東南 アジア研究 33巻 1号 1995年 6月
村落公共機能 の強化 をめ ざ して
- バ ングラデ シュ農村 開発 の新戦略-
*
藤
田
幸
一 **St
r
e
ngt
he
ni
ngRur
alPubl
i
cFunc
t
i
ons:
A Ne
w St
r
at
e
gyf
orBangl
ade
s
hRur
alDe
ve
l
opme
nt
*
KoichiFUJITA
H
ThegeneralweaknessoftheruraleconomyinBangladeshisrootedmainlyinweakrural infrastructuralbuild-up ratherthan a weak cash economy.The "creditand training" program,whichhasbeenadoptedasthemainstream ruraldevelopmentpolicybymostofthe international,governmentaland non-governmentalorganizationsconcerned with rural development,tendstostimulateself-centeredincentivesforeconomicupliftbyindividual villagersandmayresultinerosionoftheireffortstobuildasenseofvillage"unity"or villagepublicspiritedness.Matabbo73,thetraditionalvillageleaders,andvillagerswillingly collectsubscriptionsamounting to severalthousand takas,donate necessary landsand providevoluntarylaborforrenovatingtheirmosque,buildingtheirmadrasa,improvingtheir hatgroundandorganizingfestivals.Butthesesamematabboy:sandvillagersdonotthinkof raisingfundsorcontributingfreelabortothebuildingandrepairofvillageinfrastructures suchasvillageroads,whichareessentialforactivatingtheirruraleconomy.Instead,they simplywaitforthegovernmenttobringsuchpublicprojectstothevillage.Inturn,the governmentreliesheavilyonforelgnassistanceforbuildingsuchpublicinfrastructures,asit isnotpreparedtoraisethenecessaryfundsbylevyinglocaltaxes.
Totheauthor,ruraldevelopmentshouldinvolvethevillagers'jointeffortstobuildthe publiceconomy,whichinturnwouldhelpstrengthentheirprivateeconomy,andshouldnot simplybeaprogram bywhichthegovernmentprovidesdirectassistancetotheprivate economyofthevillagers.Whenthisalternativeconceptofruraldevelopmentisacceptedby thevillagers,thematabboyswillbeabletoplaytheirproperroleofleadershipinBangladesh ruraldevelopment.
*本稿 は, タ ンガイル県の ドッキ ンチ ャム リア村 (D村 と略 す) とボブラ県のアエ ラ村 (A村 と略す)の 各 プロジェク ト・サ イ トにお ける 「実験 」の一部 についての中間報告 である。共 同研 究者 で あるAltaf Hossain教授,HabiburRahman助教授,M.Salim助教授,安藤和雄氏,内田晴夫氏,吉野響子氏 (以 上D村 ),M.A.Mannan部長,W .M.HJaim教授,FerozHossain副部長,板垣啓子氏 (以上A村)の ご協力 とご教示 な しには,本稿 は到底完成 しなか ったで あろ う。記 して深 く感謝 いた します。 またいち いち名前 をあげ る ことはで きないが,現場 で 「実験」に携 わ り,かつ地道 なデー タ収集 に忍耐強 く応 じ て くれたプロジェク ト ・スタ ッフの方々 に もこの場 を借 りてお礼 申 しあげ ます。
= 農林 水産省 農業総合研究 所 ;NationalResearchInstituteofAgriculturalEconomics,Ministryof Agriculture,ForestryandFisheries,2-2-1Nishigahara,Kita-ku,Tokyo114,Japan
東南 アジア研究 33巻1号
Ⅰ
は じめ に途上国農村地域 の貧困の軽減 ない し生活水準 の引 き上 げ とい う究極 の 目標 に向 けて, さまざ まな農村 開発 プロジェク トが実施 されている。 いわ ゆる絶対的貧困が人 口の過半数 を越 え,か つ広大 な純農村 が残 るバ ングラデシュに,総合農村 開発 のための国際研究機関CIRDAP(Ce n-treonIntegratedRuralDevelopmentforAsiaandthePacific)の本部 が あるのは単 な る偶 然 とはい えまい。 しか もバ ングラデシュは,協同組合 を核 に した コ ミラモデル とい う国際的 に
も有名 な農村 開発 モデル を,1960年代 にいち早 く生 んだ土地柄 で もある。
しか し後述 の ように,協 同組合 による開発 モデル を受 け継 いだBRDB (Bangladesh Rural Development Board)は,大 きな成果 をあげ られず に自信 を失 い, コ ミラモデルの生 みの親 BARD (BangladeshAcademyforRuralDevelopment)ち,有効 な代替 モデル を出せぬ まま 苦悩 してい るか にみ える。 毎年の膨大 な援助資金 の流入 に もかかわ らず,農村 の貧困 は目にみ えて改善 す る気配がない。現地 に身 をお くと, ドナー をは じめ農村 開発 の関係者 の間 には,八 方塞が りのや るせ なさ と焦燥が強 く感 じられ る。 本稿 は,現行 の農村開発 の行 き詰 ま りの原因 をやや根源的 に とらえ,改善 のための提案 を試 み る ものである。根源的の意味 は,協 同組合組織 の改善 のための方策 を論 じた り,協 同組合 を 通 じて行 うべ き事業 の種類や その成功 のテクニ ックについて論 じた りす るので はな く,協 同組 合 による開発 その もの を再検討 し, あるいはよ り正確 にい えば,農村開発全体 の中にそれ を正 し く位置づ ける といった ことを指 してい る。結論 を先取 りすれ ば,第一 に,現行 の開発が ロー ンの供与 な ど,農村住民 の私経済 の直接的 な改善 を もっぱ ら狙 い としているの に対 し,道路, 定期市,学校 な どいわ ば公共財 の供給 を通 じて,私経済 の間接的 な改善 の方策 を重視 す ること, 第二 に, したが ってその実施主体 は,何 らかの村組織 であるべ きであ り, それ は協 同組合 の活 動 を補完 しつつ も, あ くまで別個 の組織活動 として位置づ ける必要が あることな どである0 以下,現行 の農村開発 の内容 を整理 して (第
