Author(s)
藤澤, 宜広
Citation
沖縄大学法経学部紀要(29): 1-15
Issue Date
2018-09
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/23426
1.はじめに 大学教育におけるアクティブ・ラーニング(能動的学修)の重要性は広く認知されつつある。 文科省高等教育局(2016)は、大学における教育内容等の改革状況について調査を行いその結果 を取りまとめている。それによると、全国の約3分の2の大学でアクティブ・ラーニングを効果 的にカリキュラムに取り組むための検討が行われている。 しかし一方で、アクティブ・ラーニングを推進するためのワークショップまたは授業検討会を 実施しているのは全国の約3分の1の大学に過ぎず、大学としてアクティブ・ラーニングをカリ キュラムに取り組みたいという改革の意欲に対して、各教員の資質向上に向けた具体的な取り組 み等が十分なされていない様子が伺える。 本稿では、筆者が数年にわたって試行錯誤しつつ実践しているアクティブ・ラーニングのうち、 ICTを活用した事例について紹介し、その長所や課題を考察することでICTを活用したアクティ ブ・ラーニングの汎用性拡大の可能性を検討する。第2節では、アクティブ・ラーニングとは何 かについていくつかの定義を比較検討し、授業の形態等に応じてアクティブ・ラーニングを類型 化する。第3節では、本稿で取り上げる2つのツールについて紹介し、類型化された授業との関 係や各ツールの認知度について概観する。第4節では、2つのツールの活用方法を紹介するとと もに、その有用性について考察を加える。第5節では、今後の可能性と課題について言及する。 2.アクティブ・ラーニングとは アクティブ・ラーニングという言葉が行政用語として初めて使用されたのは、文科省中央教育 審議会(2012)においてである。それによると、アクティブ・ラーニングとは、教員による一方 向的な講義形式の教育とは異なり学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総 称と定義される1 。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、 【論文】
経済学教育におけるICTの活用についての考察
-沖縄大学におけるペア・デックとグーグル・クラスルームの比較・活用-
A Study on the Effectiveness of Utilizing ICT in Economics Education:Based on a Comparison Between Pear Deck and Google Classroom
藤 澤 宜 広*
Nobuhiro FUJISAWA
知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図るとされ、発見学習、問題解決学習、体験学習、調査 学習等が含まれる。また、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワー ク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法とされている。 一方、高橋(2017)は、アクティブ・ラーニングの原典ともいえる文献としてBonwell and Eison(1991)を挙げている。彼らによると、アクティブ・ラーニングとは、学生を何らかの作 業に取り組ませ、その作業を行っていること自体について考えさせるすべてのことである。松下 (2015)は、これら両者の定義を比較した上で、文科省の定義は、教員による一方向的な講義形 式の教育との対比が明確に打ち出されていることを特徴として挙げている。 また、溝上(2014)は、アクティブ・ラーニングの定義として、一方的な知識伝達型の講義を 聞くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習であり、能動的な学習 には、書く・話す・発表する等の活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う、と 図表1 アクティブ・ラーニング型授業の位置づけと類型 授業の形態・類型 授業の特徴 伝統的授業 講義型 教員から学生への一方向的な知識伝達型講義。教員主導 講義中心型 話す・発表するといった活動はなく、コメントシート等を用いた教員 -学生の双方向性を実現する講義中心の授業。