小児がん患者の標準復学支援要領の試作と実行可能
性の検証
著者
後藤 清香
学位授与機関
Tohoku University
修 士 論 文
小 児 が ん 患 者 の 標 準 復 学 支 援 要 領 の 試 作 と
実 行 可 能 性 の 検 証
東 北 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 保 健 学 専 攻
家 族 支 援 看 護 学 領 域 小 児 看 護 学 分 野
後 藤 清 香
目 次
1 . 研 究 の 背 景 ... 6 1 . 1 小 児 が ん 患 者 の 生 存 率 ... 6 1 . 2 小 児 が ん 患 者 の 復 学 ... 6 1 . 3 小 児 が ん 患 者 の 教 育 の 意 義 ... 6 1 . 4 小 児 が ん 患 者 の 復 学 に お け る 課 題 ... 7 1 . 5 小 児 が ん 患 者 の 復 学 支 援 の 重 要 性 と 看 護 ... 8 1 . 6 小 児 が ん 患 者 の 復 学 支 援 の 現 状 ... 9 1 . 7 用 語 の 定 義 ... 9 2 . 研 究 目 的 ... 10 3 . 研 究 の 意 義 ... 10 4 . 研 究 方 法 ... 10 4 . 1 第 1 段 階 文 献 検 討 に よ る 「 プ ロ ト タ イ プ ス テ ッ プ 1 」 の 作 成 ... 11 4 . 1 . 1 研 究 方 法 ... 11 4 . 1 . 2 文 献 検 討 を 選 択 し た 根 拠 ... 11 4 . 1 . 3 対 象 ... 11 4 . 1 . 4 分 析 方 法 ... 11 4 . 2 第 2 段 階 デ ル フ ァ イ 法 に よ る 「 プ ロ ト タ イ プ ス テ ッ プ 2 」 へ の 改 訂 ... 12 4 . 2 . 1 研 究 方 法 ... 12 4 . 2 . 2 デ ル フ ァ イ 法 を 選 択 し た 根 拠 ... 12 4 . 2 . 3 デ ル フ ァ イ 法 に お け る 有 識 者 の 選 定 ... 12 4 .2 . 4 デ ル フ ァ イ 法 の 手 順 ... 13 4 .2 . 5 有 識 者 に よ る 意 見 の 集 約 と 改 訂 ... 134 .2 . 6 改 訂 の 方 法 ... 14 4 . 3 第 3 段 階 半 構 造 化 面 接 調 査 の 実 施 ... 14 4 . 3 . 1 研 究 方 法 ... 14 4 . 3 . 2 半 構 造 化 面 接 調 査 を 選 択 し た 根 拠 ... 14 4 . 3 . 3 対 象 ... 14 4 . 3 . 4 調 査 期 間 ... 15 4 . 3 . 5 調 査 方 法 ... 15 4 . 3 . 6 イ ン タ ビ ュ ー ガ イ ド の 内 容 ... 16 4 . 3 . 7 分 析 方 法 ... 16 4 . 3 . 8 半 構 造 化 面 接 調 査 に お け る 倫 理 的 配 慮 ... 16 4 . 4 第 4 段 階 小 児 が ん 患 者 の 標 準 復 学 支 援 要 領 の 改 訂 ... 17 4 . 4 . 1 研 究 方 法 ... 17 4 . 4 . 2 改 訂 の 方 法 ... 17 5 . 結 果 ... 17 5 . 1 第 1 段 階 文 献 検 討 に よ る 「 プ ロ ト タ イ プ ス テ ッ プ 1 」 の 作 成 ... 17 5 . 2 第 2 段 階 デ ル フ ァ イ 法 に よ る 「 プ ロ ト タ イ プ ス テ ッ プ 2 」 へ の 改 訂 ... 18 5 . 2 . 1 第 1 回 文 献 検 討 を 基 に 作 成 し た「 プ ロ ト タ イ プ ス テ ッ プ 1 」 の 配 布 と 意 見 の 集 約 ... 18 5 . 2 . 2 第 2 回 有 識 者 会 議 の 実 施 ... 18 5 . 2 . 3 第 3 回 半 構 造 化 面 接 調 査 の 結 果 に 基 づ き 改 訂 し た 小 児 が ん 患 者 の 標 準 復 学 支 援 要 領 の 改 訂 ... 19 5 . 3 第 3 段 階 半 構 造 化 面 接 調 査 ... 20 5 . 3 . 1 基 本 属 性 ... 20
5 . 3 . 2 半 構 造 化 面 接 調 査 の 分 析 結 果 ... 20 5 . 4 第 4 段 階 小 児 が ん 患 者 の 標 準 復 学 支 援 要 領 の 改 訂 ... 23 6 . 考 察 ... 23 6 . 1 第 1 段 階 文 献 検 討 に よ る 「 プ ロ ト タ イ プ ス テ ッ プ 1 」 の 作 成 ... 23 6 . 2 第 2 段 階 デ ル フ ァ イ 法 に よ る 「 プ ロ ト タ イ プ ス テ ッ プ 2 」 へ の 改 訂 ... 24 6 . 3 第 3 段 階 半 構 造 化 面 接 調 査 ... 25 6 . 4 第 4 段 階 小 児 が ん 患 者 の 標 準 復 学 支 援 要 領 の 改 訂 ... 28 6 . 5 総 合 的 考 察 ... 28 7 . 研 究 の 限 界 ... 29 8 . 今 後 の 課 題 ... 29 9 . 結 論 ... 29 1 0 . 謝 辞 ... 30 1 1 . 引 用 文 献 ... 31
5
図 1
研究方法の概要……… 34
図 2
デルファイ法第 1 回から第 3 回までの概要……… 34
図 3
小児がん患者の復学支援における時期別の目的と目標に焦点を
あてた支援の方向性………
35
表 1
デルファイ法に参加した有識者……… 36
表 2
小児がん患者の復学支援の要素を抽出した文献……… 37
表 3
調査参加者の基本属性……… 38
表 4
「プロトタイプステップ 2」の実用性があると感じる点……… 39
表 5
「プロトタイプステップ 2」に対する臨床看護師の期待……… 42
表 6
小児がん患者の標準復学支援要領の実用化に向けた課題……… 43
資料1 「プロトタイプステップ1」……… 45
資料 2 「プロトタイプステップ 2」……… 56
資料 3 小児がん患者の標準復学支援要領
6
1.研究の背景
1.1 小児がん患者の生存率
小児がんは,かつては長期生存があまり期待できなかったが,めざましい医
療の発展により治癒率が上昇し,小児がんの治療終了後 5 年寛解生存率は 80%
以上に上昇してきた。日本では年間 2,000~2,500 人の子供が小児がんと診断
され,若年成人人口のうち約 400~1,000 人に 1 人が小児がん経験者になると
いわれている
1)2)。
1.2 小児がん患者の復学
退院した多くの小児がん患者は,入院する前に通っていた学校や入院中に進
学した新たな学校に通い始める。このことは復学と呼ばれている。
1.3 小児がん患者の教育の意義
日本ユニセフ協会が子どもの基本的人権を国際的に保障するために定めた子
どもの権利条約では,全ての子どもに生きる権利, 守られる権利,育つ権利,