Ⅰ
Ⅰ章),村 の実状 か らみたその問題点 を明 らか に し (第Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ章), そ うした問題 を乗 り越 える もの としての 「新 たな農村 開発」の可能性 を吟味 し (第Ⅰ
Ⅴ 章), 「実験」による検証 の結果 を議論 す る (第 Ⅴ 章)。第Ⅴ
Ⅰ章 は本稿 の まとめである。Ⅰ
Ⅰ
農村 開発 の2
つの型 は じめ にバ ングラデ シュにお ける農村 開発 の歴史 的 な展開 と現状 を ご く簡 単 に整 理 してお く。1)首都 ダ ッカの東100km足 らずの小 さな町 コ ミラ市 の郊外 に,BARDが設立 されたの は 東パ キスタ ン時代 の1959年 の こと,初代所長 アクタル ・ハ ミッ ド ・カー ンの一種 カ リスマ的 な藤田 :村落公共機能の強化をめざして 指導 の下,研究所周辺 の 「実験地」で成功 を収 めた農村 開発手法が全 国 に広 め られ,現在 のバ ングラデシュの農村 開発行政 の原型 を作 ったのが,既述 の コ ミラモデルであ る。 コ ミラモデル は,以下 の4つの柱 か ら構成 されていた。 第一 に,
2
段階協 同組合 の組織化 で あ る。村 に農民協 同組合 の単協, タナ2)に連合会 を組織 し, 開発 の受 け皿 としたので あ る。 小規模農民 を組織化 のターゲ ッ トとした。 第二 に, タナ にタナ研修 ・開発 セ ンター を建設 し研修 を制度化 した ことで あ る。組合 の幹部 や農村 開発 を担 う地 方行政官 に対 して研修 が施 された。 第三 に, タナ津守既計画で あ る。農業近代化 に不可欠 な乾季 の小規模 港概 の開発 のた めの制度 で あ る。BADC (
Ba
n
gl
a
d
e
s
hAg
r
i
c
ul
t
ur
alDe
ve
l
o
p
me
ntCo
r
po
r
a
t
i
o
n)
の官吏 をタナ に配置 して共 同 で ポ ンプ を利 用 す る農 民 を組 織 して ポ ンプ利 用 組 合 を結 成 し, タナ に付 設 され るBADC
の店舗 を通 じてポ ンプ本体 を賃貸 す るほか,部 品,燃料 のデ ィーゼル な どを供給 す る。 ポ ンプ利 用組合 は,農民協 同組合 へ の登録転換 が奨励 された。第 四 に,農村土木事業 で あ る
RWP (
Rur
alWo
r
ksPr
o
gr
a
mme
)
で あ る。道路,橋 梁,堤 防,用排水路,定期市 な どのイ ンフラを整備 す る とともに,乾季 の失対事業 として貧 困層 の雇 用確保 を狙 った もので あった。米国の公法4
7
0
号 に よる援助小麦 を原資 とした。 以上 か ら明 らか な ように,当時 の農村 開発 は,農村 の基幹産業 で ある農業 の開発 に主眼が あっ た。食料 の増産 が最優先 の課題 であ り, かつ土地 な し農民や零細農民 の問題 が い まだ深刻 で は なか った当時 の状 況 を反映 す る もので あった。 コ ミラモデルが全 国 に普及 された とき,以上 の4つの柱 は独立 した形 を とらざるをえなか っ た。BARD
の膝元 の狭 い地域 にお けるよ うには,集 中的 に資源 の投入 と監視 がで きなか ったか らで あ る。 しか もモデルの普及後2
0
年以上が経過 した現在 まで に,第二 の研修 の ように,各省 庁 の手 に分散 す る とともに第一 の開発 の一部 として吸収 された もの もあ る し, また第三 の港概 計 画 の ように,一定程度普及 した後,民営化 の波 の中で歴史的 な役割 を終 えて事 実上消滅 した もの もあ る。 つ ま り現在 まで残 った もの は,第一 の2段 階協 同組合 と第 四の農村土木事業 で あ る。 これ ら が表題 にい う農村開発 の2つの型で あ る。2
段 階協 同組合 は,バ ングラデ シュ独立後 に総合農村 開発計画(
I
RDP)
として全国 に普及 さ れ,のちにBRDB
と改称 された。BRDB
か ら派遣 された官吏 と協 同組合 タナ連合会 の会長 は, タナの一室 で机 を並べて仕事 をす るのが通例 で あ る. 当初 は農民協 同組合(
KSS)
だ けを対象1
)
煩雑を避けるため,コミラモデル以前のⅤ-
AI
D(
Vi
l
l
a
g
eAg
r
i
c
u
l
t
u
r
a
la
n
dI
n
d
u
s
t
r
i
a
l
De
v
e
l
o
p
me
n
t
)
プログラム,ジアウル ・ラーマン時代のグラム ・ショルカルなどは省略した。 2)タナ(
Th
a
n
a
)
は,地方行政単位の1
つで,通常,郡 と訳される。植民地時代に警察管区として出発 し, エルシャド大統領の地方行政改革でウポジラと改称されて大幅に政治 ・行政機能が強化された。近年の BNP政権下で,再びタナに名称変更された。各省庁の官吏が派遣される末端の単位。人口規模は20-40 万程度であり,全国に489を数える。 27東南アジア研究 33巻1早 としていたが,のちに婦人協同組合
(
MS
S
)
や土地 な し協 同組合(
BS
S)
等の組織化 に力点が 移 って きた。組合の活動 は,初期 の多面的な要素 を次第 に失 い,最近では事実上,出資金 と貯 金の動貞,商業銀行か らのロー ンの取次 ぎ,各種研修 プログラムの実施 の3つの活動 に限定 さ れている。販売事業,購買事業 は取 るに足 らず,共済事業 は存在 しない。貯金 はロー ンに比べ て僅かであ り,組合 とは端的 にいって借金組合 といって もよい状況 にある。 一方の農村土木事業 は,1
9
7
0
年代半 ばの飢笹 を契機 として先進各国か らの食料援助が本格化 す るに伴 い,救援省が管轄す るFFW (
FoodForWo
r
ks
)Pr
o
gr
amme
が主流 とな り,かつ地 方建設局であるLGED (
Loc
alGo
ve
r
nme
ntEngi
ne
e
r
i
ngDe
pa
r
t
me
nt
)
が管轄す る土木事業 との2
つの系列 に分化 して現在 に至 っている。救援省 とLGED
の官吏 も,タナ まで派遣 されて 業務 を遂行 している。FFW
は,労働者への賃金 を現金ではな く小麦の現物で支払 うとい う点 を 除 き,従来か らの土木事業 と基本的 に同 じである。 以上要す るに,バ ングラデシュの農村開発 といえば,農業普及局 を主な実施主体 とす る農業 技術指導 を別 にすれ ば,2段階協同組合の組織化 を通 じたロー ン (及 び研修)の供与 と,食料 援助 と結 びついた農村土木事業の2つが代表的な施策 となっているのであ り,先進各国が競 う ようにして地域割 で実施 している農村開発 プロジェク トの中身 も,両者 を柱 としているのが現 状 である。Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
村 の現 実か らみ た農村 開発 の 間蔑 点1.
