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健康的な自己愛と重要な他者との自己対象体験との関連
-健康的な自己愛尺度の開発を通して-人 間 教 育 専 攻
臨床心理士養成コース
金 川 泰 子
1.問題と目的
現代社会は物質面が豊かになる一方で、社会
の不確実性が増し,価値観の多様性が進んでい
る(川崎, 2011)。また,大淵 (2003)は, ["現
代社会に生きる我々が経験する悩みや戸惑いの
ほとんど,失望も,嫉妬も,恨みも,そして恐
れも,そのほとんどが自己愛に由来している」
と指摘している。こうしたことから自己愛に焦
点を当てた研究をすることは意義があると考え
る。
これまでの自己愛の研究は、病的な自己愛に
ついて検討されたものがほとんど、であった。よ
って、本研究では自己愛の健康的な部分につい
て研究する。 Kohut(1971)の精神的健康の定
義は、確固とした自己(缶m selDが、その才
能と技能を自由自在に使用し、そして愛するこ
とと働くことをうまくやり遂げることができる
能力をもっているということであると述べてい
る。上地・宮下 (2004)は、健康的な自己愛の
持ち主は、他人との関わりを楽しむことができ、
人間的に冷たい感じを周りの者に与える事も少
なく、自己愛的な所は見られでも、愛すべきと
ころも兼ね備えており、彼らの自己愛はユーモ
アや知恵の形で、人を惹きつける魅力となると
述べている。よって、本研究では、健康的な自
己愛を、「他人との関わりを楽しんでおり、自分
自身をよくd思っており、ある程度、自己主張で
きること、自己を価値あるものだ、と思っている
指導教員 葛 西 真 記 子
こと」と定義する。
健康的な自己愛を持つためには、適切な養育
者または他者からの応答が必要であることが
Kohut (1971)によって述べられている。 Wolf
(2001)によると、自己の自己対象体験とは,
特定の人物や対象,象徴との関係'性によって生
じる主観的体験であると述べられている。
これまでの研究では健康的な自己愛を持って
いる者に焦点を当て、養育者や重要な他者から
の影響について実証的に調査した研究はほとん
ど見られなかった。よって、健康的な自己愛の
形成に関する考察を深めることを目的とした。
2
.
方法
(1)研隣1:質問紙調査
健康的な自己愛尺度作成のため、大学院生
193名を対象に質問紙調査を実施した。上地・
宮下 (2005)が作成した自己愛的脆弱性尺度
(NV8)と筆者が考えた健康的な自己愛の定義
とKohut(1971)、 Wolf(1988)、上地・宮下
(1991)の健康的な自己愛についての記述を基
に健康的な自己愛尺度を作成した。妥当性を検
討するために健康的な自己愛尺度と関連がある
と考えられる平石 (1993)が作成した自己肯定
意尺度の対自己領域、 Rosenberg (1965)の
自尊感情尺度の山本・松井・山成 (1982)によ
る邦訳版,精神健康状態表簡易版 (8・WHO-J)
の3つの尺度を使用した。
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(
2
)
研究
2
:面接調査
研究1の調査協力者の中から協力を募り、大
学院生 10名を対象に半構造化面接を実施した。
面接内容については養育者と重要な他者との自
己対象体験について聴取するために、「養育者や
重要な他者からの影響Jについて質問した。
3
.
結果と考察
(1)研究1:質問紙調査
健康的な自己愛尺度の因子分析の結果、 3因
子構造であり、項目の内容から下位尺度は「人
間関係積極性J["目標積極性J["自己承認」と命
名した。 α係数の算出からある程度信頼性が得
られる結果となった。また、妥当性を検討する
ために健康的な自己愛と関連があると考えられ
る自己肯定意識尺度と自尊感情尺度と精神健康
状態表簡易版との相関係数の算出をしたところ、
健康的な自己愛尺度の下位尺度である「自己承
認」と自己肯定意識尺度の下位尺度の「目標実
現的態度」と「自己受容j と自尊感情尺度の間
で有意な相関関係が見られなかった。よって、
「自己承認」は、十分に健康的な自己愛を測る
ことはできていない可能性が高い。しかし、他
の2つの健康的な自己愛の下位尺度とその他の
尺度では有意な正の相関関係が見られた。この
ことから、ある程度、信頼性と妥当性が示され、
健康的な自己愛が測れる尺度が作成された。
(
2
)
研究
2
:面接調査
健康的な自己愛尺度の合計得点の平均点は
70.23点だ、った。平均点を参考に面接の事例を
高得点群、中程度得点群、低得点群の3つに分
けた。
健康的な自己愛尺度の得点が低いと親との自
己対象体験の不全と考えられる体験が多くなる
ことが推測される結果が得られた。重要な他者
やその他の対象との自己対象体験については、
対象は違うが、各得点群で鏡映・理想化・双子
自己対象体験がみられた。健康的な自己愛高得
点群の1事例のみで対立自己対象体験がみられ
た。自己対象体験の不全については得点に関わ
らず、高得点群で2事例、中程度得点群で1事
例、低得点群で2事例みられた。よって、健康
的な自己愛尺度の得点での明らかな違いはみら
れなかった。また、特徴的であったこととして、
低得点群では作家やインターネットなど実際に
関わったことのない実在の対象が挙げられた。
健康的な自己愛尺度の大半が人との関わりがあ
ることを前提とした項目であるため周囲の人と
関わる時間が多いと健康的な自己愛の得点が高
くなり、そうではない場合健康的な自己愛の得
点が低くなっている可能性がある。面接協力者
の中でも詳しく語られた高得点群の事例と低得
点群の事例について比較すると、両親の関わり
方や両親との自己対象体験の不全を補う重要な
他者との自己対象体験の有無で違いがみられ、
健康的な自己愛の得点と自己対象体験の関連が
支持される結果ーとなっていると考えられる。
(
3
)
今後の課題
健康的な自己愛尺度の下位尺度である「自己
承認」の項目をより健康的な自己愛を測ること
のできる項目に修正し、検討し直す必要性があ
る。また、研究 2の面接調査で協力者により、
語りの量にばらつきがあったため、語りの量や
質が均等になるよう質問項目を熟考し、面接に
おける対応を適切にできるよう対策を練るべき
であった。また、研究の協力者が大学院生であ
るため、健康度が高いことが考えられ、健康的
な自己愛の得点にも大きな差はみられてないた
め、大学ではない場所で協力者を募ることがさ
らなる健康的な自己愛と自己対象体験との関連
をみることができると考える。