話し声と歌声の使い分けに関する横断的研究 : 声の高さの使い分けに着目して
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(2) 北海道教育人学紀要(教育科学編)第55巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.55,No.2. 平成17年2月 February,2005. 話し声と歌声の使い分けに関する横断的研究 声の高さの使い分けに着目して. 水 崎. 誠. 北海道教育人学函館校 幼児教育教室. 目 的 歌唱活動で指摘される問題の1つは,幼児・児 童が正確な音高や音程で歌唱できないことであ. 児から中学生までのおよそ30%が「音高はずれ」. と判定されたことになる.およそ3人に1人の高 い割合である.. 正確な音高や音程で歌唱できない原因を明らか. る.法岡(1992)は「音高はずれ」の実態を質問. にする上で,幼児・児童の歌唱行動の基礎研究は. 紙で調査した.対象は4歳児から中学3年生まで. 不可欠である.これまでの歌唱研究は,主に2つ. であり,最終的な対象者数は2956人であった.「音. のアプローチから行われてきた.「音高をコント. 高はずれ」の判定は教師が行い,その基準は次の. ロールする能力」と「声域」に関する研究である. 通りであった(法岡,1992,p.184).. (Cooper,1995;Flowers&DunnerSousa,1990. A:ほぼ正確に歌うことができる.. ;Goetze&Horii,1989;Green,1990,1994;. B:旋律の大部分の音程は正しいが,しばしば上. 畑,1973;Killian,1999;木下,1998;Moore. ずったり,下がったり,調子はずれになるこ. &Kemp,1991;武田,1981;Trollinger,2003. とがある.. C:自分の好きな高さ(調,キー)で一人で歌っ. ;Welch,Sergeant,&White,1997;吉富,1983, 1985a).これらの研究から得られた知見は,多く. ているときは,旋律がそれとわかる程の正確. の示唆を与えるものである.しかし,幼児・児童. さであるが,ピアノや他の人の音の高さ(調). の歌唱行動は,限られたアプローチのみで解決で. に合わせて歌うのが困難で,そういう場合に. きるほど単純なものではない.なぜなら,発声器. は著しく音程が悪くなり,調子はずれとなる.. 官の未成熟,家庭における音楽的環境からのアプ. D:声域,音程が狭く,音高を上下させて歌って. ローチなど,他にも検討すべき課題が多く存在す. いるものの,歌詞がなければ何を歌っている. ると考えるからである.これまでの歌唱研究の問. のかわからない.. 題点の1つは「音高をコントロールする能力」と. E:話しているような一本調子の歌い方で,音程 がはっきりしない.. 調査の結果,C∼Eで判定された人数と割合 は幼児229人中84人(36.68%),小学生1977人中586. 人(29.64%),中学生750人中191人(25.47%). 「声域」以外のアプローチからの検討がほとんど. なされていないことである.そしてもう1つの問 題は「歌声」のみが検討の対象となっていること である. 以上のような問題意識から,本研究では「歌声」. であった.通常,歌唱活動は,ピアノ伴奏に合わ. のみならず「話し声」にも焦点を当てて幼児・児. せて一斉咽で行われる.したがって,Cレベルも. 童の歌唱行動を明らかにしたいと考える.幼児・. 実際の歌唱活動では,正確な音高や音程で歌唱で. 児童が用いる声の多くは「歌声」ではなく「話し. きない可能性がある。このように考えれば,4歳. 声」である,「話し声」と「歌声」は同じ発声器. 105.