参加する権利を保障され,子どもの最善の利益のひとつとして「第 28 条教育を
受ける権利」がうたわれている
3)。
財団法人がんの子どもを守る会のがんの子どもの教育支援に関するガイドラ
インでは「入院中に限らず復学してからも病気になる以前と同等な学校生活を
送ることができるように配慮されることが大切である」と述べられている
4)。
また, 2016 年 4 月に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関す
る法律」は「不当な差別的取り扱いを禁止し合理的配慮の提供を求めることに
よって,障害のある人もない人も共に暮らせる社会を目指す」としており
5),小
児がん患者も差別無く学習の機会が保証される新たな根拠となった。
さらに,2016 年 12 月にはがん対策基本法の一部改正によって「第 21 条がん
患者における学習と治療の両立のための環境整備と施策の必要性」が掲げられ
ている
6)。
子供が教育を受ける重要な場所のひとつに学校がある。子供にとって学校は,
家庭と同様に日常を象徴する居場所ともいえる
7)。このような背景のなかで小児
がん患者と家族にとって病状を回復させて前籍校に復学するという目標は,辛
い入院治療に耐える力や復学を視野に入れた関わりは入院生活の大きな心の支
7
えとなり,教育とのつながりを実感する機会になる。さらに円滑な復学は,そ
の後の学校生活や社会生活への適応に好ましい影響を及ぼすことが期待され,
小児がん患者のQOLおよび治療効果を評価するひとつの指標にもなるといわれ
ている
8)9)。
1.4 小児がん患者の復学における課題
近年,入院期間の短縮化に伴い,小児がん患者は治療の合間に再入院と一時
退院を繰り返している。日本の学籍制度上,原則として入院し病院内の学校教
育を受ける際には元の学校から学籍を移動することになる。このことは転校と
呼ばれている。退院するときにもその都度学籍移動を行う必要があり,手続き
に手間や時間がかかることから,教育の連続性に支障をきたしているといわれ
ている
10)。そのため安定した教育環境の提供が困難になっている現状がある。
小児がん患者の復学に関する報告によると,小児がん患者,保護者,復学に
関わる学校関係者と医療者は様々な課題を抱えていることが明らかにされてい
る。まず,復学を控えた小児がん患者は「クラスメイトに自分のことを忘れら
れていないだろうか」「自分の帰りを待ってくれている場所はあるのだろうか」
とクラスメイトの受け入れを不安に思い心理的距離を感じている
11)12)。保護者は,
現在籍の無い前籍校に対して様々な依頼をためらうことがある一方で,前籍校
教員は小児がん患者と保護者を気にかけているがどう対処したらいいのか分か
らず困惑していることが多く,小児がん患者の入院中の状況を推測しながら連
絡を控えていることや,進級に伴うクラス替えで小児がん患者と連携をとる主
体が不明確となりつながりが疎遠になることがある
13)14)15)。教員を対象にした小
児がん患者の復学に関する研究は,小児がん患者に接した経験のある教員は約
16%,復学した小児がん患者を受け持った経験のある教員は 5.9%と示してい
る
16)17)。このように教員にとって,小児がん患者と接する経験は非常に稀である
ため,小児がん患者の容貌の変化や活動力,精神的側面など特別な配慮を必要
とする点の理解が乏しいと考えられる。これらのことから,前籍校教員と保護
者が十分に連絡を取り合い,子供にとって最善の環境を提供しているとは言い
難い現状がある。また,前籍校教員は,学校生活支援についての困難さがある
ため医療者に具体的な説明や指示を要望しているが
18),医療者は守秘義務などに
よって保護者の同意なしには情報提供できない。問題が発生してから連絡をと
8
るのではなくあらかじめ医療者と学校関係者間の関係を築いておくことが必要
とされているが
19),学校と医療機関との連携においては様々な問題が存在してい
るため進んでいないといわれている
20)。さらに院内学級教員は,平均在任期間で
3 年未満の者が 77.7%であり病院内での教育経験が浅く,少人数で対応してい
るため「どのように医療者と連携をとればよいのか」
「どのような情報を提供し
たり,得る必要があるのか」について戸惑いながら教育実践が行われている
21)22)。
このように小児がん患者が復学する際,前籍校との連携における問題として,
前籍校からの反応の乏しさ,前籍校から病院へのフィードバック不足,前籍校
教員の病気に対する理解不足や医療者との意識のズレなどが指摘されているよ
うに
23),小児がん患者の復学における課題は多岐にわたっている。
1.5 小児がん患者の復学支援の重要性と看護
近年,小児がん患者の復学支援の重要性は認知され,復学支援についての議
論や研究が活発に行われ,復学に関する課題意識が広がりをみせるようになっ
てきた
24)。なかでもスムーズな復学のための入院当初からの学校関係者と医療者
の連携や協力体制作りが重要視され,体調や今後の見通し,患者と保護者の気
持ち,生活状況など病院で最も身近にいて状態を把握している看護師の役割と
専門性の向上がこれまで以上に注目されている
25)。
また,復学支援における看護師の役割が着目される背景には,看護が日常の
些細なことのケアの連続であること,その些細な日常の観察やケアをそのまま
学校現場で生かすことができること,看護の視点から小児がん患者と家族の様
子や対応についてより具体的な情報提供を行うことができること,多職種とケ
アの調整のために情報交換を行い定期的な合同会議の開催でよりいっそう学校
関係者との連携を緊密にできることなどが挙げられる。これらは,医療の専門
性をもちながら日常生活援助を行ってきた臨床看護師だからこそ可能な支援で
あるといえる
26)。
しかし,看護師は,過酷な治療と子供のQOLを保証すべき日常ケアの中で復学
に関する問題を気にしながらも保護者に自ら働きかけることは少なく,退院後
の子供の生活に向けて満足できるような援助を行っておらず,この領域は十分
に取り組めていないと認識している
27)28)。看護師は,学校関係者の理解ある行動
を待っているのではなく学校関係者の立場を理解したうえで医療者自らが学校
9
関係者との協働を推進する立場にあると認識し,実践していく必要がある。小
児がん患者は疾患や治療による影響を抱えながらも学校生活を送る可能性があ
り,医療者・学校関係者の配慮が必要とされるが,小児がん患者の復学におけ
る課題を解決するための十分な復学支援が得られているとは言い難い。
1.6 小児がん患者の復学支援の現状
平成 20 年から 21 年度にかけて国立特別支援教育総合研究所は小中学校に在
籍する「病気による長期欠席者」への特別支援教育のあり方に関する研究とし
て,病弱・身体虚弱児童生徒の実態把握や実態に応じた支援・指導方法を調査
し,病弱教育支援冊子の作成やICT(Information and Communication Technology)
