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企業としての統合と企業間関係

その他のタイトル The Integration as a Firm and Inter‑firm Relations

著者 安喜 博彦

雑誌名 關西大學商學論集

巻 50

号 3‑4

ページ 75‑83

発行年 2005‑10‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/4619

(2)

企業としての統合と企業間関係

安 喜 博 彦

1.取引費用論と企業間関係

企業がその規模を拡大する根拠としては同一業種での拡大では規模の経済性.垂直統合で は垂直統合の経済性.多角化展開では範囲の経済性といった企業の技術的効率の追求というこ とがあげられる。しかし,統合化の誘因としての各種の経済性が働くとしても.それが即.企 業組織としての統合につながるのか否かつまり.技術的効率イコール組織的効率であるか否 かについてはさらに考慮すべき論点がある。別の言い方をすればたとえ各種の経済性が存 在しても. もし何らかの条件が満たされればそういった経済性の作用する諸経済活動の調整が 市場取引をつうじて行われる可能性は排除されない。

いささか単純化された例でいえば,鉄道事業における路線の拡張が大批予備の経済性という 形で規模の経済性を充足するとしても,そういった路線の拡張は別の電鉄会社との相互乗り入 れによって両者のプールしている車両の相互利用で実現されるかもしれない。鉄道事業ではこ の他に,路線が広域であるほど利用者の利便性が大であるというネットワーク効果(ネットワ ークの経済性)が働くが,これもまた.複数の鉄道会社の相互乗り入れによって実現可能であ る。また.垂直統合の経済性についても.共通の生産拠点による費用の節約の例としては 本の高度成長期の石油化学コンピナートでは. 日本の化学会社の資本力に制約があったことも あり.各工業薬品を生産する複数の化学会社のタンクをパイプによってつなぐことによって実 現した。さらに加工組立型産業における部品の産出比率の調整という点では. トヨタのジャ ストインタイム・システムのようなサプライヤーとの密接な連係プレーによる外注か,フォー ド・システムにおける内製か, という生産システムをめぐる議論を惹き起こした。範囲の経済 性についても, D.J.ティースが「範囲の経済性」と「企業の範囲」という問題設定をしたよ

うに.企業の多角化展開において共通投入物となる技術を複数の企業が市場取引をつうじて活 用する可能性は排除されない。ティースはこのことについて.同じ土地を共通投入物として,

リンゴを育てている果樹園経営者と羊を飼育している牧畜経営者との関係といういささか牧歌 的な事例で説明している1)。しかし.次に述べる取引費用の経済学では.諸経済活動の統合に

1)  D. J. Teece (1980). 

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つながる諸種の経済性の存在は基本的に組織的統合(内部組織)に帰結するものと考えられて きた。

こういった技術的効率と組織的効率をめぐる議論は.「価格メカニズムにとって代わること」

に企業の特質を求め.企業規模を確定するためには.「市場利用の費用」と「組織化の費用」

を検討しなければならないというR.コースの問題提起に始まる叫この問題提起を受けて取 引費用の経済学を確立した0.ウィリアムソン によれば.経済活動の調整には市場による調 整と内部的調整の2つのタイプがあり.そして.市場による調整のコストとしては取引相手の 発見取引条件についての情報の伝達.契約までの交渉.契約後の査察等にかかる取引喪用が ありまた,内部的調整のコストとしては管理面の負担.情報伝達の歪みをあげることができ る。このコストの如何によって.市場による取引と企業内統御 (governance)のいずれが優 位に立つかが決まるとされる。

ウィリアムソンはそのような取引費用論にもとづき.何らかの経済性が作用する場合.それ が組織としての統合を求めることになる事情を機会主義(opportunism).限定された合理性.

不確実性.およぴ,事後的な少数性というキーワードを用いて説明する。

ここで想定されている状況を記せば.次のようになる。取引当事者が事前的に多数存在して いたとしても,何らかの経済性が作用する諸経済活動を市場取引によって調整するとすれば.

