2014/11/07
1. 弾性体力学の基礎
1.1 変位と歪
直交直線座標系(Cartesian coordinate system (x1,x2,x3))を仮定して,変形していない状態の 連続体のある粒子(その座標を X とする)に着目しよう.この連続体に力等が加わる と変形が起こり,もともとXにあった粒子は,時刻tには別の位置x(X,t),
( ,t )
x X X u, (1)
に移動する(Fig.1).ここで,uは変位(displacement)と呼ばれる.uを表す空間座標とし てその変形前の位置X を選ぶことも,変形後の位置 x を選ぶこともできよう.前者の
立場をLagrange 表示,後者の表示をEuler表示と呼ぶ.本講義では,Euler表示を用い
ることにする.
次に,変形前の状態において,点 P(X)とそれに近接する点 Q(X+dX)を考える.変形 後にこれらの点は点P’(x)とQ’(x+dx)に変位したとしよう(Fig.1).
( ,t )
d d ( d ,t )
x X u x
x x X X u x x . (2)
この場合,dXとdxは,次の関係がある.
j j
d d d d dx
x
x X u D x u
. (3)ここで,Dを対称な成分
e
ijと反対称な成分
ijで書き下す.i
ij ij
ij j
D u e
x
. (4)即ち
j j
i i
ij ij
j i i j
u u
u u
1 1
e ,
2 x x 2 x x
. (5)この
e
は歪テンソルと呼ばれ,Fig.1. 変形に伴う点の移動と各ベクトルの定義.
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e
ij e
ji, (6)であることから独立な成分は6個となる.一方,
ijは,剛体的回転を表すものとなる.1.2 弾性体に働く力
一般に弾性体には,2種類の力が働く.一つは,ある面の単位面積当たりに働く力(応力,
T),もう一つは,単位体積当たりに働く力(体積力,f)である.法線ベクトルがnである
面の応力は,Fig.2の微小四面体での力の釣り合いを考えると
j j
( ) ( )n
T n T i . (7)
ここで,iiをxi軸に対応した単位ベクトルとし,次式で応力テンソルを定義すると(Fig.3),
ij
T ( )
j i
i (8)Fig.2. 微小四面体での平衡.
Fig.3. 応力テンソルの定義.
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従って,(7)式は以下のように書くことができる.
i ji j
T ( )
n n
(9)応力テンソルは,,連続体が静止状態にあるとして,この時に微小立方体を考えると,
各座標軸(xi)に関するモーメントの釣り合いから,
ji ij
(10)となる.この対称性から応力テンソルで独立な成分は6成分となる.
1.3 弾性体の運動方程式
同様に微小体積(直方体)に働く力の釣り合いを考えると,弾性体の運動法的式は,上 記の応力及び体積力を含めて,以下のように書き表すことができる.
2 i ji 2 i
j
u f
t x
. (11)また,応力テンソルの対称性から,(11)式は
2 i ij 2 i
j
u f
t x
, (12)とも書くことができ,こちらの表現の方が一般的に用いられている.また,(12)式を次のよ うに表現することもある.
i ,tt ij , j i
u f
, (13)ここで,
2 i ij
i ,tt ij , j
2
j
u u ,
t x
, (14)1.4構成式
運動方程式(11)或いは(12)を解くには,応力と変形を結びつける関係式(構成式という)
が必要である.線形弾性体の場合には,応力が歪と次の関係で結び付けられる(一般化さ れたHookeの法則).
ij
C e
ijkl kl
. (15)ここで,
C
ijklは弾性定数テンソルと呼ばれるものであり,以下の対称性を持つ.2014/11/07
ijkl jikl
C C
,C
ijkl C
ijlk,及びC
ijkl C
klij (16)結果的に
C
ijklは21個の独立な成分を持つことができる.弾性体が等方であるならば,2つ の定数で書き表すことができる.ijkl ij kl ik jl il jk
C ( )
(17) ここで,とはLame定数と呼ばれる.この場合の構成式は,j i k
ij ij
i j k
u u u
( )
x x x
, (18)となる.
