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顧客に対し、建設会社の担当者とともに、自行より融資を受けて顧客所有地に容積率の上限に近いマンションを建築後、当該マンション敷地の一部を売却することにより弁済資金を確保する計画を提案した銀行の担当者について、本件計画が建築基準法に抵触する可能性(容積率違反を招来する恐れ)を説明しなかった過失を否定した原審の判断に違法があるとされた事例(最一小判平成18年6月12日 判例時報1941号94頁等)

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(1)判例研究. 判例研究. 顧客に対し、建設会社の担当者とともに、自行より融資を受け て顧客所有地に容積率の上限に近いマンションを建築後、当該マ ンション敷地の一部を売却することにより弁済資金を確保する計 画を提案した銀行の担当者について、本件計画が建築基準法に抵 触する可能性(容積率違反を招来する恐れ)を説明しなかった過失を否定 した原審の判断に違法があるとされた事例 (最一小判平成 18 年 6 月 12 日 判例時報 1941 号 94 頁等). 根本晋一 第 1 事実の概要 甲土地を所有する X は、取引のある Y1 銀行(みずほ銀行)の担当者から、土 地活用のノウハウを有する会社として、Y2 建設会社(積水ハウス)を紹介された。 Y2 建設会社の担当者は、X の自己資金に借入金を加えた資金で、甲土地上に 自宅部分と賃貸部分とからなるマンションを新たに建築し、その賃貸部分から の賃料収入で、X の借入金の弁済に充てる計画を立て、これに基づいて経営計 画書を作成した。 Y1 銀行の担当者と Y2 建設会社の担当者は、X を訪問し、上記の経営計画書 および投資プランを提示して、その内容を説明した。その際、両担当者は、上 記計画における X の自己資金について、乙マンションを建築した後、甲土地の 北側部分(以下、単に北側部分とする)を売却することによって捻出できると考え 39.

(2) 横浜国際経済法学第 20 巻第 2 号(2011 年 12 月). ており、両担当者の X に対する説明も、このことを前提としたものであった。 ところが、上記計画には、つぎのような問題点があった。甲土地には、建築 基準法 52 条 1 項による容積率の制限が課されているところ、乙マンションに は、西側部分を含む甲土地全体を敷地として建築確認がなされており、甲土地 の容積率の上限に近いものであった。そのため、乙マンション建築後に北側部 分が売却されてしまうと、甲土地のその余の敷地部分のみでは、乙マンション は容積率の制限を超える違法な建築物となるのみならず、西側部分を購入した 者が、これを敷地として建築物を建築する際には、異なる建築物について土地 を二重に敷地として使用することになるため、同法の一建築物一敷地の原則に 抵触し、その者が建築確認を申請する際に、建築確認をただちに受けられない 可能性があった(以下、この問題点を「本件敷地問題」とする)。 もっとも、建築確認の実務では、建築主事は、申請書の記載のみを審査すれ ば足り、建物の計画敷地とされている土地が、既存の建物の一部として建築確 認を受けているのか否か(つまり、ある敷地が複数の建物に二重使用されているのか否 か)は、審査の対象とされないと、一般には理解されている。. Y2 建設会社の担当者は、本件敷地問題が存在することにより、北側部分の 売却価格が低下せざるを得ないことを認識していたが、X には、このことを説 明しなかった。むしろ、建築確認の実務を踏まえれば、売却後の西側部分に建 物が建築される際に、建築主事は敷地の二重使用に気付かない可能性が高いか ら、北側部分の売却価格が低下することはないとの見込みに基づいて上記計画 を提案した。 これに対し、X および Y1 銀行の担当者は、北側部分の売却によって、本件 敷地問題が生じることを知らなかった。 X は、両担当者の説明を受けて、上記自己資金の捻出が可能であると考え、 これを前提として、Y1 銀行から上記資金合計 1 億円の融資を受けて、乙マン ションを建築することを決めた。そして、X は、上記計画に基づいて、Y2 建 築会社との間において乙マンションの建築請負契約を締結し、Y2 建築会社は、 40.

(3) 判例研究. 完成させた乙マンションを X に引き渡した。他方、B 銀行は、上記投資プラ ンに基づいて、X に合計 1 億円を貸し付けた。 しかし、結局のところ、X は、本件敷地問題が存在することにより、北側部 分を予定通りに売却することができず、上記自己資金を確保することが困難と なり、支払いを遅滞するに至った。Y1 銀行は、本件融資にかかわる貸金返還 請求権を担保するため、甲土地と乙建物等に根抵当権を設定していたことから、 これに基づく不動産競売の開始決定がなされた。 X は、そもそも本件計画は、本件敷地問題が存在することにより、実際には、 返済資金調達(つまり、自己資金相当分の確保)の目途が立たないものであったに もかかわらず、Y1 銀行および Y2 建設会社の各担当者らが、この問題につい て説明しなかったため(信義則上の説明義務違反)、X が計画の実施に踏み切った 結果、X は本件計画における自己資金相当分を確保できなくなり、支払いを遅 滞し、遅延損害金をはじめとする 8 億 70,00 万円余の損害を蒙った。このこと は、Y1 銀行および Y2 建設会社の債務不履行および不法行為に起因するとし て、両者を相手取り、本訴におよんだものである。. 第 2 争 点 1 乙マンションの建築請負契約の請負人たる地位にある建設会社(被告 Y2 建 設会社)が、本件敷地問題について、注文者たる X に説明する義務の肯否. 2 乙マンションの建築資金の融資を目的とする金銭消費貸借契約の貸主であ る金融機関(被告 Y1 銀行)が、本件敷地問題について、借主 X に説明する義 務の肯否. 第 3 判決要旨 1 上告審判決要旨 (被告 Y2 建設会社の説明義務について) 「…本件計画には、上記のような(筆者註 …「事実の概要」参照)問題点があり、このことは、X が Y2 建築会社との間で 41.

