生産プロセスにおけるエアロゾル粒子および固体表 面の帯電状態の制御
著者 福森 幹太
著者別表示 Fukumori Kanta
雑誌名 博士論文要旨Abstract
学位授与番号 13301甲第4324号
学位名 博士(工学)
学位授与年月日 2015‑09‑28
URL http://hdl.handle.net/2297/43844
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止
http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
生産プロセスにおける エアロゾル粒子
および
固体表面の帯電状態の制御
金沢大学大学院自然科学研究科 物質科学専攻 生産プロセス講座
学 籍 番 号 1223132008
氏 名 福 森 幹 太
主 任 指 導 教 員 名 瀬 戸 章 文
提 出 年 月 2015 年 7 月
1.はじめに
気中を浮遊する粒子や固体表面の帯電状態の制御は、極めて高い清浄度を要求される生産プロセスに おけるコンタミネーションや静電気の制御、あるいはエアロゾルの分析・計測などで重要な技術である。図 1 は、
イオンおよび帯電粒子が固体表面に沈着する様子を表したものである。生産プロセス中で何らかの原因(摩 擦や接触・剥離など)によって、多価に帯電した粒子は、静電気力によって容易に移動し、静電気を帯びた固 体表面に沈着する。高分子フィルムやガラスなどの絶縁体表面は、静電気を帯びやすく、静電沈着が生産プ ロセスで頻繁に起こることが知られている。帯電粒子の沈着を抑制するには、正負両極性の大気イオンを用い た表面の荷電中和が有効であり、除電器として生産プロセスにも用いられている。一方で、大気イオンの粒子 表面への付着は、エアロゾル荷電プロセスとして、エアロゾルの計測・分析の前処理として重要なプロセスの 一つである。また、帯電粒子の固体表面への静電沈着は、粒子の化学分析のための捕集技術として広く用い られている。本研究では、これらの粒子、あるいは固体表面の帯電状態の制御を解析し、生産プロセスの清浄 度の向上を行うために、図 1 に示す過程で重要な役割をになう、イオン、粒子および固体表面の 3 つの要素 に着目した。
この 3 者の関係をまとめると次の通りとなる。
① イオンと固体表面の相互作用 : 帯電した固体表面へのイオンの輸送・沈着による静電気の制御(除 電)
② イオンと粒子との相互作用 : 気中浮遊状態の粒子とイオンの衝突によるエアロゾル粒子の帯電状態 の制御(エアロゾル荷電)
③ 帯電粒子の固体表面への沈着 : 帯電粒子の固体表面への静電気力による輸送・沈着(静電沈着)
論文の目的は、上述の3つの要素、すなわち、イオン、粒子、固体表面の相互作用に関わる諸現象を理解 し、生産プロセスにおいて清浄度向上のために重要となる、固体表面および気中浮遊粒子の帯電状態を制 御することである。本論文の構成は以下の通りである。第1章では、本論文の目的と概要について説明した。
第2章では、イオン、粒子、固体表面の相互作用に関する既往の研究をまとめた。第3章では、イオンによる固 体表面の除電について実験的、理論的に検討した。第4章では、イオンによる粒子の荷電について検討した。
第5章では、帯電粒子の固体表面への静電沈着について検討した。最後に、第6章では、第2章から第5章の 結果を踏まえて、総論としてまとめた。論文で具体的に実験的、理論的検討を行った第 3~5 章の関連性を図 2 にまとめた。
図 1 イオン、粒子、固体表面の相互作用
図 2 本論文の検討項目
2.イオンによる固体表面の除電
大気イオンを用いた固体表面の帯電状態の制御を行う装置は、除電器として広く用いられている。本研究
では、マイクロプラズマ素子を用いた新たなイオン発生法について実験的に検討し、得られたイオンの輸送過
程や固体、特に高分子表面への動的な付着過程を評価することで、フィルム製造ラインなどの生産プロセス
で用いられる、除電器の設計指針を得ることを目的とする。
1) イオンの固体表面への沈着現象
