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良性発作性頭位めまい症に対するSemont 法の手技

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Academic year: 2021

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はじめに 後半規管型良性発作性頭位めまい症(以下,p-BPPV)に対する治療法としては,我 が 国 で は Epley法1) が最も広く用いられている。しかし筆 者(國弘)は,1995年からこれまで,p-BPPV に 対しては専ら Semont 法による治療を行ってき た。深い理由があったわけではない。1993年から 1995年までの間,筆者が留学していたミュンヘン 大学医学部神経内科(主任:Thomas Brandt)で 教わった治療法が Epley 法ではなく Semont 法で あったというだけの理由であった。帰国後,当院 耳鼻咽喉科外来の診察室のベッドの配置が Epley 法よりも Semont 法を行うのに適していたという こともその後長く筆者が Semont 法を好んで用い るひとつの理由となった。 筆者が行っている Semont 法の手技は Brandt の著書である“Vertigo. Its Multisensory Disorder 2 nd Edition”2) に記述されているものである。我 が国で“Semont 法”と呼ぶ場合には,Brandt が

良性発作性頭位めまい症に対する Semont 法の手技

國弘 幸伸

1)

・中山 明峰

2)

Semont’s maneuver for treatment of benign paroxysmal positional vertigo

Takanobu Kunihiro

1)

, Meiho Nakayama

2)

1)

Department of Otolaryngology, School of Medicine, Keio University

2)

Good Sleep Center, Nagoya City Hospital

Along with Epley’s canalith repositioning maneuver, the Semont maneuver is also

rec-ognized as an effective physical therapy for benign paroxysmal positional vertigo. However,

the details of this maneuver are not well known, presumably because of the obscurity of

the original description by Semont et al. In Japan, the “Semont liberatory maneuver,” as

described by Brandt, is accepted as the “original” Semont maneuver. However, the two

maneuvers are not identical. The aim of this paper was to reproduce the original procedure

of Semont’s as presented by A. Semont himself at the 10

th

Nagoya Otorhinolaryngological

Forum held in Nagoya, Japan, in 2006. This lecture clarified some obscure points in the

original paper; however, the procedure described at the forum was not a detailed

reproduc-tion of the original Semont maneuver, but was somewhat more complicated. Also of note,

Semont decisively denied the cupulolithiasis theory and explained the usefulness of his

ma-neuver according to the canalolithiasis theory.

Key words: benign paroxysmal positional vertigo, physical therapy, Semont maneuver,

cu-pulolithiasis, canalolithiasis

1)慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科

2)名古屋市立大学医学部睡眠医療センター

(2)

この手技を指すと理解されている。この手技は 1988年に Semont らによって発表された手技(原

法)3)

と は い く つ か の 点 で 異 な る。そ の た め, Brandtが記述している手技を“modified Semont

図1 筆者らの手技

この手技は Brandt の著書2)に記載されているものと同じである(Semont 法―Brandt 変法)。

a b c d e f

(3)

maneuver”と呼び,Semont らの原法とは異なる ことを明示している論文もある4)5) 。しかし論文に よっては,単に“Semont maneuver”と記述して いる6) 。こういった呼称の混乱は,Semont らの 原著論文のなかの手技の記述に不明確な箇所があ ることが一因ではないかと推測される。 本稿の目的は,2006年に開かれた第10回愛知耳 鼻咽喉科フォーラムにおいて Semont 法の考案者 である Semont 氏自身が解説した同法の手技を紹 介することである。この講演の場で Semont 氏が 解説した手技と1998年の論文に記述されている手 技との間に違いがないかどうかという点について も検証する。 筆者らの手技(図1) 上述したように,筆者らが用いているのは“Ver-tigo. Its Multisensory Disorder 2 nd Edition”2)