1.5境界条件
運動方程式の解は,境界条件を適切の仮定することのよって,初めて一意的に求まるも のである.弾性体の場合,境界にある粒子は変形後もその境界に存在する.従って,境界 条件は,本来Lagrange表示を用いて変形後の境界の位置(deformed boundary)で与えられ るべきである.Euler表示で問題を解く場合には,変形前の境界の位置(undeformed boundary) での条件に引き直す必要がある.実際,この方が条件を与え易い.多くの場合,両者は 1 次の微少量の項までで等しくなる.しかし,自己重力のある場合などでは,両者の境界条 件は異なる.
1.5.1固体-固体の不連続面
ここで,不連続面とは,密度或いは弾性定数が変わる面のことで,この面において変位 の不連続がない場合(縫いついだ境界,例えばMoho面,660km不連続面など)を考えよ う.自己重力を考えない場合,変形前の状態における不連続面上のある点
X
0が,変形によって
x X
0 u
に動いたとしよう.変形後の変位と応力は,一次の微少量まで取ると,0 0
( ) ( ) ~ ( ) u x u X u u X
M M
ij
( )
ij(
0) ~
ij(
0)
x X u X
(19) まず,この面上で変位は連続でなければならない.即ち,一次の微小量の範囲までで
u ( )
i x
u (
i X0)
0
. (20) また,この面に働く応力も連続でなければならない.その法線ベクトルをnとすると,2014/11/07
M
ij
( )n
j ij( )n
j0
x
X0
. (21)となる.
1.5.2固体-流体の境界面
この場合,境界面に沿った変位成分のずれが起こりうる,しかし,境界面に垂直な方向 では変位が連続である.即ち,
u (
i X0)n
i
0
. (22) 応力についての境界条件は,固体-固体の場合と同じくM
ij
( )n
j ij( )n
j0
x
X0
(23)である.但し,流体が非粘性であると,その剪断応力は0となることに注意しよう.
1.8変位ポテンシャルと波動方程式
媒質が等方弾性体の場合の弾性定数(式(17))を用いると,運動方程式は変位のみによっ て以下のように書ける.
i j , ji i , jj i
u ( )u u f
. (24) これをベクトルで表現すると,( 2 ) ( ) ( )
u
u
u
f . (25) ここで,uを変位ポテンシャル,を用いて次の形で表す.
u ψ. (26)
ただし,
ψ0
(27)体積力がない場合(f=0),(25)式は,以下の形に帰着する.
2 2 2
2 2 2
with α = 2
with =
ψ ψ
. (28)
(28)式は,波動方程式(Wave equation)とよばれるものでに対応する部分をP波,に対応 する部分をS波と呼ぶ.また,上式の,は,それぞれP及びS波の位相速度である.
1.9 Fourier変換
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波動現象を扱うのであるから,(28)式の解は振動的であると仮定することは妥当であろう.
そこで,解がexp(-it)の形を持つとしよう.任意の関数 f(t)はこのような振動の重ね合わせ として表すことができる.そこで,Fourier変換を以下のように定義する.
F( )
f ( t )e dt
i t . (29)また,Fourier逆変換は以下のようになる.
1
i tf ( t ) F( )e d 2
. (30)1.10 平面波
これらの波の性質を簡単な場合について考える.波の周波数を,波数ベクトルをkとし て変位ポテンシャルを以下のようにおく.
i( - t) i( - t)
=Ae
, e
kxψ B
kx (31)ここで,k は波数ベクトルと呼ばれ,その向きが,波の進行方向と同じであることに注意 しよう.ある時刻で式の位相の同じ面は平面であることから,この式の形の波を平面は と呼ぶ.式によってから生成される変位
u
P,u
Sは,i( - t) i( - t)
P
i Ae
kx,
S i e
kxu k u k B . (32) 従って,
u
Pは波の進行方向と振動方向が同じであり,縦波であることがわかる.一方,u
Sの振動方向は進行方向と直交し,横波であることが確認できる.
