博 士 ( 工 学 ) 齊 藤 浩 史 学 位 論 文 題 名
Preparation of biopolymer gels using organic acid derivative and development of medical devices
(有機酸誘導体による生体高分子ゲルの合成と医療デバイスの開発)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
現在、組織再生用の足場材料などの医療デパイスには、グルタルアルデヒド、エポキシ化合物 などの化学合成された架橋剤が用いられている。これらの架橋剤は、生体または細胞に対し高い 毒性を示し、生体内において分解されないため、用途や使用量が制限されている。そのため、生 体親和性の高い架橋剤の開発が求められている。そこで、本研究においては、それら問題点を改 善すべき架橋剤の合成を行い、その機能評価および医療デバイスとしての用途展開について検討 を行うこととした。
生体内代謝系で代謝きれるような架橋剤の提供を行うにあたり、着目したものが、複数のカル ボキシル基を有する生体内分子である。一例として、生体内代謝回路であるクエン酸回路に着目 してみると、トリ、もしくはジカルボキシ構造をなす、クエン酸、リンゴ酸などの生体低分子が 含まれている。これら生体低分子であるクエン酸のカルボキシル基をN―ヒドロキシスクシンイ ミド(HOSu)で修飾・活性化を行えば、生体親和性の高い架橋剤が提供できるのではないかと考 えられる。そこで、クエン酸誘導体(CAD)である架橋剤の合成を行った。また、合成したCAD およぴゼラチンを用いて調製されるゼラチンゲルについて、物性評価を行った(第1章)。
クエン酸回路内のジカルボキシル体であるりンゴ酸にスクシンイミジル基を導入した架橋剤 (Malic Acid Derivative:MAD)を合成し、コラーゲンを架橋して得られるゲルの物性評価およ びCADとの比較を行った。MADおよぴCADにより調製したコラーゲンゲルの膨潤度測定を行った 結果、過剰量のCADにより架橋したゲルの膨潤度は増加していく傾向が確認された。一方、過剰 量のMADにより架橋したゲルはCADに見られたような膨潤度の増加は確認されなかった。これは、
CADの活性エステルが1点もしくは2点のみ反応したものがゲル内に残存しているためだと考え られる。一方、MADに関しては、1点のみの反応は起こらないと考えられる。この結果からMAD とCADに は 、 架 橋 反 応 に お い て 違 い が あ る こ と が 明 ら か と な っ た ( 第2章 ) 。 心筋梗塞などの原因となる虚血性心疾患の治療法として、薬剤溶出性ステント(DES)が使用さ れている。DESにより再狭窄の大幅な改善が見られるものの、薬剤溶出後に残存する高分子マト リックスにより、炎症反応、血栓形成、さらにステント表面の内皮化が起きないといった問題が 報告されている。そのため、内皮細胞の接着に優れ、抗血栓性を示すマトリックスの開発が求め られている。そこで、DES用分解性マトリックスの開発を行うため、クエン酸から合成した架橋
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剤(C AD)と コラーゲ ンを用 いて調 製されるゲルについて、含水率測定などの物性評価およぴ細 胞接 着試験 、抗血 栓性評 価を行 った。 その結果 、CADに より架橋したコラーゲンゲルは細胞接着 性 と 抗 血 栓 性 を 併 せ 持 つ 分解 性 マ ト リッ ク ス と なり う る 可 能性 が 確 認 され た ( 第3章 ) 。 2官 能性架橋 剤であるMAD、市販架橋剤であるEDC(卜エチル−3―(3 一ジメチルアミノプロピ ル)カルボジイミド)、GA(グルタルアルデヒド)とコラーゲンを用いて調製されるゲルにっいて、
物性 評価、 細胞培 養試験 を行っ た。L929細 胞を用 いた架 橋剤の 細胞毒 性試験の 結果より、IC50 を求めたところ、MAD:0.5mg/mL、EDC:O.05mg/u止、GA:0.005mg/mLであることから、MADの細胞 毒 性 は、GAの1/100、EDCの1/10であ り 、細胞 毒性が 非常に 低いこ とが確 認され た。また 、コ ラー ゲンゲ ル中に 残存す る残存 アミノ 基量を測 定した 結果、MADに関しては、理論量付近におい て残 存アミ ノ基の 消失が 認めら れた。 一方、EDC、GAによ り架橋したゲルの場合、これらを理論 量の2倍以上 加えた 条件で も残存 アミノ 基の消 失は認め られなかった。これは、架橋反応の際に 起き る副反 応の影 響と考 えられ る。