一度取引関係が成立した後には.一定の取引相手にしか供給できない製品とそのための投入物・

資産(取引特殊的な資産あるいは特定的資産)が存在することになり.取引当事者が事後的に 少数となる。しかも.将来不測の事態が起こる可能性(不確実性)があるという現境要因が作 用する条件のもとで.産業活動の主体としての人間・企業が合理性を保証されておらず(限定 された合理性).そのうえ.自己に有利な機会があれば.うまく立ち回ってそれを利用しよう とする性癖(機会主義)をもつとする。

そのような状況下での市場取引にともなう契約関係としては.まず短期契約を逐次更新する 逐次的現物市場(スポット市場)あるいは逐次的現物契約が考えられるが.ここでは事後的な 少数性により取引関係が固定されており機会主義による契約関係の破綻の危険性が常に存在 する。したがって,長期的・継続的取引を可能にする長期契約が必要であるが.あらゆる不測 の事態をカバーするような包括的な契約(複雑な条件付き請求権契約)の作成・実行は困難と いわざるをえない。また.不完全な長期契約の場合でも少なくとも不測の事態に対応できる利 潤とリスクのシェアリング・ルール(予想外に儲かった場合の利潤のシェアリングと予想外の 損失に際してのリスクのシェアリング)が必要である。しかし.こういった契約はそれが不完 全であり.不明確さのために機会主義の余地があるがゆえに取引関係を不安定なものにせざ るをえない。ウィリアムソンは拘束的契約 (obligationalcontracting)により機会主義を制御

2) R. Coase (1937). "The Nature of the Firm," Eco11omica. November. (R. Coase (1988)に所収).

3) 0. Williamson (1975). 

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することで独立企業間の市場での取引が成り立つケースをも想定し.不完備な長期契約と反復 的短期契約について.その契約形態を検討しているが.それはいずれかといえば,そのような 契約の困難性を指摘するものであった\

2.組織デザインの多様性

戦後の世界経済において圧倒的な地位を占めるようになった垂直統合型のアメリカの巨大企 業はさらに.梢極的な多角化戦略を展開することになる。しかし.大規模組織における諸経済 活動の内部調整には管理面・情報伝達面で多大なコストがかかる。とりわけ企業の多角化展開 とグローバル股開は異質な経済活動を 1つの企業組織に統合することになり.この大規模組織 の非効率の問題を深刻なものにする。このような事態に対して.企業は内部的調整のコストの 節減を可能にするようなフレクシプルな組織形態を追求することになる。とくに多角化戦略に 対応する組織形態として代表的なものとされたのは事業部制 (multidivisional)組織であり.

1970年代から1980年代初頭の時期には,「組織構造は戦略に従う」というA.チャンドラーの視 点に触発されて事業部制組織と企業成果の関係に関する分析が盛んに行われた5)。職能別組織 (U型組織)と事業部制組織 (M型組織)の違いは. u型では取締役会を頂点として各職能別 に上司・部下の関係があるのに対し, M 型では本社(執行機関•取締役会)が戦略的意思決定 を担う一方で.各職能は各事業部のなかに骰かれており.操業上の日常的な意思決定は製品別・

地域別事業部が担っている。そのなかで,事業部は独立採算のプロフィットセンター (profit center)としての役割を果たすが.本社は一方で.この利潤を吸収し.それをもって諸事業部 の間での経営資源の再配分に関する戦略的な意思決定をする。また,本社にはそのような戦略 的意思決定に必要な情報をもち.執行機l闘へのアドバイス・提案を行う直属のスタッフ部門が 存在する。

わが国ではこのようなM型への移行は欧米諸国に比べて遅れるとともに. M型に移行した場 合でも. H本的経営の特徴とされた「ポトムアップ」システムの結果として,戦略的意思決定 と操業上の意思決定との分離がはっきりしている理念型のM型に対応するものとは必ずしもい えなかったが,さらに最近の経営改革のなかでは事業部制そのものを見直す動きも出ている。

また,フレクシプルな企業組織の構築はこのようなU型からM型への移行というだけでなく.