(4) 横浜国際経済法学第 20 巻第 2 号(2011 年 12 月). 上記各契約を締結し、Y1 銀行との間で本件貸付にかかわる消費貸借契約を締 結するに当たり、極めて重要な考慮要素となるものである。したがって、Y2 建築会社担当者には、 本件計画を提案するに際し、X に対して本件敷地問題と、 これによる本件北側土地の価格低下を説明すべき信義則上の義務があったとい うべきである。しかるに、Y2 建築会社担当者は、…X に対し、本件敷地問題 について何ら説明することなく、本件計画を X に提案したというのであるか ら、Y2 建設会社担当者の行為は、上記説明義務違反に違反することが明らか であり、Y2 建設会社は、X に対し、上記説明義務違反によって X に生じた損 害について賠償すべき責任を負うというべきである。 」 (被告 Y1 銀行の説明義務について) 「…一般に、金銭消費貸借契約を締結するに 当たり、返済計画の具体的な実現可能性は、借受人において検討すべき事柄で あり、本件においても、銀行担当者には、返済計画の内容である本件北側土地 の売却の可能性について調査した上で、X に説明すべき義務が当然にあるわけ ではない。(しかし、本件事案においては)Y1 銀行担当者は、X に対し、甲土地の 有効利用を図ることを提案して Y2 建設会社を紹介しただけではなく、本件北 側土地の売却により、Y1 銀行に対する返済資金を捻出することを前提とする 本件経営計画書をもとに投資プランを作成し、これらに基づき、Y2 建設会社 の担当者とともに、その内容を説明し、X は、上記説明により、本件貸付の返 済計画が実現可能であると考え、本件貸付を受けて乙マンションを建築した。 (そして)X は、Y1 銀行担当者が上記説明をした際、本件北側土地の売却につ. いて、Y1 銀行としても、取引先に働き掛けてでも確実に実現させる旨述べる など特段の事情が認められるのであれば、Y1 銀行担当者についても、本件敷 地問題を含め、本件北側土地の売却可能性を調査し、これを X に説明すべき 信義則上の義務を肯定する余地があるというべきである。 」(1) 2 下級審判決要旨 なお、下級審の判断につき、第一審は、Y2 建設会社のみならず、Y1 銀行の 42.

(5) 判例研究. 責任を肯定し、 「…(Y1 銀行の担当者は、 )貸付の融資稟議を作成するにあたっ て、本件建物が建築基準法に違反しないかどうかを審査(調査)する義務を負っ ていたというべきであり、担保価値に対する誤った評価を前提に融資を実行す ることは、本件建物を建築するために建築業者である Y2 を紹介し、かつ Y1 銀行がその建築資金を融資する相手方である X を経済的破綻に追い込む危険 性がある行為でもあることを併せ考慮すれば、Y1 銀行の担当者は、Y1 銀行に 対する前記審査義務のみならず、X に対しても、建築基準法違反の有無を調査 した上で、その結果を説明する義務を負っていた…」と判示した(2)。 もっとも、その結論については格別として、Y1 銀行の責任を認める根拠に ついては、学説の強い批判を受けた。つまり、第一審判決は、本件返済計画の 実現可能性に一切言及することなく、専ら担保評価の誤りが X をして経済的 破綻に至らしめることを、X に対する説明義務発生の根拠としているが、それ は無理な構成であるという批判であった。つまり、かような義務は、Y1 担当 者の Y1 銀行に対する従業員としての善管注意義務なので、X に対する義務に はなり得ない。また、そもそも担保目的物件の適正評価義務の内容として、(一 見して分かる違反は別として)ただちに建築基準法違反の有無を調査する義務を含. むとはいえない、などと批判されたのであった(3)。 このような批判を受けて、原審は、理論構成や理由付けは格別として、Y2 のみならず Y1 の責任を否定し、 「…敷地の二重使用の問題があったこと、お よび総量規制が実施されていたことを加味しても、平成 2 年 6 月 29 日当時、 本件建物の建築後に北側土地を売却して約 3 億円程度の自己資金を捻出するこ とが困難な状況にあったと推認することはできない…」ゆえに、 「…当初から 返済の目途が立たなかったことを前提とする X の前記主張(Y1 銀行の説明義務 (4). 違反)は、前提を欠いている…」と判示し. 、判断が区々となったことから、. 上告審としての最高裁の判断が待たれていた。. 43.

(6) 横浜国際経済法学第 20 巻第 2 号(2011 年 12 月). 第 4 評 釈 1 本判決の意義と位置づけ 一方被告としての Y2 建設会社に関する判断につき、乙マンション建築の際 には、甲土地全体として建築確認を受ける前提で手続を進めれば足り、それで 債務を履行したことになるはずであるが、将来において甲土地の一部が売却さ れ、本件敷地問題が生じることを知悉していた場合には、この事実を注文者 X に説明する別個の義務が新たに発生し、これを履行するべき旨を判示した点に 意義がある。こちらの判断は、とくに悩む必要のない、受け入れやすい結論で あろう。 他方被告としての Y1 銀行に関する判断につき、金銭消費貸借契約の締結に 際しての、借主側の返済計画の実現可能性は、本来、借主側のリスクにおいて、 自らコントロールする性質のものなので、貸主側において、そのリスクなどに ついて説明する義務は、原則として否定されるべきところ、本判決は、かよう な原則の例外として、 「特段の事情」がある場合に限り、貸主たる銀行側に返 済計画の実現可能性についての調査義務と、その説明義務を負わせることによ り、その不履行についての損害賠償の余地を認めた点に意義がある。 こちらの判断についても、総論的には賛成であるが、その構成として、説明 義務を原則として否定し、 「特段の事情」がある場合のみ肯定した点、 そして 「特 段の事情」の内容など、法的安定性、予測可能性を担保する見地から、今後あ る程度はっきりとさせてゆかなければならない各論的な問題点を残している。 そして、本判決の位置づけであるが、最近、金融機関がカスタマーに対し、融 資に際してさまざまな注意義務(助言義務)を負うことにつき、いわゆる “ 貸し 手責任の法理(lender liability)” の現れとして説明する見解があり、 注目される(5)。 なお、本件審理の過程においては、説明義務違反の有無ないし程度が主要な 争点とされたが、法律上の問題点としては、違法なプランを提案したこと自体 についての責任の成否も問題とする余地がある。近年における、金融機関の責 任に限られない、専門家責任としての説明義務、これを受ける側の(選択の機 44.

