Ⅰ 問題と目的 教師の役割として授業の比重は高い。児童生徒が興 味関心をもち、意欲的に参加できるだけではなく、知 識技能を身に付け、生きる力を身に付けることができ るように、日々実践を積み重ね、授業改善したいと考 えている。そのため、学校現場においても授業研究に 関する研究が多い。 秋 田 県 教 育 委 員 会 で は、 授 業 後 に 行 う 授 業 実 践 チェックリストだけではなく、授業前に行う授業デザ インチェックリストを作成し、①子ども理解②単元(題 材)設定③教材研究④指導計画・内容の観点でみてい る。特に、②の単元(題材)設定については、「個別 の指導計画」→「年間指導計画」→「単元ごとの計画」 を踏まえて指導案を作成しているか、子どもの発達段 階に応じた単元(題材)であるか、子どもの興味・関 心に基づいた単元(題材)設定になっているか、単元 (題材)を通して育てたい力(目標)が明確であるか、 単元(題材)の内容は現在または将来の生活と結びつ いているか、単元(題材)を通して各学習活動のねら いが明確であるか、集団の活動としてゴールが明確な 単元(題材)になっているか、少し難しく、挑戦した いと思える課題が設定されているかといったチェック 項目が作成されている。 その他の授業研究会に関する研究では、行動問題研 究の最新アプローチの手法も取り入れられている。望 ましい(適切な、適応的な)行動を高める学習環境の 整備や望ましい行動が生じやすいように事前に状況事 象や弁別刺激を設定するという、先行子を操作するア プローチである。行動問題への「直接的」「事後」対 応ではなく、行動問題を起こさなくても済むように事 前に環境設定を事前にする予防的アプローチ(proac-tive intervention)とも言われる(村中 2015)。 また、鹿児島大附属特別支援学校では、「校内研究 のテーマとして子どもの『学び』から始めるカリキュ ラム開発‐日々の授業と教育課程をつなぐ授業研究の 在り方」を掲げ、授業改善の視点として、「学びの方向」 を授業目標や指導計画、「学びの機会」を学習活動の 設定、「学びの環境」を学習環境、「学びの方法」を手 だて(教材・教具、言葉かけ、支援ツール)、「学びの 連続」を学習の経過、次時や他の場面への広がりと定 義しながら授業研究を進めたとまとめられている。そ の中で、児童生徒は思いや見通しをもつことで主体的 に学んでいくこと、授業改善を繰り返した結果、学ぶ 楽しさを味わい、豊かに学ぶ児童生徒の姿を多く見る ことができること、児童生徒が学ぶ姿から実践の見直 しを図り、教育課程の改善につなげていくことが自立 と社会参加に向けて豊かに学ぶ児童生徒を目指すため に必要であるといことが言われており、「児童生徒が 学ぶ姿」から授業改善の在り方を探るべきであるとし ている。 これは授業研究会の中で授業改善を進める際の有効 な視点を示している。 さらに、教師集団の発達の場としての授業研究のあ り方についてのスタイルも述べられている。これまで は、指導者の報告や授業解説、授業参観者と授業者間 での質疑応答、参観者からの講評や解説という形が多 く、実践が技術的に熟練していくような養成ではな く、反省ばかりせざるを得ない実践家の養成してしま うという問題があるとし、本来の授業研究会は授業者、 参観者が同じ土俵で目的を共有しながら議論をする場 を形成し、それが学校集団の発達に寄与することが共 通の目標であると言っている。そして、授業の指導仮 説や授業において実施された指導法の適否を議論した り、個人としての教師の力量を伸ばしたりするのでは なく、ある一人の授業者の授業から学ぶことで、教師 集団として授業改善に取り組むという姿勢で取り組む ことが大切であると言っている。(肥後 2015) これらの先行研究より、授業前に環境設定が授業作
―効率的に教員の共通理解を図る特別支援学校での取組み―
Approach in Special Schools which Cooperate Common Understanding among
Teachers Effectively
:Verification of Workshop Centers on Students We See in Learning and Preparation
for Unit Plan
川島 民子
Tamiko KAWASHIMA
滋賀大学教育学部附属特別支援学校 <キーワード>
単元計画、子どもの学びの姿、授業研究会、共通理解
