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ダウン症のある児童・生徒の肥満評価-発育チャートと皮下脂肪厚の観点から-

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(1)

ダウン症のある児童・生徒の肥満評価

-発育チャートと皮下脂肪厚の観点から-

Assessment of Obesity in Schoolchildren with Down Syndrome

-Viewpoints of Longitudinal Growth Chart and Subcutaneous Fat Thickness-

 



 吉岡 隆之・後和 美朝 



Takayuki YOSHIOKA, Yoshiaki GOWA 

要旨

 ダウン症のある高校生68人(女子24人、男子44人)を対象に、吉岡らが作成したダウン症の縦断型身長・体重発 育基準チャート(ダウン症発育チャート)による縦断的な発育と過体重・肥満傾向の評価および皮下脂肪厚による 肥満評価を行った。ダウン症発育チャートの「体型曲線(身長・体重パーセンタイル曲線)」のダウン症の基準で 90パーセンタイル(90th)を超える領域(「レッドゾーン」)と判定された対象15人(女子7人、男子8人)と50~ 90パーセンタイル(50~90th)の領域(「イエローゾーン」)と判定された対象27人(女子13人、男子14人)につい て、男女別に上腕後部と肩甲骨下角部の皮下脂肪厚を検討した。結果として、女子では、ダウン症発育チャートに よる「レッドゾーン(過体重・肥満傾向領域)」の判定と皮下脂肪厚による肥満・肥満傾向の判定、「イエローゾー ン(ダウン症の基準で50~90thの領域)」の判定と皮下脂肪厚による正常範囲の判定は、どちらもほぼ一致してい ると考えられた。男子でも、ダウン症発育チャートによる「レッドゾーン」の判定と皮下脂肪厚による肥満・肥満 傾向の判定は一致していると考えられたが、男子の「イエローゾーン」の判定と皮下脂肪厚による判定は必ずしも 一致せず、「イエローゾーン」と判定された者の中には皮下脂肪厚による評価で肥満あるいは肥満傾向と判定され た者が少なからず含まれていた。以上の結果から、ダウン症のある生徒の肥満あるいは肥満傾向を評価する際には、 ダウン症発育チャートのダウン症独自の基準を用いることが妥当であることが確認された。ただし、男子で「イエ ローゾーン」と判定される場合は肥満あるいは肥満傾向の者が含まれている場合もあると考えられ、女子で「レッ ドゾーン」と判定される場合は一部では肥満・肥満傾向と断定できないケースもあり得ると考えられることから、 注意を要する。 キーワード:(ダウン症)(肥満)(成長曲線)(皮下脂肪厚)       (DownSyndrome)(Obesity)(GrowthCurve)(SubcutaneousFatThickness)

Ⅰ.はじめに

 吉岡らの先行研究によると、低身長という身体的特性をもつダウン症のある児童・生徒に対して身長と体重の比 から算出するローレル指数などの体格指数で肥満評価を行うと、実際には肥満ではない児童・生徒が肥満と評価さ れてしまう場合がある1)。また、思春期には身長や体重の急激な発育が見られるが、その身長と体重の最大発育の

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時期はずれる場合があり、特にダウン症のある児童・生徒では、身長が先に伸び、遅れて体重が増える場合が多い。 このことによって一時的にやせ傾向になり、その後肥満傾向になるということが起こりやすく、この傾向は特に女 子で顕著である2)。吉岡らは、ダウン症のある児童・生徒の発育をより適切に評価するため、身長と体重の発育テ ンポの違いを考慮し得るダウン症縦断型発育基準チャート(以下、ダウン症発育チャート)3,4)およびそのコンピュー タソフト5,6)を開発した。この発育チャートを用いることで、ダウン症のある児童・生徒の身体発育や過体重・肥 満傾向をより適切に評価することが可能となった。  本研究では、ダウン症のある高校生を対象に、このダウン症発育チャートを利用した縦断的な発育と過体重・肥 満傾向の評価と皮下脂肪厚による肥満評価を行い、その両者からダウン症のある児童・生徒の肥満評価について検 討することを目的とした。