(7) 判例研究. 会喪失に基づく)自己決定権侵害、あるいは期待権侵害など、契約責任としての、. 本体的債務とは別個独立の、それに従たる付随的義務のあり方や、また、債務 不履行と同じく損害賠償債務の発生原因であって、これと競合し得る不法行為 責任としての損害概念、つまり、法律上保護される利益(被侵害利益)の範囲の 拡張など、本判決を契機として再考するべき論点は、多数にのぼる。 本判決が出されてから数年が経過したが、その間において、既往のような新 しい論点が指摘されていることから、それらの論点との関係に留意しつつ、本 判決の新たな意義や位置づけを再考する。 2 検 討 (1)検討の視点 既往の本件敷地問題は、建築基準法における容積率の定めから派生する建築 制限が適用されることに起因して生じる公法上の問題点である。すると、かよ うな問題点について説明する明文上の義務を負担するのは、本件北側部分の売 却を受任した、宅地建物取引業法における仲介業者の地位にある者となり、し かも、当該「売却」 、つまり不動産「売買」契約に付随する義務としてのみ、 本件敷地問題を説明する明文上の義務が生じることになる(同法 35 条 1 項 2 号、 。 同法施行令 3 条 1 項) しかし、本件事案においては、被告 Y1 銀行が本件北側部分の売却の仲介を 受任した事実は認定されておらず(銀行法 12 条は、銀行が不動産取引をすることを禁 、また、被告 Y2 建設会社が、かような仲介を受任した 止していることから当然) 事実も認定されていない(6)。 それゆえ、本判決は、同法の上記規定を根拠として、被告 Y1・Y2 に説明義 務を認めていない。このように、事実認定との絡みのため、説明義務の発生根 拠を明文に求めることができず、解釈により、これを認める他ないことになる。 すると、本件事案において、被告 Y1・Y2 が、原告 X との間において、当 事者としてかかわった契約は、争点において指摘したとおり、Y1 との関係に 45.

(8) 横浜国際経済法学第 20 巻第 2 号(2011 年 12 月). おいては乙マンションの建築費用相当額の金銭消費貸借契約であり、Y2 との 関係においては、乙マンションの建築費用を含む報酬相当額を生じさせた建築 請負契約なので、そのいずれかに求めざるを得ないことになる。そして、かり にこれらの契約について本件敷地問題に関する説明義務があるとすれば、民法 典における一般条項に依存せざるをえず、具体的には、信義誠実の原則より派 生する付随義務として肯定する他はない(同法 1 条 2 項)。 もっとも、金銭消費貸借契約について、これは、金銭を貸し渡した事実を成 立要件とする要物契約なので、成立後に契約締結の動機となるべき本件敷地問 題の説明義務を課すことは無意味であることから、これを説明しないことは、 成立前、つまり締結前における準備段階の過失として構成されることになろう。 他方、建築請負契約については、諾成契約であることから、本体的債務、つま り請負人の労務給付義務に付随する義務として、締結時において説明する義務 と捉えることになる。本判決のスキームも、概ね、このようなものであった。 もちろん、裁判所としては、被告 Y1・Y2 のいずれについても、この義務を 否定することもできたのであるが、これを肯定する余地を認め、Y2 について は原則として肯定し、Y1 については原則として否定しつつ、 「特段の事情」が 認められる場合のみを例外として肯定するという構成を採用している。 以上のような本判決のスキームを前提として、第 4 ─ 1 で述べたように、金 融機関である Y1 と、建設会社である Y2 の義務の態様について差異を認めた 理由、また、Y1 の義務については、 「特段の事情」がある場合のみ発生すると 判示しているところ、その「特段の事情」の存在を肯定するための要件如何、 が問題となるので、これらの問題点を斟酌しつつ、検討を進める。 (2)不動産にかかわる事業者の説明義務の態様   ―被告 Y2 建設会社の責任に関連して―. (2)と(3)においては、本件事案と離れ、一般論としての、不動産取引に “ 直接 ” かかわる事業者に課せられた、明文および解釈上の説明義務について 46.

(9) 判例研究. 説明をする。第 4 ─ 1 で述べたように、まず、明文および解釈の双方の義務が 問題とされるのは、売買の仲介業者である。不動産の売買・交換・賃貸等に際 し、既往の宅地建物取引業法に列挙されている「重要事項」に該当する事柄に ついて、仲介業者は、各契約の当事者に対し、契約成立に先立ち、書面を交付 して説明する義務を負う。この点につき、判例のなかには、本法の列挙事項に 該当しない事柄であったとしても、説明義務を免れないと判示するものがある が、無条件に肯定するのではなくて、仲介業者と売主が “ 一体 ” であることを 要件としているようである(7)。つまり、そのような場合であれば、仲介業者は、 当該不動産に関するより多くの情報を保有しているであろうことから、信義誠 実の原則に鑑みて、それを相手方当事者である買主の判断材料に供すべきであ る、という価値判断に基づく解釈と考えられる。 つぎに、解釈上の義務が問題とされるのは、仲介業者ではない売主である。 売主は、売買契約の当事者であることから、当該不動産の性状や法律上の制限 などについて、相当程度に正確な知識を持ち合わせているのが通常である。す ると、売主の目的物引渡義務に付随する信義則上の付随義務として、買主が民 法における「要素の錯誤」に陥らない程度の情報を提供しなければならない(同 。すると、結果として、仲介業者を兼ねる売主と同じ範囲における説 法 95 条) 明義務を負うことになろう。なお、この義務は、売主が仲介業者に売買の仲介 を委任し、仲介業者(宅地建物取引主任者)に重要事項の説明義務が発生してい る場合においても免除されることはなく、売主が買主から説明を請求された場 合には、遅滞なく履行する義務があると解されている。思うに、売買の当事者 は売主と買主であり、仲介は売主と仲介業者の委任関係であることから、当事 者を異にするので、当然のことである(8)。 さらに、解釈上の義務を負うべき場合として、建築請負契約における請負業 者がいる。本判決の場合における Y2 建設会社は、まさにその事例であり、本 判決における判断スキームは、類似判例の集積から演繹される判例理論を適用 した結果といえる(9)。 47.

