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栄養管理のゴールをどこに設定するか

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Academic year: 2021

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市立千歳市民病院医誌 2009;5:53−56

53

栄養管理のゴールをどこに設定するか

診療部栄養管理科   酒井 類 五十嵐尚子 鎌倉由佳利 栄養サポートチーム  消化器内科 日下部俊朗

1、はじめに

 栄養療法は各種疾患の基本的治療として、生命維 持のみならず、薬物療法などの治療効果を十分に得 るためにも必須と考えられている。単なる栄養素の 補給だけを目的としたものではなく、患者さんの疾 患治療を最優先としながらも、より生理的な消化管 を使用した栄養補給の重要性が再認識されている

01)

 現在では、入院患者の栄養管理は治療の中でも重 要で必要不可欠とされ、栄養サポートチーム(NST)

の稼働施設が増加の一途をたどっている。その一方 で稼働はしたものの、活動のマンネリ化や様々な問 題を抱える病院が出始めている。その原因としては、

職員の入れ替わり等によりNST活動がなかなか浸透 しないこと、活動や効果が表面化されないことから 院内で評価されず、向上心が保てないことなどが考 えられる。また在院日数の短い急性期の病院では対 象患者が少なく、NSTが介入しても効果が出にくい

と言われている3}

 当院では、この2年間で管理栄養士による病棟訪 問や個別対応を増やし、NSTでも咀噛1・嚥下障害対 策チームの発足やラウンドを行い、栄養管理を強化 してきた。その中で、やはり最終的な栄養改善の評 価を見届けることが出来ない悔しさと、入院患者の 高齢化や疾患の多様化による栄養管理の難しさを 改めて痛感し、『ゴールをどこに設定すべきか』と いう疑問が生まれる。

 そこで、入院患者の栄養状態や介入効果を検証し、

栄養管理のゴールをどのように設定し、今後どのよ うに目標を立てて活動するべきかを検討したので

報告する。

皿、対象と方法

 対象は、主観的包括的栄養評価(以下SGA)を開 始した平成18年11月1日〜平成20年10月31日 の2年間で、入院総数8726名中、15歳以下を除く SGA対象患者は6538名。実際にSGA用紙が登録され た件数は6394件で97.8%だった。(表!)

 SGAの評価項目をファイルメーカーに入力してデ ーターベースを作り、その中で中等度・高度栄養不 良(以下、栄養不良群)と評価された患者がNST対 象症例となる。NSTが介入した症例と対象外となっ た症例について、その理由や背景について検証を行 った。またNSTが介入して栄養管理を行った症例に ついては、その効果について入院時と退院時、退院 後初回外来受診時のBMI、栄養評価の指標となる血 液データで比較検討を行った。

 さらに、平成20年8月1日からSGA用紙に咀幡・

嚥下機能の評価項目を追加し、3ヶ月間で対象とな った833件の評価傾向について報告する。

皿、結果

 SGA用紙が登録された患者(n=6394)の平均年齢 は57.7歳、BM工27.7、平均在院日数は17.1日だっ た。婦人科や整形外科、生活習慣病の患者も含まれ るため、比較的若い平均年齢と高値なBM工になった と思われる。このうち栄養不良群は138名で2.1%

だった(表1)。

 栄養不良群のうちNSTが介入しなかった症例は99 名(71.7%)で、NSTミーティングで検討される前に 退院してしまうケースが一番多く36.4%、次に緩和 ケアへの移行が30.3%であった。その他は、主治医 の判断やミーティングでの初回検討の際に対象外 となるケース、介入時には栄養状態が回復している か亡くなっている症例だった(図1)。

 NSTが介入した症例(NST介入群)は39件(28.3%)

で、消化器科・内科・外科の患者のみであり、その 53.8%が消化器を初めとする悪性腫瘍だった。次い で脱水・低栄養、イレウスなどの消化器疾患となっ ていた(図2)。

 NST介入群(n=39)のBMエ・血液データを入院時 と退院時で比較すると、Hbについてはやや低下を認 めたがBMI・TP・Alb・CHEはほぼ変わりない数値を 示しており、改善も悪化も見られなかった(図3)。

さらに退院後、転院や死亡した患者を除く21名の 初回外来受診時の血液データを入院時と比較する と、TP・Alb・CHEは入院時に比べ有意に改善してい た。Hbは改善傾向を示していた(図4)。

表1;SGA用紙作成件数及び栄養評価の結果

合計 3西 3東 4西 4東

対象数

i件) 6538 1375 2168 1453 1542

登録数詳細

登録数

i件) 6394 1326 2130 1420 1518 登録割合

@(%)

