『特定事業用資産の買換え特例』を理解するために 【Aさんの悩み】 Aさんは、親の代からやっている駅前の事務所(土地・建物は自己所有)を経営していますが、「事 務所を売却してくれないか」という話を持ちかけられた。駅前を大規模に再開発する話が持ち上がっ ているようです。 現在、所有している土地・建物の時価(売却価格)は2億円、相続で取得したのでいくらで買った かは不明です。税金が心配なので、売却する前に税理士に相談しにいきました。 税理士:「いくらで買ったかは不明の場合には、売却価格の5%で買った、とみなされます。」 Aさん:「つまり2億円の5%、1000 万円で買ったことになる。えっ、1億 9000 万円が売却益とみな されるの?」 税理士:「その通りです。勿論、長期所有ですので、所得税・住民税あわせて 20%だけ税金が発生しま す。つまり、 譲渡所得=譲渡価格2億円-概算取得費2億円×5555%%%%=1億 9000 万円 所得税・住民税=譲渡所得1億 9000 万円×長期長期長期長期ののの税率の税率税率 20税率202020%%%%=3800 万円 となります。」 Aさん:「現金2億円を受け取って、税金 3800 万円取られて、手元に残るのは1億 6200 万円か。多い ような、少ないような。」 税理士:「いやいや、ここで一工夫があります。税金 3800 万円を大幅に減らす方法が。」 【税金を減らす方法】 Aさん:「ばれたらヤバイ話じゃないでしょうね。」 税理士:「当然です。事業用資産の買換特例事業用資産の買換特例事業用資産の買換特例事業用資産の買換特例というものですが、手に入れた2億円で別の事業用不動 産、例えば賃貸用マンションを買うのです。」 Aさん:「それでどうして税金が減るのですか?」 税理士:「税務署が『売ったんじゃない、買い換えたのだ売ったんじゃない、買い換えたのだ売ったんじゃない、買い換えたのだ売ったんじゃない、買い換えたのだ』という、まるで子供の屁理屈のような言い 分を認めるんです。売ったんじゃないから譲渡所得に対する課税は発生しない、という特例 です。」 Aさん:「うれしい話ですが、そもそも何で税務署はそんな子供の屁理屈を認めるんですか?」 税理士:「色々理由はあります。不動産売買を活性化させた方が結局税収が増える、というのが一番だ とは思うのですが、Aさんにとっては、買い換え特例は減税ではなく、課税の繰り延べ課税の繰り延べ課税の繰り延べ課税の繰り延べであ
Aさん:「何ですか、課税の繰り延べ課税の繰り延べ課税の繰り延べ課税の繰り延べって? 減税とは違うのですか?」 税理士:「はい、買換特例には、根本的には税金は減らす効果はなく、あくまで納税時期を遅らせるこ納税時期を遅らせるこ納税時期を遅らせるこ納税時期を遅らせるこ としかできない としかできない としかできない としかできないのです。」 【課税の繰り延べの意味】 税理士:「今お持ちの駅前にある不動産を2億円で売却し、郊外の賃貸用マンションを2億円で購入し たとしましょう。この後、2億円で購入した賃貸用マンションを、直後に2億円で売却した としましょう。税金はいくらかかると思います?」 駅前不動産 買換え 賃貸用 マンション 売却 現金 取得費 1000 万円
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取得費2億円⇒
2億円 Aさん:「えっ、2億円で買ったマンションを2億円で売るのですから、1円も儲かりませんよね。だ から税金はゼロなんじゃないですか?」 税理士:「買い換え特例を適用しないで、駅前不動産を売却したときに税金 3800 万円を支払っていれ ばその通りで税金は発生しません。 ところが買い換え特例を適用した場合、1000100010001000 万円相当の駅前不動産を賃貸用マンションに買万円相当の駅前不動産を賃貸用マンションに買万円相当の駅前不動産を賃貸用マンションに買万円相当の駅前不動産を賃貸用マンションに買 い換えたのだから、賃貸用マンションは い換えたのだから、賃貸用マンションは い換えたのだから、賃貸用マンションは い換えたのだから、賃貸用マンションは 1000100010001000 万円で手に入れたとみなされる万円で手に入れたとみなされる万円で手に入れたとみなされるのです。これを万円で手に入れたとみなされる 税務上の取得費といいます。」 Aさん:「すると、1000100010001000 万円で手に入れたマンションを2億円で売るのですから、1億万円で手に入れたマンションを2億円で売るのですから、1億万円で手に入れたマンションを2億円で売るのですから、1億万円で手に入れたマンションを2億円で売るのですから、1億 900090009000 万円儲か9000万円儲か万円儲か万円儲か ったとみなされる ったとみなされる ったとみなされる ったとみなされるのですか?」 税理士:「その通り。」 Aさん:「では、賃貸用マンションを売却しなければ、ずっと税金は払わずにすむのですね?」 税理士:「そのはずですが、売却しなくても建物部分には税金が発生します。」 Aさん:「どうして?」 この時、いくら税金がかかる?税理士:「賃貸用マンション総額2億円のうち、土地は1億 5000 万円(75%)、建物は 5000 万円 (25%)だったとしましょう。買い換え特例を適用しない場合、建物 5000 万円は減価償却 で、不動産所得の必要経費に算入でき、所得税が軽減されます。」 Aさん:「それが?」 