• 検索結果がありません。

「拐取」 ―刑法学会ワークショップの記録

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "「拐取」 ―刑法学会ワークショップの記録"

Copied!
116
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

著者

和田 俊憲, 佐藤 陽子, 松原 和彦, 石綿 はる美

雑誌名

東北ローレビュー

7

ページ

2-116

発行年

2020-03-31

URL

http://hdl.handle.net/10097/00128855

(2)

第1

拐取

和田 俊憲・佐藤 陽子・松原 和彦・石綿 はる美

Ⅰ.論稿

は じ め に 第 1 部 未 成 年 者 拐 取 罪 の 一 般 論 1 . 3 つ の 法 益 の 確 認 と 監 護 権 に 対 す る 評 価 2 . 監 護 権 の 重 要 性 ― 比 較 法 的 視 座 か ら ― 3 . 3 つ の 法 益 の 検 討 ( そ の 1) ― 自 由 の 実 体 、 身 体 の 安 全 の 適 否 ― 4 . 明 治 民 法 に お け る 親 権 ・ 監 護 5 . 3 つ の 法 益 の 検 討 ( そ の 2) ― 刑 法 に お け る 監 護 権 の 意 義 ― 6 . 権 利 と し て の 監 護 権 と そ の 制 約 7 . 現 行 民 法 に お け る 親 権 ・ 監 護 権 第 2 部 親 に よ る 子 の 奪 い 合 い 事 案 の 検 討 8 . 権 利 保 護 類 型 の 比 較 法 的 検 討 9 . 刑 事 法 の 比 較 法 的 多 様 性 へ の 民 事 法 か ら の コ メ ン ト 10. 日 本 に お け る 民 事 法 の 制 度 概 要 11. 平 成 17 年 決 定 の 検 討 12. 平 成 17 年 決 定 へ の 民 事 法 か ら の コ メ ン ト 第 3 部 国 外 拐 取 の 特 殊 性 13. 国 外 拐 取 に 関 す る 諸 外 国 の 状 況 14. 平 成 15 年 決 定 の 検 討 15. 民 事 法 か ら の コ メ ン ト ― ハ ー グ 条 約 を 中 心 に ―

はじめに

本 稿 は 、 2019 年 5 月 に 一 橋 大 学 で 開 催 さ れ た 日 本 刑 法 学 会 第 97 回 大 会 に お け る ワ ー ク シ ョ ッ プ 「 拐 取 」 の 記 録 で あ る 。 共 同 研 究 の 準 備 お よ び 担 当 者 に お け る 東 北 大 学 と の 強 い 縁 に 基 づ い て 、 本 誌 へ の 掲 載 を お 認 め い た だ い た 。 こ の ワ ー ク シ ョ ッ プ で は 、い わ ゆ る 親 に よ る 子 の 奪 い 合 い 事 案( 最 決 平 成 15 年

(3)

3 月 18 日 刑 集 57 巻 3 号 371 頁 、 最 決 平 成 17 年 12 月 6 日 刑 集 59 巻 10 号 1901 頁 ) を 特 に 念 頭 に お い て 、 拐 取 罪 の あ り 方 を 多 方 面 か ら 検 討 し た 。 そ の 際 に 依 拠 し た の は 、 わ が 国 に お け る 拐 取 罪 の 沿 革 研 究 お よ び 子 の 奪 い 合 い に 係 る 比 較 法 研 究 に つ い て の リ レ ー 連 載 「 拐 取 罪 を 巡 る 比 較 法 的 ・ 沿 革 的 分 析 」 法 律 時 報 89 巻 11 号 ( 2017 年 ) ~ 91 巻 11 号 ( 2019 年 ) で あ る 。 こ の 共 同 研 究 に 参 画 し た 和 田 俊 憲 ( 慶 應 義 塾 大 学 )、 佐 藤 陽 子 ( 北 海 道 大 学 ) お よ び 松 原 和 彦 ( 白 鷗 大 学 ) が 、 そ こ で 得 ら れ た 比 較 法 的 ・ 沿 革 的 知 見 を さ ら に 深 化 ・ 展 開 さ せ 、 未 成 年 者 を 客 体 と す る 拐 取 罪 に つ い て 、「 監 護 権 、 復 権 。」 を キ ー フ レ ー ズ と し つ つ 解 釈 論 の 再 構 成 を 試 み る と と も に 、 そ れ に 対 し て 、 石 綿 は る 美 ( 東 北 大 学 ) が 民 事 法 の 観 点 か ら の 相 対 化 を 図 り 、 刑 事 政 策 的 に 望 ま し い 「 監 護 権 」 の あ り 方 を 探 っ た 。 ワ ー ク シ ョ ッ プ で の 報 告 は 3 部 構 成 で 行 わ れ た 。 第 1 部 で は 未 成 年 者 拐 取 罪 の 一 般 論 を 扱 い 、 そ れ に 基 づ い て 第 2 部 で は 親 に よ る 子 の 奪 い 合 い 事 案 に 限 定 し た 検 討 を 行 い 、 さ ら に 第 3 部 で は 国 外 拐 取 の 特 殊 性 を 確 認 し た 。 各 部 の 概 要 を あ ら か じ め 示 す と 、 次 の と お り で あ る ( 括 弧 内 は 、 各 ブ ロ ッ ク の 報 告 担 当 者 を 表 し て い る )。

第1部 未成年者拐取罪の一般論

1 . 3 つ の 法 益 の 確 認と 監 護 権に 対 する 評 価〔 松 原 〕 明 治 期 か ら み ら れ た 監 護 権 を 保 護 法 益 と す る 見 解 が 、 時 代 と と も に 弱 ま っ て き た こ と が 整 理 ・ 確 認 さ れ た 。 2. 監護 権 の重 要 性 ―比 較 法 的視 座 から ― 〔佐 藤 〕 比 較 法 的 に は 監 護 権 の み を 保 護 す る 犯 罪 類 型 を 定 め る の が 通 常 で あ り 、 我 が 国 の 規 定 は 極 め て 特 殊 で あ る こ と 、 そ し て 、 わ が 国 の 監 護 権 説 は ド イ ツ 由 来 で あ る が 、必 ず し も こ れ を 盲 目 的 に 導 入 し た の で は な い と い い う る と の 分 析 が 示 さ れ た 。 3. 3 つの 法 益の 検 討( そ の 1)― 自 由の 実体 、 身 体の 安 全の 適 否 ― 〔 松 原〕 拐 取 罪 に お け る 自 由 は 監 禁 罪 の そ れ よ り も 具 体 性 が 高 く 、 他 方 で 、 拐 取 罪 に お け る 安 全 は 遺 棄 罪 の そ れ よ り も 弱 い こ と が 指 摘 さ れ た 。 4. 明治 民 法に お ける親 権 ・ 監護 〔 石綿 〕 明 治 民 法 に お け る 親 権 お よ び 監 護 に 関 す る 規 定 お よ び 概 念 の 解 説 が な さ れ た 。 5. 3 つ の 法益 の 検討 (そ の 2) ―刑 法 にお ける 監 護 権の 意 義 ― 〔 松原 〕 刑 法 に お け る 監 護 権 の 実 質 は 、 未 成 年 者 が 自 身 で は 実 現 で き な い 包 括 的 か つ 長 期 的 な 利 益 を 図 る 点 に あ り 、 対 世 的 な 権 利 の 側 面 だ け で な く 、 未 成 年 者 に 対 す る 義 務 の 側 面 も あ る こ と が 述 べ ら れ た 。

(4)

6. 権利 と して の 監護権 と そ の制 約 〔佐 藤 〕 監 護 権 の 権 利 と し て の 側 面 を 強 調 す る と 、 わ が 国 に お い て は 保 護 の 欠 缺 が 生 じ う る た め 、 義 務 と し て の 側 面 を 強 調 す る こ と で 権 利 を 制 約 す る 必 要 が あ る こ と が 指 摘 さ れ た 。 7. 現 行 民法 に おけ る 親権 ・ 監 護権 〔 石綿 〕 現 行 民 法 に お け る 親 権 ・ 監 護 権 の 規 定 、 監 護 権 の 内 容 お よ び 監 護 権 の 帰 属 主 体 に 関 す る 解 説 が な さ れ た 。

第2部 親による子の奪い合い事案の検討

8. 権 利 保護 類 型の 比 較法 的 検 討〔 佐 藤〕 拐 取 罪 の う ち 、 被 拐 取 者 の 自 由 等 で は な く 監 護 権 等 の 権 利 を 保 護 対 象 と す る い わ ゆ る 権 利 保 護 類 型 に つ い て 、 保 護 対 象 た る 監 護 権 の 具 体 的 内 容 は 比 較 法 的 に 多 様 で あ る こ と が 確 認 さ れ 、 ま た 、 各 国 に お け る 処 罰 範 囲 の 政 策 決 定 は い わ ば 成 り 行 き で あ る こ と が 指 摘 さ れ た 。 9. 刑 事 法の 比 較法 的 多様 性 へ の民 事 法か ら のコ メ ン ト〔 石 綿〕 諸 外 国 と わ が 国 で は 民 法 に も 違 い が あ る こ と が 指 摘 さ れ 、 刑 事 法 に み ら れ る 比 較 法 的 多 様 性 の 分 類 が 示 さ れ た 。 10. 日 本 にお け る民 事法 の 制 度概 要 〔石 綿 〕 親 に よ る 子 の 奪 い 合 い に つ き 民 法 で 用 意 さ れ て い る 解 決 手 段 お よ び 判 断 方 法 の 解 説 が な さ れ た 。 11. 平 成 17 年決 定 の検 討 〔 松原 〕 平 成 17 年 決 定 に お け る 構 成 要 件 該 当 性 判 断 お よ び 二 段 階 の 違 法 性 阻 却 否 定 判 断 は 、 権 利 お よ び 義 務 と し て の 監 護 権 と い う 視 座 か ら 合 理 的 に 分 析 ・ 整 理 で き る こ と が 説 明 さ れ た 。 12. 平 成 17 年決 定 への 民 事 法か ら のコ メ ント 〔 石 綿〕 民 法 で 親 権 者 ・ 監 護 者 を 決 定 す る 際 の 判 断 基 準 が 解 説 さ れ 、 そ れ に 照 ら し た 平 成 17 年 決 定 の 分 析 が な さ れ た 。

第3部 国外拐取の特殊性

13. 国 外 拐取 に 関す る諸 外 国 の状 況 〔佐 藤 〕 親 に よ る 子 の 国 外 へ の 連 れ 去 り 事 案 に は 、 特 別 な 対 応 を し て い る 国 が 多 い こ と

(5)