教員主導 アクティブ・ラーニ ン グ(AL) 型 授 業 講義+AL型 教員主導であるが、講義だけでなく、学生の書く・話す・発表する等の活動もある授業 AL中心型 徹底的に学習パラダイムに基づいた学生主導の授業 溝上(2016)をもとに作成 図表2 アクティブ・ラーニング型授業における手法・技法の類型 タイプ 講義型授業 アクティブ・ラーニング型授業 主 導 教員主導型 教員主導・講義中心型 学生主導型 A L 度 - 低 中~高 高 活 動 聞く +書く +書く・話す・発表する +書く・話す・発表する 手 法 技 法 ・話し方 ・板書の仕方 ・資料の見せ方 ・実物やモデルの提示 等 ・出席カード ・コメントシート ・小テスト ・クリッカー技術 ・宿題 ・授業通信 等 ・シンクペアシェア ・ラウンドロビン ・ディスカッション ・プレゼンテーション ・リフレクションシート ・体験学習 ・反転授業 等 ・協同・協調学習 ・調べ学習 ・ディベート ・話し合い学習法 ・知識構成型ジグソー法 ・ピアインストラクション ・Project/Problem Based Learning
・Content Based Instruction ・Business Leadership
Program
等
している。成田(2016)は、この定義には、アクティブ・ラーニングを広めようという意図が込 められているミニマムスタンダードとしての定義であると指摘している。 実際、溝上(2016)は、いわゆる講義科目のアクティブ・ラーニング型授業への転換を大学教 育におけるアクティブ・ラーニング改革のターゲットに挙げている。アクティブ・ラーニング型 授業とは、「講義+アクティブ・ラーニング」であり、彼は、授業形態を類型化する中で、例え ば講義の中に2割くらいのアクティブ・ラーニングを入れて、8対2の割合で講義科目をアクティ ブ・ラーニング型にしていく、といったことを提唱している(図表1)。本稿における考察も同 様の視点に基づいており、いわゆる講義科目のアクティブ・ラーニング化を目指した取り組みで ある2 。 溝上(2014)はまた、アクティブ・ラーニング型授業における手法・技法・形態の類型化も提 示している(図表2)。図表1と図表2には厳密には対応しておらず、分類上の曖昧さが伺えるが、 変わりゆく授業の多様性を反映したものと考えられる。 3.ICT活用例としてのペア・デックとグーグル・クラスルーム 本節では、ICTを活用する手段の例として、ペア・デック(Pear Deck)とグーグル・クラスルー ム(Google Classroom)について概観し、アクティブ・ラーニング型授業との関連に触れる3。 まず、アクティブ・ラーニング型授業との関連を先の図表2を用いてみておくと、ペア・デック はクリッカー技術のひとつであり、「教員主導・講義中心型」に分類される4 。グーグル・クラスルー ムはeラーニング・プラットホームのひとつで、反転授業との親和性が高いため、本稿では、同 様に「教員主導・講義中心型」に分類することとする5 。 次に、それぞれのツールについて概観する。ペア・デックでは、教員は、選択問題の提示に加 え、記述式の回答や数字による回答、描画、画像への書き込み等を学生に指示することができる、 幅広い手法を備えた双方向型のツールである。回答は匿名であることが特徴で、より心理的安全 性を備えたツールと考えられる6 。形成的評価に役立ち、プレゼンテーション用スライドを双方 向化させることや、グーグル・アカウントとの連携も可能となっている7 。 一方、グーグル・クラスルームでは、教員は授業ごとに作成した「クラスルーム」を通じて課 題を設定、整理し、効率的にフィードバックを提供し、クラスとのコミュニケーションを円滑に するのに役立つと考えられる。グーグル・アカウントを持っていれば個人でも利用できる。学生 は グーグル・ドライブで学習内容を管理し、課題を終えたら提出したり、教員や他の学生との やり取りも直接行えたりするのが特徴で、フェイスブック(Facebook)とは異なり、個人情報 を共有しない点において教育に特化したツールとなっている。授業ごとにクラスを運営すること ができ、学期が終われば閉鎖することやアーカイブ化することも可能である。 ここで、それぞれのツールについて、2013年3月1日から2018年3月1日の5年間を対象に、 グーグル・トレンド(Google Trends)を用いて検索回数の推移を見ることで認知度を確認して おく8。まず、グーグル・クラスルームについて確認すると、グーグル・トレンドの「地域別の インタレスト」機能によると、アメリカを中心にニュージーランド、カナダ、オーストラリア、 香港等で利用されている9 。
図表3 世界におけるICTツール各5種の検索回数の推移(最大値=100)
図表5 世界におけるICTツール各3種の検索回数の推移(最大値=100)