Ⅱ.方法

1.対象  近畿圏内にある5つの特別支援学校高等部1~3年に在籍するダウン症のある生徒68人(女子24人、男子44人) を対象とし、調査は2001年6月および2006年4月に実施した。 2.ダウン症発育チャートによる縦断的発育・過体重評価  吉岡らが開発したダウン症発育チャートのコンピュータソフト6)の改訂版を用いて、各対象の小学1年から調 査年度(高等部1年、2年または3年)まで毎年4月に測定された身長と体重から対象ごとに発育チャートのグラ フを作成した。ダウン症発育チャート(図1)は、女子用と男子用があり、身長と体重それぞれの「成長(現量値) 曲線」、身長と体重それぞれの「年間増加量曲線」、身長に対する体重の増加をみる「体型曲線(身長・体重パーセ ンタイル曲線)」の5つのグラフから構成されている。「成長曲線」と「年間増加量曲線」のグラフは3、10、50、 90、97のパーセンタイル曲線で示されており、「体型曲線」のグラフは10、50、90のパーセンタイル曲線で示され ている。なお、それぞれのグラフには、ダウン症の基準とともに標準の基準(グラフ)も破線で示されている。  今回は、過体重・肥満傾向の評価の観点から、上記5つのグラフのうち特に「体型曲線」に着目し、調査時点で、 ダウン症の基準で90パーセンタイル(以下、90th)を超える領域(過体重・肥満傾向領域)(以下、「レッドゾーン」) と判定された対象とダウン症の基準で50~90パーセンタイル(以下、50~90th)の領域(以下、「イエローゾーン」) と判定された対象を抽出した(図1)。図1に示されているように、この「イエローゾーン」は、男女とも標準の 基準(グラフ)では90thを超える領域に相当する。 3.皮下脂肪厚による肥満評価  各対象の皮下脂肪厚(上腕後部および肩甲骨下角部)をキャリパー法(栄研式皮下脂肪厚計)により熟練者が測 定し、全国基準値7)に基づき肥満という観点から検討した。この時、各対象の全国平均値に対する隔たりを調べ るために、Z値(「(対象の測定値-全国の年齢別平均値)/標準偏差」)を求めた。高等部1年は15歳、2年は16歳、 3年は17歳の全国の年齢別平均値および標準偏差を用いた。Z値は平均値を0、標準偏差を1としたときの値を示 し、Z値が0のときは50パーセンタイルに相当(以下、50th相当)、Z値が1.65のときは90パーセンタイルに相当(以 下、90th相当)、Z値が1.96のときは95パーセンタイルに相当する(以下、95th相当)。 なお、皮下脂肪厚を測定した際に各対象の身長と体重の測定も行った。

(3)

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(4)

4.縦断的発育・過体重評価と肥満評価の検討  ダウン症発育チャートの「体型曲線」において、「レッドゾーン(ダウン症の基準で90thを超える過体重・肥満 傾向領域)」および「イエローゾーン(標準の基準で90thを超えるが、ダウン症の基準では50~90thの領域)」と判 定された対象について、男女別に上腕後部(以下、上腕)と肩甲骨下角部(以下、背部)の皮下脂肪厚およびその Z値を検討した。 5.倫理的配慮  対象の所属する学校長および養護教諭に対して、本研究の目的、方法および倫理的配慮(個人情報の保護、デー タの匿名化、自由意思による参加等)について口頭および文書にて説明し承諾を得た。その上で、対象の保護者に 対して、本研究の目的、方法および倫理的配慮について文書にて説明を行った。