が 説 明 さ れ た 。 14. 平 成 15 年決 定 の検 討 〔 松原 〕 平 成 15 年 決 定 に 対 す る 、 国 外 拐 取 事 案 で あ る こ と に 特 に 着 目 し た 分 析 ・ 検 討 が 提 示 さ れ た 。 15. 民 事 法か ら のコ メン ト ― ハー グ 条約 を 中心 に ― 〔石 綿 〕 ハ ー グ 条 約 に 表 れ た 国 外 拐 取 の 特 殊 性 が 指 摘 さ れ 、 ハ ー グ 条 約 と 刑 事 法 の 関 係 に つ い て の 分 析 が な さ れ た 。 こ の ワ ー ク シ ョ ッ プ に 結 実 し た 共 同 研 究 で は 、 監 護 権 を 中 核 に 据 え て 拐 取 罪 を 構 成 す る こ と の メ リ ッ ト と デ メ リ ッ ト が 確 認 さ れ た 。 た し か に 、 監 護 権 を 中 心 に し て 再 構 成 し て も 、 未 成 年 者 を 客 体 と す る 拐 取 罪 の す べ て が 合 理 的 に 説 明 で き る よ う に な る わ け で は な い 。 特 に 、 監 護 権 者 が 存 在 し な い 場 合 や 、( と り わ け 母 親 に よ る )子 連 れ 別 居 の 扱 い が 問 題 で あ る 。前 者 に つ い て は 、 拐 取 罪 を 認 め る に あ た っ て 親 権 者 や 後 見 人 に よ る 具 体 的 監 護 ま で は 不 要 だ と し て も 、 後 見 開 始 原 因 が あ る だ け の 場 合 は 国 家 に よ る 後 見 に 対 す る 侵 害 と い う ほ か な い で あ ろ う か 。後 者 に つ い て は 、監 護 権 侵 害 は あ る と い わ ざ る を 得 な い が 、 違 法 か ど う か は 立 ち 入 っ た 検 討 が 必 要 で あ る 。 そ う で あ っ て も 、 監 護 権 構 成 に は メ リ ッ ト が 多 い 。 同 罪 で 真 に 問 題 に す べ き は 子 の 長 期 的 利 益 で あ る こ と が 示 せ た り 、 権 利 者 の 義 務 的 側 面 が 考 慮 し や す く な っ た り 、 未 成 年 者 の 承 諾 が 相 対 化 で き た り 、 さ ら に は 、 親 に よ る 子 の 奪 い 合 い 事 案 に お い て 、 自 由 vs 監 護 権 で は な く 、 子 の 利 益 の た め の 監 護 義 務 vs 監 護 義 務 と い う 構 成 に で き た り 、 と い っ た 点 が 容 易 に 挙 げ ら れ る と こ ろ で あ る 。 そ し て 最 大 の ポ イ ン ト は 、 民 事 法 に お け る 監 護 権 ・ 監 護 の 扱 い を 正 面 か ら 参 照 で き る こ と 、 あ る い は 、 参 照 す べ き で あ る と い う こ と が 示 せ る こ と で あ る 。 未 成 年 者 を 客 体 と す る 拐 取 罪 に つ い て は 、 や は り 監 護 権 を 中 心 に 据 え 、 か つ 、 民 事 法 に お け る 監 護 の 扱 い に 刑 事 法 側 か ら も 強 い 興 味 を も っ て 、 民 刑 の 相 互 交 流 を 深 め な が ら 正 し い 理 解 を 広 げ て い く こ と が 決 定 的 に 重 要 で あ る 。 な お 、 本 共 同 研 究 は 継 続 中 で あ る 。 そ の 全 体 像 に つ い て は 、 深 町 晋 也 = 樋 口 亮 介 編『 子 の 奪 い 合 い と 拐 取 罪 の 総 合 研 究( 仮 題 )』( 日 本 評 論 社 、2020 年 刊 行 予 定 ) を 参 照 い た だ き た い 。 ( 和 田 俊 憲 )

(6)

第1部 未成年者拐取罪の一般論

1.3 つの法益の確認と監護権に対する評価

※ ま ず 、「 第 1 部 未 成 年 者 拐 取 罪 の 一 般 論 」の 報 告 の 前 提 と し て 、未 成 年 者 拐 取 罪( 224 条 。以 下「 本 罪 」と い う 。)1の 法 益 を 確 認 し 、そ の う ち 監 護 権 に 対 す る 評 価 の 変 化 を 見 て お き た い 。 従 前 よ り 、 本 罪 の 法 益 と し て 想 定 さ れ て き た 主 な も の は 、 自 由 、 監 護 権 お よ び 身 体 の 安 全 の 3 つ で あ る2。 そ れ ら の う ち 、 ま ず 、 自 由 お よ び 監 護 権 の 各 法 益 は 、 古 く か ら 本 罪 の 法 益 と し て 挙 げ ら れ て き た も の で あ る 。 そ の 一 例 が 判 例 ➊ で あ る ( レ ジ ュ メ 1.( 1)①( ⅰ )参 照 )。判 例 ➊ に よ れ ば 、ま ず 自 由 が 本 罪 の 法 益 で あ り 、「 幼 者 」に「 監 督 者 」( 以 下「 監 護 者 」と い う 。)が 存 在 す る 場 合 に は 、自 由 に 加 え て 、「 監 督 権 」( 以 下 「 監 護 権 」 と い う 。) も 本 罪 の 法 益 で あ る 。 ま た 、 判 例 ➊ は 、 自 由 と 監 護 権 の 位 置 づ け に つ い て 、 次 の 2 点 を 示 唆 し て も い る よ う に 思 わ れ る 。 第 1 に 、 自 由 と い う 法 益 は 、 本 罪 を 含 む 拐 取 罪 の 実 行 行 為 で あ る 拐 取 の 一 要 素 で あ る 、 行 為 者 が 客 体 を 自 己 ま た は 第 三 者 の 事 実 的 な 支 配 下 に 置 く こ と( 以 下「 支 配 の 設 定 」と い う 。)と い う 要 素 と 関 係 す る も の だ と い う 点 で あ る 。 第 2 に 、 監 護 権 と い う 法 益 は 、 客 体 が 「 未 成 年 者 」 で あ る こ と と 関 係 す る も の だ と い う 点 で あ る 。 と す れ ば 、 本 罪 に は 、 実 行 行 為 が 拐 取 で あ る と い う 点 で 他 の 拐 取 罪 と 共 通 す る 側 面 と 、 客 体 が 「 未 成 年 者 」 で あ る と い う 点 で 他 の 拐 取 罪 と 異 な る 側 面 の 2 つ が あ る こ と に な る 。 次 に 、 身 体 の 安 全 と い う 法 益 は 、 自 由 お よ び 監 護 権 の 各 法 益 と 比 較 す れ ば 、 最 近 に な っ て 主 張 さ れ た も の で あ る 。 そ の 端 緒 と 推 測 さ れ る の が 学 説 ➊ で あ る ( レ ジ ュ メ 1.( 1)②( ⅰ )参 照 )。な お 、学 説 ➊ で 挙 げ ら れ て い る の は 生 命・身 体 等 の 安 全 で あ る が 、学 説 ➊ の 系 譜 に 連 な る と 思 わ れ る 近 時 の 学 説 に 倣 い3、以 下 で は報 告 原 稿 に 最 低 限 の 注 を 付 す 等 の 加 筆 修 正 を 施 し た 。 な お 、 松 原 和 彦 「 我 が 国 に お け る 拐 取 罪 の 沿 革 ( 下 ) ― 親 が 主 体 の 事 案 を 念 頭 に 」 法 時 90 巻 1 号 ( 平 成 30 年 ) 116 頁 以 下 、 同 「 日 本 法 の 地 層 ― 拐 取 罪 を 巡 る ( 裁 ) 判 例 お よ び 学 説 の 各 状 況 の 粗 描 」 同 91 巻 10 号 ( 令 和 元 年 ) 103 頁 以 下 参 照 。 1 松 原 和 彦 「 資 料 1. 刑 法 ( 日 本 ) 条 文 」 参 照 。 2 拐 取 罪 一 般 の 法 益 に つ き 、 町 野 朔 ほ か 編 『 刑 法 ・ 刑 事 政 策 と 福 祉 ― 岩 井 宜 子 先 生 古 稀 祝 賀 論 文 集 』( 尚 学 社 、 平 成 23 年 ) 429 頁 〔 杉 山 博 亮 〕 以 下 参 照 。 3 西 田 典 之 ( 橋 爪 隆 補 訂 )『 刑 法 各 論 〔 第 7 版 〕』( 弘 文 堂 、 平 成 30 年 ) 85 頁 参 照 。

(7)

身 体 の 安 全 と す る 。 さ て 、 学 説 ➊ に は 注 目 す べ き 点 が 1 点 あ る 。 そ れ は 、 客 体 が 「 未 成 年 者 」 で あ る 場 合 に は 、 身 体 の 安 全 と い う 法 益 に 対 す る 危 険 が 「 保 護 者 」 か ら の 引 離 し に よ っ て 惹 起 さ れ る と い う 点 で あ る 。 本 罪 の 法 益 と し て 想 定 さ れ て き た 主 な も の は 以 上 の 3 つ の 法 益 で あ る が 、 そ れ ら の う ち 監 護 権 と い う 法 益 は 、 近 時 、 否 定 的 に 評 価 さ れ て い る よ う で あ る 。 そ れ は 、大 塚 仁 ほ か 編『 大 コ ン メ ン タ ー ル 刑 法 』( 青 林 書 院 )に お け る 評 価 の 変 遷 か ら 確 認 す る こ と が で き る ( 以 下 、 レ ジ ュ メ 1.( 2) ① ( ⅰ ) な い し ( ⅲ ) 参 照 )。 ま ず 、 平 成 3 年 に 出 版 さ れ た 初 版 で は 、 判 例 ➊ と 同 様 の 見 解 が 「 通 説 と さ れ て い る 」 と 評 価 さ れ て い た 。 平 成 14 年 に 出 版 さ れ た 第 2 版 で も 、 そ の よ う な 評 価 だ っ た 。し か し 、平 成 26 年 に 出 版 さ れ た 第 3 版 で は 、判 例 ➊ と 同 様 の 見 解 が「 か つ て は … … 通 説 と さ れ て い た 」 と 評 価 さ れ て い る 。 つ ま り 、 判 例 ➊ と 同 様 の 見 解 の 評 価 は 低 下 し て い る の で あ る 。 他 方 で 、 本 罪 の 法 益 の 1 つ を 自 由 と 理 解 す る こ と に 対 し て 、 異 論 が 唱 え ら れ る こ と は ほ と ん ど な い4 と す れ ば 、 判 例 ➊ と 同 様 の 見 解 の 評 価 が 低 下 し た 原 因 は 、 監 護 権 と い う 法 益 に 対 す る 否 定 的 な 評 価 に あ る と 言 え よ う 。 そ の 背 景 の 1 つ に は 、 判 例 ➊ と 同 様 の 見 解 の 場 合 、例 え ば 、非 監 護 者 が 監 護 者 か ら「 未 成 年 者 」、特 に 成 年 に 近 い 者 を 拐 取 す る 場 合 、 た と え 「 未 成 年 者 」 が 拐 取 に 同 意 し て い た と し て も 、 監 護 者 が 同 意 し な い 限 り 、 本 罪 の 成 立 が 肯 定 さ れ る 可 能 性 が あ る と い う こ と に 対 す る 疑 念 が あ る の か も 知 れ な い5。そ し て 、そ れ は 、監 護 権 が「 未 成 年 者 」の た め の も の で あ る と い う 考 え 方 の 表 れ な の か も 知 れ な い6 し か し 、 監 護 権 と い う 法 益 は 否 定 的 に 評 価 さ れ る べ き な の だ ろ う か 。 ( 松 原 和 彦 )

