第 3 部 国外拐取の特殊性
13. 国外拐取に関する諸外国の状況
( 1) 国 外連 れ 去り の 特殊 性
佐 藤 陽 子 「 8 . 権 利 保 護 類 型 の 比 較 法 的 検 討 」 で 言 及 し た よ う に 、 諸 外 国 に お い て は 、 手 段 の 悪 性 や 目 的 の 悪 性 が あ る 場 合 に の み 、 親 に よ る 子 の 連 れ 去 り の 可 罰 性 を 認 め る こ と が あ る1。そ し て 、目 的 の 悪 性 は と り わ け 国 外 連 れ 去 り 目 的 に 認 め ら れ る 。
国 外 へ の 連 れ 去 り を 目 的 と す る 拐 取 を 特 別 に 処 罰 す る 国 と し て は 、 ド イ ツ 、 イ ギ リ ス 、ア メ リ カ が あ る2。ま た 、ス イ ス に は 、国 外 連 れ 去 り に 関 す る 特 別 な 規 定 は 存 在 し な い が 、離 婚 訴 訟 に お け る 両 親 間 の 争 い の 道 具 と し て 拐 取 の 規 定3が 利 用 さ れ る こ と を 回 避 す る た め 、1989 年 に 同 規 定 の 主 体 か ら 親 権 者 を 排 除 す る か が 争 わ れ た 際 、 同 規 定 の 適 用 さ れ る 事 例 が 、 外 国 人 が 自 分 の 子 を 国 外 ( 自 分 の 母 国 ) に 連 れ 出 す 事 例 に 集 中 し て い る 状 況 を 根 拠 に 、 主 体 の 限 定 を 行 う べ き で は な い と し た4。
こ れ ら の 国 は な ぜ 、 国 外 連 れ 去 り を 重 視 し て い る の だ ろ う か 。
( 2) 国 外連 れ 去り の 重要 性 ?
た と え ば 、イ ギ リ ス 及 び ド イ ツ は 、① 自 国 の 裁 判 権 の 管 轄 が 及 ば な く な り5、ま た 自 国 の 司 法 機 関 に よ る 決 定 の 執 行 が 不 可 能 又 は 著 し く 困 難 に な る こ と6を 国 外 連 れ 去 り を 重 視 す る 根 拠 と し て あ げ て い る 。さ ら に 、②( 自 国 で は 承 認 し づ ら い )
1 樋 口 亮 介 「 比 較 法 の 地 図 ― 家 族 間 に お け る 子 の 奪 い 合 い に 関 す る 刑 事 法 的 対 応 」 法 律 時 報 91 巻 1 号 ( 2019) 109 頁 を 参 照 。
2 深 町 ・ 独 ・ 下 ・ 112 頁 、 樋 口 ・ 英 ・ 上 ・ 104 頁 、 佐 伯 ・ 米 ・ 上 ・ 89 頁 を 参 照 。 ま た 、 デ ン マ ー ク は 国 外 連 れ 去 り の 場 合 の み 、 共 同 親 権 者 も 処 罰 の 対 象 と な る ( 1990 年 の 新 設 条 項 。 松 澤 ・ 丁 ・ 95 頁 以 下 を 参 照 )。
3 ス イ ス 刑 法 220 条 。 条 文 の 詳 細 は 、 深 町 ・ 瑞 ・ 上 ・ 108 頁 を 参 照 。
4 深 町 ・ 瑞 ・ 上 ・ 108 頁 を 参 照 。
5 樋 口 ・ 英 ・ 上 ・ 109 頁 を 参 照 。
6 深 町 ・ 独 ・ 下 ・ 112 頁 ( BT-Drs. 13/8587, S. 39 も 参 照 )。
異 な る 文 化 が あ る こ と( 例:強 制 結 婚 、割 礼 )、③ 親 子 関 係 断 絶 の 恐 れ な ど も 国 外 連 れ 去 り を 特 別 に 処 罰 す る 理 由 と し て 考 え ら れ る だ ろ う7。