「人気度の動向」機能を用いて、広く認知されていると考えられるインスタグラム(Instagram) 及びツイッター(Twitter)、さらには、代表的なeラーニング・プラットホームとしてムードル (Moodle)と比較したのが図表3から図表6である10 。図表3において、世界全体を対象とした 場合、インスタグラムやツイッターと比べてグーグル・クラスルームの認知度は低いことがわか る11 。日本においてはその傾向はさらに顕著で、図表4においてツイッターと比較してその認知 度は0となっている。 しかし、ムードルに対象を絞って比較すると、世界と日本で傾向に違いがみられる。図表5に あるように、世界において、200カ国以上で使用されているとされるムードルのトレンドが一定 もしくは低下傾向にあるのに対し、グーグル・クラスルームは2015年半ばを境に認知度が逆転 し、2017年半ば以降は認知度に3倍以上の違いが観察されている12。これに対し、日本では、図 表6の通り、グーグル・クラスルームの認知度は依然として低い。但し、その認知度は上昇傾向 にあると考えられ、今後急速に認知度が上昇していく可能性は否定できない。特に、2017年3月 以降は個人アカウントでも使用可能になったため、今後活用される度合いは高くなると予想され る13。 グーグル・クラスルームに対して、ペア・デックの認知度は、世界においても日本国内におい ても低調なままである。考えられる理由として、ペア・デックは本稿の執筆時点において英語以 外の言語に対応していないこと、プレミアム版は有料であること(年間99ドル99セント)、機能 が順次追加され開発途上とみられること等が挙げられる14 。なお、ペア・デックは、アメリカを 中心に、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア等の英語圏で使用されている。 4.ペア・デックとグーグル・クラスルームの活用状況及び有用性 本節では、筆者が担当している授業における両ツールの活用状況の概観を通じて、クラスサイ ズとの関係等の有用性や学生からの反応を紹介する。図表7にはクラスサイズの大きい順に担当 科目を行に配置し、列には各ツールの活用状況を○(利用している)、✕(利用していない)で 表記している。なお、他に利用しているツールとして、ライン(LINE)の活用状況についても 記載している。フェイスブックについても数年間活用していた時期があるが、個人情報の取り扱 いに関する懸念が払拭されず、教育目的に特化したグーグル・クラスルームが利用可能になって 以降はその活用を中止した15 。 まず、ペア・デックは中規模(40名以上80名未満)から大規模(80名以上)クラスにおいて有 用であると考えられる16 。なぜなら、一般にクリッカー技術はクラスサイズの制約を受けない形 で双方向型の即時的なやり取りを可能とするからである。むしろ、クラスサイズが大きいほど、 意見の集約が瞬時に図られると同時に意見の多様性も把握することができる。そのため、クラス サイズが小さい場合や演習科目についての効果は小さく、学生に直接意見を求める方が早いと考 えられる。懸念される点としては、学生全員がネットに接続可能ななんらかの端末を持っていな ければならない。筆者が担当する授業では、事前に申し出た希望者にiPadを貸し出している17。 次に、グーグル・クラスルームについては、小規模(40名未満)において特に有用と考えられ る。クラスサイズに制限はなく、中・大規模クラスにおいても利用は可能であるが、課題の配布 や回収、添削、さらには学生との個別のやり取りを考慮すると、中・大規模クラスにおいては運
営上のコストが発生しやすいと考えられる。例えば、経済学Ⅰ・Ⅱの授業においては、反転授業 を導入し、事前に学生から提出された課題を授業後に採点してコメントをつけて返却する作業を 行ってきたが、40名を超えると相当に大変になることは想像に難くない。 一方、演習科目や、課題を頻繁に出すことが多い語学系科目では、グーグル・クラスルームの 有用性は高い。参考文献の添付や動画へのリンクを提供することも可能であり、掲示板の役割も 果たしやすい。フェイスブックやラインと異なり、プライベートからは分離され教育目的に特化 されたツールであることから、履修登録した学生にグーグル・クラスルームへのログインを履修 条件とすることも可能である。 最後に、ラインについては、大学のメールを頻繁に確認しないという学生に対して有効で、即 時に回答が得やすいツールと考えられるため、急な告知や、学生との個別のやり取りに利用しや すいと考えられる。また、海外研修であるスタディー・ツアーにおいては、学生の安全確保のた めにラインの無料通話機能を必要としていることから、学生の了解を得てIDを交換しルーター を所持させている18。演習科目についてもライン・グループを形成しているが、参加は任意とし ている19 。 以上のようなクラスサイズと各ツールの有用性を概念図として示したのが図表8である。ペ ア・デックはクラスサイズが大きくなるほど有用なツールとなる一方、グーグル・クラスルーム はクラスサイズが大きくなるにつれて教員側の運営コストの面で有用性が失われていく。ライン やフェイスブックについては、プライバシーの問題を解決しない限り、クラスサイズが大きくな るにつれて運営上の問題は急激に大きくなる。 図表9には、ペア・デックとグーグル・クラスルームについて、導入のメリットとデメリッ トをまとめた。