博士学位論文審査の要旨
【学位論文審査の要旨】
本研究は、訪問看護師による精神障害者への家族の不適切なケアの状態を評価するため の尺度を開発し、その信頼性、妥当性を検証した研究である。
研究の概要として、まず Walker & Avant の概念分析アプローチ法を用いて「不適切なケ ア」の概念分析を行った。また合わせて訪問看護師に対する不適切なケア状況 1 事例を想 起し回答してもらう質問紙調査を行った。それらの結果に基づき、構成概念・尺度項目の 試案を作成し、現場及び研究者等に内容妥当性の検討を行い、6 因子、58 項目の暫定試案 を作成した。予備調査では 31 施設 80 名の回答から、項目分析および探索的因子分析を行 い、5 因子構造が妥当であることを確認し、尺度試案 41 項目を作成した。本調査では一般 社団法人全国訪問看護事業協会に登録している全国の訪問看護ステ-ションで働く精神科 訪問看護師を対象に無記名自記式の調査票を用いた郵送調査を実施し、回答のあった 315 名を対象に分析を行っている。項目分析および探索的因子分析の結果、【家族の態度】(8 項 目)、【家族の状況】(9 項目)、【家族の孤立】(6 項目)、【利用者の防衛反応】(5 項目)、【言 語と生活の機能不全】(4 項目)の 5 因子 32 項目を抽出した。信頼性は Cronbach’α係数 を算出し尺度全体 0.89、下位尺度 0.70~0.90 の結果から検証した。基準関連妥当性は、本 尺度の総得点と「虐待につながるリスク度」との間の関連分析、構成概念妥当性は各因子 得点と「日本語版簡易精神症状評価尺度(以下、BPRS)」、「利用者の日常生活能力」、「家族 の健康課題に対する生活力量アセスメント指標」との間の関連分析から示している。
さらに確認的因子分析として GFI =0.83、CFI=0.86、AGFI =0.79、RMSEA=0.07 を算出し、
因子構造モデルの適合性を示した。これらの結果を踏まえ、本尺度は尺度全体として、ま た下位尺度としての適用が可能であると結論づけている。なお本尺度との関連要因につい ては、「虐待研修の受講の有無」、「不適切なケア状況の経験数の多さ」において、尺度得点 が有意に高い結果を示した。
日本の精神医療体制が入院から在宅へとシフトされ、在宅で療養する精神障害者が増加 してくる中で、その約 8 割は家族と同居しケアを受けている。そうした精神障害者と家族 の間において様々な問題や課題が山積しているとの指摘はあるものの、家族によるケアの 状況を評価する尺度はみられず、まして虐待に至る可能性がある不適切なケアについては 概念も明確に定義されていない。よってこうした「不適切なケア」について論じ、定量化 した本研究の新規性は高いと言える。また本尺度を経時的に用いて、不適切なケアの推移 をアセスメントすることは、虐待防止に向けたケアを提供していく上で大きな手がかりと なり、こうした点において臨床的意義も極めて高いと考える。
論文審査においては、まず構成概念妥当性の尺度として用いた BPRS を用いることの研究 者の考えについて問われた。これについて妥当性の検証項目が利用者の精神症状であり、
BPRS の視点で欠落する「リカバリー」や「ストレングス・モデル」等、患者の持つ力を伸
博士学位論文審査の要旨
ばす記述に関しては考察で論じたとの回答があった。また概念分析で先行要件と属性を構 成概念とした理由について問われ、本尺度の意義は虐待を予防するためであり、そのリス クファクターの可能性がある先行要件は、尺度に入れ込む必要があったとの回答があった。
その他、独居とグループホームにおける家族ケアの考え方、患者と家族の力量の視点、ネ ガティブな質問項目を問う本尺度を今後どのように現場に広げ活用してもらうか、等が問 われた。これらに対する申請者の回答は、概ね妥当と判断できる内容であった。また家族 力動についてはどのように考えているのか、またそれは直線的に解釈されるものかについ て問われたが、これについては循環の因果律でさらに検討していくことの必要性を認め、
さらに本尺度で十分に測定することのできない社会的相互作用については、今後の課題と して取り組んでいく予定である等、研究の限界を踏まえた今後の課題についても真摯に受 け止め、更なる分析についても言及された。
また公聴会では、概念分析のプロセスの確認と尺度名の妥当性、分析結果の解釈に対す る質疑がなされたが、申請者の回答は概ね適切と判断できる内容であった。
以上のことから、本論文は博士(看護学)の学位論文に相当する水準にあり、学位申請 者は博士(看護学)の学位を授与するにふさわしい専門的知識と能力を備えていると判断 した。