に 記述されている手技である。手順は以下の通りで ある。患側は右側であるとして解説する。(この 手技は,1988年の論文に記述されている手技とも Semont氏の講演内容とも異なる。したがって本 稿では,以下,「Semont 法―Brandt 変法」と記述 する。) 1.患者をベッドに座らせる。(図1a) 2.座位のまま頭部を45度左に捻転する。(図1 b) 3.頭部を捻転させたまま上体を右側に倒す。頭 部はできるかぎり背屈させる。(つまり顎を高 く上げる)この頭位を3分間維持する。(図1 c) 4.上記の頭位を維持した状態で上体をすばやく 左方に倒す。頭部はできる限り前屈させる。(つ まりできる限り顎を引く)この頭位を3分間維 持する。(図1d) 5.頭部を45度左に捻転したまま座位に戻す。(図 1e) 6.頭部を正面に戻す。(図1f) <解説> Epley法1) は重力を利用して後半規管内の粒子 (耳石)を卵形嚢に排出することを意図した治療 法である。これに対して Semont 法は重力に加え て遠心力を利用した治療法といえる。Semont 法― Brandt変法の特徴は患側の後半規管に平行な平 面上において腰を支点とした上体の回転運動を行 うという点である。後半規管は矢状面と約45度の 角度をなす。ステップ2(図1b)において頭部 を45度健側に捻転させるのは後半規管を上体の回 転面と平行にするためである。ステップ3(図1 c)により後半規管内の粒子(耳石)は後半規管 膨大部から遠ざかる方向に移動する(図2a)。 ステップ4での注意点は上体をすばやく反対側に 倒すことである。遠心力のために後半規管内の粒 子(耳石)は後半規管壁に押しつけられその位置 にとどまる(図2a)。回転速度が不十分である と,重力によって粒子(耳石)は膨大部方向に戻 されてしまう(図2b)。ステップ3,4,5(図 1c,d,e)で出現する眼振の回旋成分の向き a.成功図 b.失敗図 図2 筆者らの手技(Semont 法―Brandt 変法)の有効性の理論的背景 成功の鍵となるのはステップ4(図1d)である。この動作が緩慢であると遠心力 が不十分であるため後半規管内の粒子がクプラ方向に戻ってしまう。

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は検者から見て常に反時計方向である。逆方向の 眼振が出現した場合には後半規管内の粒子(耳 石)が後半規管膨大部方向に戻っていることが示 唆され治療は失敗と判断される。 Semont 法原法3) の手技 1988年に発表された Semont らの論文3) でも上 体をまず患側に倒すことは同じである。しかし原 法では頭部を正面に向けたまま上体を倒す。そし て頭部を軽く床方向に傾ける。もしこの頭位変換 運動によってめまいも眼振も生じない場合には頭 a b c d e f

(5)

部を90°捻転して45°健側方向に向け,後半規管を 地面に対して垂直にする。そして眼振消失後2∼ 3分間この頭位を維持する。次いで上体を素早く 患側に倒す。(この際の頭部の向きは明記されて いないが,前後の文脈から,頭部の向きは上体正 面であろうと推定される。)もしめまいも眼振も 生じなければ顔面をゆっくり患側方向に90°捻転 して45°上方(天井方向)に向けたあと頭部の向 きを素早く患側方向に回転させ45°下方(床方向) に向ける。そしてこの頭位を最低5分間維持す る。そしてゆっくり,ゆっくり上体を座位に戻す。 (この際の頭部の向きについての記載はない。) Semont 氏が講演した手技(Semont 法変法) (図3) これは第10回愛知耳鼻咽喉科フォーラムにおい て Semont 氏自身が解説した手技である。講演内 容を撮影したビデオ(提供:大鵬薬品株式会社) の内容を再現する。同様に,患側は右側であると して解説がなされた。(本稿では,以下,Semont 法変法と呼ぶ。) 1.患者をベッド上に座らせ正面を向かせる(図 g h i j k 図3 Semont 氏が講演した手技