税理士:「買い換え特例を適用した場合、土地は 750 万円、建物は 250 万円とみなされますので、減価 償却に計上できるのは 5000 万円ではなく、たった 250 万円となります。」 Aさん:「でも、土地は減価償却しませんよね?」 税理士:「そうです。土地の部分は『売らない限り』税金を払う必要はありません。」 【圧縮限度率 80%】 Aさん:「だいたい話はわかってきました。もう一度整理すると、今、所有している事務所を2億円で 売却して、2億円の賃貸用マンションを購入すれば、譲渡所得はゼロとみなされるのです ね。」 税理士:「いや、残念ながらそうはいかないんです。」 Aさん:「譲渡所得はゼロにはならないんですか。」 税理士:「ええ、もしゼロにできるのであれば『圧縮限度率は 100%』ということになるのですが、現 実には『圧縮限度率は 80%』どまりなんです。」 Aさん:「結局、どうなるんです?」 税理士:「『圧縮限度率が 100%』ならば、売却益(譲渡所得)1億 9000 万円全額が繰り延べられるの ですが、『圧縮限度率は 80%』なので売却益(譲渡所得)1億 9000 万円の 80%、1億 5200 万円だけ繰り延べられ、残りの 20%、3800 万円だけ譲渡所得が発生したものとみなされ、所 得税・住民税が課税されます。即ち、3800 万円×税率 20%=760 万円だけ税金をはらわねば なりません。」 Aさん:「特例を使わなければ税金は 3800 万円、特例を使えば税金は 760 万円、5分の1になる。」 税理士:「圧縮限度率 80%の効果です。 ただし、くれぐれも所詮、課税時期の繰り延べに過ぎないことを忘れないでください。次に 売却するまでに、総額 3800 万円の税金を負担することに違いはありません。」
【買換資産の金額】 Aさん:「ところで、買い換える賃貸用マンションは2億円ちょうどでないといけないの?」 税理士:「そんなことはありません。ただし、多すぎる場合と、少ない場合には注意が必要です。」 Aさん:「どうして?」 税理士:「まず、多すぎる場合です。具体的には買い換える土地(賃貸マンション)の面積が、譲渡す る土地(駅前不動産)の面積の5倍以内5倍以内5倍以内5倍以内でないと特例は適用できません。」 Aさん:「そりゃまたどうして?」 税理士:「新規に取得する土地が大きすぎて、買い換えとはみなせない買い換えとはみなせない買い換えとはみなせない買い換えとはみなせないということでしょう。税務署に してみれば、駅前不動産の売却は、新規取得の資金獲得のための付け足しみたいなもんだろ うと。」 Aさん:「なるほど、だから金額ではなくて面積が基準なんだ。」 税理士:「次に少ない場合です。所有不動産を2億円で売却しておきながら、次に買った物件が1億円 だったとしたら、税務署はこうみなすんです。『所有不動産の半分だけ買い換えし、残りの半 分は売却したのだ』と。売却したとみなされる部分からは所得税・住民税が発生します。」 Aさん:「それはそうだね。極わずかの不動産を新規取得して『全額買い換えた』と認められるわけは ないよね。」 Aさん:「そうそう、大きすぎるのではなく、ほんのちょっとだけ大きい場合にはどうなるの。」 税理士:「例えば賃貸用マンションが2億 2000 万円の場合ですね。その場合、 『駅前不動産2億円の買い換え』+『現金 2000 万円で不動産購入』 とみなされます。『現金 2000 万円で不動産購入』で譲渡所得が発生するはずもなく、2億円 ちょうどの物件を取得した場合と同じ税金になります。」
19 特定事業用資産の買換えの特例の活用 譲渡資産の譲渡価額 2億円 譲渡資産の取得費 不明(概算取得費 1000 万円) 貸しビルの解体撤去費 600 万円 譲渡に要した仲介手数料 500 万円 貸しビルの未償却残高 900 万円(取り壊す) 買換資産の取得価額 2億 5000 万円 本問の場合、買換資産の金額の方が大きいので、 『譲渡資産2億円の買い換え』+『現金 5000 万円で不動産購入』 以下、2億円の買い換え部分について考えます。 まず、特例が適用されない場合を考えましょう。 譲渡価額(売却価額) +20,000 万円 取得費(購入価額) ▲1,000 万円 貸しビルの取壊し損失 ▲900 万円 解体撤去費 ▲600 万円 仲介手数料 ▲500 万円 ▲3,000 万円 譲渡所得(売却益) +17,000 万円 圧縮限度率が 80%なのでしか認められないので、2つの部分に分けましょう。 80%部分 20%部分 譲渡価額(売却価額) +20,000 万円 +16,000 万円 +4,000 万円 取得費等 ▲3,000 万円 ▲2,400 万円 ▲600 万円 譲渡所得(売却益) +17,000 万円 +13,600 万円 +3,400 万円 80%部分は「売ったのではない」ということで、譲渡所得がゼロになるように取得費が、そのまま 譲渡価額になります。 80%部分 20%部分 譲渡価額(売却価額) +2,400 万円 +4,000 万円 取得費等 ▲2,400 万円 ▲600 万円 譲渡所得(売却益) 0 万円 +3,400 万円
よって、特例を適用した場合の税金は 所得税・住民税=3,400 万円×20%=680 万円 になります。 新規に取得した買換資産の税務上の取得費は 買い換え部分(2,400 万円+4,000 万円)+現金購入部分 5,000 万円=11,400 万円 となります。 2,400 万円に関しては「もともとの資産 3000 万円のうち 80%部分は売却しなかった(買い換えただ け)」とイメージしてください。