除電器(イオナイザー)とは、高分子フィルムや半導体回路などの製造工程における静電気は製品不良の 主要な原因の一つであるため、その対策として、静電気の中和、つまり除電に使用する。除電には針型の放 電極を用いたイオナイザー型除電器が最も広く用いられている。この手法では、針電極の高電圧を印加する ことで、その先端において気体を電離させて空気分子をイオン化し得られたプラス、マイナス両極性のイオン を対象物に輸送、付着させることで、表面の電荷を中和する簡単な構造で、かつ高効率の除電ができることか ら、幅広い製造プロセスで用いられている。しかし、針型電極を用いた装置では、プラスとマイナスイオンの空 間的、あるいは時間的な不均一性、すなわち除電ムラが形成されることが問題となっている。この問題を解決 するために、本研究では、マイクロプラズマ素子を用いたイオナイザーを用いた。
2) マイクロプラズマ素子を用いた除電装置
マイクロプラズマ素子とは、図 3 のようなチップ状のイオン発生素子であり、マイクロプラズマ素子を高分子フ ィルムの除電のために用いる。一枚の電極から交互に正イオンと負イオンを生成する場合、イオンを静電気力 によって遠方まで輸送することは困難である。本研究ではバイアス電圧を印加した図 4 に示す波形の高電圧 を素子に印加し、正イオンと負イオンを交互に生成することを試み、正のバイアスが印加された正弦波を印加 している間は、生成した正イオンはこのバイアス電圧により遠方まで輸送され、逆に負のバイアスを印加してい るときには、負イオンを負の電圧によって輸送する。この周波数
fとし、本研究では
fを
5Hzから
300Hzまで変 えて実験を行った。また、イオン発生に関与する、この正弦波の周波数は
25kHzで一定とした。
図 3 マイクロプラズマ素子の光学顕微鏡写真 図 4 電圧波形 3)実験経路および方法
イオン発生素子を用いた除電効率の測定実験について説明する。除電対象には、幅
30cmのポリエチレン 製フィルムを用い複数のローラーによる循環経路を作製して、実際のフィルム製造工程を模擬した(図 5)。フ ィルムの駆動にはモータを接続した樹脂製のローラーを用いた。ローラーとフィルムが剥離する際に、フィルム は帯電し、その電位をこの表面電位センサー1で計測すると、図 6 に示すように、およそ-9kV で一定となるこ とが分かる。つぎに、マイクロプラズマ素子を用いたイオナイザを設置し、イオンを発生させると、表面電位セン サ2では、図 7 のグラフに示すように、ほぼゼロボルト程度まで除電されることが分かる。しかし、実際には、横 軸で示す1秒間の間に、除電器の正負繰り返し周波数
fと等しい 5Hz で表面電位が振幅している。すなわち、
正イオンと負イオンが交互にフィルム表面に沈着し、フィルム表面に除電ムラを形成していることが分かる。
ここで、本研究では、着目する除電器の設計パラメータとして、正負の繰り返し周波数
fと除電器とフィルム 間の距離
hについて主に検討した。例えば、除電器と対象物の距離を近づけると、より高い周波数でもイオン が付着し、表面がムラなく除電される。しかし、除電器の設置条件の制約などにより、ある程度の距離を離さな ければならない場合、イオンを遠方まで輸送するために周波数を低くする必要があり、この際、このような除電 ムラが形成されることが予想される。除電器の高さ
hと周波数
fの影響を定量的に評価するために、初期帯電 電位
V1と、除電後のこの平均電位
V2より、式(1)によって除電率
ηを定義し、除電ムラは、除電後の振幅
ΔVによって評価する。
η=1-
(1)
図 5 フィルム搬送工程を模擬した除電効率評価装置
図 6 フィルムの表面電位(除電前) 図 7 フィルムの表面電位(除電後)
4)実験結果および考察
図 8 は、フィルム搬送速度
Vfilm=1.05ms-1の時の除電ムラの周波数
fの依存性を示したものである。フィルム からイオナイザーの高さ
hはの■が
2cm と、●が10cmの結果をそれぞれ示す。図 8 の一番左の点は周波数 が
5Hzのときの結果であり、イオナイザーを 2cm まで近接させると、最大で
580Vの除電ムラが見られることが わかる。つぎに正負切り替えの周波数を上げると、除電ムラが小さくなることが分かる。また、●で示す
10cmま で離した結果に着目すると、5Hz でもあまりムラは見られず、300Hz まで増加させると数十 V 程度の振幅まで 抑制されていることが分かる。しかしこの図 8 だけでは、実際に除電されているかどうかは判断できないため、
除電率の結果を図 9 に示す。図 9 の横軸はフィルム搬送速度
Vfilmで、右にいくほど速やかな除電が必要であ る。まず、赤で示すフィルムからのイオナイザー高さ