(10) 横浜国際経済法学第 20 巻第 2 号(2011 年 12 月). この点につき、Y2 のような比較的大手のゼネコン(積水ハウス)とその関連 会社などは、建築主であると同時に売主(販売業者)、そして仲介業者の三者を 兼ねることが多いことに鑑みると、その説明義務の範囲は、結果として、事実 上、もっとも説明義務の範囲が広い売主、および売主兼仲介業者と同じになる と思われる。 (3)不動産にかかわる建築・購入等の資金融資者の説明義務の特殊性   ―被告 Y1 銀行の責任に関連して―. 不動産にかかわる建築・購入等の資金融資者は、 (2)において説明した仲介 業者や売主、請負業者と異なり、不動産そのものに直接かかわらず、あくまで 資金調達という間接的なかかわりをもつに止まる(銀行の不動産取引を禁止する銀 。つまり、ある不動産を購入するべきなのか否かを決 行法 12 条から当然のこと) するのは買主自身の問題であり、単なる資金調達の便宜を図る地位にあるに過 ぎない銀行が、目的不動産の性状や法律上の制限等について知る所以はないの が通常だからである。くわえて、資金調達の側面についても、第 4 ─ 1 で述べ たように、銀行は貸主の義務としては、借主が希望する価格の金員を調達して 交付すれば足りるのであり(要物契約)、それ以上の義務は負わないのが原則で ある。 しかし、融資の実情に鑑みると、一概のそのようにはいえないようである。 換言すると、借主たるカスタマーに対する銀行側の提案に基づいて融資が実行 される場合についてまで、かような原則を一律に貫徹させることは、金融のプ ロフェッショナルとしての事業者と消費者との間の情報・能力格差に鑑みて、 妥当でないように思われる。なぜならば、このような場合、通常、銀行側がイ ニシアチブを執るのであり、銀行側が具体的な返済計画を起案し、これをカス タマーに提案し、カスタマーは、その説明を所与の前提として、返済計画の実 現可能性を判断するからである。つまり、銀行側は、当該返済計画が実現可能 であるか否かについて仔細に調査する注意義務を負うのみならず、その調査結 48.

(11) 判例研究. 果について、カスタマーに説明する義務があるとも考えられるからである。 このような例外的事態に鑑みて、消費者保護、とりわけ借主保護の見地、ま た融資実務における予測可能性を担保する見地から、合理的な例外要件の明確 化、具体的な線引きが求められていたところ(10)、この点に関する判断をなし たのが本判決であった。 (4)“ 損害 ” の内容に関する法的構成 第 4 ─ 1 で述べたように、本判決と関連して、契約責任における付随義務や 不法行為責任における被侵害利益が、国民の権利擁護意識の高揚に応じ、拡張 する傾向がみられる。そこで、債務不履行もしくは不法行為という違法な行為 によって、債権者もしくは被害者の地位にある者の、どのような権利または利 益が侵害されたと構成されているのかにつき、学説や判例の動向を一瞥する。 まず、事業者に対し、本体的債務とは別個の付随義務として、説明義務が課 される根拠であるが、実質的根拠としては、契約当事者間において、情報収集・ 保有能力の構造的な格差がある場合、それを可及的に平準化するため、および 事業者に対する消費者の信頼を担保するため、などと説明され(11)、形式的根 拠としては、 「善良なる管理者の注意義務」 、すなわち、いわゆる(専門家の)善 管注意義務の現れとして(12)、一般条項としての信義誠実の原則(民法 1 条 2 項) に求めるのが一般である。 そして、専門家責任としての説明義務は、金融、医療、不動産取引などの各 領域において問題とされているところ、本判決と関連する(消費者を買主とする) 不動産取引については、その具体的な注意義務の内容につき、 「…問題の不動 産の資産としての価値について購入希望者に誤解を生じさせない義務や、誤解 に基づいて顧客が決定を下そうとしていることが明確な場合に、顧客が判断を 誤解に基づくものと論破できるだけの客観的な証拠を販売業者が有しているこ とを前提として、これを是正する義務」と説明されている(13)。 なお、説明義務の不履行における損害の内容如何の問題とパラレルに考え得 49.

(12) 横浜国際経済法学第 20 巻第 2 号(2011 年 12 月). るところの、不法行為責任における被侵害利益の捉え方に関する議論であるが、 説明義務違反により生じ得る損害の捉え方つき、見解が分かれている。ある学 説は(以下、Ⅰ説とする)、表意者たる買主が、整備された情報環境のもとで意 思決定する機会を失ったこと自体を損害と捉える。この学説は、近年、私法上 の権利として承認されつつある自己決定権を観念し、これを侵害したこと(意 思決定の機会喪失そのもの)を損害と構成する。そして、原状回復として、機会を. 回復することが不可能であれば、自己決定権侵害、つまり、事業者と消費者間 における情報格差を埋めるための説明義務が履行されなかった結果、消費者側 に対し、意思決定の前提となる選択肢が示されなかったため、本意ではない意 思決定をなしたこと(十分な選択肢を与えられた上での意思決定の機会喪失)を損害と 評価するのである(14)。 なお、この見解を理解する上で注意するべきことは、かりに財産的損害が認 められない場合、あるいは、財産的損害があり、なおも精神的損害が認められ る場合には、慰謝料を肯定する余地がある点に意義があることである(つぎに 。 示す学説との違い) 別の学説は(以下、Ⅱ説とする)、あくまでも(積極的損害であると消極的損害であ るとを問わず)財産的利益の侵害が認められる場合を以って、自己決定権侵害も. あり得ると解している。つまり、意思決定の機会喪失と、何らかの財産的損害 の間に因果関係が認められる限りにおいて、これを金銭的に評価して損害とみ るのである(15)。この見解は、慰謝料そのものとしての損害賠償を否定する点 において、既往の学説と効果を異にするものと思われる(ただし、この見解に依 拠したとしても、慰謝料に “ 準じる ” 損害というのであれば、一律に否定されない余地があ. 。 る) この争点に関する主要な学説は、大別すると、以上の二説であるが、最近の 有力説として、つぎのような見解(以下、Ⅲ説とする)、つまり、 「…当事者の契 約締結に至る自己決定が、相手方の勧誘行為によって惹起された場合に、意思 の形成過程における相手方の介入行為それ自体を違法と判断することを通じ 50.