Ⅲ.結果

 今回の対象の皮下脂肪厚について、女子(高等部1年10人、2年8人、3年6人)の上腕の平均値(標準偏差) は、1年20.3(3.8)mm、2年22.9(5.8)mm、3年21.9(1.9)mm、背部の平均値は、1年22.2(4.6)mm、2年 22.0(9.1)mm、3年25.8(3.7)mmであった。また男子(高等部1年18人、2年14人、3年12人)の上腕の平均 値(標準偏差)は、1年17.2(5.4)mm、2年17.3(4.5)mm、3年16.2(5.4)mm、背部の平均値は、1年18.8(7.4) mm、2年18.8(6.1)mm、3年19.3(6.5)mmであった。  今回の対象68人(女子24人、男子44人)のうち、ダウン症発育チャートの「体型曲線」の「レッドゾーン」と判 定された者は15人[22.1%](女子7人[29.2%]、男子8人[18.2%])であった。また、「イエローゾーン」と判定 された者は27人[39.7%](女子13人[54.2%]、男子14人[31.8%])であった。  「レッドゾーン」と判定された対象の身長、体重、皮下脂肪厚(上腕、背部)とそのZ値について、女子は表1に、 男子は表2にそれぞれ示した。また、「イエローゾーン」と判定された対象の身長、体重、皮下脂肪厚(上腕、背部) とそのZ値について、女子は表3に、男子は表4にそれぞれ示した。 対 対  象象 学学  年年 身身  長長 体体  重重 7 7名名 ccmm kkgg mmmm ZZ値値 mmmm ZZ値値 F F11 高高11 113366..88 5522..22 2323..00 11..0000 3322..00 22..8833 ** F F22 高高11 114400..11 5577..55 2020..55 00..5588 2244..55 11..5588 F F33 高高22 114444..33 7733..11 2626..00 11..5500 3311..00 22..5500 ** F F44 高高22 113388..55 6622..77 3535..00 33..0000 ** 3366..55 33..4422 ** F F55 高高22 114400..55 6655..44 2727..00 11..6677 * 3311..55 22..5588 ** F F66 高高33 114422..88 6633..88 2323..55 00..9922 3322..00 22..6677 ** F F77 高高33 114422..99 5588..88 2525..00 11..1177 2288..55 22..0088 ** 平 平均均 114400..88 6611..99 2255..77 11..4400 3300..99 22..5522 ** S SDD 22..55 66..22 44..33 00..7733 33..44 00..5533 上 上腕腕 皮皮下下脂脂肪肪厚厚 背背部部 皮皮下下脂脂肪肪厚厚  ** はZ値が1.96(95パーセンタイルに相当)を超えている場合  「レッドゾーン」はダウン症発育チャートの「体型曲線」の90パーセンタイル以上の領域  * はZ値が1.65~1.96(90~95パーセンタイルに相当)の範囲の場合 表1 ダウン症発育チャート「レッドゾーン」判定の「女子」の身長,体重,皮下脂肪厚とZ値