まず、ペア・デック導入における最大のメリットのひとつは、形成的評価によ る学力の向上にあると考えられる。参加学生は使い慣れた自前の端末で楽しみながら理解を確 認することができる。教員も、学習効果に関する情報を観察可能かつ測定可能(observable and measurable)な形で得ることができる。さらに、出席管理にも活用できる。一方、ペア・デッ ク導入のデメリットには、参加に消極的な学生へのフォローや技術的なサポート、端末の貸出や 授業準備の手間が考えられる。また、教員がペア・デックの使用に慣れておく必要もある。 グーグル・クラスルーム導入における最大のメリットのひとつは、課題の提示や情報の提供 等、教育目的に特化した掲示板機能の活用と考えられる。プロジェクト型学修(Project-based 図表7 各授業におけるICTの活用状況 科目(クラスサイズ(概数)) ペア・デック グーグル・クラスルーム ライン 経済学入門Ⅱ(120名) ○ ✕ ✕ 経済学Ⅰ・Ⅱ(40名) ○ ○ ✕ 経済英語(20名) ✕ ○ ✕ 演習科目(15名) ✕ ○ ○(任意) スタディー・ツアー(5名) ✕ ○ ○
learning: PBL)での活用も有益と考えられる。一方、グーグル・クラスルーム導入のデメリッ トには、利用者はグーグル・アカウントを取得していることが前提となっており、技術的なサポー トを求められる可能性がある。クラスサイズが拡大するにつれて、課題の添削や返却等の授業負 担が過重になる恐れがある。その他、掲示板機能での指示は一方的になる懸念もあることから、 対面でのフォローやメール等との併用が好ましいと考えられる。 図表8 クラスサイズとツールの有用性との関係 小規模 (1 ~ 39) 中規模 (40 ~ 79) 大規模 (80 ~ ) クラスサイズ 効果 ペア・デック グーグル・ クラスルーム ライン/ フェイスブック 図表9 導入のメリットとデメリット ペア・デック メリット デメリット ・大規模クラスを双方向型に ・スマホ端末を活用 ・形成的評価が可能 ・学生の反応は概ね良好 ・出席管理に活用可能 ・参加に消極的な学生も ・端末のない学生へiPad貸与 ・授業時間を取られる ・それなりに準備時間がかかる ・プレミアム版有料 グーグル・クラスルーム メリット デメリット ・課題提示や締め切りの設定 ・情報(教材、イベント等)提示 ・全員参加 ・スマホアプリあり ・他の教員とのコラボレーション ・人数が多くなると負担大 ・技術的なサポート必要な学生も ・権威的、一方的になる恐れも ・ライン、メールとの併用が効果的 ・グーグル・アカウントが必要
本節の最後に、ペア・デック導入効果について考察する20。導入効果の代理変数として、本学 授業評価アンケート結果を用いて、「経済学入門Ⅱ」について、ペア・デック導入前後の各2年 間における総合満足度(5段階評価)及び回答者数の推移と主な自由記述内容を紹介する21,22 。 図表10は、導入前後を含む過去4年間の推移を表している。図表11は、図表10をグラフ化したも ので、図表12は、導入前後での変化を平均値で表している。 図表11 ペア・デック導入前後における総合満足度及び回答者数の推移(グラフ) 0 20 40 60 80 100 120 4 4.1 4.2 4.3 4.4 4.5 4.6 導入前回答者数 導入後回答者数 導入前総合満足度 導入後総合満足度 図表10 ペア・デック導入前後における総合満足度及び回答者数の推移(表) 年 度 期別 総合満足度 回答者数(人) ペア・デック導入 201422 前期 4.2 57 導入前 後期01 4.3 52 後期02 4.5 49 2015 前期 4.3 80 後期 4.2 80 2016 前期 4.3 87 導入後 後期 4.6 86 2017 前期 4.4 98 後期 4.4 94 図表12 ペア・デック導入前後における総合満足度及び回答者数の変化(平均値) ペア・デック 平均総合満足度 平均回答者数(人) 導入前 4.30 63.60 導入後 4.43 91.25
図表11および12からわかるように、ペア・デック導入後(2016年度、2017年度)の総合満足度は、 導入前(2014年度、2015年度)のそれに比べて全体として底上げされている。具体的には、図表 12の通り、ペア・デック導入後の総合満足度は、導入前と比較して平均して0.13ポイント改善し ていることがわかる。学期ごとに学生は入れ替わる等、厳密な意味での比較は難しいものの、授 業内容に大幅な変更がないことに鑑みれば、ペア・デックの導入には一定の効果があったことが 見込まれる。 次に、クラスサイズとの関係をみておく。一般に、クラスサイズと授業評価の高さとの間には 負の相関関係があるとされているが、筆者のクラスにおいても、回答者数が少ないクラスでは総 合満足度が高い傾向があり、概ね負の相関関係が伺える24。