こ れ に 対 し て 、 オ ー ス ト リ ア は 国 外 連 れ 去 り も 一 切 処 罰 の 対 象 に は 含 ま な い 。 オ ー ス ト リ ア で は 、そ も そ も 未 成 年 者 拐 取 の 規 定 は 、「 実 務 的 に 、民 法 又 は 行 政 法 的 な 第 一 次 的 規 範 が う ま く 作 用 し な い か 、 無 に 帰 さ れ る 又 は か い く ぐ ら れ る 時 に の み 、法 的 な 制 裁 へ と 至 る 第 二 次 的 な 規 範 」8で あ る と し て 、第 一 次 的 な 規 範 で 解 決 可 能 な 場 合 は 処 罰 の 必 要 は な い と 解 さ れ て い る 。 そ し て 、 親 に よ る 子 の 国 外 連 れ 去 り に つ い て は ハ ー グ 条 約 や そ の 他 の 諸 外 国 と の 協 定 が 存 在 し て い る た め に 、 刑 法 的 介 入 の 必 要 は な い こ と と な る9。
( 3) 小 括
一 方 の 親 が 他 方 の 親 の 意 思 に 反 し て 、 子 を 国 外 に 連 れ 去 る こ と は 、 少 な く と も そ の 国 に お い て 期 待 し え た 他 方 の 親 の 権 利 を 重 大 に 侵 害 し う る し 、 ま た 自 国 の 価 値 観 に 基 づ け ば 子 の 不 利 益 だ と 判 断 し う る 状 況 も 生 じ う る 。 こ の 点 で 、 国 外 連 れ 去 り に 一 定 の 重 要 性 が あ る こ と は 事 実 だ ろ う 。
そ の こ と を 認 識 し な が ら も 、 オ ー ス ト リ ア の よ う に 、 ハ ー グ 条 約 な ど 子 の 取 り 返 し に つ い て 実 効 的 な 手 段 が あ る こ と を 根 拠 に 、 親 に よ る 子 の 奪 い 合 い 事 例 を 処 罰 範 囲 か ら 外 す と い う 選 択 は あ る か も し れ な い 。 し か し 、 ハ ー グ 条 約 が 本 当 に 実 効 的 か ど う か は 、 検 討 を 要 す る と こ ろ で あ る 。
( 佐 藤 陽 子 )
14.平成 15 年決定の検討
※我 が 国 の 場 合 、最 決 平 成 15・3・18 刑 集 57 巻 3 号 371 頁( 以 下「 平 成 15 年 決
7 ② ③ に つ い て は 、 イ ギ リ ス に お け る Kayani 事 件 ( 被 告 人 が 面 会 交 流 中 に 息 子 を パ キ ス タ ン に 連 れ さ っ た 事 案 ) に お い て 、 親 に よ る 児 童 の 連 れ 去 り の 重 大 性 を 論 じ る 際 に 用 い ら れ た 根 拠 が 参 考 に な る ( 樋 口 ・ 英 ・ 下 ・ 120 頁 以 下 )。
8 Schick, Der Strafrechtliche Schutz des Kindeswohls, in Rauch -Kallat/ Pichler, Entwicklungen in den Rechten de r Kinder im Hinblick auf das UN-Übereinkommen über die Rechte des Kindes, 1994, S. 488.
9 国 外 に 連 れ 去 ら れ た 子 の 返 還 に 関 す る 協 定 等 に つ い て は 、Hübner/ Mitgutsch, Rechtlicher Schutz in Familie und Partnerschaft, 2007, S. 129 f. を 参 照 。
※ 報 告 原 稿 に 最 低 限 の 注 を 付 す 等 の 加 筆 修 正 を 施 し た 。
定 」と い う 。)が ま さ に 、国 外 へ の 連 れ 去 り を 目 的 と し た 子 の 奪 い 合 い 事 案 に 関 す る も の だ っ た 。 以 下 、 平 成 15 年 決 定 に つ い て 検 討 す る1。
事 案 は 、 妻 ( 日 本 国 籍 ) と 婚 姻 し て い た 被 告 人 ( オ ラ ン ダ 国 籍 ) が 、 別 居 中 の 妻 に よ っ て 監 護 養 育 さ れ て い た 2 人 の 間 の 長 女( 2 歳 4 か 月 )( 以 下「 Y」と い う 。)
