【学位論文審査の要旨】
再生可能資源と位置づけられるバイオマスからの有用化成品や燃料を合成する技術は,
石油資源に依存しない新規な物質変換体系の構築の根幹をなす技術の一つであり,カーボ ンニュートラルの観点からも重要である.バイオマスの利用においてトウモロコシ等の可 食系バイオマスを用いた場合,食料との競合が問題となるため,特に非可食系バイオマス の高度利用が求められている.バイオマス関連物質の高度変換反応では,多様な官能基お よびその位置の高度な識別が可能な高機能触媒が必要である.本論文では,バイオマス関 連物質としてグリセロールおよびテトラヒドロフルフリルアルコールの変換反応に着目し,
高機能触媒の設計・構築を行っている.
グリセロ−ルは,バイオディーゼル製造の際に多量に副生し,現在,供給過剰の状態にあ る.また,ジヒドロキシアセトン,乳酸をはじめとする多様な有用化成品へ変換可能なプ ラットフォーム化合物として注目を集めている.しかし,環境の異なる水酸基を複数有し ており,選択的に有用化成品に変換する際には,その高度な識別が必要である.一方,テ トラヒドロフルフリルアルコールは,植物に多量に含まれるヘミセルロースの加水分解・
脱水などの反応によりキシロース,フルフラールを経て生成する.また,その選択的な水 素化分解によってポリマーの原料として有用な高付加価値物質である 1,5-ペンタンジオー ルへと変換することが可能である.しかし,水素化分解の位置選択性を発現させる高機能 触媒の開発が必要である.
本論文は,序章と本論 5 章から構成されている.序章では,バイオマス変換について概 観し,高効率なバイオマス変換系を開拓することの重要性を述べている.また,触媒の設 計・構築に際し目指すべき方向性について論じている.
第 1 章では,グリセロールの二級水酸基の選択的酸化によるジヒドロキシアセトンの合 成について白金-ビスマス系触媒が,高い活性・選択性を示すこと,およびビスマスの役割 について検討した結果が記されている.ビスマス種とグリセロールの相互作用によって,
高い活性・選択性が実現することを実験・理論計算の両面から明らかとしている.
第2章では,白金−酸化ニオブ二元機能触媒が,グリセロールから乳酸への一段での変換 反応に対して高い活性・選択性を示すこと,およびその反応機構について検討した結果が 記されている.白金の役割,ニオブ酸化物上のブレンステッド酸点,ルイス酸点の役割に ついて反応機構を元に議論し,特にニオブ酸化物上の特異なルイス酸点が中間生成物であ るピルブアルデヒドから乳酸への変換過程において必須であることを明らかとしている.
第3章では,ルテニウム−酸化チタン触媒が,グリセロ−ルの酸化により生成するグリセ リンからα-アミノ酸であるアラニンへの変換に対して高い活性・選択性を示すことが記さ れている.アナタース型の酸化チタンのみが特異な活性を示し,ルチル型の酸化チタンは,
ほとんど活性を示さないことを示している.また,この要因は,アナタース型の酸化チタ ンは,塩基であるアンモニアおよび水が存在する系でも酸で触媒される脱水反応を進行さ せることが出来る特異な酸性質を有するためであることを示している.
第4章では,テトラヒドロフルフリルアルコールから 1,5-ペンタンジオールの効率的か つ選択的な生成と触媒が具備すべき性質の解明を目的とし,ジルコニア担持酸化タングス テンに白金を担持した触媒によるテトラヒドロフルフリルアルコール水素化分解について 検討を行った結果について記されている.ジルコニア上で単分子層状の酸化タングステン が生成すること,酸化タングステンによる被覆率と活性に強い相関があることを見出して いる.また,これを元にジルコニアと酸化タングステンの界面に生成するブレンステッド 酸点が 1,5-ペンタンジオールの生成に対して重要であることを明らかとしている.
要約においては,本研究で得られた成果について概括している。
以上、本論文は、高機能な触媒系 を 開 発 す る と と も に , 詳 細 な 構 造 お よ び 反 応 機 構 解 析 を 行 う こ と に よ っ て 活 性・選 択 性 の 向 上 お よ び 更 な る 高 機 能 化 に 関 す る 知 見 を 得 た も の で あ り ,学 術 上 ,実 際 上 寄 与 す る と こ ろ が 少 な く な い .よ っ て ,本 論 文 は 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 論 文 と し て 価 値 あ る も の と 認 め る .