しかしながら、図表12を用いて、ペア・ デック導入前後で両者の関係を比較すると、導入後の平均回答者数は、導入前と比べて30名近く 増加している。クラスサイズが1.5倍程度に増大しているにも関わらず、総合満足度が改善して いることからも、ペア・デック導入の効果が伺える25。 加えて、本学の授業評価アンケートには、この授業で良かったと思う点と良くなかったと思う 点についての自由記述欄がある。ペア・デック導入後の2年間について、ペア・デックに関する 自由記述欄をまとめたのが図表13である。まず、記述件数についてみてみると、良かったと思う 図表13 授業評価アンケートの自由記述欄におけるペア・デックに関する記述件数と内容 年度 期別 良かったと思う点(件) 良くなかったと思う点、 改善すべきと思う点(件) 2016 前期 12 4 後期 8 1 2017 前期 6 1 後期 27 4 合計(件) 53 10 具体的意見 (学習の効果について) ・習ったことをクイズ形式で復習できる ・理解度を確認できる (学生の意見について) ・みんなの前では言えない質問ができる ・学生が多い中で意見できる機会がある ・他の人の意見がわかる ・すぐにみんなの意見のまとまりがわかる (授業への参加について) ・授業に参加している実感がある ・全員が参加できる ・積極的に取り組める ・楽しく授業を受けられる ・学生が授業に参加できる割合が高い (使用感について) ・使いやすい ・自分のスマホが使える (目新しさについて) ・新しい授業の形 ・スマホを使った授業は他にはなく楽しい (使い方について) ・やり方がわからない ・ログインできない ・説明が不十分 ・接続できないときがある (使用感について) ・使いづらい ・面倒くさい (使用方法について) ・もう少し答えを考える時間がほしい ・スマホで別のことをしている人がいる
点が良くなかったと思う点を大きく上回っており、概ね参加学生からの評判はよいと考えられる。 ペア・デック導入当初の2016年前期には、筆者本人が使い慣れていなかった点もあり、ログイン 方法の説明や回答までの待ち時間の設定等について指摘を受ける結果となった。そのため、ペア・ デックに関する記述の約4件に1件が否定的な記述となっていた。しかし、アンケート結果を受 け改善し、また次第に使い慣れたこと等から、直近の2017年度後期には良かったと思う点は当初 の2倍以上の27件となり、否定的な記述は約8件に1件にまで減少した。2年間の平均でも6件 中5件で好意的な評価を得られた。 具体的な意見として、良かったと思う点を大きく5つに分類すると、学習の効果があり、匿名 のため自分の意見を伝えやすいと同時に周りの意見を知ることができ、能動的に授業へ参加して いる実感を持ち、自分の端末で使いやすい環境で、新しい授業の形を楽しんでいることがわかる。 一方、良くなかったと思う点からは、ログインに至るまでの技術的なサポートや、ログイン後の 使用方法についてのフォローの重要性が確認される。 5.おわりに 本稿では、筆者が数年にわたって試行錯誤しつつ実践してきたアクティブ・ラーニングのうち、 ICTを活用した事例について紹介し、その特徴や課題を考察することでICTを活用したアクティ ブ・ラーニングの汎用性拡大の可能性を検討した。最後に、アクティブ・ラーニングの今後の可 能性について言及したい。大学現場に学生主導型のアクティブ・ラーニングを一斉に導入するこ とは、教員の持つ技術の面でも、組織的なサポートの面でもハードルが高いと考えられる。従っ て、アクティブ・ラーニングの度合いを次第に高める中で教員と学生が共に学べるよう、当面は 教員主導・講義中心型のアクティブ・ラーニングの浸透を図ることが期待される。 その処方箋としては、具体的には、ICTを活用したブレンド型学修の浸透が期待される。森・ 溝上(2017)によると、ブレンド型学修とは、対面授業による学修とオンラインによる学修を組 み合わせることで学修効果を高める学修形態である。本稿で紹介したペア・デック等のクリッカー 技術もこれに含まれるが、授業に取り入れることで、8対2の割合で講義科目をアクティブ・ラー ニング型にしていく、といったことが比較的簡単に可能となる。 次に、ICTを活用してアクティブ・ラーニングの度合いを高める学修方法として、ブレンド型 学修のうち反転授業に注目が集まっている。山内・大浦(2014)の定義によると、反転授業とは、 説明型の講義等基本的な学修を宿題として授業前に行い、個別指導やプロジェクト学修等知識の 定着、応用力の育成に必要な学修を授業中に行う教育方法である。筆者も、グーグル・クラスルー ムとオンライン教材を活用した反転授業に取り組んでおり、その紹介については稿を改めたい。 6.謝辞 本稿の執筆は、全国大学実務教育協会主催「第2回能動的学修の教員研修リーダー講座」(2015 年実施)及び同協会主催「第2回能動的学修の教員研究会」(2016年実施)への参加、並びに、 それらへの参加報告会を兼ねた学内アクティブ・ラーニング講習会での報告「経済学教育におけ るICTの活用事例」(2017年1月実施)が、ひとつのきっかけとなっている。講座や研究会を共 に受講した他大学19名の先生方や講師陣、講習会等でコメントを頂戴した同僚の先生方に感謝の