りには重要であること、子どもの学ぶ姿を中心とした 授業研究会が必要であること、個人としてではなく、 教師集団としての力量を伸ばすことが大切であると言 える。 そこで、本研究では授業作りに向けての先行子を単 元計画と捉え、単元計画を軸とした授業研究会(授業 前:P)、授業の実施(D)の後に、子どもの学びから 振り返る授業研究会(授業後:C,A)を行うことで、 効率的に教師集団の力量を伸ばす授業研究会を実施し 検証することにした。 Ⅱ 目的 学習指導要領、年間計画との関連付けをした単元計 画を作成し、ねらいや活動内容、評価の明確化を目指 し、子どもの学びの姿から授業を振り返ることによっ て教師集団の力量を高める。授業研究会を実施し検証 する。 Ⅲ 方法 1.手続き (1)授業研究会実施のための物理的環境の整理 (2) 鹿児島大学附属特別支援学校研究紀要の教育課 程と指導内容表の位置づけ(p13)、単元(題材) 指導計画(p17)、授業研究の視点「学び」の背 景(p19)、小学部の実践を元に、以下のサイク ルで授業研究会を実施する。 ①単元計画の立案 ②子どもの学びの姿からの振り返り 2.期間 平成27年6月5日~平成27年10月6日 3.対象とする授業研究会 (1)教科 からだ 単元 水泳 (2)教科 からだ 単元 運動会 Ⅳ 結果 1.授業研究会実施のための物理的環境の整理について 昨年度まで、授業のみに焦点を当てた学部授業研究 会の機会は全くもてなかった。そこで、まず時間を生 み出すことから始めた。 授業研究会の日を増やすと教師の負担感が増すこと が考えられたので、既存の会議の精選の視点から考え た。焦点を当てたのが、学部会である。月4回の学部 会のうち1回を授業研究会として扱うこととした。 そこで、これまでの学部会の議題を拾い上げ、必要 な議題と精選できる議題に振り分けた。その結果、平 均月1回、年7回の授業研究会を確保できることが分 かった。それぞれの機会に行事や年間計画と兼ね合わ せた授業研究会の内容を当てはめることで物理的な環 境を設定できた。 2.授業研究会のサイクル (1)単元計画の立案(図1、4) 経験年数が1年という講師が主指導をする授業を対 象とした。 実態を確認した後、主指導がねらいたい目標を引き 出した。断片的で単語程度で表現するねらいであった が、経験年数を重ねた教員が質問をする形で、内容を 具体化していく過程で、目標が明確になってきた。 次に、全員で学習指導要領に目を通しながら、単元 のねらいの根拠を確認した。学習指導要領のみでは判 断が付きにくい時には、解説にも目を通し、文言の意 味を理解しながら関連性を図った。 個々の目標は、全体目標に照らし合わせ、個々の実 態から担任を中心にしながら、全員で確認した。 最後に授業時間数から指導計画を作成した。最終授 業に向けて、導入にどのような内容をどのくらいの時 間をかけるのか、展開に当てられる時間はどれくらい なのかを確認し、そのために各時間はどの程度のねら いを設定したらよいのかを協議しながら共通理解をし た。 講師が水泳について作成した単元計画が図1、運動 会について作成した単元計画が図4である。 (2)子どもの学びの姿からの振り返り(図2,3、5) 気になる児童をケース生としてあげた。時間的な制 約があったこと、ケース生を分析することで、他の児 童への支援も見出されると考えたからである。 まずは、全員の児童を単元目標に対して授業での子 どもの学びの姿を確認した。これは、対象となる授業 をVTRで撮影し、撮影されたVTRを全員で視聴しな がら確認した。 その次に、そのような学びの姿が見られたのは、子 どもにどのような背景があったからかを分析した。こ れは個々の教師が付箋に記入し、KJ法で分類しなが ら発表する方法で行った。経験年数の浅い教師の意見 を尊重するためと、個々が周囲の意見に左右されるこ となくじっくりと考えられるようにするためである。 学部授業研が初年度ということもあり、学びの姿と 背景で終了する予定であったが、背景を協議していく 過程で、次時への手がかりも見出すことができ、どの 振り返りの授業研でも学びの繋がりについても共通確 認することができた。 特に、水泳は2回の振り返りを行うことができたこ とから支援の改善による子どもの学びの姿の変化を見 出すことができた。 例えば、7月6日の授業研究会で、子どもの学びの 姿を検討すると「力が抜いて抜けて浮こうとすること ができた」「肩の位置が一回目より二回目の方が低かっ た」という意見が見られたので、子どもの学びの背景
図3 教科 からだ 単元 水泳の第2回目振り返り ②学びの姿
図4 教科 からだ 単元 運動会の単元計画 (2)運動会