を活用した教育的支援の可能性を掲げている
29)。また,厚生労働省は平成 27 年
がん対策推進協議会として更に推進が必要と考える事項のひとつに小児がん患
者の就学・就労を含めた社会的問題への対応を掲げている
30)。しかし,両者と
もに国の政策であるにもかかわらず,標準的具体的な対策の提示はない。小児
がん患者の復学支援について,どの時期に誰が何をするといった具体的な指標
はどこにも示されていないため,現状は各施設に委ねられている。
先行研究では,小児がん患者の復学に関して小児がん患者,保護者,医療者,
学校関係者など様々な立場からの視点に基づく報告はあるが,これらはそれぞ
れ行われ関連づけられておらず,小児がん患者の復学支援の標準化に着目した
研究はない。
関連領域を横断的網羅的にカバーする,復学を目指す小児がん患者の支援策
が全く構築されておらず,標準復学支援がないことで復学支援の均てん化とそ
の質の向上が困難となっている。したがって,小児がん患者の復学支援のため
の標準復学支援要領の作成は喫緊の課題である。
1.7 用語の定義
本研究でいう小児がん患者の復学支援における標準化とは,小児がん患者の
復学に関わる関係者の対応の違いによって支援の質や内容に格差が生じないこ
と,すべての小児がん患者と家族が不利益を被らないこと,つまり一定水準の
質が保証された,ゆらぎがない包括的な支援を指す。
10
2.研究目的
本研究の目的は以下の 3 点とする。
1) 小児がん患者の復学支援において,小児がん患者・保護者・学校関係者・医
療者の連携や協力体制作りの要素を抽出し,小児がん患者の標準復学支援要
領を試作する。
2) 試作した小児がん患者の標準復学支援要領の実行可能性を検証する。
3) 検証で寄せられた意見を集約することで,試作した小児がん患者の標準復学
支援要領をさらに実行可能性の高いものに改訂する。
3.研究の意義
小児がん患者の復学支援を標準化した要領を試作する意義,実行可能性を検
証する意義として,以下の3点が考えられる。
1) 学校関係者と医療者が共通理解として活用できる精度の高い指標となる。
2) 小児がん患者と保護者を中心に学校・医療・行政がそれぞれの役割を明らか
にした具体的な支援の方略につながる。
3) 学校関係者と医療者の経験値や対処能力のみに頼らず,質の高い小児がん患
者の復学支援の普及につながる。
これらは,結果的に小児がん患者と家族が安心して復学支援を受ける環境を
整えることにつながり,さらに小児がん患者の復学支援の研究の発展に寄与で
きると考える。
4.研究方法
本研究は,目的に沿って以下に示す 4 段階の質的研究とした。研究方法の概
要を図 1 に示した。
1) 第 1 段階 文献検討による「プロトタイプステップ 1」の作成
2) 第 2 段階 デルファイ法による「プロトタイプステップ 2」への改訂
3) 第 3 段階 半構造化面接調査の実施
4) 第 4 段階 小児がん患者の標準復学支援要領の改訂
11
4.1 第 1 段階 文献検討による「プロトタイプステップ 1」の作成
4.1.1 研究方法
検索した先行研究を取り寄せて文献検討を行った。
4.1.2 文献検討を選択した根拠
先行文献から小児がん患者の復学支援の要素に関する情報を入手することは,
小児がん患者の標準復学支援要領を試作するうえで根拠になると考えた。
4.1.3 対象
日本の教育制度の背景に沿った復学支援の検討を行うため,和文献に限定し
検索を行った。医学中央雑誌 web 版を用い,キーワードを「小児がん」
「慢性疾
患」
「復学」
「学校」
,論文種類を「原著論文」とした。また,過去 10 年間分を
検出するため発行年度を 2006 年から 2015 年とした。これらの文献から小児が
ん患者の復学支援の要素を抽出するうえで根拠となるものに絞った。さらに検
索の過程で見出された有用な文献を加えた 39 件を対象とした。
4.1.4 分析方法
対象とした 39 件の文献から小児がん患者の復学支援に関する要素を抽出でき
た。文献を概観すると復学支援の内容は時期によって特徴がみられたため,次
の 5 つの時期に分けて分析することにした。5 つの時期とは,Ⅰ.復学支援体制
を醸成する時期,Ⅱ.小児がんを発症し入院した直後の時期,Ⅲ.小児がんの入
院治療中の時期,Ⅳ.小児がんの入院治療を終えて退院前の時期,Ⅴ.小児がん
の入院治療を終えて復学した後の時期であった。また,分析の視点は小児がん
患者の復学支援において「誰が」
「誰に対して」
「どのような支援をするか」
「5
つの時期における時期別の目的と目標は何か」とした。対象文献の中で入院時・
入院中・退院前のように複数の入院期間を対象としたものは文脈から判断し分
類した。
次に,時期別に「誰が誰に対してどのような支援をするか」について分類し
た内容にラベル名をつけた。類似性のあるラベル名をまとめて,より抽象度の
高いカテゴリ名をつけ,時期別の要素を抽出した標準復学支援要領の「プロト
タイプステップ 1」を作成した。この過程は小児看護学の研究者と小児看護経験
12
のある看護師計 6 名で合議し妥当性を確保した。
4.2 第 2 段階 デルファイ法による「プロトタイプステップ 2」への改訂
4.2.1 研究方法
デルファイ法を用いてプロトタイプの改訂を行った。
4.2.2 デルファイ法を選択した根拠
デルファイ法とは,同一内容の質問を同一対象者に対して数回繰り返すこと
によって回答者集団の意見を集約する方法であり,意見の整理に適している。
デルファイ法では,個々人がある見解に対して同意する場合を「同意する」
,複
数の人の意見がまとまった場合を「合意を得る」と表現し
31),同意率を算出する
が,合意に関する明確な基準はない。医学や歯学の分野では診療ガイドライン
を作成する際に十分なエビデンスの質が保証されない場合やエビデンスが存在
しない場合の補完的な方法としてデルファイ法によるコンセンサスを形成する
方法が報告されており,実際には原法をある程度変更して用いられていること
が多い
32)。
そこで,小児がん患者への復学支援経験がある専門家の意見の集約が可能と
なり小児がん患者の標準復学支援要領を試作するために適切であると考え,こ
の方法を選択した。ただし,有識者全員と直接対面式で議論し,1 項目ずつ合意
を得ながら進行したため同意率は算出しなかった。
4.2.3 デルファイ法における有識者の選定
小児がん患者への復学支援経験があり小児がんの医療と教育の研究実践に携わ
る有識者として,日本の小児がん拠点病院を牽引する小児がん中央機関である国立
成育医療研究センターの医療者,小児がん患者の教育を含む特別支援教育の開発研
究に携わった経歴をもつ前国立特別支援教育総合研究所の教諭,大学において特別
支援教育の研究を行っている教育学研究者,普通学級で小児がん患者の教育に携わ
り,
なおかつ院内学級において特別支援教育を実践している教諭の計5 名を選出し,
研究の趣旨と協力を依頼して同意を得た。なお,有識者 5 名の氏名公表については
同意を得た。有識者 5 名を表 1 に示した。
13