意を表したい。
7.参考文献
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[4] Ferriter, Bill, “Are Kids Really Motivated by Technology?” SmartBrief, 2012. http://www.smartbrief.com/original/2012/08/are-kids-really-motivated-technology (accessed September 10, 2018).
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[13] Pear Deck, “What Is Active Learning?” https://www.peardeck.com/active-learning (accessed September 10, 2018).
[14] Ressler, Gene, “Google Classroom: Now Open to Even More Learners,” The Keyword Google Blog, 2017. https://www.blog.google/outreach-initiatives/education/google-classroom-now-open-even-more-learners/ (accessed September 10, 2018).
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[27] 文科省中央教育審議会「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び 続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」2012年8月。http://www.mext. go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm (accessed September 10, 2018). [28] 山内祐平・大浦弘樹「序文」バーグマン・サムズ『反転授業』オデッセイ、pp. 3-12、 2014年5月。 * 沖縄大学法経学部 1 同答申において次のように説明されている。即ち、大学設置基準上大学での学びは「学修」と している。これは、大学での学びの本質は講義、演習、実験、実習、実技等の授業時間ととも に、授業のための事前の準備、事後の展開等の主体的な学びに要する時間を内在した「単位制」 により形成されていることによる。 2 成田(2016)もまた、通常の授業の中でこそ学生のアクティブ・ラーニングを促すべきことを
強調している。関連して、アクティブとラーニングの間に「・」を入れることは学修には「受 動的」なものと「能動的」なものがあるという安易な二分法を生じさせかねないとして批判し ているが、本稿では文科省中央教育審議会(2012)の表記に従うこととする。 3 Edutopia(2008)、Ferriter(2012)、Marcinek(2014)、Fujisawa(2016)では、授業にICT を活用することの重要性や注意点、学生への動機付け等について概観している。主に英語教育 を前提としているが、経済学教育を含む他分野にも当てはまる部分が多い。 4 ペア・デックの機能は、https://www.youtube.com/watch?v=evoJy 4WcReMで紹介され ている。 5
グーグル・クラスルームの機能は、https://www.youtube.com/watch?v=JUiLc 0If 0CIで 紹介されている。 6 教員は手元で回答者を把握することもできる。 7 形成的評価を含むアクティブ・ラーニングを評価する方法については、松下他(2016)参照。 形成的評価と統括的評価の概観は成田(2016)参照。 8 グーグル・トレンドは、グーグルが蓄積している膨大な検索データをもとに、人気急上昇のキー ワードや特定のキーワードの検索回数の推移等をグラフで確認できる機能である。 9 「地域別のインタレスト」機能では、指定した期間において、各地域でどのキーワードが最も 高くランク付けされたか(検索されたか)を0~100の値で表示する。100の場合はその地域で そのキーワードの人気度が最も高いことを示し、50の場合、同じ地域内で比較して、その地域 でそのキーワードの人気度が半分であることを、0の場合はその地域でのそのキーワードの人 気度が、最も高かった地域の1%未満であることを示す。 