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第21回 肺塞栓症研究会 ディベート1 静脈血栓塞栓症予防 アスピリンは是か非か あくまでピンチヒッターでしかないアスピリン 藤田 悟 いて実証された報告は Pulmonary Embolism Preven- はじめに 6) tion(pep)試験 と The Warfarin and Aspir

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はじめに

アスピリンは,シクロオキシゲナーゼ(cyclooxyge-nase:COX)-1 を阻害することで血小板の機能を抑制し 抗血栓作用を発揮する.したがって,アスピリンは,冠 動脈などを閉塞する血小板に富む動脈系血栓に対しては 有効性が実証されている1).しかし,深部静脈に発生す る凝固因子に富む静脈系血栓に対しては有効性が低いと 考えられており,今まで静脈血栓塞栓症(venous throm-boembolism:VTE)に対する予防は主に抗凝固薬が使用 されてきた. また,アスピリンには投与しても期待通りの効果が得 られない「アスピリン抵抗性」の問題がある.アスピリン の作用機序は多因子的あるいは複合的であるため,その 薬効には個人差が存在する.最近,日本人の 4 人に 1 人 が「アスピリン抵抗性」の疑いがあるという報告2)がなさ れており,さらなる解明が必要である. 近年,整形外科周術期における VTE 予防に関して, 米国整形外科学会(American Academy of Orthopaedic Surgeons)ガイドライン3)

および ACCP(American Col-lege of Chest Physicians)ガイドライン第 9 版4)

におい て,アスピリンは抗凝固薬と同等に VTE 予防薬として 推奨され注目を集めている.一方,日本整形外科学会静 脈血栓塞栓症予防ガイドライン5)においては,日本人の エビデンスがないことからアスピリンは推奨されていな いが,日本国内においても VTE 予防に対するアスピリ ンの是非が盛んに議論されるようになった. 本稿は,第 21 回肺塞栓症研究会で企画されたディベー ト「静脈血栓塞栓症予防:アスピリンは是か非か」におい て,アスピリン否定論者の立場から議論した内容を解説 する.

アスピリンとプラセボの比較

アスピリンの VTE 予防効果がプラセボとの比較にお

いて実証された報告は,Pulmonary Embolism Preven-tion(PEP)試験6)

と The Warfarin and Aspirin(WARFA-SA)試験7)

のみである. PEP 試 験6)

は,Antiplatelet Trialistsʼ Collaboration (APCT)が行ったメタ解析(meta-analysis)において,周 術期におけるアスピリンの VTE 予防効果が認められた [深 部 静 脈 血 栓 症 (deep venous thrombosis:DVT) で 31〜49%,肺血栓塞栓症(pulmonary embolism:PE)で 51〜71%のリスク減少効果が認められた8).]ことから, APTC の結果を再確認するために行われた Randomized Controlled Trial(RCT)である.対象は,人工股関節全置 換術(total hip arthroplasty:THA)および人工膝関節全 置換術(total knee arthroplasty:TKA)4,088 例と股関節 骨折手術(hip fracture surgery:HFS)13,356 例であり, アスピリン 160 mg あるいはプラセボを術後 35 日間投 与し,症候性 VTE の発生が比較された.その結果,アス ピリンは HFS において有意に VTE を減少させたが(ア スピリン群 1.6% vs プラセボ群 2.5%,P=0.0003), THA および TKA においてはプラセボと差がなかった (アスピリン群 1.1% vs プラセボ群 1.4%)(図 1).一方, 致死性出血の発生は両群で差がなかった(アスピリン群 13 例 vs プラセボ群 15 例)が,輸血を要する出血はアス ピリン群がプラセボ群と比べて 1,000 例当たり 6 例の増 加を認めた(P=0.04). WARFASA 試験7) は,特発性の VTE 患者 402 例に対 して 6〜18 カ月のワルファリン治療後に,アスピリン 100mg あるいはプラセボを 2 年間投与し,VTE の再発 が比較された.その結果,アスピリンは有意に VTE の 再発を減少させたが(アスピリン群 6.6% vs プラセボ群 11.2%,P=0.02),大 出 血 は 各 群 1 例 ず つ (ど ち ら も 0.5%)で差がなかった(図 2). これらの報告は,それぞれ弱点も指摘されている. PEP 試験では,アスピリンの有効性は HFS において証 明されたものの THA および TKA では失敗に終わって