2. 監護権の重要性―比較法的視座から―

( 1) 日 本の 未 成年 者 拐取 罪 の 特徴 松 原 和 彦 「 3 つ の 法 益 の 確 認 と 監 護 権 に 対 す る 評 価 」 で は 、 法 益 論 に 関 す る 我 が 国 の 従 来 の 議 論 が 確 認 さ れ た が 、 法 益 論 と も 関 係 し て 、 我 が 国 の 未 成 年 者 拐 取 4 例 外 的 に 、 井 上 正 治 = 江 藤 孝 『 新 訂 刑 法 学 〔 各 則 〕』( 法 律 文 化 社 、 平 成 6 年 ) 56 頁 以 下 参 照 。 5 西 田 ( 橋 爪 補 訂 )・ 前 掲 注 3) 87 頁 参 照 。 6 山 口 厚 『 刑 法 各 論 〔 第 2 版 〕』( 有 斐 閣 、 平 成 22 年 ) 92 頁 、 93 頁 参 照 。

(8)

罪 の 規 定 に は 諸 外 国 と 異 な る 大 き な 特 徴 が あ る 。 す な わ ち 、 ド イ ツ 、 オ ー ス ト リ ア 、 イ ギ リ ス 、 ア メ リ カ 、 カ ナ ダ 、 フ ラ ン ス 、 ス イ ス と い っ た 欧 米 諸 国 で は 、 未 成 年 者 を 監 護 者 等 の 下 か ら 連 れ 去 る 行 為 に 関 し て 、 ① 親 の 子 に 対 す る 監 護 権 な ど の 民 事 上 の 権 利 を 保 護 す る 犯 罪 類 型 ( 権 利 保 護 類 型 ) と 、 ② 被 拐 取 者 の 自 由 な い し 安 全 を 保 護 す る 犯 罪 類 型 ( 自 由 ・ 安 全 保 護 類 型 ) の 二 類 型 が そ れ ぞ れ 別 個 の 罪 と し て 存 在 し て い る1の に 対 し 、我 が 国 に は 未 成 年 者 拐 取 罪( 224 条 )の 一 罪 し か 規 定 さ れ て い な い と い う こ と で あ る 。 そ し て 前 項 で 確 認 し た 我 が 国 の か つ て の 通 説 的 見 解 は 、 諸 外 国 に お い て 二 つ の 条 文 で 保 護 し て い る も の を 、 一 つ の 条 文 で 保 護 し よ う と し て い る よ う に み え る 。 こ れ に 対 し て 、 近 年 の 通 説 的 見 解 は 、 224 条 の 法 益 か ら ① 監 護 者 の 権 利 を 排 し 、 ② 未 成 年 者 の 自 由 な い し 安 全 に 特 化 さ せ よ う と し て い る も の と い え る 。 ( 2) 異 なる 二 つの 法 益と 被 害 者の 承 諾 異 な る 二 つ 法 益 を 一 つ の 構 成 要 件 で 保 護 し よ う と し た 場 合 、 被 害 者 の 承 諾 と の 関 係 で 、 誰 が 当 該 法 益 の 侵 害 に 有 効 に 承 諾 し う る 承 諾 権 者 な の か が 問 題 に な る 。 こ の 点 に つ い て 、 か つ て の 通 説 的 見 解 は 、 犯 罪 の 成 立 を 否 定 し う る 承 諾 権 者 と し て 、 監 護 者 の み を 想 定 し て い た2 こ れ は 、 被 害 者 の 承 諾 論 の 一 般 的 な 理 解 に 基 づ け ば 、 奇 妙 な と こ ろ が あ る 。 と い う の も 、 被 害 者 の 承 諾 論 で こ れ ま で 発 展 し て き た 理 解 に 基 づ け ば 、 一 つ の 構 成 要 件 で 二 つ の 法 益 を 平 等 に 保 護 す る 場 合 に は 、 犯 罪 成 立 の た め に ど ち ら か 片 方 の 法 益 侵 害 で 十 分 と す る 択 一 的 保 護 と 犯 罪 成 立 の た め に ど ち ら の 法 益 侵 害 も 必 要 と す る 重 層 的 保 護 の 可 能 性 が あ り 、 前 者 の 場 合 に は 、 い ず れ も の 法 益 所 有 者 の 承 諾 が な け れ ば 犯 罪 の 成 立 は 否 定 さ れ ず 、 後 者 の 場 合 に は 、 い ず れ か の 法 益 所 有 者 の 承 諾 が あ れ ば 犯 罪 の 成 立 は 否 定 さ れ る こ と に な る か ら で あ る3。す な わ ち 、224 条 の 成 立 を 否 定 す る た め に は 、 監 護 者 と 未 成 年 者 の 承 諾 が 必 要 か 、 監 護 者 又 は 未 成 1 樋 口 亮 介 「 比 較 法 の 地 図 ― 家 族 間 に お け る 子 の 奪 い 合 い に 関 す る 刑 事 法 的 対 応 」 法 律 時 報 91 巻 1 号 ( 2019) 106 頁 以 下 を 参 照 。 な お 、 本 企 画 の 趣 旨 は 、 深 町 晋 也 「 企 画 趣 旨 」 法 律 時 報 89 巻 11 号 ( 2017) 127 頁 を 参 照 。 以 下 で 「 特 集 拐 取 罪 を 巡 る 比 較 法 的 ・ 沿 革 的 分 析 」 の 研 究 成 果 を 引 用 す る と き は 、 連 載 の 著 者 姓 ( 又 は 姓 名 )、 担 当 国 、 上 ・ 下 の 区 別 、 及 び 頁 数 の み を 記 す 。 2 団 藤 重 光 『 刑 法 綱 要 各 論 』( 第 3 版 、 弘 文 堂 、 1990) 476 頁 、 福 田 平 『 全 訂 刑 法 各 論 』( 第 3 版 増 補 、 有 斐 閣 、 2002) 173 頁 な ど を 参 照 。 3 こ の 点 に つ い て は 、 拙 稿 「 被 害 者 の 承 諾 - 各 論 的 考 察 に よ る 再 構 成 ( 二 )」 北 大 法 学 論 集 58 巻 4 号 46 頁 以 下 を 参 照 。

(9)

年 者 の 承 諾 が 必 要 だ と い う こ と に な り 、 監 護 者 の 承 諾 の み が 犯 罪 の 成 立 を 否 定 す る と い う 帰 結 に い た る こ と は な い 。 他 方 で 、 未 成 年 者 の 承 諾 能 力 を 否 定 す れ ば 、 か か る 帰 結 は 導 け る が 、 少 な く と も 性 的 自 由 に 関 し て は 13 歳 以 上 が 承 諾 で き る と 解 さ れ て い る こ と4、 ま た 監 禁 罪 に 関 す る 8 歳 児 の 承 諾 が 問 題 と な っ た 事 例5 存 在 す る こ と に 鑑 み れ ば 、 移 動 の 自 由 に つ い て も 一 律 に 未 成 年 者 の 承 諾 能 力 を 否 定 す る こ と に は 説 得 力 が な い よ う に 思 わ れ る6。そ う す る と 残 さ れ る の は 、二 つ の 法 益 の う ち 片 方 が 優 越 す る 、す な わ ち 224 条 で は 未 成 年 者 の 保 護 よ り も 監 護 者 の 保 護 の 方 が 本 質 的 で あ る と 解 し 、監 護 者 の 承 諾 の み が 224 条 の 成 立 を 否 定 で き る と 解 す る 方 法 に な る が 、 当 時 の 通 説 に お い て 、 法 益 の 優 劣 に 関 す る 記 述 は 管 見 の 限 り 見 当 た ら な い 。 そ れ で は な ぜ か つ て の 通 説 が こ の よ う な 、 す な わ ち 自 由 と 監 護 権 を 保 護 法 益 と し つ つ 、 監 護 者 の 承 諾 の み 有 効 で あ る と い う 一 見 納 得 が い か な い よ う に み え る 解 釈 を 行 っ て い た の だ ろ う か 。 結 論 か ら 言 え ば 、 大 正 及 び 昭 和 初 期 の 頃 の こ の 点 に 関 す る 学 説 に 、 当 時 の ド イ ツ の 学 説 が 強 い 影 響 を 与 え た か ら で あ る と 思 わ れ る 。 た と え ば 、 神 谷 健 夫 = 神 原 甚 造 『 刑 法 詳 論 』 で は 、 拐 取 罪 に よ り 侵 害 さ れ る の は 、 監 督 権 者 の 監 督 の 下 に 立 つ 未 成 年 の 自 由 で あ る と し な が ら 、 そ の 法 益 を 処 分 で き る の は 監 督 権 者 だ け で あ る と 記 述 し 、 そ こ で リ ス ト と フ ラ ン ク の 名 を あ げ て い る7。ま た 、新 保 勘 解 人『 日 本 刑 法 要 論 各 論( 増 訂 再 版 )』は 、本 罪 の 保 護 法 益 を 4 確 か に 、 児 童 福 祉 法 や 青 少 年 保 護 育 成 条 例 で は 、 18 歳 未 満 の 者 と の 合 意 的 な 性 的 行 為 を も 処 罰 す る 規 定 が あ る が 、 こ こ で の 保 護 法 益 は よ り 広 範 で 長 期 的 な 利 益 で あ る 未 成 年 者 の 健 全 な 育 成 と 解 さ れ て い る 。 5 大 阪 高 判 平 成 27 年 10 月 6 日 判 時 2293 号 139 頁 ( 上 告 審 : 最 決 平 成 28 年 1 月 15 日 ) を 参 照 。 6 た と え ば オ ー ス ト リ ア に お い て は 、 自 由 保 護 類 型 で あ る 刑 法 101 条 ( 児 童 拐 取 罪 ) と の 関 係 で 、 た と え 14 歳 未 満 で あ っ て も 、 移 動 の 自 由 に 関 し て は 真 意 の 承 諾 を し う る と の 理 解 が 存 在 す る ( 佐 藤 陽 子 ・ 墺 ・ 下 ・ 99 頁 )。 7 神 谷 健 夫 = 神 原 甚 造 『 刑 法 詳 論 』( 清 水 書 店 、 1913) 974 頁 以 下 :「 未 成 年 者 は 父 母 後 見 人 感 化 院 主 教 育 所 主 の 如 き 監 督 者 の 監 督 の 下 に 在 る と 浮 浪 の 状 態 に 在 り て 何 人 の 監 督 を も 受 け さ る と を 問 は す 均 し く 拐 取 罪 の 客 体 た る を 得 へ し 而 し て 拐 取 罪 に よ り 未 成 年 者 は 自 ら 此 等 監 督 権 者 の 監 督 の 下 に 立 つ の 自 由 を 侵 害 せ ら る る も の な り と 雖 と も 此 等 の 監 督 権 者 の み か 法 律 に 抵 触 せ さ る 範 囲 に 於 て ( 例 へ は 次 条 以 下 の 規 定 ) 未 成 年 者 の 斯 る 法 益 を 処 分 す る を 得 へ き も の な る か 故 に 監 督 権 者 の 承 諾 を 得 た る と き は 拐 取 罪 成 立 せ す と 雖 と も 未 成 年 者 の み の 承 諾 は 拐 取 行 為 の 違 法 性 を 阻 却 す る こ と と 云 は さ る 可 ら す ( 同 説 リ ス ト 、 フ ラ ン ク ) 監 督 の 下 に 在 ら さ る 少 年 に 対 し

