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とくに, 選手に対してスポーツ栄養マネジメントを実施 すること 2,10) ということができる スポーツ栄養マネジメントの事例としては,2008 年に 北京で開催されたオリンピックのソフトボール日本女子代表チームがあげられ, 金メダルに輝いたことからスポーツ栄養マネジメントを活用した栄養管理の効果が

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Ⅰ.はじめに

……… 「スポーツ栄養」という言葉が一般的に使われるように なり,スポーツ栄養に関連する言葉の定義も示すことが できるようになった。スポーツ栄養とは,「運動やスポー ツを行うために必要な物質をその身体活動の状況に応じ てタイミングや量を考えて摂取し,これを体内で利用す ること」1),スポーツ栄養学とは,「運動やスポーツに よって身体活動量の多い人に対して必要な栄養学的理 論・知識・スキルを体系化したもの」2)と考えることがで きる。  「スポーツ栄養」を表現する際,スポーツに限定するの ではなく,「運動」を併記した理由には,運動とスポーツ の定義には,共通する部分が多く,また,両者に明確な 違いが表現されていないからである。運動の定義では, 「健康づくりのための運動基準2006」3)において「運動と は,身体活動の一種であり,特に体力(競技に関連する 体力と健康に関連する体力を含む)を維持・増進させる ために行う計画的・組織的で継続性のあるものである。」 と示している。また,「スポーツ」については,「スポー ツ基本法(平成23年法律第78号)」の前文に「スポーツ は,世界共通の人類の文化である。スポーツは,心身の 健全な発達,健康及び体力の保持増進,精神的な充足感 の獲得,自律心その他の精神の涵(かん)養等のために 個人又は集団で行われる運動競技その他の身体活動であ り,今日,国民が生涯にわたり心身ともに健康で文化的 な生活を営む上で不可欠のものとなっている。」と定義し ている。スポーツ栄養を表現する際には,運動とスポー ツのどちらかに限定することができない,あるいは,限 定する必要がないと判断し,運動とスポーツを併記する こととした。  臨床栄養現場では,栄養ケア・マネジメント4)の理論 が導入され,それにより,医療や介護の分野における栄 養管理のシステムが確立された。スポーツや健康の維 持・増進の現場では,栄養・食事に関する専門的なサ ポートを担うための高い実践能力を有する人材を養成す ることを目的に2008年より財団法人 日本体育協会(現  公益財団法人 日本体育協会)と社団法人 日本栄養士 会(現 公益社団法人 日本栄養士会)の共同認定の資 格である公認スポーツ栄養士の養成を開始した。公認ス ポーツ栄養士が,アスリートの競技力向上や健康の維 持・増進を目的としている対象者に,より効果的な栄養 管理を実施するために栄養管理のシステム化が必要と なった。  栄養ケア・マネジメントのシステム5)に準じた栄養管 理をスポーツや健康の維持・増進の現場で実施した結果, そのままでは円滑な活用ができないことがわかった。そ こで,「スポーツ栄養マネジメント」を構築した。  スポーツ栄養マネジメントとは,「運動やスポーツに よって身体活動量の多い人に対し,スポーツ栄養学を活 用し,栄養補給や食生活など食にかかわるすべてについ てマネジメントすること」2,10),また,栄養サポートとは, 栄養学雑誌 Vol.70 No.5 275~282(2012)