第21回 肺塞栓症研究会

藤田 悟

静脈血栓塞栓症予防:アスピリンは是か非か

あくまでピンチヒッターでしかないアスピリン

ディベート1

宝塚第一病院整形外科

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いる.また,対象の 18%の症例にヘパリン,26%の症例 に 低 分 子 量 ヘ パ リ ン (low molecular weight heparin: LMWH)が併用されており,それらの結果への影響が否 定できない.WARFASA 試験では,症例数が 402 例と 少ないため結果の再現性が危惧される.WARFASA 試 験の 8 カ月後に発表された ASPIRE 試験9) では,WAR-FASA 試験の約 2 倍の症例数(822 例)と追跡期間(平均 37.2 カ月)で同様の試験が行われたが,アスピリンの有 効性は証明できなかった(アスピリン群 4.8% vs プラセ ボ群 6.5%,P=0.09).

アスピリンと抗凝固薬の比較:整形外科周術

アスピリンと抗凝固薬を直接の比較した RCT はな く,報告の多くはメタ解析である.ACCP ガイドライン 第 6 版10)において,THA および TKA に対するメタ解析 が行われ,無症候性と症候性を合わせた DVT 発生率で 各予防法の有効性を比較すると,アスピリンは弾性ス トッキングと同程度の有効性しかなく,抗凝固薬や間欠 的空気圧迫法と比べると有効性が低いことが報告された (表 1). 症候性VTE発生率(%) 2.5 1.1 1.6 1.4 股関節骨折手術 THAおよびTKA アスピリン プラセボ 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 P=0.0003 NS VTE:静脈血栓塞栓症,THA:人工股関節全置換術, TKA:人工膝関節全置換術 図 1 PEP 試験 (文献 6)より改変) 11.2 0.5 6.6 0.5 大出血 アスピリン プラセボ P=0.02 NS VTE再発 VTE:静脈血栓塞栓症 (%) 0 2 4 6 8 10 12 図 2 WARFASA 試験 (文献 7)より改変)

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52 30.6(29-33) ― 54.2(50-58) THA RRR(%) 発生率(95% CI) DVT(%) 表 1 人工関節置換術後の各予防法における DVT 予防効果 33 43.2(37-50) 低用量ヘパリン 37 40.7(33-48) 静脈フットポンプ 間欠的空気圧迫法 低分子量ヘパリン プラセボ/コントロール DVT:深部静脈血栓症,THA:人工股関節全置換術,TKA:人工膝関節全置換術, CI:信頼区間,RRR:相対リスク減少率 (文献 10)より改変) 56 28.2(20-38) ― 64.3(57-71) プラセボ/コントロール TKA 6 60.7(52-69) 弾性ストッキング 13 56.0(51-61) アスピリン 27 46.8(44-49) 用量調節ワルファリン 59 22.1(20-24) 用量調節ワルファリン 63 20.3(17-24) 間欠的空気圧迫法 70 16.1(15-17) 低分子量ヘパリン 74 14.0(10-19) 用量調節ヘパリン 23 41.7(36-48) 弾性ストッキング 26 40.2(35-45) アスピリン 45 30.1(27-33) 低用量ヘパリン 1.33% 0.13% 低分子量ヘパリ ン 2.57% 0.22% アスピリン 1.79% 0.52% プラセボ 非創部 出血 致死性 PE 予防薬 1.33% 症候性 DVT 表 2 症候性 VTE に限定したメタ解析 8726 2.26% 0.47% 1.02% 8718 全出血 創部 出血 PE 症例数 0.94% 1.28% 0.96% VTE:静脈血栓塞栓症,DVT:深部静脈血栓症,PE:肺血栓塞栓症 (文献 11)より改変) 0.47% 0.30% フォンダパリヌ クス 0.04% 0.40% 2.01% 4518 ワルファリン 2.38% 1.91% 0.80% 3616 3.66% 2.92% 0.45% 9269 3.03% 0.46% 0.62% 2.57% 1.49% 2.24%