4.2.4 デルファイ法の手順
以下に示す計 3 回のデルファイ法に準ずる手順で行った。デルファイ法第 1
回から第 3 回までの概要を図 2 に示した。第 1 回は文献検討を基に作成した「プ
ロトタイプステップ 1」を配布し,有識者の意見を求めた。第 2 回は有識者会議
を実施し,意見を集約して改訂した。第 3 回は後述する臨床看護師を対象とし
た半構造化面接調査の結果に基づき改訂した内容に対して意見を集約して改訂
した。
4.2.5 有識者による意見の集約と改訂
4.2.5.1 第 1 回 文献検討を基に作成した「プロトタイプステップ 1」の配布と
意見の集約および改訂
2016 年 6 月,
「プロトタイプステップ 1」を有識者に郵送,電子メールで配信
した。有識者には「表現が分かりづらい,誤解を招きやすい,抽象度が高い項
目はどれか」
「有識者の知識や経験に基づいて追記や修正できる項目は何か」
「現
場で困っている内容は焦点化されているか」について郵送または電子メールで
回答を依頼した。回答期間は約 4 週間とした。
4.2.5.2 第 2 回 有識者会議の実施
2016 年 7 月,東京都内の会議室にて半日間の有識者会議を実施した。会議の
進行は研究者が担当し,有識者には「プロトタイプステップ 1」と有識者会議の
要項を配布した。
有識者の同意を得たうえで会議内容を IC レコーダーに録音し,
「プロトタイプステップ 2」に改訂するための資料とした。
会議では,小児がん患者の標準復学支援要領を試作する目的,
「プロトタイプ
ステップ 1」の構成と見方,今後の計画を議論の前に伝えた。有識者全員が意見
交換できるよう配慮した。
「プロトタイプステップ 1」について 1 項目ずつ確認
し,合意を得ながら進行した。表現や誤解を招きやすい項目,修正した方が良
いと考える項目について有識者から意見があった場合は,その都度修正して合
意を得た。議論の検討過程において追加項目が提案された場合は意見交換し合
意を得てから追加した。
4.2.5.3 第 3 回 半構造化面接調査の結果に基づいて改訂した小児がん患者の
14
標準復学支援要領の配布と改訂
2016 年 12 月,改訂した小児がん患者の標準復学支援要領を電子メールで有識
者に配布し,最終的な合意を得た。回答期間は約 2 週間とした。
4.2.6 改訂の方法
有識者から得られた意見の集約と改訂は,小児看護学の研究者と小児看護経
験のある看護師計 3 名で合議し妥当性を確保した。
4.3 第 3 段階 半構造化面接調査の実施
4.3.1 研究方法
臨床看護師から意見を集約するために半構造化面接法を用いて調査を行った。
4.3.2 半構造化面接調査を選択した根拠
デルファイ法第 2 回の有識者会議後に改訂した「プロトタイプステップ 2」の
実行可能性を検証するために幅広い意見を集約できると考え,この方法を選択
した。
4.3.3 対象
4.3.3.1 適格基準
施設長の同意が得られた施設に勤務していて,以下 3 点の条件を全て満たす
看護師とした。
1) 臨床経験 5 年以上である。
2) 過去 10 年で小児がん患者の復学支援にかかわった経験がある。
3) 調査時に小児がん拠点病院に勤務している。
4.3.3.2 適格基準 1)を条件にした根拠
臨床経験 5 年以上の看護師は,エキスパートであり豊富な経験を有している
と考えた。これは,看護師が初心者から熟練した看護師に成長していくまでど
のようなプロセスをたどるかについて示すベナーの 5 段階
33)に基づいた。
4.3.3.3 適格基準 2)を条件にした根拠
15
最近 10 年間で小児がん患者の復学支援が認知されるようになってきたため,
過去 10 年で小児がん患者の復学支援にかかわった経験を有する看護師から重要
な価値のある意見を集約できると考えた。
4.3.3.4 適格基準 3)を条件にした根拠
小児がん拠点病院は小児がんを多く扱っているため看護師の復学の重要性に
関する意識が高く,復学に関連したサポートが多いと考えた。
また,小児がん拠点病院の指定要件のひとつに「患者の発育及び教育等に関
して必要な環境整備」が掲げられており
34),研究者や研究者間だけの視点から
では見過ごされるような重要項目を発見できる可能性,得られる知識に深みや
広がりが増す可能性があり,信頼性の高い情報を提供してくれることを期待で
きると考えた。
4.3.3.5 対象を看護師にした根拠
看護師は復学支援を含めた患者と家族の生活の支援を行っており,先行文献
でも復学支援は看護師が行っていることが示されている。このことから看護師
は復学支援に対する多くの経験と意見を持っているため調査対象とした。
4.3.4 調査期間
調査施設長と対象者への研究の趣旨と協力の依頼は,2016 年 6 月から 7 月に
実施した。半構造化面接調査は,デルファイ法による第 2 回の有識者会議の結
果に基づき「プロトタイプステップ 2」へ改訂した後,2016 年 8 月から 9 月に
実施した。
4.3.5 調査方法
小児がん拠点病院 15 施設の施設長に文書で研究の趣旨と協力を依頼した。施
設長から研究参加の同意が得られた場合,適格基準を満たす対象者 2 名程度を
選定し,文書を配布してもらった。適格基準を満たす対象者の選定方法は所属
長の裁量に委ねた。所属長から文書を配布された対象者から研究参加の同意が
得られた場合,研究者が所有する電子メールに連絡をもらい,研究者と直接日
程調整して研究者が訪問した。
16
調査は 1 名の研究者が行った。調査は 1 回で,1 回あたり 60 分程度とし,対
象者と事前に約束した日時を利用した。調査場所は対象者のプライバシーを守
ることができる場所を利用した。また,対象者の承諾を得て調査内容を IC コー
ダーに録音し,インタビュー後速やかに逐語録を作成した。インタビュー終了
の際には十分に回答できたかどうかを確認してから終了した。
4.3.6 インタビューガイドの内容
「プロトタイプステップ 2」の実行可能性を知るために「プロトタイプステッ
プ 2」の実用性についてたずねた。その後,対象者の回答に応じて,追記した方
が良い点と修正した方が良い点を追加してたずねた。
4.3.7 分析方法
録音したインタビュー内容を逐語化し,逐語録の中から小児がん患者の標準
復学支援要領の試作版の評価に関する文脈を抽出し,意味内容を損なわないよ
うに整理しコード化した。次にコードの類似性を比較検討してサブカテゴリを
統合し,サブカテゴリの比較検討,再編を繰り返しながらカテゴリを抽出した。
サブカテゴリおよびカテゴリの抽出,命名の過程,内容の分析においては,小
児看護学の研究者と小児看護経験のある看護師計
5 名で合議し妥当性を確保し
た。
4.3.8 半構造化面接調査における倫理的配慮
本研究は,東北大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認(受付番号:
2016-1-205)を受け,さらに各調査施設長の同意を得て実施した。
対象者への調査の詳細に関する説明は,プライバシーが確保された空間で行