Copyright© THE JAPANESE SOCIETY OF NUTRITION AND DIETETICS

総  説

スポーツ栄養マネジメントの構築

鈴木志保子

神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科  ………  スポーツや健康の維持・増進の現場における栄養管理は,栄養ケア・マネジメントと比較し,マネジメントの目的,期間,対象者, 行動計画の有無,評価項目が異なることから,栄養ケア・マネジメントの流れのとおりに実施することができない。そこで,スポーツ 栄養マネジメントを構築した。  スポーツ栄養マネジメントは,目的と期間を定め,スクリーニングにより対象者を抽出し,対象者への個人サポート(個人マネジメ ント)を実施し,対象者全員の個人サポートの成果とともにマネジメントの評価を行うという流れである。個人サポートは,アセスメ ント,個人目標の設定,サポート計画立案,サポート計画の実施,モニタリング,個人評価の流れとなる。  スポーツ栄養マネジメントは,2008年に北京で開催されたオリンピックにおいてソフトボール日本女子代表チームが金メダルに輝い たことから,質の高い効果的な栄養管理の実施が可能であることが評価され,スポーツや健康の維持・増進の現場における栄養管理シ ステムとして導入されるようになった。 栄養学雑誌,Vol.70 No.5 2752 282(2012) キーワード: スポーツ栄養マネジメント,栄養管理,栄養サポート 本論文は,平成21年度(第56回日本栄養改善学会学術総会)学会賞受賞対象論文である。 連絡先:鈴木志保子 〒238-8522 神奈川県横須賀市平成町1丁目10番1 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科       電話 046-828-2658 FAX 046-828-2659 E-mail suzuki-shi@kuhs.ac.jp

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 スポーツ栄養マネジメントの事例としては,2008年に 北京で開催されたオリンピックのソフトボール日本女子 代表チームがあげられ,金メダルに輝いたことからス ポーツ栄養マネジメントを活用した栄養管理の効果が評 価された。現在では,公認スポーツ栄養士の栄養管理シ ステムとしてスポーツ栄養マネジメントが活用されるま でになった。

Ⅱ.スポーツ栄養マネジメントと栄養ケア・マネジ

メントの相違点

………  スポーツ栄養マネジメントを開発するに至った理由は, 栄養ケア・マネジメントとの相違点が明らかとなり,改 変なしに活用することが難しかったからである。相違点 は,主に目的,期間,対象者の種別,スクリーニング, 行動計画の有無,評価が挙げられる。 1.目   的  栄養ケア・マネジメントの目的は,低栄養などの主に マネジメントもあるが実施数は少なく,健康の維持と疾 病の予防,あるいは,体力・競技力向上(健康の増進を 含む)を目的としたマネジメントが多い。スポーツ栄養 マネジメントの目的分類別の例を表1に示した。 2.期   間  リスクマネジメントの少ないスポーツ栄養マネジメン トは,栄養ケア・マネジメントに比べマネジメント期間 が半年や年単位など長い傾向にあり,入部してから引退 するまでなど継続的に実施されることも多い。表2は, スポーツ栄養マネジメントの目的別期間例である。 3.対象者の種別  スポーツ栄養の対象者は,運動やスポーツによって身 体活動量が増加した人であり,具体的には,健康の維 持・増進のため運動をしている人,学校などの教育機関 において体育の授業がある児童・生徒,メタボリックシ ンドロームなどの疾病の改善や予防のために運動を実施 している人,競技選手などがあげられる。  リスクマネジメントを目的とする栄養ケア・マネジメ 276 栄養学雑誌 2 表1 スポーツ栄養マネジメントの目的分類別の目的例 目 的 例 目 的 分 類 術後の回復 貧血の改善 疲労骨折の回復 リスクマネジメント 食の自己管理能力の習得 熱中症の予防 良好なコンディションの維持 健康の維持と疾病の予防のためのマネジメント 階級をあげたい選手 階級を下げたい選手 試合期の食に関するマネジメント トレーニング増加に伴う食管理 体力・競技力向上(健康の増進含む)のための マネジメント 表2 スポーツ栄養マネジメントの目的別の期間例 期間例 目 的 例 目 的 分 類 1~3ヵ月 術後の回復 リスクマネジメント 3~6ヵ月 貧血の改善 3~6ヵ月 疲労骨折の回復 1~4年 食の自己管理能力の習得 身体活動が増加した状況で健康の維持 と疾病の予防 3ヵ月~1年 熱中症の予防 1~4年 良好なコンディションの維持 1~3ヵ月 階級をあげたい選手 体力・競技力向上(健康の増進含む) 1~3ヵ月 階級を下げたい選手 1~10 ヵ月 試合期の食に関するマネジメント 1ヵ月 トレーング増加に伴う食管理