具体的に式(31)を波動方程式(28)に代入すると,
(c= , ) c
k (33)
kの代わりに以下で定義されるslownessベクトルを用いることもある.
/ , 1 (c= , )
c
s k s . (34) 式(33)或いは(34)で明らかなように,波数ベクトル(slownessベクトル)の3つ成分の中で 独立なのは2成分である.
一般に,波動方程式を満たす解は,(11)式で表される平面波の重ね合わせで表すことがで きる.例えば,x3軸を鉛直下向きに取る場合,を以下のように表すことができる.
1 2
1 / 2
2 2 2
1 2 1 1 2 2 2 1 2 3
( ,t ) d dk dk
A( k ,k , )exp i k x k x k k x t c
x
(35)
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2. 波線理論による運動方程式の解
2.1 高周波近似
外力(体積力)のない等方弾性体の運動方程式は,第1章の(23)式より.
.
u
i ,tt
ij , j (1) 但し,密度(,Lameの定数(及びは,場所xの函数とする.この解を次の形に仮定す る.( ) 0
( ) exp[ ( ( ))]
n( )( )
n( )
i i
n
u i t
U i
S
x x x . (2)
ここで,S()は震源の時間函数である.(2)を見ると,の大きい(高周波の)場合にnの低 次の項の寄与が大となる.この意味で,(2)式を高周波近似(High frequency approximation)と いう.
(2)は,時間領域において,
( ) 0
( )
n
i i n
n
u
U F t
(3)の形に書くことができる.但し,
1 1
( ) ( ) exp( )
2 ( )
n n
F t S i t d
i
(4) この時,
( ) /
1( )
n n
dF t dt F
t
(5)の関係があることに注意しよう.
次に
の意味について考える.式(2)は,xにおける変位の時間遅れ ( )
x を考慮した表現と なっている.即ち, ( )
x は,波が波源から点xまでの伝達時間(走時,travel time)である.震源から点xまでの波のpathを波線(ray)という.ここで,変数sを波線に沿った長さと定 義しよう.波線の位置は,sの函数即ちx(s)となる.更に=const面では,
exp[ i t ( )]
の 同位相となる.従って,この面は波面(wave front)となる.媒質が等方である場合,波の進 行方向(波線の接線 t 方向)は波面の法線方向と一致し,
と平行となる(Fig.1).即ち,
は,波線の方向を与えることとなる.式(2)を式(1)に代入してみよう.
( ) ( ) ( )
, ,
,
( ) ( ) ( ) ( ) ( ) 2 ( )
, , , , , , , ,
,
exp[ ( ) exp[ ( )] ( )
exp[ ( ) exp[ ( )] ( )( ) ( )
n n n
i j i j i j
n n n n n n
i jk i jk i k j i j k i jk i j k
i t U i t U i U
i t U i t U i U U U i U
(6)
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であることを用い,(1)式の両辺の(i) –n+2の係数を比較することによって,以下の漸化式が 得られる.
( ) ( 1) ( 2)
(
n) (
n) (
n) 0
i i i
N U M U
L U
(7)但し,形式的に
( 1)
( 2)
U U 0
(8)とする.また,N(U), M(U), L(U)はベクトル函数で,そのi成分は次のように定義される.
, , , ,
, , , , , , , ,
, , , , ,
, , , , , , ,
( ) [( ) ]
( ) ( )( ) (2 )
+ ( )
( ) ( ) ( )
i i j ij k k ij j
i i j j j j i j ij j i j i jj
i j j j j i i j
i j ij i jj i j j j i j j i
N U
M U U U U U
U U U
L U U U U U
U U
U
(9) さて,最も簡単な場合として,上式の第1項だけを取ることにする.即ち,
exp[ ( )]
i i
u U i t
(10) と解を近似する.式(10)を運動方程式(1)に代入すると.