(10)

未 成 年 者 の 自 由 及 び 保 護 者 の 監 督 権 で あ る と 解 し な が ら も 、 未 成 年 者 の 自 由 は 絶 対 的 な も の で は な い と し 、 監 護 権 の 濫 用 に 至 ら な い 限 り で の 監 護 者 の 承 諾 に の み 有 効 な 犯 罪 阻 却 効 果 を 認 め る と し て 、 リ ス ト 、 フ ラ ン ク 、 ア ル フ ェ ル ト を 引 用 し て い る8 そ こ で 以 下 で は 、 当 時 の ド イ ツ 議 論 に つ い て ま ず 確 認 し て み た い 。 ( 3) か つて の 通説 に 影響 を 与 えた ド イツ の 議論 ド イ ツ の 未 成 年 者 拐 取 罪 の 規 定 た る 刑 法 235 条 の 基 本 的 な 構 成 要 件( 1 項 )は 、 1872 年 に ラ イ ヒ 刑 法 典 が 制 定 さ れ た 当 初 か ら 1998 年 の 改 正 ま で ほ と ん ど 変 わ っ て い な い 。 235 条 1 項 は 次 の よ う な も の で あ っ た ( レ ジ ュ メ 2(3)も 参 照 )。 ド イ ツ 刑 法 第 235 条9 (1) 未 成 年 者 を 策 略 、脅 迫 又 は 暴 行 に よ り 、そ の 両 親 、後 見 人 又 は 世 話 人( Pfleger) か ら 引 離 し た 者 は 、 禁 錮 ( Gefängnis) に 処 す る 。 か か る 構 成 要 件 の 下 、1900 年 代 初 期 に は す で に 本 条 の 保 護 法 益 と 承 諾 権 者 に 関 て は 本 人 の 承 諾 を 得 す し て 擅 に 事 実 上 の 支 配 関 係 を 設 定 す る に 因 り て 成 立 す へ し 」 (原 文 の 片 仮 名 書 き を 平 仮 名 に 、 旧 字 体 を 新 字 体 に 改 め た)。 8 新 保 勘 解 人 『 日 本 刑 法 要 論 各 論 ( 増 訂 再 版 )』( 敬 文 堂 書 店 、 1929) 428 頁 以 下 : 「 本 罪 の 客 体 は 未 成 年 者 に し て 其 行 為 は 略 取 又 は 誘 拐 な り 。 然 れ と も 未 成 年 者 は 保 護 者 の 監 督 の 下 に 立 つ も の に し て 未 成 年 者 の 自 由 な る も の は 絶 対 的 の も の に 非 す し て 保 護 者 の 監 督 の 範 囲 内 に 於 て 存 す る も の な れ は 本 罪 の 行 為 は 常 に 一 面 に 於 て は 保 護 者 の 監 督 権 を 侵 害 す る の 性 質 を 有 す る も の と す 。」「 従 て 縱 令 未 成 年 者 の 承 諾 あ る も 之 か 保 護 者 の 意 思 に 反 す る と き は 本 罪 の 成 立 を 妨 け さ る へ き も 之 に 反 し 保 護 者 の 承 諾 あ る と き は 其 承 諾 に し て 適 法 な る 監 督 権 の 行 使 と 認 む へ き 範 囲 内 に 於 て は 縱 令 未 成 年 者 の 意 思 に 反 す る 場 合 と 雖 も 本 罪 成 立 せ さ る へ し 。 何 と な れ は 此 場 合 未 成 年 者 の 自 由 を 侵 害 し た る も の と 言 う を 得 さ れ は な り 。 但 し 其 承 諾 か 監 督 権 の 乱 用 に 出 て た る も の と 認 む へ き 場 合 に 於 て は 縱 令 保 護 者 の 承 諾 あ る も 本 罪 成 立 す へ し 【 獨 逸 刑 法 に 於 け る 幼 者 の 略 取 罪 ( Kinderraub) に 付 [ リ ス ト ] 亦 刑 法 典 の 意 味 に 於 て は 此 犯 罪 は 未 成 年 者 に 対 す る 自 由 犯 と し て 規 定 せ ら れ 監 督 権 者 の 親 族 権 に 対 す る 犯 罪 と し て 規 定 せ ら れ さ る も 未 成 年 者 の 承 諾 か 犯 罪 の 成 否 に 何 等 の 影 響 な き に 拘 ら す 監 督 権 者 の 承 諾 は 其 違 法 性 を 阻 却 す と 解 し [ フ ラ ン ク ] は 本 罪 の 行 為 の 客 体 は 未 成 年 者 な れ と も 保 護 の 客 体 は 親 権 者 後 見 人 等 な る を 以 て 未 成 年 者 の 承 諾 は 其 違 法 性 を 阻 却 せ さ る も 親 権 者 後 見 人 等 の 承 諾 は 之 を 阻 却 す と 為 し [ ア ル フ ェ ル ト ] 亦 結 果 に 於 て 之 と 同 説 な り 】」(原 文 の 片 仮 名 書 き を 平 仮 名 に 、 旧 字 体 を 新 字 体 に 改 め た)。 9 1912 年 7 月 5 日 か ら 1969 年 9 月 1 日 ま で 用 い ら れ て い た 条 文 を 翻 訳 し た 。 そ れ 以 前 の 条 文 も 構 成 要 件 の 基 本 的 部 分 は 同 じ で あ る 。

(11)

す る 議 論 は 一 定 の 方 向 性 を 獲 得 し て い た 。 す な わ ち 、 235 条 の 法 益 は 監 護 権 で あ り 、 そ れ ゆ え 承 諾 権 者 は 監 護 者 で あ る と の 理 解 で あ る 。 フ ラ ン ク10や そ の 他 多 く の 論 者11が こ の よ う に 主 張 し て い た 。 こ れ に 対 し て 、独 自 の 見 解 を 主 張 し て い た の は リ ス ト で あ る 。1900 年 に 出 版 さ れ た リ ス ト の 教 科 書 に よ れ ば 、ド イ ツ 刑 法 235 条 の 保 護 法 益 は 未 成 年 者 の 自 由 で あ る が 、 違 法 性 を 阻 却 し う る の は 、 監 護 者 の 承 諾 の み で あ る12 特 徴 的 な の は 、ド イ ツ で は 235 条 の 法 益 を い か に 解 そ う と 、未 成 年 者 拐 取 罪 に 承 諾 で き る の は 監 護 者 の み で あ る と 解 さ れ て い る 点 で あ ろ う 。 な ぜ 当 時 の ド イ ツ で は 、 監 護 権 者 の み が 法 益 を 処 分 で き る と 解 さ れ て い た の だ ろ う か 。 そ こ で 以 下 で は ド イ ツ の 学 説 を よ り よ く 理 解 す る た め に ド イ ツ 法 を 二 つ の 視 点 か ら 観 察 し て み た い 。 す な わ ち 、 第 一 に 沿 革 的 な 視 点 で あ り 、 第 二 に 条 文 の 文 言 を 基 礎 に お い た 解 釈 学 的 な 視 点 で あ る 。 ま ず 、 第 一 の 視 点 か ら 検 討 す る 。 そ も そ も 未 成 年 者 拐 取 罪 に 関 す る 規 定 は ロ ー マ 時 代 の か な り 初 期 か ら 存 在 し て い た が 、 と り わ け 構 成 要 件 が 明 確 化 し た の は 、 紀 元 4 世 紀 の コ ン ス タ ン テ ィ ヌ ス 1 世 の 時 代 で あ る と い う13。 そ の 本 質 的 な メ ル ク マ ー ル は 、 親 族 ( Angehörige)の 意 思 に 反 し て 拐 取 が 行 わ れ る と い う こ と で あ っ た 。 そ の た め 親 族 の 同 意 は 、 構 成 要 件 を 排 除 す る が 、 被 拐 取 者 の 意 思 傾 向 は 重 視 さ れ な い と 理 解 さ れ て い た14。 こ の 時 代 の い わ ゆ る 拐 取 罪 は 、 キ リ ス ト 教 的 価 値 観 に 基 づ い て 、 拐 取 さ れ て い る 間 に 被 拐 取 者 が 堕 落 す る こ と を 理 由 に 処 罰 さ れ て い た 。 そ れ ゆ え 、 仮 に 被 拐 取 者 が 拐 取 に 同 意 し た 場 合 に は 、 拐 取 者 の 刑 が 軽 く な る の で は な く 、 拐 取 者 と 共 に 被 拐 取 者 に も 刑 罰 が 科 さ れ て い た と い う 。 こ の よ う に 、 本 罪 は あ く ま で 家 族 権 の 行 使 者 た る 家 長 が 所 有 物 た る 妻 や 娘 を 堕 落 さ せ る こ と な く 管 理 す る た め の 規 定 だ っ た の で あ る 。 こ れ に 対 し て 、中 世 、具 体 的 に は 13 世 紀 に な っ て よ う や く 北 ド イ ツ の い く つ か

10 Vgl. Frank, Strafgesetzbuch für das Deutsche Reich, 1926, S. 477.

11 Vgl. Merkel, Lehrbuch des deutschen Strafrechts, 1889, S. 313; Berner, Lehrbuch des deutschen Strafrechtes, 1898, S. 543; Ebermayer/ Lobe/ Rosenberg, Das Reichs-Strafgesetzbuch, 1922, S. 628 f.; Maurach, Deutsches Strafrecht Besonderer Teil ein Lehrbuch, 1953, S. 98.

12 Vgl. Liszt, Lehrbuch des Deutschen Strafrechts, 1900, S. 344. Meyer,

Lehrbuch des Deutschen Strafrechts, 1907, S. 418 f. も 同 旨 。

13 拐 取 罪 の 沿 革 に 関 し て は 、 基 本 的 に 、Schwarz, Entwicklung und Reform der Entführungsdelikte (§§235-238), 1972 に 依 拠 し た 。

(12)

の 都 市15で 初 め て 拐 取 に 二 つ の 類 型 が 現 れ た 。 す な わ ち 、 被 拐 取 者 が 拐 取 を 受 け 入 れ れ ば Entführung、 拒 絶 す れ ば Raub と し て 区 別 さ れ 、 前 者 は 、 拐 取 者 が 未 成 年 者 又 は 既 婚 女 性 で な い 限 り 、 刑 が 減 軽 さ れ た と い う16。 た と え ば フ リ ー ス ラ ン ト で は 、 裁 判 で 拐 取 者 と 監 護 者 が 並 び た て ら れ 、 被 拐 取 者 に 対 し 「 誰 の と こ ろ に 行 き た い か 」と い う 問 い が な さ れ 、被 拐 取 者 が 拐 取 者 を 選 べ ば Entführung、監 護 者 を 選 べ ば Raub と 結 論 付 け ら れ て い た と い う 。そ の 後 16 世 紀 の カ ロ リ ー ナ 刑 法 典 で は ロ ー マ 法 が 継 受 さ れ た た め 両 者 の 区 別 は な さ れ な か っ た が 、18 世 紀 末 の プ ロ イ セ ン 一 般 ラ ン ト 法 及 び そ れ を 継 承 し た プ ロ イ セ ン 刑 法 典( 19 世 紀 中 ご ろ )で は 、 そ の 区 別 を 確 認 す る こ と が で き る17 具 体 的 に 、 プ ロ イ セ ン 刑 法 典 で は 、 ま ず 自 由 に 対 す る 罪 と し て 、 204 条 に 自 ら の 支 配 下 に 置 く な ど の 目 的 で 暴 行 ・ 策 略 等 の 手 段 を 用 い 、 人 を 拐 取 す る い わ ゆ る Menschenraub( 拐 取 罪 ) が 規 定 さ れ18、 同 様 に 自 由 に 対 す る 罪 と し て 、 205 条 に 物 乞 い 又 は 利 欲 的 若 し く は 反 良 俗 的 な 目 的 等 に 利 用 す る た め 16 歳 未 満 の 者 を 策 略 又 は 暴 行 で 拐 取 す る 罪 が 規 定 さ れ 、最 後 に 205 条 の 受 け 皿 構 成 要 件 で 、監 護 権 に 対 す る 罪 と し て 、 206 条 に 策 略 又 は 暴 行 で 未 成 年 者 を そ の 両 親 又 は 後 見 人 か ら 拐 取 す る 罪 が 規 定 さ れ て い た19