組合方式の農村開発の実効性 への疑問 協同組合 を組織 して組合貞 に研修 を施 しロー ンを供与す るとい う型の開発 を,本稿 では組合 方式の農村開発 と呼ぼ う。協同組合以外の未登録のグループであって も事業 の性格 は全 く同 じ なので, まとめて議論す ることにしたい。 組合方式の農村開発が抱 える問題点 は,以下の通 りである。 第一 に,コ ミラモデル を受 け継 いだBRDB
だ けでな く,他の省庁や部局 も同様 のプログラム の実施主体 となってお り,末端 の農村で重複や混乱 を招 いている点である。青年開発局,社会 サー ビス局,小規模 ・家 内工業公社 な どがその典型であ り,さらにグラ ミン銀行 をはじめ,NCO
の大部分 も参画す る格好 になっている。各実施主体 は,他の組合員 を排除す る規定 をとってい るため, いわば貧困世帯 の奪 い合 いをし,競 ってロー ンを供与す る とい う奇妙 な状況が生 じて いる。各実施主体間の協調関係 はあま りな く, しば しば対立 ・対抗関係がみ られ る。 第二 に,第一 の問題 と裏腹 であるが,組合貞数が2
0
名程度か らせいぜい数十名 どま りで, そ れ以上 に拡大 しない ことである。 その背景 には,父系同族集団の関係 を中心 にして分断 された 村落 内部 の複雑 な権力構造がある。3)藤 田 :村落公共機能 の強化 をめざして 第三 に,研修 とロー ンとい う組合活動 の柱 は, い うまで もな く自己雇用 (self・employment) の創 出 ・発展 を通 じた貧 困世帯 の収入 向上 を狙 うもので あるが, その実効性 に疑 問が あ ること であ る。以下, この ことについて 1つの 「実験村」であ るD村 を事例 に検討 してみ よう。 D村 で は村 び と同士 の金融が盛 んで あるが,表 1は, その全世帯 を,土地所有階層別 に,金 融 の貸 し手,借 り手,貸 し手兼借 り手,その他 の 4つ に分類 した ものである。驚 くべ きことに, 貸 し手127戸 の うち, 66戸 (52% )は土地 な しであ り, 37戸 (29% )も所有面積20アール未満 の 零細 農家である。 す なわち貸 し手 の8割 が通常最 も貧 しい と考 えられてい る人々 なので ある。 この ことはさらに,村 内の資金循環 の収支 を示 した表2によって も再確認 で きる。表 にみ るよ うに,資金 の流れ は全体 として下層か ら上層へ と向か ってお り,下位 の 2階層が貸付超,上位 表 l D村の村内金融の構造 土地所有階層 世帯数 村内金融市場における地位 (エーカー) 貸 し手 貸借兼 借 り手 その他 0 206 66 22 43 75 0.01-0.49 138 37 35 49 17 0.50--0.99 84 11 26 36 11 1.00- 2.49 78 9 23 40 6 2.50- 4.99 24 2 7 14 1 5.00- 8 2 3 2 1 合 計 538 127 116 184 111 出所 :1992年 夏 の村落 基本調査 に よる。 表 2 D村 の村 内金融 の全収支 (タ カ) 土 地 所 有 階 層(エーカー) 貸付額 借 入額 差 引 0 529,750 161,410 368,340 0.01-0.49 493,600 237,720 255,880 0.50-0.99 223,380 304,600 △81,220 1.00-2.49 268,850 410,270 △141,420 2.50-4.99 60,200 254,800 △194,600 5.00- 41,220 276,700 △235,480 貯蓄組合 28,500 0 28,500 出所 :1992年 の村落基本調査 による。 3)D村で は,同 じ父系同族集団 (グステ イ)内に組合貞 を限定 した場合 に,組合活動が比較的 うま くい く 傾 向 が観 察 され た。 29
東南 アジア研究 33巻1号
の4階層が借入超 である。貸付条件 は,1,000タカ (1タカ-約2.6円)の元金 につ き10カ月間 で
2
-3ma
und
(1maund
-37.3kg)の籾 を利息 として支払 うのが慣行である. 1ma
und
の籾 の市場価格 を180タカ とすれば,金利 は年43- 65%に も達す る高利 である。籾 を利息 とす るのは, 利息の受 け手である貧困層 に とって飯米確保 の意味があるか らであるが, いずれ にせ よ,村 の 下層が上層 に対 して高利貸 をしていることになる。 ここで少 な くとも2つの疑問が生 じるであろう。 第一 に,貸 し手である下層の資金源 は何か とい う点である。結論だ けを述べ ると, 1980年代 に進展 した管井戸濯概の導入 を契機 とす る農業雇用機会 の周年化 と賃金上昇であ り, また同時 に進行 した織工, タバ コ工場労働 をはじめ とす る非農業部門 にお ける安定的な賃金獲得機会 の 増加であった。4)こうしたなかで貧困層 の一部 は着実 に経済力 をつ け,貯蓄 を高利貸 に回す余 裕 さえ生 まれ るようになった と考 えられ る。 なお農外の賃金獲得機会の増加 は,エル シャ ド政 権期 に重視 された農村 イ ンフラ整備 に伴 う地域経済の活性化の結果 と考 えられ る。 第二 に,借 り手 の資金使途 は何か とい う点である。借入金 は,冠婚葬祭,子弟 の教育,消費, 土地購入 な ど多様 な使われ方 をす るが,一部 は生産資金 として投資 され る。 なかで も農業以外 の さまざまな事業主,つ まり漕概 ポンプの所有者,店舗主,織元,米 ・野菜 ・衣服 ・漁網 ・そ の他 日用品 を取扱 う小商人 な どの運転資金の需要が少 な くないのである。表3