(3) 水 将. 誠. 官を用いる,という事実を考慮した場合,幼児・. 童が歌唱教材曲を歌う際,「話し声よりも高い声」. 児童の「歌声」には「話し声」が影響していると. が必要であることを示している.高い声で歌うた. 考えられるからである.. めには,「話し声」とは異なった声の発し方を試. 「話し声」と「歌声」の違いについて一般的に. みる必要がある.この事実を考慮すれば,幼児・. は以下のように示されている.. 児童が歌唱教材曲を歌う際は,「話すときの声」. 「歌のリズムは音楽のリズムに従う.歌のメロ. よりも高い「歌うときの声」を発さなければなら. デイーも音楽のメロディーに従って,音の振動数. ない.つまり,「話し声」と「歌声」の「声の高さ」. の比が簡単な整数の比をなすのが普通である.但. を使い分ける必要がある.そして,この「話し声」. し,歌では,原則として同じ高さを保つ時は全く. と「歌声」の「声の高さ」の使い分け(以下,「「話. 同じ高さを保ち,次の高さに移る時は断崖状に移. し声」と「歌声」の使い分け」とする)は,歌唱. るのが原則であるが,レガート(1egato)又はス. 教材曲を歌うために必要なスキルの1つと言え. ラー(slur)の時は次の音に坂の形で移る.これ. る.したがって,「話し声」と「歌声」の使い分. に対して,スピーチ(話)ではスピーチのリズム. けの実態を明らかにすることは,歌唱研究におい. に従い,その高さは丘や山が起伏するように,な. て必要不可欠だと考える.. だらかに,時にけわしく曲線状に起伏するのが原. これまでの歌唱研究で「話し声」と. 「歌声」を. 則である」(日本音聾学舎(編),1976,p.90,. 対象にしたものはあるが,いずれも使い分けの観. 下線筆者による). 点以外からの検討であった.声域の中での「話し. この定義から,歌と話では従うものが「音楽と. 声の高さ」の位置を明らかにしたもの(Killian,. いう対象者以外に深く関わるもの」と「スピーチ. 1999;Moore&Kemp,1991)や「話し声」と「歌 声」の高さとフォルマントの違いを明らかにした. (話)という対象者そのものに深く関わるもの」. で異なることが示唆される.「音楽のリズムに従 う」と「音楽のメロディーに従って」の. 「. もの(Welch&White,1993/1994),「話し声の 」. 高さと範囲」が歌唱能力と関係があるかどうかを. とは,保育・教育の場合では「歌唱教材曲」であ. 明らかにしたもの(Trollinger,2003)である.. る.したがって「話し声」とは異なり,歌う際に. したがって,「話し声」と「歌声」の使い分けに. はどのような声が必要とされるかは「幼児・児童. 関する研究はこれまで行われておらず,このため. の話し声」と「歌唱教材曲」を検討することで明. 研究方法も確立されていない.そこで本研究では,. らかになると考える.. まず「話し声」と「歌声」が使い分けられている. 水嶋(2004)は,幼児・児童の「話し声の高さ. かどうかの指標(以下,「使い分けの指標」とする). の平均」と「歌唱教材曲の高さの平均」を比較し. を提案する.次に,その指標を用いて,年中児か. た.その結果,幼児・児童の「話し声の高さの平. ら2年生を対象として,「話し声」と「歌声」の. 均」はA3∼C4であり,「歌唱教材曲の高さの平均」. 使い分けの実態を明らかにすることを目的とす. はF#4∼G#4であった1).この結果から,幼児・. る.. 児童の「話し声」と「歌唱教材曲を歌うために必 要な声」は,「音高」の面で異なっていることが 明らかになった.. 方 法 使い分けの指標 「話し声の高さの平均」と「無. 「歌唱教材曲を歌うために必要な声の高さ」が,. 伴奏歌唱における開始音の音高(以下,「開始音高」. 幼児・児童の「話し声の高さ」と同じであれば問. とする)」の差を用いた.以下にその理由を示す.. 題にはならない.しかしながら「歌唱教材曲を歌. 第1に,「話し声」と「歌声」のどこに着目す. うために必要な声の高さ」は,幼児・児童の「話. るかは,本研究が声の高さの使い分けを検討する. し声の高さ」よりも高い.このことは,幼児・児. ことから,「音高」にした.すなわち,幼児・児. 106.