(13) 判例研究. て、契約締結によってもたらされた財産の減少を不法行為上の損害と把握する 構成」がある(16)。この学説とⅡ説との差別化を図るとすれば、以下のように なろうか。すなわち、事業者が顧客に対し、特別の信頼を惹起するに足りる行 動をなした場合には、顧客が信頼(財産的出捐に関する意思決定)の基礎とした事 情を変更してはならないという注意義務を負う、ことを帰結するものと解され る。 さらに、別の見解として(以下、Ⅳ説とする)、事業者が顧客に対し、特別の信 頼を惹起するに足りる行動をなした場合には、顧客の正当な信頼そのものが法 律上保護されるべき利益であることから、これを保護するため、事業者は相応 の注意義務を負うと解する学説も存する(17)。 判例であるが、本判決に先行する判例として、事業者である住都公団が、賃 借人であった買主に対し、優先購入条項に基づく優先順位を約した場合におい て、その順位を喪失するべき場合もあり得ることについて充分な説明をしな かったがために、結果として買主が優先順位を喪失した事案につき(18)、慰謝 料を認めたと解する余地があることから、Ⅰ説もしくはⅣ説に与すると読むこ ともできるが、別個に財産的損害も認定されていることから、Ⅱ説もしくはⅢ 説に与すると読むことも可能である。ゆえに、いずれの見解に与するのかは審 らかではない。 おおむね、以上のような 5 つの学説・判例があるが、本判決の事案を離れた 一般論として、“ 不動産取引 ” に関する説明義務 ” についての各見解を検討する。 まず、消費者が、十分な選択肢を与えられた上での意思決定の機会を喪失し たことを損害と捉えるⅠ説・Ⅳ説であるが、意思決定の機会喪失そのものを損 害とみることは、いかに慰謝料請求を認める余地を確保するためとはいえ、い わゆる “ 裸の期待 ” を法律上の利益とみることに他ならず、妥当ではないよう に思われる。もっとも、この点につき、医療の領域においては、診療が奏功し た場合においても、なお、当該診療結果は、十分な選択肢を与えられた上での 意思決定に基づくものではないということで、適切な療法選択の機会を喪失し 51.

(14) 横浜国際経済法学第 20 巻第 2 号(2011 年 12 月). たことを理由とする慰謝料請求が認容されている(19)。 また、説明義務とは別個の法律構成である、いわゆる期待権侵害の事案であ るが、早晩死を免れない症例につき、適切な診察(説明)がなされ、適切な療 法が選択されていたとすれば延命が可能であったところ、適切な診察がなされ なかった結果、死期が早まった事例につき、慰謝料請求が認容されている(20)。 すると、不動産取引の領域においても、これら一連の医事判例とパラレルに 考えて、慰謝料請求のみを肯定しても差支えがないようにも思える。しかし、 医療は、国民の生命や身体にかかわる問題であり、ひとたび侵害を受けると、 容易に回復できない、あるいは回復不可能として症状が固定し後遺症に悩むの みならず、永久的な労働能力の喪失など、事故に付随する不利益は計り知れな いものがある。このように、生命侵害や後遺症の遺残は、被害者や遺族に一生 涯にわたり付いて廻るものであることを考慮すると、金銭により回復・解決可 能な、不動産取引における機会喪失による不利益とは、同列に論じ得ないこと は論を俟たない。 くわえて、期待権侵害の事案についてさえも、適切な診察、例えば、進行が んなどの致死性の終末期患者について、抗がん剤の使用についての説明がなさ れず、これがなされないまま患者が死亡した場合において、単に、説明を受け て抗がん剤治療を選択する意思決定の自由を奪われた、というだけでは慰謝料 を認めておらず、抗がん剤治療を受けた結果、医学的に証明可能な一定の生存 期間を立証できた場合に限り、その延命期間の喪失に相当する慰謝料を認めて いるに過ぎないことを考慮すると、法益としての価値が生命・身体よりも軽い とされる財産について、生命や身体にも増して法律上の保護を強めることは不 均衡というべきであろう。 以上の検討より、不動産取引と医療における説明義務違反について、その被 侵害利益の捉え方に差異を生じることは、その性質上やむを得ないことなので、 両者の判断を整合させる必要はない。ゆえに、私見としては、少なくとも不動 産取引における説明義務については、当該説明義務違反と財産的損害との間の 52.

(15) 判例研究. 因果関係が認められる場合に限り、慰謝料請求を肯定するⅡ説およびⅢ説を妥 当と考える。 なお、既往の検討作業は、不法行為責任を前提として進めてきた。不法行為 責任においては、明文を以って、生命・身体の侵害については当然として、財 産権侵害のみがなされた場合についても慰謝料請求を認めているので(同法 710 、慰謝料のみの請求を認めるⅠ説・Ⅳ説は成り立ち得るが、これが債務不 条) 履行責任であると、その旨の明文がないことから、その存立が厳しくなるので はないか(もっとも、請求権競合説を前提とする限り、実務上の問題は生じないであろう)。 (5)本判決における一般論の適用の是非 (一)被告 Y2 建設会社について. (4)において説明をしたⅠ~Ⅳ説のいずれに立脚したとしても、本判決の事 案は、注文者 X が、Y2 建設会社の担当者より、本件敷地問題についての十分 な説明を受けた上での “ 意思決定の機会 ” を喪失し、それに起因して自己資金 調達分に相当する金員を失うという “ 財産的損害 ” を蒙っていることから、合 理的に説明できるものである。 なお、Ⅲ説とⅣ説は、 「相手方の勧誘行為」あるいは「特別の信頼を惹起す るに足りる行動」を要件としているが、Y2 建設会社は、Y1 銀行とともに(建 築会社としては容易に調査可能な、本件敷地問題が存在するにもかかわらず、なおも返済資 金の調達を可能とする)本件提案書を X に手渡しているので、かような行為が、. これに該当すると思われる。私見としては、本判決のスキームおよび事実認定 は、これまでの判例理論や有力学説とおおむね一致していることから、妥当と 考える。 (二)被告 Y1 銀行について   ―例外要件としての「特段の事情」についての検討―. 本判決のスキームに従い、Y1 銀行の説明義務違反を認める余地を示した「特 段の事情」のあり方について検討する。先に述べたように、銀行は、不動産取 53.