は, これ らのい 表3 D村 にお ける小企業家 と村内金融 平均 村 内金融市場 における地位 世帯数 土地所有 2,000タカ以上 (エーカー) 貸 し手 貸借兼 借 り手 その他 の借 り手1) 港概 ポンプ所有者 店舗主/テーラー 織元 小商人 漁網 衣服 米 卵 /野 菜/果 実 その他 小企業家 計 非企業家 4 4 0 1 5 2 8 5 9 9 1 1 1 2 2 1 1 1 1 1 4 5.32 2 5 6 1 5 1.28 2 3 6 3 5 1.11 3 2 3 2 4 0.79 2 8 10 1 12 0.55 0 1 2 2 1 0.30 3 5 9 5 5 0.22 4 1 11 2 8 0.58 1 4 7 3 2 1.19 17(14%) 29(24%) 54(45%) 19(17%) 42(35%) 0.54 110(26%) 87(26%)130(31%) 92(22%) 44(11%) 合 計 538 0.69 127(24%)116(22%)184(34%)111(21%) 86(16%) 出所 :1992年夏の村落基本調査 による。 注 1)質地 (ボグラハニ)による借金 を除 く。 4)D村 ではグラ ミン銀行が ターゲ ッ トで ある所有耕地面積20アール未満 の貧困層 の約半分 を包摂 す るま で に至 っている。下層の富裕化の原因 としてグラ ミン銀行 の影響 も考 えられ るが,グラ ミン銀行 の会点 を除外 した うえで,表2と同 じ資金循環 の収支表 を作成 してみて も,や は り下位2階層の貸付超,上位 4階層の借入超 の現象がみ られた。藤田 :村落公共機能の強化 をめざして わ ば小企 業家 につ いて金 融 の状 況 を示 した もので あ る。小企 業家以外 の村 び とに比 較 した とき, 借 り手 の比 率 が高 い こ と,質 地以外 に よる短 期 金融 で2,000タカ以上 の借 金 の あ る者 の比 率 も格 段 に高 い こ とが 明 らか で あ ろ う。 小企 業家 の なか には下 層 の人 々 も少 な くないが,港概 ポ ンプ の所有 者,店舗 主,織 元 を中心 に上 層 の人 々が多 い とい う事 実 は否 めな い。 以上 の よ うな
D
村 の在来金融 の構 造 は,次 の よ うな こ とを示 唆 して い る。5)っ ま り,貧 困層 を 標 的 に した ロー ン ・プ ログ ラム を実施 した として も,貧 困層 の うち少 なか らぬ人 々 は, 自分 で 商 売 を始 め る よ りも,高利 賃 に回 して安 定 した利 子 所 得 を得 よ う とす るで あ ろ う。6)零 細 で あ って も,企業 を興 す こ とは リス クを負 うこ とで もあ り, やや特殊 な才覚 の あ る者 だ けに可能 な こ とだか らで あ る。貧 困層 が皆 , ロー ンを生産 的 に投 資 して 自己雇 用 を生 み出す と考 え るの はあ ま りに楽観 的 で あ ろ う。 現状 で は逆 に,村 の下 層 の人 々 に少 なか らぬ貯蓄 余 力 が生 まれ つつ あ る。 そ して そ うした貯 蓄 は,銀行 を通 さず直接 に高利 で村 の小企業家 に貸 し付 け られ て い る。政策 金融 の基本 的 な課 題 は,貧 困層 にロー ンを供与 す る こ とで はな く,
7)貧 困層 か ら貯 蓄 を動員 し,信 用創造 に よって 膨 らんだ資金 を低利 で企業家 に貸 し付 け,発 展 的 な経済循 環 を成立 させ る こ とで あ ろ う。企業 家 が育 て ば,雇 用が発生 し,貧 困層 に とって安 定 した賃 金獲得機会 が広 が るので あ る。 以上 みて きた よ うに,バ ング ラデ シュの農村 には,幾分 かの雇用機 会 の拡 大 と所得 の上昇 に 伴 って貯 蓄余 力 が生 まれ, それが再投 資 され る とい う良 い経済循 環 が生 まれ つつ あ る。 しか し なが ら, 良 い経 済循 環 の動 きは, い まだ加速 化 す るには至 って い ない よ うで あ る。 その原 因 は どこに求 め られ るので あ ろ うか。 われ われ はその制 約 要因が,道路 ,橋 梁,定期市 ,電化,学 校 な どの農村 イ シフラが まだ相 当 に未整備 な状 況 にあ る こ とと考 えてい る。 た とえば,道 が悪 いた め に市場 へ のア クセ スが悪 く, したが って投 資 して生産 して もあ ま り儲 らない とい った状 況 を想定 す れ ば よい。
8
)特 に洪水常襲 地域 の農村 で は,雨 期 にな る と人 や物 資 の移 動 が め っ き り少 な くな り,経済活 動 が全般 に低調 にな る傾 向が明 らか に存在 す る。 問題 の焦 点 は,農村 イ ンフラが,民 間投 資 で はな く公共投 資 に よって供 給 され る とい う点 に あ る。抽 象 的 にい えば, 公共 投 資 の不足 が私 的 な経済活 動 を低 調 に してい る とい う構造 に陥 っ 5)コミラ地域などでは,D村以上に下層が経済力をつけてきている地域が多 く存在する。D村は決 して例 外的ではないと考えられる。 6)これは現実に生起 している。また小企業家の活躍の場が殆 どないA村では,ローンを供与された貧困層 が高利貸 をする機会がな く,なかには借金地獄に陥っている者 もいる。 7)誤解のないよう付記 してお くと,本稿 は,貧困層へのローン・プログラムを否定 しているわけではない。 貧困層の中には事業を興 した くても資金が不足 している者や高利貸か らの借金に苦 しんでいる者 もい るであろう。したがって政策金融に副次的役割 として貧困対策があってもよいと考える。批判すべきは, 政策金融の基本的課恵 を忘れ,政府 もNGOも貧困対策 としての政策金融のみに目を奪われている現状 である。8)農村インフラの経済効果が高いことを実証 した代表的研究 として,Ahmed,R.andM.Hossain,Develo
p-mentalImpactofRuylalInfyiastniCtureinBangladesh,Washington,IFPRI,1990がある。