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Vol.70 No.5 ントの対象者に比べ,スポーツ栄養マネジメントの対象 者は,目的も多岐にわたる上に年齢層も子供から高齢者 までと幅が広く,対象者数も少人数からチーム全員など さまざまである(表3)。 4.スクリーニング  スクリーニングは,栄養ケア・マネジメントと同様に 目的によりスクリーニング項目と条件を設定して実施す る。リスクマネジメントが目的でない場合には,スク リーニング項目と条件が「チーム全員」「レギュラー選 手」「ダイエット教室参加者全員」などがあり,人数も少 人数から多人数まで幅広い。 5.行動計画の有無  栄養ケア・マネジメントでは,対象者が入院患者や介 護認定者であり,対象者自身が,行動を決定して動くこ とができない場合が多く,行動計画の立案が必要となら ないことも多い。しかし,スポーツ栄養マネジメントの 対象者は,対象者自身が行動を決定して実行することか ら個人への栄養サポートにおけるサポート計画を立てる 際,行動計画の立案が必要となる。  行動計画の実施状況が,個人へのサポートの結果に大 きく影響するため,スポーツ栄養マネジメントの流れに 行動計画を明記することは必須項目となった。 6.評 価 項 目  栄養ケア・マネジメントと同様の評価手順と項目で評 価を実施することになるが,表4に挙げた項目が特徴的 な評価項目であるといえる。また,費用対効果に関して は,スポーツの現場では算出が難しい。  スポーツ栄養学を活用した指導は,栄養教育(主にレ クチャー)面での評価が中心であったが,スポーツ栄養 マネジメントを導入することにより,栄養管理としての 評価が得られるようになった。スポーツ栄養マネジメン トを活用した栄養管理を実施することで得られた評価は, 成果の確認だけではなく,問題点や課題を抽出すること もでき,次のマネジメントの質の向上に貢献することか ら評価の質を高めることは重要である。

Ⅲ.スポーツ栄養マネジメントの流れ

………  スポーツ栄養マネジメントは,栄養ケア・マネジメン トとの相違点を明確にし,スポーツや健康の維持・増進 の現場で活用できる流れに改変すると同時に,現場の特 徴を反映させたマネジメントであるといえる。  スポーツ栄養マネジメントは,目的と期間を定め,ス クリーニングにより対象者を抽出し,対象者に個人サ ポート(個人マネジメント)を実施し,対象者全員の個 人サポートの結果をもとにマネジメントの評価をすると いう流れで行う(図1の左)。  スポーツ栄養マネジメントの流れ図とは別に個人サ ポートの流れ(図1の右)を詳しく示した理由は,ス ポーツ栄養マネジメントの結果に栄養教育および行動計 画が強く影響するため,集団の中での位置づけとして考 えるのではなく,個人サポートの質の確保と充実を進め なくてはならないからである。  対象者に対する個人サポートは,図1の右側に示すよ うに,アセスメント,個人目標の設定,サポート計画立 案,計画の実施,モニタリング,個人評価の流れとなる。 1.アセスメント  アセスメントは,目的を達成するために現状を把握し, スポーツ栄養マネジメントの構築 277 3 表3 スポーツ栄養マネジメントと栄養ケア・マネジメントにおける対象 者の相違点 栄養ケア・マネジメント スポーツ栄養マネジメント ・入院患者 ・介護認定者 など ・競技選手 ・運動習慣のある人 ・特定保健指導の対象者 ・小・中・高校生 ・健康増進教室の参加者 など 表4 スポーツ栄養マネジメントと栄養ケア・マネジメントにおける評価 ポイント例 栄養ケア・マネジメント スポーツ栄養マネジメント ・在院日数などの病院管理データ ・費用対効果       など ・自己管理能力の向上状態 ・パフォーマンスの状況 ・練習の継続性 ・故障者の発現頻度 ・競技成績       など