った。また,その際は口頭および文書にて調査の目的と意義,協力の自由意思,
対象,内容,方法,調査の協力によって期待される利益および不利益,プライ
バシーの保護および個人情報の保護方法,将来の研究のために用いる可能性,
結果の公表方法,利益相反,調査中および調査終了後の問い合わせ先について
説明した。同意書への記入を以て調査への協力の同意とみなした。調査項目に
は氏名や生年月日など個人を特定できる項目を含めなかった。調査で取得した
音声データは連結不可能匿名化とし,東北大学大学院医学系研究科保健学専攻
17
家族支援看護学講座小児看護学分野の施錠できる室内のカギのかかるキャビネ
ット内にて保管した。
分析の際は,パスワードで保護されたコンピュータを利用し,ネットワーク
から切り離した状態で行った。
4.4 第 4 段階 小児がん患者の標準復学支援要領の改訂
4.4.1 研究方法
第 3 段階の結果に基づいて「プロトタイプステップ 2」を改訂する。
4.4.2 改訂の方法
「プロトタイプステップ 2」の改訂は小児看護学の研究者らで合議し妥当性を
確保して行った。また,改訂した小児がん患者の標準復学支援要領を有識者に
配布して合意を得た。
5.結果
本研究では,第 1 段階から第 4 段階までの過程を経て小児がん患者の標準復
学支援要領を試作し,実行可能性を検証した。
5.1 第 1 段階 文献検討による「プロトタイプステップ 1」の作成
小児がん患者の復学支援の要素を抽出した文献を表 2 に示した。小児がん患
者の標準復学支援要領の大枠となる時期別の目的と目標に焦点をあてた支援の
方向性を図 3 に示した。
Ⅰ.小児がん患者の復学支援体制を醸成する時期の目的は「小児がん患者の復
学支援体制の醸成」が挙げられ,目標は「小児がん患者の復学支援に関する知
識の普及活動」
「医療機関と学校の連携体制の仕組化」
「転籍制度の整備」が導
き出された。Ⅱ.小児がんを発症し入院した直後の時期の目的は「小児がん患者
の復学支援体制を構築するための基盤作り」が挙げられ,目標は「小児がん発
症や復学に関する患者と保護者の不安の整理」
「医療者と教員による互いの立場
の尊重」
「復学支援に関わる関係者による復学支援の方針に関する共通認識をも
つこととその確認」
「前籍校とのつながりの維持」
「患者の学習環境の整備と提
供」が導き出された。Ⅲ.小児がんの入院治療中の時期の目的は「小児がん患者
の復学支援体制の構築」であり,
「Ⅱ.小児がんを発症し入院直後の時期」の目
18
標を継続しつつ新たな目標として「患者の対処能力の育成と確認」が挙げられ
た。Ⅳ.小児がんの入院治療を終えて退院前の時期の目的は「小児がん患者の復
学の実現」であり,目標は「Ⅱ.小児がんを発症し入院した直後の時期」および
「Ⅲ.小児がんの入院治療中の時期」から継続であり新たな目標の追加はなかっ
た。Ⅴ.小児がんの入院治療を終えて復学した後の時期の目的は「小児がん患者
の復学後の支援と全体の評価」であり,
「Ⅱ.小児がんを発症し入院した直後の
時期」から継続した目標である「小児がん発症や復学に関する患者と保護者の
不安の整理」
「医療者と教員による互いの立場の尊重」および「Ⅲ.小児がんの
入院治療中の時期」から継続した目標である「患者の対処能力の育成と確認」
が挙げられ,新たな目標として「医療者と前籍校の学校関係者による連携の発
揮」
「復学後の学校生活の調整」が追加された。
「プロトタイプステップ1」にはⅠ.小児がん患者の復学支援体制を醸成する
時期からⅤ.小児がんの入院治療を終えて復学した後の時期の目的と目標に焦
点をあてた支援の要素などを時系列で示す表として作成した。さらに時期を超
えて継続する目標などは一目で理解できるように色付けして表記した。
「プロト
タイプステップ 1」を資料 1 に示した。
5.2 第 2 段階 デルファイ法による「プロトタイプステップ 2」への改訂
5.2.1 第 1 回 文献検討を基に作成した「プロトタイプステップ 1」の配布と意
見の集約
第 2 回の有識者会議に先立ち,
「プロトタイプステップ 1」について意見など
があれば郵送または電子メールで回答を求めたが,有識者からの回答は得られ
なかった。
5.2.2 第 2 回 有識者会議の実施
会議には有識者の 5 名全員が出席し,小児看護学の研究者 3 名が同席した。
会議では最初に小児がん患者の標準復学支援要領を試作する意義について意見
交換したところ,医療者と学校関係者の両者から現状としてすぐに使用できる
指標を必要としているという意見があり,速やかに合意が得られた。試作にい
たる背景として「がん対策推進基本計画
35)」や「障害を理由とする差別の解消
の推進に関する法律
36)」などを後ろ盾とした方が良いという提案があった。
19
次に「プロトタイプステップ 1」の構成と項目をひとつずつ検討した。構成は,
復学支援でやるべきことを手がかりに示されているため理解しやすいという意
見があった。新たに追加すべき項目として,教員は入院中の情報提供や小児が
ん患者が学校生活を送るうえでのアドバイスなどを医療者に求めているため復
学を支援するチームの一員として教員を積極的に迎え入れる内容や小児がん教
育に関する教材や資源が挙げられた。また,小児がん患者が学校生活を送るた
めに必要な対処能力に関しては内容を拡充すべきであるなどという提案があっ
た。
使用する用語に関して,医療者は「患児,患者」
「原籍校」と表現するが,学
校関係者は「子供」「前籍校」と表現するなど言葉の定義に違いはあるものの,
誰が見ても理解できるようにできる限り平易な言葉を使用した方が良いなどの
意見が出された。また,
「苦悩」は否定的な表現に感じるとの意見に対し「不安」
という表現に変更してはどうかという提案があった。
小児がんの入院治療を終えて退院前の時期は,先行文献に基づき入院治療の
最終段階を終えた頃としていたが,具体的な期間の目安の方が理解しやすいと
いう意見があり,退院 2 週間前から 1 か月前に修正することで合意した。
さらに,実例コラムを掲載した方が理解しやすいという提案があった。
最後に,これらの意見を整理統合し「プロトタイプステップ 2」に改訂して第
3 段階に臨み,第 3 段階の結果に基づき再度改訂後,有識者に配布することを伝
えて合意を得た。
このような有識者会議の結果に基づき「プロトタイプステップ1」を「プロ
トタイプステップ 2」へと改訂した。
「プロトタイプステップ 2」を資料 2 に示
した。なお,変更箇所は赤字で記した。
5.2.3 第 3 回 半構造化面接調査の結果に基づき改訂した小児がん患者の標準
復学支援要領の改訂
半構造化面接調査の結果に基づき改訂した小児がん患者の標準復学支援要領
を配布し,有識者に合意を求めた際に新たに改訂すべき意見が2点寄せられた。
1点目として,2016 年 12 月にがん対策基本法の一部が改正
37)に基づき,小児
がん患者における学習と治療の両立のための環境整備と施策の必要性が掲げら
れたことを追記してはどうかという提案があった。2点目として,小児がんに
