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著者 岸 倫人

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Academic year: 2021

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固体高分子形燃料電池の発電特性向上のためのカソ ードスラリー設計指針の検討

著者 岸 倫人

著者別名 KISHI Michito

その他のタイトル Investigation of the design guide of cathode slurry for the improvement of the performance of polymer electrolyte fuel cell

ページ 1‑98

発行年 2020‑03‑24

学位授与番号 32675甲第485号

学位授与年月日 2020‑03‑24

学位名 博士(理工学)

学位授与機関 法政大学 (Hosei University)

URL http://doi.org/10.15002/00022975

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1.論文内容の要旨

固体高分子形燃料電池(PEFC)を搭載した燃料電池自動車は,運転中に温室効果ガスで ある二酸化炭素を排出しないことから,次世代のモビリティとして有望視されている。し かしながら,コスト面では課題が残っており、燃料電池自動車普及のためにはPEFC製造 コストの低減が必要不可欠である。PEFC のスタックコストは,電極に使用される触媒の 白金が大部分を占めるため,特に白金使用量の多いカソードについて,触媒層微構造を最 適化することで,低白金使用量でも,十分な発電性能を得ることができるようにすること が望まれている。PEFC のカソード触媒層は,白金担持カーボン(Pt/C)とアイオノマよ り構成されている。Pt/C 表面上では,供給される酸素ガスとアノードから送られた電子お よびプロトンとの化学反応が起こり発電する。したがって、発電性能には、触媒層中のPt/C 粒子の充填構造、アイオノマの付着・分布状態が大きく影響する。これら触媒層の微構造 は、触媒層製造工程の基点であるスラリー調製工程において、Pt/C 粒子及びアイオノマが スラリー中でどのように分散しているのかによって決定づけられるため、スラリー中の粒 子分散状態を的確に評価し、制御することが重要となる。既往の研究では、PEFC の原料 を様々に変え電池を作製し発電性能を評価しているが、スラリー中の粒子分散評価は十分 に行われていないものが多く、スラリー調製条件の最適化は試行錯誤によって行われてい るのが現状である。

そこで本研究では,カソード触媒層のスラリーに着目し,適切なスラリー中の粒子分散 評価技術を確立し,様々な条件で調製したスラリーの評価結果と触媒層微構造及び発電性 能の関係を明らかにすることで,白金使用量の低減に向けたカソードスラリーの設計指針 を示すことを目的とした。本論文では、発電性能をI-Vカーブのみではなく、酸素輸送抵抗 とプロトン輸送抵抗を算出して、スラリー中の粒子分散状態と関連付けたところに特徴が ある。その結果見出された新たなスラリー調製方法である2-step法は、白金カーボン粒子

博士学位論文

論文内容の要旨および審査結果の要旨

論文題目 固体高分子形燃料電池の発電特性向上のためのカソードスラリ ー設計指針の検討

氏名 岸 倫人

学位の種類 博士(理工学)

学位番号 第485号

学位授与年月日 2020年3月24日

学位授与の要件 法政大学学位規則第5条第1項第1号該当者(甲)

論文審査委員 主 査 森 隆昌 教授 副 査 山下 明泰 教授 副 査 明石 孝也 教授

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の使用量を変えることなく発電性能を向上させることに成功しており、新規性及び有用性 があるものである。

本論文の構成は以下の通りである。

1章では序論として、本研究全体の背景及び研究目的について説明している。燃料電池性 能向上のためのアプローチは様々ある中で、本研究がカソード電極スラリーの最適設計指 針の確立にあることを述べている。

2章では、触媒層スラリーの評価手法及び電極性能の評価・解析手法をまとめている。Pt/C 粒子の分散状態に関しては、従来の流動性の評価だけでなく、スラリーの濃縮・乾燥過程 を模擬できる沈降試験を取り入れ評価することを提案している。また、電池の発電性能の 評価・解析においても、一般的なI-Vカーブの測定による評価だけでなく、酸素輸送抵抗及 びプロトン輸送抵抗を個別に算出することを述べている。

3章では、カソード電極スラリー中のPt/C粒子及びアイオノマの分散状態を評価すると ともに、カソード電極の酸素輸送抵抗及びプロトン輸送抵抗との関連性を議論している。

Pt/C 粒子の分散状態はスラリーの沈降試験から、アイオノマのサイズは動的光散乱による 粒子径測定から評価し、アイオノマの吸着量を熱重量分析から求めている。その結果、溶 媒の組成を変化させてもPt/C粒子の分散状態はほとんど変化せず、アイオノマの吸着量及 び平均サイズが変化していることを明らかにした。さらに、カソード電極の酸素輸送抵抗 にはアイオノマのサイズが、プロトン輸送抵抗にはアイオノマの吸着量が大きな影響を及 ぼしていることを明らかにした。しかしながら、通常のカソード電極スラリー調製プロセ スでは、水―エタノール混合溶媒中のエタノール比率が増すほど、アイオノマの吸着量は 増加するが、アイオノマサイズも大きくなるため、酸素輸送抵抗とプロトン輸送抵抗を同 時に低減させることは難しいことも示されている。

