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博士(歯学)小野寺雄一郎 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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博士(歯学)小野寺雄一郎

学 位 論 文 題 名

ヒ ト 歯 根 膜 細 胞 に 対す る ポ リ リン 酸 の 細 胞 運 動 亢 進 効 果に つ い て

学 位 論 文 内容 の 要 旨

旧的]

  歯周病は、高齢化の進行で患者数はますます増加することが予測されている.そのため、歯 周組織再生療法の早期の実現化が望まれている.ポリリン酸は、リン酸が直鎖上に重合した生 体高分子で、食品の変色防止剤などとして使用され人体への安全性が確立されている物質で ある,ポリリン酸は、細菌からほ乳類までほとんど全ての生体内に存在しており、原核生物で は様々な生物学的機能が明らかにされているが、真核生物における役割はほとんど知られて い ない, 最近、ポ リリン 酸がFGFを安定化することや、マウス骨芽細胞株MC3T3‑E1細胞 のosteocalci11やosteopontin遺伝 子 の 発 現を 誘 導 する こ と 、口 腔 内 細菌 で あ る P g血givahs,S.mutansの増殖抑制をすることが明らかになった.さらに、ラットに作製した 人工的歯周病モデルを用いてポリリン酸の効果を評価した結果、ポリリン酸投与群ではセメ ント質・歯槽骨の再生が促進され、その効果が注目されている.

  本研究では、歯周組織再生に必要な歯根膜に着目し、その歯根膜の主な構成成分である歯 根 膜 線 維 芽 細 胞 の 走 化 性 に お よ ぽ す ポ リ リ ン 酸 の 影 響 に つ い て 検 索 し た .

[材料と方法]

  北海道大学病院歯科診療センターで埋伏智歯抜歯時に抜去歯牙に付着した歯根膜組織から 単離し たヒト由 来歯根 膜線維芽 細胞(PDL)を継代 し実験 に用いた.このPDLを平均鎖長 65のポリリン酸ナトリウム溶液あるいはオルソリン酸溶液(コント口ール)で処理し実験を 行った.

  Boyden.チャンバーの下部チャンパーにポリリン酸やコント口ールを含む試験培地を、上 部チャンパーには細胞懸濁液を入れ6時間培養し、membrane裏側に移動した細胞数を顕微 鏡下で測定し細胞走化性におよぼす影響を検索した,

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  ポ リ リ ン 酸 あ る い は コ ン ト 口 ー ル 培 地 でPDLを6時 間 培 養 後 、Rhodamine phalloidin染 色 、 さ ら に 細胞 核をDAPIで 染色 し、 アク チ ン再 構成 にお よぼ す ポリ リン 酸の 影 響を 検索 し た . 同 様 の 培 養 条 件 下 の 細 胞 か ら タ ン バ ク を 抽 出 し 、 活 性 化 型 RhoAの 検 出 はRho Activati・0nAssayKitを 用し ゝたpuu.downア ッセイで、Rac1,F觚,JN醐sAPKのりン 酸化 はウ ェ スタ ンブ ロッ トに よ り検 索し た.

[ 結果と考察]

  歯 根膜 線 維芽 細胞 は歯 根 膜の 主な 構成 成分 で あり 、歯 周疾患により破壊さ れた歯根膜の再 生に は、 歯根膜線維芽 細胞の運動と伸展が必要であ る.細胞運動能の亢進は、 このような歯根 膜線 維芽 細胞による歯 周組織の再生において重要な 役割を担っている.本研究 では、歯根膜細 胞を使用し歯根膜へ のポリリン酸の効果を検索し た.

  歯 根膜 細 胞の 細胞 運動 に おけ るポリ1」ン酸の効 果を明らかにするために、Boydenチャンバ ーを 用い て検索した. この結果、ポリリン酸は歯根 膜線維芽細胞の細胞運動能 を有意に亢進し た.

  細 胞 運 動 に は ア ク チ ン フ ァ イ バ ー の 形 成 を 伴 っ た 細 胞 骨 格 の 再 構 築 が 必 要 で あ る. Rhodaminephauoid血で 細胞 の免 疫 螢光 染色 を行 い アク チン ファ イバ ー の局 在を検索し た. その 結果、ポリリ ン酸は発達したアクチンを形 成し、細胞の辺縁部では葉 状仮足形成が認 めら れた が、コントロ ールでは認められなかった. 細胞の葉状仮足の突出は、 細胞運動におけ る最 初の 過程であると 考えられている.最近、葉状 仮足形成増加により膜ラッ フルの形成が促 進さ れ、 高い運動活性 を持つことが明らかになって いる.今回の検索の結果、 ポリリン酸は歯 根膜 線維 芽 細胞 のア クチ ン ファ イバ ‐形 成、 葉 状仮 足形 成を亢進し、高い運 動活性をもつこ とが示された.

