ミツバチ科学16(1):27-30
HoneybeeScience(1995)
アマ ゾ ン地域 にお けるベニ ノキの
花粉媒介 と送粉昆虫
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ベニノキ (アナ ト-)Bixaorellana(ブラジ ル名 ウルクー) は熱帯 アメ リカ原産 の植物 で, その種子 は天然色素 の原料 とな る.抽 出され る カロチノイ ド系天然色素 のアナ トー色素 (ノル ビキ ンンおよび ビキ シン) は黄∼桂色 を呈 し, 油溶性 か ら水溶性 まで各種 の タイプが供給 され るので食品や薬剤 などに広 く利用 されている. 日本 での1994年 にお け る推定需要 は1%溶液 換算 で1100tに及 ぶ. ベニノキはブラジルで は伝統 的にイ ンデ ィオ が食品の着色 や体 に塗 る染料 と して利用 してお り, また今 日で は家庭 での調理用色素 と して, あ るいは工業用 の色素,染料 などと して広 く利 用 されている.国内消費 の方 が中心で はあるが ペルー, ケニアなどの輸 出向け生産国 に次 いで 日本や欧米諸国への原料輸 出 も行 っている. そ こで多 くの農家 の注 目を集 め, ブラジル各地 で 盛んに栽培 され, アマゾ ン川河 口域のパ ラー州 に お い て も作 付 面 積 は 1564haに 達 す る (1994年6月現在). ブラジルは種子生産量 で は世界第一位であ るが,品質 は主輸 出国 に比 べ て悪 い と い わ れ て い る (Kato and Falesi,
1992). このよ うな背景か ら, ベニノキの栽培法,種 子生産, その管理 および加工 に関 して はこれま でに相 当の研究 の蓄積 が あ り,技術 も向上 しつ つあ る. しか し花粉媒介 につ いて は,特 にその 送粉昆虫 につ いての知見 が乏 しく研究が立 ち遅 れていた. そ こでパ ラー州 ベ レン市 にあ るブラジル農牧 省 農 業 研 究 公 社 湿 潤 熱 帯 農 業 研 究 セ ン ター EMBRAPA-CPATU は, 1990年 に始 ま った 日本 の国際協力事業団 (JICA)との共同事業 で あるアマゾ ン農業研究協力 プ ロジェク トに一課 題 と して加 え られた 「経済性作物 の受粉昆虫 の 同定 とその増殖 に関す る研究」 の対象植物 のひ とつ と してベニノキを取 り扱 い, その調査研究 を進 めて きた. 本稿で は この中で主 に1991 -93年 にパ ラー州 で行 われ たベニ ノ車の花 の生 物学的な調査 を中心 に,有効 な花粉媒介昆虫 を 有効 にす るための方策 を検討 した.
べ二ノ辛の花
ベ ニ ノキ はベ ニ ノキ科 に属 し, 花 は雪片5 枚,花弁5枚が輪生 す る放射相称花で,単散花 序 を形成す る.花弁 は淡 い桃色か白で,多数 の 雄ずいがあ り,薪 は黄色 い.花 には甘 い微香 が あ る.一般 に夜明 け前 に開花が始 ま り,完全 に 開花す るまでに1時間を要す る. ここでい う開 花 の開始 とは花弁 が開 き始 めた時点 で,雄ずい と雄ず いがいずれ も露 出 した状態 を もって完全 な開花 と した. 花 を ア ンモニア蒸気 に曝 し,紫外線 を照射 し て観察す ると,雄ず いの半分 くらいか ら先 が蛍 光 を発す る. また中性赤 で染色 した場合 には雌 ず いの上方 と花弁 の縁 に発香部特有 の染色 が見 らる.訪花す る昆虫 は,芳香 に惹 きつ けるだけ でな く,特 に至近距離 で は視覚 によ って これ ら の特異 な色素分布パ ター ンを認識 して いるので あろ う. ベニノキの花 には蜜腺 がな く花粉媒介者 への 報酬 と しては花粉 だけを提供す るが,花 の付 け 根部分 に花外蜜線 があ り, こか ら分泌 され る蜜 は 主 に ア シ ナ ガ バ チ 類 や Solenopsis saevissima などのア リ類 が利用す る. このア リは花序 を行 き来す るので食植性 の害虫 を排除28 す るのに役立 っていると考 え られ る. 雄ずいは開花中の花では平均
30
4±72
本で, 開花前 に袋掛 け した場合 には平均41
9±1
7
本 となった. これは開花後 に訪花昆虫 によ ってか な りの雄ずいが失われ ることを示 している.柄 は孔開 し,花粉粒 は 1花 あた り約1
3
0
万個 で ある. 腫珠数 は 1花当た り平均56
で, 花粉 と 腫珠 との比 はおよそ230
00:1
で,多花粉花 と いえ る. べ二ノ辛の受粉 一般 に花粉の多い花 は他家受精であるといわ れ, またベニノキ自体 も他家受精 であ り,異株 の花粉 の方が受精率が高 いといわれて きた. し か し今回の実験 では, 白花受粉 による受精率が 高 く,荊除去 を しない自花花粉 の受精が起 こり 得 る処理区で受粉率が高 くなる傾向となった. また白花花粉だけで も振動 を加えて花粉 の飛散 を促進す ることで最 も高 い受粉率を示 し充分 な 種子生産が可能 な ことがわか った (衰 1
)
.