97.8

96.4

98.2 97.7

98.4

良好

i件〉 5500 905 2062 1259 1274 軽度不良

@(件) 749 339

58 131 221

中等度不良

@(件)

123 74 3 1Q 36

高度不良

@(件) 15

2

1

6 6

未評価

i件) 44

8 12 16 8

(2)

54

介入時に栄養状態回復

主治医による評価及び検討後対象外

介入前後に死亡

介入前退院

緩和ケア移行 3

17

13

36 30

(件)0 10    20    30    40

図1.栄養不良群のうちNSTが介入しなかった症例

(n=99)

女性

17名

男性 22名

外科

7名

内科 13名

曲物

4東

8名 4西3東

0名0名

消化器科脱水・低栄

19名

31名

3名  性腫瘍.3名

図2.NST介入群の内訳(n=39)

20.0

BMI

7.0 TP

19.0

e5

18.O

     6P17.2

5、8        5.8 17.0 17.1

5.5

16.0

5.0

15.0

4.5

14.0

4.0

入院時 退院時  (9/dl)

入院時    退院時

Alb CHE

4.0

110.0

100.0

3.5

90.0

3.0

3.0

3.0    80.0

@   70.0 73.8      74.5

2.5 60D

50.0

2.0

40.0

(g/d1)

入院時

      (IU〆L)退院時

入院時  退院時

13.0 Hb

12.0 11.0 10.0 10.1

9.0 9.3

8.0 7.0 6.0

(9/dl)

入院時   退院時

計3.NST介入群の入院時と退院時の血液データ

(n=39)

7.5 7,0 6.5 6.0 5.5 5.0 4,5

   TP  *

凋eβ

(9/dl)入院時 退院時 退院後

4.0

3.5

3.o

2.5

GHE

   林

2,0

Ab

120.0

100.0

800 600

40,0 3.

n.S 74,

95.0

(9/d1)入院時 退院時 退院後

13.0 12.0 11、0 10.0

9.0 8.0 7.0 6.0

,8

Hb    n.S

n.S

9.6

10.3

(IU〆L)入院時退院時退院後  (9/dl)入院時退院時退院後

図4.NST介入群の入院時と退院時、

   退院後の血液データ(n=21)

**ρ<0.001*ρぐ0.001対入院時

中等度不良,

 4名

軽度不良

 4名

4東3名へ

4西2名

3東2名

良好,12名

高度6名

未記入

3名

軽度10名

中等度1名

小児科,1名眼科1名  消化器科 整形外科

2名

循環器2名

 外科0名

4名

内科10名

図5.咀囑・嚥下機能障害ありと    評価された症例(n=20)

 栄養不良の原因の一つに考えられる咀噛・嚥下機 能について検証した。対象となった833件のうち入 院時に機能障害ありと評価されたのは2.4%で、3 西病棟の内科に多い傾向であった。その大部分が呼 吸器疾患の増悪、誤嚥性肺炎による入院患者だった

(図5)。

(3)

】V、考察

 栄養管理、NST活動の効果をどのように評価する のかは、非常に難しい問題である。一般にNST活動 や栄養管理の目的とされているのは、

 ①症例個々に応じた適切な栄養管理法とその実    施

 ② 適切かつ質の高い栄養管理の提供

 ③早期栄養障害の発見と早期栄養療法の開始  ④合併症の予防

 ⑤ 疾患羅馬率・死亡率の減少

 ⑥病院スタッフの栄養管理に対するレベルアッ    プ

 ⑦医療安全管理の確立とリスク回避  ⑧ 在宅治療症例の再入院や重症化の抑制

等がある3)しかし在院日数の短い病院では、これら の目的に添って活動し、その効果を栄養管理による 結果として評価することは困難である。

 今回の調査では、入院時に主観的に栄養不良と評 価されても実際にNST介入対象となる症例は少ない こと、栄養状態の改善が血液データで確認できる前 に退院してしまう症例が多いことがわかった。栄養 介入必要性の有無を血液データの悪化や食事摂取 量のみで判断すること、栄養改善の評価を血液デー タの改善のみにより判断することも困難であり、統 一化した数値設定や目標を掲げて取り組むことは 非現実的であると思われる。

 また、栄養不良と評価される症例には悪性腫瘍の 化学療法や術後の食欲不振者が多いことは予想し ていたが、最近では高齢化により、食事量の減少に よる脱水や低栄養状態で入院する患者さんも増え てきている傾向にあった。高齢者では、食事量が少 ないのにアルブミン値が高値である場合は脱水を、