h=2cm のとき、すべての条件で除電率が
100%近くとなり、フィルムをほぼ完全に除電できることがわかる。しかし、フィルムとの距離を
10cmに設置すると、フィルムの搬 送速度が速くなると除電率が低下した。この傾向は、周波数が高いほど顕著となる。つまり、周波数をあげると フィルムに輸送されるイオン量が低下することが予想される。この2つの結果をまとめると、フィルムとイオナイ ザの距離を
2cmに近づけた場合、除電率
ηはほぼ
100%であるが、除電ムラは周波数を上げても100V程度 残った。また、距離を
10cmとした場合、除電ムラは最小で数十 V 程度まで小さくなったが、特にフィルム速度 が高い場合に十分な除電率を得ることができなかった。そこで、これらの影響を理論的に解析するために、イ オンの輸送と沈着過程のモデリングを行った。
図 8 除電後の表面電位幅(除電ムラ)
に与える周波数の影響
図 9 除電効率に与えるフィルム 搬送速度の影響
Sensor1,V1Time[s]
Film electrical potential[kV] 0 -2 -4 -6 -8
-100 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 V1
0 100 200 300
0 200 400 600
イオナイザとフィルム の距離h[cm]
●10cm
■2cm
Ionizer frequency, f[Hz]
Film electrical potential Difference,∆V[V]
図 10 は、縦軸に除電率、横軸に高さをとったものである。5Hz で顕著にみられた除電ムラは図中に領域で 示してある。左側のフィルム搬送速度
Vfilm=0.58ms
-1、初期帯電が-4kV の結果では、周波数
f=25Hzにすれば、
いずれの距離においても除電率
η、ムラΔVとも最も良好な結果が得られる。一方、図 11 で示す、フィルム搬 送速度
Vfilm=1.05 ms
-1に速めた場合では、イオナイザの設置距離
h=7cm以上では除電率が低下しており、こ のあたりが本実験に用いたイオナイザの限界といえる。例えば、10cm の設置距離
hで高速に移動するフィル ムに対して除電を行う際には、除電率を犠牲にして、ムラが少ない
f=25Hzを用いるか、ある程度の除電ムラ
ΔVはあるものの、より除電率が高い
f=5Hzを採用するかを選択する必要があると言える。
いずれにせよ、本モデルにより、イオナイザの設置距離と物体の移動速度、周波数の関係をある程度予測 することが可能となったため、マイクロプラズマ素子を用いた除電システムの設計に対して、重要な知見を得た と考えられる。
図 10 除電率に及ぼすイオナイザー設置高さの影 響(フィルム搬送速度
Vfilm=0.58ms
-1)
図 11 除電率に及ぼすイオナイザー設置高さの影 響(フィルム搬送速度
Vfilm=1.05ms
-1) 5)まとめ
本章で得られた知見をまとめると、以下の通りとなる。
・マイクロプラズマ素子を用いたイオナイザによる高分子フィルム搬送プロセスでの除電実験を行い、イオナイ ザの設置高さ
hと、イオン発生電圧周波数
fの影響を明らかにした。
・イオンの輸送と沈着をモデル化し、高分子フィルム表面の電位変化を推測し、実験結果を概ね再現すること ができた。
・マイクロプラズマ素子を用いたイオナイザに対して、高い除電率を得られる設置距離
hと周波数
fの指針を得 ることができた。
3.イオンによる粒子の荷電
エアロゾルの荷電とは、気体中に浮遊する微粒子とイオンを混合・衝突させ、粒子に電荷を与える操作であ る。一般にナノ粒子の荷電は困難である。その理由として、①これらのナノ粒子とイオンとの衝突確率が低く、
さらに②帯電粒子が荷電装置の内部に静電沈着による損失が大きいことが挙げられる。そのため高効率・高 スループットのナノ粒子荷電装置の開発が求められている。本研究では、先ほどの章で説明したマイクロプラ ズマ素子を、10nm 以下の気中ナノ粒子の高効率荷電に利用することを試みた。
1)高効率荷電装置
本研究では粒子径
10nm以下のナノ粒子の高効率荷電を行うために、マイクロプラズマ素子を用いたナノ粒
子荷電装置(Surface discharge microplasma charger ; SMAC)を開発した(図 12)。マイクロプラズマ素子は、広