  イ ンテ グ リン は、 細胞 膜 にお ける 接着 因子 と して 細胞 外マトリックスとの 接着に関与する だけ でな く、細胞内シ グナル伝達系においても重要 な役割を演じている.イン テグリンシグナ ル 伝 達 の 下 流 に はn壥 が 存 在 し 、F觚 シ グ ナ ルは ア クチ ン細 胞骨 格の 構 築を 制御 するRhoフ ァミ リー に伝えられる .F AKのりン酸化について 検索した結果、ポリリン酸処 理により、約3 倍 のFAKリ ン 酸 化の 亢進 が認 めら れ た.Rhoファ ミリ ーは 、ア ク チン 細胞 骨格 の 構築 を制 御 す る だ け で な く 様 々 な 生 理 機 能 に 関 与 す る こと が 報告 され てい る,Rhoファ ミ リー の中 で

、RhoAは ア ク チ ン細 胞 骨格 の構 築に 作用 し 、Rac1は 葉状 仮足 形 成と 膜ラ ッフ リ ング に作 用 す る . ポ リ リ ン 酸に よ るRhoファ ミ リー 低分 子量G夕 ンバ ク質 の 活性 につ いて 検 索し た結 果

、ポリリン酸処理に より、Rh()Aは僅かながら活性が亢進したが有意な差は認められなかった.

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一方、Raclのりン酸化は約2.5倍に亢進された.このため、ポリリン酸は、Raclを選択的に 活性化し、歯根膜細胞の運動の際に、細胞辺縁部の葉状仮足形成と膜ラッフリングを亢進し

、高い細胞運動活性に繋がる可能性が示唆された.

  FAK,Raclの り ン酸 化 に よりMAPKで あ るJNK/SAPKの活 性 化が報 告され ている. ポ リリン酸がFAK,Raclのりン酸化を亢進したためJNK/SAPKの活性化について検索した.そ の結果、ポリリン酸処理により、JNK/SAPKリン酸化は約4倍に亢進した.一般に、JNKsは 分化やアポトーシスの誘導で重要な役割を持つと考えられているが、ポリリン酸がFAK.Racl の活性化を通じて、JN酎SAPKのカスケードを亢進し、細胞運動に関与した可能性が示唆さ れた,

  本研究の検索結果により、ポリリン酸は、インテグリンの下流のFAKリン酸化を亢進し、

それ に続 くRhoフ ァミリ ーの活性 化、そ して、そ の下流 のMAPKのJNK/SAPKリ ン酸化を 亢進する歯根膜細胞内シグナル伝達カスケードの存在が明らかになった.Rhoファミリーの 中でもRaclが特異的に亢進されたことから、ポリリン酸は細胞運動に関与するタンパクを選 択的に活性化し、アクチンファイパーの形成亢進、葉状仮足形成が亢進され高い運動活性を 生じる可能性が示唆された.

隴論]

  歯周組織再生に必要な歯根膜の主な構成成分であるヒト歯根膜線維芽細胞の走化性におよ ぼすポリリン酸の効果について検索した.その結果、ポリリン酸はヒト歯根膜線維芽細胞 のRhoファミリーRaclをりン酸化し、アクチン重合形成、葉状仮足形成を亢進し細胞運動 を活性化することが示された.ポリ1」ン酸が、細胞の活性化を通じて歯根膜形成促進に関与で きる可能性が示唆された.

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学位論文審査の要旨 主査    教授    進藤正信 副査    教授    田村正人 副査    教授    鈴木邦明

学 位 論 文 題 名

ヒト歯根膜細胞に対するポリリン酸の      細 胞 運 動 亢 進 効 果 に つ い て

  

審査 は 、 審査 員 全員 が出席の 下に、申 請者に対 して提出 論文とそれ に関連し た学 科 目 につ い て 口頭 試 問に よ り 行わ れ た。

論文 の審査にあたって、論文申請者により以下に示す研究要旨の説明が行われた。

  