20
関する情報を掲載しているURL(Uniform Resource Locator)が新しく更新され
ているという情報が得られた。これらに従い,改訂した。有識者から最終的に
改訂した要領への合意が得られた。
5.3 第 3 段階 半構造化面接調査
5.3.1 基本属性
参加者の基本属性を表 3 に示した。
調査参加者は合計 6 名であった。平均年齢は 34.2 歳(範囲 29 から 45 歳)で
あった。現在の役職は,スタッフ看護師が 5 名,副看護師長が 1 名であり,そ
のうち小児看護専門看護師が 2 名であった。看護師の平均経験年数は 12.5 年
(範
囲 8 から 24 年)であった。小児看護の平均経験年数範囲は 11.7 年(範囲 8 から
23 年)であった。小児がん拠点病院の平均勤務年数は 3.3 年(範囲 1 から 4 年)
であった。所属部署は,病棟が 4 名,病棟と小児がん外来の兼務が 2 名であっ
た。小児がん患者の復学支援に関わった平均経験年数は 7 年(平均 5 から 10 年)
であった。
本調査における途中での参加辞退者はいなかった。
5.3.2 半構造化面接調査の分析結果
半構造化面接調査で得られた結果を「プロトタイプステップ 2」の実用性があ
ると感じる点,
「プロトタイプステップ 2」に対する臨床看護師の期待,小児が
ん患者の標準復学支援要領の実用化に向けた課題の 3 点に分けて述べる。
以下,
「 」はコード,サブカテゴリは< >とし, カテゴリは≪ ≫とした。
5.3.2.1「プロトタイプステップ 2」の実用性があると感じる点
分析の結果を表 4 に示した。51 コード,17 サブカテゴリ,5 カテゴリが抽出
された。
要領の実用性について「要領をもとに各施設でやれる範囲でやれることに取
り掛かっていけばいい」という<どの施設でも要領をべースに支援できる>こ
とが抽出された。また,
「うちの病院は外来移行後の支援をできていないからこ
ういう標準のものがあったらやりやすくなる」といった<復学支援に関して自
分の発想にない情報を手がかりにできる>ことが挙げられ,看護師は要領を≪
標準化された内容が網羅されているので復学支援の手がかりが得られやすい≫
21
ととらえていた。そして「マニュアルみたいな要領があれば若手看護師や異動
してきた看護師,小児がんの経験が短い看護師もやりやすい」といった<復学
支援経験の浅い看護師は復学支援の手順が分かりやすい>が挙げられており≪
復学支援の手順や退院後の生活のイメージがつきやすいので経験の浅い看護師
にも役立つ≫可能性が示された。また,要領は復学に関わる関係者のそれぞれ
の役割を明記していることから<復学支援に関わる他者の視点が得られやすい
>などのように≪復学支援に関わる職種が役割を再認識して実施できる≫と看
護師は感じていた。<目的・目標・方策・方法・手法の項目が具体的で分かり
やすい><誰が誰に対しての項目は明確だから分かりやすい>のような≪復学支援
が必要な時期別に詳細な支援方法が示されているので実施できる≫といった実
用性が挙げられた。看護師は<時期ごとの関連性が分かるから支援しやすい>
<入院時から退院後までの一連の流れに共感できる>といった≪復学支援にお
ける入院時から退院後までの一連の流れに沿って支援できる≫実用性があると
感じていることが示された。
5.3.2.2
「プロトタイプステップ 2」に対する臨床看護師の期待
分析の結果を表 5 に示した。11 コード,9サブカテゴリ,3 カテゴリが抽出
された。
看護師は要領に対する期待として<いま作っている要領もあると助かる>な
どといった≪復学支援の指標の必要性を感じる≫,復学支援の指標がないため
<要領を使っていいよと配布してくれたらいい>など≪標準復学支援要領が完
成したら使いたい≫,<要領はあったら役立つ><要領は使える>など≪標準
復学支援要領があると臨床で活用できる≫と感じていることが示された。
5.3.2.3 小児がん患者の標準復学支援要領の実用化に向けた課題
分析の結果を表6に示した。小児がん患者の標準復学支援要領の実用化に向
けた課題は,現在ある項目で追記した方が良い点,現在ある項目で修正した方
が良い点,新規に追記した方が良い点,今後検討した方が良い点の 4 点に大別
された。以下,内容は[ ] ,項目は【 】とする。
まず,現在ある項目で追記した方が良い点は 6 項目あった。看護師は [退院
前調整会議の必要性] [入院時調整会議と退院前調整会議の中身] [退院前調整
22
会議の参加者][教員への小児がん患者の復学支援に関する参考書の提示]とい
った【復学支援調整会議】の具体的な進め方について追記すべきと感じていた。
また,看護師は小児がん患者の復学支援のひとつとして[ロールプレイの必要
性]や[対処方法を一緒に考える手段]が分からないため【復学後の対処方法の協
議】の項目について詳しい説明の記載を望んでいた。さらに,要領は復学支援
の要素を 5 つの時期に分けて明記しているが[復学支援体制を醸成する時期を取
り入れた意図の説明][復学支援体制を醸成する時期における要領の活用方法]
といった【復学支援体制を醸成する時期】について詳細な説明を求めていた。
その他追記した方が良い項目として【言葉の表現】
【前籍校とのつながりの維持】
【誰が誰に対して支援するか】が挙げられた。
次に,現在ある項目で修正した方が良い点は 3 項目あった。[退院前調整会議
の開催時期][調整会議に関する内容の示し方]といった【復学支援調整会議】の
項目が挙げられた。また,看護師は[小児がん患者の復学支援に関する研修の企
画手段]という【復学支援体制を醸成する時期】
, [学習開始の許可] [予後]な
ど【言葉の表現】の項目について修正を望んでいた。
新規に追記した方が良い点は 9 項目挙げられた。看護師は人的環境・物理的
環境を調整するうえで患者によって優先順位を考慮した [前籍校教員に連絡す
る時期(具体案:年度初めまでの連絡)],合理的配慮として[個別支援の配慮
の目安になる情報(具体案:発達評価,高次機能障害の特徴)] [個別支援の内
容]といった【個別支援が必要な場合】の項目は具体案を提示しながら追記した
方が良いとしていた。また[good practice の公表]という他施設の医療者が実際
に行った【手本となる復学支援の成功事例】の追記を望んでいた。さらに,イ
ンタビュー調査の参加対象者である看護師自身が前籍校に依頼するときに行っ
ている[ポジティブに伝える工夫(具体案:~すればできる)]という【前籍校
に依頼するときのコツ】が挙げられた。その他新規に追記した方が良い項目と
して【長期入院によって友人から取り残されるのではないかという不安】
【患者
の気持ちの尊重】
【復学支援フォーマット】
【要領における患者の対象】
【前籍校
と患者の交流の継続】
【前籍校と医療者の復学後の定期的な話し合い】が抽出さ
れた。
今後検討した方が良い点は 4 項目あった。看護師は[患者と家族にもたらされ
る効果の評価方法][臨床での使いやすさの評価方法][運用過程での評価方法]