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適確に課題を抽出するために実施する。また,マネジメ ントの評価を明確に行うためにスクリーニングされた対 象者には,同一項目と条件で実施する。  目的および対象者の特性に応じた項目とその方法・条 件を選択して実施し,アセスメントの結果も対象者に合 わせた基準で評価を行う。スポーツ栄養マネジメントに おけるアセスメントの特徴は,競技歴や故障歴などの調 査,身体測定や身体活動量について詳細に測定・調査を 実施することである。必須項目は,トレーニングや練習 の目標と計画を把握することである。 2.個人目標の設定  個人目標は,目的を達成するために,アセスメント結 果から個人の具体的な目標を設定することである。マネ ジメント期間が長期の場合には,短期目標,中期目標, 長期目標を設けることもできる。たとえば,マネジメン トの目的が,増量の場合には,対象者個人として,マネ ジメント期間に,どのくらいの増量を行うかを体重,体 脂肪率,除脂肪体重などの数値を用いて具体的に示すこ とである。 3.サポート計画の立案  サポート計画は,個人目標を達成するためにいつ,ど のように,どのくらい行うかという行動計画と,行動計 画の根拠となる栄養補給計画,行動計画を実行するため に必要な知識とスキルを教育する栄養教育計画,行動計 画を実行するために必要なスタッフ連携で構成される。 1)栄養補給  栄養補給の計画は,個人目標を達成するために,エネ ルギーや栄養素の摂取量だけではなく,食事の構成,食 の形態,食事・補食・間食の摂取タイミング,サプリメ ント摂取などの食に関する計画のすべてが含まれる。栄 養補給計画が,行動計画の根拠となるため,できる限り 数値化して示すことにより,効果的な行動計画の立案や 個人評価の精度が上がる。  栄養補給量を決定するために以下の点について考慮す る。 ①集団として見た場合には,年齢,性別,身体組成, 競技種目,ポジションなどによって,栄養補給量は 違う。 ②個人では,トレーニング目的,練習内容,休養日, 練習環境,天候や気候,体調,身体組成などによっ て,栄養補給量は変化する。 ③人はその日の身体活動量を予測することはできるが, 予測したとおりに動くことはできない。さらに,身 体活動量に合わせて食べることもできない。 ④②と③より,栄養補給量が適切であったかは,結果 としてしか評価ができない。たとえば,スポーツの 現場における極端な例を示すと,屋外でのランニン グを中心とした練習を予定していたが,練習中に雷 が発生し,体育館での練習となった。予定していた ランニングを中心とした練習はできなかったが,体 育館では,強度が高めのウエイトトレーニング中心 278 栄養学雑誌 4

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Vol.70 No.5 の練習を実施した。栄養補給量として適切であった かは,練習後の身体状況から確認し,評価すること になる。  また,日々の身体活動量に合わせて事前に栄養補給量 を数値として算出することは,不可能である。そこで, 栄養補給計画の精度を上げるだけではなく,適切な栄養 補給のためには,身体活動量の予測値の立て方と食べ方 を対象者自身が理解し,自分でコントロールできるよう に実践的な教育をすることが必要である。 2)行動計画  行動計画は,目標を達成するために栄養補給計画を根 拠に,対象者自身が積極的に遂行できる計画を対象者と ともに立案する。行動計画の内容の理解や必要性,環境 の変化によるアレンジの方法,効果の評価など,予め, 対象者に教育(栄養教育)することは,実施率が高く効 果的な行動計画の立案と個人評価の達成に影響するため に重要となる。 3)栄養教育  スポーツ栄養マネジメントは,行動計画に対しての意 思決定と実行を対象者本人が行うため,行動計画の実行 状況が個人評価に大きく影響することから,栄養教育の 計画とその実施が重要な要素となる。教育は,行動計画 の必要性(アセスメント結果の理解),内容(方法やスキ ルを含む),実行によって得られる成果とその確認方法, 実行のための協力体制の必要性,実行に伴う費用などの 項目について行うことが多い。そこで,栄養教育の位置 づけとして,行動計画を高い実行力をもって進めていく ための最大の手段であるといえる。また,教育の時期や 方法については対象者の状況に合わせて設定する。さら に,栄養教育は対象者に対してのみ行えばよいものでは なく,スタッフに対しても実施するとよい。  栄養教育は,ジュニアアスリート,スポーツ愛好家, 高齢者などの対象者別や,スタッフ別に教育の内容や時 期などを考慮して実施する6~9)。 4)スタッフ連携  スタッフとは,対象者を中心に関わりのある人々を指 す。その中には,保護者などの家族も含まれる。スタッ フと連携することは,サポート計画を円滑に進め,個人 目標を達成するためには不可欠であると考える。連携す る際には,対象者と同様の教育を行ったり,協力するに 当たり必要な知識やスキルを獲得するための教育を行っ たりする。 4.サポート計画の実施  サポート計画の実施期間中は,行動計画の実施状況や 体重などの変化を記録し,定期的に確認しながら進めて いく。見直しや変更が必要なケースとしては,行動計画 の実行性が低い計画,考えていたような効果が認められ ない計画,個人目標が達成できないことが明確になった 場合,トレーニング計画が変更された場合がある。 5.モニタリング  モニタリングは,アセスメントで実施した項目を同一 条件で実施する。アセスメント項目に加え,実施の状況 や目標の達成に関する意識などの調査も行い,マネジメ ントの実施期間中の現状を把握する。 6.個 人 評 価  個人評価は,個人目標の達成状況,計画の実施状況, モニタリングの結果,トレーニング計画の実施状況,試 合や練習などの実践的動きや競技成績,メンタル面,ス タッフからの対象者に対する評価などを総合的に評価す る。また,今後のサポートに関しての問題点や課題の抽 出も行う。