(4) 話し声と歌声の使い分けに関する横断的研究. 童の「話し声の高さ」と「歌声の高さ」を比較し,. 反映していると考えることができる.したがって,. その違いから「話し声」と「歌声」の使い分けを. 開始音高は「歌声の高さの平均」に代わる妥当性. 推測するのがもっとも望ましいと考えた.この際,. のあるサンプルだと言える.対象児の「話し声の. 問題なのは「話し声の高さ」と「歌声の高さ」の. 高さの平均(以下,「諸声位」とする2))」と「開. サンプルに何を用いるかである.. 始音高」との問に差があることが確認されれば,. 第2に,「話し声の高さ」と「歌声の高さ」の サンプルには,「話し声の高さの平均」と「歌声 の高さの平均」を用い,その差を指標とするのが. それは,その対象児が「話し声」と「歌声」を使 い分けていることを示すと考える.. 対象児 東広島市内のA保育園,B幼稚園,C. もっとも望ましいと考えた.しかしながら,「歌. 幼稚園の年中児(4,5歳児)58人(男子22人,. 声の高さの平均」を明らかにすることはきわめて. 女子36人),年長児(5,6歳児)72人(男子31人,. 困難である.なぜなら「歌声の高さの平均」は,. 女子41人),および広島市内のA′ト学校の1年生. 作曲者が指定した音高に大きく影響されるからで. (6,7歳児)38人(男子19人,女子19人),2. ある.伴奏を付けて歌う際の「歌声の高さの平均」. 年生(7,8歳児)40人(男子20人,女子20人),. は,作曲者が指定した楽譜上の音高の平均である.. 計208人.. また無伴奏で歌う際の「歌声の高さの平均」は,. 諸声位のサンプル 「氏名の発話の音声」を用. 歌い始めの声の高さ以外は,作曲者が指定した旋. いた.理由は,①氏名の発話の音声は自発的な発. 律の影響を大きく受ける.このように「歌声の高. 話の音声と同等の音声サンプルであること,②短. さの平均」は,伴奏歌唱であれ無伴奏歌唱であれ,. 時間で測定でき多人数を個別に対象とする研究に. 作曲者が指定した音高に大きく影響される.つま. 適切であること,などによる(詳細は,水嶋・大. り「歌声の高さの平均」は,歌い手の「歌声の高. 西・吉富(2003)を参照).. さ」をほとんど反映していない.したがって,「歌. 測定曲 「メリーさんのひつじ」と「げんこつ. 声の高さの平均」に代わる妥当性のあるサンプル. やまのたぬきさん」を用いた.この2曲の選曲理. が必要とされる.. 由は,音域が狭い,広い跳躍音程がない,曲が短. 第3に,「歌声の高さ」のサンプルとして開始. い,などから幼児にとっても歌いやすいと考えら. 音高を用いる理由を述べる.開始音高とは「ピア. れたことによる.わらべうたである「げんこつや. ノ・オルガンなどの伴奏を伴わずに歌う時の歌い. まのたぬきさん」を選曲した理由は,次の通りで. 始めの声の高さ(水嶋,2003,p.15)」のことで. ある.わらべうたの旋律は,日本語の抑揚に忠実. ある.無伴奏歌唱では,作曲者が指定した音高で. であり,その意味で西洋の曲である「メリーさん. 歌い始める必要はない.このため,歌い手は自ら. のひつじ」よりも話声位に近いことが予測される.. 決定する音高で歌い始めることができる.つまり,. このため,諸声位とわらべうたの開始音高の問に. 開始音高は,作曲者が指定した音高ではなく,歌. 顕著な差が生じれば,「話し声」と「歌声」の使. い手が決定する音高である.このことは,前述の. い分けをより強く支持するものであると考えたか. 「歌声の高さの平均」とは異なり,作曲者が指定 した音高の影響をほとんど受けないことを意味す. らである.. 歌唱練習3)対象とした保育園,幼稚園,小. るものである.さらに,開始音高は,練習の開始. 学校の教帥に質問した結果,すべての対象児が,. 音高の影響をほとんど受けないこと(吉富,. 測定曲の歌詞と旋律を知っているわけではないこ. 1985b),また,同一対象児内で変動が少なく安. とが分かった.このことから,録音時に曲を知ら. 定していること(吉富,1985b;吉富・森田,1984). ないために歌えない対象児がでることが予想され. が明らかにされている.これらのことから開始音. た.この理由から,対象児すべてに測定曲を知っ. 高は,歌い手の「一般的な歌声の高さ」を大きく. てもらうため歌唱練習を行うよう依頼した.歌唱. 107.