さまざまなレベルでの機動的な経営糾織(各社が採用している社内ベンチャー.アメーバー・

グループ,フロント・ツー・フロント・システム.戦略事業単位.緊急プロジェクト・チーム など,様々な名で呼ばれる多様な経営組織がある)を採用するということも,大規模組織の非 効率を克服する手段とされてきた。

4) 0. Williamson  (1986). 

5) A. D. Chandler, Jr. (1962).この時期の各国の実証分析の国際比較は.安料博彦 (1995)8章参照。

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また.企業の組織形態としてはM型とU型の他に,その混合型 (X型)や持株会社 (H が存在する。日本では戦前の財閥が持株会社形態をとっていたため独占禁止法では純粋持株会 社を禁止してきたが. 1997年の法改正により持株会社が解禁となった。持株会社は一方で組織 のフレクシビリティーを高めるための分社化の手段とされるが.他方では.金融機関の統合に みられるように一層の大規模組織の形成を意図していると考えられるケースもある。

しかし.多様な組織デザインの展開(組織形態の多形化現象(polymorphism)6)) は.統合 化された企業の組織形態の多様化にとどまるものでなく.企業間関係の多様化.あるいは.企 業の榜界のファジー化の議論を含めてみる必要がある。

3.資源ベースの企業理論と企業間関係

本稿の冒頭であげた経済的諸活動の統合を内部調整に依存しない可能性についてのいくつか の例はもともと,取引費用論が技術的効率と組織的効率を同一視しないことによって.企業間 の密接な協力関係による諸種の経済性の充足という問題を射程内に入れていたことを示してい る。とくに日本経済が石油ショックを乗り切ることで,世界経済のなかでの存在感を強めた 1970年代後半以降の一時期には,旧財閥系の金融機関,商社,および,その他の企業からなる 企業グループや,自動車をはじめとする加工組立型産業でのアセンプラーとサプライヤーの関 係(生産系列),さらには,メーカーとデイーラー等の流通部門の企業との関係(流通系列)

など.わが国の企業間関係を取引喪用論との関連で説明しようとする試みが多くみられた。そ の 場 合 しばしば論点となったのは,機会主義的行動を制御する仕組みの問題であるが.その 点では.右屑上がりの経済成長のもとでは将来の取引関係を危うくする機会主義的行動を取引 当事者双方が避けようとするといった評判(reputation)効果や,株式の相互持合い,役員の派 遣あるいは.自動車メーカーにおける協力会といった一種の人質のメカニズムを設けている ことが指摘されてきた。

日本における企業間関係の展開は,遅れて急速な産業発展をみた歴史的制約条件によって強 いられた面が多分にあり,そのなかで上述の「人質」の設定の他にも,契約のあり方について も各種の工夫が必要であった。日本の自動車部品取引にみられる批,品質,納期にわたる特有 の契約的枠組みの工夫を指摘した浅沼萬里氏は.単一の契約書ではなく,文書と恨行を合わせ た契約形態について次のような説明をしている。たとえば. 1つの部品の取引関係は.モデル チェンジの際の納入先変更との関係で通常4‑ 5年(もちろん,現在ではこの期間は大幅に短 縮されている)とすれば.単価に関する契約は批産開始の 9‑6カ月前の籠産試作時で. 6カ 月毎の更改交渉となる。そして.数祉決定は, 3カ月間の発注予定表(内示)により.毎月契

6)組織モードの多形性という表現は. A.Jacquemin (1985)にみられる。

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約とされるとともに.ジャストインタイム・システムのもとで実際の月間取引罷との差は翌月 繰り越し等の調整が行われる工