さ らに、細 胞培養 試験を行った結果、MADにより架橋したコ ラー ゲンゲ ル上に おける 細胞増 殖能は、市販架橋剤にて調製したコラーゲンゲルと比較して優れ てい ること が明ら かとな った。 以上の 結果より 、MADは 、市販 架橋剤で あるGA、EDCと比べて細 胞毒 性が非 常に低 く、ま た、ア ミノ基との架橋反応性にも優れていることから細胞培養用の足場 材 料 の 精 密 設 計 に 適 し た 架 橋 剤 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た ( 第4章 ) 。 組織 接着剤 は、縫 合糸に 代わる 組織の癒合方法として臨床で使用されている。しかし、これま での 組織接 着剤は 、接着 カは強 いが毒性が高い、毒性は低いが接着カは弱いなどの問題を抱えて いる 。これ らの問 題点を 解決す るため 、CADを用 いた新 規な組織接着剤の開発を行った。ブタ組 織( もも肉 )を用 いたCADを 硬化成 分、コ ラーゲ ンを接 着成分 とする2液混合系 接着剤の接着強 度測 定の結 果、そ の接着 カは従 来、臨 床で用い られて いる接着剤であるGRFグルー(アルデヒド ーゼ ラチン 系接着 剤)に 匹敵す る強度 を示した 。また 、細胞 毒性試 験(L929線 維芽細胞)を行 った 結果、CADの毒性 は、GRFグルーに 比べて1/10以 下であることが明らかとなった。以上の結 果よ り、本 研究に おいて 、高い 接着カと低い毒性を併せ持つ従来品に代わるような新規組織接着 剤の開発が行われた(第5章)。
本論 文で開 発した 有機酸 誘導体 である 〔紬お よびMADは 、従来使用されているグルタルアルデ ヒド 、エポ キシ化 合物な どの化 学合成された架橋剤と比べて、生体親和性に優れた架橋剤である こと.が明らかとされた。また、有機酸誘導体は、細胞培養用足場材料、組織接着剤などの医療デ バイスヘの用途展開が可能である材料であることが示唆された。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 河原剛一 副査 教授 遠藤俊徳
副査 教授 覚知豊次(工学研究科)
学位 論文題名
Preparation of biopolymer gels using organic acid derivative and development of medical devices
(有機酸誘導体による生体高分子ゲルの合成と医療デバイスの開発)
現在、組織再生用の足場材料などの医療デバイスには、グルタルアルデヒド、エポキシ化合 物などの化学合成された架橋剤が用いられている。これらの架橋剤は、生体または細胞に対し 高い毒性を示し、生体内において分解されないため、用途や使用量カミ制限されている。そのた め、生体親和性の高い架橋剤の開発が求められている。そこで、本研究においては、それら問 題点を改善すべき架橋剤の合成を行い、その機能評価および医療デバイスとしての用途展開に ついて検討を行った。
生体内代謝系で代謝されるような架橋剤の提供を行うにあたり、着目したものが、複数のカ ルボキシル基を有する生体内分子である。一例として、生体内代謝回路であるクエン酸回路に 着目してみると、トリ、もしくはジカルボキシ構造をなす、クエン酸、リンゴ酸などの生体低 分子が含まれている。これら生体低分子であるクエン酸のカルボキシル基をN―ヒドロキシス クシンイミド(HOSu)で修飾・活性化を行えば、生体親和性の高い架橋剤が提供できるのでは ないかと考えられる。そこで、クエン酸誘導体(CAD)である架橋剤の合成を行った。また、合 成したCADおよびゼラチンを用いて調製されるゼラチシゲルについて、物性評価を行った(第 1章)。
クエン酸回路内のジカルボキシル体であるりンゴ酸にスクシンイミジル基を導入した架橋剤 (Malic Acid Derivative:MAD)を合成し、コラーゲンを架橋して得られるゲルの物性評価およ びCADとの比較を行った。MADおよびCADにより調製したコラーゲンゲルの膨潤度測定を行っ た結果、過剰量のCADにより架橋したゲルの膨潤度は増加していく傾向が確認された。一方、
過剰量のMADにより架橋したゲルはCADに見られたような膨潤度の増加は確認されなかった。
これは、CADの活性エステルが1点もしくは2点のみ反応したものがゲル内に残存しているた めだと考えられる。一方、MADに関しては、1点のみの反応は起こらないと考えられる。この結 果からMADとCADには 、架橋反 応におい て違い があるこ とが明らかとなった(第2章)。