(5) 水 崎. 誠. 練習は,担任教師(幼児)と音楽専科の教師(児. 対象児が全く歌えない状況であっても,測定者が. 童)のもとに一斉咽で行われた.練習の内容は,. ともに歌うことはなかった.対象児が立った状態. トレーニング的な内容(フレーズ練習など)は一. で測定者と対面する形をとった.対象児の「話し. 切含めず,単に曲を歌うという簡単なものであっ. 声」と「歌声」をマイクロフォン(SHURE SM59). た.. とポータブルT)ATレコーダー(SONY TCT)r 練習の開始音高 歌唱練習では,教師のピアノ. 伴奏もしくは筆者の用意したカセットテープ伴奏. DlO)で録音した.録音の状況をビデオカメラ (Panasonic NVrC2)で録画した.なお,幼児. が用いられた.練習の開始音高を,「メリーさん. を対象とする録音に際し,筆者および測定補助者. のひつじ」ではA4に,「げんこつやまのたぬき. は,事前に囲を訪れラポール(本研究の場合,測. さん」ではA#4に設定した.2曲の音域を同じ. 定者と対象児との良好な関係)の形成に努めた.. 音高内に収めるためである.A4とA#4という高. また児童を対象とする録音に際し,「調査の結果. い音高で練習を行った理由は以下の通りである.. は,音楽の成績には影響しない」とあらかじめ告. 前述のように,先行研究において開始音高は,練. げた.. 習の開始音高の影響をほとんど受けないことが明. 音高の同定 氏名の発話の音声の平均音高を諸. らかにされている(吉富,1985b).一方,対象. 声位とし,測定曲の開始音部分(「メリーさんの. 児の開始音高が練習の開始音高と同一の結果も報. ひつじ」は「メー」,「げんつやまのたぬきさん」. 告されている(武田,1981)4).この場合,対象. は「げん」)の平均音高を開始音高とした.同定. 児が練習の開始音高を単に歌っただけなのか,そ. には,VisirPitch(KAY6095/6097改良型)とパ. れとも対象児が自ら選んだ音高が練習の開始音高. ソコン(NEC PCr9801BA)を用い,各対象児の. と偶然にも同一であったのかという2つの解釈を. 諸声位と開始音高を音高+cent6)として求めた.. 可能にする.したがって,この2つの解釈を防ぐ. 録音時期 A保育園は,2001年8月,B幼稚. ために,練習の開始音高を,先行研究で指摘され. 園は,2001年10月,C幼稚園は,2001年11月.. ている幼児・児童の開始音高の代表的範囲,すな. A小学校は2002年7月.. わちC4∼E4(水崎,2003)よりも著しく高い音 高に設定した. 結 果. 録音 対象児の所属する囲および′ト学校の静か. な部屋で1人ずつ行った.対象児の課題は,氏名 の発話と1から10までの数の呼称,「メリーさん. 開始音高の分布. 本研究では,対象児すべてに測定曲を知っても. のひつじ」の無伴奏歌唱,「げんこつやまのたぬ. らうため歌唱練習を行うよう依頼した.練習の開. きさん」の無伴奏歌唱,であっが).なお,1か. 始音高を「メリーさんのひつじ」ではA4に,「げ. ら10までの数の呼称については水嶋ら(2003)で. んこつやまのたぬきさん」ではA#4に設定した.. すでに報告しているため本研究では触れない.幼. 開始音高の分布を年齢別に示す(表1).開始音. 児を対象とした録音に関して,歌わない対象児,. 高が,練習の開始音高と同一であった者は,皆無. あるいは歌を忘れたと述べた対象児には,開始部. であった.. 分の歌詞のみを伝え,歌うことができるように努 めた.歌詞を伝える際,教示の声の高さが対象児. の開始音高に影響することを避けるため,抑揚を 付けず単調に伝えるよう努めた.児童には,歌詞. 諸声位と開始音高. 話声位と「げんこつやまのたぬきさん」および 「メリーさんのひつじ」の開始音高の平均値と標. が記載されているプリントを用意した.幼児・児. 準偏差を年齢別に示す(表2).諸声位と開始音. 童が無伴奏で1人で歌うことを原則としたため,. 高について,被験者問1要因(年齢4水準:年中. 108.