いずれにしても.取引費用論によって企業間関係を説明しようとすれば.機会主義の制御に よる契約の可能性という問題にかかわらざるをえない。これに対し. 1980年代には,取引費用 論に立脚する論者のなかからも,さらに広く企業のもつ経営資源あるいは能力という角度から 企業を捉え.その視点で企業1U]関係の問題を考えようとする傾向がみられる。前述のティース は.技術についてそれを暗黙的性格をもつ組織的知識として捉え.これを特定的資産として取 引翡用論に依拠した多角化の説明をした8)が彼はそれとの関連で.「生産資源の集合体」と しての企業を論じたE.ペンローズを再評価している。そしてさらに,彼は1992年の論文では,

1970年代以降の一般的傾向として.企業の榜界のファジー化という論点を提示し,コア技術の 事業化に必要な補完的技術と補完的資産の存在が組織のハイプリッド構造を求める傾向につい て論じている9)。ここでは.企業のもつ経営能力を含む諸能力 (capability)あるいは競争能

(competence)を煎視する企業理論である狩源ベースの理論. もしくは, コンピタンス理 論への傾斜を認めることができる。

いわゆる資源ベースの理論は,ペンローズの企業成長の理論にその起源を求めることができ 10)。彼女は.企業の境界を決めるものは「管理的調整の範囲」であるとして.「管理組織体」

としての企業という視点を提示する一方で.企業の長期的な収益性.存続および成長を説明す べく.「生産資源の集合体」としての企業について論じる。その場合.彼女がとくに強調して いるのは.「賓源のもたらす用役 (services)」が個々の企業の「特異性・固有性 (uniqueness)

「異質性 (heterogeneity)」をもたらすことである。つまり.「資源のもたらす用役とは資源の 使用方法の函数である。まったく同じ資源が別の目的または別の用途に用いられる場合や.あ るいは別のものと一緒に用いる場合には,異なった用役.または用役の集合を提供する」とい うことである。この企業の異質性という視点は今日の賓源ベースの理論にとってキー概念とな っている。資源ベースの理論では.「持続的な競争優位 (sustainedcompetitive advantage) つまり「競争優位の創出,維持.更新」を企業の内部資源の特質とそのダイナミックスによ って説明しようとするが.ここでは.企業はそれのもつ資源の資質 (endowments)によって 異なったものとして捉えられるのであって,そういった異質性が競争優位の基本的条件となる。

賓源ベースの理論の展開のなかでペンローズとともに再評価を得ている論者にG.B.リチャ

7) B. Asanuma (1989).  "ManufacturerSupplier Relationships in Japan and the Concept of Relation Specific Skill." Journal of tile Japanese and l11tematio11al Economies, Vol. 3.この論文の日本語版は浅沼萬 (1997)6章に所収。

8) D.J. Teece (1982).  9)  D. J. Teece (1992).  10) E. Penrose (1959). 

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ードソンがある")。彼は,企業成長を企業の諸能力との関係で説明した点でペンローズを評価 したうえで,企業の諸活動と諸能力について,そのために同一の能力を要する活動を類似の活 動と呼ぴ,これに対し,諸活動が生産工程の異なった諸局面の活動であり,それらが何らかの 仕方で調整される必要がある場合を補完的活動と名付けている。このうち補完的活動について は枇的にも質的にも調整されざるをえないが.その調整形態としては.指揮.協力.市場取引 3つの形態がありうるとする。そして,密接な補完性がありかつ類似性のない諸活動を調 整するには.それが類似性のない活動であるがゆえに指揮になじまず,また,その補完性のゆ えに個別企業の計画のマッティングが必要とされるかぎりで市場力に委ねることもできないと いう。ここでは,企業内の調整と市場による調整といった経済活動の2つの調整法への二分法 ではなく(彼は市場の大海のなかでの企業という島という比喩を批判している),企業間の密 接なネットワークが存在することになる。

この間, A. マーシャル以来のイギリス経済学の伝統との関係や,オーストリアンとの共通 した問題意識といった点を含めて. リチャードソンの研究の全面的な再評価を試みた論文集が 刊行されている12)がいずれにしても,彼の提起した視点が企業間関係の考察にとって基本 的なものであるといってよい。なお,同書においては,リチャードソン自身が1972年の論文の 後にオックスフォード・プレスの経営に携わることになった経験を素材として経済活動の調整 の問題を論じているが,そこでは,市場取引の大海のなかの企業という中央計画の島という比 喩が誤りであるとする彼のかっての論述が純粋市場取引という海に関するものであって.企業 という島における調整もまた指揮にのみかかわっているわけではない点に十分な論及を与えて いなかったことを反省している13)