( ) i
2N U ( ) ( ) ( ) 0 i M U
(11) この式が成立するためには,2及びの係数がそれぞれゼロでなければならない.即ち,( ) 0
N
iU
, (12)及び
( ) 0
M
iU
(13)でなければならない.
次節以降で示すように,(12)式からは,(即ち走時)を決定するEikonal equationが得 られる.一方,(13)式は,Transport Equationと呼ばれるU(即ち振幅)を決定する式が得ら れる.
Fig.1. 波線(ray)と波面(wave front).
2.2 Eikonal Equation
式(12)を考えよう.この式は,次のように書き直すことができる.
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( ) 0
j ij ij
U
. (14)但し,
, , , ,
ij i j ij k k
. (15)(12)がUiについて自明でない解を持つためには,
det(
ij
ij) 0
. (16) でなければならない.(16)式を書き直すと,2
2 3
, , 2 , , , ,
2
, , , ,
4 (2 3 ) 2
1 ( ) ( )
1 2 1
0
k k k k k k
k k k k
.
(17) 即ち
2 2
, , , , , ,
2 2
, , , , , ,
1 1/
2 1 1/
k k k k k k
k k
V
P k k k k
(18)
となる.
式(18)の各場合に対応する変位ベクトルはどうなるであろうか?まず,式(9)の第一式を 以下のように書き直す.
( ) ( )( ) ( )
2N U U U U
(19)Fig.2のように,波線に沿った基底ベクトルを考えよう.この座標系をこのような座標系を ray-centered coordinateと呼ぶ.
( ) ( ) ( )
1 1 2 2 3
q q q
U U U
U e e t. (20)
(20)式を(19)式に代入し,
,k ,k 1/
2の場合にe
1及びe
2との内積を取ると,( ) ( )
1q 2q
0
U U
(21)を得る.これは,
,k ,k 1/
2が縦波(P波)であることを意味する.一方,
,k ,k 1/
2の 場合に(19)式とtの内積を取ると,2014/11/07
( )
3q
0
U
(22)を得る.これは,横波(S波)を表していることに他ならない.
Fig.2. Ray tubeとray-centered coordinate.
2.3 Transport Equation
まず,P波の場合を考えよう.式(20)及び(21)から,
( ) 3
U
q
U t (23)
と表すことができる.これから
3 3 3
3 3 2 3 3
3 2 3
1 1 1
2
( q ) ( q ) ( q )
i , j , j , jj , j , j i
( q ) ( q ) ( q ) ( q )
,i ,i , j , j i
,i ,i
M ( ) ( ) U ( ) U U t
+ U ( ) U U + t U
U
(24) ここで,
i ,i
t ( t )
(25) に注意してtとの内積を取ると3 3 3
2 4 2
2 0
( q ) ( q ) ,i ,i ( q )
i j , j , jj i
M ( ) t U ( ) U t U
U t (26)
更に
j
j , j
j j j
d dx
ds ds x t x x
(27)を用いて
2
3 3
1 0
2
( q ) ( q )
, jj
d d
U U ln( )
ds ds
(28)2014/11/07
次にS波について考えよう.式(20)及び(22)からS波の変位は
( ) ( )
1 1 2 2
q q
U U
U e e (29)
となる.ここで,
e
1及びe
2の選び方が本質的に極めて重要となる.これらのベクトルは,これまで単にtと右手座標系を構成する単位ベクトルとしてきたが,以下のような明確な定 を与える.