これ はベニノキが原則他家受粉 であるが白花花粉 に よる受粉 も受容す ることを示 している. 自然状態のべ二ノ与はアマゾン地域では年中 花 と果実 を見 ることが可能 であるが,季節消長 も見 られ る. 乾季への移行期の7
-9
月は花が 少 な く,菅 と果実の数 も少 な くなる.雨季か ら 雨季明けまでの1
-5
月には菅, 花 と果実が多 表1 交配処理 したベニノキの結実状況(
1
9
9
3
年1
-3
月) 処理区 結果率 種子数 異株花粉 異株花粉+荊除去 同株花粉 同株花粉+荊除去 自花花粉+振動 白花花粉 無花粉 自然対照区0
5
2
0
5
2
55
8
6
6
6
8
3
5
9
3
6
2
0
5
4
4
4
4
5
3
4
7
*対照区を除 く処理区は袋掛けで花粉媒介者による 受粉を排除した. 異株花粉と同株花粉は闘病 して得た花粉を人為的 に処理 した. 白花花粉は袋をかけた上で振動を加えたものと加 えないものを比較 した. い.気象記録 を参照す ると開花の盛んな時期 は 最 も気温が低 く日照時間が短 いときで,逆 に湿 度が高 く降水量 が多 いときにあたる.果実の成 熟 日数 は40
-45
日で, 完熟 した果実の大 きさ は長 さ40
.
9±3.
0
m
m
,幅25
.
7±2
.
7
m
m
であ った. なお成熟 日数 に関 して,中米の コスタ リカでは60
-80
日であると報告 されている (Enriquez and Acre,1
9
91
)
.
結果率 は雨季明けに高 く(
61
%, 1
9
91
年5
月∼6
月), 雨季には42
,
5
%
(
1
992
年2
-3
月) となった. これは雨季 には 訪花昆虫が少 な くなるか,訪花の頻度が下がる ためと考え られ る. アナ トー色素生産 の観点 か らは,雨季 に収穫 される種子では,水分含量が高 く色素の歩留 ま りが悪 いこと, また移動 ・保存中にカ ビが生 え やす いため乾季に結実す る方が望 ま しい.そ こ で一般 にパ ラー州では努定 によって乾季始めの 8月がベニノキの種子収穫 の ピークとなるよう な栽培を行 っている. したが って花粉媒介の効 率 は相対的には高 い もの と思われ る. 送 粉 昆 虫 べ二ノキを訪花す る代表的なハナバナ頬 と し て は コ ンプ トハ ナバ チ科 で は クマバ チ族 のXylocopafrontalisとX.aurulenta,Centri -dini族のEpicharisrusticaとCentrissimiLis
(および未同定の同属一種)が,ミツバチ科では マルハナバ チ族 のBombustransversalis,シタ バチ族のEuleaemacingulata,E,meriana,お よ び Euglossa sp., ハ リ ナ シ バ チ 族 の Meliponamelanoventerがあげ られ る (図2). これ らの- チ類 は日の出後, およそ開花 の
1
5
分後 に訪花 を開始 し,午前8時半 までは盛んに 活動 しているがその後徐々に減少 してい く. 上記のハチ類はいずれ も大型∼中型 の もので (体長1
2
-2
8m
m
)
, 花に飛来す ると大顎 と肢 で 雄ずいを抱え込むよ うにつかみ,飛糊筋を振 る わせてその振動 を花 に伝え る. この振動 によ っ て花粉 は煙 のよ うに飛散 し,花弁の上やハチの 体毛上 に落 ちる, このときの振動音 は5m
離 れ たところで も聞 こえ るほど大 きい.花粉 は後肢 に花粉収集器 (コシブ ト- ナパテ科では剛毛が図 1 ベ二ノキの花で振動受粉するEpicharisrustica(左)とMeliponamelanoventer(右) 密生す るscopa, ミツバチ科ではか ご状 のcor -biculaと呼ばれる部分)に集 め られ,巣 に持 ち 帰 られ る. このほかに訪花が確認 された-ナパテの うち ハ リナ シパテの一種Trigonafulviventrisは薪 の孔か ら直接花粉 を集 める, この花粉採集行動 は □器 を使 って絞 り出 す よ うに見 え るの で milking(乳搾 り)"(またはbiting)と呼ばれ るが,花粉 の飛散 は起 こらず, また-チの体が 小 さいので雄ずいには触れて も同時 に雌ずいに 接触す ることはない (図2).またセイヨウ ミツ バ チや別 のTrigona属 のハ リナ シバ チが他 の ハナバナ類が振動で花弁 に落 と した花粉 を集 め るの も観察 された (図3).この行動 は t一gle an-ing(落ち穂拾 い)" と呼ばれ, この場合 は雄ず いに も雌ずいに も接触 しない. ハナバチによるベニノキのように孔関す る荊 を もっ花 の花粉採集方式 には以上 の3方式 が 知 られているが (Roubik,1989),振動 による もの以外 は通常花粉媒介を伴わないため植物側 には利益がない. なお ヨー ロッパや 日本では ト マ ト栽培- ウスにマル-ナバチを導入 している が, これは振動 による花粉採集 を行 うハナバチ による花粉媒介 (振動受粉)を実用的 に利用 し ている好例である. 花 粉 媒 介 効 率 を上 げ る た め に 振動受粉 を行 うハチ類 は ミツバチ上科11科 中,-キ リバチ科 など 5科 を除 く6科 にわたる (Buchmann,1983).ベニノキで訪花が最 もよ く観察 されたX frontalisとE rusticaもコシ ブ ト-ナバチ科 に属す る単独営巣性 の-ナバチ である.