Ⅳ.スポーツ栄養マネジメントの実際

………  ソフトボール日本女子代表チームに対して北京オリン ピックの2年前からオリンピック終了までの期間に実施 したスポーツ栄養マネジメントの実例を示す。  チームの目的は,「北京オリンピックで金メダルを獲得 すること」であった。スポーツの現場における競技力向 上の目的を達成するためのマネジメントの構造は,図2 に示すように,さまざまなマネジメントが同時に進行す ることにより,成り立っており,スポーツ栄養マネジメ ントは,さまざまなマネジメントの1つとして位置づけ スポーツ栄養マネジメントの構築 279 5 図2 スポーツ現場のマネジメントの構造例

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は,2年間のマネジメント期間を1年目,2年目,オリ ンピック期間中の3期に分けてそれぞれに目的を設定し た。 1年目:食事・栄養の基礎的な知識とスキルを身に 付け自己管理する 2年目:勝つための身体に作り上げ,試合時の食事・ 栄養管理を完成させる オリンピック期間中:暑熱環境下での長期間の試合 を良好なコンディションで戦い続ける(チームで の目的は「バテない」であった。)  それぞれの目的に合わせたスポーツ栄養マネジメント を組み立て,実行した。対象者は,1年目強化選手とし て選出された30名,2年目には強化選手の中から代表選 手として選出された15名であった。日本代表選手は,実 業団や大学などのチームに所属する選手であり,普段は 各チームで生活,練習をしている。  今回のマネジメントではチームの目的を達成すること ができた。この事例は,さらなる質の向上のためにマネ ジメントの構造や課程の評価から問題や課題の抽出を行 い,スポーツ栄養マネジメントの構築に貢献した。 1)1年目のスポーツ栄養マネジメントの特徴  北京オリンピックのために召集された代表選手が,全 員集合する機会は,代表選手強化合宿や代表チームの試 合時と限られている。そのため,アセスメントや計画の 実施も限られた期間で行うことになった。  合宿期間中に栄養教育計画を実施し,知識の教授とそ の知識を実践して身に付けることを繰り返した。しか し,1年目の目的は,合宿時だけでは達成できないため, 選手が所属するチームにおいても同様のマネジメントを 継続できるように,各チームのトレーナーなどの関係者 に対して,スポーツ栄養マネジメントの理解を促し,栄 養教育とその実践方法の研修会を開催した。その結果, 所属チームにおいても,マネジメントを継続して実施す ることができ,個人目標の達成に結び付いた。  栄養教育では,身体特性を選手自身が捉え,日々,変 動する身体活動量から栄養補給の内容とその量を判断す るための知識とスキルの習得を目的とした。具体的には, 栄養素,エネルギー代謝,消化と吸収,食品,食事構成, 各組織における栄養素の利用,身体活動量の把握,体重 などの身体計測データの見方,サプリメントの利用法, 水分補給法,貧血などの選手に多い疾病の予防法,身体 活動量が増加したときの栄養素などの必要量の考え方, 試合前・中・後の食生活,減量や筋肉増強時の食事の考 る合宿時にビュッフェスタイルでのメニューの選択から 食事構成,日々の体重や体脂肪率の測定データから食事 量の判断,練習前後の体重変化から環境を考慮した水分 補給法などについて実施した。また,国立スポーツ科学 センターには,レストランで食べたものを栄養価として 確認できるシステムが導入されており,選手やスタッフ は,教育の効果と自己管理能力の向上の状況をそのデー タによって確認した。 2)2年目のスポーツ栄養マネジメントの特徴  2年目からは,1年目のマネジメントを継続した状態 で「勝つための身体に作り上げ,試合時の食事・栄養管 理を完成させる」を目的としたマネジメントを実施した。 マネジメントの特徴としては,栄養教育において個人的 な教育が増え,行動計画を確実に実行し,個人目標を達 成させた。さらに,夏場の北京オリンピック対策につい て,全選手に教育を行い,オリンピックの前哨戦ともい える7月のカナダカップにおいて,実践教育とシミュ レーションを実施し,万全の状態で北京オリンピックを 迎えた。 3)オリンピック期間中のスポーツ栄養マネジメント  チーム目的を「バテない」とした理由は,真夏の北京 で行われる試合であり,アメリカの選手に比べ,体格が 小さい日本の選手が勝つために,長時間に及ぶ試合が組 まれたとしてもコンディションを良好に維持することが 必須条件となるからである。  北京に入ってからは,今までの知識やスキルを活用し た生活を行い,試合日程や個人の身体状況に合わせた栄 養補給計画を実行することにより,試合を確実にこなし た。  スポーツ栄養マネジメントには,食にかかわるすべて についての管理が含まれるため,コンディション維持に 影響を与える可能性がある部分をトレーナーとともに管 理した。具体的には,うがい・手洗いの励行のほか,睡 眠,室温の管理などがあげられる。 「オリンピックには魔物が棲んでいる」というが,筆者 が考える魔物は,消化・吸収である。4年に1度の開催 であるオリンピックの舞台は,今までの競技人生で経験 したことのない緊張に見舞われることが多い。経験した ことがないということは,選手本人もスタッフもどのよ うな変化が起こるかがわからないということになる。そ こで,緊張の度合いを予測し,その予測した緊張が消 化・吸収に影響を及ぼす部分と状況を推測し,その現象 をカバーするための処置を施さなくてはならない。すな 280 栄養学雑誌 6