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一方,主要整形外科手術を対象に症候性 VTE に限定 したメタ解析を行うと,アスピリンはワルファリン,低 分子量ヘパリン,およびフォンダパリヌクスと比べ,症 候性 DVT,PE,致死性 PE の発生率で差がなく,創部出 血の発生率が低いことが報告された(表 2)11).ただし, アスピリンはプラセボと比べると非創部出血が多く発生 しており(表 2 における非創部出血は,アスピリンとプ ラセボのみが比較可能),その 80%以上のイベントが輸 血を要しない消化管出血であった. 北米のデータベースを利用した 9 万例を超える TKA の 大 規 模 解 析 が,ICD-9-GM (International Classifica-tion of Disease,Ninth Revision,Clinical ModificaClassifica-tion)分 類を用いて行われた.その結果,アスピリンはワルファ リンと比べ VTE が有意に少なく,注射剤(LMWH およ びフォンダパリヌクス)と差がなかった(表 3)12).また, 副作用に関してもアスピリンはワルファリンおよび注射 剤と比べ,創部感染,創部出血,および死亡率の点で差 がなかった.すなわち,アスピリンは周術期の症候性 VTE に限定して評価すると,抗凝固薬と変わらない有 効性のあることが示唆されるが,周術期の出血リスクに おいても抗凝固薬とあまり差がないようである.

アスピリンと抗凝固薬の比較:VTE2 次予防

この領域においてもアスピリンと抗凝固薬を直接比較 した RCT はない.アスピリン7,9)あるいは新規経口抗凝 固薬(novel oral anticoagulants:NOAC)と呼ばれるリ バーロキサバン13),アピキサバン14),およびダビガトラ ン15)のプラセボを対照とした臨床試験において,実薬群 1% 3% ワルファリン 0.6% 1.6% アスピリン 創部 出血 近 位 部 D V T もしくは PE 予防薬 症例数 表 3 北米のデータベースによる大規模解析 0.2% 12% 2.3% 死亡率 創部 感染 VTE 37198(40%) 51923(55%) 4719(5%) 注射剤:低分子量ヘパリンおよびフォンダパリヌクス VTE:静脈血栓塞栓症,THA:人工股関節全置換術,TKA:人工膝関節全置換術 (文献 12)より改変) 1% 2.4% 注射剤* 3.1% 12% 0.1% 0.1% 12% 4% 3.2%/年 1.7% アピキサバン 2.5mg 1.1%/年 4.8% 1.0%/年 6.6% アスピリン 大出血およ び臨床的に 重要な出血 実薬群の VTE 再発 率 予防薬 WARFASA7) 試験 表 4 VTE の 2 次予防 5.6% 80.7% 26.2% 6.5% 41.1% 11.2% プラセボに 対するリス ク減少率 プラセボ群 の VTE 再 発率 RE-SONATE15) ASPIRE9) VTE:静脈血栓塞栓症 (文献 7),9),13-15)より改変) 5.6%/6〜 18 カ月 0.4% ダビガトラン 6.1%/6〜 12 カ月 81.7% 1.3% 7.1% E I N S T E I N Extension13) リバーロキサ バン 4.3%/年 80.7% 1.7% 8.8% A M P L F Y Extension14) アピキサバン 5.0mg 92.9%

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の有効性(プラセボに対するリスク減少率)および出血合 併症(大出血および臨床的に重要な出血の 1 年間あるい は試験期間における発生率)を表 4 にまとめた.アスピ リ ン の 有 効 性 は 26.2〜41.1% で あ る の に 対 し て, N O A C の 有 効 性 は 80.7〜92.9% で あ る.す な わ ち, NOAC では VTE の再発を 80%以上抑制できるのに比 べ,アスピリンでは 30〜40%しか抑制できない.アスピ リンは,NOAC と比べて出血合併症は少ないが(アスピ リン 1.0〜1.1% vs NOAC 3.2〜6.1%),有効性は大き く劣っている.