を 、 オ ラ ン ダ へ 連 れ 去 る 目 的 で 、 Y が 妻 に 付 き 添 わ れ て 入 院 し て い た 病 院 の ベ ッ ド 上 か ら 、 両 足 を 引 っ 張 っ て 逆 さ に つ り 上 げ 、 脇 に 抱 え て 連 れ 去 り 、 自 動 車 に 乗 せ て 発 進 さ せ た と い う も の で 、国 外 移 送 目 的 略 取 罪( 226 条 1 項( 当 時 )。以 下「 本 罪 」 と い う 。)2の 成 否 が 問 題 と な っ た 。
平 成 15 年 決 定 は 、本 罪 の 構 成 要 件 該 当 性 を 肯 定 し つ つ 、次 の よ う に 違 法 性 の 阻 却 を 否 定 し た 。
「 そ の 態 様 も 悪 質 で あ っ て ,被 告 人 が 親 権 者 の 1 人 で あ り ,〔 Y〕を 自 分 の 母 国 に 連 れ 帰 ろ う と し た も の で あ る こ と を 考 慮 し て も , 違 法 性 が 阻 却 さ れ る よ う な 例 外 的 な 場 合 に 当 た ら な い 」。
平 成 15 年 決 定 で 注 目 す べ き 点 は 、「〔 Y〕を 自 分 の 母 国 に 連 れ 帰 ろ う と し た も の で あ る こ と 」( 以 下「 本 件 事 情 」と い う 。)で あ る 。な ぜ な ら 、平 成 15 年 決 定 は 、 本 件 事 情 を 、 違 法 性 阻 却 を 肯 定 す る 方 向 へ 働 く 事 情 の 1 つ と し て 位 置 づ け て い る か ら で あ る 。 つ ま り 、 平 成 15 年 決 定 は 、「 移 送 」 先 が 被 告 人 の 「 母 国 」 で あ る こ と を そ の よ う な 事 情 と し て 位 置 づ け て い る と 理 解 す る こ と が で き る か ら で あ る 。 で は 、 な ぜ そ の よ う に 位 置 づ け る こ と が で き る の だ ろ う か 。 本 罪 は 、 未 成 年 者 拐 取 罪( 224 条( 当 時 ))3と 比 較 す る と 、重 く 処 罰 さ れ て い る 。そ の 根 拠 は 、要 件 上 は 、「 移 送 」 先 が 「 国 外 」 で あ る こ と に あ る と 理 解 す る こ と が で き る 。 そ し て 、 被 告 人 の「 母 国 」( オ ラ ン ダ )は「 国 外 」の 1 つ で あ る 。と す れ ば 、本 件 事 情 を 、 違 法 性 阻 却 を 肯 定 す る 方 向 へ 働 く 事 情 と し て 位 置 づ け る こ と が で き る か は 、 本 罪 が 重 く 処 罰 さ れ る 実 質 的 な 根 拠 と の 関 係 で 、 検 討 さ れ な け れ ば な ら な い だ ろ う 。 で は 、本 罪 が 重 く 処 罰 さ れ る 実 質 的 な 根 拠 は 何 だ ろ う か4。そ れ を 検 討 す る に 当 た り 、判 例 ➌ は 示 唆 に 富 む( レ ジ ュ メ 14.( 2)②( ⅰ )参 照 )。判 例 ➌ に よ れ ば 、 本 罪 が 重 く 処 罰 さ れ る の は 、 客 体 が 国 内 ( 日 本 ) へ 「 帰 還 」 す る こ と が 事 実 的 に 困 難 だ か ら で あ る 。 そ れ は 、 松 原 和 彦 「 3. 3 つ の 法 益 の 検 討 ( そ の 1) ― 自 由 の
1 松 原 和 彦 「 資 料 2. 最 決 平 成 15・ 3・ 18 刑 集 57 巻 3 号 371 頁 」 参 照 。
2松 原 ( 資 料 )・ 前 掲 注 1) 参 照 。
3 松 原 和 彦 「 資 料 3. 最 決 平 成 17・ 12・ 6 刑 集 59 巻 10 号 1901 頁 」 参 照 。
4 な お 、 佐 野 文 彦 「『 家 族 』 間 に お け る 子 の 奪 い 合 い に 対 す る 未 成 年 者 拐 取 罪 の 適 用 に 関 す る 試 論 」 東 大 ロ ー 11 号 ( 平 成 28 年 ) 139 頁 も 参 照 。
実 体 、 身 体 の 安 全 の 適 否 ― 」 で 検 討 し た 法 益 と の 関 係 で 言 え ば 、 客 体 が 居 る べ き