1 2
cos sin sin cos
e n b
e n b
(30)更に,
0 0
s
( s ) ( s )
sT( s )ds
(31)ここでT(s)は捩率である(式(S-2-4)及び(S-2-5)参照).式(30)をsで微分し,式(31)及び(S-2-4)
を用いると
1 2
d / ds e ( K cos ) , d / ds t e ( K sin ) t
(32) となる.即ち,de1/ds及びde2/dsは,e
1,e
2と直交するのである.式(29)を用いると,
( q ) ( q )
2
( q ) ( q )i Ij I , j Ij , j I ,i , j Ii I , j , jj Ii I
( q )
, j ,i Ij , j , j Ii I
M ( ) ( )( e U e U ) ( e U ) e U
+( e e )U (I=1,2)
U
(33)e
1及びe
2との内積1 2
( ) ( ) 0
M U e M U e
(34)を計算する.ここで,(33)式の第3項に注意しよう.この項は,
2 2
2
, j Ii I( q ) , jd
I( q ) Ijd
( q )I Ii I( q )d
Ii( e U ) U e U e U e
ds ds ds
(35)と変形することができるが,式(34)の内積を取った場合,この項からの寄与は一般的には 0 とならない.即ち,ray-centered coordinateにおけるI=1の成分とI=2の成分がcouplingして しまう.しかし,
e
1及びe
2を式(30)及び(31)によって定義すると,(35)式第2項からの寄与 は0となり,以下の式を得ることができる.1
22 0
( q ) ( q )
I I , jj
d d
U U ln( ) (I=1,2)
ds ds
(38)以上の議論により,ray-centered coordinateにおけるP波及びS波の振幅は,以下の形の微 分方程式で表現できることがわかった(式(28)及び(38)).
( )
( ) 2 2
1 { ln( )} 0
2
q i q
i
dU d
U v v
ds ds
. (39)さて,ここで,上式の意味づけを考えてみよう.次式で定義されるJを導入する.
2014/11/07
1 1 2 1 3 1
1 2 2 2 3 2
1 2 3
/ / /
/ / /
/ / /
x x x
J x x x
x s x s x s
(40)
ここで,1及び2は,一つ一つの波線を規定するray parameter と呼ばれる.もし,震源 が点震源であるならば,1及び2は,射出角 (take-off angle) 0及び0とすることができる.
もし,線震源であるならば,1を線震源と直交する面でのpolar angle 0,2を或る基準点 から線震源に沿って測った長さL0とすることができる.
次に,Fig.3に示すように,(1,1+d1),(2, 2+d2)の範囲で規定される波線群からなる“ray tube”を考える.
Fig.3. Ray parameterの例.
このray tubeによって切り取られる波面の面積は,
1 2
1 2
d
wd d
x x
σ
(41)となり,その断面積は,
1 2
d d σ
w t Jd d
(42) となる.更に,2
1 d J
J ds v
(43)であることに留意して(39)式を書き直すと
( ) ( )
( ) 2 ( )
1 1
ln( ) ln( ) 0
2 2
q q
q q
i i
i i
dU v d J d dU d
U v U J v
ds J ds v ds ds ds
(44)2014/11/07
となり,最終的に
i( )q 0
d J vU
ds
(45)となる.従って,(39)式の解は,
( )
( )
1/2[ ( ) ( ) ( )]
q i
U
is
s v s J s
(46)と表すことができる.ここで,1は(45)式を積分した時の初期値で変数 s に依らない量で ある.(39)或いは(44)式は,transport equationと呼ばれる.式(46)から,J(s)の絶対値が小さい ほど振幅が大きくなることがわかる.これは,ray tubeの断面積が小さくなってrayが集中 することを意味し,J(s)が幾何学的減衰 (geometrical spreading)を表すことが理解できよう.
また,J(s)=0 となる点は”caustic”と呼ばれ,振幅が発散し,高周波近似の理論が破綻する.
波線が caustic を通過すると J(s)の符号が変わることがある.これによって波形の振幅が,
/2だけphase shiftを生じる.
ここまでの式の導出で明らかなように弾性体の運動方程式に高周波近似を適用すると,
周波数の一番高次の係数から走時に関するeikonal equation(が導かれ,次に高次の項から振 幅に関する保存則(transport equation)が導かれた.