15 Vgl. Schwarz, a.a. O. (Anm. 13), S. 19。 フ リ ー ス ラ ン ト 、 ケ ル ン 、 ボ ヘ ミ ア が そ の 例 と し て あ げ ら れ て い る 。

16 Vgl. Schwarz, a.a. O. (Anm. 13), S. 19.

17 Vgl. Temme, Lehrbuch des Preussischen Strafrechts, 1863, S. 872 ff.

同 時 期 に ド イ ツ の 一 部 に お い て 適 用 さ れ て い た Gemeines Recht に お い て も 、 解 釈 に お い て 両 者 の 区 別 は 確 認 で き る ( vgl. Feuerbach, Lehrbuch des gemeinen in Deutschland gültigen peinlichen Rechts, 1832 , S. 173.「 拐 取 は 違 法 な 方 法 で 行 わ れ な け れ ば な ら ず 、 そ れ は 、 1 ) 人 的 自 由 の 侵 害 と し て か ― そ の 人 の 意 思 に 反 し て ― 、 2 ) そ の 意 思 に 合 致 し て い る と き は 、 第 三 者 の そ の 者 に 関 す る 法 的 権 力 の 侮 辱 ( Beleidigung) と し て で あ る 」。 ま た 、 後 者 は 、「 1 ) 既 婚 女 性 の 場 合 に は そ の 夫 と の 関 係 で 、 2 ) 子 ど も の 場 合 に は そ の 者 に つ い て 父 権 を 有 す る 者 と の 関 係 で 行 わ れ る 。」)。 18 Menschenraub も 未 成 年 者 拐 取 罪 と 同 様 に ロ ー マ 法 に 起 源 を 有 す る 規 定 で あ る 。 と り わ け 自 由 人 の 売 買 な ど を 問 題 と し て い た ( vgl. Haars, Menschenraub und Kinderraub, 1899, S. 5 f.)。

19 205 条 は 未 成 年 者 に 策 略 や 暴 行 が な さ れ る こ と が 前 提 と な っ て お り 、 206 条 は そ れ が 両 親 又 は 後 見 人 に な さ れ る こ と が 予 定 さ れ て い る 。 こ の 点 で 、 後 者 は 、 Menschenraub と は 性 質 が 異 な り 、 第 一 義 的 に 親 権 と 配 慮 権 を 保 護 す る 規 定 だ と さ れ た の だ と い う ( vgl. Schwarz, a.a. O. (Anm. 13), S. 33 ff. Hälschner, Das

(13)

そ の 後 、 拐 取 罪 と の 関 係 で は プ ロ イ セ ン 刑 法 典 と 変 わ ら な い 北 ド イ ツ 連 邦 の た め の 刑 法 典 が 作 ら れ 、 そ れ を 継 受 し た ラ イ ヒ 刑 法 典 が で き た20。 ラ イ ヒ 刑 法 典 で は 、 234 条 に 一 定 の 目 的 で 、 か つ 策 略 又 は 暴 行 ・ 脅 迫 の 手 段 を 用 い て 人 を 拐 取 す る Menschenraub が 規 定 さ れ 、 235 条 に 未 成 年 者 を 策 略 又 は 暴 行 ・ 脅 迫 に よ り 親 権 者 や 後 見 人 か ら 拐 取 す る 罪 が 規 定 さ れ 、 236 条 に わ い せ つ 等 の 目 的 で 婦 女 を 策 略 又 は 暴 行・ 脅 迫 で 拐 取 す る 罪 が 規 定 さ れ 、最 後 に 237 条 に わ い せ つ 等 の 目 的 で 未 成 年 、 か つ 未 婚 の 婦 女 を そ の 意 思 に 合 致 し 、 し か し そ れ ら の 監 護 者 等 の 意 思 に 反 し て 拐 取 す る 罪 が 規 定 さ れ て い る 。 以 上 で 紹 介 し た 沿 革 に 基 づ き 考 え る に 、 そ も そ も 未 成 年 者 拐 取 罪 と い う の は 、 未 成 熟 な 者 を 監 護 者 の 権 力 に 服 さ せ る た め の 条 文 で あ っ た と い え る 。 そ れ が や が て 自 由 に 対 す る 罪 に な り 、 他 方 で 自 由 に は 解 消 さ れ な い 部 分 も 残 っ た 。 つ ま り 上 述 の 法 益 論 に ま で 遡 れ ば 、① の 類 型 が 原 初 形 態 で あ り 、そ の 後 、( 場 合 に よ っ て は 監 護 さ れ て い な い ) 被 拐 取 者 の 自 由 を 重 視 し た ② の 類 型 が 派 生 し た こ と に な る 。 ま た 、 ② 類 型 の 拐 取 罪 が 派 生 す る 際 に 、 ① 類 型 が 削 除 さ れ る こ と は な く 、 ① 類 型 の 独 自 の 重 要 性 は 維 持 さ れ て い る 。 そ し て 、 ① 類 型 の 条 文 と し て 受 け 止 め ら れ や す い の は 、「 A か ら ( B を ) 奪 う 」 と い う 構 造 に な っ て お り 、 か つ 被 拐 取 者 の 意 思 に 反 す る 拐 取 を 必 ず し も 要 件 と し て い な い21構 成 要 件 で あ っ た 。 こ の 点 で ラ イ ヒ 刑 法 典 235 条 は ま さ に そ の よ う な 条 文 で あ っ た と い え よ う 。 実 際 に 立 法 者 も そ の よ う な 趣 旨 で 規 定 し た も の と 考 え ら れ る 。ラ イ ヒ 刑 法 典 235 条 の 保 護 法 益 は 監 護 権 で あ り 、そ の 承 諾 権 者 は 監 護 者 で あ る と い う 結 論 は 、 こ の 点 で 分 か り や す い 。 こ れ に 対 し て リ ス ト が 保 護 法 益 を 未 成 年 者 の 自 由 と 解 し た 点 は 疑 問 で あ る が 、 場 合 に よ っ て は 、 条 文 が 分 類 さ れ た 章 が 自 由 に 対 す る 罪 の 章 で あ っ た こ と 及 び 、 拐 取 の 目 的 が 婚 姻 目 的 に 限 ら れ な い22こ と を 重 視 し た の か も し れ な い23

preußische Strafrecht Teil. 3, 1868, S. 190 f. も 参 照 )。 ま た 、Haars. a.a.O. (Anm. 18), S. 39 f.も 参 照 。

20 Vgl. Schwarz, a.a. O. (Anm. 13), S. 38. 21 こ の 点 は 、 後 述 す る 第 二 の 点 と 関 係 す る 。

22 リ ス ト は 婚 姻 目 的 に よ る 、 被 拐 取 者 の 意 思 に 合 致 し 、 か つ 後 見 を 侵 害 す る 拐 取 行 為 に 家 族 に 対 す る 罪 た る 特 徴 を 見 出 す ( Vgl. Liszt, a.a. O. (Anm. 12), S. 351 )。 23 リ ス ト が プ ロ イ セ ン 一 般 ラ ン ト 法 の 伝 統 を 批 判 的 に 見 て い る こ と も 重 要 で あ ろ う ( vgl. Liszt, a.a. O. (Anm. 12), S. 351 f. )。 ま た 、 Gemeines Recht の 伝 統 か ら み れ ば 、 235 条 が Menschenraub か ら 分 岐 し た 新 設 条 文 で あ る と い う 点 に つ い て は 、

(14)

し か し 、 た と え リ ス ト の よ う に 、 235 条 の 法 益 を 被 拐 取 者 の 自 由 と 解 し て も 、 ド イ ツ に は 235 条 の 承 諾 権 者 を 監 護 者 と 解 す る べ き 理 由 が あ っ た 。そ れ は 第 二 の 視 点 、す な わ ち 文 言 を 基 礎 に お い た 解 釈 学 的 な 視 点 か ら み た と き に 明 ら か に な る 。 そ の 際 に は 、同 じ く 拐 取 を 規 定 す る 236 条 と 237 条 も あ わ せ て 観 察 し な け れ ば な ら な い ( レ ジ ュ メ 2( 3 ) も 参 照 )。 ラ イ ヒ 刑 法 典 第 236 条24 (1)わ い せ つ の 目 的 で 、婦 女 を そ の 意 思 に 反 し て 策 略 、脅 迫 又 は 暴 行 で 拐 取 し た 者 は 10 年 以 下 の 懲 役 に 処 す る 、ま た 被 拐 取 者 と 婚 姻 す る た め に 、拐 取 が 行 わ れ た 場 合 に は 禁 錮 に 処 す る 。 同 第 237 条25 (1)わ い せ つ 又 は 婚 姻 の 目 的 で 、 未 成 年 、 か つ 未 婚 の 婦 女 を そ の 意 思 と 合 致 し て 、 し か し そ の 両 親 又 は 後 見 人 の 同 意 な し に 拐 取 し た 者 は 禁 錮 に 処 す る 。 こ れ ら の 規 定 の 特 徴 は 、被 拐 取 者 の 意 思・同 意 の 有 無 を 明 記 し て い る 点 に あ る 。 す な わ ち 、236 条 は「 被 拐 取 者 の 意 思 に 反 す る こ と 」が 前 提 に な る の に 対 し 、237 条 は 「 被 拐 取 者 の 意 思 に 合 致 し 、 し か し 監 護 者 の 意 思 に 反 す る こ と 」 を 前 提 と す る 。 法 益 と の 関 係 で み れ ば 、 前 者 を ② に 分 類 し 、 後 者 を ① に 分 類 す る の が 一 般 的 で あ る26 そ の 上 で 235 条 を 見 る と 、 235 条 に は 被 拐 取 者 の 意 思 ・ 同 意 に 関 す る 記 述 が な い 。つ ま り 、235 条 で は 、「 被 拐 取 者 の 意 思 に 合 致 し て も 、し な く て も 」と 読 ま れ る こ と に な る 。 そ れ ゆ え 、 決 定 的 な の は 監 護 者 の 意 思 で あ る と の 理 解 に つ な が る こ と に な る の で あ る 。 こ の 点 で 、 た と え ば リ ス ト が そ う で あ っ た よ う に 、 本 罪 の 保 護 法 益 を 監 護 権 だ と 解 さ な く て も 、 承 諾 権 者 は 監 護 者 で あ る と の 帰 結 に 至 る の は 理 由 の あ る こ と だ っ た と い え よ う 。 ( 4) か つて の 通説 の 理論 的 根 拠? 我 が 国 の 224 条 を 見 て み る と 、 ド イ ツ の 条 文 の よ う に 、「 A か ら ( B を ) 奪 う 」 と い う 条 文 の 作 り に な っ て お ら ず 、 ま た 未 成 年 者 の 承 諾 を 制 限 す る 文 言 を 条 文 上 に 見 出 す こ と は で き な い 。 し か し 、 そ れ に も 拘 ら ず 、 先 に 紹 介 し た 我 が 国 の 文 献 24 1872 年 1 月 1 日 か ら 1953 年 10 月 1 日 ま で 用 い ら れ て い た 条 文 を 翻 訳 し た 。 1998 年 に 本 質 的 に 変 更 を 加 え ら れ る ま で は 、 ほ と ん ど 内 容 的 な 変 更 は な い 。 25 1896 年 9 月 7 日 か ら 1953 年 10 月 1 日 ま で 用 い ら れ て い た 条 文 を 翻 訳 し た 。 そ れ 以 前 の 条 文 も 構 成 要 件 の 基 本 的 部 分 は 同 じ で あ る 。 ま た 、 1997 年 に 削 除 さ れ る ま で は 、 ほ と ん ど 内 容 的 な 変 更 は な い 。