(6) 話し声と歌声の使い分けに関する横断的研究. 児,年長児,1年生,2年生)と被験者内1要因. た.. (課題3水準:話声位,「げんこつやまのたぬき. さん」の開始音高,「メリーさんのひつじ」の開. 諸声位と開始音高の差. 本研究は,「使い分けの指標」として諸声位と. 始音高)の2要因分散分析を行った.その結果,. 年齢の主効果(F[3,204]=6.53,♪=.00)と課. 開始音高の差を用いている.すなわち,諸声位と. 題の主効果(ダ[2,408]=97.80,♪=.00)および. 開始音高との問に差があることが確認されれば,. 交互作用(ダ[6,408]=7.86,♪=.00)のいずれ. それはその対象児が「話し声」と「歌声」を使い. も有意であった(以下の下位検定にはすべてライ. 分けていることを示すと考える.. アン法を使用し有意水準を5%とした).交互作. 「げんこつやまのたぬきさん」の開始音高と諸. 用が有意であったので,課題別に年齢の単純主効. 声位の差と,「メリーさんのひつじ」の開始音高. 果を調べた.その結果,諸声位では年齢間に有意. と諸声位の差の平均値と標準偏差を年齢別に示す. 差は認められず,開始音高において,年中児,年. (表3).. 長児,および1年生よりも2年生の方が有意に高. 諸声位と開始音高の差について,被験者間1要. かった.次に,年齢別に課題の単純主効果を調べ. 因(年齢4水準:年中児,年長児,1年生,2年. た.その結果,年中児と1年生では,諸声位およ. 生)と被験者内1要因(課題2水準:「げんこつ. び「げんつやまのたぬきさん」よりも「メリーさ. やまのたぬきさん」の開始音高と諸声位の差,「メ. んのひつじ」の方が有意に高く,年長児と2年生. リーさんのひつじ」の開始音高と諸声位の差)の. では話声位に比べて,「げんこつやまのたぬきさ. 2要因分散分析を行った.その結果,年齢の主効. ん」と「メリーさんのひつじ」の開始音高がとも. 果(ダ[3,204]=10.99,♪=.00)と課題の主効. に有意に高かった.また,年中児,年長児,およ. 果(ダ[1,204]=49.00,♪=.00)が有意であった.. び1年生では,「げんこつやまのたぬきさん」よ. 交互作用は有意ではなかった.諸声位と開始音高. りも「メリーさんのひつじ」の方が有意に高かっ. の差は,年中児,年長児,および1年生よりも2. 表1開始音高の分布a). G#3 A3 A#3 B3 C4 C#4 D4 D#4 E4 F4 F#4 G4 G#4 A4 A#4 B4 C5. 年中児(タZ=58) 0 1 5 8 7 12 10 5 6 1 3 0 0 0 0 0 0 「メリーさんのひつじ」 年長児(タZ=72)1 0 2 7 5 15 21 9 8 3 0 0 0 0 1 0 0 の開始音高. 1年生(タZ=38)0 0 3 2 8 8 11 4 11 0 0 0 0 0 0 0. 2年生(タZ=40) 0 0 0 1 3 5 7 7 9 6 2 0 0 0 0 0 0 年中児(タZ=58)1 3 7 10 10 6 7 5 6 1 2 0 0 0 0 0 0. 「げんこつやまのたぬき 年長児(タZ=72)1 2 3 8 14 14 15 8 3 3 0 0 1 0 0 0 0 さん」の開始音高. 1年生(タZ=38)0 3 3 4 8 11 3 5 1 0 0 0 0 0 0 0 0. 2年生(′Z=40) 0 0 1 0 6 6 8 5 8 4 0 11 0 0 0 0. a)対象児から得られた結果に基づき,PtI捨五入して近似した音高に割り当てた。たとえばC4+49centの場合はC4,C4+50centの 場合はC#4として入力した。. 表2 話声位と開始音高の平均値(標準偏差). 表3 話声位と開始音高の差の平均値(標準偏差). 年中児 年長児 1年生 2年生 「メリーさんのひつじ」C#4+22cent C#4+72C#4+11D#4+02. の開始音高. (2.15半音)(1.99)(1.57)(1牒3). 「げんこつやまのたぬ C4+67cent C#4+16 C4+42 D4+55 きさん」の開始首高 (2.41半音)(2.01)(1.78)(2.01). 年中児 年長児1年生 2年生 「メリーさんのひつじ」の 0.88半音1.401.14 2.47. 開始音高と話声位の差. (1.58半音)(1.67)(1.35)(1.20). 「げんこつやまのたぬきさん」0.34半音 0.83 0.451.99. の開始首高と諸声位の差. (1.76半音)(1.78)(1.56)(1牒3). C4+33cent C4+33 B3+97 C4+56 (2.44半音)(2.01)(2.01)(1.42). 109.