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対 対  象象 学学  年年 身身  長長 体体  重重 8 8名名 ccmm kkgg mmmm ZZ値値 mmmm ZZ値値 M M11 高高11 115544..88 6699..33 2525..55 22..7700 ** 3366..55 44..2255 ** M M22 高高11 115500..22 6677..22 2424..55 22..5500 ** 3322..55 33..5588 ** M M33 高高11 115522..44 7700..00 2020..55 11..7700 * 2266..55 22..5588 ** M M44 高高22 114499..55 6655..77 1919..55 11..5500 2233..55 22..0088 ** M M55 高高22 114466..77 6688..00 2121..00 11..8800 * 2299..00 33..0000 ** M M66 高高22 116644..33 8822..88 2424..00 22..4400 ** 2299..00 33..0000 ** M M77 高高33 114499..55 6677..44 2323..55 22..3300 ** 2255..55 22..2255 ** M M88 高高33 115522..22 7799..77 2323..55 22..3300 ** 3311..00 33..1177 ** 平 平均均 115522..55 7711..33 2222..88 22..1155 ** 2299..22 22..9999 ** S SDD 55..00 55..99 22..00 00..4400 33..99 00..6666  * はZ値が1.65~1.96(90~95パーセンタイルに相当)の範囲の場合 上 上腕腕 皮皮下下脂脂肪肪厚厚 背背部部 皮皮下下脂脂肪肪厚厚  ** はZ値が1.96(95パーセンタイルに相当)を超えている場合  「レッドゾーン」はダウン症発育チャートの「体型曲線」の90パーセンタイル以上の領域 表2 ダウン症発育チャート「レッドゾーン」判定の「男子」の身長,体重,皮下脂肪厚とZ値 対 対  象象 学学  年年 身身  長長 体体  重重 1 133名名 ccmm kkgg mmmm ZZ値値 mmmm ZZ値値 F F88 高高11 113366..22 4455..77 2020..55 00..5588 2211..00 11..0000 F F99 高高11 113333..44 3366..77 1111..55 --00..9922 1177..00 00..3333 F F1100 高高11 114433..77 4455..33 2233..00 11..0000 2211..00 11..0000 F F1111 高高11 113388..22 5500..00 2244..00 11..1177 2266..00 11..8833 * F F1122 高高11 114444..33 4499..66 1199..00 00..3333 2211..55 11..0088 F F1133 高高11 114455..22 5522..44 2222..00 00..8833 2233..55 11..4422 F F1144 高高11 114455..77 4488..11 1515..55 --00..2255 1144..55 --00..0088 F F1155 高高22 114400..66 5511..88 2211..55 00..7755 1199..55 00..5588 F F1166 高高22 113366..11 4433..55 1199..00 00..3333 2200..00 00..6677 F F1177 高高33 114422..77 4499..44 2211..00 00..5500 2233..00 11..1177 F F1188 高高33 113399..88 4499..44 2222..00 00..6677 2277..00 11..8833 * F F1199 高高33 113388..55 4477..77 1199..55 00..2255 2233..55 11..2255 F F2200 高高33 113388..55 5500..66 2200..55 00..4422 2211..00 00..8833 平 平均均 114400..22 4477..77 1199..99 00..4444 2211..44 00..9999 S SDD 33..77 44..00 33..22 00..5522 33..22 00..5533 上 上腕腕 皮皮下下脂脂肪肪厚厚 背背部部 皮皮下下脂脂肪肪厚厚  ** はZ値が1.96(95パーセンタイルに相当)を超えている場合  「イエローゾーン」はダウン症発育チャートの「体型曲線」の50~90パーセンタイルの領域  * はZ値が1.65~1.96(90~95パーセンタイルに相当)の範囲の場合 表3 ダウン症発育チャート「イエローゾーン」判定の「女子」の身長,体重,皮下脂肪厚とZ値