26 Vgl. Frank, a.a.O. (Anm. 10), S. 479 und 480; Maurach, a.a.O. (Anm. 11), S. 99. た だ し 、 236 条 に つ い て は 身 体 の 自 由 と い う よ り も 、 性 的 自 由 が 重 視 さ れ て い る 。

(15)

は ド イ ツ 刑 法 235 条 に 関 す る ド イ ツ の 解 釈 を 手 が か り に 、監 護 者 の 承 諾 の み の 重 要 性 を 主 張 し て き た 。 で は 、 我 が 国 の か つ て の 学 説 が 、 ド イ ツ と 我 が 国 の 条 文 の 違 い を 認 識 せ ず に こ の よ う な 解 釈 を し て し ま っ た と 見 る べ き な の だ ろ う か 。 私 見 に よ れ ば 、 か つ て の 学 説 は 、 ド イ ツ の 条 文 と 我 が 国 の 条 文 が 異 な っ て い る こ と を 理 解 し な が ら も 、 あ え て こ の よ う な 理 解 を 取 り 入 れ た も の で あ る 。 た と え ば 、大 正 6 年( 1917)に 公 刊 さ れ た 藤 波 元 雄「 略 取 誘 拐 罪 ニ 於 ケ ル 被 害 者 ノ 承 諾 ヲ 論 ス 」 法 曹 記 事 27 巻 8 号 1 頁 以 下 は 、 当 時 の ド イ ツ や フ ラ ン ス な ど の 外 国 法 に つ い て か な り 詳 細 な 検 討 を 経 た の ち 、 わ が 国 の 条 文 と こ れ ら の 条 文 が 異 な っ て い る こ と を 認 識 し な が ら も 、「 社 会 生 活 の 実 状 に 参 酌 し 且 法 文 の 用 語 か 甚 た 簡 単 な る 点 は 反 て 多 少 の 斟 酌 を 加 ふ る 余 地 あ る も の と 」 し て 、 監 護 権 と 未 成 年 者 の 自 由 の い ず れ も を 保 護 す る と の 見 解 を 「 穏 健 な る 見 解 と 認 む 」 と し て 支 持 し て い る27。 こ こ で い う 社 会 生 活 の 実 状 と い う の は 、 こ こ で 挙 げ ら れ た 例 に 基 づ け ば 、 未 成 年 者 の 承 諾 を 常 に 有 効 と す れ ば 、 監 護 者 が 受 け さ せ た い 教 育 や 世 話 を 受 け さ せ る こ と が で き な く な る28こ と で あ る 。 監 護 者 の 決 め た 場 所 に 子 が 所 在 し て い る と い う こ と が 、 監 護 者 が 子 に 対 す る 権 利 や 義 務 を 行 使 す る 前 提 に な る 。 そ れ 27 な お 、 本 罪 が 未 成 年 者 の 自 由 を 保 護 し て い る こ と は 前 提 と な っ て い る 。 そ れ は 、 条 文 の 位 置 や 法 定 刑 か ら 、 そ の 他 の 拐 取 罪 と 罪 質 が 同 じ で あ る こ と を 考 慮 し て の こ と で あ る と 思 わ れ る ( 藤 波 元 雄 「 略 取 誘 拐 罪 ニ 於 ケ ル 被 害 者 ノ 承 諾 ヲ 論 ス 」 法 曹 記 事 27 巻 8 号 24 頁 を 参 照 )。 ま た 、 明 文 上 、 本 罪 の 客 体 が 監 護 権 に 服 す る 未 成 年 者 で あ る と 明 記 し て い な い こ と ( 旧 刑 法 に 関 す る 記 述 と し て 、 同 ・ 22 頁 を 参 照 ) 及 び 旧 刑 法 か ら の 伝 統 も そ の 理 由 と さ れ る ( 同 ・ 16 頁 以 下 を 参 照 )。 当 時 の 学 説 が 拐 取 罪 一 般 の 法 益 を 被 拐 取 者 の 自 由 と し 、 未 成 年 者 拐 取 に つ い て は そ れ に 加 え て 監 護 権 と し て い た 点 に つ い て は 、 松 原 ・ 沿 革 ・ 下 ・ 117 頁 を 参 照 。 引 用 部 分 は 、 原 文 の 片 仮 名 書 き を 平 仮 名 に 、 旧 字 体 を 新 字 体 に 改 め て い る ( 以 下 、 同 じ )。 28 「 監 護 権 に 属 す る 未 成 年 者 に 対 し て 監 護 権 者 は 其 処 分 権 限 に 基 き 未 成 年 者 の 意 思 に 反 し 之 を 甲 教 育 家 に 托 し 監 護 を 受 け し め た る と き 悪 友 乙 か 未 成 年 者 の 承 諾 を 得 て 之 を 自 己 の 支 配 内 に 入 る る に 當 り 監 護 権 者 に 暴 行 脅 迫 を 加 へ 又 は 詐 欺 誘 惑 を 加 へ て 其 結 果 未 成 年 者 を 引 取 り た り と し 此 場 合 に 未 成 年 者 の 単 独 の 承 諾 か 法 益 侵 害 の 適 法 性 (マ マ )を 阻 却 す る も の と せ は 監 護 権 者 は 未 成 年 者 の 意 思 に 反 し て 安 全 に 処 分 権 限 を 行 使 す る 能 は さ る に 至 る へ し 故 に 本 罪 に 於 て 監 護 権 も 亦 法 の 保 護 す る 利 益 と 解 す へ く 此 場 合 に は 監 護 権 者 の 承 諾 は 以 て 犯 罪 の 成 立 を 阻 却 す る に 足 る も 被 拐 取 者 の 承 諾 の 有 無 は 没 交 渉 な り 」( 26 頁 以 下 )。 た だ し 、 略 取 も 誘 拐 も 存 在 し な い 場 合 は 、 処 罰 す る こ と は で き な い と も 主 張 し て い る 。

(16)

は ま さ に 、 民 法 上 、 子 の 居 所 指 定 権29が 親 権 者 に 与 え ら れ て い る こ と の 理 由 で あ り 、 そ こ に は 親 の み な ら ず 子 の 利 益 が あ る と い え る 。 す な わ ち 、 ② 類 型 だ け で は 保 護 で き な い ① 類 型 の 重 要 性 を 顧 慮 し 、 具 体 的 に は 教 育 等 を 考 慮 に 入 れ た 長 期 的 な 子 の 利 益 に 関 す る 保 護 の 欠 缺 は 許 さ れ な い と し て 、 224 条 に 二 つ の 保 護 法 益 を 詰 め 込 ん だ と い え る30。安 易 な 、し か し 承 諾 能 力 の あ る 未 成 年 者 の 承 諾 を 許 さ な い た め に ① 監 護 権 と い う 法 益 が 加 え ら れ た と い う 点 で 、 ① 監 護 権 を 保 護 す る 罪 が ② 自 由 に 対 す る 罪 に 分 化 し て い っ た ド イ ツ と は 沿 革 的 に 異 な っ て お り 、 ま た 理 論 的 に 多 少 の 無 理 が 生 じ て い る が 、 そ れ は ま さ に 我 が 国 の 未 成 年 者 拐 取 罪 が 一 つ し か 規 定 さ れ て い な か っ た た め に や む を 得 な い 解 釈 で あ っ た と い え よ う 。 ( 5) 小 括 ド イ ツ と 我 が 国 の 未 成 年 者 拐 取 に 関 す る 規 定 は 、 沿 革 も 条 文 も 異 な る も の で あ る 。 こ の 点 で 、 ド イ ツ の 学 説 に 強 い 影 響 を 受 け た よ う に み え る 我 が 国 の か つ て の 通 説 に は 問 題 が 内 在 し う る 。 し か し 、 我 が 国 の か つ て の 学 説 は 必 ず し も 盲 目 的 に ド イ ツ の 学 説 に 従 っ た の で は な く 、 そ の 違 い を 認 識 し つ つ も 、 親 が 子 に 対 し て 教 育 を 受 け さ せ る 利 益 な ど 、 長 期 的 な 要 素 に 着 目 し て 、 ド イ ツ の 理 解 を 取 り 入 れ て い っ た も の と い え る 。 こ の よ う な 理 解 は 現 在 に お い て も 傾 聴 に 値 す る で あ ろ う 。 実 際 諸 外 国 に お い て は 、 現 在 に お い て も ① 類 型 の 規 定 が 存 在 し て い る 。 逆 に 、 現 在 の 通 説 の よ う に 、 ① 類 型 に 関 す る 法 益 の 排 除 は 、 そ う 簡 単 に 決 断 す る こ と は で き な い よ う に 思 わ れ る 。 仮 に ① を 排 除 す る の で あ れ ば 、 ② に 関 す る 法 益 論 又 は 違 法 性 阻 却 論 の 中 で 、 子 の 長 期 的 利 益 を 取 り 込 む 工 夫 が 必 要 と な ろ う 。 ( 佐 藤 陽 子 ) 29 民 法 821 条 : 子 は 、 親 権 を 行 う 者 が 指 定 し た 場 所 に 、 そ の 居 所 を 定 め な け れ ば な ら な い 。 30 旧 刑 法 時 代 に お い て 、 未 成 年 者 ( た だ し 、 12 歳 未 満 ) 拐 取 罪 が 監 護 権 に 対 す る 罪 だ と 解 さ れ て い た の も 、 こ の こ と に 影 響 を 与 え て い た も の と 思 わ れ る ( 松 原 ・ 沿 革 ・ 上 ・ 272 頁 以 下 。 佐 野 文 彦 「「 家 族 」 間 に お け る 子 の 奪 い 合 い に 関 す る 未 成 年 者 拐 取 罪 の 適 用 に 関 す る 試 論 」 東 大 ロ ー 11 号 ( 2016) 89 頁 も 以 下 )。

(17)