体重が多い場合には浮腫を疑う。栄養を考える時、

何が問題であり、何を優先して解決し、何を最終目 標とするかを考えることが重要であるゴ終末期癌 患者においては、ほぼ全症例で中等度以上の栄養不 良が見られる。その原因には、

 ①病態に基づくもの  ② 食事摂取量の減少

 ③不適切な栄養管理によるものとに大別される。

①については補正が困難なこともあるが、②③は原 因の追及により改善が期待でき、適切な栄養管理に より輸液ではなく経口摂取による栄養補給やADLや QOLの向上につながる症例もある。終末期において も、病状の段階により栄養管理の目標は異なってく

る8)

 このように同じ栄養不良の評価であっても、最終 的には個々の症例に合わせた栄養管理とゴール設 定を行うことが最も重要であることを再確認した。

 NST介入群の入院時と退院時に栄養状態の変化が 見られなかったことから、悪性腫瘍や治療等の影響 で食欲不振・食事摂取量減少などによる栄養状態の 低下を防ぐことが出来ると示唆された。栄養状態の 改善が望ましいとは思うが、急性期病院において短 期間に栄養状態を悪化させないこと、入院中に悪化 した栄養状態を元の状態に戻して退院させてあげ られることは、栄養サポートの効果の1つにあげら れると考えられる。

 そのことは、NST介入群の退院後初回外来受診時 の血液データが有意に改善していたことにより証

55

明される。元気に退院して住み慣れた場所で親しみ のある食事を楽しんでもらうことが、最終的には心 と体の栄養改善に結びつくと思われる。

V、今後の課題

 NST対象症例の検証と、実際に日々病棟訪問を行 って気が付いたことは、入院の途中に栄養状態の悪 化や摂食機能が低下した患者さんの存在である。管 理栄養士が病棟訪問を積極的に行うようになり、以 前よりもこのような患者さんを見逃さずに個別対 応できるようになってきた。しかし多職種で関わる 必要性を考慮すると、様々な部署の職員がNSTや栄 養管理科と連携出来り、早期栄養介入のシステムを 作る必要性がある。

 近年の高齢化や嗜好の変化に伴い、単純に食事量 の増加や栄養状態の改善のみを目指す栄養管理で は不十分であり、個々に合わせた栄養管理のゴール と個別対応が必要になると思われる。限られたマン パワーの中で、必要とされるより多くの個別対応に 関わるためには、効率良く業務を進められるような 知識とスキルを身につけていかなければならない。

 入院時に栄養不良と評価されても、NST介入対象 外となる緩和ケアの患者さんが多く見られた。現在 ではこの場合、管理栄養士が個別に対応するのみと なっているが、緩和ケアにおける栄養管理の介入方 法や多職種で関わる必要性について検討が必要で はないかと思う。

 咀噛・嚥下障害も入院時だけでなく入院途中に発 生することが多く、疾患によっても症状が異なるた め、抽出・介入方法や食形態基準の検討が必要であ

ると思われる。

VI、おわりに

 シンシア・M・ブリリンスキーは、栄養ケアの最 終目標は患者の栄養ニーズを満たすことであり、達 成されていない目標を明らかにするために目標の 見直しを定期的に行い、ケアを評価して必要に応じ て修正しなければならないと示している。様々な原 因を明らかにして目標を見直すには、多職種による ミーティングが重要である3)

 私自身、患者さんとその家族からQOLの向上と明 るい表情、満足感を感じ取れることをゴールとして いるように、『栄養管理のゴールをどこに設定する か』はそれぞれの病院や様々な職種により、異なる 意見があるのだと思う。

 今回の研究で、入院中の栄養管理の結果は退院時 に明らかにならなくても、退院後の栄養改善とQOL の向上に結びついていたことが証明されたことは、

当院の栄養管理科、NSTにとってゴール設定のため の良い指標が出来たのだと思う。

【参考文献】

1)幣 憲一郎。栄養療法の新しい考え方.病態栄   養ガイドブック.メディカルビュー社.

  2008.80−81

2)藤井 真,一つひとつの症例の積み重ねが組織   の質を上げ患者に利益ある成果を導く.ヘルス   ケアレストラン.2007.2.16−17

3)東口高志.NST活動の効果.志総合医学社.

  全科に必要な栄養管理.2005.164−165

(4)

56

4)足立 香代子.高齢者の栄養管理.Medical

  ASAHI 2008. 28−30

5)東口高志.緩和ケアにおける栄養管理.照林社.

  NST完全ガイド.2005.276−277

6)LKathleen Mahan、Sylvia Escott−Stump.栄   養ケアの過程.食:品・栄養・食事療法事典 日   本語版.2006,496−518

参照

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