東南アジア研究 33巻1号 てい るのである。公共投資の不足 は,後述 の ように公共貯蓄 (税収)の不足 に起 因す るもので ある。 2.地方財政 の現状 と農村土木事業の同産点 公共投資 の不足 の原因 を探 るため,次 に地方財政 の現状 について簡単 にふれてお こう。バ ン グラデシュの地方行政制度 には,既 に述べたタナの下 に末端機関 としてユニオ ン
(
Uni
o
n)
が存 在 す る。人 口規模 は2- 3万程度 であるが,行政機関 としての体制 は きわめて貧弱であ り,公 選 の議長 と9
名 の議員 に秘書(
s
e
c
r
e
t
a
r
y)1
名 と警備員数名が加 わ っただ けの組織 であ る。 ユ ニオ ンの主た る財源 は,家屋税 としてのユニオ ン税 であるが,1
世帯 当た り平均年間1
0
タカ以 下で農業賃金 の半 日分 に及 ばない (推定 で所得 の0.2%未満)うえに滞納が多 く,A村 を含 む ミ ル ジャブ-ルユニオ ンで は,1992年度 に13万 タカの税収予定額 に対 して実際 には5万 タカ しか 徴収 され なか った。 したが って収入 の大半 は人件費 に消 え,9)ユニオ ンが実施 すべ き開発事業, とりわ け農村土木事業 のための予算 は殆 ど残 らない ことにな る。 一方, タナには,定期市 の ])-ス料 を中心 とす る比較 的豊 かな自主財源が存在 す るoA
村 を 含 む シェル プールタナの場合,年間8
0
-9
0
万 タカ程度が徴収 で き,その6
5
%
がLGED
を通 して 農村土木事業 に配分 され る。 しか しシェルプール タナには9つのユニオ ンが含 まれ るので,1 つのユニオ ン当た りで は6万 タカ程度 に しかな らない。実 は,外国援助資金 を中心 として中央 政府 か らタナに配分 され る農村土木事業費 は,1
ユニオ ン当た りに換算 して約1
5
0
万 タカ もあ り, これ に比較 すれ ば自主財源分 は微 々た る ものなのである。 表4
は, タナに配分 され る土木事業費 を事業別 に整理 し,1
ユニオ ン当た りの平均配分額 を 示 した ものであ る。この うちFFW
,
TR(
Te
s
tRe
l
i
e
f
)
,
RMP(
Ru
r
a
lMa
i
n
t
e
na
n
c
ePr
o
gr
a
mme
)
は救援省 の管轄,残 りは
LGED
の管轄 であ る。事業 の選定 は,ユニオ ン議長 も加 えたタナの委 貞会 で行 われ,LGED
の事業 については薪争入札 によって業者 に委託 され,FFW
,TR
につい ては事業 ごとに組織 され るPI
C(
Pr
o
j
e
c
tl
mpl
e
me
n
t
a
t
i
o
nCo
mmi
t
t
e
e
)
に任 され る。PI
C
の委 員 にはユニオ ンの議長や議員 をは じめ,学校教員や その他 の地元有力者が選 ばれ るのが一般的 である。RMP
は,ユニオ ンによって選定 された貧困世帯 の女性1
5
名 に,恒常的 に道路 の維持 ・ 管理 をさせ る事業 であ り,費用の100/.はユニオ ンが 自主財源 か ら賄 わね ばな らない。 問題 は,1
つのユニオ ン当た り年間約1
6
0
万 タカの事業費 で は,必要 な土木事業 を行 うには全 く不十分 であ り,一般 の村 び とか らみ る と殆 ど目にみ えない点である。村 内の小規模 なイ ンフ ラな どは永久 にカバー されない といって過言で はない。 こうして地方税 の軽微 す ぎる負担率10) 9)給与 の半分 を自主財源 か ら賄 うことになってい るユニオ ンの職貞 においては,給与 の遅滞 や未払 いが常 態化 してい る。筆者 の知 るあ るユニオ ンの秘書 は,過去4年分 の給与 が未払 いの まま退 官せ ざるをえな か った。藤 田 :村落公共機能 の強化 をめ ざ して 表 4 1ユニオ ン当た り農村土木事業 スキーム名 種類 事業数 総額 (タカ) タナ 自主財源分 構造物/土盛 0-1 6万 ADP 構 造 物 /土 盛 1- 2 20万 CARE(構造物) 構造物 1 10万 FFW 土盛 1 30万 TR 構造物/土盛 5-10 10万 RMP 土盛 5人1組 で3組 10万 GEP 構造物 (学校) 2 70万 注 :ボブラ県 シェル プール タナの最近 の事例。LGEDの タナ技 官 な どか らの 聴取 に よる。金額 は概 算。ADP(AnnualDevelopmentProgramme)は,
中央政府 か らタナへ の イ ンフラ整備 のた めの交付 金。CARE (Cooper a-tiveforAmericanReliefEverywhere)は,援助小麦 の管理 ・執行 を委 託 され てい るNGO。FFW (FoodForWorks)は,CAREの土盛 プ ロジ ェク ト。TR (TestRelief)は政府予算 の小 イ ンフラ事業。RMP (Rural MaintenanceProgramme)は既成道路 の維持 プログラム。GEP(General EducationProgramme)はBNP政権 発足後 の教育拡充特別 プ ログラム。
に端 を発 した地方財政 の貧困 は,農村 イ ンフラ整備 を阻害 し,経済発展 の陸路 となってい るの であ る。 さ らに,村落 レベルで も自発的 なイ ンフラ整備 や維持管理 は殆 ど行 われていない。上 述 のRMPは,かか る事態 を見かねた ドナーが,食糧援助 を絡 めて仕立 てた道路 の維持管理 のた めの特別 スキームなのである。 以上 の ように,村落 を1つの公共組織 とみなせ ば,村落 を含 むあ らゆる公共部門 に資金が集 まらず, また集 まって も公共部 門の制度 が脆弱 なために資金 の脱漏率が高 く,ll)ゆえに末端 の イ ンフラ整備 が遅々 として進 まず,農村住民 の私的経済活動が い まひ とつ発展 しないので ある。