また.同書では,企業間関係の諸類型に関する議論もなされているが,この点ではとくに合 弁による企業間の戦略的提携に尊く決定的なトリガーが企業の多角化にあることを分析してい N.M.ケイの分析が興味深い。彼によれば,合弁が有利となるのは,合弁によって望ましい 用役 (services)を生み出す資産が双方の潜在的パートナーの保有する総資産に対して小さく て.かつ.不可分の場合,あるいは,合併や全面的買収が経営コストを相当程度増大させる場 合でありそのような戦略的提携に向かう誘因をもつのは多角化大企業であるとされる。つま り合弁による戦略的提携は,戦後の多角化の盛行にともなって生じたポスト多角化の組織モ ードとしてみることができる14)

11)  G. B. Richardson  (1972), "The Organization of Industry,"  The Economic Journal, Vol. 82.この論文は.

リチャードソンの1960年刊行の著書の改訂版であるG.B. Richardson  (1990)に収録されているが.この改 訂版にはD.J.ティースが序文を寄せている。

12)  N. J. Foss and B. J.  Loaby eds.  (1998). 

13)  G. B. Richardson. "Some Principles of Economic Organization," in N. J.  Foss and B. J. Loasby eds.  (1998).  14)  N. M. Kay,lusters of Collaboration: The Firm, Joint Ventures, Alliances and Clubs."  in  N. F. Foss 

and B. J. Loasby eds.  (1998). 

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4.関係的技能とプラグマチック・コラボレーション

自動車部品の取引において前述の契約的枠組みを紹介した浅沼萬里氏はそれとともにそう いった取引関係のなかで形成される「関係的技能 (relationalskill)」がウィリアムソンの特定 的資産とは異なり.「組織としての特定のサプライヤーのなかに蓄積」される一般的能力とな りうること.それが企業に特有の能力の形成を意味することを指摘している15)が.この「関 係的技能」と共通した論点がアメリカの自動車産業の分析のなかでも提示されつつある。アメ リカの自動車メーカーでも1980年代後半以降.時にアメリカ的系列といわれたような従来のサ プライヤーとの取引関係の見直しからはじまり. G Mやフォードの部品部門の独立にまで至っ ており.企業としての垂直統合から企業間での調整への移行が進んできた。この間のアメリカ の自動車産業における企業間関係の変化はS.ヘルパーのメーカー・サプライヤー間関係の総 体的な変化の分析や. J.H.ダイヤーのクライスラーにおける「アメリカ的系列」の形成に関 する分析によって知ることができる16)。そのなかで.ヘルパーを含むメンバーによるプラグマ チック・コラポレーション (PrgamaticCollaborations)16)は.協力企業間のチームあるい は作業グループを基本単位として.「相互モニタリングによる学習 (learningby monitoring)

と「情報プーリングのプラグマチズム メカ ニスム(pragmatist mechanism of information  pooling)」が機会主義とホールドアップ問題に対する代替的な解決策になるとの見方をしてい る。そして.そこでは当初は製品特定的であった資源が協力関係の持続のなかで「非特定的 (despecified)」なものに転じ.ますます一般的目的をもつ資産のようになりかくして.も はやホールドアップの媒介者とはならなくなるという。

また,彼らは機会主義とそれにともなうホールドアップ問題が企業としての統合を求めると いうウィリアムソン流の想定")がアメリカの自動車産業の歴史でみても適切ではないとして.