を探っていくと、「回数を重ねて慣れたから」「今まで の積み重ね」といった意見ととともに「いつもより浅 いところだった」という気付きを得ることができた。 そこで、学びのつながりとして「浅いところで安心し て活動できることを大前提にしよう」という共通確認 ができた。また、保護者よりお風呂では顔付けをして いるという情報があったという意見の中から、なぜお 風呂では付けていて、プールでは難しいのかを意見交 換しながら、その違いについても探りながら、次時の 支援を行うというまとめになった。 その上で7月13日の授業研究会で行うと、子ども の学びの姿で「唇の下までなら入れようとしていた」 という前回よりは詳細な観察が見られるようになっ た。その背景を子どもの学びの背景から探っていくと、 「ジャンプしながら水面が近づいていた」「順番を待っ ている時に、プールサイドに手をかけてバタ足をして いる」という気付きにつながった。そこで、学びのつ ながりとして「自分でジャンプしながら深さを知るよ うな自分で試行錯誤する時間を作ることを大切にしよ う」ということと、「プールサイドと同じようなスタ イルで支援することで、次はビート版に挑戦してみよ う」ということを共通確認することができた。 その結果、次時の授業の時には、単元の始めには無 理だろうと思っていたビート版でのバタ足をすること ができたという姿が見られた。 同じように、10月6日の授業研究会では運動会につ いて子どもの学びの姿からの振り返りを行った。この 回では目標に対する子どもの学びの姿については、話 し合い開始後すぐに意見が出て、まとまった。そして、 子どもの学びの背景を探ると、視点が「見学の質が高 い」「終わりを意識している」「動きや音が静止してい ることが活動のきっかけになる」と何点かにまとまっ たと同時に、「教師がねらいや指導のポイントを共通 理解できていたので、分かりやすい支援の下で活動で きた」という意見も出た。このように学びの背景がま とまったことで、次の体育的行事であるマラソン大会 にも同じような支援のもと取り組むという共通理解に 繋がった。 Ⅳ 考察 以上のような結果からそれぞれの観点に従って考察 していく。 まずは、授業研究会実施のための物理的環境の整理 についてである。ほぼ計画していた時間数の授業研究 ②学びの姿 図5 教科 からだ 単元 運動会の振り返り
会を実施することができた。これは、その都度の設定 ではなく、会議の精選と同時に授業研究会を年間計画 で設定していたことによる効果である。また、授業研 究会の時間設定をおおよそ1時間程度にし、テンポよ く進めていったことで、教師の負担感が少なくなり、 継続に繋がった大きな要因であったと考える。 次に、単元計画の立案と子どもの学びの姿からの振 り返りを軸にした点である。 単元計画を立案することにより、その都度の授業ご との授業や個々の授業のねらいではなく、単元のねら いがはっきりし、指導計画の見通しが明確になった。 また、経験年数の浅い教師でも個々の授業のねらいと 見通しを明確にして授業を行うことができた。さらに、 一緒に授業を行う教師も、ねらいと見通しがもてるの で、単元全体を見通して子どもへの働きかけや教師同 士の連携が授業時間ごとではなく、できるようになっ た。これは、教員全員で単元計画の立案することによ り、単元計画における共通理解が先行子としての役割 を果たし、望ましい行動を高める学習環境の整備や望 ましい行動が生じやすいような授業設定ができたから であると考えられる。授業研究会における単元計画の 立案が、各授業におよぼす重要性が言える。 また、子どもの学びの姿からの授業の振り返りにつ いてである。結果にも表れているように、授業改善、 目標や支援の改善ができた。これは、子どもを中心に した分析を行ったことが、主指導や支援を行った教師 を批判しない話し合いに繋がったと考えられる。 以上のような効果が得られた他の要因について考え てみると、教師全員参加の授業であったことにより、 子どもの学びの姿を実際に共有できていたことがあげ られる。ただ、VTRは必須であり、子どもの姿を再 度確認する際に、VTRの視聴によって授業中には気 付けなかった姿を確認することもできたので、この二 つの条件を重ねることができたことが効果に繋がった と言える。 今後の課題としては、今年度の年間計画には位置付 けたが、今後も引き続いて実施されることである。ま た、大きな要因となるのがファシリテーターの役割で ある。ファシリテーターが、授業研究会の目的やそれ に伴う時間の使い方を理解し、できるだけ負担感のな い時間で終わらせ、結論を明確にできる必要がある。 参考文献 鹿 児 島 大 学 教 育 学 部 附 属 特 別 支 援 学 校 研 究 紀 要 2011 特別支援教育のミニマムスタンダード 秋田県総合教 育センター 2012 特別支援教育における授業改善 秋田県総合教育セン ター 2012 園山繁樹 自閉症スペクトラム学会研修 2014 村中智彦 特別支援教育の授業作り 発達障害学会最 新教育レクチャー資料 2015 肥後祥治 「次の授業につながる授業研究」の次にあ るもの 特別新教育研究 7月号 2015