Ⅰ
Ⅴ
新 た な農 村 開 発 と村 落 社 会 1.新 たな農村 開発の概念 組合方式の農村開発 は,貧困層 を組織 して研修 とロー ンを供与 す る ことに活動 の重点が あ り, それ は私経済 の発展 を支 えるべ き公共投資 の不足 に制約 されて,あ ま り効 果が あが っていない。 10)農村住民 が負担 す る国税 の主 な もの は,農地 にかか る地税 と間接税 で あ るが,前者 について は大幅 な免 税措置 が あ り,負担 は著 し く軽 い。国税 と地方税 をあわせ て も,農村住民 の租税 負担率 は所得比 でせ い ぜ い2--3% と推計 され る。 ll)PICには事業 に必要 なだ けの量 の小麦 が配分 され るが,関係省庁 の タナ官吏,国会議員,政党関係者, さ らにPICの委員 な どが一部 を着服 し,結局,小麦が不足 して予定 された土木事業が しば しば不完全 に 終 わ る。落札業者 への委託 の場合 も同様 の問題 が あ る。 33東南アジア研究 33巻1早 他方,公共投資 を担 う農村土木事業 は,公共財源 の不足 と非効 率 によ り,質量 とも全 く不十分 な状況 にある。 実 は,この2つの事柄 は同根 で ある。バ ングラデ シュの農村 開発 に関係 してい る大半 の者が, 私経済 にのみ 目を奪われ,公共性 を軽視 してい るか らであ る。 貧 しいか ら研修 だ補助金だ ロー ンの徳政令 だ と叫ぶの も然 り,公共部門で汚職 が蔓延 す るの も然 り,納税 を渋 った り誰 も村 内 の道 の維持管理 す らしないの もまた然 りで ある。村落 レベルか ら国家 レベル に至 るまで,公共 部門 を制度 的 ・財政的 に育 て ようとす る動 きが出て こないた めに,膨大 な援助 の流入 に もかか わ らず, それ らが短期 的 な私経済 の改善 に消尽 され,効果が あが りに くいので ある。 かか る底 な し沼か ら抜 け出せ る有効 な手 だてはない ものだ ろうか。 こうした問題意識 の下で,本研究協力 で企画 した1つのプ ログラムは, とりあえず村落 レベ ルの小規模 なイ ンフラ整 備事業 を,地元 の資源 を少 しで も動貞 しなが ら実施 してい くこ とで あった。村 び との意識 のなかで も, イ ンフラの不備が 自分 た ちの経済活動 の最大 の制約要因 と なってい ることはよ く認識 されている。 突 っ込 んで議論 すれ ば, ロー ンは要 らない, イ ンフラ が よ くなれ ば政府 の援助 な しに勝手 に商売がで きる と考 える人 も多 いのであ る。 ただ し,待 っ ていて も政府 の事業が来 るはず はない と諦観 しつつ, イ ンフラは政府 の仕事 で 自分達 には責任 がない と突 き放 してい るのが,大方の村 び との現実 なのであ る。 小規模 なイ ンフラ整備 を村 でや る とすれ ば,従来 の ような協 同組合 で は対応 で きないであろ う。緩やかで あって も全村組織 が必要であ る。 リーダー はい るのだ ろうか。 出役 を課 すな り拠 出金 を募 るな り何 で もよいが, いか に資源 の動貞 が可能 になるのだ ろ うか。以上 の ような問題 を考 える ヒン トは当然,村落社会 のなか にあ るはずである。 2.村 落の公共蔑能 一般 に村 内 に強力 な リーダー シップが存在せず, 「村」が見 えに くいバ ングラデ シュの村落社 会 において も, マタボール と呼 ばれ る複数 の有力者 を中心 に した一定 の公共活動 は存在 す る. 1つ は宗教 で ある。 イスラム寺院であるモス クは,土地や建物 こそ篤志家 の寄進 による場合 が多 いが,維持管理や運営 については,関係者全員 の拠 出金 で成 り立 っているのが普通 であ る。 モスクに農地が寄進 され, その小作料 で運営費が賄 われ る例 もあ る。 た とえばA村 で は,モス ク名義 の農地が
8
0
アール に も及ぶ。 イスラム教 の学校 マ ドラサの設立 や運営 について も同様 である。A村 の場合, ダ ッカ在住 の 村 出身者 の拠 出額 が群 を抜 いて多 か った とはいえ,村 び とか ら拠 出金 を集 める ことによって立 派 なマ ドラサが半分 まで完成 してい る。また1986年 か ら現在 まで に50アールの農地が寄進 され, その小作料収入が土地登記費 な どマ ドラサ設立 のた めの必要経費 に充 て られてい る。 注 目すべ きはマ ドラサ運動場 で ある。 マ ドラサ に運動場 が必要 と認 めたA村 のマ タボールた藤田 :村落公共機能の強化をめざして ち は,村 び とか ら土地 や拠 出金 を徴収 して運動場 の用地 買収 に奔走 したので あ る。表5に示 し た通 り,村 内か らだ けで も総 額 7万 タカ以上 の巨額 の資金 (土地O.52エ ー カー の金額換 算分約 5万 タカ を含 む)が動 員 され た。因 み にA村 か ら徴収 され るユニオ ン税 は,年 間1,800タカ にす ぎない。比較 にな らない ほ ど多 くの貯蓄 が村 とい う公共部 門 に動員 された こ とにな る。12) 宗教 とは若 干離 れた活動領 域 において も一 定 の公共機能 が存 在 す る。 結婚 式, 葬式,犠牲祭 な どを共 同で行 う単位 で あ るシ ョマズ (サ ム) が その よい例 で あ り, 聖職 者 へ のお布施 な どの 運 営費 は全 員 の拠 出金 で賄 われ る.A村 に は罰金基金
(
j
on'
ma
na
f
und)