3.3 つの法益の検討(その 1)―自由の実体、身体の安全の適否 ―

※ 佐 藤 陽 子「 2.監 護 権 の 重 要 性 ― 比 較 法 的 視 座 か ら ― 」で 、監 護 権 も 重 要 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 そ れ を 承 け て 、 こ こ で は 、 監 護 権 そ れ 自 体 に つ い て 検 討 し た い 。ま た 、松 原 和 彦「 1.3 つ の 法 益 の 確 認 と 監 護 権 に 対 す る 評 価 」で 確 認 し た 監 護 権 以 外 の 法 益 、 つ ま り 、 自 由 お よ び 身 体 の 安 全 に つ い て も 、 自 由 の 内 実 や 身 体 の 安 全 の 、 法 益 と し て の 適 否 に つ い て は 、 な お 検 討 す べ き 点 が あ る よ う に 思 わ れ る 。 以 下 で は 、 ま ず 自 由 お よ び 身 体 の 安 全 の 各 法 益 に つ い て 検 討 し 、 次 に 、 石 綿 は る 美「 4.明 治 民 法 に お け る 親 権・監 護 」を 挟 ん で 、監 護 権 に つ い て 検 討 す る こ と と し た い 。 ま ず 、未 成 年 者 拐 取 罪( 224 条 。以 下「 本 罪 」と い う 。)1に お け る 拐 取 罪 と し て の 側 面 に 関 係 す る 自 由 に つ い て 検 討 す る 。 戦 前 の 教 科 書 等 で は 、現 在 と は 異 な る 形 で 、拐 取 罪 と 逮 捕 及 び 監 禁 罪( 220 条 ) 2の 差 異 が 説 明 さ れ る こ と が あ っ た 。学 説 ➋ は そ の 例 で あ る( レ ジ ュ メ 3.( 1)① ( ⅰ )参 照 )。学 説 ➋ に よ れ ば 、拐 取 罪 と 逮 捕 及 び 監 禁 罪 は 、客 体 の 場 所 的 移 動 の 要 否 で 区 別 さ れ る 。 ま た 、 学 説 ➋ の よ う な 見 解 を 徹 底 す れ ば 、 実 行 行 為 で あ る 拐 取 に は 、 客 体 の 場 所 的 移 動 と い う 要 素 が 必 要 と な る 。 学 説 ➌ は 、 そ の よ う な 見 解 の 例 で あ る ( レ ジ ュ メ 3.( 1)①( ⅱ )参 照 )。学 説 ➌ を 敷 衍 す れ ば 、客 体 が 場 所 的 に 移 動 す る こ と 等 に よ っ て 、 自 力 で ま た は 第 三 者 の 「 救 援 」 に よ っ て 、 客 体 が 「 帰 還 」 す る こ と が 困 難 に な る と い う 。 現 在 、 学 説 ➋ の よ う な 見 解 は 忘 れ 去 ら れ 、 ま た 、 学 説 ➌ の よ う な 見 解 は 、 特 に 学 説 ➍ の よ う な 批 判 が あ っ て( レ ジ ュ メ 3.( 1)①( ⅲ )参 照 )、否 定 さ れ て い る の で は な い だ ろ う か 。 し か し 、 そ れ で も な お 、 そ れ ら の 見 解 は 、 次 の 2 点 を 示 唆 し て お り 、 そ れ ら の 点 は 、 拐 取 罪 の 本 質 を 捉 え て い る よ う に 思 わ れ る 。 第 1 に 、客 体 に は 、自 力 で ま た は 第 三 者 の「 救 援 」に よ っ て「 帰 還 」す べ き「 場 ※ 報 告 原 稿 に 最 低 限 の 注 を 付 す 等 の 加 筆 修 正 を 施 し た 。 な お 、 松 原 和 彦 「 日 本 法 の 地 層 ― 拐 取 罪 を 巡 る ( 裁 ) 判 例 お よ び 学 説 の 各 状 況 の 粗 描 」 法 時 91 巻 10 号 ( 令 和 元 年 ) 103 頁 以 下 参 照 。 1 松 原 和 彦 「 資 料 1. 刑 法 ( 日 本 ) 条 文 」 参 照 。 2松 原 ( 資 料 )・ 前 掲 注 1) 参 照 。

(18)

所 」、つ ま り 、居 る べ き「 場 所 」が あ る と 想 定 さ れ て い る の で は な い か と い う 点 で あ る 。 そ う で あ れ ば 、 客 体 に と っ て は 、 そ の 「 場 所 」 に 居 る こ と 自 体 が 利 益 だ と い う こ と に な る 。 そ れ は 、 客 体 が 「 未 成 年 者 」 の 場 合 、 特 に 非 監 護 者 と の 関 係 で は 、監 護 者 の 下 だ ろ う3。客 体 が 居 る べ き「 場 所 」に 居 る と い う 利 益 が 自 由 の 実 体 で あ る よ う に 思 わ れ る4 第 2 に 、 第 1 点 に 関 連 し て 、 支 配 の 設 定 に は 、 客 体 が 「 帰 還 」 す べ き 「 場 所 」 へ 「 帰 還 」 す る こ と を 妨 害 す る と い う 意 義 が あ る の で は な い か と い う 点 で あ る 。 学 説 ➌ は 、支 配 の 設 定 に よ っ て も 、「 帰 還 」が 困 難 に な る 点 に 着 目 し て い る( レ ジ ュ メ 3.( 1) ① ( ⅱ ) 参 照 )。 な お 、 逮 捕 及 び 監 禁 罪 の 場 合 、 客 体 の 場 所 的 移 動 の 自 由 を そ の 罪 の 法 益 と 理 解 す る と き 、 そ れ に は 居 る べ き 「 場 所 」 に 居 る 利 益 ま で は 含 ま れ ず 、 ま た 、「 逮 捕 」 お よ び 「 監 禁 」 に は 、 客 体 が 「 帰 還 」 す る こ と の 妨 害 ま で の 意 義 は 存 在 し な い と 言 え よ う5 次 に 、 客 体 が 「 未 成 年 者 」 の 場 合 に 特 徴 的 な 形 で 危 殆 化 さ れ る 身 体 の 安 全 に つ い て 検 討 す る 。 戦 前 の 教 科 書 等 で は 、現 在 と は 異 な り 、拐 取 罪 と 遺 棄 罪( 217 条 以 下 )6の 差 異 が 説 明 さ れ る こ と が あ っ た 。学 説 ➎ は そ の 例 で あ る( レ ジ ュ メ 3.( 2)①( ⅰ )参 照 )。 学 説 ➎ に よ れ ば 、 拐 取 罪 と 遺 棄 罪 は 支 配 の 設 定 の 要 否 で 区 別 さ れ る と い う 。 し か し 、 現 在 、 学 説 ➎ の よ う な 見 解 も 忘 れ 去 ら れ て い る よ う に 思 わ れ る7 も っ と も 、 学 説 ➎ の よ う な 見 解 は 、 次 の 点 を 示 唆 し て い る よ う に 思 わ れ る 。 そ れ は 、 例 え ば 、 客 体 が 「 未 成 年 者 」 の 場 合 、 本 罪 と 遺 棄 罪 は 類 似 し て い る と い う 点 で あ る 。具 体 的 に 言 え ば 、非 監 護 者 つ ま り「 保 護 す る 責 任 の あ る 者 」( 以 下「 保 護 責 任 者 」 と い う 。) で な い 者 が 、 監 護 者 つ ま り 保 護 責 任 者 か ら 、「 未 成 年 者 」 つ ま り「 幼 年 」の 者 を 引 き 離 す と い う 点 で 、類 似 し て い る 。そ の 場 合 、遺 棄 罪( 217 3 拐 取 罪 の 法 益 を 自 由 と の み 解 釈 す る 見 解 で は あ る が 、 内 田 文 昭 『 刑 法 各 論 〔 第 3 版 〕』( 青 林 書 院 、 平 成 8 年 ) 128 頁 参 照 。 4 解 釈 の 方 向 性 が 同 一 の 見 解 と し て 、 山 中 敬 一 『 刑 法 各 論 〔 第 3 版 〕』( 成 文 堂 、 平 成 27 年 ) 144 頁 以 下 、 橋 本 正 博 『 刑 法 各 論 』( 新 世 社 、 平 成 29 年 ) 100 頁 、 101 頁 参 照 。 5 橋 本 ・ 前 掲 注 4) 96 頁 ( 逮 捕 及 び 監 禁 罪 )、 103 頁 ( 拐 取 罪 ) が 意 識 し て い る か の よ う で あ る 。 6松 原 ( 資 料 )・ 前 掲 注 1) 参 照 。 7 た だ し 、 西 田 典 之 = 山 口 厚 編 『 刑 法 の 争 点 〔 第 3 版 〕』( 有 斐 閣 、 平 成 12 年 ) 142 頁 〔 島 田 聡 一 郎 〕 は 、 看 取 し て い る か の よ う で あ る 。

(19)

条 )は 成 立 す る だ ろ う 。な ぜ な ら 、「 幼 年 」の 者 が 保 護 責 任 者 か ら 引 き 離 さ れ る こ と に よ っ て 、判 例 ➋ に よ れ ば( レ ジ ュ メ 3.( 2)②( ⅰ )参 照 )、そ の 生 命 ・身 体 と い う 法 益 に 対 す る 危 険 が 惹 起 さ れ る か ら で あ る 。 し か し 、そ う で あ る の は 、次 の 2 つ の 条 件 が あ る か ら だ と 思 わ れ る8。第 1 の 条 件 は 、客 体 が 生 命・身 体 に 対 す る 危 険 を 内 包 し て い る こ と で あ る 。遺 棄 罪( 217 条 以 下 )の 場 合 、客 体 は 、「 扶 助 を 必 要 と す る 」状 態 で あ る こ と と そ の 原 因 が「 幼 年 」 等 で あ る こ と の よ う に 、 二 重 に 限 定 さ れ て い る 。 第 2 の 条 件 は 、 特 定 の 者 が 客 体 の 生 命 ・ 身 体 に 対 す る 危 険 が 惹 起 さ れ な い よ う に 保 護 す る 、 あ る い は そ う す る こ と が 期 待 さ れ て い る こ と で あ る 。 遺 棄 罪 の 場 合 、 特 定 の 者 と し て 保 護 責 任 者 が 予 定 さ れ て い る 。 以 上 の よ う な 遺 棄 罪 に 対 し て 、 本 罪 の 場 合 、 監 護 者 が 存 在 す る 点 で 第 2 の 条 件 は 充 足 さ れ る 。 し か し 、 本 罪 の 場 合 、 客 体 が 「 未 成 年 者 」 と い う 以 上 に は 限 定 さ れ て い な い 点 で 第 1 の 条 件 は 充 足 さ れ な い 。と す れ ば 、本 罪 の 場 合 で「 未 成 年 者 」 を 監 護 者 か ら 引 き 離 す と き 、 そ の 身 体 に 対 す る 危 険 が 惹 起 さ れ る と は 限 ら な い 。 そ し て 、 そ の 限 り で 、 身 体 の 安 全 を 本 罪 の 法 益 と 理 解 す る こ と は 適 切 で な い と 言 え よ う9 次 に 、監 護 権 に つ い て 検 討 す る が 、そ の 前 提 と し て 、石 綿 は る 美「 4.明 治 民 法 に お け る 親 権 ・ 監 護 」 で 明 治 民 法 に お け る 親 権 等 に つ い て 確 認 す る 。 そ れ は 、 松 原 和 彦「 5.3 つ の 法 益 の 検 討( そ の 2)― 刑 法 に お け る 監 護 権 の 意 義 ― 」の 通 り 、 戦 前 の 教 科 書 等 の 中 に は 、 監 護 権 と し て 、 ま ず は 親 権 を 想 定 し て い た よ う だ か ら で あ る 。 ( 松 原 和 彦 )