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Vol.70 No.5 わち,緊張のために消化・吸収が抑制された場合であっ ても,必要な栄養素の供給を行い,試合でのパフォーマ ンスを確保することである。そのために,サプリメント を活用し,必要量を確保するための補給を行った。サプ リメントを利用することによってコミュニケーションや 楽しみの場としての食事の役割が希薄となり,食事から 得られる幸福感や満足感が減じることがないように努め た。

Ⅴ.おわりに

………  スポーツ栄養マネジメントが,公認スポーツ栄養士が 行う栄養管理のシステムとして活用が開始されて4年目 となった。現在,事例を収集し,スポーツ栄養マネジメ ントの効果について検証を行う段階に来た。事例の収 集・分析は,より高い質のスポーツ栄養マネジメントを 提供するために必須であり,スポーツ栄養マネジメント の効果をエビデンスとして蓄積するうえで重要であると 考える。  しかし,健康の維持・増進とスポーツの現場において, スポーツ栄養マネジメントの効果をエビデンスとして蓄 積するための壁が存在する。  健康の維持・増進の現場では,リスクマネジメントで ある場合には,そのリスクの改善が個人評価の中心とな り,マネジメントの評価に関しても成果を確定したうえ での考察が可能となる。しかし,健康の維持・増進を目 的として実施するスポーツ栄養マネジメントは,評価基 準の設定が難しく,成果を求める,あるいは,表現する ことが容易にできないという現状がある。また,アセス メント項目の選定にも限界がある。  スポーツ現場における壁は,マネジメントの成果が勝 敗に影響することにある。事例を発表することにより, 選手やスタッフは,競技力向上の要素の1つがライバル に流出すると考えるからだ。そのため,チームが栄養サ ポートを受けていること自体が公表されていない場合も ある。また,競技力の高いチームであれば,チーム名を 公表せずに事例を発表した場合であってもチーム名がわ かってしまうことも多々あるため,個人情報の保護の観 点からも事例の発表には慎重にならざるを得ない。さら に,日本の代表チームが活躍する陰に,スポーツ栄養マ ネジメントを活用した栄養管理があった場合には,その 詳しい内容を発表することにより,情報が他国にわたる ことにつながり,国益を損じる可能性も出てくる。  今後の課題は,エビデンスを蓄積していくことである と考える。エビデンスの蓄積とは,スポーツ栄養マネジ メントの事例からその成果を目的別や対象者別に分析し, アセスメントの方法論とその評価法,個人サポートおよ びマネジメントの評価法などを確立し,基準やガイドラ インなどを作成していくことであると考えている。  スポーツ栄養マネジメントの普及が,健康の維持・増 進,競技力の向上に貢献できると確信することから,エ ビデンスの蓄積に尽力したい。