23
といった【要領を運用していくうえでの評価】に関する基準の設定を検討して
ほしいと感じていた。また,[要領の使い方の説明][要領を運用するための時間
の準備]といった今後看護師が要領を主導していくにあたり【要領の使い方】も
検討してほしいとしていた。さらに,検討した方がいい項目として【要領の見
やすさ】や[誰でもいつでもどこでも使えるための発信手段]という【要領の均
てん化】が挙げられた。
5.4 第 4 段階 小児がん患者の標準復学支援要領の改訂
追記した方が良い点と新規に追記した方が良い点は全て加筆した。特に【復
学支援調整会議】は会議の開催方法や参加者などの一例を一覧表として作成し
た。また,要領全体で使用していた言葉を平易な言葉に修正し,誤解を招きや
すい文章は変更した。復学支援の内容でイメージしにくい項目は,具体的に理
解できるように有識者やインタビュー調査の参加対象者である看護師から得ら
れたエピソードをコラムとして掲載し,good practice も付け加えた。さらに,
要領を作成した目的,基本的な考え方,作成方法と構成,要点,今後の展開と
改訂目標などを「はじめに」として新たに掲載した。要領に記載された内容の
ボリュームが大きいため【要領の見やすさ】を検討してほしいという意見があ
ったため,要領はあくまで指針であること,有用と思われる情報を適宜選択し
てほしい旨を「作成にあたって」として新たに付け加えた。
6.考察
本研究では,第 1 段階から第 4 段階までの過程を経て小児がん患者の標準復
学支援要領を試作し実行可能性を検証した。得られた結果を第 1 段階から第 4
段階に分けて考察する。
6.1 第 1 段階 文献検討による「プロトタイプステップ 1」の作成
文献検討で小児がん患者の復学支援における要素を抽出して時期別に分類し
目的と目標を示したところ,小児がん患者の復学支援における時期別の目的と
目標は,Ⅰ.小児がん患者の復学支援体制を醸成する時期からⅤ.小児がんの入
院治療を終えて復学した後の時期を通して関連し合い,最終的に小児がん患者
と保護者が納得した学校生活を送ることを目指していることが示された。東海
林ら
38)は,入院直後から退院までの支援の過程が示された退院支援フローチャ
24
ートシートを導入することで看護師の退院支援に関する認識が向上し,退院支
援の充実につながったと報告している。小児がん患者の復学支援においても,
退院後の学校生活を視野に入れてかかわることができるような復学支援の一連
の過程を明記した指標は有効であると考える。そこで,要領を作成する際はⅠ.
小児がん患者の復学支援体制を醸成する時期からⅤ.小児がんの入院治療を終
えて復学した後の時期を通した復学支援の要素の関連性を時系列で整理し示し
た方が良いことが明らかになった。
第 1 段階の研究結果で小児がん患者の復学支援における時期別の目的と目標
に焦点をあてた支援の方向性が示された際,復学支援の基本的な要素は共通し
ていることが判明した。入院してから院内学級に転校するまでの期間や手続き
方法など病気療養児に対する教育の対応は自治体や学校,病院によって異なる
とされているが
39),復学支援の基本的な要素は共通しているため,これらの要
素を基に最小限何を支援すべきかをまとめた標準的な指標を作成した方が良い
ことが明らかになった。
先行文献では,小児がん患者の復学に関して,患者,保護者,医療者,学校
関係者など様々な立場からの視点に基づく研究報告はあるが,それぞれ行われ,
関連づけられていなかった。また,小児がん患者の復学支援における時期別の
目的や目標に着目した研究は見当たらなかった。よって,小児がん患者の復学
支援における時期別の要素,目的と目標の具体的な提示を時系列上で関連づけ
ながら示す「プロトタイプステップ1」を作成したことは,第 1 段階の研究の
成果といえる。
6.2 第 2 段階 デルファイ法による「プロトタイプステップ 2」への改訂
第 1 段階で行った先行文献に基づいた「プロトタイプステップ1」について
有識者の合意が得られた。土屋と武田
40)は,教員と医療関係者が連携し情報を可
能な限り共有することは,医療機関と教育機関の制限・制約を軽減できる大き
な要因になると述べているように,合意が得られた背景として復学に携わる有
識者がとらえる復学支援に必要な要素や構造と「プロトタイプステップ 1」が一
致していたと考えられる。よって,復学支援に関わる多職種の役割と協働の方
法について要領に明確に示したことは復学支援において非常に重要な視点であ
るといえる。
25
また,有識者から要領の試作にいたる背景として「がん対策推進基本計画」
を後ろ盾とした方が良いという提案があった。
「がん対策推進基本計画」のひと
つに健康教育の中でがんを基礎的な教養として推進することが掲げられている
ように
41),がんに関する正しい理解の普及は小児がん患者が復学したときに学
校関係者やクラスメイトなど周囲から適切な配慮を受けて社会復帰できること
につながると考えられる。よって,要領にⅠ.復学支援体制を醸成する時期を取
り入れたことは意義があるといえる。
さらに,学校関係者と医療者には言葉の定義に違いがみられた。田中
42)は,学
校関係者と医療者が同じ患者をみていても言葉や表現が違うのは,生命を守る
ことと生活の豊かさをつくることといった異なる視点を持つためであり,この
両眼が大切であると述べている。よって,小児がん患者の復学支援では復学に
関わるすべての人が共通理解できる言葉を用いることが協働していくことの重
要な基盤となるといえる。
作成した「プロトタイプステップ 2」には,これらの視点を反映することがで
きた。
6.3 第 3 段階 半構造化面接調査
半構造化面接調査によって「プロトタイプステップ 2」は実用性があるという
結果が得られた。それは≪標準化された内容が網羅されているので復学支援の
手がかりが得られやすい≫≪復学支援の手順や退院後の生活のイメージがつき
やすいので経験の浅い看護師にも役立つ≫などといった復学する患者と家族に
支援すべき要素が時系列で明記されているため得られたと考えられる。平賀
43)は,
小児がん患者は退院してからも復学後の支援の再確認や配慮内容の修正,想定
外の問題に対処していくためにも医療者と学校関係者の継続した連携が求めら
れると報告している。しかし涌水
44)は,看護師は小児がん患者の復学支援をやる
べきだがやれていない,復学支援の仕方やタイミングがよく分からないといっ
た復学支援へのジレンマを抱えていると述べている。そのため復学支援の経験
が少ない看護師にとって均てん化された標準的な復学支援の要素が明記されて
いる「プロトタイプステップ 2」は,経験値を問わず誰にでも理解可能な内容で
あるため復学支援の手がかりになる重要な指標であるといえる。
また≪復学支援に関わる職種が役割を再認識して実施できる≫という結果が
26
挙げられた。先行文献でも小児がん患者の復学支援には患者とその保護者を取
り巻く医療者,学校関係者のそれぞれの専門的な役割をいかした連携が有効で
あると述べられている