(7) 水 崎. 誠. 年生で大きかった.また,すべての年齢において,. 高さ(水嶋,2003,p.15)」のことである.無伴. 「げんこつやまのたぬきさん」の開始音高と話声. 奏歌唱では,作曲者が指定した音高で歌い始める. 位の差よりも「メリーさんのひつじ」の開始音高. 必要はない.このため,歌い手は自ら決定した音. と諸声位の差の方が大きかった.. 高で歌い始めることができる.つまり,開始音高. は作曲者が指定した音高ではなく,歌い手が決定 考 察 本研究は,年中児,年長児,1年生,および2. する音高である.したがって,歌い手は必ずしも. 話声位と近似した音高,あるいは同一の音高で歌 い始める必要はない.しかしながら,本研究の年. 年生を対象として,「話し声」と「歌声」の使い. 中児,年長児,および1年生が自ら決定した音高. 分けの実態を明らかにするために行われた.「使. は,諸声位に近似した音高,あるいはほぼ同一の. い分けの指標」には,諸声位と開始音高の差を用. 音高であった.その結果,諸声位と開始音高の差. いた.ここでは,諸声位と開始音高の差について. は小さかった.つまり,これらの結果は年中児,. 考察をすすめる前に,練習の開始音高が対象児の. 年長児,および1年生が歌う際,「話し声」と「歌. 開始音高に影響したかどうかについてまず検討す. 声」を十分に使い分けていないことを意味してい. る.. る.. 本研究の結果(表1)から,対象児の開始音高. 次に,2年生の結果を検討する.「げんこつや. が,練習の開始音高と同一であった者は皆無であ. まのたぬきさん」と諸声位の差の平均値は1.99半. ることが示された.この結果は,すべての対象児. 音であり,「メリーさんのひつじ」と話声位の差. が,練習の開始音高を単に歌ったのではないこと. の平均値は2.47半音である.このように諸声位と. を示している.すなわち,自ら決定した音高で歌っ. 開始音高の差の平均値は,およそ2半音である.. た可能性がきわめて高いということである.この. そしてこれらの差は,年中児,年長児および1年. ことから,練習の開始音高が対象児の開始音高に. 生よりも有意に大きい.表2の結果から,諸声位. 影響した可能性はきわめて小さいと考えられる.. では年齢間に有意差は認められず,開始音高にお. 以下,表3を中心に話声位と開始音高の差に着. いて,年中児,年長児,および1年生よりも2年. 目して考察をすすめる.まずはじめに,年中児,. 生の方が有意に高かった.したがって,2年生の. 年長児,および1年生の結果を考察する.「げん. 諸声位と開始音高の差が有意に大きくなったこと. こつやまのたぬきさん」の開始音高と諸声位の差. は,諸声位の変化によるものではなく,開始音高. の平均値は,年中児0.34半音,年長児0.83半音,. の変化によるものであると言える.これらのこと. 1年生0.45半音である.また「メリーさんのひつ. から,話声位と開始音高の差が年中児,年長児,. じ」の開始音高と諸声位の差の平均値は,年中児. および1年生よりも2年生で大きい原因は,2年. 0.88半音,年長児1.40半音,1年生1.14半音であ. 生の対象児が「話し声」と「歌声」を使い分けて. る.このように年中児,年長児,および1年生で. いるからであると言える.. は,諸声位と開始音高の差は′トさい.特に,「げ. さらに,本研究の結果を諸声位と「げんこつや. んこつやまのたぬきさん」の開始音高と諸声位の. まのたぬきさん」の開始音高に着目して検討する.. 差は,年中児,年長児,および1年生のいずれに. 前述のように,「げんこつやまのたぬきさん」は. おいても1半音以下である.この結果が何を意味. わらべうたである.わらべうたの旋律は,日本語. しているのかを再度,開始音高の定義と特質を取. の抑揚に忠実であり,その意味で西洋の曲である. り上げて考察する.. 前述のように,開始音高とは「ピアノ・オルガ ンなどの伴奏を伴わずに歌う時の歌い始めの声の. 110. 「メリーさんのひつじ」よりも諸声位に近いこと. が予測される.すなわち「メリーさんのひつじ」 よりも「げんこつやまのたぬきさん」の方が,話.