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Ⅳ.考察

皮下脂肪厚について、全体的に、今回の対象の女子の平均値は、全国平均7)に比べて、上腕では3~6mmほど 厚く、背部では6~10mmほど厚かった。また、今回の対象の男子の平均値は、全国平均に比べて、上腕では4~ 5mmほど厚く、背部では7~8mmほど厚かった。これらのことから、今回の対象は、男女とも総じて皮下脂肪 厚の厚い者がかなり多い集団であることがうかがえる。  今回の対象のうち、ダウン症発育チャートの「体型曲線」の「レッドゾーン(ダウン症の基準で90thを超える過 体重・肥満傾向領域)」と判定された者は、女子で29.2%、男子で18.2%であったことから、今回の対象は、ダウン 症の中でも「レッドゾーン」にあてはまる者が、女子ではかなり多く、男子ではやや多い集団であることがうかが える。また、「イエローゾーン(標準の基準で90thを超えるが、ダウン症の基準では50~90thの領域)」と判定され た者は、女子で54.2%、男子で31.8%であったことから、今回の対象は、「イエローゾーン」にあてはまる者が、女 子では多く、男子ではやや少ない集団であることがうかがえる。  表1に示したように、「レッドゾーン」と判定された女子7名の皮下脂肪厚について、背部のZ値は平均2.52で、 6名が1.96(95th相当)を超えており、1名は0~1.65(50~90th相当)の範囲であった。上腕のZ値は平均1.40で、 1名が1.96(95th相当)を超え、1名が1.65~1.96(90~95th相当)の範囲で、5名は0~1.65(50~90th相当)の 範囲であった。1名については背部も上腕もZ値が0~1.65(50~90th相当)の範囲であった。これらの結果から、 女子では、ダウン症発育チャートで「レッドゾーン」と判定される場合は、概ね肥満あるいは肥満傾向と判定して 対 対  象象 学学  年年 身身  長長 体体  重重 1 144名名 ccmm kkgg mmmm ZZ値値 mmmm ZZ値値 M M99 高高11 115555..11 5577..88 1818..00 11..2200 1177..00 11..0000 M M1100 高高11 115577..99 6677..77 2233..00 22..2200 ** 2211..55 11..7755 * M M1111 高高11 115500..88 6644..66 2255..55 22..7700 ** 2266..55 22..5588 ** M M1122 高高11 115566..22 5588..88 1155..55 00..7700 2200..55 11..5588 M M1133 高高22 115500..44 5599..44 2200..55 11..7700 * 2211..55 11..7755 * M M1144 高高22 114422..77 5522..22 1177..00 11..0000 1155..00 00..6677 M M1155 高高22 116644..11 6699..33 1166..55 00..9900 1177..55 11..0088 M M1166 高高22 114411..44 5511..99 2200..00 11..6600 2211..00 11..6677 * M M1177 高高22 115555..55 5544..22 1133..55 00..3300 2222..00 11..8833 * M M1188 高高33 115544..44 6600..88 2211..55 11..9900 * 2255..55 22..2255 ** M M1199 高高33 115544..66 6655..55 2211..00 11..8800 * 2255..00 22..1177 ** M M2200 高高33 115566..44 5588..55 1199..55 11..5500 2233..55 11..9922 * M M2211 高高33 114488..55 5511..44 1144..55 00..5500 1166..55 00..7755 M M2222 高高33 115544..00 6622..66 1188..55 11..3300 2211..55 11..5588 平 平均均 115533..00 5599..66 1188..99 11..3388 2211..00 11..6611 S SDD 55..77 55..66 33..22 00..6655 33..44 00..5544 上 上腕腕 皮皮下下脂脂肪肪厚厚 背背部部 皮皮下下脂脂肪肪厚厚  ** はZ値が1.96(95パーセンタイルに相当)を超えている場合  「イエローゾーン」はダウン症発育チャートの「体型曲線」の50~90パーセンタイルの領域  * はZ値が1.65~1.96(90~95パーセンタイルに相当)の範囲の場合 表4 ダウン症発育チャート「イエローゾーン」判定の「男子」の身長,体重,皮下脂肪厚とZ値