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る。この姿勢を眼振が消失するまで維持する。 (両腕を胸に当てて交差させ,以後の頭位変換 運動に際して上肢が邪魔にならないようにす る。)(図3f) 7.頭部を元の方向(上体の正面方向)に戻す(図 3g)。 8.上体を左方に倒す。(図3h) 9.頭部を45度左方に捻転し顎を引く。この姿勢 を15分間維持する(図3i)。 10.顎を引いたまま座位に戻す。(ただし頭部は 上体の正面方向に向けておく。)(図3j) 11.顎を上げ顔面を正面に向ける(図3k)。 <解説> Semont法変法も腰を支点として上体を回転さ せるという点は共通である。しかし Brandt 変法 にも Semont 法原法にもステップ2とステップ3 はない。これらのステップは後半規管内の粒子を 一旦,後半規管膨大部に集めて凝集させることが 目的であると,講演のなかで Semont 氏は解説し ていた。またステップ6とステップ8は重力を利 用して後半規管内の粒子をできる限り膨大部から 遠ざかる方向に移動させることを意図したもので ある。Brandt 変法では患側の後半規管に平行な 平面で上体を回転させるのに対して Semont 法原 法と Semont 法変法では上体の回転面と患側の後 半規管とは45°の角度をなす。頭位変換後に頭部 を捻転し患側の後半規管を垂直に向ける。 コメント Semont法は後半規管クプラ結石症説7)8) に基づ いた治療法であるとよく言われる。これは,1988 年の Semont らの論文のなかに“One of us(A. Semont)suggested a maneuver that would free the cupula using the addition of the pressure of the endolymph and the inertia of the ‘heavy mate-rials’.”という記述のためかもしれない。“The re-が正しいかを判断しかねていた可能性がある。し かし本論文の全体の記述からは,やはり Semont 法(本稿のなかでは Semont 法原法)は後半規管 クプラ結石症説に立脚した治療法として提唱され たと考えるのが妥当であろう。Brandt は著書の なかで後半規管内結石症説に基づいて Semont 法―Brandt 変法を説明しているが,一般的には, Semont法(原法および Brandt 変法)は後半規管 クプラ結石症説に基づいた治療法として取り扱わ れることが多い6)10) 。(1989年に Semont がフラン ス語で発表した論文11) では,後半規管クプラ結石 症説に立脚して自身の治療法を解説している。) しかし第10回愛知耳鼻咽喉科フォーラムにおい て Semont 氏は,後半規管結石症説に基づいて Semont法(本 稿 で は,Semont 法 変 法)を 解 説 した。この講演の中で氏は後半規管クプラ結石症 には一言も言及しなかった。筆者らが Semont 氏 に対して,Semont 法は後半規管クプラ結石症説 に基づく治療法ではないのかと尋ねたところ,氏 は「誤解である」と明確に否定した。しかし1988 年に Semont 氏らが発表した論文の記述内容との 整合性については説明しなかった。後半規管内結 石症説に基づいた代表的な治療法である Epley 法 の考案者である Epley 自身も,1980年に発表した 自身の論文のなかで後半規管クプラ結石症説を完 全 に 否 定 し て い る わ け で は な い12) 。古 典 的 な BPPV(p-BPPV)の責任病巣が後半規管であると いう点については1980年代に既に合意が得られて いたものの,1979年に Hall ら9) が提唱した後半規 管内結石症説がまだ定説となっていたわけではな かったのであろう。 本稿のなかでもうひとつ述べておきたいのは, 一般に p-BPPV は後半規管内に耳石が迷入するこ とによって引き起こされると考えているが,講演 の中で Semont 氏は,p-BPPV の原因となってい

(7)

