT4の軽ミクロゾームから細胞膜への移動が必須である。
L‑243はinsulin同様GLUT4の軽ミクロゾーム画分から細胞膜画分への移動を 亢進させた。このとき、PI 3‑kinaseは活性化されPIP3生成が認められた。PI 3 ‑kinaseの特異的阻害剤であるwortmannin (WT)はGLUT4の細胞膜への移動を 減少させ、L‑243によるグルコース取り込み促進作用を抑制した。したがっ て、L‑243はinsulin同様、PI 3‑kinaseを活性化して細胞膜でのGLUT4の増加 を引 き起こすことによってグルコース取り込みを亢進させると結論した。
(3)L‑243によるPI 3‑kinase活性、GLUT4の移動、グルコース取り込み活性 に対するアデニル酸シクラーゼ系の関与
ラット脂肪細胞をインキュベートするとadenosineがメデイウム中に遊離さ れ、このadenosineがアデニル酸シクラーゼ抑制性GTP結合蛋白質(Gi蛋白質)に 共役した受容体に結合してcAMP生成を抑制する。したがって、L‑243を添加 して もcAMP生成はわずかであり、著しいcAMPの上昇は認められなかった。
この条件下で、L‑243を添加するとinsulin同様、PI 3‑kinase活性、GLUT4の 移動、グルコースの取り込みの亢進作用が発現した。メデイウム中に遊離し たadenosineをアデノシンデアミナーゼ(ADA)を添加してadenosineを分解する、
あるいはPTX処理し、細胞膜中のGi蛋白質の機能を消失させると、L‑243は著
し くcAMPを 上 昇 さ せPI3‑kinase活性 、GLUT4の 移 動、 グ ルコ ー ス 取り 込 み 活 性 は完 全 に 消失 し た。ADAを 添加 しても 新たに非水 解性アデ ノシンア ナロ グ のN6‑phenylisopropyl adenosine (PIA)を添加すると、著しいcAMP上昇は抑 制 さ れ、L‑243によ るグルコ ース取り 込み活性 は回復した 。しかし 、PTX処理 し た 場合 に は 、PIA添 加し て も 、Gi蛋白質の 機能が消失 されてい るため回 復 し な かっ た 。 一方 、insulinに よ るグ ルコ‐ス 取り込み活 性はADAやPTX処 理 し て も影 響 を 受け る こと は な かっ た。 しかし、さ らにL‑243を添 加してcAMP を 著しく上昇 させた条 件では、insulinの作用は 抑制され ることが分かった。
膜 透過性のcAMPア ナログで あるdibutyryl cAMPを添 加するとinsulin作用は抑
〜制された。
こ れ ら の こ と か ら 、L‑243に よる グ ル コー ス 取り 込 み 促進 作 用 にはGi蛋 白 質 が 活性化さ れcAMP生成が 抑制され ているこ とが必要で ある。そ れに対し て insulinに よるグルコ ース取り 込み促進 作用はGi蛋 白質の機能の消失によって 影 響 され な い が、cAMPの 異常 増 加 がinsulinの作用 を抑制する と推定し た。
(4)AIF4およびforskolinのPI3 ‑kinase活性化、GLUT4の細胞膜への移動、グ ルコース取り込み促進に対する作用
L‑243に よ るPI3 ‑kinase活 性 化、GLUT4の 細 胞 膜へ の 移動 、 グ ルコ ー ス取 り 込 み促進作 用は著し いcAMP増加を 抑制した とき発現す る。しか しながら 、 L‑243は わ ず かな が らcAMPを 上 昇 させ る 。G蛋白 質 を 活性 化 するAIF4、アデ ニ ル酸シクラ ーゼを活 性化するforskolinを添加すると、いづれもinsulin同様 PI3 ‑kinase活 性化 、GLUT4の 細胞 膜 へ の移 動 を 引き 起 こし た 。GLUT4の細 胞 膜 への 移 動 はwortmanninを添 加 すると 抑制され た。PTX処理し 、AIF4を添 加 してもcAMP生成 は認めら れなかっ た。この とき、AIF4によるPI 3‑kinase活 性 は 認 め ら れ な か っ た 。 ま た 、ADA存 在 下 あ る い はPTX処 理 し た 後 に 、 forskolinを添加し著しくcAMPを増加させると、forskolinによるPI 3‑kinase活 性化は認められなかった丶oしたがって、forskolinによるPI3 ‑kinaseの活性化に iま 、L‑243同様PTX感受 性G蛋白質 の活性化 が必須で あった。insulinの場合、
insulin受容 体基質.1(IRS‑1)とPI 3‑kinaseの調節 サブユニ ットが結 合し、
insulin受容体、IRS‑1、PI 3‑kinaseが複合体を形成し活性化される。その結果
PI3‑kinaseはcytosol画分で 減少し、 細胞膜画 分で増加 する。L‑243、AIF4、 forskolinもinsulin同様、PI 3‑kinaseをcytosol画分で減少させ、細胞膜画分で増 加さ せた。ま た、insulinはPI3‑kinaseを 活性化する と同時にMAP‑kinaseを活 性 化 する 。L‑243、AIF4、ま た はforskolinを添 加する とMAP‑Kの活性 化が認 めら れた。insulinに よるPI 3‑kinase活性 化はPTX処理に よって影響されない が 、L‑243、AIF4、forskolinいづれの 作用もPTX感 受性G蛋白 質の活性 化が必 須 で あっ た 。こ れ らのこと から、ア デニル酸 シクラーゼ 系におけ るp‑受容体 アゴニスト,AIF4,forskolinのPI3 ‑kinase活性化経路にはinsulinと一部共通の 機構を介して作用すると結論した。
以上 の 研究 は 、ア デニル酸 シクラー ゼ活性化 因子として のホルモ ンがグル コ ー ス取 り 込み 促 進作用を 発現する ことを見 出し、その 作用機構 を確立し た も の であ り 、博 士 (薬学) の学位論 文として 十分な内容 を有する と認めた 。