歯 周 病は 、 高 齢化 の 進行 で 患者数 はますま す増加する ことが予 測されて いる。そ のた め 、 歯周 組 織再 生 療 法の 早期 の実現化 が望まれて いる。ポ リリン酸 は、リン 酸 が直 鎖 上 に重 合 した 生 体 高分 子で 、細菌か らほ乳類ま でほとん ど全ての 生体内に 存 在し て お り、 原 核生 物 で は様 々な 生物学的 機能が明ら かにされ ているが 、真核生 物 にお け る 役割 は ほと ん ど 知ら れて いない。 申請者は、 歯周組織 再生に必 要な歯根 膜 に着 目 し 、そ の 歯根 膜 の 主な 構成 成分であ る歯根膜線 維芽細胞 の走化性 におよば す ポリリン 酸の影響 にっいて 検索した 。

  

北 海 道大 学 病 院歯 科 診療 セ ンター で埋伏智 歯抜歯時に 抜去歯牙 に付着し た歯根膜 組織 か ら 単離 し たヒ ト 由 来歯 根膜 線維芽細 胞(PDL) を継代し 実験に用 いた。こ の

PDL

を平 均 鎖 長65 の ポリ リ ン酸 ナ トリウ ム溶液あ るいはオル ソリン酸 溶液(コ ントロー ル)で処 理し実験 を行った 。Boyden chamber を用い て細胞走化性を検索したところ、

ポリリン 酸は有意 に細胞走 化活性を亢進し、ImM の濃度で最も高い活性が認められた。

細胞 運 動 の際 に は、 細 胞 骨格 の再 構築がお こルアクチ ン重合が 活発に行 われるこ と

が知 ら れ てい る 。ポ リ リ ン酸 が細 胞走化性 を亢進した ため、

Rhodamine phalloidin

で細 胞 を 螢光 染 色し 、 ア クチ ンフ んイバー の局在にっ いて検索 した。そ の結果、 ポ

リリ ン 酸 処理 し た細 胞 で はコ ント ロールに 比べ発達し たアクチ ンファイ バーがみ ら

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れ、細胞辺縁部では葉状仮足形成が認められた。細胞の接着依存性増殖や細胞外マ トリックス上での細胞移動では、FAK (Focal adhesion kinase) が重要であること が明らかになっている。FAK はインテグリンからの刺激を受けるだけではなく、細 胞内シグナル伝達系において細胞運動に関与するRho ファミリーの上流に位置する。

そこで、FAK のりン酸化にっいて検索したところ、ポリリン酸処理により FAK リン酸 化 は約 3 倍に亢進し た。次いで 、 Rho ファ ミリー(RhoA 、Racl )へのポリリン酸の 影響について検索した。RhoA の pul トdown アッセイにより、ポリリン酸処理細胞で は、 RhoA の有意な活性亢進はみられなかったが、Racl はポリリン酸処理により、約 2 .5 倍のりン酸化亢進がみられた。Racl のりン酸化によりMAPK のーっであるJNK/SAPK の活性化が報告されている。ポリリン酸がRacl のりン酸化を亢進したため JNK/SAPK の活性化について検索した。その結果、.ポリリン酸処理により、JNK/SAPK リン酸化 は約4 倍に亢進した。

   本研究の検索結果により、ポリリン酸は、 FAK リン酸化を亢進し、それに続くRacl の 活性化、そ して、その下流のMAPK のJNK/SAPK リン酸化を亢進する歯根膜細胞内 シグナル伝達カスケードの存在が明らかになった。Rho ファミリーの中でもRacl が 特異的に亢進されたことから、ポリリン酸は細胞運動に関与するタンパクを選択的 に活性化し、高い運動活性を生じることが示され、ポリリン酸が、細胞の活性化を 通じて歯根膜形成促進に関与できる可能性が示唆された。

   その後、本研究ならびに関連する研究について審査担当者からの質問が行われた。

主な質問項目は、

1 )ポリリン酸の作用はインテグリンによる細胞接着から始まるのか細胞内にダイ      レクトにはたらくのか

2 ) 細 胞 接 着 に 作 用 す る と し た ら ど の よ う な メ カ ニ ズ ム な の か 3 ) I ― → AK の kinase domain と Racl の 関 係 は ど の よ う に な っ て い る の か 4 )Rho inhibitor と細胞運動能の抑制機構

5 )歯根膜細胞以外で走化性の亢進はみられるのか 6 )今後の展望

などであり、申請者から適切かつ明快な回答が得られた。実験手技にっいても詳細

を熟知していることが明らかになり、関連する分野にっいて幅広い知識を有し、今

後の研究に対して積極的に向かう姿勢が示され、申請者は学位を授与するに十分な

学識・資質を有していることが明らかになった。本研究の成果は、今後ますます必

要性が増すと思われる再生医療に寄与するところが大であると考えられ、学位を授

与されるにふさわしいものと認められた。

参照

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