本 プロジェク トでは訪花昆虫の増殖 を テーマに含 めているが,社会性の ミツバチとは 異 な り, これ らのハナバチ類 を人為的に増殖 さ せ花粉媒介に利用す るのは容易ではない. マ レ ーシアではパ ッションフルーツの花粉媒介のた めにクマバチ類が好む木の ブロックを営巣場所 として提供 し,農園内での個体群密度 の上昇 を ね らってお り(Mardan,私信), コスタ リカで も木製 の ブロックを森林 内に設置 してCentris 属の-ナバチを営巣 させて個体群調査を行 った 例 もあ り (Frankieand Newstrom,1993), 同 じような木製 ブロック設置 による営巣場所の 提供 と,それを農園に移動 して花粉媒介者の密 度 を上 げる方策 も検討中である. さ らに振動受 粉 を行 うマルハナバチや- リナ ンバチの飼育 も 現在試行錯誤の段階 に入 っている. 一方でアマゾン地域 は これ らの-ナバチ類が 営巣 している広大 な森林 を有 している. したが って,花粉媒介を効率 よ く行 うためにはベニノ 'キ栽培地 を天然林 な り再生林 な りの近 くに設定 す るか, あるいは周囲に森林 を維持 して, 自然 の花粉媒介者 の個体群密度 をある程度 の レベル に保っ ことも花粉媒介効率を向上 させ るひとつ の方法である.昨今 この地域での森林破壊 が問 題 とな ってお り,生態系の保全 とい う観点か ら も森林 の維持 による花粉媒介者 の保護 を提唱 し
30 図2 "milking''を行 うハ リナ シバ チTrigonasp. た い. さらにベニノキの花粉媒介者であるクマバチ 類 はベニノキ以外 に も種 々の経済性の高 い熱帯 産植物,例えばマメ類,パパ イヤ,パ ッション フルーツなどの重要 な花粉媒介者で もある. し たが って これ らの作物 を栽培す る場合 に,訪花 昆虫 を栽培地 内へ と誘 引す るための手段 と し て,年 中花をっけるベニノキの混植 を行 うこと は有効 と考え られ る. (著者の連絡先は下記参照) (翻訳 中村 純) 引 用 文 献
Kato,0.R,and I.C.Falese.1992. Rev.Brasil. Cor.Nat.1(1):20ト219.
Buchmann.S.L.1983.HandbookofExperime n-talPollination Biology (Jones,C.E.andR.∫. Littleeds.). p.73-113.
Frankie,G.W.and L.Newstrom 1993. Bi o-tropica25(3):322-333.
Roubik.D.W.1989. EcologyandNaturalHis -toryofTropicalBees.CambridgeUniv.Press. Cambridge. pp.514.
MAU丘S.M.M.andG.C,VENTURIERl.Pollination biologyofanattoanditspollinatorsinAmazon area. Honeybee Science(1995) 16(1):27130. EMBRAPA-CPATU,C.P No.48,Belem,Par畠. Brasil.
図3 花弁 に落 ちた花粉 を集 めるハ リ ナシバチ Trigonasp.
Anatto,Bixa orellana,is a plantnative to NeotroplCSand itsseedisaneconomicallyi m-portantcrop in Brazilasa sourceofnatural dyes,norbixineandbixine,forfoodsandmedi -ClneS.
Generally,theflowerofanatto isknown as allogamous and ithas been thoughtto need crosspollination.However,whenaflowerwas vibratedmanuallyinsteadofbypollinators,the ratios of fruit setting and seed production reached atthe levelofthose with hand and insect pollinations. Further.flowers without emasculation in both allogamous and geitonogamous conditions were resulted in higherfruitsetting than thosewithemascul a-tion. Itshowed thattheflowerofanatto,at leastofthisvariety,isprincipally allogamous andcanacceptselトpollens.
Thisflowerneedspaticularpollinatorswhich can vlbrate the poricidal anthers to eject pollens, As the efficient buzz-pollinators, Xylocopa frontalis, EPicharis rustica, and Meliponamelanovenlerwereobservedfrequently on the flowers. While honeybees, Apis meLLifera.andsomeTrigoninistinglessbeeswere observed collecting pollens in the manneras known asmi lking orgleaning which isineffi -cientonpollination.