とい う制度 もあ る。シ ョ マズの戒律 を破 る暴 力行 為 な どに対 して社会 的 に課 され る罰 金 を基金 に繰 り入 れ,結婚 式用 の 大 きな釜 や天幕 の購入費 な どに充 ててい る。 13) 宗教色 を完全 に離 れた世俗 領域 で も, あ る程度 の公共機能 は存在 す る。 青 年 クラブ は, サ ッ カー,村 演劇 な どス ポー ツ文化活 動 の実施 主体 で あ り,村 び とか ら拠 出金 を集 めて必 要経費 を 賄 って い る。 また タナ の 自主財源 として重 要 な定期市 も,最初 は村 び との イニ シアテ ィブ な し には成立 しない。 D村 で は1986年 に,A村 で も1993年 に,村 の有 力者 が周辺地 域 の有 力者 や商 人 と連絡 調整 の労 を とって成立 に こぎつ けた。 こうしてで きた定期市 は, 自主 的 な定期市委 員 会 が最 低 限 の管理 を行 いつ つ一定程 度発 展 す る と,政府 が接収 し, 開発 資金 を投下 す る ととも に徴税 を開始 す る こ とにな る。 繰 り返 しにな るが,以 上 の よ うな村落社 会 の公共機能 は通 常,複 数 のマ タボール に よって担 表5 A村のマ ドラサ運動場への寄付金 土地所有階層 世帯数 寄付額 (タカ :土地 も金額換算 して加算) 総額 1世帯 (エーカー) 0 1 100 200 1,000 2,000 平均額 ∼99 -199 -999-1,999 -0 102 60 21 19 2 3,675 36 0.01-0.49 34 22 4 7 1 1,192 35 0.50-0.99 14 6 3 2 1 2 4,919 351 1.00-2.49 25 8 2 4 6 2 3 13,479 539 2.50-4.99 17 8 1 7 1 21,607 1,271 5.00- 17 7 6 4 27,129 1,596 合 計 209 111 30 33 10 15 10 72,001 345 出所:A村での聞き取 りによる。 12)マ ドラサは,一定の条件 を満たした後に政府公認の小学校に昇格する場合が多いから,純粋の宗教領域 から外れる。このことは,A村のヒンドゥー教徒の一部 も運動場買収のための拠出に参加 したことから もわかる。 13)罰金基金が世俗的な開発投資に向けられたこともあり,われわれを驚かせた。あるNGOの非組織教育 のための小学校が村に導入された とき,建物の建設費の不足分 として,基金か ら2,500タカが拠出され た。 3年半にわたってNGOから支払われる月200タカの借料の後半42カ月分 (総額8,400タカ)は,す べてこの基金に入れ られることになっている。 35東南 アジア研究 33巻1号 われてい る。 マタボール は,典型 的 には父系同族集団 を代表 す る有力者 であ り, また はシ ョマ ズの有力者 である。 マタボール には上層農 の出身者が多 く, また教育 レベルの高 い知識人 で も ある場合が多 い。マタボール とい うと,貧 しい村 び とを搾取 し,せ っか くの外 国援助 も独 占 し て私腹 を肥 す とい う悪 いイメー ジで語 られ ることが多 い。 「村」が見 えに くい, つ ま り村社会 の 内部規制が弱 いバ ングラデシュで は,そ うしたイメー ジ もあなが ち根拠 のない ことで はないが, しか し同時 に彼 らは,上 にみた ような自分 自身 には直接利益 にな らない村落 の公共活動 に,時 間や労力 を割 いている。 それ は少 な くとも経済的 には無報酬 である。問題 は, どうすれ ば こう したマタボールたちの積極的 な側面 を引 き出す ことがで きるかであろう。
Ⅴ
アクシ ョン ・プログラムによる試行
あ ま り強力 とはいえないが, マタボール を軸 に宗教や冠婚葬祭 を中心 に した一定 の公共活動 が営 まれている村落社会。 ときには小学校 や定期市 といったイ ンフラ整備 に大 きな役割 を果た す ことさえある。 この機能 をうま く引 き出 して,系統 だ った 「開発」 に役立 て ること, た とえ ば村 の道路 の修復 や 日常的 な維持 な どに活用す ることはで きない ものだ ろうか。 本研究協力で は全村組織 の創設 を指針 としてお り,D村 で は従来 か らあ る組織 を改組 した形 で,A
村 で は全 く新 しい組織が,村落 開発委員会 (略称VC)
とい う名 で設置 された。 どち らも 厳格 な規則 や手続 きに則 ってで はな く,
D
村 で は何 とな く根 回 しして皆 の事後承諾 を得 る形 で, A村 で もご く自然 に組織 された。十数名程度 の委貞 は村人 に認知 されてい るマタボールであ る。V
Cの会合 で は村 の さまざまな問題 が議題 に上 るが,自然 に,村全体 に関係 す る公共性 の高 い 問題 が中心 になってい く。 その最た る ものがイ ンフラ整備 で ある。 イ ンフラ整備 の要望 は,村 び との希望や意 向 を受 け,
V
Cの場 で議論 され集約 され る。この過程 で はプロジェク トは傍観者 であ り,せ いぜ い助言者 に とどまる.バ ングラデ シュで は一般 に, プロジェク トが来 た らすべ てがタダで供与 され る と考 える傾 向が強 いので,V
C もまず プロジェク トに事業 の立案 か ら実 施,財政負担 のすべてを依頼 して くることが多 いが,それ はプロジェク トが断わ る。
V
C はユニ オ ンに掛 け合 うが通常 ラチが あかない。 プロジェク トは この時点でV
Cにある提案 を出す。た とえば土盛 り作業 を村がや る とい う条 件 で,土管 な ど必要資材 をプロジェク トが負担す る といった提案 であ る。数万 タカの事業費 の うち,1万 タカをV