「 場 所 」 に 居 る 利 益 が よ り 侵 害 さ れ る と い う こ と で あ る5。
し か し 、 な ぜ 「 帰 還 」 が 事 実 的 に 困 難 な の だ ろ う か 。 客 体 で あ る 「 帰 還 」 す る 者 か ら す れ ば 、「 国 外 」が 国 内( 日 本 )か ら 地 理 的 に 離 れ て い る か ら だ ろ う 。他 方 、 客 体 を 「 救 援 」 し て 「 帰 還 」 さ せ る 者 か ら す れ ば 、 そ も そ も 客 体 の 所 在 を 把 握 す る こ と が 困 難 だ か ら で は な い だ ろ う か6。
で は 、 本 件 事 情 は ど の よ う に 理 解 す る こ と が で き る の だ ろ う か 。 ま ず 、 前 者 の 観 点 か ら は 理 解 す る こ と が で き な い 。 な ぜ な ら 、 被 告 人 の 「 母 国 」 で あ っ て も 、 地 理 的 な 離 隔 が 縮 小 さ れ る と は 限 ら な い か ら で あ る 。 次 に 、 後 者 の 観 点 か ら は 理 解 す る こ と が で き る か も 知 れ な い 。 な ぜ な ら 、 被 告 人 の 「 母 国 」 で あ れ ば 、 実 家 等 そ の 立 ち 回 り 先 を 把 握 す る こ と が で き る た め に 、 そ れ を 通 じ て 、 Y の 所 在 も 把 握 す る こ と が な お 可 能 で あ る と 言 え る か ら で あ る 。
と す れ ば 、そ の 限 り で 、Y の「 帰 還 」の 事 実 的 な 困 難 さ は 、減 殺 さ れ る だ ろ う 。 つ ま り 、被 告 人 の 行 為 に よ っ て Y が 居 る べ き「 場 所 」に 居 る 利 益 が 侵 害 さ れ る 程 度 は 減 殺 さ れ る と 言 え よ う 。
( 松 原 和 彦 )
15.民事法からのコメント―ハーグ条約を中心に―
松 原 報 告 に お い て は 、 母 国 へ の 連 れ 去 り で あ れ ば 違 法 性 阻 却 を 肯 定 す る 余 地 が あ る の で は な い か と い う 指 摘 が あ っ た が 、 民 事 法 に お い て は 、 国 際 的 に は 異 な る 考 え 方 が さ れ て い る と い う こ と を 紹 介 し た い 。
( 1) ハ ーグ 条 約の 目 的
民 事 法 の 領 域 で は 、 国 境 を 越 え た 子 の 奪 い 合 い に 関 し て 、 1980 年 に 「 国 際 的 な 子 の 奪 取 の 民 事 上 の 側 面 に 関 す る 条 約 」、 い わ ゆ る 「 ハ ー グ 条 約 」 が 採 択 さ れ た 。 日 本 に お い て は 、 2014 年 4 月 1 日 に 発 効 し 、 同 日 に 「 国 際 的 な 子 の 奪 取 の
5 な お 、 類 似 の 視 点 は 、 所 在 国 外 移 送 目 的 拐 取 罪 ( 226 条 。 松 原 和 彦 「 資 料 1. 刑 法
( 日 本 ) 条 文 」 参 照 ) で は 、 指 摘 さ れ て い る ( 久 木 元 伸 ほ か 「『 刑 法 等 の 一 部 を 改 正 す る 法 律 』 に つ い て 」 曹 時 57 巻 11 号 ( 平 成 17 年 ) 45 頁 参 照 )。
6 安 田 拓 人 「 判 批 ( 名 古 屋 高 判 平 成 28・ 11・ 22 高 刑 速 ( 平 成 28 年 ) 220 頁 )」 法 教 453 号 ( 平 成 30 年 ) 141 頁 参 照 。
民 事 上 の 側 面 に 関 す る 条 約 の 実 施 に 関 す る 法 律 」、 い わ ゆ る 「 実 施 法 」 も 施 行 さ れ て い る1。
ハ ー グ 条 約 の 目 的 は 、 ① い ず れ か の 締 約 国 に 不 法 に 連 れ 去 ら れ 、 又 は い ず れ か の 締 約 国 に お い て 不 法 に 留 置 さ れ て い る 子 の 迅 速 な 返 還 を 確 保 す る こ と ( 条 約 第 1 条 a)、 ② 締 約 国 の 法 令 に 基 づ く 監 護 の 権 利 及 び 接 触 の 権 利 が 他 の 締 約 国 に お い て 効 果 的 に 尊 重 さ れ る こ と を 確 保 す る こ と ( 条 約 第 1 条 b) で あ る 。