(16) 横浜国際経済法学第 20 巻第 2 号(2011 年 12 月). 引に直接かかわることができず(銀行法 12 条)、 また、 合理的な取引通念としても、 かりに銀行が返済資金の調達方法について言及したとしても、それは門外漢の アドバイス、ひとつの参考に過ぎないと考え、意思決定の要因とはしないのが 通常であろう。そのような見地から、判例は、従来より、原則として説明義務 を否定し、例外として肯定する余地を認めるスキームを採用してきた。本判決 も、 このような流れに沿うものであり、 違和感はない。しかし、 類似判例につき、 同じ判断スキームを採用していたとしても、本判決と結論を異にするものもあ る。そこで、本判決と判断が異なる、限界事例ともいうべき平成 15 年判決(否 定事例)について触れ、事実認定の相違など、判断が分かれた理由について考. 察をする。 本判決において、 裁判所が 「特段の事情」の存在を肯定する余地を認めたのは、 事実認定において、Y1 銀行の担当者が X に対し、本件提案書を示しつつ、Y1 銀行が取引先に働き掛けてでも、確実に実現させるなどと、その計画の実現可 能性を担保する、換言すれば請け負う旨を申し向けたことが、証拠として採用 されていることによる。かような発言は、Y1 に対する X の信頼を飛躍的に高 めることに疑いはなく、X としては、本件敷地問題の知不知を問わず、すべて のハードルを克服してくれるものと思うのが通常である。また、事実認定はな されていないが、法律による銀行の業務範囲制限についても、知らないのが一 般であろう。すると、Ⅲ説・Ⅳ説が要件として掲げる「相手方の勧誘行為」 「特 別の信頼を惹起するに足りる行動」の存在が認定されて差し支えのない事案と いうことになろう。 これに対し、銀行の説明義務を否定した類例が、いわゆる平成 15 年判決で ある(21)。その事案であるが、宅地造成がなされ、分譲中の土地につき、信用 金庫の担当者が顧客に対し、融資を受けて購入するようにと積極的に勧誘をな し、顧客が当該土地を購入したところ、当該土地は建築基準法における接道要 件を備えておらず(同法 35 条 1 項)、これを充足するための売主の協力も得られ なかったことから、最終的には、建物の建築が困難となったが、担当者は顧 54.

(17) 判例研究. 客を勧誘する際に、その旨を告知していなかったという事案であった。裁判所 は、特段の事情の内容について「…金融機関が、本件土地の売主や販売業者と 業務提携等をなし、金融機関の従業員が本件土地の売主等の販売活動に深くか かわっており、当該土地の購入も、その一環であることなど」という具体的な 基準を定立したうえで、担当者は接道要件の不備につき、これを認識しておら ず、ゆえに認識しながら殊更に告知しない、あるいは、告知を懈怠したという 事情はなく、また、売主の販売活動に深くかかわった事情もないことを理由と して、特段の事情の存在を否定した。 両判決は、事案が類似するにもかかわらず、結論は反対となったのであるが、 その理由は、裁判所が「特段の事情」の認定作業について、どのような事実を 重視したのかに罹っている。この点につき、ある論者は、いずれの判決も、金 融担当者から顧客に対し、自行より融資を受けて不動産を購入するべく勧誘等 を行なったと認定した点は同様であるが、その他の考慮要素として、①建築基 準法による建築制限が治癒可能であったのか否か、② ①の制限が、借入金の 返済可能性に影響をおよぼすのか否か、③担当者は、不動産関連業者と「とも に」勧誘等を行なったのか否か、という 3 点を重視して、事実認定を行ってい ると分析している。 そして、①につき、問題とされた土地に関する法律上の瑕疵の程度につき、 平成 15 年判決の事案では、実際に売主が応じたのか否かは格別として、売主 の協力を得ること、つまり前面道路は売主所有の私道であり、登記上の地目も 公衆用道路なので、本件土地が接道要件を備えるためには、そこの道路位置指 定を受けさえすれば建築許可を得られる程度の軽微な瑕疵であったのに対し、 本判決の事案では、甲土地上に乙マンションが建築済である以上、これを取り 壊さない限り、本件土地問題は解消し得ないので、売却予定の北側敷地には、 事実上、法定の容積率による建築が不可能であるほどに重大であった。 ②について、平成 15 年判決の事案では、借主の現有資産内で返済し得る額 であり、建築基準法上の建築制限は返済計画に影響しないのに対し、本判決の 55.

(18) 横浜国際経済法学第 20 巻第 2 号(2011 年 12 月). 事案では、現有資産内での返済が不可能であり、借入れにより建築資金を捻出 し、その返済に本件北側部分の売却益を充てる計画であったところ、その実現 可能性はひとえに本件土地問題の解消に罹っていた。 ③について、平成 15 年判決の事案では、金融担当者が不動産関連業者とと もに勧誘等をした事実はないが、本判決においては、Y2 建設会社の担当者が 作成した本件経営企画書を基に、Y1 銀行担当者が本件提案書を作成し、これ らの書面を X に示しつつ、共同で説明をなしたという事情があった、などと、 両判決の事実認定の相違点を分析し、両判決の結論が反対となった主要な理由 としている。 くわえて、この論者は、結論の違いは、単なる事実認定の相違のみならず、 その評価方法の相違にも起因すると指摘する。つまり、平成 15 年判決は、融 資契約における貸主が借主に対し、別個の不動産売買における目的物件に付随 する法令上の問題点という “ 外側 ” の事情について、どの程度まで調査と説明 をする義務を負うべきなのか、を問題としているのに対し、本判決においては、 貸主が借主に対し、返済契約の実現可能性という “ 内側 ” の事情について、ど の程度まで調査と説明をする義務を負うべきなのか、を問題としたと捉えてい る。そして、前者を “ ヨコ ”、後者を “ タテ ” の問題と呼称している(22)。 そして、平成 15 年判決は、いわゆる “ ヨコ ” の問題であるがゆえに、金融 機関と不動産業者との “ ヨコ ” の一体性(情報面および活動面の協調行動)の有無 ないし程度を問題とするため、 「特段の事情」の内容につき、先のような要件 を示したものとする。 これに対し、本判決は、いわゆる “ タテ ” の問題であるがゆえに、借主が貸 主に依存する関係の有無ないし程度を問題とするため、 「特段の事情」の認定 につき、法令上の制限よりもむしろ、返済計画の実現可能性に関する説得の程 度を重視したものとしている。つまり、説得の程度が強まれば強まるほどに、 借主の意思決定の自由は失われ、自己決定権が機能しなくなるので、(法令上の 制限に関する説明を含めた)金融機関である貸主への信頼と依存が、建築の専門家 56.