い領域で均一にイオンが生成できるため、気中に粒子が存在すれば、イオンとナノ粒子の衝突によって、高い
効率で粒子が荷電できることが期待できる。微細電極にパルス状の高電圧を印加すると、誘電体表面におい
てマイクロプラズマが形成し、雰囲気ガスがイオン化され、粒子は荷電される。この波形の電圧変化を図 13 に
示す。この
sinx/xの波形は、振幅
V0、周波数
f、バイアス電圧Vbiasの 3 つのパラメータで決定される。振幅
V0はイオンの生成量に関係し、これを増加させれば荷電効率が向上すると考えられる。つぎに、V
biasは直流バイ
アス成分であり、荷電した粒子を引き戻すことにより、粒子の沈着損失の抑制に効果が期待できる。周波数
fはこの両者に関係すると考えられる。本研究では、これらの3つの因子がそれぞれどのように荷電効率に影響
を与えるかを検討し、最も高い荷電効率を得るための条件を求めた。
(a) (b)
図 12 本研究で開発したナノ粒子荷電装置(SMAC)
図 13 バイアス電圧を印加した
sinx/x波形の(a)電圧変化と(b)放電電流 (周波数
f =1.5kHz、振幅Vo=-3.05kV、バイアス電圧 Vbias=850V)2)荷電効率の実験経路および方法
①試験粒子の発生
実験経路を図 14 に示す。本研究では、蒸発/凝縮法によって発生させた銀粒子を試験粒子として用いた。
流量
1.5L/minの窒素(窒素:99%、酸素:0.7%、水:2.05ppm)をキャリアガスとして多分散銀粒子を発生し、放 射線源(
241Am)荷電中和器により荷電し、ナノ微分型電気移動度分析器(nano-DMA : nano-Differential Mobility Analyzer、TSI, MODEL3085)により分級して単分散一価荷電の粒子を得た。さらに、得られた粒子を再び
241Am へ通過させ、平行平板電極(ESP: Electrostatic Precipitator)を通すことにより、単分散無帯電粒子を得た。窒素ガスで希釈し、荷電装置に導入するエアロゾル流量を 2.5L/min、3.5L/min、4.5L/min に調節 した。プラズマ生成用の高電圧電源として、波形発生器(Wavetek 100MHz synthesized Arbitrary Waveform
generator, Model 395) によっ て種 々の波 形を発生 し 、高 電圧 増幅 器(Matsusada Precision Inc, Model
HE0PT-5B20)を用いて増幅した。印加電圧波形は、オシロスコープ(Tektronix Digital Phosphor Oscilloscope, DP04032)により確認した。図 14 実験経路
②荷電効率の測定
荷電効率の測定では、図 14 に示したように2台の凝縮核計数器, Condensation Particle Counter (CPC; TSI,
MODEL 3776)及び電気集塵器(Electrostatic Precipitator, ESP)を用いて、荷電装置前後の帯電及び無帯電粒子の個数濃度を測定した。荷電効率の評価には、前述したとおり、実質的荷電効率(Intrinsic charging
efficiency, ηintr)=(全荷電粒子数/導入粒子数)と、非実質的荷電効率(Extrinsic charging efficiency, η
extr)
=(出口から排出される荷電粒子数/導入粒子数)を用いる。具体的には、図 15 に示すように、まず、荷電
装置に電圧を印加していない場合の入口粒子濃度
n0、出口粒子濃度
n1より、ブラウン拡散による粒子損失を
表す粒子透過率
POFFを、式(2)により求めた。
(2)
次に荷電装置に電圧を印加し、電圧を印加していない場合の粒子個数濃度
n2と
ESP に電圧(±2kV)を印加した場合の粒子個数濃度
n3より、実質的荷電効率
ηintrおよび非実質的荷電効率
ηextrを求める。
実質的荷電効率
ηintrは、入口粒子個数に対する全荷電粒子の割合として定義される。実験的には、η
intrは 以下の式(3)で求めた。
(3)
一方、非実質荷電効率
ηextrは、入口粒子個数に対する、出口での荷電粒子数の比で定義される。実験的 には、SMAC は
ONのままで、出口の
ESPの
ON・OFFによって以下の式(4)で求める。
(4)
先に説明した通り、実質荷電効率