4章では、3章の結果を踏まえ、酸素輸送抵抗とプロトン輸送抵抗を同時に低減させるこ とができるスラリー調製方法を検討している。まず、アイオノマの吸着量が最大となる水 中でPt/C粒子とアイオノマを混合し、その後、エタノールを加えてアイオノマサイズを小 さくするという2-step 法を提案し、従来の1-step 法によるスラリー調製と比較している。

2-step法では、アイオノマのPt/C粒子への吸着が不可逆であることから、エタノール添加

後もアイオノマは脱着せずに粒子表面にとどまり、高い吸着量を維持することができるこ とを示した。さらに、エタノール添加後はアイオノマサイズが1-step 法の同一組成のスラ リー程度にまで減少していることも明らかとなった。その結果、従来法では難しかった、

酸素輸送抵抗とプロトン輸送抵抗を同時に低減させることに成功した。2-step法はPt/C粒 子の使用量を増やすことなく電池性能を向上させることができるため、PEFC の低コスト 化に貢献できるものと考えられる。

5章では、カソードスラリーを設計する上で重要なパラメータの1つである機械的な分散 処理条件が触媒層微構造に与える影響について,アイオノマサイズ分布,アイオノマの吸 着量及びスラリー充填率といったスラリー特性を評価するとともに,触媒層中におけるア

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イオノマ付着率を定量的に評価し,発電特性との関係を検討している。アイオノマ付着率 は、電極比表面積の測定を、窒素ガス供給下で電極を熱処理する前後で測定し、その差か ら求めており、これは本論文で新たに提案した手法である。その結果,スラリー調製時の 分散処理時間を制御することで,スラリーの組成(I/C)を変えることなく,アイオノマの 付着率をある程度制御できることがわかった。また,アイオノマ付着率は,発電特性であ るプロトン輸送抵抗と特に高い相関関係があり,アイオノマ付着率を増加させることで,

プロトン輸送抵抗を減少させることが可能なことがわかった。

6章では総括として、本論文の結論を述べるとともに、今後の展望を示している。本論文 から得られた結論は以下の通りである。

固体高分子形燃料電池のカソード触媒層の発電性能を向上させるためには,酸素輸送抵 抗とプロトン輸送抵抗の両方を低減させる必要があるが,そのためには,スラリー中のア イオノマのサイズを小さくし,かつアイオノマ吸着量及び触媒層中のアイオノマ付着率を 大きくすることが求められることを明らかにした。それを実現するためのスラリー設計指 針として,新たに提案した2step法によるスラリー調製は,最終的なスラリー組成が同一で あっても,酸素輸送抵抗を増大させることなく,プロトン輸送抵抗のみを低減できること がわかった。さらに,プロトン輸送抵抗を向上させるためには,アイオノマの付着率を向 上させることが重要で,それはスラリーの分散処理時間を制御することで達成できるが,

ある特定の付着率をさかいに,酸素輸送抵抗は極端に増加するため,酸素輸送抵抗を阻害 しない範囲において,分散処理時間を長くし粒子を解砕することで,プロトン輸送抵抗を 低減でき,発電性能を向上させることが可能であると考えられる。

本研究の今後の展望としては、本論文で提案したスラリー評価法及び発電性能の評価・

解析法を応用し、溶媒種がスラリー特性及び発電性能に及ぼす影響を明らかにすること、

アイオノマの吸着量及び付着面積をそれぞれ独立に制御できるスラリー調製方法を明らか にしていくことが述べられている。

2.審査結果の要旨

本論文は、固体高分子形燃料電池の発電性能の向上を目的として、カソード電極スラリ ーの評価を行い、その最適設計指針を明らかにしたものである。カソードの酸素輸送抵抗 の低減のためにはアイオノマサイズを小さくすること、プロトン輸送抵抗の低減のために はアイオノマの吸着量を大きくすることが重要であることを明らかにした。さらに、その 成果を活かし、新たなカソードスラリー調製プロセスとして、まず水中で白金カーボン粒 子とアイオノマを混合し、その後にエタノールを添加するという2-step 法を提案した。ま た、電極中のアイオノマ付着状況を評価する手法を考案し、Pt/C 粒子へのアイオノマ付着 率を増加させることがプロトン輸送抵抗の低減に有効であることを示した。

以上、本論文で提案されているスラリー評価方法、スラリー調製方法及びアイオノマの 付着率測定方法はいずれも簡便な手法であり、固体高分子形燃料電池の実生産プロセスで

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活かすことができるものである。また、本論文で得られた知見は、白金カーボン粒子の使 用量を増やすことなく、スラリー調製方法の変更・改良のみで電池性能を向上させられる 可能性を示しており、固体高分子形燃料電池のコスト低減に大きく貢献できるものと言え る。よって、本審査小委員会は全会一致をもって提出論文が博士(理工学)の学位に値す るという結論に達した。

(報告様式Ⅲ)

参照

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