る後半規管内の物質は叩けば容易に分解するもの (つまり何かの残渣(“debris”))であり,それは 高分子のムコ多糖類の塊であっても(感覚)細胞 などの壊死片であっても炭酸カルシウムの結晶で あってもいいとの立場に立って解説を行ったとい う点である。そして,それらの残渣(debris)が 蛋白質で結合し塊となったものが p-BPPV を引き 起こす原因物質であると述べた。p-BPPV の発症 から日が経つにつれてめまい発作の性状が徐々に 変化するのは,この塊のなかの蛋白質の量が減少 しこの塊の(後半規管壁への)粘着度が変わるた めであると説明した。p-BPPV の自然緩解と再発 の機序についても残渣とこれらの残渣を結合する 蛋白質とを関連付けながら説明した。Semont 氏 は,講演の中で,この塊を“clot”と呼んでいた。 (本稿では,“粒子”という言葉を用いた。) 筆者らは Semont 法は後半規管クプラ結石症ば かりでなく管結石症にもある程度有効ではないか と考えている。その理由はステップ1(図1a) にある。上体をすばやく健側に倒すことによって 患者の頭部がベッドにぶつかった際にその衝撃で クプラに付着している粒子が脱落する可能性があ る(図3)。また右後頭部をベッドにつけた頭位 を維持することにより,重力のために粒子がクプ ラから脱落することも期待できる。Epley 法無効 例のなかに Semont 法が有効である症例があった との報告があるが13),このような症例では後半規 管結石症とクプラ結石症とが合併していた可能性 がある。この報告の中では Epley 法も Semont 法 も無効であった12症例に Head tilt−Hopping を行 ったあと Epley 法を施行したところ7例で症状が 寛解したことも述べられている13) 。この事実も p-BPPVの難治例の中に後半規管クブラ結石症混在 例があることを示唆しているのではなかろうか。 ただし,筆者らは Semont 法が Epey 法よりも優 れていると主張しているわけではない。Semont 法の長所と短所については既に報告した14) 。 ま と め p-BPPVの治療法としては,我が国では Epley 法が最も広く用いられている。Semont 法はあま り知られていない。第10回愛知耳鼻咽喉科フォー ラムにおいて本法の考案者である Semont 氏自身 が解説した手技を解説した。また,原著論文のな かでの Semont 法の手技の記述内容と筆者らが用 いている手技についても解説した。

1)Epley JM: The canalith repositioning proce-dure : for treatment of benign paroxysmal positional vertigo. Otolaryngol Head Neck Surg 107: 399―404,1992

2)Brandt T: Benign paroxysmal positioning ver-tigo, in Vertigo. Its Multisensory Syndrome. 2 nd ed. Springer-Verlag, London, 1999 3) Semont A, Freyss G, Vitte E: Curing the

BPPV with a liberatory maneuver. Adv Otor-hinolaryngol 42: 290―293, 1988

4)Cohen HS, Jerabek J: Efficacy of treatments for posterior canal benign paroxysmal posi-tional vertigo. Laryngoscope 109: 584―590, 1999

5)Radtke A, von Brevern M, Tiel-Wilck K, et al.: Self-treatment of benign paroxysmal posi-tional vertigo: Semont maneuver vs Epley procedure. Neurology 63: 150―152, 2004 6)Soto Varela A, Bartual Magro J, Santos Perez

S, et al.: Benign paroxysmal vertigo: a com-parative prospective study of the efficacy of Brandt and Daroff exercises, Semont and Epley maneuver. Rev Laryngol Otol Rhinol (Bord) 122: 179―183, 2001

7) Schuknecht HF: Cupulolithiasis. Arch Oto-laryngol 90: 765―778, 1969

8) Schuknecht HF, Ruby RR: Cupulolithiasis. Adv Otorhinolaryngol 20: 434―443, 1973 9)Hall SF, Ruby RR, McClure JA: The

mechan-ics of benign paroxysmal vertigo. J Otolaryn-gol 8: 151―158, 1979

10)Herdman SJ, Tusa RJ, Zee DS, et al.: Single treatment approaches to benign paroxysmal positional vertigo. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 119: 450―454, 1993

11)Semont A, Freyss G, Vitte E: Vertige posi-tionnel paroxystique benin et manoeuvre lib-eratoire. Ann Otolaryngol Chir Cervicofac 106: 473―476, 1989

12)Epley JM: New Dimensions of benign parox-ysmal positional vertigo. Otolaryngol Head Neck Surg 88: 599―605, 1980

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