G Mによる多くの部品メーカーの買収などにより1915年から1925年の間に垂直統合への移行が みられたものの. 1926年以降はアウトソーシングヘの回掃があったこと. とくに開発費の削減 のためにサプライヤーとの部品の共同開発が広く行われ,少数のサプライヤーとの長期の協力 関係がみられたことを指摘する。そして.そのなかで.コースが紹介したG Mによるフィッシ ャー・ボデイーの買収はそのような回掃傾向に向かう時期に起こっているが.それはフィッシ ャー・ボデイーの機会主義的行動の可能性やホールドアップ問題に対応したものではなかった ことが強調される。彼らによれば.この買収は.フィッシャー・ボデイーがクライスラーとの

15)浅沼萬里 (1997).

16) J.  H. Dyer (1996)およびS.Helper (1991).  16) S.  Helper. J.P. MacDuffie and C. Sabel (2000). 

17)機会主義の扱いに関するウィリアムソン批判については. G.M. Hodgson (2004)をも参照。

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協力関係で培った経験をGMが自社の経営のなかに取り入れることに貢献した。

このようなアメリカ自動車産業の1980年代後半以降の変化や, 1920年代後半から1940年代の 状況は,垂直統合型企業による標準製品の批産システムは市場の流動性が顕著な経営環境に対 応できるものでなく.そのようなシステムが一般性をもつものではないことを改めて示唆して いる18)。また,ここでみたような企業間の協力は長期間にわたる持続的な関係になりうるとし ても,特定的な登産の非特定的な資産への転化ということを考慮すれば,それは特定企業間で の固定的・閉鎖的な関係になるとは必ずしもいえない。

5.むすび

本稿では.取引喪用論と資源ベースの理論による企業間関係の説明を再整理することを試み た。そこでは.ウィリアムソン的な取引費用論の説明では.機会主義にともなう契約の困難性 によって.諸種の経済性をともなう経済活動の調整は基本的に企業内統合に依拠することにな るのであって.この観点からすれば.企業間関係の維持は株式の持ち合いなどの人質の仕組み を求めることになる。これに対して.資源ベースの理論では.補完的な活動を企業間の協力関 係によって調整することによって.パートナーは互いにその能力を高め.持続的な競争優位を 確保する。また.関係的技能とプラグマチック・コラボレーションに関する議論は.企業間関 係で培われる能力が必ずしも特定の取引相手との関係に特定化されるのではなく.一般的能力 に転じる可能性をもっていることを強調している。

いずれにしても.このような企業間関係の多様な展開が1980年代以降.日本的経営への関心 を契機とした欧米企業の企業戦略の転換と経営革新のなかで注目されるようになったその背景 をみておく必要があるだろう。本稿でみたかぎりでいえば.まず第1に 戦 後 の 日 本 企 業 が そ のおかれた歴史的制約のもとで統合型の企業展開ではなく.石池化学コンピナートや自動車に おける下請システムといった企業OO取引による展開を強いられるなかで株式の相互持ち合いな どの人質システムを採用してきたこと.また.そのことが取引関係の固定的・閉鎖的な性格に つながった面があることを指摘してよいであろう。これに対し.第2に.垂直統合からさらに 大々的な多角化展開を推し進めてきた米欧の企業がその多角化事業のそれぞれにおいて合弁形 態をともないつつ.戦略的提携を展開しつつあることが注目される。ここではポスト多角化 の組織モードとしての戦略的提携の選択という視点が成り立つであろう。さらに第 3に.か ってのアメリカの自動車産業のように安定した市場で垂直統合型の址産システムに依拠してい た産業で.市場の流動性が強まるなかでサプライヤーとの関係を再構築するといった形での企

18)ヘルパーたちは. 1970年代中頃の自動車産業等における祉産システムと対照的なケースとして.同じ時 期に開発・事業化されたコンピューター.半甜体.ソフトウェアおよびバイオテクノロジーにおけるハイ テク産業のスタートアップに触れている (S.Helper, J.P. MacDuffie and C. Sabel (2000)

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業間関係の展開がある。企業間関係には多様な形態があり.それらをその歴史的展開とかかわ ってみていく視点がさらに求められよう。

参考文献

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