(19) 判例研究. である建設会社一般と同程度までに高まったと認められる事情がある場合に は、(法令上の制限に関する説明過誤についての)特段の事情の存在を認定する、と いう判断方法であると捉えている。 この論者は、以上のように、重視する事実の相違は、判断方法の違いに起因 すると分析したうえで、本判決が重視した事実は、 「依存」の有無ないし程度 を示す要件となるものと位置付け、Y1 銀行の担当者が本件提案画書を作成し て X に提案したこと、X は、 本件返済計画書の内容が実現可能であると信用し、 Y1 銀行より借り入れをなして乙マンションを建築したこと、そして、Y1 銀行 担当者が、北側部分の売却につき、取引先にでも働き掛けてでも確実に実現さ せる旨を申し向けたこと(以下、確約とする)、の 3 つの事実を認定し、Y1 銀行 と X の依存関係を認定したものとする。 この見解の特徴は、確約に至る事実がない限り、特段の事情の存在を認定し ない点にある。つまり、かりに、本件提案が借り入れの機縁となった事実のみ で依存関係を認定すると、借入人に対する勧誘・提案能力が高く、カスタマー から厚い信頼を寄せられている金融機関であればあるほどに、依存関係が強い ことになるので、調査・説明義務の範囲ないし程度が重くなるという不都合が あることを考慮したものである。 融資実務に鑑みると、本件事案は格別として、返済計画は、最終的には借主 自らの判断で実現すべきことなので、 これに関する提案は、 あくまで貸主のサー ビスであり、単なる一例や参考、あるいは事実上の助言に過ぎない。換言する と、カスタマーに対する丁寧なサービスが、容易に法律上の義務に転化するの では、事業者にとり、金融商品の提案もままならないことにもなりかねず、妥 当でないことは論を俟たない。 しかし、確約に至った場合には、もはやサービスの域を超え、法律上の義務、 すわわち、事業者と消費者間における情報・能力格差を是正するための、専門 家の助言義務に転化してもやむを得ないというべきである。この点、銀行法の 改正により、業務範囲規制として、 「顧客に対し、不確実な事項について断定 57.

(20) 横浜国際経済法学第 20 巻第 2 号(2011 年 12 月). 的な判断を提供し、または確実であると誤認させるおそれのある行為」(同法 13 条ノ 3 第 2 号)が、行政処分の対象として明文化されたことを考慮すると、か. ような発言は本条項に該当する可能性があるので(いわゆるコンプライアンス遵守 、これと平仄を合わせる意味からも、確約に至った場合のみ、民事責任 の問題) としての説明の過誤ありと捉えることに差し支えない。 以上の検討により、この論者の見解は、平成 15 年判決と本判決の判断スキー ム・事実認定の相違・認定事実の評価方法などについて、論理的な整理を試み ており、しかも、類型化による差別を図ることにより、事案の性質により「特 段の事情」の認定要件が異なることを明らかにした点において、将来における 判例理論の形成に資することから、傾聴に値する。 (6)山田剛志教授の見解   ―ドイツ連邦共和国における判例・学説を参考にして―. 山田(剛)教授の本件評釈は、嚆矢的存在であるが、そのなかで、BGH の 判例を引用し、本判決の理論的な裏づけの一つとされている(23)。 教授が引用する BGHZ の概要であるが、先物取引の契約仲介業者の地位に ある金融機関が、投資家に対し、ロンドン商品先物オプション販売に関する説 明をなし、投資家は、その説明の内容を信頼し、販売業者と販売契約を締結し、 金融商品を買い受けたところ、金融機関の説明に過誤があり、損害を蒙った事 例について、金融機関は先物販売契約の当事者ではないが、投資家が契約締結 についての意思決定をする際に、仲介業者に過ぎない金融機関の担当者が、い わば保証人的な立場で、投資家の意思決定に重大な影響を与えたと認められる 場合には、契約外の第三者に過ぎない金融機関にも、投資家が損害を蒙らない ように努める助言ないし説明の義務が発生し、その不履行があった場合には、 損害賠償責義務を負う、と判示した(24)。 その理論構成であるが、ドイツにおいては、このような義務を、契約成立の 前後を通じで認められる統一的な信頼責任と捉えており、当該判決の事案に即 58.

(21) 判例研究. してみると、金融機関と投資家の間には、契約前の取引上の接触により、当事 者の意思に基づかない債権債務関係が発生し(BGB242)、その義務のなかに保 護義務(Schutzpflicht)としての助言ないし説明義務が含まれるため、と説明し ている。そして、助言ないし説明義務違反の効果の根拠としては、故意による 公序良俗違反を理由とする不法行為としての損害賠償義務である、と構成して いる(BGB826)。 教授は、(筆者註…当該判例は、不動産取引ではなく、金融商品取引に関する判例である 「この議論を直接本件に当てはめることはできないが、 」わが国にお ことから) ける本判決の、理論構成や結論の妥当性を裏付けるうえで、一つの参考になる と考えておられるようである。筆者が渉猟した限りでは、外国法を援用して本 判決の妥当性を説明する文献は、教授の評釈と著書のみなので、ここに特記し たものである。. 第 5 私見・本判決より派生した課題 私見としては、本判決の理論構成と結論のいずれも妥当と考える。本判決の 構成、つまり、Y1 銀行については、銀行法による業務範囲規制により、不動 産取引への関与を禁止されていることを考慮して、特段の事情を認定し得る場 合のみ、例外として説明義務を肯定し、Y2 建築会社については、金融機関の ような業務範囲規制はなく、却って建築に精通していることを考慮して、原則 として説明義務を肯定することにより、両者の責任の態様に差異を設けること は、専門家責任が類型化されつつある今日の情勢に適うからである。 もっとも、課題も残されており、法解釈上の課題として、原告 X 側による 主張はなされていないようであるが、本判決における事実認定を前提とすると、 第 4 ─ 1 において指摘したように、Y1・Y2 が X に対し、違法なプランを提案 したこと自体についての責任の成否も問題とする余地がある(25)。 つまり、Y2 については、その違法性を認識可能な専門家であったことから 当然のこととして、Y1 銀行についても、建築基準法における容積率の制限は 59.