考察

今までの報告をすべて検討しても,VTE 予防に対す るアスピリンの一貫した有効性・安全性は証明されてい ない.アスピリンの薬理作用を考えると,VTE 予防に対 してある程度の効果があるのは間違いないが,安定した 有効性は期待できない.やはり,「アスピリン抵抗性」の 関与があるのかもしれない. 周術期の VTE 予防に関して,症候性 VTE に限定す ればアスピリンは抗凝固薬と変わらない有効性があるこ とが示唆されるが,アスピリンを周術期に使用すれば出 血リスクにおいても抗凝固薬と差がなくなってしまう可 能性がある.有効性も出血リスクも同等ならば,周術期 にはエビデンスが豊富で安定した有効性が期待できる抗 凝固薬が第一選択薬と考えられる. VTE2 次予防に関して,アスピリンは NOAC と比べ ると出血リスクは少ないが,有効性は大きく劣っている. したがって,出血リスクの高い患者を除けば,VTE2 次 予防における第一選択薬は NOAC と考えられる.

結語

アスピリンは,VTE に対する安定した予防効果はな く,出血リスクも決して少なくない.アスピリンは,抗 凝固薬が使用できない患者(腎不全や肝不全のある患者, 出血リスクの高い患者,あるいは NOAC の適応のない 患者など)に限り,使用を検討すべきである. 文 献

1) Antithrombotic Trialistʼ Collaboration:Collaborative meta-analysis of randomized trials of antiplatelet therapy for prevention of death, myocardial infarction, and stroke in high risk patients. BMJ 2002;324:71-86

2) Ikeda T, Taniguchi R, Watanabe S, et al:Characteriza-tion of the antiplatelet effect of aspirin at enrollment and after 2―year follow-up in a real clinical setting in Japan. Circ J 2010;74:1227-1235

3) American Academy of Orthopaedic Surgeons:Prevent-ing venous thromboembolic disease in patients undergo-ing elective hip and knee arthroplasty. Evidence-based guideline and evidence report. http://www. aaos. org/ research/guidelines/VTE/VTE_guideline.asp

4) Falck-Ytter Y, Francis CW, Johanson NA, et al: Prevention of VTE in orthopedic surgery patients. Antithrombotic therapy and prevention of thrombosis, 9th

ed:American College of Chest Physicians evidence-based clinical practice guidelines. CHEST 2012;141 (Suppl):e278s-e325s

5) 日本整形外科学会肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血 栓塞栓症)予防ガイドライン改訂委員会・編:日本整形外 科学会静脈血栓塞栓症予防ガイドライン.東京:南江堂; 2008.p. 20

6) Pulmonary Embolism Prevention(PEP)Trial Collabora-tive Group:Prevention of pulmonary embolism and deep vein thrombosis with low dose aspirin:pulmonary embolism prevention(PEP)trial. Lancet 2000;355:1295-1302

7) Bacattini C, Agnelli G, Schenone A, et al:Aspirin for preventing recurrence of venous thromboembolism. N Engl J Med 2012;366:1959-1967

8) Antiplatelet Trialistʼ Collaboration:Collaborative over-view of randomized trials of antiplatelet therapy-Ⅲ: Reduction in venous thrombosis and pulmonary embo-lism by antiplatelet prophylaxis among surgical and medical patients. BMJ 1994;308:235-246

9) Brighton TA, Eikelboon JW, Mann K, et al:Low-dose aspirin for preventing recurrent venous thromboembo-lism. N Engl J Med 2012;367:1979-87

10) Geerts WH, Heit JA, Clagett GP, et al:Prevention of venous thromboembolism. CHEST 2001;119:132S-175S

11) Brown GA:Venous thromboembolism prophylaxis after major orthopaedic surgery:a pooled analysis of randomized controlled trials. J Arthroplasty 2009;24:77-83

12) Bozic KJ, Vail TP, Pekow PS, et al:Dose aspirin have a role in venous thromboembolism prophylaxis in total knee arthroplasty patients? J Arthroplasty 2010;25: 1053-1060

13) Bauersachs R, Berkowitz SD, Brenner B, et al:Oral rivaroxaban for symptomatic venous thromboembolism. N Engl J Med 2010;363:2499-2510

14) Agnelli G, Buller HR, Cohen A, et al:Apixaban for extended treatment of venous thromboembolism. N Engl J Med 2012;368:699-708

15) Schulman S, Kearon C, Kakker AK, et al:Extended use of dabigatran, warfarin, or placebo in venous throm-boembolism. N Engl J Med 2013;368:709-718

参照

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