4.明治民法における親権・監護

明 治 民 法 に お け る 親 権 ・ 監 護 に つ い て 簡 単 に 説 明 し た い 。 8 松 原 和 彦 「 保 護 責 任 者 遺 棄 罪 に お け る 『 保 護 責 任 』 に つ い て の 一 考 察 ( 3・ 完 )」 北 法 58 巻 1 号 ( 平 成 19 年 )[ 329] 頁 以 下 参 照 。 9 本 罪 の 法 益 を 身 体 の 安 全 と 解 釈 す る こ と に 対 す る 批 判 と し て 、 中 森 喜 彦 『 刑 法 各 論 〔 第 4 版 〕』( 有 斐 閣 、 平 成 27 年 ) 55 頁 参 照 。 ま た 、 山 中 ・ 前 掲 注 4) 144 頁 は 、 拐 取 罪 と 逮 捕 及 び 監 禁 罪 な ら び に 強 要 罪 ( 223 条 。 松 原 ( 資 料 )・ 前 掲 注 1) 参 照 ) を 比 較 し て 、 そ の よ う な 解 釈 を 批 判 す る 。

(20)

( 1) 親 権 明 治 民 法 下 に お い て は 、明 治 民 法 877 条 1 項 が「 子 ハ 其 家 ニ 在 ル 父 ノ 親 権 ニ 服 ス 但 独 立 ノ 生 計 ヲ 立 ツ ル 成 年 者 ハ 此 限 ニ 在 ラ ス 」 と 規 定 し 、 親 権 は 原 則 と し て 父 に 帰 属 す る と さ れ て い た 。 母 が 親 権 を 有 す る の は 、 父 が 知 れ な い と き 、 死 亡 し た と き 、 家 を 去 っ た と き 、 親 権 を 行 う こ と が で き な い と き と い っ た 、 例 外 的 な 場 合 に 限 定 さ れ る( 明 治 民 法 877 条 2 項 )。つ ま り 、現 行 法 と は 異 な り 、親 権 者 は 一 人 と い う こ と に な る 。 親 権 を 行 使 す る の は 、 父 母 の 一 方 と い う こ と に な り 、 親 権 の 内 容 は 身 上 及 び 財 産 上 の 監 督 保 護 と さ れ て い た1 明 治 民 法 に お け る 親 権 の 身 上 監 護 に 関 す る 規 定 は 、 現 行 法 と ほ と ん ど 共 通 し て い た2 ( 2) 監 護 明 治 民 法 879 条 は 、 親 権 の 効 力 と し て 、「 親 権 ヲ 行 フ 父 又 ハ 母 ハ 未 成 年 者 ノ 子 ノ 監 護 及 ヒ 教 育 ヲ 為 ス 権 利 ヲ 有 シ 義 務 ヲ 負 フ 」 と 規 定 を す る 。 こ の 条 文 は 、 現 行 民 法 820 条 と ほ ぼ 同 じ 内 容 と な っ て い る3。条 文 で は 、監 護・教 育 を な す 権 利 及 び 義 務 と 規 定 さ れ て い る が 、 学 説 で は 、 そ れ ぞ れ に つ い て 内 容 を 具 体 化 し よ う と し て い る 。例 え ば 、「 監 護 と は 監 督 保 護 の 意 て あ っ て 、子 の 身 体 及 ひ 精 神 の 発 達 を 監 督 し 、 之 れ に 危 害 又 は 不 利 益 の 発 生 し た る 場 合 に 於 て は 之 れ を 防 衛 保 護 す る こ と を 謂 ひ 、 教 育 と は 教 導 養 育 の 意 て あ っ て 、 子 の 身 体 及 ひ 精 神 の 発 育 完 成 を 企 図 す る 行 為 て あ る 」 な ど と 説 明 さ れ て い る4 で は 、 監 護 は だ れ が 行 う の か 。 ま ず 、 上 記 で 確 認 し た よ う に 、 監 護 は 、 親 権 の 効 力 で あ る こ と か ら 、親 権 者 が 監 護 を 行 う こ と は で き る 。次 に 、子 の 監 護 は 通 常 、 1 穂 積 重 遠 は 、「 父 又 は 母 が 家 に 在 る 子 に 対 し て 有 す る 身 上 及 び 財 産 上 の 監 督 保 護 を 内 容 と す る 権 利 義 務 を 包 括 し て 親 権 と 云 う 」 と す る ( 穂 積 重 遠 『 親 族 法 』( 岩 波 書 店 、 1933 年 ) 549 頁 )。 2 明 治 民 法 は 、 879 条 で 監 護 教 育 に つ い て 包 括 的 に 規 定 し た う え で 、 居 所 指 定 権 (880 条 )、 懲 戒 権 ( 882 条 )、 職 業 許 可 権 ( 883 条 ) に つ い て 定 め る 。 現 行 法 と の 一 番 の 違 い は 、 881 条 に 未 成 年 者 が 兵 役 を 志 願 す る 場 合 の 父 又 は 母 の 許 可 権 が 規 定 さ れ て い た こ と で あ る ( 兵 役 許 可 権 に つ い て は 、 大 村 敦 志 『 民 法 読 解 親 族 編 』( 有 斐 閣 、 2015 年 ) 255 頁 以 下 )。 詳 細 は 、 明 治 民 法 の 条 文 を 確 認 さ れ た い 。 3 平 成 23 年 改 正 に よ り 、 民 法 820 条 に は 、「 子 の 利 益 の た め に 」 と い う 文 言 が 追 記 さ れ て い る 。 4 和 田 于 一 『 親 子 法 論 』( 大 同 書 院 、 1927 年 ) 554 頁 。 そ の 他 の 見 解 に つ き 、 大 村 ・ 前 掲 注 2)245 頁 以 下 。

(21)

夫 婦 が こ れ を 共 同 し て 行 う も の だ と い う 前 提 か ら 、 婚 姻 し て い る 場 合 に は 、 父 母 の 双 方 に 監 護 が 帰 属 し て い る も の と 考 え ら れ て き た5。ま た 、離 婚 後 は 、当 事 者 の 協 議 に よ り 監 護 者 を 定 め る こ と が 原 則 で あ る が 、 定 め が な い 場 合 に は 父 が 監 護 を 行 う と さ れ て い た( 以 上 、明 治 民 法 812 条 1 項 )。な お 、父 が 離 婚 に よ っ て 婚 家 を 去 る 場 合 に は 、 監 護 は 母 に 帰 属 す る ( 明 治 民 法 812 条 2 項 ) 以 上 の 説 明 か ら 、「 監 護 」は 、① 親 権 行 使 の 一 内 容 で あ る 場 合 と 、② 親 権 を 有 し な い 者 に よ り 行 わ れ る 監 護 で あ る 場 合( 父 に 親 権 が あ る 場 合 の 婚 姻 中 の 母 の 監 護 、 離 婚 後 に 親 権 を 有 し な い 父 又 は 母 が 行 う 監 護 ) が あ る こ と が 明 ら か に な ろ う 。 こ の た め 、 特 に ② に 関 し て 、 親 権 を 有 し な い 者 が 、 ど こ ま で の こ と を 行 う こ と が で き る か と い う 点 を 明 ら か に す る た め に 、「 監 護 」の 内 容 を 明 確 化 す る 必 要 が あ っ た6。狭 義 の 監 護 は 、明 治 民 法 で 規 定 す る 879 条 の 規 定 す る 身 上 監 護 の う ち 教 育 を 除 い た も の で あ る と す る 考 え 方 で あ る 。 次 い で 、 監 護 教 育 の 双 方 を 包 含 す る 広 義 の 監 護 を 指 す も の が あ る 。 最 も 広 義 の も の は 、 身 上 監 護 の み な ら ず 、 身 上 監 護 に 必 要 な 財 産 管 理 も 含 む と い う 考 え 方 で あ る 。 学 説 は 、 当 初 は 狭 義 で あ っ た が 、 徐 々 に 広 義 の 遣 い 方 も 有 力 と な っ て い っ た と さ れ る が 、 必 ず し も 用 法 が 一 致 し て い た と い う わ け で は な い と い う 状 況 で あ っ た 。 (石 綿 は る 美 )

5.3 つの法益の検討(その 2)―刑法における監護権の意義―

※ で は 、 石 綿 は る 美 「 4. 明 治 民 法 に お け る 親 権 ・ 監 護 」( 以 下 「 石 綿 報 告 」 と い う 。)に 言 及 し つ つ 、未 成 年 者 拐 取 罪( 224 条 。以 下「 本 罪 」と い う 。)1の 客 体 が 5 大 村 敦 志 『 民 法 の か た ち を 描 く 』( 東 京 大 学 出 版 会 、 2020 年 ) 79 頁 ( 初 出 、「 親 権 ・ 懲 戒 権 ・ 監 護 権 ― 概 念 整 理 の 試 み 」 能 見 善 久 他 編 『 民 法 の 未 来 』( 商 事 法 務 、 2014 年 ) 573 頁 )。 6 以 下 の 点 に つ い て 、 大 村 ・ 前 掲 注 5)80 頁 、 ま た 明 治 民 法 下 か ら 現 在 ま で の 学 説 の 詳 細 に つ い て 、 於 保 不 二 雄 = 中 川 淳 編 『 新 版 注 釈 民 法 (25)〔 改 訂 版 〕』( 有 斐 閣 、 2004 年 ) 65 頁 以 下 〔 明 山 和 夫 = 國 府 剛 〕。 ※ 報 告 原 稿 に 最 低 限 の 注 を 付 す 等 の 加 筆 修 正 を 施 し た 。 な お 、 松 原 和 彦 「 我 が 国 に お け る 拐 取 罪 の 沿 革 ( 下 ) ― 親 が 主 体 の 事 案 を 念 頭 に 」 法 時 90 巻 1 号 ( 平 成 30 年 ) 116 頁 以 下 、 同 「 日 本 法 の 地 層 ― 拐 取 罪 を 巡 る ( 裁 ) 判 例 お よ び 学 説 の 各 状 況 の 粗 描 」 同 91 巻 10 号 ( 令 和 元 年 ) 103 頁 以 下 参 照 。 1 松 原 和 彦 「 資 料 1. 刑 法 ( 日 本 ) 条 文 」 参 照 。

参照

関連したドキュメント

[r]

『いくさと愛と』(監修,東京新聞出版局, 1997 年),『木更津の女たち』(共

市民社会セクターの可能性 110年ぶりの大改革の成果と課題 岡本仁宏法学部教授共編著 関西学院大学出版会

本日は、三笠宮崇 たか 仁 ひと 親王殿下が、10月27日に薨 こう 去 きょ されまし

[r]

刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)以外の関税法(昭和29年法律第61号)等の特別

食べ物も農家の皆様のご努力が無ければ食べられないわけですから、ともすれば人間

この素晴らしい DNA