ηintrが高いと、単純に高荷電効率であることを示すが、非実質荷電効率
ηextrが高いと、高効率かつ高スループットであると言える。
図 15 荷電効率の測定方法 3)荷電実験結果および考察
①振幅
V0の荷電効率への影響
振幅
V0による荷電効率の変化を図
16に示す。この図は、粒子径
dp=10 nm、エアロゾル流量Q=3.5 L/min、周波数f=1.5 kHz を一定とし、バイアス電圧Vbias=0V(a)および Vbias=800V(b)の場合について、V0
を-2.5 kV から-3.5 kV まで変化させたときの荷電効率を示している。図
16から分かるように、|V
0|が
2.8 kVになると放電が開始されるため、印加電圧とともに
ηintrは増加し、
ηintr=90%程度まで上昇する。一方、非実質的荷電効率(η
extr)についてみると、実質的荷電効率(ηintr)と同様に、ηextrは|V
0|が2.8 kVになると急激に増加し, |V
0|が 3.0kV付近で最大
18%程度になっている。しかし、それ以上|V0|を増加 すると、急激に低下する。これは、振幅電圧
V0の増加により装置内部の電界が強くなるため、帯電粒 子が捕集されてしまうためであるが、バイアス電圧
Vbias=800 Vを印加すると、非実質的荷電効率
ηextrは
Vbias =0Vの場合より
3倍以上となった。
(a) Vbias=800 V
(b) Vbias=800 V
図16 振幅V
0による荷電効率の変化(粒子径
dp=10nm、周波数f=1.5kHz、バイアス電圧Vbias=(a)0 V, (b) 800 V、エアロゾル流量
Q=3.5L/min)②荷電効率のバイアス電圧による影響
図 17 に、振幅
V0=3.0kV、周波数
f=1.5 kHz、粒子径dp=10nm、エアロゾル流量Q=3.5L/minで一定の条件とし、
バイアス電圧
Vbiasのみ変化させたときの実質、非実質荷電効率(η
intr、η
extr)の変化を求めた結果を示す。まず、
バイアス
V0が 0 では粒子は9割程度荷電しているものの、粒子損失が大きいため、スループット(η
extr)は 10%
以下である。バイアス電圧
V0を徐々に上げると、帯電粒子の沈着が低減され、スループットが上昇した。900V で最も高いスループットが得られ、そのときの非実質荷電効率
ηextrはおよそ
65%であった。これ以上、バイアス電圧を増加させると電界によって粒子を引き戻しすぎるとともに、発生したイオン自体の損失も増大すると考え られ、荷電効率、スループットともに低下した。結果として、バイアス電圧
Vbiasがおよそ
450Vから
900Vの間、
振幅
V0が
2.8kVから
3.2kVの間が、高スループットを達成するために最適な条件であることが分かった。
図 17 バイアス電圧
Vbiasによる荷電効率の変化
粒子径
dp=10nm、振幅V0=3.05kV、エアロゾル流量Q=3.5L/min)④ 荷電効率の流量・粒子径依存性
実質的荷電効率η
intrの流量•粒子径依存性を図18に示す。この図は、振幅V
0=-3.05kV,バイアス電圧
Vbias=850V,周波数 f=1.5 kHzを一定とし、エアロゾル流量Q=2.5L/min~4.5L/minで変化させた場合の結果 である。エアロゾル流量Q=2.5L/min の場合、実質的荷電効率は粒子径d
p=5nmに対し ηintr=48.0%、粒子径 dp=10 nmでηintr=79.3%、エアロゾル流量Q=4.5L/minの場合、粒子径dp=5nmでηintr=38.0%、粒子径dp=10nmで ηintr=74.9%である。 非実質的荷電効率ηextrを図19に示す。エアロゾル流量Qによる非実質的荷電効率η
extrの変 化は小さく、エアロゾル流量Q=2.5L/minの場合、粒子径d
p=5nmでηextr=33.7%、粒子径dp=10 nmでηextr=60.3%、また、エアロゾル流量Q=4.5L/minでは粒子径d
p=5nmで ηextr=30.3%、粒子径dp=10nmでηextr=66.7%と、極めて高い荷電効率が得られた。
図18 エアロゾル流量Qを変化させたときの実質的荷 電効率
ηintr(粒子径
dp=10nm、振幅V0=3.05kV、エアロゾル流量Q=3.5L/min)
図19 エアロゾル流量Qを変化させたときの 非実質 的荷電効率
ηextr(粒子径