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差し支えないと考えられるが、一部では肥満・肥満傾向と断定できないケースもあり得ると考えられる。  表2に示したように、「レッドゾーン」と判定された男子8名の皮下脂肪厚について、背部のZ値は平均2.99で、 全員が1.96(95th相当)を超えており、上腕のZ値は平均2.15で、5名が1.96(95th相当)を超え、2名が1.65~1.96 (90~95th相当)の範囲、1名は0~1.65(50~90th相当)の範囲であった。これらの結果から、男子では、「レッ ドゾーン」と判定される場合は、ほぼ肥満・肥満傾向と断定し得ると考えられる。  次に、表3に示したように、「イエローゾーン」と判定された女子13名の皮下脂肪厚について、背部のZ値は平 均0.99で、2名が1.65~1.96(90~95th相当)の範囲、10名は0~1.65(50~90th相当)の範囲、1名は0(50th相当) をわずかに下回っていた。上腕のZ値は平均0.44で、11名は0~1.65(50~90th相当)の範囲、2名は0(50th相当) を下回っていた。これらの結果から、女子では、「イエローゾーン」と判定される場合は、肥満ではなくほぼ正常 範囲と考えられる。  表4に示したように、「イエローゾーン」と判定された男子14名の皮下脂肪厚について、背部のZ値は平均1.61で、 3名が1.96(95th相当)を超え、5名が1.65~1.96(90~95th相当)の範囲、残りの6名は0~1.65(50~90th相当) の範囲であった。上腕のZ値は平均1.38で、2名が1.96(95th相当)を超え、3名が1.65~1.96(90~95th相当)の 範囲、残りの9名は0~1.65(50~90th相当)の範囲であった。5名については背部も上腕もZ値が1.65(90th相当) を上回っており、そのうちの1名は背部も上腕も1.96(95th相当)を上回っていた。これらの結果から、男子では、 「イエローゾーン」と判定される場合は、肥満あるいは肥満傾向の者が含まれている場合もあると考えられ注意を 要する。  今回、全体的に、女子では、ダウン症発育チャートによる「レッドゾーン(過体重・肥満傾向領域)」の判定と 皮下脂肪厚による肥満・肥満傾向の判定、「イエローゾーン(ダウン症の基準で50~90thの領域)」の判定と皮下脂 肪厚による正常範囲の判定は、どちらもほぼ一致していたと考えられる。男子でも、ダウン症発育チャートによる 「レッドゾーン」の判定と皮下脂肪厚による肥満・肥満傾向の判定は一致していたと考えられる。ただ、男子の「イ エローゾーン」の判定と皮下脂肪厚による判定は必ずしも一致せず、「イエローゾーン」と判定された者の中には 皮下脂肪厚による評価で肥満あるいは肥満傾向と判定される者が少なからず含まれていた。  この点ついて、「イエローゾーン」の男子の皮下脂肪厚のZ値の平均(背部1.61、上腕1.38)は、「イエローゾーン」 の女子の皮下脂肪厚のZ値の平均(背部0.99、上腕0.44)に比べて相対的にかなり大きく、「レッドゾーン」の男子 の皮下脂肪厚のZ値の平均(背部2.99、上腕2.15)も、「レッドゾーン」の女子の皮下脂肪厚のZ値の平均(背部2.52、 上腕1.40)に比べて相対的にかなり大きかった。一方、先述したように、今回の対象の女子では、ダウン症発育チャー トにおいて「レッドゾーン(29.2%)」および「イエローゾーン(54.2%)」にあてはまる割合がいずれもかなり高かっ たのに対して、男子では「レッドゾーン(18.2%)」にあてはまる割合は高かったものの、「イエローゾーン(31.8%)」 にあてはまる割合はむしろ低かった。これらのことから、ダウン症のある男子では、その特性(体質)として(病 的な観点ではなく)皮下脂肪が蓄積されやすい傾向にあり、皮下脂肪厚による肥満評価が過大評価になる傾向があ るのかもしれない。  最後に、皮下脂肪厚の評価部位に関して、15~17歳における全国平均7)では、男子は背部(11~12mm)より上 腕(12mm)のほうがわずかに厚いもののほとんど差はなく、女子は背部(15~16mm)より上腕(17~18mm) のほうがやや厚い。今回の全対象68人の皮下脂肪厚の平均では、男子は上腕(16.2~17.3mm)より背部(18.8~ 19.3mm)のほうが厚く、女子でも上腕(20.3~22.9mm)より背部(22.0~25.8mm)のほうが厚かった。このこと から、ダウン症のある高校生では男女とも、全国平均とは異なり、上腕に比べて背部の皮下脂肪が相対的に厚いと

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考えられる。また、先述したように、今回、ダウン症発育チャートによる評価で「レッドゾーン(90thを超える領 域)」と判定された対象の皮下脂肪厚について、女子では、背部Z値の平均が2.52であったのに対して上腕Z値の 平均が1.40とかなり小さかった。男子でも、背部Z値の平均が2.99であったのに対して上腕Z値の平均が2.15と小 さかった。これらのことから、ダウン症のある高校生(特に女子)では、上腕の皮下脂肪厚で肥満を評価する場合 は過小評価してしまう可能性があると考えられる。