心筋梗塞などの原因となる虚血性心疾患の治療法として、薬剤溶出性ステント(DES)が使用さ れている。DESにより再狭窄の大幅な改善が見られるものの、薬剤溶出後に残存する高分子マ トリックスにより、炎症反応、血栓形成、さらにステント表面の内皮化が起きないといった問 題が報告されている。そのため、内皮細胞の接着に優れ、抗血栓性を示すマトリックスの開発 が求められている。そこで、DES用分解性マトリックスの開発を行うため、クエン酸から合成
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し た架 橋剤(CAD)と コラ ー ゲン を用 いて 調 製されるゲルについて 、含水率測定などの物性評 価 お よび 細胞 接 着試 験、 抗血 栓性 評 価を 行っ た。その結果、CADに より架橋したコラーゲンゲ ル は 細胞 接着 性 と抗 血栓 性を 併せ 持 つ分 解性 マトリックスとなり うる可能性が確認された(第3 章)。
2官能性 架橋剤であるMAD、市販架橋 剤であるEDC (1‑エチルー3ー(3 ージメチルアミノプロピ ル)カルボ ジイミド)、GA(グルタル アルデヒド)とコラーゲンを 用いて調製されるゲルについ て 、物 性評 価 、細 胞培養試験を行っ た。L929細胞を用いた架橋剤 の細胞毒性試験の結果より 、 IC50を求め たところ、MAD:0.5 mg/mL、EDC:0.05 mg/mL、GA:0.005mg/mLであることから、MAD の 細胞 毒性 は 、GAの1/100、EDCの1/10であ り、 細胞 毒 性が 非常 に低 いことが確認された。 ま た 、コ ラー ゲ ンゲ ル中 に残 存す る 残存 アミ ノ基量を測定した結 果、MADに関しては、理論量 付 近 にお いて 残 存ア ミノ 基の 消失 が 認め られ た。一方、EDC、GAに より架橋したゲルの場合、 こ れ らを 理論 量 の2倍 以上 加 えた 条件 でも 残 存アミノ基の消失は認 められなかった。これは、 架 橋 反応 の際 に 起き る副 反応 の影 響 と考 えら れる。さらに、細胞 培養試験を行った結果、MADに よ り架 橋し た コラ ーゲンゲル上にお ける細胞増殖能は、市販架橋 剤にて調製したコラーゲン ゲ ル と比 較し て 優れ てい るこ とが 明 らか とな った。以上の結果よ り、MADは、市販架橋剤であ る GA、EDCと 比べ て細 胞毒 性 が非 常に 低く 、 また、アミノ基との架 橋反応性にも優れているこ と から細胞培 養用の足場材料の精密設計 に適した架橋剤であることが 明らかになった(第4章)。
組織 接着 剤 は、 縫合糸に代わる組 織の癒合方法として臨床で使 用されている。しかし、こ れ ま での 組織 接 着剤 は、接着カは強い が毒性が高い、毒性は低いが 接着カは弱いなどの問題を 抱 え てい る。 こ れら の問 題点 を解 決 する ため 、CADを用いた新規な 組織接着剤の開発を行った 。 ブ タ組 織( も も肉 )を 用い たCADを 硬化 成 分、 コラ ーゲ ンを 接 着成 分とする2液混合系接着 剤 の接着強度 測定の結果、その接着カは 従来、臨床で用いられている 接着剤であるGRFグルー(ア ル デヒ ドー ゼ ラチ ン系 接着 剤) に 匹敵 する 強度を示した。また 、細胞毒性試験(L929繊維芽 細 胞 )を 行っ た 結果 、CADの毒性は、GRFグルーに比べて1/10以下で あることが明らかとなった 。 以 上の 結果 よ り、 本研究において、 高い接着カと低い毒性を併せ 持つ従来品に代わるような 新 規組織接着 剤の開発が行われた(第5章 )。
本論 文で 開 発し た有 機酸 誘導 体 であ るCADお よびMADは、 従来 使用 されているグルタルア ル デ ヒド 、エ ポ キシ 化合物などの化学 合成された架橋剤と比べて、 生体親和性に優れた架橋剤 で あ るこ とが 明 らか とされた。また、 有機酸誘導体は、細胞培養用 足場材料、組織接着剤など の 医 療 デ バ イ ス ヘ の 用 途 展 開 が 可 能 で あ る 材 料 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。
これ を要するに,著者 は,組織再生用の足場材料な どの医療デバイスについて ,生体親和性 の 高い 架橋剤に関する新 知見を得たものであり,再生 医工学とくに生体材料工学 に対して貢献 す ると ころ大たるものが ある。よって著者は,北海道 大学博士(工学)の学位を 授与される資 格 ある もの と認 める 。
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