(8) 話し声と歌声の使い分けに関する横断的研究. 声位との関連性が強いと考えられる.このため,. 話声位とわらべうたの開始音高の間に顕著な差が 生じれば,「話し声」と「歌声」の使い分けをよ. 1984)のみならず,課題曲を歌唱させる調査では,測. 定の前にあらかじめ歌唱練習を行うことが一般的であ る.. 4)武田(1981)では,対象児の開始音高が練習の開始. り強く支持するものであると考えられる.本研究. 音高D4と同じであった者が,対象児4,5歳児合計で. の結果は,年中児,年長児,1年生,および2年. 305人中12人であった(武田,1981,表12に基づき筆者. 生のすべてにおいて,「げんこつやまのたぬきさ. が算山した).この結果は,対象児が練習の開始音高そ. ん」の開始音高は,「メリーさんのひつじ」の開 始音高よりも諸声位に近いことを示した.また,. 年中児と1年生では諸声位と「げんこつやまのた ぬきさん」の開始音高の問には有意差は認められ ず,2年生では後者が有意に高かった.この結果. のものを学習し単に歌っただけなのか,対象児が自ら. 選んだ音高が練習の開始音高と偶然にも同一であった のかという2つの解釈を可能にする例である. 5)木下(1998)からの継続研究として,児童にはその 他に詩の朗読を課した.この結果は改めて報告する. 6)centとは,平均律音階の半音の100分の1の音程のこ. とである.1半音=100centである.たとえば,B3+. は,2年生の対象児が「話し声」と「歌声」を使. 82centと表記された場合は,B3というよりもC4に近. い分けていることをより強く支持するものである. 似した音高と考えることができる.. と考えられる.. それでは,なぜ「話し声」と「歌声」の使い分 文 献. けは,1年生と2年生の問で生じたのであろうか.. 現在の段階では,具体的に何が影響したかは断言 できないが,今後の研究のために推測する.本研. 究の1年生の録音は,就学して4か月後(7月) に行われたことを考慮すると,′ト学校での歌唱経. 験よりも就学前教育での歌唱経験を反映している と考えられる.したがって,2年生で「話し声」. と「歌声」の使い分けが示された背景には,音楽 の授業を通してより専門的に歌唱学習をしたこと. が大きく影響したと考えられる.この推測を実証 するためには,まず「話し声」と「歌声」の使い 分けに歌唱指導が影響するかどうかを検討する必. Cooper,N.A.(1995)Children’ssingingaccuracyasa functionofgradelevel,gender,andindividualversus unisonsinging.Journalq[Researchin MusicEduca− ′わプ7,Vol.43,No.3,pp.222231. Flowers,P.].,&DunneSousa,D.(1990)Pitchpattern accuracy,tOnality,andvocalrangeinpreschooIchil− dren’ssinging.JournalqFResearchinA4usicEduca− ′わプ7,Vol.38,No.2,pp.102114. Goetze,M.,&Horii,Y.(1989)Acomparisonofthepitch. accuracyofgroupandindividualsinginginyoung Children.BulletinoftheCounciljbr Researchin 几動∫Zc且d〟Cβ′わプ7,No.99,pp.5773.. Green,G.A.(1990)Theeffeetofvoealmodelingon. pitchmatChingaccuracyofelementaryschooIchil−. 要があるだろう.この点に関しては,今後検討し. (ll▲し用.ノりJ/川‘//り′〃‘・∫=/ノ・lリJ/JJ.1/J/∫/l・J・「(/J/√〟//りJJ.. ていきたい.. Vol.38,No.3,pp.225231. Green,G.A.(1994)Unisonversusindividualsinging and elementary students’vocalpitch accuracy. 注. ノりJ/川‘//りイ〃‘・∫=/ノ・lリJ/JJ.1/J/∫/lイ「(/J/l・‘/〃りJJ.\’い卜1ご.. No.2,pp.105114. 1)本研究における音高の表記は,440HzをA4とする平 均律に基づいている.なお音高は,A3,A#3,B3,. 畑玲子(1973)「幼児の歌唱能力に関する一考察−その2 −」『聖和女子大学論集』第3号,pp.7384.. Killian,].(1999)Adescriptionofvocalmaturation C4,C#4,D4,D#4,E4,F4,F#4,G4,G#4, A4,の順に高くなる. 2)「話し声の高さ」のことを「話声位」と呼ぶ.このた め,本来なら「話し声の高さの平均」を「話声位の平均」 と表記すべきであるが,本研究では記述の煩雑さを防 ぐため「話声位」と省略して記す. 3)開始音高を検討した研究(たとえば岸,1985,;武田,. 1981;Wurgler,1990;吉富,1985b;吉富・森田,. amongfifthandsixthgradeboys.JournalofRe− ∫βαγCゐわ7肋∫gC且d〝C〟Jgoプ7,Vol.47,No.4,pp.357 369. 木下文(1998)「児童の声域に関する基礎的研究一小学 校中・高学年児童を中心として−」『平成9年度 広島 大学大学院教育学研究科修十論文抄』pp.241244. 岸啓子(1985)「幼児の無伴奏歌唱の研究一転調について. 111.