Ⅴ.おわりに

 本研究結果から、総じて、ダウン症のある生徒の肥満あるいは肥満傾向を評価する際には、ダウン症発育チャー トのダウン症独自の基準を用いることが妥当であることが確認された。ただし、男子で「イエローゾーン」と判定 される場合は肥満あるいは肥満傾向の者が含まれている場合もあると考えられ、女子で「レッドゾーン」と判定さ れる場合は一部では肥満・肥満傾向と断定できないケースもあり得ると考えられることから、若干の注意を要する。  いずれにしても、ダウン症のある児童・生徒の肥満や肥満傾向の評価について、ダウン症発育チャートの身長と 体重それぞれの「成長曲線」と「年間増加量曲線」および「体型曲線」の5つのグラフの経年的変化を総合的に見 極めて、個別に検討することが重要と考えられる。  村田8)は、児童・生徒の発育や肥満を評価する際は、個別のパーセンタイル成長曲線と肥満度曲線の両者を作 成して行う必要があると強く主張している。日本の学校健康診断においては、2016年度からようやくパーセンタイ ル成長曲線と肥満度曲線が活用されることになった9)。しかし、低身長という身体的特性をもつダウン症のある児 童・生徒において、この標準のパーセンタイル成長曲線と肥満度曲線を活用することは、もちろん適切ではない。 ダウン症をもつ児童・生徒においては、吉岡らが開発したダウン症発育チャートのコンピュータソフト6)を用いる ことで簡便に適切に発育や肥満の評価が行え、ダウン症の身体特性と個人差を考慮した適切な保健指導につながる と考えられる。

謝辞

 本稿を終えるにあたり、何よりも対象になっていただいた生徒の皆さまにこころより感謝申しあげます。データ 収集に際しご理解とご協力を賜った対象の保護者の皆さま、対象の所属する学校の校長、養護教諭をはじめ教職員 の皆さまに深く感謝申しあげます。本研究に際し、研究当初から貴重なご指導を賜りました日本ダウン症療育研究 会幹事(ダウン症赤ちゃん体操教室創始者、元大阪市立大学教授)の藤田弘子先生に深甚なる謝意を表します。本 研究におけるデータの収集、情報収集、意見交換等で多大なご支援やご協力をいただいた福嶋美津子氏、福岡希代 子氏、戸島章雄氏、田中康子氏、松本季代氏、菊池彩香氏をはじめ、専門職、教員の皆さま、学生諸氏に謝意を表 します。  なお、本研究の一部は第9回世界ダウン症会議および第54回近畿学校保健学会で発表した。

文献

1)吉岡隆之,柴垣伊都子,笠松隆洋,福嶋美津子,藤田弘子,綾部捷:ダウン症生徒の肥満評価,第48回近畿学 校保健学会講演集,p36,2001 2)吉岡隆之,藤田弘子,後和美朝,綾部捷:ダウン症生徒の最大発育年齢および初経初来年齢,第47回近畿学校 保健学会講演集,p26,2000

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3)TakayukiYoshioka,HirokoFujita,YoshiakiGowaandHayashiAyabe:Longitudinalgrowthchartforschool childrenwithDown'ssyndrome,BookofAbstracts,XVIIthWorldConferenceonHealthPromotionand HealthEducation(Paris,France),p195,2001 4)吉岡隆之,藤田弘子,後和美朝,福嶋美津子:ダウン症候群の自然成長(その2):身長・体重スパートの「ず れ」を認識し得る発育チャート,小児保健研究,64(1),73-81,2005 5)TakayukiYoshioka,HirokoFujita,YoshiakiGowa,MitsukoFukushima,KiyokoFukuokaandAkioToshima: LongitudinalgrowthchartforsuitableassessmentofoverweightschoolchildrenwithDownsyndrome: Developmentofusefulcomputersoftware,DownSyndromeQuarterly,Vol.8,Issue1,MakingWaves AbstractBookof9thWorldDownSyndromeCongress(Vancouver,Canada),DownSyndromeResearch Foundation,p92,2006 6)吉岡隆之, 藤田弘子 監修: ダウン症児身体発育曲線作成CD-ROM(コンピュータソフト,MSWindows・ Excel版),藤田弘子,大橋博文編著『ダウン症児すこやかノート-成長発達の手引きと記録-』,メディカ出 版,大阪,2006 7)通産省工業技術院:日本人の体格調査報告書,1984 8)村田光範:パーセンタイル身長・体重成長曲線,小児保健研究,75(6),673-678,2016 9)文部科学省監修・日本学校保健会編集:児童生徒等の健康診断マニュアル平成27年度改訂,68-72,2015

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