2.3 高次項の解
まず,P波の場合を考える.N(U(n))と
e
1及びe
2との内積を取る.2 2
( n ) ( n )
i Ii j ,k ,k ij Ii
( n ) ( q )( n )
i Ii I
N ( )e U ( ) e
U e U
U
(47)
ここで,
U
( q )( n )I は, ray-centered coordinateを用いた場合の式(2)における(i) –nの係数ベクトルのI成分である.従って,(7)式と
e
1及びe
2との内積を取って(47)式を用いると2
1 2
( q )( n ) ( n ) ( n )
I i i Ii
U M ( ) L ( ) e
U
U
(48)( q )( n )
U
I は,P波の進行方向に直交する成分であるので,additional componentと呼ぶ.ベ クトル表示で,1 1 2 2
( q )( n )
U
( q )( n )U
( q )( n )
U e e
(49)と表すことにする.
2014/11/07
一方,N(U(n))とtの内積は0となることが簡単に証明できる.従って,(7)式とtの内積を 取ることによって,以下の微分方程式が得られる.
2 1
3 3
1
2 2 2
( q )( n ) ( q )( n ) ( n ) ( q )( n )
, jj i i i
d d
U U ln( ) L ( ) M ( ) t
ds ds ( )
U U
(50) ここで式(50)の右辺は,すべて既知である.この形の微分方程式は,定数変化法によって解 くことができ,その解は
0
0
2
3 3 0
1 2
1 2
1 1
2 2 2
( q )( n ) ( q )( n ) s
s , jj
s ( n ) ( q )( n ) s
i i i , jj
s s'
U ( s ) U ( s )exp d ln( ) ds'
ds
+ L ( ) M ( ) t exp d ln( ) ds'' ds'
( ) ds
U U
(51) となる.
S波の場合も同様にして解くことができる.N(U(n))とtとの内積を取ると,
2 2 3
( n ) ( n )
i i j ,k ,k ij i
( n ) ( q )( n )
i i
N ( )t U ( ) t
U t U
U
(52)
(7)式とtとの内積を取ることによって
2
1 2
3
( q )( n ) ( n ) ( n )
i i i
U M ( ) L ( ) t
U
U
これが,S波の場合のadditional componentとなる.
一方,N(U(n))と
e
1及びe
2の内積は0となることが簡単に証明できる.従って,(7)式とe
1及び
e
2の内積を取ることによって,以下の微分方程式が得られる.2 1
3
1
2 2
( q )( n ) ( q )( n ) ( n ) ( q )( n )
I I , jj i i i
d d
U U ln( ) L ( ) M (U ) t
ds ds
U t
(53) 式(53)の解は,
0
0
2 0
1 2
3
1 2
1 1
2 2
( q )( n ) ( q )( n ) s
I I s , jj
s ( n ) ( q )( n ) s
i i i , jj
s s'
U ( s ) U ( s )exp d ln( ) ds'
ds
+ L ( ) M (U ) t exp d ln( ) ds'' ds' ds
U t
(54) で与えられる.
2014/11/07
補足1.ベクトル公式
次に示すような 3-次元空間(x1x2x3座標系)でのベクトルaを考える.
.
1
2 1 1 2 2 3 3
3
a
a a a a
a
a i i i
(S-1-1)2つのベクトルa及びbの内積と外積は,以下のように定義される.
内積:
i i 1 1 2 2 3 3
a b ( a b a b a b ).
a b
(S-1-2)外積:
1 2 3
ijk j k 1 2 3
1 2 3
e a b a a a . b b b
i i i
a b
(S-1-3)スカラー函数fの勾配(gradient)は,以下のように定義される.
勾配 (gradient):
1
2 i 1 2 3
i 1 2 3
3
f / x
f f f f
f grad f f / x .
x x x x
f / x
i i i i
(S-1-4)また,ベクトル函数aの発散(divergence)と回転(rotation)は,それぞれ以下のように表 される.
発散(divergence):
i 1 2 3
i 1 2 3
a a a a
div .
x x x x
a a
(S-1-5)
回転(rotation):
1 2 3
ijk k
j 1 2 3
1 2 3
rot ( curl ) e a .
x x x x
a a a
i i i
a a a
(S-1-6)次に,Laplaceの演算子(Laplacian)を以下で定義する.