45)。要領を提示することは,看護師が自身の役割に加えて
学校関係者の重要な役割を再認識したうえで学校関係者との協働を始めること
につながると考えられる。学校関係者の専門性を尊重し,学校関係者に役立つ
ように考えて情報提供を行うきっかけ作りにもなることも期待できる。よって,
復学支援を協働してすすめる視点が含まれていることは,この要領の重要な点
であるといえる。
さらに≪復学支援における入院時から退院後までの一連の流れに沿って支援
できる≫という結果が挙げられた。小児がん看護ケアガイドライン 2012
46)にお
いても看護師は苦悩や不安を予測し先を見越してケアを提供することが求めら
れると明記されているように「プロトタイプステップ 2」は復学支援の要素を時
系列で可視化しているため先を見据えた支援の提供につながり,臨床で活用し
ていくうえで有用な指標だといえる。
次に,看護師は「プロトタイプステップ 2」に対して≪標準復学支援要領があ
ると臨床で活用できる≫などの期待を抱いていることが明らかになった。畑中
47)は小児がん患者の復学において関係者が連携し継続的な支援を提供できる支援
プログラムの整備が必要であると述べている。しかし,日本では小児がん患者
の復学に関して継続的な支援が標準化された指標はない。よって,看護師は困
惑しながら復学を支援しているため日常的に手にできる要領の活用を心待ちに
しているととらえることができる。
要領の実用化に向けた課題として改善点が示された。まず看護師は【復学支
援調整会議】という項目は改善が必要だととらえていた。先行文献において,
復学支援調整会議は復学後に困難が生じた際にも互いに相談しながら対応する
きっかけ作りとなり,復学支援に関わる関係者にとっても安心につながるため
大事な支援として必須であるといわれている
48)49)。さらに平賀
50)は,復学支援調
整会議の意義について感染症など医学的な配慮事項が医療者から前籍校教員に
正確に伝えられておくことは円滑な復学のために大きな役割を果たすと述べて
いる。しかし堀部
51)は,現実問題として小児がん患者の入院中に前籍校教員と医
療者の話し合いや連携は必ずしも行われておらず,施設によって医療者側に意
識の較差がみられると報告している。本調査においても復学支援調整会議の実
27
施については試行錯誤している様子がうかがわれた。復学支援調整会議の内容
は医療者の裁量に任されている部分が大きいため質に差が生じており,看護師
は復学支援調整会議の理想と現実の隔たりにジレンマを抱えていることがうか
がえた。以上のことから,復学支援調整会議は必要不可欠な要素を網羅した基
準にしたがって実施する必要性があると考えられる。
また,看護師は【復学後の対処方法の協議】の項目に補足説明を求めていた。
名古屋
52)は,看護師は小児がん患者が病気のことを相手に聞かれる戸惑いや嫌が
らせによる苦痛に対し,そのような場面に遭遇した際の対処方法を小児がん患
者自身が身につけられるよう,入院中から積極的に支援していく必要性を述べ
ている。しかし,本調査結果では復学後の対処方法への支援に関する看護師の
認知度はまだ低い現状が明らかとなった。よって,対処方法を協議する目的と
方法について理解しやすいよう,新たに具体例を追記して説明していくことが
重要であるといえる。
さらに,本研究で作成した要領は 5 つの時期別となっているが看護師から【復
学支援体制を醸成する時期】の理解が得られず,この時期の必要性を認識して
いない実態が明らかになった。大見
53)54)55)の調査報告によると,教員は機会があ
ればがんについての知識を得たいと思っているため,小児がん患者を担当する
かどうかにかかわらず教員全体を対象とした小児がん患者の復学支援の認識を
高める研修会の開催など,医療者自らが学校関係者との協働を積極的に推進す
る必要性と研修会実施後の効果について述べている。堀部
56)も,医療者と学校関
係者が小児がん患者の復学に関する問題と支援のあり方について理解を深める
とともに未然の対応を講じる必要性を提言している。がん治療は日々進歩して
いることから,養護教諭や一般教員に限らず国民全体に対しても小児がんに関
する最新の知識を提供することが小児がん患者への理解につながると考える。
よって,小児がん患者の復学支援体制の醸成に関してまずは臨床看護師への啓
蒙活動が急務であるためこの項目を分かりやすく示すことが必要であると考え
られる。このことは,すでに「がん対策推進基本計画」のひとつに「がん教育」
の必要性として掲げられている
57)。
看護師は新規に追記すべき項目として【個別支援が必要な場合】を挙げてい
た。柳澤
58)は,神経系の形成期にある小児がん患者は治療後に認知機能障害を認
める可能性が高く,軽度の学習障害から重度の知的障害や言語障害まで症状の
28
程度や発症時期に差があるため,個別性を考慮した長期的な復学支援が必要で
あり,有用であると報告している。また「障害を理由とする差別の解消の推進
に関する法律」ではすべての人に合理的配慮の提供を求めているが
59),個別性
を考慮した合理的配慮の調整内容は関係者の判断に委ねられている。
[前籍校教
員に連絡する時期]
[個別支援の配慮の目安になる情報]などを含む【個別支援
が必要な場合】の項目は,その患者によって異なる優先順位を考慮した調整や
支援の提供であり,合理的配慮を求めるうえでの具体的な内容となる。これは
個別支援を必要とする小児がん患者を復学支援した経験がある看護師だからこ
その具体的な視点であり,その視点を要領に反映することは復学する患者と家
族が合理的配慮を受けられることにつながるといえる。
6.4 第 4 段階 小児がん患者の標準復学支援要領の改訂
今回の検証結果で「プロトタイプステップ 2」の改善点が明らかとなった部分
を改訂した。有識者から「プロトタイプ」の内容に関しては比較的評価が高く,
改善すべき点があるという意見は少なかった。しかし,実際に要領を活用して
主導する立場の臨床看護師からは項目に詳細な説明を付け加えてほしいという
意見や,内容を減らして簡潔にしてほしいという意見があり,要領のボリュー
ムのバランスの調整が必要であると考えられる。小児がん患者の標準復学支援
の運用において今後検討すべき点の全 4 項目は非常に役立つ方針の提案だった
が,試作過程における現段階では解決が難しい内容であり今後の課題として取
り組む必要性が示唆された。
6.5 総合的考察
小児がん患者の標準復学支援要領の試作過程において文献検討やデルファイ
法,半構造化面接調査によって貴重な意見を要領に反映させることができ,実
行可能性の高い要領に仕上がった。
松本
60)は小児がん拠点病院の制定から 3 年が経ち,疾患や病態に応じた集約化
と均てん化が進みつつあると報告しているが,本調査では小児がん拠点病院で
あっても復学支援における取り組みや医療者の意識に格差がみられる現状がう
かがえた。しかし,学校関係者,医療者ともに小児がん患者の復学支援におけ
る協働が非常に重要と考えており関心が高いことを再確認できたため,標準化
29