(22) 横浜国際経済法学第 20 巻第 2 号(2011 年 12 月). 調査が不可能ではないことから、Y2 建設会社より本件経営計画書が上がって きた段階において、Y1 銀行内において稟議して調査をなし、本件土地問題の 存在を発見することも可能であった。そのように考えると、この点に関する Y1 の過失を肯定することも可能であった。また、これまで検討してきた説明 義務違反、あるいは違法なプランの提案に起因する、共同不法行為を構成する とも考えられるので(民法 719 条)、その要件該当性を吟味することも、今後に おける類似の事案に対処するために、必要なことであろう(26)。 実務上の課題としては、契約のリスクコントロールとして、事業者側におい て、契約当時において予期しなかった調査義務、助言ないし説明の義務を課せ られることを可及的に回避するため、提案書のなかの一条項として、消費者側 の自己責任において検討するべき事項を明記するのみならず、その判断につい て、かりに助言等をする場合には、あくまでサービス、あるいは参考の域を出 ないように努めるべきである。既往のドイツの学説から理解できるように、あ たかも損失を保証するかのような明示・黙示の態度は、現に慎むべきであろ う(27)。 くわえて、近年改正された金融商品販売法は、金融商品販売業者の説明義務 を強化し、断定的判断の提供禁止条項等を盛り込んでいることから、不動産取 引における金融機関の説明義務の内容を明文化するのであれば、参考になろ う(28)。 【註釈・参考文献】 (1)山田誠一「銀行の担当者が融資の際に顧客に対して返済計画の実現可能性について説明 義務を負う場合」金融法務事情 1812 号 20 ~ 21 頁、岡山金融取引研究会「銀行員に建築 基準法にかかる説明義務違反があるとされた事例」銀行法務 21 671 号 12 ~ 14 頁、高田 淳「金融機関・建築業者の説明義務」法学セミナー 624 号 103 頁、内海順太「不動産取 引における金融機関担当者の説明義務の根拠となる特段の事情」金融法務事情 1781 号 1 頁など。その他、他の註釈に示された各文献。 (2)大阪地判平成 15 年 1 月 24 日金融商事判例 1245 号 28 頁 60.

(23) 判例研究. (3)原田昌和「判例評釈[契約]融資と建物建築が一体となった計画の勧誘における建築会 社および金融機関の説明義務の肯否」判例タイムズ 1226 号 39 ~ 40 頁、階 猛「建築資 金融資の返済計画を左右する建築基準法上の問題点と金融機関担当者の調査・説明義 務」NBL843 号 33 頁 (4)大阪高判平成 16 年 3 月 16 日金融商事判例 1245 号 24 頁 (5)升田 純「1 建築会社が顧客の所有土地の一部を売却して建築資金を調達することを前提 として土地全部を敷地とする建物の建築を計画した場合において、建築会社が顧客に対 して建築基準法に関する事項等の説明義務違反が認められた事例(以下、 タイトル省略) 」 Lexis 判例速報 10 号 77 ~ 78 頁 (6)山田剛志「不動産担保取引における銀行による紹介者責任と説明義務を導く特段の事情」 銀行法務 663 号 18 頁は、Y2 建設会社を仲介業者とみて、本文中にて示した宅地建物取 引業法における重要事項説明義務に根拠を求めているようである。 (7)最二小判平成 17 年 9 月 16 日金融商事判例 1232 号 19 頁、小粥太郎「判例評釈(同判例 について) 」民商法雑誌 134 号 149 頁 (8)渡邉博己「建築会社と銀行が共同で行った不動産有効活用の提案と顧客に対する説明義 務」関西金融判例・実務研究会報告 金融法務事情 1798 号 40 頁 (9)前掲渡邉 40 頁 (10)潮見佳男「銀行の紹介者責任」金融商事判例 1251 号 1 頁。塩見教授は、 「…この種の紛 争に巻き込まれた借主にとって厳しすぎる信義則のラインを、最高裁が引いたように 感じられてならない。 」と述べている。 (11)横山美夏「契約締結過程における情報提供義務」ジュリスト 1094 号 130 頁 (12)山川一陽教授(日本大学法学部・民法、弁護士)の見解 (13)前掲渡邉 41 頁 (14)小粥太郎「説明義務違反による損害賠償に関する二、三の覚書」自由と正義 47 巻 46 頁 (15)錦織成史「取引的不法行為における自己決定権侵害」ジュリスト 1086 号 90 頁 (16)大中有信「契約交渉における説明義務違反に基づく慰謝料請求の可否」金融商事判例 1216 号 76 頁 (17)潮見佳男「契約法理 の 現代化」87 頁、久保宏行「判例評釈(最一小判平成 16 年 11 月 18 日について」平成 16 年度重要判例解説 71 頁など。 (18)最二小判平成 17 年 9 月 26 日金融商事判例 1232 号 19 頁 (19) 「教義として輸血を否定するエホバの証人の信者である患者に対し、輸血する方針につ 61.

(24) 横浜国際経済法学第 20 巻第 2 号(2011 年 12 月). いて説明することなく手術を施行した場合において、診療そのものは奏功したとして も、輸血をなした医師は不法行為責任を負うとされた事例」最三小判平成 12 年 2 月 29 日裁判所時報 1262 号 8 頁 (20) 「死亡した患者に対する医師の診療が、その当時の医療水準にかなったものでなかった 場合において(過失あり) 、当該診療と死亡との間の因果関係が証明されなかったとし ても、かりに医療水準にかなった診療がなされたとすれば、死亡の時点において、な お患者が生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は不法行為 責任を負うとされた事例」最二小判平成 12 年 9 月 22 日民集 54 巻 7 号 2574 頁 (21)最二小判平成 15 年 11 月 7 日金融法務事情 1703 号 48 頁 (22)前掲 階 36 ~ 38 頁 (23)前掲山田(剛)19 頁・20 ~ 21 頁、同「金融自由化の法的構造」 (信山社)59 頁。本書 によると、ドイツにおいては、契約締結上の過失の法理により、相手方の信頼を高め た場合には損害賠償責任を負うとする判例理論が形成されており、学説は、かような 法理を信頼責任と呼称している、と述べている。 (24)BGHZ105, S, 108 ─ 110.Note. (25)前掲渡邉 23 頁。 「…提案内容の適法性自体は、Y1 銀行においても検討されるべきでは なかったのであろうか。 」と指摘していることから、筆者は、本文のように理解した。 (26)前掲升田 77 頁、78 ~ 79 頁 (27)前掲 階 38 頁 (28)平成 18 年 6 月 14 日制定・公布. 62.

(25)

参照

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