dp=10nm、振幅V0=3.05kV、エアロゾル流量Q=3.5L/min) 4)既往研究との比較
本研究で得た非実質的荷電効率
ηextrの結果を既往の研究と比較した。表 1 はこれまで報告されている荷電 装置の粒子径
dp=5nm 及び10nmの粒子に対する非実質的荷電効率
ηextrと本研究の荷電装置の性能を比 較したものである。本研究で開発した荷電装置の最適条件では、粒子径
dp=5nmで
30%、dp=10nmで
65%と、既往の装置よりも高い荷電効率を得られた。
表 1 非実質的荷電効率の比較
Research groups Ion source dp=5nm dp=10nm
Buscher et al.(1994) Corona 2.9% 23%
Chen and Pui(1999) Radioactive 12.0% 18%
Kruis and Fissan(2001) Corona 5.5% 30%
Osone et al.(2008) SMAC 2.0% 30%
This work SMAC 30.7% 65.4%
5)まとめ
第4章で得られた知見をまとめると、以下の通りとなる。
・粒子荷電装置
SMACに印加する電圧波形を最適化して、荷電装置内部に帯電粒子が静電沈着による損失 の低減を可能にした。
・既往研究の報告例よりもスループットの高い荷電効率を達成できた。
このことより、エアロゾル計測・捕集装置の前処理として本荷電装置の応用が期待できる。
4.帯電粒子の固体表面への静電沈着
生産プロセスでの帯電粒子の固体表面への静電沈着はコンタミネーション源となるが、逆に、気中粒子を選 択的に固体表面へ誘導し、特定の部位に沈着することができれば、汚染粒子の捕集技術として有効であるだ けでなく、これらの粒子の化学成分などの分析に活用することができる。本章では、第4章で述べた荷電装置 SMAC を用いて、エアロゾル粒子を高効率に帯電し、さらに市販のエアロゾル捕集装置を改良することで、帯 電粒子を固体表面へ局所的に静電沈着させる手法を開発し、その特性を評価した。
1)粒子サンプリングフォルダーの改良
本研究では低濃度のナノ粒子を特定の局所に堆積させる目的で、堆積ホルダに図 20 のような改良を行った。
堆積ホルダは、絶縁体に囲まれた金属電極で構成されている。ノズルから基板に向けての電界を増強 させるために、金属鋼板を既存の電極上に設置した。基板には、透明高分子フィルムを使用し、この 基板上にナノ粒子の堆積を行った。またステンレス鋼メッシュを
PENフィルム上に配置し、メッシュ の設置に伴う電界の反発によって集中する電場を形成させた。メッシュの開口部の寸法は
97〜510 μm、繊維径
dwは
30~340 μmとし、繊維径と開口部の寸法が異なる組み合わせの
SUSメッシュを用いる
ことで、これらの値を調整した。また、直径
20 mmの穴を有する
SUSカバーは、SUS メッシュの上 に配置した。この
SUSカバーは
SUSメッシュと電気的に接触されており、両者は電気的に接地され ている。電極に最大
3 kVの電圧を印加すると、厚さ
100 μmの高分子フィルム(絶縁体)を介して、
最大
30kV/mm程度の電界が局所的に形成される。
図 20 局所沈着のための堆積ホルダの改良 2)数値シミュレーションによる電界の予測
上記のように構成した基板ホルダにおける電界集束効果を解析するために汎用ソフトウェア(EStat,
Field Precision LLC)を用いた数値シミュレーションにより、堆積ホルダまわりの電界を計算した。シミュレーションは二次元とし、有限要素法によるポアソン方程式を解くことで電界計算を行った(図 21)。電気
力線が正常に金属メッシュ(接地)から偏向電極(3 kV)に向かって
PENフィルム(絶縁体)に浸透してい
る。つまり、 電界の収束効果により、帯電粒子は電気力線上を移動し、金属メッシュの繊維間の距離に比べ
て、非常に微小な領域に堆積することが期待される。また、粒子の収束率は、金属メッシュの目開き幅と
繊維径
dwよって推定することが可能である。
図 21 数値シミュレーションによる電界計算結果 3)実験経路および方法
改良した
NASの性能をポリスチレンラテックス(PSL)標準粒子を用いた実験によって評価した。実 験装置図を図 22 に示す。試験粒子(PSL、粒子径
dp=48、100、300 nm)を噴霧乾燥法によって生成し、241Am