2014/11/07
2 2 2
2 2 2
1 2 3
div grad
x x x
. (S-1-7)
スカラー函数fに対しては,
2 2 2
2
2 2 2
i i 1 2 3
f f f f
f f div( grad f )
x x x x x
. (S-1-8)
ベクトル函数aに対しては,
i
a
i 1a
1 2a
2 3a
3( ) ( ) grad( div )- rot( rot ).
a i i i i
a a a a
(S-1-9)
となるが,この式の左辺は,直交直線座標系でのみ定義されるものである,もし,曲線座 標系(例えば球座標系や円筒座標系)を用いる場合,上式の下段を用いる必要がある.
また,以下の関係があることに注意しよう.
( ) div( rot ) 0, ( f ) rot( grad f ) 0.
a
a
(S-1-10)弾性論では,よくGaussの発散定理を用いる.これは,以下の定理である.ある体積領域 におけるベクトルAの発散(div A)の体積積分は,その体積領域を囲む面におけるAとそ の面の法線ベクトルnの内積の面積分となる.即ち,
i
i i i i
V V S S S
i i
div dV A dV d A dS A n dS
x
A
A S
(S-1-11)これを,スカラー函数のLaplacianに適用すると,
div(grad ) grad
iV V S S S
i
dV dV d d n dS
x
S
S
(S-1-12)補足2. 曲線の接線,法線,陪法線
ここで,ある曲線に対する接線,主法線及び陪法線ベクトルを定義しておこう(Fig.1).こ れらをベクトルをt,nとbとすると,以下のように記述される.
1 2 2
d ( s ) / ds, K d ( s ) / ds
t x n x
(S-2-1)ここで,Kは曲率で,以下のように与えられる.
2
2 2 2
2 2
2 1 2 3
2 2 2
d x
d x d x
K ds ds ds
(S-2-2)また,陪法線bは,Fig.1のように,tとnとともに右手系を構成するように定義する.即ち,
2014/11/07
b t n
(S-2-3)その成分biは,
2 3 3 1 1 2
1 2 2 2 2 2 2 2 2 2 3 2 2 2 2
2 3 3 1 1 2
1 dx / ds dx / ds 1 dx / ds dx / ds 1 dx / ds dx / ds
b , b , b
K d x / ds dx / ds K d x / ds dx / ds K d x / ds d x / ds
(S-2-4) で与えられる.更に,これら3つのベクトルには以下の関係がある.
d / ds K d / ds K T d / ds T
t n
n t b
b n
(S-2-5)
これを,Frenet-Serretの公式という.Tは次式で定義される捩率である.
2
2 2 2
2 2
2 1 2 3
2 2 2
d b
d b d b
T ds ds ds
(S-2-6)補足3 式(43)の証明
式(43)左辺を図S-1のようなray tubeにおいて体積積分する.Gaussの発散定理(式(S-1-12))
を用いて
2
w w
dv d 1 d
v
σ
t σ (S-3-1)図S-1. Ray tube.
Ray tubeの側面は波線そのものから成る.従って,その法線ベクトルは波線即ちtと直交 する.つまり,式(S-3-1)の最後の式における表面積分では,側面からの寄与は無くなり,上 面の面素(d1)と下面の面素(d0)からの寄与だけ考えればよい.式(41)よりray tubeの上面 及び下面では,
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w 1 2
1 2
d d d
x x
σ
(S-3-2)式(40)及び(42)より
w 1 2 1 2
1 2
d d d Jd d
x x
t σ t
(S-3-3)更に
w 1 2
dv ds d t σ Jdsd d
(S-3-4)従って,式(S-3-1)は,
2
1 1 2 0 1 2
1 0
1 2 1 2
1 1
dv J d d J d d
v v
d J 1 d J
dsd d ds( Jd d )
ds v J ds v
1 d J dv
J ds v
(S-3-5)
よって
2