(9) 水 崎 −」『愛媛大学教育学部紀要 第Ⅰ部 教育利づ㌔ 第31. 誠 意富功修(1985b)「幼児の無伴奏歌唱における開始音の. 巻,pp.111126.. 研究」『教育学研究紀要(中匡肝射司教青学会)ご第30巻,. 水暗誠(2003)「幼児・児童の無伴奏歌唱における開始音 の音高一・犯行研究の検討を通して−」『広島大学大学院. pp▲46S471▲. 吉富功修・森田尚子(1984)「幼児・児童の無伴奏歌唱に. 教育学研究科音楽文化教育学研究紀要』第ⅩⅤ巻,. おける開始音についての研究」『愛媛大学教育実践研究. pp.1525.. 指導センター紀要』第2号,pp.1322.. 水崎誠(2004)「幼児・児童の話声位と歌唱教材曲の音域 の重心の検討」『全国大学音楽教育学会研究紀要』第15 (函館校講師). ロ リノ,pp.8392. 水崎誠・大西潤一・吉富功修(2003)「幼児・児童の話声. 位に関する研究一話声位測定における音声サンプルの 選択−」『日本教科数青学会誌』第25巻,第4号, pp.6978. Moore,R.S.,&Kemp,A.(1991)Effectsofnationality. 付記:本稿は,日本音楽教育学会第33回大会(平 成14年11月10日,金城学院大学)の口頭発表をも とに加筆修正したものである.. and genderonspeakingfrequeney,Singingrangeand preferredtessituraofchildrenfromAustralia,Eng− landandtheUnitedStates.Cdnadian.hurna10fRe− ∫β〟γCゐわ7 肋∫gC且d〝Cα′わプ7,Vol.33,pp.149156. 日本音聾学令(編)(1976)『音聾撃大辞典ご 三修社.. 法岡淑子(1992)「「音高はずれ」の歌唱をする子どもの 実態と要因」『滋賀大学教育学部紀要 人文科学・社会. 科学・教育科学』第42号,pp.179193. 武田道子(1981)「幼児の自由唱にみる音程・声域・調性・. 発声の問題」『静岡大学教育学部研究報告 数科教育学 篇』第13号,pp.159169. Trollinger,Ⅴ.L.(2003)Relationshipsbetweenpitch matchingaccuracy,SpeeChfundamentalfrequency, SpeeCh range,age,and genderin American EnglishSpeakingpreschooIchildren.JournalqrRe− ∫e〟γCゐわz肋∫∠c且d〝C(7′わ′Z,Vol.51,No.1,pp.7894.. Welch,G.F.,Sergeant,D.C.,&White,P.].(1997)Age, SeX,andvocaltaskasfactorsinsinging“intune durningthefirstyearsofsehooling.Bulleti)1qFthe C(フ〝プ7CgJノわγ月β∫βαγCゐわ7肋∫gC且d〝C〟′goプ7,No.133, pp.153160.. Welch,G.F.,&White,P.(1993/1994)Thedeveloping VOice:educationandvocalefficiencyaphysicalpers− pective.Bulletinq/theCounciljbrResearchinMusic 且効用血叫No.119,pp.146156. Wurgler,P.S.(1990)Aperceptualstudyofvocalreg− istersinthesingingvoicesofchildren.(TheOhio StateUniversity,DoctoralDissertation)University Microfilms OrderNo.9111820.. 吉富功修(1983)「幼児の歌唱可能声域の研究一課題曲を 用いて−」『愛媛大学教育学部紀要第Ⅰ部教育科学』. 第29巻,pp.257265. 吉富功修(1985a)「ノト学校低学年児童の歌唱可能声域の 研究一課題曲を用いて−」『広島大学教育学部紀要 第. 2部』第33号,pp.127135.. 112.
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