文  献

……… 1) 鈴木志保子:スポーツ栄養マネジメントとは,健康づ くりと競技力向上のためのスポーツ栄養マネジメント, pp.11–22(2011)日本医療企画,東京 2) 鈴木志保子:スポーツ栄養マネジメントの確立と実際, 日本栄養士会雑誌,52,4–8(2009) 3) 厚生労働省:健康づくりのための運動基準2006~身体 活動・運動・体力~報告書,p.14(2006)厚生労働省, 東京 4) 松田 朗:平成8年度厚生省老人保健事業推進等補助 金研究「高齢者の栄養管理サービスに関する研究」報告 書,pp.17–20(1997)厚生労働省,東京 5) 松田 朗:平成9年度厚生省老人保健事業推進等補助 金研究「高齢者の栄養管理サービスに関する研究」報告 書,pp.11–15(1998)厚生労働省,東京 6) 樋口 満,石田裕美,甲田道子,他:栄養教育,新版 コンディショニングのためのスポーツ栄養学,pp.165– 175(2009)市村出版,東京 7) 樋口 満,こばたてるみ,木村典代,他:小・中学生 のスポーツ栄養ガイド,pp.11–22(2010)女子栄養大学 出版,東京 8) 中村丁次,外山健二,松原 薫,他:スポーツ分野に おける栄養教育,管理栄養士講座 栄養教育論Ⅱ-ライ フステージ別・疾病別栄養教育,pp.117–184(2009)建 帛社,東京 9) 鈴木志保子:特集/スポーツ栄養,対象別スポーツ栄 養指導,栄養日本,44,10–11(2001) 10) 鈴木志保子:スポーツ栄養マネジメントとは,体育の 科学,60,123–128(2010) (受理:平成24年9月26日) スポーツ栄養マネジメントの構築 281 7

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Management

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Faculty ofHealth and SocialServices,KanagawaUniversity ofHuman Services

………

ABSTRACT

 In the field ofsportsand health promotion,nutrition managementcannotbe conducted using the same approach asthose already established fornutrition care and managementin otherfields. Thisisattribut -able to differencesbetween the 2 typesofmanagementwith respectto the purpose ofmanagement,the period ofmanagement,subjects,the need foran action plan,and the evaluation items. Therefore,anew approach wasdevised forsportsnutrition management. The processinvolved in thismanagementwasas follows:First,the purpose and period ofmanagementwere determined;subsequently,the subjectswere chosen viascreening,and personalsupport(personalmanagement)wasensured foreach subject. After personalsupportwasachieved,the nutrition managementwasevaluated,including the resultspertaining to personalsupportforallsubjects. Personalsupportwasensured in the following order:assessment,setting ofpersonalaims,drafting asupportplan,enforcementofthe supportplan,monitoring,and personal evaluation. The analysisshowed thathigh-quality effective nutritionalmanagementcould be achieved in the case ofsportsnutrition managementbecause the Japanese women’snationalsoftballteam won the gold medalatthe 2008 OlympicsGamesin Beijing. Therefore,sportsnutrition managementwasintroduced as anutrition managementsystem in the field ofsportsand health promotion in Japan.

Jpn.J.Nutr.Diet.,70 (5)275~282 (2012)

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