10 「人気度の動向」機能では、特定の地域と期間について、グラフ上の最高値を基準として検索 インタレストを相対的に表したもので、100の場合はそのキーワードの人気度が最も高いこと を示し、50の場合は人気度が半分であることを示す。0の場合はそのキーワードの人気度が、 最も高いときの1%未満であることを示す。 11 フェイスブックを比較の対象に加えると、ツイッターと比べても20倍近い認知度の差がある期 間があり、比較可能な形でグラフを描くことはできない。また、検索方法には厳密にはキーワー ド検索とトピック検索があるが、トピック検索のできる用語が限られているため、本稿ではす べてキーワード検索に基づいている。さらに、キーワード検索において、日本を対象に英語表 記とカタカナ表記のどちらで検索するかによって人気度に違いがでる場合があるが、インスタ グラムにおいてのみ、カタカナ表記の方が英語表記より人気度が高く表示された。理由として、 「インスタ映え」という表現に代表されるようにインスタグラムの認知度が急上昇するにつれ てカタカナ表記が増えてきたことが考えられる。一方、グーグル・クラスルームのように比較 的新しいツールの場合、導入時において英語表記がそのまま使用されることが高いからではな いかと推察される。 12 大学eラーニング協議会他(2016)に紹介されているeラーニング・プラットホームには、ムー ドルの他に、大規模オンラインコースを考慮した学習支援システムCHiLOs、多人数対面教育 を対象に授業と予習・復習のサイクル形成支援を目的としたCEAS、大規模な全学的授業支援 システムとして利用が進んでいるとされるSakai CLEがあるが、グーグル・トレンドで同様に
検索した結果、世界においても日本国内においても、ムードルと比べて認知度は0ないし1の 範囲にとどまっている。 13 図表5及び図表6において大幅な変動がみられるのは、学校年度(school year)の影響によ るものと考えられる。個人アカウントとの関係についてはRessler (2017)参照。 14 エッセンシャル版は無料で利用可能であり、基本的なクリッカー機能が含まれているため有用 性は高いと考えられるが、授業後に学生の回答を読み込んで確認したり、自作のスライドを読 み込んでクリッカー機能と連動させたりといった機能は、本稿執筆時点においてプレミアム版 に限定されている。 15 フェイスブックでグループを構成するには、教員と学生が「フレンド」になる必要があり、個 人情報の観点や、教員と学生との適切な距離の観点から問題が起こりかねないことが懸念され ており、特に中高の現場では教員と生徒とのソーシャル・メディア上での繋がりを禁止する自 治体もある。大学についても同様の懸念はあると考えられる。筆者も以前は主にゼミ活動にお いてフェイスブックの活用を試みたが、プライベートと教育との分離が不可能との結論に至っ た。なお、フェイスブックを活用した大規模授業の可能性についてGolding(2012)で事例が 紹介されている。 16 便宜上、小規模クラス(40名未満)、中規模クラス(40名以上80名未満)、大規模クラス(80名 以上)としている。 17 本学マルチメディア教育研究センターには貸出可能なiPadが40台用意されている。 18 ラインについても既述のような懸念があり、利用には細心の注意が求められる。 19 学生とのラインやメールの送受信については、時間帯や回数について慎重な取り扱いが求めら れ、例えば深夜のやり取りを避けるためには、午後7時から午前7時までは緊急時を除いて送 受信しないという“7-to- 7”ルールの導入等が期待される。このルールの概要や、職場環境 における勤務時間外のメールを禁止する動きについては、Thompson(2014)参照。 20 グーグル・クラスルームについては、導入前後を比較するデータが存在しない。 21 「経済学入門Ⅱ」は1年次を対象とした選択必修科目で、履修登録者がミクロ経済学を中心に 機会費用やインセンティブ、価格差別といった基本概念の理解を通じて経済学的な考え方を身 につけることを目的としている。1年次学生は学籍番号に基づいて2クラスに分けられ、前期 か後期のいずれかに履修登録される。なお、「経済学入門Ⅰ」ではマクロ経済学を中心とした 授業が実施される。 22 総合満足度とは、総合的に判断して、この講義に満足しているかどうかを5段階で評価した数 値である。5が最高点で、1が最低点となっている。なお、履修登録者数とアンケート回答者 数は一致せず、回答率は概ね80%前後となっている。 23 2014年度は、学科の試験的取り組みとして3クラス化が実施された。 24 南(2004)や中井(2006)等、文献の蓄積がなされている。 25
Bergmann and Sams (2012)が反転授業の効果について経験から導き出した考察を参考にし ている。平均値の差の検定等厳密に科学的な考察は今後の課題としたい。