ハ ー グ 条 約 の 特 徴 は 、 国 境 を 越 え て 子 が 不 法 に 連 れ 去 ら れ 、 又 は 留 置 さ れ て い た 場 合 に 、 子 を 迅 速 に 居 住 し て い た 国 に 返 還 す る と い う こ と で あ る 。 そ れ は 、 子 が 元 い た 国 に 「 迅 速 に 」 戻 る こ と が 子 の 利 益 で あ る と い う 考 え に 基 づ く 。 な ぜ 、 そ れ が 子 の 利 益 に つ な が る の か と い う 理 由 と し て は 、 異 な る 言 語 圏 ・ 文 化 環 境 へ の 移 動 は 子 に と っ て 有 害 で あ る こ と 、 子 の 奪 取 の 背 景 に あ る 子 の 監 護 に 関 す る 紛 争 は 、 常 居 所 地 国 で 解 決 す る こ と が 望 ま し い こ と 、 が 挙 げ ら れ て い る2。
例 え ば ア メ リ カ で 父 母 と 子 で 暮 ら し て い た 場 合 に 、 母 が 父 に 無 断 で 子 を 日 本 に 連 れ 帰 っ た と い う こ と は 、ハ ー グ 条 約 に お い て は 、「 不 法 な 連 れ 去 り 」と 判 断 さ れ る 。 し か し 、 こ の 考 え 方 は 、 今 ま で 紹 介 し て き た 国 内 事 案 に お い て 、 子 連 れ 別 居 を 監 護 の 違 法 性 の 評 価 に 際 し て 違 法 と 判 断 し な い と い う 考 え 方 と 、 大 き く 異 な っ て い る 。
( 2) ハ ーグ 条 約と 刑 事法 = 民 法の 視 点か ら
最 後 に ハ ー グ 条 約 と 刑 事 法 の 関 係 に つ い て 、民 法 の 視 点 か ら 、簡 単 に 述 べ た い 。 ま ず 、 ハ ー グ 条 約 が 発 効 し た こ と に よ り 、 国 外 事 案 は ハ ー グ 条 約 で 問 題 が 解 決 す る の で 、 刑 事 処 罰 は 不 要 と い う こ と に は な ら な い 、 と い う 点 を 指 摘 し た い 。 第 一 に 、 ハ ー グ 条 約 は す べ て の 国 境 を 越 え た 子 の 奪 い 合 い に 適 用 さ れ る わ け で は な く 、 ハ ー グ 条 約 の 非 締 約 国 に 子 が 連 れ 去 ら れ た 場 合 等 、 ハ ー グ 条 約 の 適 用 対 象 外 の 事 案 に お い て 私 人 が 子 の 返 還 を 求 め る の は 困 難 で あ る 。 第 二 に 、 仮 に 返 還 決 定 が 確 定 し た と し て も 、 返 還 が 実 現 で き な い 場 合 が あ る3。 第 三 に 、 ハ ー グ 条 約 は 、 あ く ま で も 連 れ 去 り が あ っ た 後 の 事 後 的 な 解 決 の た め の 手 段 で あ る 。し た が っ て 、 刑 事 法 の 未 遂 処 罰 に よ り 、 子 の 連 れ 去 り を 事 前 に 防 ぐ こ と が で き る こ と は 、 子 の
1 こ れ ら の 概 要 に つ い て は 、 後 掲 資 料 8「 ハ ー グ 条 約 ・ 実 施 法 の 具 体 的 な 仕 組 み 」 参 照 。
2 金 子 修 編 集 代 表 『 一 問 一 答 ・ 国 際 的 な 子 の 連 れ 去 り へ の 制 度 的 対 応 ― ハ ー グ 条 約 及 び 関 連 法 規 の 解 説 』( 商 事 法 務 、 2015 年 ) 21 頁 。
3 最 判 平 成 30 年 3 月 15 日 民 集 72 巻 1 号 17 頁 の 事 案 な ど が 該 当 す る 。 詳 細 は 、 レ ジ ュ メ 15.( 2) ① 参 照 。