Cが責任 を もって村 か ら徴収 す る といった提案 で もよい。双 方が合意 に達す れ ば, い よい よ作業 の開始 である。 「実験」は これ まで,D村 で初年度 と第 2年度 の 2回, A村 で は第 2年度 に 1回行 われた。 D 村 (総戸数538戸)で は,初年度 に村 と幹線道路 を結ぶ約3キロメー トルの道 の補修事業 (総工 費約11万 タカ)を,村が8,500タカ程度負担す る とい う条件 で,第 2年度 には村 内道路 の数 カ所藤 田 :村落公共機能 の強化 をめざ して の新設 ・補修事業 (同上約7万 タカ) を,村 が土地 の無償 に よる収 用 を行 い, かつ約 1万 タカ の労働 雇 用費 を負担 す る とい う条件 で, またA村 (総戸数209戸 )で は村 内道路 の補修事業 (同 上約 1万5千 タカ) を,村 が土盛 り作業 (約6千 タカに相 当) に責任 を もつ とい う条件 で, それ ぞれ行 われた。 プ ログラム は, こうした試 みが村 び とに とって全 く馴染 みのない ものだ った こ とを考慮 す る と, か な り成功裡 に終 わ った とい って よいが,経過 を見守 ったわれわれ の実感 か らすれ ば, 蕊 共事業 に対 す る村 び とか らの資源 の動員 は想像以上 に困難 で あ る。 マ タボールが面子 を賭 けて 必死 になって も, マ ドラサの運動場 にあれだ けの資源 を提供 した同 じ村 び とた ちが,村 内の道 の補修 のた めには重 い腰 を容易 に上 げ よう とは しないので あ る。重要 な こ とは, こうした事業 を繰 り返 し実施 し,辛抱強 く村落機能 の強化 を図 って い くこ とで あ ろ う。
ⅤⅠ
まとめ バ ングラデ シュの農村経済, ひいて は経済全体 の停 滞 の主 な原因 は,私 的投資 の不 足 を もた らす私経済 の貧 困 よ りも,公共部 門の未熟 に起 因 す る公共投資 の不足 にあ る と考 え られ る。公 共部 門の未熟 は,徴税能力 の低 さ と汚職 の蔓延 に象徴 され る一連 の根 深 い問題 で あ る。 この間 題 は,村落 レベ ルで も貫徹 してい る。村落 にお いて,構成員 の合意 に従 って資源 を動 員 して そ れ を公共 的 に投 資 してい くとい う自主管理 の機構 が殆 どみ られず,勢 い外部 か らの資源 の流入 を期待 す る。 そ して, ときに流入 す る僅 か な外部 資源 は,私経済 の一時的 な改善 に向 け られ る が ゆ えに,職烈 な争 い にな り足 の引 っ張 りあい に終始 す る ことに もな りかね ない0 農村 開発 とは受益者 がモ ノを得 るので はな く, モ ノを出す ことを通 じて実施 してい くこ とで あ る, あ るい は農村 開発 とは私経済 を直接 に援助 して もらうことで はな く,私経 済 を側面 か ら 支 える公共経 済 を構 成員全員 で発展 させ てい くことで あ る。 こうした考 え方が少 しで も定着 し て くれ ば, マ タボールの積極 的 な機能 を引 き出す ことはそ う困難 な こ とで はないで あ ろう。 農村 土 木事業 は,失対事 業 としてで はな くイ ンフラ整備 を第 一 義 的 な 目的 とす べ きで あ ろ う。14)そ して地 方税 を増 や し, よ り多 くの割合 をイ ンフラ事業 として地元 に還元 すべ きで あ ろ う。 それ には,地 方行政 の末端単位 としてのユニオ ンの行政機能 の強化 とい う中長期 的 な課題 を避 けて通 る ことはで きない。 しか し同時 に村落 レベル において も, イ ンフラ整備 とい う具体 的 な仕事 を通 じて根気 よ く,村 とい う名 の公共部 門の育成 を手掛 けてい くべ きで あ ろ う。 それ は村 で手 に負 える範 囲 の小規模 なイ ンフラ事業 で な けれ ばな らない。 14)バ ングラデ シュ政府 は,救援省 か らLGEDへの イ ンフラ予算 の移管 を 目下進 めてい る ところで あ り,CARE (CooperativeforAmericanReliefEverywhere)などのNGOも,こうした政府の動きに同
調 してい る。
東南 アジア研究 33巻1号 衰 6 農村土木事業の事業規模 注 :ボグラ県 シェルプール タナの最近 の事例。LGEDのタナ技官 な どか らの聴取 による。小麦,金 額,雇用量 は概算。PICはプロジェク ト実施委貞会(ProjectlmplementationCommittee)の略。 表
6
は,現行 の農村土木事業の1
事業 当た り規模 を示 した ものである。FFW
な どは村 の実施 能力 を超 えているので, さしあた り標的 となるのはTRである。 現行で最 も 「ば らまき」性 の 強いTRを,逆 に村落か ら資源 を動員す るための手段 として位置づ け,小麦 を原資 にしてマ ッ チ ング ・ファン ド方式の 「契約」 を村落 と結 び,共同で小規模 なイ ンフラ整備 をすればよい。 TRを管轄す る政府事業体 (望む ら くは強化 されたユニオ ン)が どの ような提案 を村落 に提示す るか は,多少の失敗 は覚悟 の うえで,試行錯誤 で相互 に学習 していけばよい. ドナーは, こう して生 まれ変わったTRに資金援助 をす る。以上が さしあた り現実離れ した夢物語である とす れば,とりあえず,生 まれ変わ ったTRに似た ような事業 を行 うNGOに対 し,資金援助 をして もよいであろう。15) こうして「公共部門」を育成 しつつ,農村 イ ンフラの整備が進 めば,貧困層 を標的 にした ロー ン ・プログラムの有効性 はよ り一層増 す ことであろう。 こうして農村 開発 は全体 として体 系 立 った もの となろう。15)CAREのほか,RDRS (RangpurDinajpurRuralService),CARITASが早 くか らイ ンフラ整備 を手 掛 けてい るが,村落 レベルの資源動貞 を標的 に して活動 しているNGOは存在 しない。RDRSでの聞 き 取 りによれ ば, ドナーは,即効性 がな く貧困層 に対 す る効果がみ えに くい とい う理 由で,小規模 なイ ン